研究開発戦略 と経営 の意思決定
畑 中 邦 道
は じめに
事業環境 によ り事業の経営が個 々に違 うよ うに、そ こに属す る研 究開発戦略 も、個 々に異なる。 また、事業 を継続 あるいは創 出す る企業経営 にお ける研究 開発行動‑の意思決定プ ロセ ス も、企業それぞれ に異なる。研究開発行動 と、
経営の意思決定行動 とは、両者 ともに、未知 の世 界‑の最先端的行動 を伴 うた め、普遍的な答 えを得 ることは、極度 に困難 である。 この よ うな特殊事情 にあ るテーマ を取 り上げるにあた り、本論 では、まず 、研 究開発 と意思決定 との因 果 関係 とその蓋然性 について検 討 してい る。 その上で、実際の事業での研 究開 発行動 は ど うあるべ きか、また、その経営の意思決定行動は ど うあるべ きかに っいて、実際の経営現場での研 究開発 と経営の意思決定 を通 し、実効性 が認 め
られ たい くつかの枠組みや ツール を論 じてい る。
1
.研究開発戦略 と経営の意思決定 における因果関係 の蓋然性1
)蓋然性 の根拠 を探 る事業が営 まれ てい る場 では、 どんな分野 において も、二つ として同一の もの は、存在 しない。企業であれ 、事業であれ 、人が個 々に異 な るDNAに よって、
個別 に異 なる意思 と行動 をもつ生態 を営んでい るよ うに、個 々に、個別環境 の 中で、それぞれ に環境適合 してい る。競争要因が似 てい る と思われ る企業群 に おいて も、経営 は個 々に異なってい る。
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事例 を通 しての研 究には、意識的に共通性や 普遍性 を見出す傾 向がある。逆 に、特異性 については、独 自の競争優位 に見 えた り、敗者 の要因であったかの よ うに見 えた りす る。研 究結果か らは、普遍性や特異性 が、あ らか じめ存在 し ていたかの よ うに見えることが往 々に してある。
長期 にわたって競合状態 を続 けてい る と思い込んでい る事業体では、い まだ に、事業の属す る領域 を事業 ドメイ ン として定義 し、事業 にお ける競争優位 に ついて、共通部分 を捜 し出 し、弱み強み について、議論す ることが多い。 1980 年代 までは、素材 、部 品、製造、組み立て、販売、サー ビスが、その各 々の領 域 で、産業の クラスターができてお り、比較的明瞭 に事業 ドメイ ンの領域 を整 理 で きた。戦略行動 の基本 となる事業 ドメイ ンは、その事業が属 してい る外部 環境の中で、共通性のある戦略的枠組み として扱 って も、間違いは起 きに くかっ た。
しか し、1990年代 に入 り、先端技術や情報技術 に よ り、新 しい ビジネスのプ ラ ッ トフォームが出現 し始 める と、事業 ドメイ ンを定義 した戦略 を実行 しただ けでは、事業のバ リューチ ェー ンの もつ、ある ビジネスプ ロセ スにおいてで し か、その優位性 を発揮 で きな くなってきた。事業 ドメイ ンの定義 自身が、共通 性 のある競合条件 として、一様 には括れ な くなったのである。
現在、事業 を取 り巻 く環境 は、競争相 手が見 え競争条件が評価 で きるクロー ズ ドシステムか ら、競合 は異 なった環境 に も属 しその競争条件 は同一尺度 では 評価 できない、 とい う、経営資源 を無制限に もつオープンシステム‑ と、急速 に変貌 し続 けてい る。 オープ ンシステムでの外部環境 の競合条件 は、 自社の顧 客 レベルで競合 してい るか らと言 って、共通 な事業 ドメイ ン として、戦略 を議 論す ることができな くなって きた。
一般論 と してある程度 明 らかになった普遍性 は、大半が既知の事実的知識 と して誰 もが納得できるため、学問的な裏付 けがあるとされがちである。 しか し、
これ らは、あ くまで も後付 けの論理構成 か ら成 り立 ってお り、起 きていたであ ろ うと気づいた知識 の組合せ の域 を脱 していない。気づいた知識 によって綴 ら れ た一連 の出来事の記述 は、因果 関係 を示す全てではな く、認識 で きた一部の 事実であることを、理解 しておかなけれ ばな らない。
過去の環境 と条件 は、今 日現在 、あるいは将来において、全 く同一な事象 と
して再現 され ることはな く、その時点で納得性 のあった普遍性 は、将来 ともに 当てはまるものではない。一方、特異性 については、今起 きてい ることの変化 であ り、近い将来、一部普遍化す る蓋然性 を持 ってい る可能性 がある。 それ ら は、 もっ と先端 の将来に起 きる、成功や失敗 の兆 しか も しれ ない。
人類 に よる意思決定がな され始 める以前 は、生物 の 自己組織化 が もた らす 自 己複製 に よって、人為的な破壊 もな く、各々の生命体の個体 ごとに、安定性 の 拡大 と継承 がな され て きた。 また、突然変異 に よる退化 1を主体 とした変異体 も、新 しい 自己組織化 として、新 しい環境適合 を生み出 してきた。現在知覚で きる事象や形態 とそのプ ロセ スや起源 の判別 は、ダー ウィン主義 としての因果 関係 を持 ってい る。 人類 である我 々は、利 己的 とも言 える遺伝子の系譜 の もと で、3次元の時空間で定義 で きるスケールの範 囲内で、人間 としての 自己の存 在 を、個 々に認識 してい る11。
人類 に よる意思決定が、 日々の営み に影響 を及 ぼす様 になる と、学習 によ り 意思決定 とその成果 との因果 関係 が明瞭 とな り、意思決定は、それぞれ の場面 で、それぞれ個 々に選択 され る様 になった と考 え られ る。豊 さや、便益や 、戦 闘優位性 を持 ち、再現性 が得 られ るよ うな開発‑の行動 は、 よ り促進 され たは ず である。逆 に、豊 か さを享受 で きなかった意思決定は、排 除 されたに違 いな い。 リス クを伴 う試行領域 にある研究行動 においては、その見返 りの大 き さ‑
の期待 がなけれ ば、人類 の脳 あるいは心に よる決定判断はな され なか った、 と 考 えて よい。 この原点 は、現在の事業経営にお ける 「研 究開発」と 「経 営の意 思決定」の間にある関係 において も、同様 である。
人類 が、 「便益や価値 は交換 で きる」 とい うこ とを発 見 した時 を境 に、人為 的に生み出そ うと種 々の試 み を積極化 した ことは、想像す るに難 くない。 その 試みの成功 と失敗 の積み重ねは、ま さに研 究その ものである。 その成功 した試 み に対 し、ある環境条件 の もとであれ ば、何時で も成功が再現で きるよ うに工 夫 した ことが、開発 とい う行為その ものになっていった と言って よい。
大 きな リスクを伴 ったその よ うな人類 の意思決定によ り、その再現性 の手段 を入手できた者 は、神 の領域 に一番近い価値 を持 った者 として、その地位 を確 保 したに違 いない。
それ らの地位確保 は、多神教的発展 を促 し、その思考は、世界各地 に 自然発
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生的に生 まれ 、継承 され、地域性 のある宗教思考 を生み 出 した と考 えて よいで あろ う。 日本 にお ける独特な、言霊思考や 、万物 に神 々 しさを受 け止 め礼拝す る、あるいは、怨霊 を封 じるために神化す る、 といた思考は、その一例である。
人類 が、人間 としての営み に秩序 を求 め始 める と、営み にお けるルールが文 化的な慣習 とな り、価値観 の統制 がお こなわれ る。儒教的な思考や、科学的側 面 を濃厚 に もつ哲学的な思考、あるいは、 自然や神 と対峠す る摂理 としての倫 理感 が、時代的、社会的な背景の もとに生 まれ てい る。
