1.はじめに
日本経団連の遠藤でございます。よろしく お願い申し上げます。私は,資本制度に関す る経済界の考え方というテーマでご報告しま すけれども,多分に私見が入るかと思います。
と言いますのも,日本経団連にとりまして,
当面の会社法改正の重要課題といいますのは,
たとえば,LLCの導入,企業再編の弾力化,
あるいは代表訴訟制度の見直しなどといった 点でありまして,残念ながら資本制度ではな いからでございます。ということで与えられ ましたテーマにつきまして十分な検討をして おりませんので,私見が多分に入ることをお 許し頂きたいと思います。
本題に入ります前に,最近の商法改正につ いてレビューをしておきたいと思います。最 近の商法改正をみますと,97 年から 2003 年 までの過去7年は,毎年のように改正がなさ れております。特に,過去3年,2001 年か ら3年におきましては,3年間で5本の改正 がなされておりまして,うち議員立法が3本 ということでございます。これらを見ますと,
企業のニーズを踏まえて迅速な改正がなされ ているということと,議員立法が増えてきて いるということが言えると思います。さらに は,企業の国際競争力の向上の観点からの会 社法の改正がなされてきているということで ございます。最近,会社法の役割について大
分認識が変わってきたということが言われて おりまして,東京大学神田秀樹先生も言われ ておりますが,かつては会社法というのは中 立的で「会社関係者の利害関係者の仕組みを 規律するもの」とされていたわけですけれど も,現在では会社法は企業の競争力を高める ために変えていかなければならないものであ るとされております。かつては利害関係の調 整という役割があり,その役割自体はまだ 残っているわけですけれども,会社法は企業 間競争ひいてはその国の競争力をサポートす るためのインフラであるという認識が深まっ てきたと言われます。今後の改正としては,
企業法制に関わるものとして,今の国会に,
破産法の改正案,電子公告法案,株券不発行 法案などが出ておりまして,成立が期待され ているところであります。さらに来年には,
会社法の現代化の法案が出てきて,引き続き 会社法の改正がなされていくという状況にあ ります。
2.法定準備金制度の改正
そこで本題に入りまして,まず法定準備金 制度の改正でございますけれども,改正の背 景といたしましては,時価発行が盛行して,
1970 年から 90 年の約 20 年の間に,かなり時 価発行がされたわけでございますが,その結 果資本準備金がかなり膨らんできておりまし た。しかしその使途が著しく制限されてきて いるということが背景にございます。さらに 利益準備金につきましては,かつては資本準
資本制度に関する経済界の考え方
遠藤博志
** 前日本経済団体連合会経済本部長,現財 務会計基準機構常務理事
備金というのはほとんどないと考えられてい たわけでございます。時価発行などほとんど なかったわけでありますから。従って,資本 準備金が時価発行の結果多額になっている会 社では,利益準備金はもう不要ではないかと いう議論が出てきたことが挙げられます。そ こで,それでは資本準備金,利益準備金をど うやって活用するかというニーズサイドの問 題を考えますと,株式持ち合いの解消である とか,ストック・オプション,株式交換のた めに自己株式を買い受ける,あるいは保有す るといったニーズが高まってきている。それ から一方で,資本準備金,利益準備金見合い の資産の効率性があげられない,または新た な投資機会がないというような場合について は株主に払い戻すのが合理的ではないのかと いった議論がなされてきました。こういった ことで改正がなされたということではないか と思います。
資料をご覧頂きたいと思いますが,資料の 15 ページの下の方に法定準備金減少議案の 付議状況というのを出しております。これは
「資料版商事法務」から引っ張ってきており ますが,2001 年 10 月の総会から 2002 年6月 総会までに,210 社,上場会社の1割が利用 している。2003 年6月総会では 91 社という ことで,合わせて上場会社のうちの 15 %が 利用している。直近時点までの状況は把握で きないわけですけれども,かなりの会社が利 用しているということは言えるだろうと思い ます。
