九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
イオンシース中の不安定性に関連したカオス現象に 関する研究
大野, 哲靖
https://doi.org/10.11501/3071410
出版情報:Kyushu University, 1993, 博士(理学), 論文博士 バージョン:
権利関係:
第四章 イオンシース中の不安定性に 関連したカオス現象
phυ にJ
9
4・1序論
カオス現象は様々な分野で、 共通の課題として盛んに研究が行われているl-5)o カオス現象は、 決定論的で少数自由度であるにもかかわらず、系の挙動が不規則で、
あるという特徴がある。 プラズマ物理においては、 乱れた系の研究として多自由 度系である乱流現象に関する研究は多数存在するが、 少数自由度系であるカオス に関する研究は端緒についたばかりといってよい叩)o 特に、 実験的に明確にカオ ス現象を調べた例はほとんど存在しないのが現状である。 カオス現象がプラズマ 中に実際に存在するのか、 またどのような機構で発生するのかを明確にすること はプラズマ物理において重要な課題である。
カオスのタイプとしては、 周期倍化分岐からのカオス、 準周期からのカオス、
間欠性のカオスがよく知られている。 これまでプラズマの基礎実験の分野で、 第 l章で述べたように、 Boswell 6)によって電子ビームプラズマ中で周期倍化分岐 からのカオス現象が、 またCheungら7)及び、Braunら8)によって放電現象に伴う周 期倍化からのカオス現象が報告されている。 これらの実験では、 プラズマ中の現 象が複雑なために、 どのようにしてカオスが発生するかは明確にされていない。
また、 不安定性が存在する場合は、 その励起機構が明確にされておらず、 カオス の発生機構の理解を困難にしている。 更に、 観測された現象がカオスと同定する ための定量的解析が不十分で、ある。他のカオスへの遷移について、 間欠性カオス に関する報告がCheungら9)によりなされているが、 準周期からのカオスを明確 に示した実験的報告はない。
著者は第2章で述べたダブル ・ プラズマ装置中に設置された負電位のグリッ
ド近傍のイオンシ」ス中に不安定性が励起されたとき、 グリッドに外部から正弦 波電圧を印加し、 不安定波と正弦波の周波数比もしくは振幅を変化させると周期 倍化分岐及び準周期系からのカオスへの遷移が観測されることを初めて見いだし た10)o この章では、 このカオス現象に関する実験について詳しく述べるととも に、 カオス現象の定量的な解析を行う。 また、 シース中のイオンの運動を記述す る理論式を用いて計算を行い、 実験結果と比較検討し、 カオスの発生の機構を明 らかにする。
9
4 - 2実験装置の説明
図4- 1に実験の模式図を示す。 実験装置は第2章で用いたダブルプラズマ装 置13)である。動作ガスとしてはアルゴンガスを用いた。 圧力範囲は(2"-4)
XIO-4torrである。真空容器は接地されている。プラズマパラメータは 第2章の実験条件と同じである。 プラズマパラメータを制御しイオンシース中 に不安定性を励起し、 その時発振器より、 正弦波電圧[波高値V P、 周波数f 1
Insulator
lil
�G
H
1 可
Probe
l 、l 」 Target
Grid+;
111 Heater
R2 R1
図4・1 実験装置の模式図、 R 1==R2=50 Q、
C=3.3μF
FO Fhd 円,.F「υ
=(ω]/2π) ]を中央に設置されているグリッドに印加する。 図4・1のコ ンデンサCは発振器の保護のために挿入されており、 また抵抗R2は直流電圧及 び交流電圧を同時にグリッドに印加するために用いられている。 プラズマパラ メータとプラズマ中の揺動は直径6mmの平板ラングミュアプロープを用いて 計測する。 また、 信号の周波数スペクトルはスペクトルアナライザーを用いて 得られる。 また同時に、 プラズマ電流の揺動の信号はA-D変換器を用いて8
b i tのデジタルデータに変換し、 計算機上のメモリー上に記憶し、 カオスに
関する解析に用いた。
9 4 -
3実験結果
9 4・3・1 周期倍化分岐からのカオス
図4-2に実験において観測された周期倍化現象を示すlO)o プラズマパラメー タを制御し、 イオンシース中の不安定性(周波数f 0)が励起されている時に、
外部より大振幅の正弦波(V p>6.5V)をグリッドに印加すると、 不安定性 は抑制される。 このとき、 正弦波の周波数f 1と振幅V pをそれぞれを126k Hzと7.2Vと一定に保ち、 プラズマ密度を変化させていく(つまり、 不安定 性の周波数f 。を変化させていく)と周期倍化分岐現象が観測される。 不安定性 の周波数f 。は正弦波を印加しない時に観測される値である。 最初の周波数分岐 は、 プラズマ密度が n巴二4.9XI07cm-3(周波数比fo/fj=O.58 6 )で起り(図4-2(a))、 さらにプラズマ密度を増加させると図4-2 ( b
)
ー(
c )に示されているようにf 0/ f 1 二 0.53 5で4周期振動が、fo/f]=O.521で8周期振動が現れる。 8周期振動が観測された後、 更に 密度を増加させると分岐現象が急激に収れんし、 f 0/ f ]二0.509で図4- 2 (d)のように周波数スペクトルに連続成分が現れ、 カオスに至ることがわ かる。 8周期以降の分岐現象はカオス状態に急激に収れんするために本実験に おいては観測することができなかったO カオスの状態からさらにプラズマ密度 を増加させると系は再び周期化しfo/f)=O.500で3周期振動が現れる。
これはいわゆるカオスにおいて周期の窓とよばれるものである。 その後、 この3 周期振動が周波数分岐をおこし6周期振動が現れる。 さらに、 fo/fJ=O.4 9 7で再びカオス状態が観測された。 またプラズマ密度を一定にして、 印加する 正弦波の周波数を変化させた場合も同様な周波数分岐現象が観測された。
このように周期運動(周波数f)が存在した場合に、 外部から系の制御パラ メータを変化させるにつれて、 f/2、 f/4、 f/8、 f /1 6の周波数を持 つ分調波が次々に現れ、 最後にカオス状態に至る遷移を周期倍化分岐からのカオ スへの遷移と呼ばれる。 このように、 コントロールパラメータを変化させていく と、 次々に2 n周期解が現れ、 最後にカオス状態に至る。 Feigenbaumはこの周期 倍化分岐において、 この分岐現象が等比級数的に収れんすることを見いだ、し、 n
回目の分岐が起るパラメータをr nとすると、
lim !J'n
-
r n-L=δ= 0.4669201609. ..n→∞rn+l - rn (4-1)
なる普遍定数δが存在することを示したぺ実験で測定された分岐点の値を用い てFeigenbaum定数Sを計算すると約3.7という値が得られた。 この値は、 初期 の分岐点から計算したことを考慮すると理論値とほぼ一致していると考えること
カ宝できる。
9 4・3・2 準周期からのカオス14)