神秘性 を解 き明かすプ ロセ スに科学が組み込 まれ始 める頃、その空間や 、現 実や 、宇宙の初 めは、全知全能 の一つの神 が創 出 した ものである とい う、一神 教 による宗教的解釈 が生み 出 された。 同一の経典 を原点 とす る、ユ ダヤ教、キ
リス ト教 、イス ラム教的思考である。
キ リス ト教が始 まる400年 ほ ど前 に、イ ン ドで仏教思考が生 まれ てい る。縁 起の理 として、時間軸の一瞬 は縁 によ り結合 してお り、一瞬の連鎖 は因果 関係 でな り立 ってい る とす る、色即是空 、空即是色に代表 され る宇宙観 を、人間の 営みの中で捉 えた宗教観 である。 そ こで、いかに生 きてい くか、いかに生か し てい くか、いかに生か され てい る存在 と自覚す るか、 とい った観点の宗教的解 釈 が生 まれ た。
このよ うな、各々異なる宗教的観点は、意思決定にお ける大きな拠 り所 となっ てい る。異 なる宗教観 をベースに した意思決定ス タイル は、それぞれ に、それ ぞれの環境 に即 してお り、多面的な観 点か ら言えば、良い面 も悪 い面 もある。
欧米 にお ける思考概念 にみ られ る、成功 した要因は神 の心に即 した もので、
失敗 は神 か ら与 え られ た試練 である、 とい った無意識 の意識 が、その一つであ る。 キ リス ト教圏 において、意思決定者 が成功 した場合 に多 くみ られ る、ある 種 の強い選 民意識 と、それ を優位 とし許容す る社会か らの支持 は、 よく観 られ る。 経営 の枠組 み で よ く使用 され る、 ミッシ ョン、 ビジ ョン
1 1 ' 、
シナ リオ、 と い う用語 の ミッシ ョン (使命) は、キ リス ト教にお ける、伝道 に命 を捧 げる意 味 を持 ってい る。世界 に も類 を見ない、和 を優 先す る意思決 定の棄議制や 、決定の中に意図 さ れ たニ ュア ンスを持 ち込む意思決定のスタイルは、 日本独特の もので、一神教 の世界では、理解 しがたい ものが ある。 「おかげ様 で」 とい う、 リー ダー シ ッ
プが どこにあるか分か らない、第三者 が主体 とな る意思決定の表現 も、仏教的 であ り、かつ、万物 に神 々 しさを感 じとる民族以外 には、理解 しがたい意思決 定の形態である。
ダー ウィン主義者や無神論者の よ うに、科学は宗教 を超 えてお り、科学 によっ て意思決定はな され得 る、 とす る立脚点 もある。特 に生物の分野で顕著 に蓋然 性 を持つ、淘汰 と退化 がそれ である。淘汰 と退化 の結果 として、進化 した よ う に見 える現在 の姿や形 が生 まれた、 とい うものであるnr。
人類 で も、卵子が精子 によ り細胞分裂 を始 め、母親 のお腹 にい る10カ月あま りの赤 ちゃんに起 きる変貌 が、代表的 に述べ られ る。細胞分裂は、初期的生物 の成 り立ちか ら、魚 の よ うにな り、陸上に進 出 し、尻尾 を退化 させ るまでの、
そのすべてのプ ロセ スを、母親 のお なかの中で経験 し、地球上 に生み 出でて く る。
事業で も、表 に出て くる以前の研 究開発やイ ンキュベー シ ョン とい ったプ ロ セ スにおいて、 これ と同 じ様 なプ ロセ スを組み込む ことがで きれ ば、時間 と投 資に、多大な損失が省 ける。 非常に難 しいが、組み込 めれ ば、意思決定 システ ムを、大 き く変 えることがで きるであろ う。
ダー ウィン主義 を単純 に退化論 か ら展開 して しま うと、成果 の前に意思決定 が存在す る、 とい う蓋然性 は成立 しな くなる。
しか し、人間には、脳 の反応 を具現化す る部分があ り、 これ を仮 に心の事象 としてお くと、行動 は、すべて脳 に よ り判断 を下 してい ることにな る。脳 の中 に心があるか、 とい う問題 は別 として、人間に限 って言 えば、判断は、 ど うや ら脳 が行 ってい ることは事実の よ うである。 決定が、脳 に よって判断 され 、心 に よって意志や意思が形成 され る、 と考 えておいて よさそ うで ある、′。
まだ、未確認の部分が多いが、脳 のシナプスの変化 を電気的に精査す る と、
どうや ら脳 は、判断行動 を していそ うなのであるO電気的な変化 は、海馬 を介 して、左脳 と右脳 とで、ある種のア トラクタン トを発 し、 メモ リーが相互 に飛 び飛びに変換 され てい ることがわか ってい る。
その動 きは、数学的な複雑系のカオスパ ター ンと同 じ軌跡 を示 し、相 姑 こネ ッ トワー クを構築 し、情報処理 を学習 や記憶 と結合 させ 、ある種 のパ ラメー タに ょ り、不均衡 な状態 を起 させ てい る。不均衡 な状態 は、瞬時 に、次‑の行動決
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定 を可能 としてい る。
不均衡 に よる不安 定 さや 、不確 実な状態 は、学習 も含 め、その こ とで、連続 性 に対 して 自己安定 を維持 で き、結果 と して、即決 で きる判断基準 を作 り出 し てい る よ うで あ るvl。 連続 運動 ‑ の瞬 間的判 断 を必 要 とす る意 思決 定 のパ ター ンは、 この一つ であ る。我 々が、突然つ まず いた時、元 の態勢 に復 元 しよ うと す る瞬 間的な動作が、それ で あ る。
脳 が もつ 、 も う一 つ の判 断機 能 を示す身近 な例 と しては、能面‑ の反応 が あ る。全 く動 きがな く彫刻 され 固定化 した能 面は、光 と舞 う動 きに よって、複雑 な感情 を示す よ うに見 える。 固定化 した能 面 とい う安 定 に対 し、不安定で不均 衡 な脳 は、 自己の記憶や 次 に起 きる可能性 との照合作業 を瞬時 に行 い、表情 が 変化 してい る と発想 し、豊 な反応 として、心 に フ ィー ドバ ック してい る可能性 が高 い。
このパ ター ンでは、脳 は、 自己の経験や思 い描 くことので きる範 囲で しか判 断基準 を持 てない こ とにな るが、その 中に新 しいイ ンス ピレー シ ョンの よ うな 存在 を 自覚す るこ ともあ る。無神論者 か らすれ ば、科学的 な見地 か ら、イ ンス ピ レー シ ョン とい う言葉 自身 も、存在 しない こ とにな る。 当然 、未 来 を予知す る ことは不可能 であ る し、未 来 を帰結す る ことも不 可能 ではあ る。
しか し、直感 (Intuition)や イ ンス ピ レー シ ョンを感 じる こ とは、経験 的 に よ くあ る。脳 がカオス状態 を起 こす と、創 発 ら しき ものが あ らわれ るこ とが、
実験 的 に も経験 的 に も判 ってい る。 ケー スス タデ ィに よる複数人 に よる仮説検 証や 、ブ レー ンス トー ミングに よって得 られ る成果 に、総和 が個 々の和以上の 効果 を生み だす こ とも事 実であ る し、それ らが実践上 、有効 な手段 であ ること
も、実証済みで ある。
また、情報 は伝達可能であることか ら、伝達 によって、情報の もつエネル ギー は、増加 した り減少 した り、ベ ク トル を変化 させ た りす る。情報 は集 中度 が高 い ところに集 ま りやす く、 また、情報 の伝播 は、情報交換 可能 なネ ッ トワー ク にお け るクラス ター ヒで、6次 の隔た りで収 束す る こ とV"が、実験 的 に も証 明 され てい る。 この6段 階のネ ッ トワー ク内で起 きてい るカオス状態 は、ま さに 創発 を誘発 してい る もの と思 われ る。
一方 、脳 を持 たない粘 菌の集 りを、餌 と嫌 いな障害物 を埋 め込んだ迷路 で繁
