九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
自然電位による地下構造および地熱流体挙動のモデ リングに関する研究
安川, 香澄
https://doi.org/10.11501/3166968
出版情報:Kyushu University, 1999, 博士(工学), 論文博士 バージョン:
権利関係:
第5市地熱地'iliにおける流体流動モニタリングへの適用例
第5章 地熱地帯における流体流動モニタリングへの適用例 (北海道濁川地域)
前章までに述べたように、 地表の自然電位(SP)が、 地下の流体流動と結び付いているこ とはよく知られている。 自然電位法はこれまで、 資源探査等の目的で、 主に開発前の自然 状態のフィールドに対して用いられてきた。 しかし、 地熱流体の生産に伴って地下の流動 場が変化する場合には、 地表のSPも変化するので、 地表のSPを連続もしくは繰り返し観測 することによって地下の流体流動の変化を捉えることができる。 この方法を地下流体の流 動のモニタリングに利用することも原理的には可能で、ある。
この手法を検証する目的で、 本研究では北海道森町濁川地域の森地熱発電所の定期点検 前後の時期を利用し、 1996 ---1998年の聞に濁川盆地内のSP分布を繰り返し測定した。 この 地域については、 森発電所の操業開始前の1981年、 開始後の1984年にもSPの観測が行われ、
流体生産開始に伴うSP変化が検出されている(菊地・杉原, 1986;石戸ほか, 1992)。 また数 値モデルを用いて、 濁川盆地内の流体流動とそれに伴うSP分布の変化をシミュレーション 計算し、 どのような物性変化がSP分布の変化をもたらすかを調べた。
なお、 地質調査所と日本重化学工業(株)とは平成4年から共同研究「北海道茅部郡森地 域地熱地域における地熱流体の生産 ・ 還元に伴う貯留層物理挙動の研究」を実施しており、
測定はこの一環として行った。
5.1.濁川盆地について
濁川盆地は、 北海道南西部、 渡島半島の森地熱地域の中心部に位置する(図5-1)0 この地 域では、 1972年より日本重化学工業(株)および道南地熱エネルギー(株)による地熱開発が 行われ、 1982年より容量50MWの森地熱発電所(北海道電力)が操業している。 それに伴い
さまざまな調査が行われている。
濁川盆地は、 直径約3krnの小型のクレイターレイク型カルデラで形成されると考えられ、
- 68 -
〆
130E 濁J 11
NIGORIKAWA
。
140E
第5f;!.地熱地帯における流体流動モニタリングへの適川例
45N
35N
Scale in kms
500 1000
150E
図5-1. 濁川地熱地域の位置。 ドットは主な地熱地域。
fig.5-1 Location of the Nigorikawa geothermal field. Circles indicate main geothermal fields in Japan.
(安藤, 1983) 、付近には新第三系及び第四系の火山岩類が広く分布している(松下ほか, 1973)0
ボーリング結果より、 地下カルデラ壁の位置はカルデラ内堆積物とカルデラ外の新第三系 或いは先第三系との境界と推定されている。 黒墨・ 土井(1994)によれば、 カルデラ壁では 透水性が高く、 その傾斜は海抜-lkm以深で、80度以上と高くなっている。 三次元重力解析 からもカルデラの形状が確認されており、 カルデラ内の貫入岩は海抜-2000--- -100mに 分 布するという結果が得られている(金藤ほか, 1993)0 濁川盆地内に賦存する地熱貯留層は熱 水卓越型であり、 盆地内の天然の噴気孔はいずれも噴気量が少ないので 、 濁川地域からの 放熱は熱伝導或いは温泉湧出が中心と考えられる(浦上・ 西田, 1977)0 ボーリング孔がカル デラ内部から外部の第三系に入った直後から逸泥があること(安藤, 1983)、 関口性鉱物脈が
-69 -
抗5巾. 地熱地.;n=における流体流動モニタリングへのì$i川例
カルデラ壁周辺 部およびカルデラ外部の特定の地層中に見られるこ と(赤津ほか, 1993)、 温 泉の泉源がカルデラの北半分に分布し、 カルデラ壁に沿って温泉の自然湧水が分布するこ
と(浦上・ 西田, 1977) などから 、 カルデラ内の熱水活動 は北半分の壁面に発達していると 推定されている。
これらの地質データや坑井内データ等に基づいてSakagawaet al. (1994)により地下流体挙 動の数値モデ ル が作成されているほか、 電気探査法により盆地周辺の比抵抗構造も明らか にされている(茂木ほか, 1994、 梶原ほか, 1995)0
5.2. 測定及びその結果 5.2.1. 測定について
1996---1998年の測定 は、 坑井からの生産 ・ 還元停止時の圧力回復(buil d up 、 図中 b. up)、
再開後の圧力減衰(draw down、 図中d. d.)によるSP変化の検出を目的とし、 短期間に測定 を繰り返し行った。 各年の測定 時期については、 表5-1に示されている。 1996年には、 図5 2の北ループ 、 南西ループ 、 南東ループについて測定を行った。 1997年及び1998年 は併合誤 差を減少させるためにループ長を短縮し、 A,B,C,Dの4ループについて測定を行った。 そ の結果、 1996年には最大で、33mVあった閉合誤差が、 1997年には2臼nV と減少したが(表5-1)、
いずれの場合も誤差を各測点に分散させると、 補正値は最大で、3mV程度で、あった。 測点間 隔は100mで、ある。
なおSPの時間変動のレベルを確認するため、 盆地北部の観測井 kx-1の南北の2点を選び、
1996年の定検 時期を含む2カ月間にわたりSPの連続観測を行った。 2点 は共にkx-1からの距 離が13mで、坑井内水位変化の影響がほぼ相殺されるため、 定検の影響は小さ いと考えられ る。 電極問の距離は約26mで、標高差は無いが、 北側 ほど山地からの流体流入量が多く降雨 の影響 が大きいと予想される。 図5-3に、 南側の電極を基準としたSP変化 と盆地内の降水量 記録を示す。 全体の変動幅は約15mVで、あり、 降雨後に上昇する傾向が見られる。 また降雨 の影響のな い時でも、 最大で、6mV程度の日変化 があり、 これは1日周期 なので潮汐ではなく
-70 -
品川"..1血熱i也':i��におけるiiL外流動モニタリングへのj古川IYlj
生産・還元基地 。 0.5 1km
図5・2. 1996----1998年濁川SP調査測点図 Fig.5-2 1996・1998 SP survey points in Nigorikawa.