イオンシース中の不安定性(周波数f 0)が存在しているときに、 小振幅の正 弦波(周波数f ))をグリッドに印加すると不安定性は抑制されないで、 プラズ マ電流の揺動の周波数スペクトルに、 幾つかのスペクトル線が現れる。 不安定性 周波数f 。を約200kHzと固定し、 外部から印加する正弦波の周波数f 1を1 OOkHzから200kHzまで変化させた。 正弦波の振幅V Pは0.5Vであ る。 図4-3のように周波数比f 0/ f 1が変化するにつれて、 スペクトル線の数 が変化することがわかる。 また、 この周波数f 1の値によって周波数比f 0/ f 1 の値は有理数、 無理数どちらの値も取り得る。 図4-4は図4-3の周波数スペク
(ω日
トルの各スペクトル線の周波数の値を、 周波数f1の関数としてプロットしたも のである。 周波数f 0 は200kHzで一定で、 周波数f1は100kHzから2 o 0 k H zまで変化していることがわかる。 また、 周波数f Iを変化させるにつ
れて、 図中にA、 B、 Cの記号で示されているような系列のスペクトル線の周波 数変化が存在することがわかる。 Aで示されている系列は、 周波数f 。と周波数 f 1の差、 つまりf 0 - f 1で得られる。 また、 系列Bは周波数f1と系列Aの周 波数との差、 つまりf1- (fO-f1) =2f1-f 。で与えられる。 さらに、 系 列Cは周波数f 。と系列Bの周波数の差、 f 0 - (2 f 1 -f 0) = 2 f 0 -2 f I で与えることができる。 このように、 すべての系列はf。としの線形結合で表す ことが可能で、ある。 よって、 周波数スペクトルのすべてのスペクトル線の周波数 f は
f
= mof
o+m!f
!(4-2)
Cコ.2」伺)ω℃コ
日一一巳E〈
。 50 100 150 0
と書き表すことができる。 ここで、 moとm1は整数である。 このように周波数が それぞれf 。、 f Iであるような二つの独立な周期運動をもっ系は、 3次元相空間 において、 T2トーラスで記述される。 つまり、 運動を記述する位相空間でのト ラジェクトリーはこのトーラス面上に存在する。 周波数比f0/ f Iが無理数の場 合、 トラジャクトリーはトーラス面を覆いつくす。 このとき、 運動は準周期的で あるという。 一方、 二つの周期の比f0/ f 1が有理数の場合、 トラジ、エクトリー はトーラス上を有限回周回すると閉じてしまい、 運動は周期的になる。 この準周 期から周期への変化を周波数同期(Frequency Locking)いう。 (4・2)は周波数 比f 0/ f 1が無理数をとる場合は、 プラズマ電流の揺動は準周期的になることを 意味する。 つまり、 この系の力学的挙動はT2トーラスによって表される。
正弦波の振幅V Pを大きくし、 系に与える摂動を大きくすると、 非線形効果に より、 周波数スペクトルに多数のピークが現れるようになる。 図4-5は、 振幅 V Pを変化させた時の、 周波数スペクトルの変化を示している。 不安定性の周波 数f0 は200kHzで一定であり、 振幅V Pを0.0から11.0 Vまで変化させ
50 100 150 Frequency
(kHz)
図4・2 周期倍化分岐からカオスへの遷移を示すプラズマ電流のスペクトル変 化。(a)-(c) 2 n周波数分岐; (d)カオス;
(e},(f)
3周期友ぴ6周期の窓; (9)カオ ス。矢印は外部から印加した正弦波の周波数人を示す。 また、 グリッドに印加している直流電圧V0= 4 7 V、 正弦波の振幅Vp=7.2Vである。
-60一 FO 句lム
200
100
(N工ぷ)〉OCOコσφ」Hhv-co仏
100kHz
120
150
200
(ωtcコ.2」何)OUコザ一一己E〈
150 200
。 100 100 200
。
f1 (kHz)
Frequency
(kHz)
プラズマ電流の周波数スペクトルのピーク周波数 プラズマ電流の揺動のスペクトルの印加正弦波周波 図4・4
図4・3
Cはそれぞれf 。 2fo-2f,に対応する。
の印加正弦波周波数f 1依存性。 A、 B、
2f1-f 。 V 。=60
数依存性。 不安定性の周波数f。は200kHz,
Vp=O.5V。
月ノunhU
ne=8×107c m-3、
V、
n‘u hhU
た。 振幅Vpが小さいときの周波数比f 0/ f 1が無理数になるように、 f 0/ f 1
= 1.6 4に設定した。 実験的にはこの値は無理数に対応すると考えられる。 図 4-5 (d)のように、 振幅Vpが3Vになると、 周波数スペクトルに非常多くの スペクトル線が現れることがわかる。 しかし、 この周波数スペクトルは連続成分 を持っているのではなく、 図4-5 (d)のすべてのスペクトル線の周波数はf 。 とf 1の線形結合で表すことが可能である。 大振幅のスペクトル線が密に固まっ て現れているのは、 設定された周波数比f 0/ f 1が1.6 4と周波数同期が起る 周波数比に近い値になっていることによる。 振幅Vpが4Vを越えると、 図4-5 ( e )に示されている様に、 スペクトル線の数が急激に少なくなることがわか る。 これは、 この振幅で前に述べた周波数同期現象が起っていることを示してい る。 図4-5 (e)ではスペクトル線が1/T L毎に等間隔に並んでいる。 この系 の周期運動の基本周波数f Lは
丘=J - =ii=ム
TL 5 3 (4・3)
で与えられ、 すべてのスペクトル線の周波数は、 基本周波数f Lの高調波となっ ている。 このように、 周波数比f 0/ f 1が最初に設定したf 0/ f 1 = 1 .6 4か ら有理数5/3に変化するのは、 周波数f 1の大振幅の正弦波を印加することに よって不安定性の周波数f 0がわず、かに変化することに起因している。 振幅Vpが 4.7 Vになるまでこの周波数同期の状態が継続する。 さらに振幅Vpを大きくす るとカオス現象が現れる。 図4-5 (f)に示されているように、 しきい値の振 幅VT�4.7Vを越えると、 周波数スペクトルのスペクトル線が広がり連続スペ クトルが現れることがわかる。 振幅VPをさらに増加させると、 周波数スペクト ルに連続成分がなくなり、 再び周波数同期現象が現れる。 この周波数同期が現れ る振幅Vpの領域はカオスが現れる領域の中に存在している。 いわゆる周期運動 の窓となっている。 図4-5 (g)では、 周波数比f 0/ f 1は7/4であり、 基 本周波数f Lはf L二1/7fo=1/4f1で与えられる。 このカオス領域の中 に現れる窓が、 図4・5 (g)のように周期的であるかそれとも準周期的である
(d) (, 1,0
� f 3.0
ιT7 6H847 門出 (
5.61
(a) vp� ov
(e) 4.0
(i) 11.0
Cコ.2」ω
400 0 200 400 0 200 400
、、ー_"
。℃コド (] E 〈
(c) 1.5
Frequency
(kHz)