殖 させ る と、ある レベル以 下のポテ ンシャルの障害物 (キニーネの障害物) に 対 しては、 これ を容易 に乗 り越 え繁殖 し、餌 の ある ゴール‑、間違 い を全 く起 こさず 、最短距離 で到達す る。偶然性 な どと、比較 にな らない集 団 と しての試 行錯誤 を、短時間で行 ってい るこ とが証 明 され てい る。
この試行錯誤の過程 で、蓋然性 として参考 にな る粘菌の行動パ ター ンがある。
障害物 に真 っ先 に挑 んだ粘 菌 の最先端 を進 む リー ダー は、障害物 の リス クが高 い と一時撤退す る。 その後 、集 団の体制 を組 み直 し、障害物 に見合 ったエネル ギー の高 さを構成 して、障害物 を乗 り越 えて前進す る。 この時の先端 が、同一一 の リー ダー であるか ど うかは分か らないが、判断 に よる行動 を持 たないはず の
る、11】。
餌‑ の到達 が、粘 菌の繁殖 と拡 大 を決 めてい る と思 われ る。粘 菌は、まだ見 ぬ餌 に対 し、 リス ク と行動 の経 済的交換価値 を、その選択基準に してい る と考 え られ る。
事業 において、研 究開発 と、それ以前 、あ るいはその過程 で行 われ る経営 の 意思決 定に も、同 じ様 な行 動パ ター ンや選択行動 を見 る。 その 一つが、脳 が能 力 として持つ 、判 断す る とい う機能 に よるパ ター ンであ るO も う一つ は、生物 の生存その ものが、最適化 に向け退化 が進化 を生み 出 してい る と同様 、選択 が 自然発生的な 自己組織 化 に よって完成 す る、 とい うパター ンであ る。
この研究論 文で論 ず る主た る 目的は、前述 の よ うな脳 の 自発 的働 きや 、 自己 組織化 的な選択基準 に よる 自然 発生的な事象 とは 異な る、意図 され た研 究開発 戦略 と戦略行動的意思決定につ いてで ある。 それ らは、外部環境 の変化か らの 必要性や必然性 によ り出て くる もの、あるいは、多様 なシーズの積み上げによっ て開発 が派生 して出て きた もの とは、全 く異 な る、意 図 され た行動 を意 味 して い る。
戦略的である、 とい うことは、価値 の交換 が可能 であ り、その こ とが、事 前 に認識 で き、意 図 して ある競争優位 の差 をそ こに持 たせ られ る、 とい うことで あ る。価値 の交換 が前提 であ る以上 、事業 では、研 究 開発 と経営 の意思決 定 と の因果 関係 は、蓋然性 にお いて も、戦略的で なけれ ばな らない。
研 究開発行動 を起 こす前 に、事業 のあ る環境 条件 下 においてな され る特 異性
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のある戦略的な意思決定は、研 究開発後 に得 られ る価値 の期待 に よって、相互 の蓋然性 が成 立す る。企業経営 において、研 究 と、開発 とい う行動が、いかに 戦略的行動 であ り、経営 トップに とって重大な戦略的意思決 定であるかは、そ の ことに よって生み 出 され る、交換価値 の大 き さや 、競争 条件 の優位性 を考 え る と、当然の こと言 える。
交換価値 の大 き さや 、競争条件 の優位性 は、経営 として、 どの よ うなダイナ ミズムを持 たせ る意 図があるかに よって、基準や尺度 は、大 き く変わ る。
研 究 と開発 とい う行動の中には、戦略的な意 図を もった ものではない、社会 に貢献す る とい う意 図による、無償 の行動か ら始 まった ものがある。例 えば、
コン ピュー タ
O
Sの リナ ックスであ る とか、い まや 当た り前 に共有 され てい るww
wである とか、N PO的なボ ランタ リー に よる活動 が、それ等 で ある。 無 償行動か ら生み出 された もので も、 2次、 3次 の活用 に よ り発生す る交換価値は、重層的に大 きな経済効果 を発生 させ てい る。
この様 に、 どの よ うな研 究開発行動 において も、行動 を起 こす前 には、かな らず何 らかの意 図が存在 してい る。 「そ うしたい」 とい う意 図には、行動 を起 す以前 に、意思決定がす でに下 され てい る。戦争 目的の研 究開発 においては、
その意思決定の レベル と、期待 され る行動 のプ ロセスお よびその結果 との間に は、かな り明 白な因果 関係 を見 出せ る。
2)経営活動 における蓋然性
生産活動が組織的に行 われ る以前の、狩猟や農耕生産主体の時代 では、環境 の変化や 、営みの 自己改革の変化 は、推移 がゆっ く りしていた。その時代では、
研 究開発 によって生まれた作業 に よる成果 を、長 い期間にわたって、享受で き た。農耕生産主体の時代 では、新技術の価値 の伝播 は、数十年〜数百年単位 で 行 われ 、生産要素の制約 か ら、特徴 的な経済パ ター ン としての、収穫逓減 の法 則 を生み出 してい るIX。
科学の発展 は、知識 の移動 に よる価値 の交換経済 を、促進 させ た。知識 は単 独 で も、経験やその知識 の分類や整理 に対 し、価値 を持 っていた。 また、製造 品では、製 品その ものに付随 した ノウ‑ ウが、価値 を持 っていた。知識 のみ に よる交換価値 は、イ ンターネ ッ トが出現す る1980年代 とい う、つい最近 まで、
その地位 を保持 してきた。
農耕生産主体の時代では、事業による生産空間は、 よ り2次元的で、時間は、
一年間を単位 サイ クル とした価値 を持 っていた。 日照 と水利 と労働 力が、常 と しての生産性 に、大 きな要素 を既 定 していた。動物 の時間に対す る認知 と把握 は、心臓 の鼓動 に よって 自覚 してお り、人間では、 1秒 をその鼓動のスパ ンで 認知い るxと言われ る。
同 じ一秒で も、農耕生産の時空間の尺度 と、工業生産の時空間の尺度 とでは、
生産性 に、数千倍 もの違 いが生 じてい る。 単位 時間の生産性 が大 き く異なる と 言 う点では、現在 、す でに、時空間の尺度 を異 にす る知識産業 とい う新 しい形 の経済効果 が生み出 されてい るxl。
科学や技術 が、市場 の平準化 、標準化 を促す と、大量生産が可能 にな り、製 品寿命 として、プ ロダク ト・ライ フ ・サイ クルが、経験 曲線 として描 けるよ う にな る。経営は、その ライ フサイ クルの時間軸 を伸 ばす作業 として、改善や改 良を 目指す よ うになってい く。 そ して、それ等の改善や改良の作業は、 日常業 務 として、意思決定者 の決定事項 に入 って くるよ うになったxn。
平準化、標 準化 が加速 し、輸 出中心か ら多国籍化や グローバル化が進む と、
製 品の需要市場 の裾 野 に、シナ ジー領域が生 まれ る。 新市場や他地域‑の拡大 がな され 、また、付加技術や代替技術 も開発 され 、範 囲の経済効果 を生み 出 し た。
1980年代 の 日本 において、低 コス ト多品種少量の生産方式や 、低 コス ト高品 質の生産方式が生み出 された。規模 の経済や範 囲の経済の下では、生産性 とコ ス トとの間 には、生産性 の フロンテ ィア とい う限界が あるxiと信 じられ 、事業 の競争優位 が、そ こを原 点に論 じられ ていた と同時代 に起 きていた。労働者層 が、知 的活動 であ る小集 団活動や 日本 的
TQC
(トー タル ・クオ リテ ィ ・コン トロール)活動 を生み出 し、産業の構造 まで も変 えて しま うことが、 日本 を舞 台に して起 こった。 そ こでは、後工程 はお客様 とい う、 日本独 自の発想 が生み 出 され 、顧客満 足度 を品質マネジメン トに入れ る ところまでに至 った。日本 の製造業で生み 出 され た、 ジャス ト イ ン ・タイ ム (JIT)思考や 、 「カ イゼ ン」 は、世界共通用語 とな り、 また、 「カンパ ン」 は、 トヨタの知的輸 出 産業 にまで発展 した。大量生産時代 では、各産業 に、産業 を支 えるクラスター