負1�5";'(地熱J山'11;におけるinL体流動モニタリングへのi白川例
� 70 ε
ζ
60c ぬ
� 50
〉ε40
、ー,〆
己.ω30
20 10
0
96/6/16 96/6/26 96/7/06 96/7/16 96/7/26 date
図5-3. 濁川盆地北部の2定点におけるSP変化.
96/8/05
Fig. 5-3 Transition of SP at two fixed positions in the north pa吋of the Nigorikawa basin.
表5・1. 各測定時の閉合誤差.
Table 5・1 Loop errors.
production year loop 1 week
Q_ef9I� b. u p 1996 North ー18.0
S-E 2.0
S-w 2.5 1997 A ー14.1
B 5.0
C 20.0
D 4.3
1998 A 13.1
B -21.9
C -19.8
D -2.9
」一一
shut in production
1 week 1 month 1 week 1 month after b.up after b.up after d.d. after d.d.
-29.3 -1.7 -31.8 -33.2 4.4 24.6
13.6 8.8 5.1 3.3
ー0.3 -8.7 1.4 ー18.7
14.5 4.8 4.6 2.9
-2.2 4.0 -2.6 -1.8
-12.3 0.3
-2.7 -7.6
25.1 3.7
-5.2 -8.8
ー72 -
96/8/15
第5市.地熱地'a�:における流体流動モニタリングへの迫川例
地球の外部磁場変動の影響と考えられる。 従って晴天~小雨の日中に行われた移動測定に おける2i�1J点聞の補正値が3mVという結果は適当と考えられる。
1996年の測定では、盆地内のAOを電位の基準点とした。 この地点は居住地区から離れて おり人工ノイズの影響が小さいと考えられたが、還元域に比較的近く定検の影響を受ける 可能性があったため、1997年以降は盆地外に基準点を置く目的で北東の道沿いに1.5km分の 測線を設けた。 この測線Line1は変質帯を通り、SPの位置的変化が大きいが、運関前の1981 年を含め各年とも比較的似たSP分布を示し、時間変化は小さい。 Line1上のD3と04の中間 点を基準点とした場合の東西測線での測定結果を図5-4に示す。 図5-4(a)のSP地表分布を見 ると、Line1のD2---D5では各年とも類似した分布を示し、特に1997年と1998年は非常に似て いる。 また図の中央部のA6---S5にかけては各年のばらつきが大きいが、1997年と1998年は 比較的似ている。 一方、A6より西側では各国の相違が顕著で、、 その差は最大で8伽lVにも達 する。 このように盆地内のH8---A1ではSPの変化が顕著で、測定誤差及び日変動に比して十 分大きい信号が得られた。 また図5-4(b)によると、盆地中央から南西に位置するA9、G8、
H8、 B5、B25等の電位変化は、1997年の圧力回復1週間後(1wk d.d.) を頂点とする共通の 傾向を持つが、生産・ 還元域に近いAO、A5、F6、E7では、各々変化の仕方が異なっている。
盆地周縁部のS5及び盆地外のD5は比較的安定しており、盆地内に比べて変動が小さい。
1996年にはLine1での測定を行っていないが、S1 --S5の部分のSP分布が1997---1998年と類 似しているので、 この部分について1997---1998年との差が最小となるよう、最小二乗法に
より電位のO点を定めた。 また1984年のLine1のSP分布は、道路工事等により他の年と大幅 に異なるので、S1--S5及び、Line1の部分での最小二乗法により、他の年との差が小さくなる ようにO点を定めた。
5.2.2. 測定結果
図5-5に、ENE-WSW方向の直線A-A'から500m以内の範囲(図5-2の点線に挟まれた範囲) のSPデータをA-A'_tに投影した図を示す。 横軸は測点H2からの距離 ( distance,以下d) とし、
勺可】勺/
百'�51';�.J也然j也引における減H-:iÆc11)jモニタリングへのj!&川例
(E)CO一定〉ω一ω
105 115
100 110
95 90 85 80 75 70 175
75 50 125 150
100
(a)
(〉E)止の
25
1981 2 1997 1wk b.up 1997 1 mon d.d 1998 1 wk b.up 1981 1
1997 prod.