図4・5 プラズマ電流の周波数スペクトルの印加正弦波振幅V p依存性。 準周 期からカオスへの遷移を示している。 (a ) f 。の1周期運動、 ( b )
ー
( d) f 。とf 1の準周期運動、 (e)周波数同期f o/f ,=5/3、 ( f ) カオス、 ( g )周期運動の窓f 0/ f 1 = 7/4、 ( h )カオス、 ( i) f 1と
その高調波(不安定性は抑制されている)。 矢印はf ,とf 。を示している。
,“y po
。 200
「「υ nhu
かは、 初期条件(例えばf 0/ f 1の値など)による。 図4-6は、 本実験で得ら れたカオスへの遷移を表す相図を示している。 ここで、 Pは周期運動を表してお り、 Q P 2は準周期運動を示している。 一般的にT2トーラス上の運動は非周期運 動(カオス現象)を呈することはない。 なぜ、なら、 T2トーラス上では近接する こつのトラジャクトリーがカオス現象に特徴的な軌道不安定性を示すことはあり えないからである。 もし、 T2トーラス上でトラジェクトリーが軌道不安定性を おこし、 近接する二つの軌道の距離が発散したとすると、 T2トーラス上では必 然的に二つの軌道は交差してしまう。 これは系が決定論的であることと矛盾す る。 ところがT2トーラスにホップ分岐により新たにんという新しい振動数が加 わると、 周波数スペクトルが連続成分をもちカオス現象が現れることが可能にな る。 これは、 新しい周波数が現れると新しい次元が系に加わることになり、 T2 トーラスはT3トーラスになり、 トラジェクトリーが立体的に交差し、 近接する トラジェクトリーの距離が発散することが可能になる。 このようなカオスへの遷 移を準周期からのカオスへの遷移といい、 特にホップ分岐が3回おこり、 独立な 3つの振動数により系がカオスイヒするモデルは、Ruelle - Takensモデルという。
一方、 T2ト}ラスからホップ分岐をおこさなくても、 T2トーラスからトラジェ クトリーを引き離すような摂動がT2トーラスに加わった時にも、 準周期運動か らカオスへの遷移がおこる。 このモデルをCurry-Yorkeのモデルというl九 このと き、 ストレンジアトラクターはT2トーラスが微小なひだを持ったような構造で あることがわかっている。 図4-6の相図の変化より、 ここでのカオスへの遷移 は準周期運動からホップ分岐を起すことなく、 直接カオス現象が現れていること がわかる。 よって、 この遷移はCurry-Yorkeモデル15)に対応していると考えられ る。 また、 我々の実験においては最初の周期運動PのリミットサイクルからT2 トーラスへのホップ分岐による遷移は、 不安定性の周期運動f 。に外部から周波 数f 1の正弦波を印加することにより等価的に起っていると考えることができ る。 図4-5 (h)のカオスの状態から、 さらに振幅V pを増加させると、 不安定 性が外場の振動によって抑制されて、 図4-5 (i)に示されているように全て
P QP2 Locking(P) Chaotic
じララララララララララf .. Vp (V)
o < ...3.9
Vy-...4.7
Applying Vp A
図4-6 準周期からカオスへの遷移を表す相図。 Pは周期運動、 Q
P2は準 周期運動を示す。
のスペクトル線は周波数f 1の高調波だけである。 これ以上振幅V Pを増加させて も、 カオス現象は観測されなかった。
9
4 - 4カオス特徴の定量化
前節では、 実験において得られた幾つかのカオスへの遷移を示した。 しかし、
観測された現象が、 少数自由度で記述されるカオス現象であるか、 乱流現象など の多自由度の現象であるかは自明ではなく、 カオス特徴の定量化を通じて明確に 判別する必要がある凶)。 ここでは、 幾つかのカオス特徴の定量化の手法を我々の 実験において観測された現象に適用して、 カオス現象としての特徴を明らかにす る。
序論でも述べたように、 カオスの定義とは ( 1 )力学系の解が、 不規則に振舞うこと。
( 2
)解の相空間での軌道が不安定であること。である。 (1 )は前節で示したように周波数スペクトルが連続成分を持つことに 対応しているが、 少数自由度系のカオス現象の生成の原因は、 系の非線形性であ
nhu nhu -67-
り白色雑音、 無限自由度、 不確定性原理などに起因する現象と明確に区別する必 要があり、 スペクトル解析は簡便な方法ではあるが、 必要かつ十分な判定手法で あるとは いえない。 そのため、 他の手法を用いた解析が必要となる。 また、 我々 の実験のような散逸系の場合、 時間と共に相空間の体積は縮小し、 すべての相空 間の軌跡はアトラクターと呼ばれる一定の領域に吸引される。 このようなアトラ クターの構造を調べることは、 系の力学的挙動を理解する上で極めて有効な方法 である。 つまり、 散逸系の力学的挙動は、 相空間のアトラクターによって特徴づ けられる。 このため、 実験データより位相空間を再構成し解析を行うことが必要 である。 この位相空間の再構成にはTakensによる相空間の再構成法(embedding method)を用いた(付録A・2参照)。
図4-7は、 周期倍化分岐からカオスへの遷移において得られた時系列データ に上記の埋め込みによる相空間の再構成を行った例である。 時系列データのサン プリング周波数は1 MHz、 分解能は8 bit、 データ長は2 kbyteで、ある。 図4-7 ( a)は、 カオス状態の時の時系列データである。 図4・7(b)は3次元相空 間で埋め込みの方法を用いて再構成した軌跡を二次元平面に正射影したものであ る。 上から一周期、 二周期、 そしてカオス状態に対応している。 また、 二周期の 場合軌跡が二重に、 カオスの場合は軌跡は相空間を不規則に動き、 非常にネ殿堂な 構造していることがわかる16)。
カオスの定義の(2 )解の相空間での軌道が不安定であることは、 近接軌道の 距離が時間とともに指数関数的に大きくなることを意味する。 これは、 非常に近 い値の二つの初期値をとっても、 そのわず、かな初期値の違いが指数関数的に広が ることを表しており、 これをカオスの初期条件敏感性という。 この初期条件敏感 性のため初期情報が指数関数的に失われて行くことなり、 これがカオスが予測不 可能性であるといわれる理由である。 初期条件敏感性の指標で、ある軌道の平均拡 大率がリヤプノフ指数Aである(付録A-2参照)。 現象がカオスであることを示 すには、 このリアプノフ指数が正であることを示す必要がある。
実験データよりリヤプノフ指数を求めるために、 ここでは実験データに適用す ることが容易なSatoらの方法lめによって最大リヤプノフ指数を求めた(付3私2参
(a)
I
、‘E,,,hu 、‘,,Jすt,dE‘、 官・A 、、.,,,&EE-,,E‘、 VE且
図4-7 埋め込みの方法による相空間の再構成。 (a )カオスの時系列 デー夕、 ( b )再構成された軌跡(上図 1周期、 中図 2周期、 下 図 カオス)。
nku phu nHu nhu