単純 な知識 としての研究開発が生み出す価値 の創 出 とは異 な り、特異分野に しかない経験や ノウハ ウか ら生まれ る、暗黙知 に よる知恵 の創 出 といった研 究 開発成果が、裾野 を中心 に、大 き く姿 を現 して くるよ うになる。知識 は コ ミュ ニケー シ ョンによ り情報化 され 、情報 の交換 は知恵 の創 出を うなが したのであ る。
そ して事業経営の環境 は、知識産業か ら生み出 され る経済効果 に、大 き く依 存 し始 める。3次元空間軸 と時間軸 に、情報軸が加 わ った経済効果の兆 しが見 え始 める。 半導体の ライフサイ クル に見 られ るパ ター ンが、その代表的な もの である。 半導体 は、 2次元 を積層 した 3次元構造 と、描画 とい う縮小サイ クル を可能 に してい るため、メモ リー容量や情報処理 のス ピー ドや増加 は、倍乗 で 効いて くる。 半導体製品の開発戦略 として使 われ てい る、集積度 は18ケ月 ごと に 2倍 になる とい う、ムーアの法則 なる思考が これ である。
現在、多 くの知識 は、WW によ り共有 され てい るため、一般人が 「オタク」 化 し、専門家以上 に知識 のみ豊富になってい ることも起 きてい る。職業化 した 専門家 は、現場 に時間を とられ 、新 しい知識吸収がで きず、知識量では 「オ タ ク」に追いつかない とい う、逆転現象 さえ生 まれ てい る。
イ ンターネ ッ ト時代 に入 った1980年代後半 よ り、知識 の保有や、その移動、
伝達のみでは、経済的交換価値 は生み出 され な くなった。 この ことは、知識 の 伝達 しか行 なわれていない様 な教育現場では、深刻な問題 を引き起 こ している。
知識伝達 だけでは、教育価値 が生み出 され な くなったのである。
知識 が コ ミュニケー シ ョンに よ り情報化 され 、伝播 され、デー タ化 され、新 しいエネル ギー とベ ク トル を獲得 しない かぎ り、知恵 の創 出を うながす様 な、
新 しい形の経済的交換価値 を生み出す もの とは、な らな くなったか らである。
先端技術 を取 り巻 く現場 では、個 々の異 なる情報のデー タは、デー タマイニ ング され 、異 なった視点か らの区分整理が容易 になってきた。情報処理容量 を 急速 に増や して きた半導体 に よ り、デー タマイニ ングは よ り容易 にな り、製 品 主体の研 究開発のみ な らず、サー ビス産業や金融 といった、無形 の価値提供 の 事業 を も、大 き く変 え始 めてい る。
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いままで、ハー ド主体であった研 究開発 は、 ソフ トな しでは研 究 も開発 もで きな くな り、 ソフ トの要請か ら新 しいハー ドが生み 出 され、それ がデ ファク ト ス タンダー ドとして、世界的な地位 を堅持す るまでに至 ってい る。
この よ うに、研 究開発分野 は、情報化 によ り、す でに市場 と直結 してお りMV、 マー ケテ イングの重要な部分 を占めるよ うに変化 して きている。 市場 と直結 し た研 究開発 は、 よ り現地化 を促進 し、現地生産 による現地販売 とい うグローバ ル化 に も、大 きな変化 を起 こ してい る。市場や現場では、モニタ リングによ り、
同一製 品で も、個 々に異なったサー ビスや使 い勝手 を提供で きるよ うにな り、
代替製 品の供給時期 さえも、個 々に提供 できるまでになってい る。
2次元的な平面での、視野の限界、合理性 の限界、働 きかけの限界 は、その 後 の3次元の空間か ら傭瞭す る と、全 く単純 な軸か ら構成 されてい ることが分 か る。 さらに、3次元に時間軸 と情報化の軸が加 わった世界か らみれ ば、研究 開発 の多 くは、まだまだ隙間だ らけであることに気づ くであろ う。
量子力学の極小空間や宇宙規模 の空間では、余剰次元が議論 され、
CERN
での実験結果 を待 ってい るxy。 余剰 次元 か ら、人類 が認知 してい る現在 の3次 元軸 と時間軸の時空間を見れ ば、 3次元的工業時代 か ら2次元的農業時代 を見 てい るの と同様 、尺度 の単純化 は容易 となろ う。研 究開発 の さらなる飛躍 が、
大いに期待 され る。 まだ見ぬ研 究開発‑の意思決定は、 よ り重要な意味 を持つ ことになる。 その必然性や 、必要性 は もとよ り、 よ り戦略的、 よ り創 出的な意 思決定が求 め られ るはずである。
2.
研究開発戦略の実際1)戦略性 の必要性
現実の事業 にお ける研究開発 では、 ど うなってい るであろ うか。企業の規模 の大 きさに よって、研 究開発 が、戦略的であるか、必然的であるか、に違 いが 生 じる場合がある。
中小企業では、研 究開発 のテーマの多 くは、特定的であ り、事業経営その も のに直結 した必然性 を持 ってい る場合 が多い。 テーマは、外部環境 と内部環境 のせ めぎ合いに よ り意思決定が行 われ ることがほ とん どである。
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また、経営 トップが、研 究開発 に直接 的にかかわってい るケー スが多 く、進 捗や投資額 の大 き さ、回収 の見込み、等 に細か く関与 し、進捗 に支障 をきた し た場合 に、開発途 中での方向転向や 、中止 の意思決定が、比較的容 易になって い る。
研 究開発型のベ ンチ ャー企業では、事業開始以前 に意思決定がな され 、研 究 開発行為が進 め られ ることもあるが、ほ とん どが、 自発的 な ものであった り、
顧 客環境 を含 めた外部環境 か らの要請 に よる ものが多い。
これ に対 し、大企 業では、研究開発のテーマの多 くは分散 してお り、経営 トッ プが直接的 にかかわ ることは、ほ とん どない。研 究開発が終わ り、製 品化 に入 る段階で、は じめて、販売予測 に関与 し、製造 に要す る投資額 と収益 リター ン に関与す る、 とい うことが多い。
研 究開発戦略は、今 の経営の意思決定に よ り、5年先、 10年先の将来が決定 されて しま う、特異性 のかたま りである。 日常的な業務遂行上の意思決定 とは、
大 き く異な り、戦略行動的意思決定が要請 され る場である。 しか し、残念 なが ら、大半の企業では、 日常的な業務遂行 上の意思決定 と同 じマネジメン トレベ ル での扱 いがな され て しま うことが多い。
多 くの企業では、長期計画の作成時や、年度の レビュー時に、研究開発のテー マについて、現状 ど うなってい るかをチ ェ ック し、今後 ど うす るかを見直す。
しか し、せ っか く見直 されて も、戦略的課題 をオペ レー シ ョナル な継続課題 と して、年度 業務 計画 に落 とし込んで しま うのが大方である。見直 し時、研 究開 発 について、現状の利益率 と事業環境 の成長率 に よる、ポー トフォ リオの図に よって判断 して しま うことも多 く、研究開発費 を、事業規模 と同 じ比率 に よ り 経営資源 の配分 を して しま うとい うことも起 きてい る。
個 々の事業内での研 究開発を見 る と、取 り組 んでい るテーマが、現場の当事 者 として も、戦略性 を もつ ものであるか ど うか、疑問を持 ってい ることも多々 ある。 また、現場か ら遊離 した企画部門がテーマを設定す る場合 もあ り、本来、
戦略性 を要す る研 究開発完了後の具体的な事業の 「あるべ き姿」 を、描 ききれ な くなって しま う、 とい うケー ス も多 く見る。
多 くの企業では、研 究開発の必要性 を、経営戦略の大 きな柱 として捉 えては い る。 しか し、それ をプ ロセ ス として評価す る手段 は、ほ とん どもっていない