1997 1wk d.d 1998 prod.
。 -25 ー50
65 013 08
84 03 A6 A1
point 10 G12
G8 G6
-75 H8 160
100
60
20 40 140 120
80
(〉ε)止ω
、、,,,J仏U'''目、、
1998 1wk b.up 1998
prod.
1997 1 mon d.d 1997
1wk d.d 1997
1wk b.up 1997
prod.
1984 1981
2 0
1981
draw down.
図5-4. Line1上の03-04の中間点を基準とした場合のSP測定値. (a)地表分布. (b)時間変化.
Fig.5・4 Observed SP profiles with O-potential point at the middle of 03 and 04 on Line1.
(a) spatial distribution. (b) time transition.
prod: during production & injection, b. up: build up, d.d.
-74-
第5';'(.地熱地':i�;における流体ifiE3ìリJモニタリングへの適川例
d==O----2.4kmは盆地内、 それより東(右)側は、 測点S1 --S5及び盆地外のLine1に相当する。
図5-5によれば、 各年内のSPの変化は概して小さく、 定検前後の変化には年によって逆の傾 向も見られ、 短期の圧力変動を反映した結果とは考えにくい。 例えばd= O----O.5kmの生産 域付近について生産時(0)と圧力回復1週間後(ム)とを比較してみると、 1996年には概し てムの方がSPが高い。 これは、 生産時には地表水の流入によって地表付近に強い負の電流 源が生じるが、 生産停止時には流入が減り負の電流源が小さくなり、 電位が上昇すると解 釈することができる。 しかし1997年にはOとムはほぼ同じレベルで、 1998年にはOの方が 概して高くなっており、 1996年と同様の解釈を行うことができない。 この部分を含め、 同 じ年内のSP変化は高々2伽lV程度で、あり、 閉合誤差が最大で、33mVで、あることを考えると、
あまり顕著な変化とは言えない。 一方、 経年変化は、 盆地中央から西にかけては非常に顕 著で、 中央部分で'120mV、 西側では15白nVもの差が見られる。
各年の特徴を見ると、 まず1981年の自然状態では、 d= 0および2.3 kmの盆地両端とd=
1.1 kmの盆地中央で、SPが低く、 その聞の2箇所で高くなっている。 これは、 透水性が高いカ ルデラ壁の部分を流体が上昇して正の電流源を発生させるため、 透水性が低いカルデラ中 央部分を挟んだ両側で正のSP異常が生じているものと考えられる。 次に、 生産開始2年後 の1984年には盆地内の電位が全体に上昇している。 1984年は他の年と基準点のとり方が異 なるため、 盆地周縁部の電位が相対的に下がったと解釈することもできるが、 いずれにせ よ盆地内と周縁部との電位差が増大している。 石戸ほか(1997)によれば、 1984年に盆地周 縁部の負異常が大きいのは、 生産開始に伴って盆地周縁部からの地表水の流入が増加した ためと解釈されている。 1996年は、 Line1から盆地中央部にかけては自然状態と大きな違い は無いが、 盆地西部の正異常が見られず、 中央部から西部にかけてSPが単調減少している。
一方1997年と1998年には、 盆地全体において自然状態よりやや電位が高く、 盆地中央部の 低異常があまり顕著でない。
-75 -
抗)1';1(.地熱j也引におけるiAd本iAdi))モニタリングへの辿111例
→A'
(NE)
←A
(SW) 150
SP on line AA' (1981-1998)
A '
入場 ・8uav 0
合
ー ト
久
〉ホ 〈緩冊以V 八智也事 oh笠 γ × +
×
〈- a +
添↓《蛍・
a x k Q 凸 ×
一 一z 一一手一 一一一 一�一 一
ご � 一三一一て正ー --==-
一三ξ子
、-:=.士一一 一-�一一一一ー一 一一一一一一一一一ーー一一一一一-一一一一一一一一一一 =吾::-- ーー�ー「ー_...z--一 � 一一一 一 ー一
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× ↓ 08 0 A
× A O
+Aω・
。
竃 1��誌 、、
.九、
×
. 、
× × A
ー 事
。
〉 初o
勺「u(E)cozmω〉ω一ωベ>E)止の
90 60 30
。
-90 -120 -60
-150 ム
3.5 3.0
2.5 1.5 2.0
distance (km) 0.5 1.0
0.0 -180
• 1 mon d.d
・lmon d.d -elevation (m)
。1wk d.d LEGEND
x1981 1 +1981 2 1984
o
product.6.