3のところで減少の理由及び使途という資 料を提出してありますが,ご覧いただけます ように,①,②,③のところでは自己株式の 取得など今後の資本政策に備えるためといっ た理由が挙げられ,①,④,⑦をご覧いただ きますと,配当可能利益の充実を図るためと いったものが共通的に見られます。⑥,⑪の ところでは,利益準備金あるいは法定準備金 の柔軟な活用のためといった理由が挙げられ ています。
次に,4の積立超過額の減少方法でござい ますが,この資料は,2002 年6月総会で付 議した会社の分析でございますけれども,積 立超過額をどの程度減少させているかという ことです。まず,ほぼ全額減少させている会 社が 53 %あります。過半数減少させている 会社が 63 %ということで,超過額をかなり の会社が減少させているということです。次 に,どのような会社がどのような準備金を減 らしているかというのが¹から»まででござ いまして,¹の利益準備金のみ減少というの は新日本製鐵,東芝等々の会社があります。
ºの資本準備金のみ減少が 54 社,»の両方 減少させた会社が 95 社です。両方の準備金 を減少させた会社の特徴をみますと,ほとん どの会社が利益準備金全額を減少,残りを資 本準備金にしているというようなことでござ います。会社名をご覧になりますと,欠損に あえぐような会社ばかりではなく,優良な会 社もこのように活用しているということが見 て取れるかと思います。
3.会社法の現代化と資本制度の見直し
次が,レジュメⅡ,会社法の現代化と資本 制度の見直しでございます。
〈最低資本金制度の見直し〉
1.の最低資本制度の見直しにつきまして は,安藤先生からもご指摘がありましたよう に,国際的な動向を見ると,法定資本の制度 を廃止する方向にあるのではないかというふ うに思われます。最低資本金制度は債権者保 護のためというわけですけれども,そうしま すと資本の額というのは事業リスクに見合う 大きさであるべきだということになります。
しかしながら,適正な金額を法定するという ことは事実上困難ということで,一律最低限 の規制にとどまっているわけでございます。
そうするとこれまた,弊害も生じるわけでご ざいまして,会社の新設,ベンチャーの起業 の場合に最低資本金は弊害になるということ
がいわれておりまして,その観点からすると,
会社設立時の規制は廃止すべきということに なるわけです。経済産業省などが動いて最低 資本金規制特例制度というのを設けたわけで すが,平成 15 年2月から 16 年の3月の約1 年の間に 10,133 社がこの制度を利用して設立 され,うち資本金1円の会社が 437 社という ことであります。
〈資本金制度と準備金制度の見直し〉
次に,2.の資本金制度と準備金制度でご ざいますが,今申し上げましたように,資本 金制度というのが債権者保護になっていない ということだとすると,バッファーとして必 要とされている法定準備金の意味もわからな くなります。よって,資本金の規制をなくす と同時に,法定準備金の積立規制も撤廃すべ きだということになります。論理的にはそう いうことになるだろうと思います。結論とし て,積立は企業の任意にせざるをえないので はないかということです。任意ではあります が,資本の大きさ,準備金の大きさは各企業 の判断に委ねられ,その判断は市場で評価さ れるということだろうと思います。つまり,
自己資本比率,ROEの大きさ,あるいは自 己資本の額とその構成というものが市場で,
あるいは債権者によって評価されるというこ とになろうかと思います。
〈新しい債権者保護の考え方〉
次に,3.の新しい債権者保護の考えでい くつかの措置を列挙してありますが,まず従 来の資本と準備金による配当規制というもの が今申し上げたように成り立たないというこ とです。よってこれを剰余金分配規制に代え てはどうかという提案がなされているわけで ございます。つまり,剰余金の分配後に一定 の純資産を維持すべきだということです。そ の考え方としては,一定額の純資産を持つべ きだとか,自己資本比率を一定率以上に維持 すべきだとか,資産負債比率を一定以上にす べきとかいうことになろうかと思いますが,
これも最低資本金規制と同じで業種業態に
よって望ましい水準は異なってくるわけであ りまして,これも資本金と同じように最低限 を画する基準にとどまらざるを得ないという ことになろうかと思います。それではどうす るかということで,ここでは¹から½までの 対応策を列挙してございますけれども,いず れか一つというわけにはいかず,各種の措置 を組み合せて全体として実効のある債権者保 護を図っていくということにせざるを得ない と思われます。