のが、実情 である。
米国で生まれ た
、BS C
(バ ランス ・ス コア一 ・カー ド)nlは、戦略的な事項‑のプ ロセスを評価 しうるツール を与 えて くれ てい る。 このツール も、その思考 過程 において、評価基準 を しっか りした尺度 で確 立 しておかなけれ ば、有効性 は激減す る。 どんな尺度の基準によ り思考 したか、の思考過程 を 「見 える化」
し、常に 「レビュー評価 が可能」な ものに してお くことが重要で、形式だけ導 入 して も、弊害のみ残 る。
この よ うな、欧米型 のマネ ジメン トツール に よる経営 は、 日本 に導入 され る と形骸化 して しま うケースが多い。 日本的 目標管理 も、 この例 に もれ ない。共 通 フォーマ ッ トに記入 され ていない と、安心で きず 、マネ ジメン トできない と 思い こんでい る節 がある。
BS C
に代表 され る様 に、形式的な枠組 が必要 なのは、人種が違 い、 言葉が違 い、職種別人事管理が進み、組織 間に独 立性 があ り壁 がある とい う、欧米的な マネ ジメン ト環境 に有効 であ り、イ ンテ ン トの共有 が難 しいwl組織や企業文化 に適 している と言える。最近では、中国 も欧米型の仲間入 りを してい るが、 グ ローバル企業 において、それ らのツール を活用 したマネジメン トは、必須では ある。日本企業 に よくみ る、 目標策定作業 をフォーマ ッ トに記入 し、報告 としては 年 に 1‑ 2回の レビューで終わって しまってい るや り方では、経営の トップが、
その よ うなツール を導入 したか らと言 って、研 究開発 に対 し、戦略的意思決定 をで きるはず もない。P ・F・ドラ ッカー が推奨 していた、MBO (マ ネジメ ン ト・バイ ・オブ ジェクテ ィブ)の手法 も、 日本 では、本来の 目的 を、 と うに 逸脱 して しまってい る。
BS C
の生みの親 であるR.カプ ラン とD
ノ ー トンは、最近 、 「戦略マ ップ」
「戦 略テーマ」
「時間主導型ABC (活動基 準原価計算)」を統合 した、 「戦略 と業務 の統合 システ ム」x、1】lを提案 してい る。 これ も、人種や 、職種や 、マ ネジメン ト に壁 のある社会 で生み 出 され た、企業組織活動のツール であることに、注意 し ておかなけれ ばな らない。筆者 の コンサル タン トの経験 では、
BS C
の枠組 だけを鵜呑み に し導入 を した 企業では、弊害だけが残 って しまってい るケー スを多 くみた。 日本では、銀行国際経営フォーラムNo.19
の よ うな、縦割 り作業 が多 く、使 う言葉 の意味の統一が必要で、作業手順 が決 まってい るよ うな現場では、比較的導入効果 を発揮 している様である。 しか し、
複雑 なバ リューチ ェー ンと、それに付随す る前工程、後工程 を自社 内に持つメー カ系においては、有効 に機能 させ ることが難 しい。
この仕組み を 日本 的に変 え、改善型 で実用化す ることも試み られてい るが、
BSCの基本思考 を覆す ことに もな り、か えって混乱 を招 く原 因 とな る。本来、
マネ ジメン ト層 と現場が、同 じ方向性 を持 って業務 に当た り、成果 として、個々 と全体組織 とで、マネ ジメン トの評価 が同一 にな ることが、BSCの導入効果 で ある。
日本 においての導入例 をみ る と、現場 の事業単位 では、すべての項 目が○で あるものが、マネジメン トの経営評価 の結果 では、すべての項 目が ×であった、
とい うことも起 きてい る。
欧米で も、研究開発 に戦略性 を持 たせ 、同時 に、その行動‑の意思決定に、
経営 トップが戦略性 を持 って遂行す ることは、大変難 しい とされてい る。経営 トップは、常に企業 と自分の ミッシ ョンxLXを貫 き通す ことを求め られ る。 ビジ ョ ンを作成 し、 ビジ ョンを各部 門の シナ リオに落 とし込み、 日常業務 であるオペ レー シ ョン として組織 を通 し実行 させ 、実績 を出す ことに よって、は じめて経 営 トップ としての評価 が発生す る。 しか し、 これ ら全体のマネジメン トのすべ てを、 日常的に こなす ことは、難 しい。
多 くの経営 トップは、 ミッシ ョン と、 ビジ ョンの上層部分 には、深 く関わっ てお り、同時に成果責任 を問われ ることか ら、オペ レー シ ョンの実績 とその部 門の上層 には、 日常的 に関わ ってい る。経営 トップの もつ、時間 と能力の限界 か らす る と、それ だけで、 目い っぱいである。
戦略性 を必要 とされ る、 ビジ ョンの上層部 と現場 のオペ レー シ ョンをつな ぐ 重要 な作業は、お ざな りにな りやす い。 この弊害 をな くすために、最近では、
cso (チー フ ・ス トラテ ジー ・オ フ ィサー :最高戦略責任者) を置 く企業 も多 くなって きたxx。社長直轄 で戦略企画室 といった機能 を設置 し、メンバー には、
組織 と権 限を超 えた、特権的な行動範 囲をカバー させ る とい った、戦略 と現場 をつな ぐ役割 を担 わせ る方法 もある。
筆者 の経験 か らも、 ビジ ョンの L層部 と現場 のオペ レー シ ョンを戦略的行動
によ りつな ぐ重要な作業 には、多 くの幅広 い経験 を持 ち、戦略 を組 み立てなが ら、同時に実行‑の関与がで きる人材 を持つ ことが、経営 に不可欠であること を実感 している。
2)
戦略性 の位置付 け国際的に も優 良企業 と言われ るごく一部の企業には、企業文化の中に、戦略 に関わ るプ ロセ スが、意識 的、無意識的 に組み込 まれ てい ることが多い。
企業の事例研 究 を取 り上げ る と、研 究開発戦略 と経営の意思決定の間に、因 果 関係 が成立 してい るかの よ うに見えることがある。事例研 究においては、企 業 の機 密保持性 もあることか ら、結果側 か ら見て、普遍性や特異性 を、要因分 析的に記述す ることが多い。結果 があることは、その原 因がある、 とい う思考
に よ り、戦略性 のある因果関係 が成 立 してい るよ うに、見 える場合がある。
失敗例 については、 よほ どの ことがなけれ ば表 に出て こない。経営 として、
闇に葬 られ る。成功例 については、その ことが起 きていなけれ ば今の継承 は存 在 しないため、悉意的に因果 関係 を作 り出 して しま うケース も多い。実際には、
因果関係 に乏 しい現場 の環境適合性 に よって起 きた ことが、要因がわか らない まま進行 してい く うちに、外部性 の要因によって成功 して しまった とい うケー ス も、多々み られ る。
実際の経営の場 では、内部環境 と外部環境 が接す る共通性 を持 った領域 に、
環境要因に対 して、評価 しうる尺度 を設定 してある と、戦略性 と成果 の間にあ る因果関係 を、見出す ことが可能 となる。
成果 が出た要因に対 し、思いつ くそれ らしい要因は、い くらで も書 き連ね る ことがで きる。本 当にそ うであるか、 とい う因果 関係 は、成果がある限 り、問 うのは難 しい。一方 、失敗 は、全ての判断や行動の一つ一つや複合 がその結果 を招 いた、 との答 えにな り、因果関係 の必然性 を増 して しま う。
「10年前に、 この様 な ビジ ョンを持 ち、今 日ある姿をター ゲ ッ トとして、戦 略的な投資 を し、研 究開発 をこの よ うに行 った結果 、今、 10年前 に期待 してい た姿 と同 じ成果 を上げてい る」 と言 えれ ば、 ビジ ョン と、適進 したプ ロセスで あ るシナ リオには、投資 を仲介 として、因果 関係 を持 っていた と言 えるであろ
う。
国際経営フォーラムNo.19