図4-8は図4-7 (a)のデータに対して得られた最大リヤプノフ指数を示し ている。 横軸は埋め込み次元d eである。 埋め込みの次元を大きくすると最大リヤ プノフ指数は徐々に減少し、 一定値に近付く。 図よりわかるように最大リヤプノ フ指数は正である。 これから再構成されたアトラクターが軌道不安定性を持つこ とが示されたO
カオス発生の原因が、 系の非線形性であり、 無限自由度が存在によるものでな いことは前に述べた。 このように、 カオスは有限の自由度をもっ。 観測された現 象が、 幾つの自由度を有するのか、 つまり、 アトラクターが何次元で記述できる のかを解析することは、 乱流などの無限自由度で記述される現象とカオス現象を
区別する上で極めて重要で、ある。
ここでは、 実験データより、 GrassbergerとProcacciaによって提案された相関次 元νを求めた。 相関次元νは以下のように定義させる。
1.0
0.8
0.6
ど〈
0.4
0.2
v =
lim
log主位
r→o log r ( 4 -4 )
ここでC(r)は相関積分を意味し、
0.0
C(r)= lir n Z L
N伐r
-医
i -Xj�
Nー今∞i,j=l N .... ( 4 -
5 )
と定義されるo 8 (x)はヘビサイド関数で
11 nu i--21旬、BEBEE--、 一一 、‘,/
X〆a'\ ハり
X�OX�O
( 4 - 6 )
2 4 6
de
8 10
図4-8
最大リヤプノフ指数の埋め込み次元de依存性。
図4-9(a)はスケールrと相関関数C (r)を埋め込み次元d eを変化させて である。 スケールrが小さい時、 スケールrと相関積分C (r)を両対数プロッ
トしたときの傾きから相関次元νは求めることができる(付録A-2参照)。
図4-9は図4-7 (a)のデータの相関次元νを求めた結果を示している。
両対数プロットしたものである。 図4-9(b)は、 図4-9(a)から得られた 傾き(相関次元)を埋め込み次元d eの関数としてプロットしたものである。 埋め 込み次元を大きくするにつれて相関次元の値は飽和し、 非整数次元2.9になって いることがわかる。 これより、 本実験系は、 少数自由度系であると結論すること
カぎできる。
以上の次元解析とリヤプノフ指数の解析より、 観測された現象が少数自由度の 決定論的カオス現象であることが同定できた。
これを拡張してq次の相関を さて、 相関次元では二次の相関を考えているが、
HentschelとProcacciaによっ この一連の次元を一般化次元D qという
は、 相関次元の計算を拡張したSatoらの計算方法18)を用いて、 一般化次元の計算
( a )はその計算結果を示している。 相関次数q (普遍確 D qの値は3の周りに、 広がりを持っている アトラクターの軌道点の分布が一様であればD qはqによ 率測度)は-2<q<lOとした。
(付録A-2参照)。 ここで 考えることにより無限個の次元が定義できることが
て示された20)。
を行った。 図4- 1 0
。 -2 蝉4 -6
(」)000一
-8
ことがわかる。 もし、
10 11 9
-10
8 この一般化次元D qの分布は、 アトラクターの場所
アトラクターのフラクタル構造をよ らず一定となるはずで、ある。
による次元の揺らぎを表している。 さらに、
スペクトルを導出することが行わ (α)
り明確にするために、 一般化次元よりf
より得られたf ( a )
( b
)は、 図4 - 1 0 れる21) (付録参照)。 図4- 1 0スペクトルを示している。 これまでレイリ一一ベナール対流系において、
(α)
(α)スペクトルが一次元のサークルマップから計算されたf 実験で得られたf
カオス スペクトルと極めて良く一致することが示されている22)。 これは、
(α)
の発生機構が一次元のサークルマップにより特徴づけられることを意味してい
2.9 (α)スペクトルを用いた解析は行われていないが、 次節
で示されるモデルを用いて、 上記の解析を行う事は今後の課題である。
る。 本研究ではまだf
109
r 10.08.0
(b)
6.0 4.0
〉
2.0
0.0
10 6 8
de
2 4
。
相関次元(a)図4-7の相関次元の両対数、(b)埋め込み 図4・9
次元による相関次元νの変化.一対ーの実線は白色雑音 に対応する。
-73-
区竺一 一 一一一一一一一一ーー竺ーーー ー ーーーーーーー ーーーーーー-ーー「
a- 一
一一
ーーー ー ーー
nJiH 門te
4.0
c"
C 3.0
2.0
3.5
三
〆田町、3.0
司ー
2.5 2.5
圃5
9 4・5 考察
9 4・5・1 理論的取り扱いとモデjレ化
ここでは、 イオンシース中の不安定性に関連したカオス現象に関する理論的取 り扱いについて述べる23)。 基本方程式としては、 イオンの連続の式(4
-
7 )、 運動方程式(4
- 8
)、 ポアソン方程式(4・9 )を用いる。(a)
ðn ð
- ðt
+--nvðx =り �
( 4 - 7 )ðv ð
�_
一一+f1,--4)
=
�ðt ðx
mi ( 4- 8 )
。 5 10 15
q ðE
-enðx
ε。 ( 4 -9 )定常シースに対しては
(b)
が得られる。 ここで、 添え字Oはイオンシース端での値を意味する。 式(4 -1
o
)はChild-Langmuirの式で、ある。 式(4-10)を用いて、 イオンシース中での イオン粒子の力学的挙動を調べる。 図4-1 1の実線で表されるような電位中の イオンの挙動を解析する必要があるが、 実際にはx=Oのグリッドの位置ではポテンシャルは不連続となっており解析が困難である。 しかし、 この不連続点の存 在は本質的で、はなく、 ポテンシャル構造からもたされる非線形性が本質的である と考えられる。 そこで、 x=Oの周りでの解析を行うのではなく、 x=x 。の周
可EEEEEEEEEJ
E
川司 一 白 E
+AA 一 ん
九一e 一ωL)一2 1 ma
x nu
χ
(4-10 )A= 出 向 i? EO r
(4-11 )3.0 3.5
α
図4・1 0
一般化次元. (a)一般化次元:フラクタル次元Do= 3.16,情 報次元01=3.05, (b)
f(α)スペクトル.必Hτ司f' F「υ 円i
Xo
を用いる。 ここで、 E-E 。はEで置き換えられている。 また、 減衰項yを導入 した。 さらに、 変数(x、 v)をE、 1 (=e nov)に、 - I Eo IをE 。に置 き換えると
AV
dE_ _
1dt l+A{-2E +E2)
(4-15)dI
=- E田y
1+ Eextsin(!2t)
ttt
(4-16)grid
が得られる。 ここで、 時間はイオンのプラズマ角周波数ωpiの逆数で、 また電界
図4・1 1
解析に用いた電位分布
Eはシース端の電界の大きさI E 0 Iで規格化されている。 式(4-15)と(4・1 6 )を用いると、 以下の微分方程式
りに対称、なポテンシャル分布を仮定し、 解析を行う(点線)。 このx=x 。の周 りでの、 イオンの運動は以下の運動方程式で記述される。
d.2� + r�� + _ .