1 wk b.upÂ
1 mon b.upo
product. ム1wk b.upÂ
1 mon b.upo
product.ð.
1 wk b.up1980s 1996 1997 1998
直線A-A'上に投影したSP分布.
SP profiles projected on LineA-A'
ー76 -
図5・5.
Fig. 5-5
第5I�.地熱地';i)=における流休流動モニタリングへの迎川例
5.3.数値シミュレーション
数値シミュレータPTSPを用いて、 物性又は流動変化による濁川盆地内のSP分布の変化を 調べた。 まず濁川盆地の貯留層の自然状態を再現するシミュレーションを行った。 梶原ほ か(1995)による比抵抗分布図では、 ほぼNNW-SSE方向のリニアメントが認められるので、
それに直行しカルデラを通る二次元断面(図5-3のA-A')を選ぴ、 モデリングを行った。 系が 冷たい初期状態からシミュレーションを開始し、 モデル底部に与えた高温の流体源により 熱水対流系が生じた準定常状態(わずかな温度変化は見られるが流速が一定値に達した状 態)を自然状態とみなした。 その状態での流動電位により発生するSPを計算して1981年の 測定値と比較し、 よい一致が得られるまでモデルを改良して、 自然状態を表す物理構造モ デルを得た。
次に、 この自然状態モデルに生産・ 還元を表わす流体源を付加し、 生産 ・ 還元開始後の 1984年、 1996 ----1998年に観測されたSP分布を再現する計算を試みた。 流体源の付加のみで 再現できない場合には物性分布の変化を仮定してシミュレーションを行い、 どのような物 性変化がSP分布の変化をもたらしているかを推定した。
5.3.1. 自然状態のモデリング
1981年の自然状態におけるA-A'のSP分布を再現する準三次元数値モデリングを試みた。
準三次元モデリングとは、 構造モデルは二次元だが、 二次元流動の生じている部分の奥行 き幅を考慮して、 三次元的にSP分布を計算する方法であり、 純粋な二次元モデルに比べて、
流量及びSPの絶対値を定量的に扱うことができる。 まず二次元断面の選び方の妥当性を確 認した。 5.2.2節に述べた通り、 森発電所運開以前の1981年(石戸・杉原, 1982) に測定され たSPデータを直線A-A'上に投影したところ、 盆地中央でSPが低く、 その両側に正のピーク があり、 さらに盆地縁で負のピークを持つパターンが見られた。 図5-6に示すように、 A-A' を南北に各々250m平行移動させた直線上でも同様なパターンが見られたが、 300m以上平行 移動させるとパターンの乱れが生じた。 従って、 二次元断面の選び方は適当であり、 この
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第5î江.地熱地,;;�;における流体流動モニタリングへのj直川例
→A' (NE)
←A (SW)
由国 ....L I
ー-""""ョ一 ー =・圃一 一ー- ー『ユ ーよ』ー = -::;,ー一一一= 一ー・ー-・=-ー-ーーー -..・・-ーーー- ーー..:!ー 畳E二三一一白石一 一--��宅主�� �長吾, o==I'-::l SP 150
(mV)
250 m south of Line A-A'
x SP - elevation elev. 100
(m)
250 m north of Line A-A' 口SP � elevation
×
口 口 泊
早 口〉:こ闇市
×決日 民国 マ ミ u 智 ^
xヨ dXX X 民 ミ ハ p
50
。
口
× 口
日υ
Vろく〉qi
-「^ ^X × 且 」
-5 0
口
2.4 2.2 2.0 1.8 1.6 0.8 1.0 1 .2 1.4
distance (km) 0.4 0.6
0.2 0.0 -1 00
-0.2
図5-6. 1981年における直線A-A'に平行で幅100mの直線上のSP分布.
Fig.5-6 SP profile in 1981 projected on lines parallel to LineA-A'. (width: 100 m.)