「戦略的であるかないか」、は、ひ とえに、 「未来 にお ける今 日ある姿」が描 き切れ るか ど うかにある。 予測 で も期待 で も計 画で もない。 「未来 にお ける今 日ある姿」が、その時点で、 どう動いていて、 どう変化に対応できるよ うになっ てお り、外部環境 と内部環境 に、 ど う最適化 してい るか、に、答 えていなけれ ばな らない。
ほ とん どの企業の中 ・長期 の戦略企画書 は、今 日の時点か ら将来 に向けて、
あるターゲ ッ ト‑の段階的な作業 を、矢印の付 いた横線 を引いて、示 して しま うものが多い。 どうして も、今の 自社能力か ら、期待 したターゲ ッ トに向けて、
ロー ドマ ップを作 って しまいがちになる。 この思考形態が無 くな らない限 りは、
戦略性 は望 めない。
日常の業務改善的意思決定の範 囲にあるオペ レー シ ョンにおいては、今 の 自 社能力か ら、 ター ゲ ッ トに向け矢印 を引い た ロー ドマ ップに よ り、 日々実行す ることは、逆 に、 よ り有効的である。今 の 自社能力 を基準 に、短期 間での修正 が可能 とな るか らである。
ガン トチ ャー トに よるスケジュール上に、矢印の付いた横線 を引いて、5年 後、10年後の ターゲ ッ ト‑の ロー ドマ ップを示す戦略企画書や 中 ・長期計画書 は、ほ とん ど機能 しない。 ここ1‑ 2年 でや らなけれ ばな らない項 目は描 き連 ね ることがで きるが、 ター ゲ ッ トに近い将来の1‑ 2年 には、ほ とん ど作業の 項 目や言葉 は記す ことが難 しくな るか らである。
本来は、完成す るター ゲ ッ トの 目時に近 くな るに従 って、多 くのや るべ き査 証の事項や作業が多 くな るはずが、ガン トチ ャー ト的発想では、逆転 して しま うか らである。 ガン トチ ャー ト的計画書は、今 、やれ ることか ら記述す るため、
短期思考か らのス ター トにな り、戦略性 の乏 しい ものにな る。
戦略性 は、 「こ うあ りたい」 と思い描 くことか ら始 ま る。 「こ うあ りたい」 と は、 どんな状態 であるか、を、現在 の事業経営 と同様 、細かな作業の積み上げ として描 かれ ていなけれ ば、 「こ うあ りたい」 と 「現在 の事業経営 の機能」 と のギャ ップは見つか らない。 このギャ ップを埋 めることこそが、研 究開発 を必 要 とす る戦略 なのである。
意思決定に至 るには、 「こ うあ りたい」 とい う思いが、 「こ うしたい」 とい う 志 に繋が り、 まず、意志が固め られ る。 この意志の決定か ら意思決定‑のプ ロ
セスで、戦略性 が高め られ る。
思い描 いた時点 をターゲ ッ トとして、完成 した ビジ ョンを描 き、そ こか ら、
完成 の1年前 には ど うなっていなけれ ばな らないか、2年前 には何 が終わって いなけれ ばな らないか、を考 え、現状 とのギャ ップを埋 める手段 を見つ けるこ とで、戦略的アプ ローチが可能 とな る。研 究開発 に戦略性 を持 たせ るには、意 志 の決定か ら戦略的意思決定に至 る、一連 の思考 プ ロセ スが求 め られ る。
戦略手法や思考 のプ ロセ ス と して、M.ポー タ とH.ミンツバー グが、両極端 の思考 プ ロセ スを提案 してい る。 M.ポー タは、事業 のバ リューチ ェー ンを最 大化す る要因 を分析 し、競争優位 となる技術戦略 を見つ け出す プ ロセ スを提示 してい るxxl。 一方、H.ミンツバー グは、戦略 クラフテ ィング と して、陶芸家 と 同 じ様 に、い じく りまわ してい る うちに他 が まねのできない、最適 な形 がで き あが り、そのプ ロセスが戦略性 を持 ってい る とす るxx
" 。
どち らに も共通す る思考 は、 「こ うあ りたい」 を思い描 いて、そ こを前提 に して、分析 か ら始 めるか、試行錯誤か ら始 めるか、を問 うてい るのである。 プ ロセ スは ど うであれ 、 「こ うあ りたい」 とい う目的がな くては、 どの よ うなス ター トを切 って も、戦略的行動 には、結びつかない。
3.
戦略的意思決定1)業務改善的意思決定 と戦略行動的意思決定
筆者 は、長年、戦略性 が企業 として、 どの よ うな範囲で扱 われ るかについて、
日常的な業務遂行上の意思決定 を 「業務改善的意思決定」 とし、将来的価値創 出を 目的 とす る意思決定 を 「戦略行動的意思決定」 として、区分 し研 究 を進 め て きた。
事業の外部環境 の ライ フサイ クルや 、商品のプ ロダク ト・ライ フ ・サイ クル でいえば、導入期か ら成長期 、成熟期、衰退期 と、現状が 目に見 えてい る範囲 についての意思決定 を 「業務 改善的意思決定」 と し、導入期以前の世 に現れ な い、研 究開発のプ ロセスや、 ビジネ スプ ロセスの価値連鎖 の向上 といった隠れ た部分‑の投資や、競争優位 を生み出す源泉‑の発掘 に関る意思決定 を 「戦略 行動的意思決定」 としてい る。
国際経営フォーラムNo.19
見 えてい る範 囲での成熟期 に、バ リューチ ェー ンの どこかのプ ロセ スで、大 胆 な コス ト削減 、あるいは
BPR
(ビジネ ス ・プ ロセ ス ・リエ ンジニア リング) を意図 し、先端技術 によって、バ リューチ ェー ン内の価値創 出の要因を大幅 に 変 える、 とい った意思決定 も、戦略行動的意思決定 に入れ てい る。この場合で も、 コス ト削減 は、現状 の三分 の一か ら五分の‑程度 の大胆な削 減 目標 でなけれ ば、戦略的行動 は、生 まれ ない。三分の一か ら五分の‑‑程度の 大胆な削減がな され なけれ ば、既存の ビジネスプ ロセ ス ・バ リューチ ェー ンを、
新 しい競争優位創 出に よ り、代替 させ るコス トに、見合わない。
経営の意思決定がな され てか ら、新 しい競争優位 を獲得す るまでに要す る研 究開発 の期間は、最低 で も10年前後必要 とす る。 自事業が、10年後 に迎 えてい るオープ ンシステムの最先端 は、外部環境 として、ムーアの法則 に近いス ピー
ドで変化 してい る と考 えておかなけれ ばな らないか らである。
筆者 の経験では、 この よ うな大胆な コス ト削減 の場合 、戦略的研 究開発行動
‑の投入資源 の 占める割合 は、全体の投資額 の60%以上 とな り、 ソフ ト・サー ビスの先端技術化 を含 める と、80%近 くに もな ることを、経験 してい る。 この ことは、新規事業創 出 と同 じレベルの経営資源 の投入が、戦略的 コス ト削減 に は、必要 とされ るこ とを意味 してい る。
BPR
に よる価値 の創 出 も、大胆 な コス ト削減 と同 じレベル を、想 定 しておい た方が良い。三倍 か ら五倍 の価値の違いが、BPR
によ り生 まれ るよ うであれ ば、変革後の競争優位 を獲得 で きる。
BP R
に よ り変革 を起 こす と、 自社 内の色 々な 部分に、それ までに発生 しなか った、新 しい コス トが発生す る。 また、新 しいBPR
によ り生み出された製品やサー ビスを、顧客が採用す る場合、サプライチェー ン等 に、新たなスイ ッチ ングコス トが発生す ることが多い。 これ らの初期 コス トを吸収 で きなけれ ばBPR
も、 自己満足 のみ で、顧 客満 足度 を充足す ることが できず 、失敗す る。代替技術の研 究開発分野は、顧客 レベルで、スイ ッチ ングコス トと付加価値 創 出の効果が、相殺 され るため、 ター ゲ ッ トの設 定時、注意 が必要である。 よ く、事業の現場 では、30%の コス ト削減 を 目標 にす ることさえ難 しい とす る風 潮 もある。 この レベル の意思決 定は、戦略的行動意思決定の範噴ではな く、オ ペ レー シ ョン レベルのマ ネジャー に よる業務改善的意思決定による行動 の範晴