¹が情報開示でございますけれども,債権 者の自己責任を求めるという観点からは,企 業の情報開示が前提となるわけでございまし て,平成 13 年商法また商法特例法の改正に よって計算書類の電磁的方法による公示が認 められておりまして,インターネットホーム ページによる公表が広まれば取引債権者に とって非常にアクセスしやすくなろうかと思 います。中小企業の開示については会社法現 代化の検討の中で提案されている「会計参与」
制度などの適正担保措置の導入,あるいは企 業会計審議会で審議中の保証業務の導入,こ れを税理士さんがやるのか誰がやるのかとい う問題はありますが,そういうことが付随的 に必要になってくるだろうと思います。
ºが会社と債権者の間の契約で担保すると いう考え方です。それから»の不法行為債権 については保険でカバーしていくしかないだ ろうと思われます。それから¼のコーポレー ト・ガバナンスの強化でございますが,経営 不振に陥って,債務超過に陥っていくという ような状況のときに,これ以上悪化させない という何らかのチェックが必要になるわけで す。社内体制のチェックも必要でございます。
危機の早期発見,その管理といった意味での リスクマネジメントをしっかりやる必要がご ざいますし,さらに広い意味での内部統制シ ステムの整備が必要になるだろうと思います。
監査法人もリスクアプローチという観点から しっかり会社を見ていく必要があるだろうと 思います。それから¹から¼までのところは,
もっぱら公開会社で対応可能な方策であろう かと思いますけれども,問題は圧倒的多数の 非公開会社をどうするかということで,私自 身まだよくわかりませんけれども,経営危機 時の取締役の責任といったあたりを,さらに 実態分析をふまえて,きちんと考えていく必 要があるのではないかと考えております。
〈資本準備金と利益準備金〉
次に4.の資本準備金と利益準備金でござ いますが,準備金制度は特になくす必要はな いのですけれども,残高規制はなくしたほう がよいのではないかと思います。会社法の現 代化の提案の中に,科目の区別は廃止して一 本化してはどうかという提案がありますが,
会計上は資本取引と損益取引の区別は必要だ ろうと考えております。
4.資本の会計
レジュメの最後は,Ⅲの資本の会計です。
ここで個別具体的な議論には入らずに,基本 的な考え方だけ申し上げたいと思います。
〈概念フレームワークと会計基準〉
概念フレームワークと会計基準と書いてあ りますが,1.の概念フレームワークにつき ましては,私の理解では,頭の中でできるだ け整合的な会計の考え方を整理しようという ものだろうと思います。一方で,個別の会計 基準というのは市場の中で合理的なものとし て設定されたものというふうに理解されるわ けです。そうしますと,両者は必ずうまく一 致するとは限らないということでございまし て,概念フレームワークによって会計基準を むりやり作るとかそれに合わせるといったこ とは問題でございまして,そうすると実務上 ワークする基準にはなり得なくなってしまう という問題が生じるからであります。一例と して,資産と負債を定義して,その残差が資 本だと概念上整理して,これですべての会計 を律することができるか,ストック・オプ ションや少数株主持分の問題を解決できるか,
といった疑問がでてきます。
〈トライアングル体制と会計基準〉
次の2.トライアングル体制の見直しにつ いては,公開会社に適用する会計基準と非公 開の中小会社に適用する会計基準というもの は分けざるを得ないのではないかという問題 意識で書いてございます。国際的な投資資金 が入ってくる資本市場に公開している会社で は国際的な会計基準とequivalentな日本の会 計基準で会計処理をし,それについては,商 法,税法が影響しないような制度を作るとい うことが必要だろうと思います。非公開の中 小会社につきましては,会計基準について一 部簡便法を適用するとか,あるいは税法基準 を継続適用するといったことが考えられるの ではないかと思います。ヨーロッパで 2005 年から連結ベースでIASが導入されますが,