二次元構造は南北;こ500----600m程度の幅を持つと考えられる。 以上のことから、 準三次元 モデルの奥行き幅を600mと仮定してモデル計算を行った。
二次元 浸透率分布及び流体源についてはSakagawa et al. (1994) の三次元モデルを参照し、
高浸透率部分が深部から浅部まで 化によって西側の高浸透率部分が分断されるのを避け、
繋がるようにモデルを改良した。 地表では圧力一定、 側面と底面は不透水とし、 最下層の この二次元モデルは奥行き 高浸透率グリッドに、 2900Cの流体源を1.8kg/sの割合で、与えた。
方向の流動が無いため、 Sakagawaet al. (1994)の三次元モデル に比べ流体源の値は遥かに小 高温の流体源を与えた10個のグリッドでは2900C、 それより1.5km外 さい。 底面の温度は、
側では1500Cで一定とした。 上面は200Cで温度・圧力一定とし、 側面は不透水とした。 グリ ツドサイズは幅100mX高さ200mで、あり、 地表の標高差は100m弱で、グリッドサイズ未満な のでモデル上面は平らとしたが、 標高の高い部分については地表の圧力を高く設定し、 地
ー78 -
第51';!.地熱地{iYにおける流体流動モニタリングへの適III例
形を考慮した流動系の再現を試みた。
カップリング係数は、 浸透率と比抵抗との双方に依存性をもつが、 その他の岩石特性、
例えば割れ目の捻り度(tortuosity)等の測定困難な物性にも依存し(Ishido, 1989)、 厳密な関 数として与えるのは難しい。 ここでは、 Ahmad(1964) から導かれるように、 同種の岩石で はカップリング係数は浸透率に対しでほぼ逆比例の関係を持つという実験結果に基づき (4.2.4節参照) 、 カップリング係数を浸透率に対応して分布させた。
最適モデルについて得られた浸透率との対応を、 表5-2に示す。 なおカップリング係数は ü---3000C程度ではほぼ線形な温度依存性が確認されているので(Ishido and Mizutani, 1981,
Morisson et al., 1978)、 モデルに与えるカップリング係数は200Cにおける値とし、 温度依存 性を考慮して計算している。
比抵抗分布については、 梶原ほか(1995) の三次元モデルを参照した。 このモデルでは、
j支部の比抵抗は全て3D-mで、均質だが、 この値をそのまま用いて計算すると、 測定データと
一致するSP分布が得られなかった。 深音防、ら上昇する高温流体の大部分は東側の高浸透率
部から地表に到達するので、 SPの計算結果は東側でのみ高いピークを持つ。 しかし図5-5の 実測データでは、 低浸透率部の両側にほぼ同じ高さのピークが見られる。 西側の浸透率を 増大させるなどの調整を行っても、 大きな効果は得られなかった。 このため、 最近の比抵 抗解析の結果を踏まえ(梶原ほか, 1996)、 東側の地表付近の比抵抗を1D-mに下げたところ、
東西のピークの高さがほぼ揃い、 実測値に近いSP分布が得られた。 また盆地周縁部にSPの
表5・2. 図5・14.の最終モデルに用いられた水理物性値.
Table 5-2 Hydrological prope吋ies for the final model shown in Fig. 5イ4.
rock type 2 3 4 5 6
hydrological
permeability 0.1 1.0 10.0 100.0 500.0 4000.0
(rnillidarcy) crosscoupling
conducti vity 1.5E+08 6.0E+07 3.0E+07 1.5E+07 6.0E+06 3.0E+06
�mA
. sec/m3)-79 -
�5ì;-t.地熱地,;;�;における流体流動モニタリングへの迫川例
ASL ←A →A'
(km) (SW) (NE)
+0.1 ー0.1 -0.3 -0.5 -0.7 ー0.9
-1.1 -1.3 ー1.5
-2.0
ー2.5
-3.0
-1.5 ー1.0 ー0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0
distance (km)
LEGEND permeability (md)
仁コ E3 区三J Eコ 瞳薗
0.1 10 100 500 4000
図5-7. Sakagawa et al. (1994)を参考にした浸透率モデル.白線は地質境界.
Fig.5-7 Permeability model based on Sakagawa et aI. (1994). White lines are geological boundaries.
低異常が見られるのは、 ここに下降流が発生しているためと考えられている(石戸ほか,
1997)ので、 これを再現するため、 盆地周縁部の地表付近の浸透率を高く設定した。
このようにして得られた最適モデルにおける比抵抗分布と浸透率分布を、 図5-7と図5-8 に、 またその時のSP分布を図5-9に示す。 d二2.4km以東のLine1に相当する部分は変質帯の
ためぱらつきが大きく、 必ずしも計算値が実測値と一致していないが、 計算値が実測値よ りも概して低いのは、 地形の影響によるもの(4.1節参照)と考えられる。 Line1は谷沿いの 道に位置し、 実際の標高は盆地内より低い(図5-5参照)が、 モデルでは地表を平らとして
-80 -
第5�;-t地熱地';i�:におけるi主体流動モニタリングへの迎川例
SPを計算しているためである。 なお盆地の北東側は山岳地であり慨して標高が高く、 標高 の低いLine1は例外的であるため、 二次元流動モデルでは山岳地形の影響を再現すぺく、 盆 地北東側の地表の圧力を高く設定している。
刈5-10に、 このモデルによって再現された自然状態における(a)鉛直下向きの流速v_と、(b)
流動によって生じる電流源の分布図を示す。 図5-10(a)で、 白色は上向き、 黒色は下向きの 流動を表している。 深部から上昇した流体が二股に分かれて上昇する一方、 カルデラ中央
ASL ←A
(km) (SW)
+0.1 -0.1 -0.3 -0.5 ー0.7 ー0.9 -1.1 -1.3 -1.5
-2.0
-2.5
国3.0
-1.5 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5
distance (km)
LEGEND
口 口 口
155 70 32
図5-8. 比抵抗モデル Fig.5-8 Resistivity model.
-81 -
2.0
園
15
→A'
(NE)
2.5 3.0
resistivity (n -m)
回
7.0 3.0
100 SP
(mV) 50
。
- 5 0
-1 00
-1 50
←A (SW)
-0.5 0.0
第5i;!.地熱地';'fにおける流体流動モニタリングへの適用例
一→S山U
0.5 1.0 1 .5 2.0 2.5
distance (km) 図5-9. 自然状態モデルのSP計算値と測定値.