である。その ことによって、戦略的に も中途半端 な難 しさが起 きてい ることに も、注意が必要である。
ミッシ ョンや ビジ ョンが強 く働 く意思決定の多 くは、 「戦略行動的意思決定」
である。誰 もや っていない、 目に見えていない範 囲の作業 について、遂行す る か、 しないか、の意思決定である。研 究開発 は、ま さに、戦略行動的意思決定 がなけれ ば動 き出 さない、代表的な ものである。
ミッシ ョンや ビジ ョンが強 く働 いてい る経営の範囲では、評価 をすべ き尺度 を、一般的には、ほ とん ど持 っていない 。 この為、意思決定は、経営 トップの 直観 が必要 とされ る領域 の よ うに思われ てい るこ とが多い。
筆者 は、 ミッシ ョンや ビジ ョンが強 く働 いてい る範囲での意思決定について、
1993年 よ り、内部環境 と外部環境 が接す る共通性 を持 った領域 に、環境要因に 対 して、評価 しうる尺度 を設 け、実践的研 究 を行 ってきた。
環境要因の尺度 の軸 を、それぞれ 、 「規模 の経済効果」の要因、 「範 囲の経済 効果」の要因、 「時間の経済効果」の要因、 「情報の同時性 と共有 の経済効果」
の要因、 「共生の経済効果」の要因、 と して、5つの軸 を決 め、事業 の 「見 え る化」を進 めてきたxxl"。
「規模 の経済効果」と 「範囲の経済効果」は、 ともに拡大の経済効果 を軸 の 尺度 と してい る。 これ に対 し、 「時間の経 済効果」 は、ス ピー ドや 同期化 に よ る、 ター ン レー トやサイ クル レー トの経済効果 を、軸の尺度 としてい る。
また 「情報の同時性 と共有 の経済効果」 は、ネ ッ トワー ク外部性 に よる効果 や 、異 なる ドメイ ンが同時に入手や発信 で きる情報 に よ り、異 なる ドメイ ンが 共有 して しま う価値 の不均衡 さに よる経済効果 を、軸の尺度 としてい る。
「共生の経済効果」 については、現実には未 だ見えてきていない仮説 の領域 にある。仮説の領域 であることか ら、 ここでは取 り上げないが、領域 としては、
地球環境全体 を包括 した、共生関係 と因果 関係 に よる経済効果 を、軸の尺度 と してイ メー ジ してい る。
「情報 の同時性 と共有の経済効果」は、1993年 の時点では、まだ洞察の域 を 脱 していなか ったが、現時点では、す でに現実の もの となってい る。 「情報 の 同時性 と共有の経済効果」は、言 うまで もな く、イ ンターネ ッ トの普及 によ り、
新 しく出て きた経済効果の現象 を、強 く意識 してい る。
の結果、同 一‑情報 であ りなが ら、価値尺度 の異 な る情報 を内包す る総体では、
ある情報 の価値 の軌跡 は、思わぬ方向に走 り出 してい るよ うに見え、カオス状 態 を示す。 カオス状態が悪いわけではない。 このカオス状態 にあるがゆえに、
その情報 を内包す る事象は、全体 として次の段階‑の変位 を、容易に し得 るか らである。
カオス状態 の一瞬一瞬が、安定状態‑の効果 を、最大限に発揮 してい る。 カ オス状態 にない事象で起 きる突然の衝 突は、予測 を超 える大 きな衝撃波 を生み 出 し、一瞬に して過去の線形が非線形 とな り、過 去が壊滅す る危険性 が高い。
カタス トロフィー的な変 異が、現実的にある。経済効果の現象 として、収穫 逓増 のパ ター ンが発生す ることがある。収穫逓増 には、プ ラス側 もマイナ ス側 もある。金融 市場での収穫逓増 の現象 は、暗 によ り衝撃的なイ ンパ ク トを与 え ることがある。
しか し、収穫逓増 が、オープ ンシステム環境 の中でカオス状態 を起 こ してい れ ば、一見危機 的 と思われ る様 な大 きな衝撃 も、異 なる事象 に分散吸収 され 、 新 しい収束点 に至 った り、新 しい不均衡 な レベルで安定す る。 クロー ズ ドシス テムの環境下で起 きた、過去の世界恐慌の連鎖 による壊滅的状況の様 なことは、
発生 しに くくなる。
「情報の同時性 と共有の経 済効果」は、知識や情報 が、移動 によって価値 を 生みだ していた とい う、1980年代 までの、価値 交換が生み出 していた経済効果 とは、全 く異 なる事象 を指 してい る。異なった産業の クラスターや、異なった 業種 、異なった事業 ドメイ ンど うLが、ある知識や情報 を、同時 に入手共有で きるよ うになった ことで生 まれ た、新 しい経済効果である。
それ までは、特定の領域 によ り価値が付 け られ ていた知識や情報 に対 し、イ ンターネ ッ トに よ り 「情報 の同時性 と共有」 が可能 になった こ とで、 「異 なっ た領域」か ら、その知識や情報 の価値 の新 しいポ ジシ ョニ ングを見出す ことが 可能 になったのである。異なった領域 では、領域 の独 自の尺度 に よ り価値 のポ テ ンシャル を別 に設定で きた り、価値 の方 向性 をベ ク トル として、違 った形 に 描 いた りできる。 この ことが、新 しい不均衡 な レベル の安定 さを もた らす。
116
拡大 を 目的 に した 「規模 の経済効果 」や 「範 囲の経 済効果」の時代 では、知識 や情報 は、単独 で も価値 を持 っていた し、物 に付 随 していた情報 は、物 の流れ に よって、交換価値 を生み 出 していた。
「時間の経 済効果」では、知識や情報 は、その鮮度 に価値 が生 まれ ていた。
また、物 に付 随 していた情報価値 は、その正確 さの フィー ドバ ックを、サイ ク ルや ス ピー ドに よ り、競 うよ うになった。正確 さが ター ン レー トやサイ クル レー トに よ り経 済効果 を発揮 す る典型 に
、J I
Tの仕組 み が挙 げ られ る。 製 造 の品質 管理 は、全社 品質 管理 の思 考 を生み 出 し、 日本 的TQCとな り、 この思 考 が米 国 に渡 ってTQM (トー タル ・クオ リテ ィ ・マネ ジ メ ン ト) の思想 とな り、マ ル コム ・ボル ドリッジ賞 と言 われ る経営 の品質 を競 う賞 を も生み 出す までに、発展 した。
これ らの、拡 大や ス ピー ドの価値 の軸 の尺度 に、 「情 報の同時性 と共有」の 価値 の尺度 が加 わ ったのが、今 日、現在 の環境 である。
この効果 の、科学分野 の側 面について、A. トフラー は、 「富の未 来」 の著 書 の 中で、 「将来 の経済 の姿 は、 どの真 実 の フ ィル ター を使 うのか、 どの真 実 を見 るこ とを選ぶ のか に、大 き く左右 され る。 この点で もわれ われ は、富の基 礎 的条件 の深部 にあ る要 因 との関係 を、そ の結果 を予測す るこ とな く変化 させ てい るのであ る。 その結果 、経 済 の発展 を もた らす 主要な源 泉の一つが危機 に 直面 してい る。 科学 の将来が危 うくな ってい るのだ。」 と警鐘 を発 してい るx
… 。
神秘性 や未知 の事柄 を内包 した。神 と、科学 と、人類 の営み が、それ ぞれ 三 角形 の各頂点 に位 置 し、そ の三角形 の 中にあ る空 間に、人間 と しての倫理観 が 醸成 されていた時代では、あ らゆる面‑の 自発的な動機付 は、その倫理感 をク ッ シ ョン と してな され ていた。 ゆった りした時間の経過 にあったその よ うな時代 では、事象 ど うしの起 こす衝突 の衝 撃波 は、緩慢 な吸収 がな され るため、宗教 戦争や世界大戦 とい った出来事 を除いては、全体 としては、その後 の発展 が崩 壊す る とい った レベル には、至 らなか った もの と思 われ る。
事象 ど うしの制約 条件 が十分 フィー ドバ ックされ るクロー ズ ドシステ ムに よ り、系が個 々に独 立性 を確 立 してお り、価値 は、その クロー ズ ドシステ ムの 中 でのみ共通 してい る とい うのが、経 済学 にお ける理想像 であ る。価値 の交換 の 差異 は、系か ら系‑ の移動 に よって成 立す る構 造 にあ る環境 であれ ば、現状 を