rI ,. + Eextsin(!2t) =
0 ( 4 -1 7)
dt 2 • dt 1 + A lE + (1田3A )E2/3 J
が得られる。 式(4-17)を用いて解析を行った。
dx 一一一 =ν .
dt
( 4 -12)
企 =ァ叫ん at
fTt- E)
(4-13)ここでは、 x=x 。での電界E=Oを仮定する。 外部から印加された正弦波の影 響を調べるために、 式(4 -9 )の代りに
キ- ttt - 壬
fflεi- rν+壬£αtsin(ωlt)
rrti (4-14)円hu円,e
-77-9 4-5-2 計算結果
図4-1 2は(4-17)を用いて計算した電界E(t)のフーリエスペクトル である。 A= 0.2、 Qニ0.6とし、 Ee x tをOから0.909203まで変化さ せた。 これらのパラメ}夕は実験より得られた値を用いた。 また、 γ'""10-8と した。 図4-12(a)からわかるように、 Ee x tが小さい時には、 全てのスペク トル線は周波数f 。とf 1の線形結合で表される。 E (' x tを大きくしていくと、 多 くのスペクトル線が観測されるようになる。 また、 Ee x tニ0.2の時、 周波数比 f 0/ f 1は1.5 3であり、 周波数比はEe x tが大きくなるにつれて変化する。
Eext'""0.9 0 9106の時、 周波数同期現象が起る。 ここで周波数比f 0/ f
1 = 1 1/8であり、 基本周波数f L二(1/11)f 0= (1/8) f 1で与え られる。 更にEc X tを大きくすると、 図4-12(d)に示されているように周波
(a) nu Qu qd 門U 43E' 円ヨA『
'h山iv
sltwv
) e (
+
0.909054
) f (
0.909201
数スペクトルに連続成分が現れ、 カオス現象が現れる。 Eext'"'-0.90 9 149 になると再び準周期領域が現れる。 更にE e x tを大きくすると、 周波数同期現象 が起り、 その後またカオス現象が観測される。 図4-12(d)の次系列データ から、 相関次元を求めると2.85という値が得られた。 これは、 実験において得 られた相関次元の値と良く一致している。
図4・12においては準周期系を模擬するために不安定性が系に存在する状況 を設定し、 減衰項γ----10-8とした。 実際には、 シース電位によって加速された イオンの速度から評価されるyは、 0.03<y<0.1 2の値をとる。 このγの 値では、 不安定性f 。に対応する周期運動は減衰してしまい、 外部から印加した 正弦波f 1のみが周波数スペクトルに現れる。 これは実験において、 不安定性が 抑制された状況に対応する。 (4-17)において、 Qを0.546-0.433、
Aを0.35 2から0.19 1、 yを0.122-0.093そして、 Ee x tを1.43 から1.9 2まで変化させて、 計算を行った。 このときの、 周波数スペクトルと相 図の変化を図4-1 3に示す。 周波数倍化分岐からのカオスへの遷移が観測さ れ、 図4-3において観測された周波数倍化からの遷移と一致していることがわ かる。 一方、 カオスの状態に対応する時系列データから相関次元を求めると、 1 .
t t
Cコ心」伺)。刀三一五E〈
0.0 1.0 2.0 0.0 1.0 2.0
ω
図4・1 2 式(4・1 7)より得られたフーリエスペクトル.
A=0.2, y =1 0弐0=0.6. 縦軸は対数表示である.
no 可t
-79-
F(ω)
54+0.04が得られた。 この値は、 実験におけるカオスの時系列データから計 算された相関次元の値2.6 :::!::: 0.3に比べると約1次元だけ小さい値である。 こ の次元の違いは、 図4-3は、 励起された不安定性を外部強制振動で抑制した、
いわゆる不安定系において得られた実験結果であり、 図4-1 3は不安定性が存 在しない安定系で計算された結果であることによる違いである可能性がある。
以上の計算結果は定性的には実験結果と良く一致しており、 本研究において観 測されてカオス現象はChild-Langmuirの式により記述されるイオンシース中、 つ まり非調和ポテンシャル中でのイオンの挙動に起因していることを示唆するもの である。
図4・1 3 式(4・17)より得られた周期倍化分岐を示すフーリヱスペク卜 ルと相図.図左上より、 Qは0.546,0.2, 0.07, 1.5, 0.5, 0.25, 0.08,
1.8, A は0.45, 0.2, 0.08, 1.85, 0.447, 0.175, 0.05, 1.814, y は 0.446,0.2,0.07, 1.75,0.44,0.2,0.08, 1.8及びE e x tは0.46,0.25,
0.08, 1.7, 0.44, 0.2, 0.09, 1.82と変化している。 フーリエスペクト ルの縦軸は対数表示である.
-80- 1i nHU
9
4 -6結論
第2章で見いだ、したイオンシースに関連した不安定性が励起きれている時に、
外部から正弦波を印加することによりカオスを発生させることに成功した。 得ら れた結果をまとめると以下のようになる。
( 1 ) イオンシース中の不安定性に関連したカオス現象を初めて見いだし た。 カオスへの遷移としては、 周期倍化分岐からのカオスへの遷移と準 周期系からのカオスへの遷移が存在することが明らかになった。 周期倍 化分岐からのカオスの遷移に関しては、 1周期→2周期→4周期→8周 期→カオスという2 n分岐現象が観測された。 周期倍化分岐の分岐点か ら、Feigenbaum定数を求めたところ、 約3.7という値が得られた。 更 に、 カオスの領域の中に3周期→6周期→カオスという周期運動の窓の 存在も観測された。 これは、 一次元マップより得られるよく知られてい るFeigenbaum分岐現象に対応するものと考えられる。 準周期系からのカ オスへの遷移に関しては、準周期運動から周波数同期をへて直接カオス へ至る、所謂、Curry-Y orkeモデルで、説明されるカオスへの遷移が観測さ れた。
( 2 ) 観測されたカオス現象の特徴の定量的な評価を行った。 まず、Takens の埋め込みの方法を用いてl次元時系列データより相空間の再構成を 行った。 得られたアトラクターに対して、最大リアプノフ指数と相関次 元を求めたところ、最大リヤプノフ指数は正で、 相関次元は2.9である ことが分った。 これより、観測されたカオス現象が少数自由度の決定論 的カオス現象であることが同定できた。 また、プラズマの実験では初め て、一般化次元とf (α)スペクトルの導出を行った。 その結果、 アト ラクタ}の次元は3の周りに分布しており、 一様で、ないことが示され
(3) Child-Langmuirの式で、記述されるポテンシャル中でのイオンの運動を表す
理論式を用いて計算を行った結果、周期倍化分岐からカオスへの遷移と準 周期運動からのカオスへの遷移が得られ、実験結果との定性的な一致がみ られた。 これより、カオスの発生機構は非調和ポテンシャル中でのイオン の運動に起因していることが明らかになった。
た。
nノ臼no 円Jno
参考文献 17) F. Takens, in Dynamical Systems and Turbulence, edited by D. A. Rand and L. S. Young (Springer-Verlag, Berlin, 1981), p. 366.