→A' (NE) SP on Iin1e AA' (1981)
3.0 3.5
Fig. 5-9 Obs erved and calculated SP profiles for natural state.
部は地表水の流入域となっている。 d= 0.0及び2.5km付近の盆地周縁部で、は、 山側からの流 入と盆地内からの流出が対になって現われている。 図5-10(b)では、 黒色は正の電流源、 白 色は負の電流源を表わしている。 正の電流源は、 カップリング係数の大きい部分から小さ い部分への流動により生じたものであり(2章(7)式の右辺第1項による)、 負の電流源は、 そ の逆の 現象を示している。 d= 1.0kmの正電流源はカルデラ内部からカルデラ壁部分への左 方向の水平流動、 負の電流源は右方向の流動、 d= 1.5及び1.7kmの浅部の正電流源は上方向 の流動及び地表への流出、 d= 2.6kmの負電流源は地表からの流入、 その直下の正電流源は 山側から盆地への左方向の流動によって生じたものである。
ー82-
‘、‘EjLU f'EE、、
�・5,�1.地熱地';i�;における流体流動モニタリングへの適IIJ例
A'→
(NE)
0.5 1.0 1.5 2.0
distance (km) 3.0
(a)
ASL ←A
(km) (SW)
+0.1 -0.1 -0.3 -0.5 -0.7 -0.9 -1.1 -1.3 -1.5 -2.0
-2.5
-1.5 -1.0 ー0.5 。 2.5
ASL ←A
(km) (SW) +0.1 防竺蛤 -0.1
・0.3
・0.5
・0.7
・0.9
・1.1
・1.3
・1.5
-2.0
-2.5
・1.5 ・1.0 ー0.5 1.0 1.5 2.0
distance (km) 2.5 3.0
。 0.5
↓Vz (m/s) .15E-07・
2.0E-07
.1 0E-07・
1.5E・07
.5 0E-08・
1.0E-07
O.OE+OO・
5.0E・08
白・5.0E-08・
O.OE+OO
口・1.0E-07--
5.0E-08
ロー1.5ι07--
1.0E・07
口・2.0E-07--
1.5E-07
current source (mAlm3)
• 7.�:+�ι 1.0E+03 5.0E+02-
7.5E+02
• 2'�:+32�
5.0E+02
題 。OE+OO-
2.5E+02
C-J・2.5E+02・
一 O.OE+OO
ロ ー5.0E+02・
-2.5E+02
口 ・7.5E+02・
-5.0E+02
口 ・1.0E+03・
ー7.5E+02
図5-10. 自然状態における(司鉛直流速分布と(b)電流源分布.
Fig. 5-10 Distribution of (a) vertical fluid velocity and (b) current sources, in natural state.
- 83 -
第5";モ. 地熱地"1;における流体流動モニタリングへの適川{列
5.3.2.生産 ・ 還元時のマッチング
自然状態の流動及びSPについては良いマッチングが得られたので、 生産・ 還元のモデリ ングを試みた。 最初に生産・ 還元のシミュレーションを行い、 流動の変化のみによって起 こり得るSP分布の変化を調べた上で、 測定値に示されたようなSPの変化は、 どのような状 態変化によるものかについて検討した。
(1)生産・ 還元のシミュレーション
まず、 図5-11に示されるような生産・ 還元のシミュレーション計算を行った。 生産・ 還 元の位置は、 実際の生産・ 還元域をA-A'断面上に投影して単純化したものであり、 モデル
ASし ←A (km) (SW)
→A'
+0.1
-0.1 -0.3 -0.5 -0.7
・0.9 -1 .1 -1.3
・1.5
-2.0
-2.5
ー3.0
-1.5 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 distance (km)
LEGEND permeability (md)
仁コE3 Eヨ区麹藤観臨圏
0.1 1 10 100 500 4000
。: production A・injection
図5-11. シミュレ-ションにおける生産・還元位置図 Fig. 5-11 Locations of production and injection zones in simulation.
- 84 -
(a)
ASL ←A
(km) (SW)
+0.1 -0.1 -0.3 -0.5 ー0.7 -0.9 -1.1 -1.3 -1.5
-2.0
-2.5 -1.5
(b)
ASL←A
(km) (SW)
+0.1 -0.1 ー0.3 -0.5
-0.7 ー0.9 -1.1 -1.3 -1.5
-2.0
ー2.5 同1.5
第5��地熱地':lrにおけるiiÎt f本流動モニタリングへのj@川例
-1.0 -0.5 0.5 1.0
-1.0 -0.5 。 0.5 1.0
1.5
, '11'1 f
2.0
distance (km)
1.5 2.0
distance (km)
A'→
(NE)
3.0
A'→
(NE)
2.5 3.0
図5-12. 1年間の生産・還元後の(a)鉛直流速分布と(b)電流源分布.
Fig. 5-12 Distribution of (a) vertical fluid velocity and (b) current sources,
after an-year-production & i njection.