国際経 営フォーラムNo.19
客観 的に分析すれ ば、線形的な範 囲で、あ る程度 の将来予測 は、可能 となる。
反 面、クローズ ドシステム内で衝突が起 きると、系か ら系‑の連鎖が拡大 し、
世界規模 での壊滅的打撃 を生み 出 して しま うこともある。
ポジテ ィブ フィー ドバ ックを受 けやす い、資源制約 を課せ られていないオー プ ンシステムにおいては、現在 のポテ ンシャル か ら線形的に、将来に向けて線 を引 き、描 いた 予測 は、役 に立たない。情報化社会 である現在では、ほ とん ど の事業 は、 このオープ ンシステムにある、 と言 って よい。
イ ン ドの ミタル社 が、 ファン ド事業者 であ りなが ら、世界の鉄鋼事業の トッ プシェア‑ を握 ってい る、 とい う例 が、その一例 である。一時代前 の、拡大の 尺度 の環境 下で起 きた、多角化経営や コングロマ リッ トとは全 く違 った、オー プ ンシステ ムの中で、意図 した戦略的経済効果 によ り、動 いてい る。鉄鋼 とい う事業定義 による競争 ドメイ ンは、す でにオープ ンシステムのカオス状態 にあ る、 と言 って も過言 ではないであろ う。 日本 を代表す る鉄鋼事業者 の研究開発 によるノウハ ウの蓄積効果 は、 ファン ド事業者 に よる、規模 の経済効果や 、 グ ローバル に起 きてい る範囲の経済効果 に対 し、情報の価値 の優位性 によ り、競 争力 を堅持 してい る。
カオス状態 にある要因は、 「規模 の経 済効果」 「範 囲の経済効果」 「時間の経 済効果」「情報の同時性 と共有の経済効果」「共生の経済効果」の5軸の尺度 か ら観 ることに よって、事象 の起 こ してい る現象 を立体的 にプ ロッ トで き、 よ り 単純化 で きる。 単純化 で きれ ば、最終的に、イエスか ノーかを問 う、戦略行動 的意思決定 をサポー トす ることが可能 となる。
既知 の競争相手が見 える領域 にあるクロー ズ ドシステムか ら観 るの と、競争 相手が無制限にあ りうるオープ ンシステムか ら観 るの とでは、戦略性 が大 き く 変わ る。特 に、新規事業創 出に関わ るオープ ンシステムでは、新 しい ビジネス プ ラ ッ トフォームの出現が必須であ ることか ら、筆者 は、その戦略的扱 いにつ いてのい くつかの提示xx、を、お こなってきた。新事業創 出に よるバ リュー創 出 の図である。
新事業創 出によるバ リュー創 出が、事業継続 の必然であ り、経営戦略の根幹 であるとい う概念 は、2005年、
W.
キム とR.モボルニュ著作による、「ブルーオー シャン戦略」の主題 として も取 り上げ られ てい る。2)
研究開発 を戦略的 に扱 うには2000年代 に入 ってか らの研 究開発 プ ロセ スは、 クロー ズ ドシステムの 中だけ で遂行 され てきた課題 か ら、オープ ンシステムを前提 に した課題‑の取 り組み
‑ と、急速 にシフ トしてい る。
クローズ ドシステムでのテーマは、 コア‑技術 を中心に展 開 され 、 コア‑技 術 か らの派生分野‑の期待や 、競争優位 を高めるための深耕 、 コア‑技術 の改 善、代替技術‑の布石 、 といったテーマが中心であった。 このため、つい最近 まで、研 究開発 の成果 を、 クローズ ドシステムの中で、事業独 占す ることも可 能であった。
オープ ンシステムでのテーマは、一企業ではカバー しきれ ない研 究領域や 開 発領域 が含 まれ るため、複数企業 に よる共 同研 究や開発提携 に よる遂行が多 く なる。成果 の独 占は、難 しくなった。特許 を取得 して も、産業の クラス ター に またが るため、 クロス ライセ ンスや 、特許許諾 を して、権利 の共有 を しなけれ ば、市場構築 さえ も困難 な状態が増 えて きてい る。
まだ、製 品化 され る以前の、研 究開発プ ロセ スを遂行 してい る段階で、業界 標準化 を進 めるデ ファク トス タンダー ド戦略 を採 るケースが、非常に多 くなっ て きてい る。他社 を巻 き込むオープ ンシステム‑の研 究開発が多 くなれ ばな る ほ ど、経営戦略 にお ける戦略的意思決定は、重要な事項 になる。
しか し、 クローズ ドシステムに慣れ親 しんで しまってい る企業では、視野の 限界、働 きかけの限界、合理性の限界が、クロー ズ ドシステムの中だけにあ り、
オープ ンシステムでの競争優位 を想定 し市場創 出を思い描 くことは難 しく、研 究開発 のテーマ を、戦略的に意思決定す ることが困難である。
オープンシステムでの競争優位 を想定 し市場創 出を思い描 き、研 究開発のテー マ を戦略的に意思決定 した例 は、1970年代 、すでにあった。LPレコー ドを、
光デ ィスクに代 えよ うと思い描いた研究者達である。 当時の参入企業のメンバー は、研 究開発時点で、す でにLPレコー ド事業に関わ る企業は、一社 もなかっ た。代替技術 の分野では、 自社 の高収益部 門を否定 しなけれ ばな らない既存市 場や既存技術 に優位性 を持つ企業 よ り、新規参入企業の方が、有利 にな る。 ブ ラウン管事業 を持 たなか ったシャープの液晶事業の創 出は、 この代表的な例 で
国際経 営フォーラムNo.19
ある。
クロー ズ ドシステ ムで競争優位 を確 立 して しまってい る企業では、事業ポー トフォ リオによ り、新事業 を、現実の事業優位 を持つ軸の起点か ら軸 を伸ば し、
ポジシ ョンをマー キング して しま うことか ら、オープ ンシステム‑の移行 を難 しくしてい る。 オープ ンシステムでは、現状 の事業 ドメイ ンの定義 による市場 や技術 、サー ビス、販売方式か らでは、戦略的な対応 はで きない。現状の事業 ドメイ ン と同一軸上の尺度 で研 究開発 を思 い描 くと、改善的 レベルで終 わって しまい、戦略的な意思決定の対象 にな らな くなって しま う。
筆者 は、 コンサル タン ト時 に戦略的軸 を見 出す た め、H.ア ンゾフの製 品市 場マ トリックスを活用す る場合がある。 このマ トリックスは、非常に よく出来 てい る。既存製品 と既存市場は、内部環境 と外部環境 を明 白にす ることができ、
軸 の原点は、 自社 の コア一事業 を示す こ とがで きる。既存市場 の側面か らは、
同一製 品 ・技術 で新市場 を拡大でき、既存製 品の側面か らは、同一市場 におい て新製品 ・新技術分野を拡大できるとい う、シナジー領域 を2次元の軸でカバー す ることが可能である。
新製 品 と新市場 とが交差す る領域 は、多角化領域 と定義 で き、新 しい事業の 機能や能力が求め られていることを、2次元的な平面図上で示す ことがで きる。
新製 品を新技術 にお きか えてや る と、研 究開発の軸 を設 定す ることが可能 であ る。
新市場 、新技術 の先にある環境軸 を、オープ ンシステ ムの尺度 として設定 し てや る と、シナ ジー領域や 多角化領域 の先 にあるフロンテ ィア領域 での新事業 をイ メー ジす ることがで き、それ に向けての研 究開発 のテーマ、 ターゲ ッ トを 想定す ることがで きる。
オー プ ンシステ ムでの尺度 の作 り方 は、ll.ア ンゾフの製 品市場 マ トリック
さ」や 「競争優位」の判断基準は、異 なるか らである。戦略的尺度であれ ばあ る程、判断基準は、共通性 のある ものではな くな る。 また、尺度 は、評価 しう るもの となっていなけれ ばな らない為、難 しさは倍増す る。何 を もって判断す る基準 とす るか も、あ らか じめ決 めておかなけれ ばな らない。 この基準 を明確 に してお くと、研 究開発途 中のプ ロセスの評価 が可能 にな る。