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2) P. S. Linsay, Phys. Rev. Lett.笠(1981)1349. 19) P. Grassberger加d I. Procaccia, Phys. Rev. Lett.盟(1983)346.
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20) H. G. Hentschel and I. Procaccia, Physica皇D(l983)435.
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5) B. A. Huberman and J. P. Crutchfield, Phys. Rev. Lett.坐(1979)1743. 22) M. H. Jensen, L. P. Kadanoff, A. Libchaber, 1. Procaccia加d1. Stavans, Phys. Rev. Lett.
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23) M. Kono, H. Nakashima,組d A. Komori, 1. Phys. Soc. Jpn.重2.(1992)404.
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12) J. Qin and L. Wang, Phys. Lett.企並三(1991)81.
13) R. J. Taylor, K. R. Makenzie and H. Ikezi, Rev. Sci. Instrum.笠(1972)1675.
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-84- nHU Fhu
三三三 三 ±竺竺三士 一 ー一一一一一竺
第五章 総括
『tno
E三 竺竺竺一 一一ーでて一 一一一 一一一一一 |
本研究はイオンシース中の不安定性とそれに関連したカオス現象を調べたもの である。 以下に本研究で得られた結果をまとめる。
ダブル ・ プラズマ装置にターゲット板を設置し、 それに電流を流すことにより イオンシース中の不安定性を励起 しその性質を調べ、 以下のことがわかった。
( 1 ) 不安定性はグリッドで仕切られた二つのプラズマ領域に約一桁程度以上
の密度差があるときに励起きれる。
( 2 ) 二つのプラズマ領域に密度差があるとき、 それぞれの領域の空間電位に
差が生じており、 不安定性はその空間電位差がある大きさ以上の場合に励 起される。 つまり不安定性の励起に関して空間電位差の大きさにしきい値 が存在する。 また、 そのしきい値の大きさは高密度領域からシースに流入 するイオンを再び高密度領域に反射するのに必要な電位差である。
( 3 ) 不安定性の周波数は、 イオンシースに流入し、 反射されたイオンがシー
スを通過する時間の逆 数で決定される。
( 4 ) イオンシース中において、 反射イオンの存在により共振現象がおこり、
これがイオンシースの負の高周波抵抗と結合し不安定性が励起されるとい うモデルを示し、 アップルゲートダイアグラムを用いてその妥当性のを議 論した。
グリッド近傍に形成されるイオンシースの電位構造および負性抵抗の存在を一 次元の粒子コードを用いて解析を行った結果、 次のことがわかった。
( 1 ) グリッドの両側に形成されるシースの電位構造の非対称性は、 グリッド で仕切られたこつの領域のプラズマ密度の違いによって生じる。 プラズマ 密度の違いは、 グリッドを通過して流入してくるイオン流束の違いを生 じ、 低密度側では、 高密度側から流入してくるイオンがバルクのイオンに 比べて多く、 準中性条件を保つように高密度側から流入してくるイオンを 反射するような電位が生じる。 また、 高密度側から流入してきたイオンは
-88-
低密度側のシース中で反射されるため、 反射点付近でイオンの集積が起 り、 局所的に低密度側のシース中でイオン密度が増加する。 このため、 低 密度側のシース幅が減少する。 この結果は、 実験において得られた電位構 造とイオン飽和電流の分布を極めてよく一致している。
( 2 ) シース電圧に正弦的揺動を印加し、 そのときグリッドに流入するイオン 電流とシース電圧の揺動との関係を調べ、 シース電圧の揺動の周波数がイ オンのパウンス周波数より小さくなると、 イオンシースは負性抵抗を示す こ とが明らかになった。
( 3 ) 不安定性のコヒーレンスとイオン温度の関係を明らかにした。 イオン温
度の増加は、 高密度領域から流入するイオンが低密度領域のシ}ス中で反 射される際に 反射点のばらつ き が 生み、 そのためい わゆる 位相混合 (phase mixing)が起り、 グリッドに流れ込むイオン電流のコヒーレンス を低下させる。 このような場合、 シース電圧の揺動と逆相の揺動成分が明 確でなくなり、 そのため不安定性は励起されにくくなると考えられる。 こ れは、 実験において不安定性の励起されやすさが中性ガス圧に依存するこ と、 また不安定性が極めてコヒーレントであるという結果に対応している と考えられる。
第2章で見いだ、されたイオンシースに関連した不安定性が励起きれている時
に、 外部から正弦波を印加することによりカオスを発生させることに成功し た。 得られた結果をまとめると以下のようになる。
( 1 ) イオンシース中の不安定性に関連したカオス現象を初めて見いだした。
カオスへの遷移としては、 周期倍化分岐からのカオスへの遷移と準周期系 からのカオスへの遷移が存在することが明らかになった。 周期倍化分岐か らのカオスの遷移に関しては、 l周期→2周期→4周期→8周期→カオス という2 n分岐現象が観測された。 周期倍化分岐の分岐点から、 Feigen
baum定数を求めたところ、 約3.7という値が得られた。 更に、 カオスの 領域の中に3周期→6周期→カオスという周期運動の窓の存在も観測され
-89-
E ご三三三一一一 一一 一 一 亡 ーー一 一一一一 一 一一一「|
た。 これは、 一次元マップより得られるよく知られているFeigenbaum分 岐現象に対応するものである。 準周期系からのカオスへの遷移に関して は、 準周期運動から周波数 同 期をへて直接カオスへ至る 、 いわゆる Curry -Y orkeモデルで説明されるカオスへの遷移が観測された。
(2) 観測されたカオス現象の特徴の定量的な評価を行った。 まず、 ターケ
ンスの埋め込みの方法を用いてl次元時系列データより相空間の再構成 を行った。 得られたアトラクターの最大リアプノフ指数と相関次元を求 めたところ、 最大リヤプノフ指数は正で、 相関次元は2.9であることが 分った。 これより、 観測されたカオス現象が少数自由度の決定論的カオ ス現象であることが同定できた。 また、 プラズマの実験では初めて、 一 般化次元とf (α)スペクトルの導出を行った。 その結果、 アトラク タ}の次元は3 の周りに分布しており、 一様で、ないことが示された。