ドイツ,フランスなどで単体の決算はどうす るのか,中小会社にどういう基準を適用する のかといった問題意識を持っておりまして調 べに行ったことがありますけれども,単体や 中小会社については当面は商法基準あるいは 税法基準を適用し,中長期的にはIASの簡略 版を適用するのだというような説明を聞いた ところでございます。日本も中小会社につい てはそのような方向になるのかなという印象 を持っております。それから,国際会計基準 委員会IASBでは,中小会社の会計基準の検 討をすべきだという意見をふまえて議論する ことになるだろうとみられます。わが国でも,
企業会計審議会あるいは日本の会計基準委員 会ASBJで,この問題を審議すべきだろうと 思っております。以上でご報告を終えます。
ご清聴有り難うございました。
Ⅰ.法定準備金制度の改正
1.2001 年商法改正
¸ 利益準備金の積立強制
資本準備金の額と合わせて資本の4 分の1までに緩和
¹ 法定準備金の取り崩しと使途の拡大 資本準備金と利益準備金の合計額が 資本の4分の1を超える部分の取り 崩し可能
º 減少手続き
株主総会の普通決議
債権者保護手続き(資本の減少と同 じ→電子公告による場合,個別催告 不要)
2.法定準備金減少議案の付議状況
(出典:「資料版/商事法務」) 2002 年6月総会 176 社
(上場会社 2,047 社)
5月総会まで 34 社 2003 年6月総会 91 社
(上場会社 2,044 社)
3.減少の理由および使途
(2002 年6月総会付議,出典:同上)
自己株式の取得,株主への返還,翌期 以降の配当財源など
①「配当可能利益の充実を図るとともに,
自己株式取得など今後の資本政策に備え るため」等とした事例 33 社
②「自己株式取得に充当するため」等とし
た事例 20 社
③「自己株式取得など今後の資本政策に備 えるため」等とした事例 20 社
④「配当可能利益の充実を図るため」等と
した事例 11 社
⑤「財務戦略上の弾力性を確保するため」
等とした事例 8社
⑥「利益準備金の柔軟な活用を図るため」等 7社
⑦「配当可能利益の充実ならびに今後の資本 政策に備えるため」等とした事例 5社
⑧「自己株式の取得およびその他剰余金に振 り替えるため」等とした事例 5社
⑨「自己株式の取得に備えるとともに,次期 以降の配当可能利益の充実を図るため」等
とした事例 5社
⑩「今後の資本政策に備えるため」等とした
事例 4社
⑪「法定準備金(または資本準備金および利 益準備金)の柔軟な活用を図るため」等と
した事例 4社
4.積立超過額の減少方法
¸ 積立超過額をどの程度減少させている か。
ほぼ全額(9割〜全額)減少 53 %(176 社 中 94 社)
過半数〃 63 %(111 社)
¹ 利益準備金のみ減少 27 社
新日鉄,東芝,大日本インキ,三井造船 など
º 資本準備金のみ減少 54 社
日本ユニパック・ホールディング,中外 製薬,富士通コンポーネット
東京三菱ファイナンシャル・グループ,
全日空,NTTドコモなど
» 両準備金を減少させた会社 95 社 ほとんどの会社(2−3社例外)は,利 益準備金全額を減少
大成建設,東洋紡績,三菱マテリアル,
東京急行など
《レジュメ》
Ⅱ.会社法の現代化と資本制度の見直し
1.最低資本金制度の見直し…国際的動向
↓
廃止(会社設立時)…起業の容易化
(「最低資本金規制特例」) 2.資本金制度と準備金制度
資本金の債権者保護にとっての意義不明→
バッファーとしての準備金の積立規制撤廃 3.新しい債権者保護の考え
¸ 剰余金分配規制の導入←資本+準備金
↓ による配当規 制
一定の純資産の維持
¹ 情報開示→電子公告制度によるホーム ページでの計算書類の公表
…適正担保制度の導入 º 会社と債権者の間の契約(新しい融資
慣行,財務制限条項など)
» 不法行為債権
―保険(PL保険など)で対応
¼ コーポレート・ガバナンスの強化(内 部統制システム,会計監査)
½ 経営危機時の取締役の責任(詐害行為 取消権,第三者責任)
―非公開会社の問題・要検討 4.資本準備金と利益準備金
¸ 両準備金の計上は,上記2.の考え方 により任意とすべき。
¹ 科目の区別を廃止して一本化すること には反対。
―会計上は,その由来が異なるもの であり区別して表示すべき。
Ⅲ.資本の会計
1.概念フレームワークと会計基準
¸ 実務上ワークする会計基準が必要
¹ 一つの理論(資産−負債=資本)で,
全ての会計を律し得るか。
例 ストック・オプション,少数株主 持分
2.トライアングル体制の見直し
¸ 公開会社・大会社のための会計基準
(連結・個別)
→商法配当規制
(例)株式等評価差額金
→税法申告調整
¹ その他の会社
中小企業のための会計基準(簡便法,
税法基準)