ー85 -
↓η(m/s) .15E-07・
2.0E-07
.10E-07・
1.5E-07
.5.0E-08・
1.0E-07
関O.OE+OO・
5.0E・08
四ー5.0E-08-
O .OE+OO ー1.0E・07-- ロ 5.0E-08
-1.5E-07--
|口 1.0E・07
-2.0E・07--
口 1.5E-07
current source
(mA/m3 )
.7 5E+02・
1.0E+03
_ 5.0E+02・
盤O.OE+OO- 2.5E+02
図・2.5E+02・
O.OE+OO
ロ・5.0E+02・
-2.5E+02
|口・7.5E+02・
ー5.0E+02
口-1.0E+03・
75
言5 0
,9 C 25
+-' Cて3
〉ω ω
ミ
ー250...
ω-5 0
-75
ー100 ー125 -1 50
。
立�5 ,';,,', J也熱地'oIiにおけるiAL休iA[1i))モニタリングへのj白川(ýlJ
。
。
-0.5 0.0 0.5 1.0 1 .5
distance (km)
2.0 2.5 3.0 3.5
Observed SP Simulated SP for fluid production & i吋ection
 1981 (natural state) 一一一 naturalstate
一一 after1 day
o 1996 (during fluid -- after 1 week
o 1998 production & injection) 一 after 1 month
一一一 after6 months 一一一after1 year
一一一 after10 year
図5・13. 生産・還元時のA-A'上のSP分布の経時変化.
Fig. 5-13 Transition of SP profile on line A-A' during production and injection.
- 86 -
第5.';1.地熱地,;i�;における流体流動モニタリングへの適用例
での生産・ 還元の総流量は各々、 15.6kg/s及び、10.6kg/sで、ある。 生産・ 還元開始から1年間後 の鉛直流速分布及び電流源分布を、 図5-12に示す。
図5-12(a)には生産・ 還元に伴い鉛直流動が分断された様子、 図5-12(b)には生産・ 還元に より新たに発生した電流源 (第2章(7)式の右辺第2項による) の分布が、 各々表わされている。
図5-13は、 生産・ 還元を継続した場合のSP分布の経時変化を示している。 森発電所の運 聞からは15年以上が経過しているが、 毎年定検時にlか月間に渡り圧力回復が行われている ので、 近年の流動状態は、 シミュレーションの10年後よりもl年後の状態に近いと考えられ る。
図5-13から明らかなように、 生産・ 還元による短期のSP変化は非常に小さく、 また長期 的にもl年後の変化は盆地内で、高だか20mV程度で、あり概形も変化しない。 このことは、 図 5-10と図5-12との聞に見られる流動及び電流源分布の変化があっても、 地表のSPには殆ど 影響が無いことを示している。 生産域より浅部で生産量の70%を還元しているので、生産・
還元による正負の電流源がほぼ相殺されるためである。 これは、 測定値における定検前後 の短期のSP変化が顕著ではないことと調和的である一方、 測定値に見られたような長期の SP変動は、 生産・ 還元による流動変化以外の理由によるものであることを示唆している。
次に、 還元を行わず生産のみを行った場合を仮定してシミュレーション計算を行った。
図5-14は1年後の流速分布と電流源分布、 図5-15はSP分布の経時変化を示す。 図5-15では、
変化量の絶対値は小さいが、 d= 0.5km付近の正異常が徐々に減少する傾向が顕著である。
これは、 還元を行わないため生産域へ向かう流動の範囲が拡大し、 カルデラ西側部分の上 昇流が次第に減少していくことによるものである。 1996年に観測されたSP分布はこれと似 た傾向を示しており、 カルデラ西側部分の上昇流の減少を示唆していると考えられる。
(2) 物性を変化させることによるマッチング
生産・ 還元時のSPの計算結果が測定値と一致しなかったことは、 二次元の流動シミュレ ーションの限界を示す一方、 生産・ 還元による温度変化やマイクロ・ フラクチャリング等 により、 浸透率および比抵抗といった物性分布そのものが変化した可能性を示唆している。
- 87 -
(a)
(b)
ASL ←A
(km) (SW) +0.1 -0.1 ー0.3 -0.5 -0.7 -0.9 -1.1 -1.3 -1.5
-2.0
-2.5
ASL ←A
(km) (SW) +0.1 -0.1 -0.3 -0.5 -0.7 -0.9 -1.1 -1.3 -1.5
-2.0
-2.5
。 0.5
-1.0 ・0.5 。 0.5
1.0 1.5 2.0
distance (km)
1.0 1.5 2.0
distance (km)
第5ì;:t.地熱地';i�.における流体流動モニタリングへの適用例
2.5
2.5
A'→
↓Vz (m/s)
(NE)
.15E-07・
2.0E・07
.10E-07・
1.5E-07
.50E-08・
1.0E-07
欝O.OE+OO・
5.0E-08
図 ・5.0E-08・
O.OE+OO ロー1.0E-07ー
-1.5E-07- -
ロ 1.0E-07
3.0 口 1.5E-07
A'→ I current source
3.0
(rr叫1m3)
. 7.5E+02・
1.0E+03
.50E+02・
7.5E+02
. 25E+02・
5.0E+02 O.OE+ OO箇
2.5E+02
Q - 2.5E+02-
O. OE+ OO
ロ ー5.0E+0ι
- 2.5E+02
口 ・ 7.5E+02-
-5.0E+02
口 ー1.0E+03・
- 7.5E+02
図5-14. 1年間の生産後の(司鉛直流速分布と(b)電流源分布.