(3) Child-Langmuirの式で、記述されるポテンシャル中、 つまり非調和ポテ ンシャル中でのイオンの運動を表す理論式を用いて計算した結果、 周期 倍化分岐からカオスへの遷移と準周期運動からのカオスへの遷移が得ら れ、 実験結果と定性的に一致していることが明らかになった。 これよ り、 カオスの発生機構は非調和ポテンシャル中でのイオンの運動に起因 していることヵτわかった。
を解明し、 シース構造を制御することで、 諸課題を解決することが期待される。
カオス現象に関しては、 本研究を含めプラズマにおけるカオス現象の研究は、
まだカオスの検証段階にあり、 端緒についたばかりと言ってよい。 これからはプ ラズマにおいて少数自由度系のカオスの出現が何をもたらすのかを解明にしなけ ればならない。 実験的にはカオスの出現が、 プラズ、マ中の物理量(例えば拡散係 数等)にどのような影響を与えるかを明らかにする必要がある。 更に、 プラズマ 中の多様な波動( 時空間)現象においてもカオスが存在するのかどうかを、 プラ ズマ中の分散関係との関連も含め検討する必要がある。 この場合、 分散関係と空 間自由度の関連、 および実験的にどのようにして空間自由度を制御するかが問題 となる。 これら基礎的研究の積み重ねにより、 プラズ、マの閉じ込め特性とカオス 現象との関連などが明らかになり、 カオスを用いたプラズマの制御が可能になる ことが期待される。
イオンシース中での不安定性に関する今後の課題としては、 励起機構が明らか でなく、 イオンプラズマ周波数近傍であったため、 イオンプラズマ振動として解 釈が試みられていた他のイオンプラズマ周波数近傍の不安定性について検討を加 えることが考えられる。 特に、 ダプル ・ プラズマ装置で、の波動実験においては、
この不安定性の存在は極めて留意しておかなければならない。 また本研究の不安 定性の励起モデルをもとに、 プラズマ中でのイオン波の反射実験を説明すること が可能であると考えられる。 更に、 本研究で得られたシースの動的振舞いに関す る知見をもとに、 プラズ、マプロセシングなどの応用上の諸課題で、のシースの役割
nu nuu -Ei nuu
付 録
円ベUnu
E三 一一一一一-ー一一一ーでて一一 一 一一 一
一一一一一 一一「
付録A-1 粒子コード(p
I C :Particle in Cell)
プラズマ研究において計算機シミュレーションは、 実験、 理論と並んで有力な 研究手法のーっとなっている問。 プラズマのシミュレーションの物理モデルとし ては、 プラズマを荷電粒子の集合とする粒子モデル、 磁気流体と見る流体(MHD) モデル、 および位相空間内の統計的流体と見る統計力学モデルがある。
粒子モデルによる計算機シミュレーション日)では、 プラズ、マを荷電粒子の集合 体と考え、 自己無撞着な電磁場中の粒子の動きを時間的に直接追跡することによ り、 プラズマの振舞いを模擬する。 しかし、 現在のコンピューターのおいても取 り扱える粒子(配列)の個数は1 0 6個程度である。 一方実験室で得られる実際 のプラズマ密度は、 10 8からl013cm-3であるため、 多数の粒子を1つにま とめて仮想的な粒子として取り扱う必要性がある。 この仮想粒子は超粒子と呼ば れる。 この超粒子を用いた計算機シミュレーションでは、 実際のプラズマの粒子 数よりはるかに少ない超粒子によりプラズ、マを模擬するのであるから、 容易に予 測されるように密度の揺らぎやショットノイズが現実のプラズマより著しく大き くなると考えられる。
l個の超粒子がN個のプラズマ粒子(例えば電子)を代表しているとすると超 粒子の電荷量q sと質量m sは
となり、 実際のプラズマ粒子の電荷素量と一致する。 そのため、 運動方程式は同 様に取り扱うことができる。 また、 一個超粒子が形成するクーロンポテンシャル
+は、
N
右
1 7
(A-3 )
となり、 クーロンポテンシャルの大きさはN倍となる。 このため二体問のクーロ ン衝突の大きさは、 実際のプラズマ粒子のクーロン衝突の大きさよりかなり大き いものとなってしまう。 この効果は粒子間距離がデパイ長以下になったときに顕 著になる。 一方、 デバイ長以上離れた超粒子は、 デパイ遮蔽により超粒子全体の 集団運動によって決まるポテンシャルによって運動する。
クーロン衝突の効果を低減し、 密度の揺らぎ等を滅らす目的のために、 有限の 大きさと密度分布をもち、 互いに通り抜け可能な粒子[FS P: Finite Sized Par
ticle]が導入された。 図A-2 (a)に二次元のFSPの模式図を示す。 FSPは 半径aの大きさをもち、 電荷q sはその領域に分布(例えば、 一様及びガウス分
(A-1 )
布)しているとするO このとき、 このFSPが作るクーロンポテンシャルを図A- 2 (b)に示す。 実線がFSPのクーロンポテンシャルであり、 点線は大きさを もたない粒子[Z S P : Zero Sized ParticleJの場合のクーロンポテンシャルであ る。 FSPの場合、 半径aより遠い所では通常のクーロンカが働くが、 半径aよ り近い所では点線のようにクーロンポテンシャルは発散することはなく、 実線の ようにその大きさは有限な値にとなる。 このように、 FSPを用いると、 近接 クーロン衝突の効果を低減することが可能である。 このとき半径aをデバイ長程 度に選ぶと、 デパイ長以下の近接クーロン衝突の効果はほとんどなくなりデパイ 遮蔽されたポテンシャルを感じるため、 プラズマの集団現象によるポテンシャル の影響が荷電粒子の運動を支配する。 つまり、 FSPの大きさaがデバイ長の役 割を果たすようになる。
FSPを用いたシミュレーシヨンでは、 図A-2 (a)に示されているように空 qs =eX N
ms= mexN
で与えられる。 このとき、 電荷素量は
qs _ e
ms me
(A-2 )
-
94- nu Ed
Lー← 一一一一一一一一一一一一一: 了一ーで竺三三三三三三=二二
間グリッドがよく用いられる。 この方 , 、
(al
法は粒子-空間(P M)法と呼ばれ
、 ,
る。 電荷密度、 ポテンシャルなどの物 理量はこの空間に固定させた格子点で 定義される。 例えば、 各格子点の電荷 密度は、 FSPの位置に応じて電荷を 劃り振って求める。 図A-3 (a)のよ うな一次元モデルを考える。 格子点の 間隔ムxとFSPの大きさを同じとす る。 このときFSPがx=xsの位置に 存在するとすると、 FSPの電荷q sは 距離に応じてρ(1
�
1 )とp (1) にそれぞれ一品 一b
ふ一けん一以
一S ア バl s ・ d・
nqa れJ
=目、y=
'EA
、、,/
- V E-A VE-
/ t 、 バ P
(A-4 )で与えられる。 このとき各格子点のポ テンシャル併はポアソン方程式を差分 化した方程式
一回Lix2p(1)
。(1+1) - 2ゆ(1) +ゆ(1-1)一 εo (A-5)
_
cþ(1+ 1) -cþ(I)E(I+1/2)- Ax
(A・7 ) を用いて求めることができる。 運動方程式
mM = F dt
dx=ν dt
pb e n oo m
F +c c e e
F 一一F(b) 。
\
\
= qE + q(νx B) (A-8 )
よりFSPの次の時間ステップでの位置が計算される。 実際は上式を差分化した
(a)
「寸 A
S2 I電荷qs
: �2
i = 0
1 圏;
i=M
ト一一 一一一一→
p(O) バ]-1) 広s同} P(1+l) p(M)
a r
:'\
\
\
図A・2 F S P [Finite Sized Particle]
(a) F S Pの模式図、(b)F S P がイ乍るクーロンポテンシ ャ ル。 点線-r=Oにおかれた点電 荷がつくるクーロンポテン シャjレ
、.E/LU 〆,.‘、、
EI・112 EI+l々
i = 0
ト一一-
<)>(0)
一一 一 一削
Ø(I-l) Ø(I) Ø(I+ 1)図A- 3粒子-空間法;(a)電荷密度の空間 グリッドへの劃り振り、(b)電界 と電位の関係
より、 各pを用いて各点のポテンシャル分布併が求められる。 電界Eは図A- 3 (b)に示されているように
-96- -97-
方程式
(A-8 )
に、 時間ステップムtはプラズマ周 波数の逆数の1/10とした。ター ゲット板は浮遊電位である。 図A- 6 (f)は定常状態でのポテンシャ ル分布を示している。 流入点(x二 0)近傍に電位降下が存在する。 こ の電位降下はプレシースに相当する ものであり、 図A-6 (b)からわ かるようにこの電位降下により入射 したイオンはイオン音波速度まで加 速される。 また、 ターゲット板前面
図A・5 粒子コードのフロー チャー卜
電荷密度分布を求める ν(件t1t12)ーv(t-t1t12)= F(t)
I
x{t+ t1t) - x(t)
Af =v(件t1t12)
を用いて計算される。速度vと位置xと時間変化の関係は図A-4のようになって おり、 かえる飛ぴ法(leap frog method)とよばれる。 この方法は(ムt) 2のオー ダーまでの精度があることが知られている。 また、 数値的な不安定性を避けるた めに、 空間ステップムxはデパイ長以下に、 また時間ステップムtは、 プラズマ 周波数の逆数程度にとる必要があることが知られている。粒子コードでの計算フ ローチャートを図A-5に示す。 以上のような粒子モデルは、 イオンと電子をそれ ぞれ独立に計算することが可能であるため、 とくにシース領域の解析に有効であ る。 また、 比較的境界条件が自由に選べるという利点も有する。
図A-6は一次元粒子コードシ ミュレーションによるシース構造 の解析の一例を示す。システムサ イズLはデパ イ長の5 0倍であ る。 x=Lの位置にターゲット板 が設置され、 プラズマ粒子はそこ で吸収されるとする。 イオンと電 子x=Oから温度がT巴及びTiの Half Maxwell分布で入射すると仮 定する。 電子とイオンの質量比
m i/m eは100とした。 また空
間のグリッ ド幅ムxはデバイ長
にはイオンシースが形成されてお り、 そこでイオンはターゲット板方
向に急速に加速され[図A-6(b) ]、 一方低エネルギーの電子は流入点の方向 に反射している[図A-6 (d) ]ことが分る。 また、 シース電圧1> sは 、 Stangebyによる浮遊電位に関する理論式
v十、yー速度
37205昨朝(1 +羽
(A-9)介Yふγ 位置
から計算される理論値と良い一致が見られる。 これはコードの妥当性を示してい ると考えられる。 さらに、 図中に、 各位置でのイオンと電子の速度分布関数が示 されている。 イオンは単調に加速されており、 電子は入射方向のシース電圧1> s より高いエネルギーの電子がターゲット板に吸収されるために、 反射方向の速度 分布の高速成分が失われていることがわかる。
図A- 4 かえる飛ぴ法 (Ieap frog method)
n6 nuu -99-
付録A-2カオスの定量化の手法
ここでは、 幾つかのカオスの定量化の手法について述べる。
アトラクターの再構成
、、,,,,『,E /'1、
pa円icles
散逸系の場合、 時間と共に相空間の体積は縮小し、 すべての相空間の軌跡はア x=L
トラクターと呼ばれる一定の領域に吸引される。 たとえば、 点は時間的に一定な また4-3節で 定常状態を表し、 円であるリミットサイクルは周期運動を表す、
こ0)よ 述べたT2トーラスは2つの基本振動をもっ場合のアトラクターである。
うなアトラクターの構造を調べることは、 系の力学的挙動を理解する上で極めて 有効な方法である。
: L
+ 品 dlstributlonion velocity アトラクターの構造の解析を行うためには実験データより相空間の構造を求める必要がある。 我々の実験を含め一般に得られるのは一次元の時系列データであ
系列データは離散的であり且つ必ず雑
x(t + 't) 音成分が存在するため高次の微分値を
正確に 求めることは非常に困難であ よって実際には実験データに以上
と考えられる。 Tak:ensはこのような微
x
フ
ロットすれば多次元相空間を求めるこ とは可能で、あるが、 実験においては時
る。
の方法を適用することは不可能である この時系列データx の微分値x',x ", x ''',…,を求め、
sheath potential
Ni=le+19 Ti=2eV
Ne=le+ 19 Te=10eV ! Ps=-1.19Te Mi!Me=1ω10∞O...!...Pw= 品斗寸1:β80Te...
Source sheath Neutral Collector sheath
reglon reglon reglOn
(a) Ni ーー一一『ー戸ーー『一一一一
……… l除ーーし
(b) Vi
いト
(丸品。1 山ト
る。 原理的には、
+
t…
o velocity distribution(d) Ve
a-taEt't
'SEtt&V ov ou
(e) Ne
ーーー
.. ・ ・ー .
, 、、.,,
+,
••
,s・‘、
分値を用いる方法ではなくて、 ある時 間遅れを用いる方法によって、 相空間 を再構成できることを示しため。 図A-
時間遅れを用いた相空 図A- 7
7はTakens による相空間の再構成の
間の再構成の概念図 概念図を示したものである。 例えば、
一次元粒子コードによるシース領域の解析例 図A・6
3次元の相空間を再構成する場合、
X(t), X'(t), X"(t)をプロットする代りに
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