Fig. 5-14 Distribution of (a) vertical fluid velocity and (b) current sources, after an-year-production.
- 88 -
抗5巾i也熱地'iliにおけるiÆè 1本iÆè1!)Jモニタリングへの過JIJ !ylJ
--- 75
ε 。
、、- 日
目
。 5
0ー
フ」
F3 CO一定〉UER(>ε)牛ω-
-75
。
-100 -125
-1 50
-0.5 0.0 0.5 1.0 1 .5 2.0 2.5 3.0
distance (km)
Observed SP Simulated SP for fluid production
 1981 (natural state) 一一一natural state 一一一 after 1 day
o 1996 (during fluid -- after 1 week
o 1998 production & injection) - after 1 month
Qd 山
内 n r a
~υau pu
巾
e vd し U
yors円L戸l
B e
e
aa a nhh
図5イ5, 生産のみを行った場合のA-A'上のSP分布の経時変化.
Fig. 5-15 Transition of SP profile on line A-A' during production only.
3.5
←A
(SW)
100
,,-‘、
ε 75
、..__/
C 50
。 +f〉qtJ
J
3 25
む.、 。
,-、
ミ-25
、、J
a
-50-75 -100 -1 25 -1 50 -175
-0.5 0.0
部5'・;'(1自然j也'lIi・における;Ht:休流動モニタリングへのj白川fýlJ
0.5 1.0 1 .5 2.0
distance
(km)
X 1981_1
o 1996 prod.
ーー四一prod.,high R
--shallow prod.
図5・16. 生産・還元時のSP分布.
→A'
(NE)
。
X
。
2.5 3.0 3.5
1984
o 1998 prod.
high cu汀ent src.
ーーーー-natural state
Fig.5・16 SP profiles during production & injection.
-90 -
4.0
第51;1.地熱i也':i�;における流体流動モニタリングへの迎川例
そこで、 流体生産・ 還元以外の変化を仮定しつつシミュレーション計算を行い、 どのよう な現象によって、 1984 ----1998年に観測されたSPパターンが生じるのかを調べた。
まず、 1984年の生産開始後に盆地内と盆地縁のSPとの差が開いた現象は、 石戸ほか
(1997)の考えに従い、 盆地縁の流入域に生じる負の電流源を約30%増加させることで説明 された (図5-16 :黄線)。 図5-10の電流源分布図において、 d=2.5kmの地表付近の負の電流源 が盆地縁の流入域に対応しており、 生産開始後にこの流体源が増加したと考えられる。 こ の現象は二次元の流動モデルでは再現できなかったが、 流入する水の量が30%増加したこ とに対応している。
1996年の観測値で、は西側のSPが低くなっており、 生産のみを行った場合の計算結果と傾 向が似ていることは前章に示したが、 特に浅い坑井からの生産量を増加させた場合とよく 一致する。 図5-16の青線は、 図5-11の標高-1.5km以浅のQfnで、の生産量を倍増させ、 還元を 行わない場合の1年後の計算結果を示している。 実際には還元が行われていたが、 何らかの 理由で盆地南西部の上昇流が減少し、 浅部の流動パターンが、 生産のみを行った場合と同 様な状態になったものと考えられる。 例えば地震やマイクロフラクチャリング等により一 時的に南西側の還元域から外部への短絡路ができ、 生産域への十分な流体供給が行われな
くなった場合等が想定される。
最後に、 1997年及び1998年の測定値のように、 盆地内のSPが自然状態よりもわずかに高
く、 盆地中央部の凹部が比較的平らになる現象は、 地表付近の比抵抗が増大した場合に発 生する。 図5-16の緑線で表わされるSP分布に対応する比抵抗分布図を図5-17に示す。 ここ では盆地内の範囲(d= 0.4----2.5km)の第1層の比抵抗を2----3倍にしているが、 より厚い部分 を1.5倍程度に増加させた場合にも同様の結果が得られる。 この比抵抗上昇の原因を温度低 下と仮定すると、 例えば2500Cから2000Cへの温度低下があった場合、 岩石の比抵抗は水の 粘性係数μの上昇に伴い約24%上昇する注lが、 同時にカップリング係数は2章の(10)式より 約15%減少するため、 4.1.1節に示した通り、 両物性の相互作用としてSP異常のレベルはほ
庄1蒸気表(日本機械学会、 1968)より、 飽和水の粘性係数μは1atm2500Cで'10.5(μPo)、 2000Cで13.1(μPo)なので、 2章の (1 J)式より粘性係数に比例する比抵抗は、 13.1/10.5= 1.24で24%上昇する。
- 91 -
ASL (km) +0.1
-0.1
・0.3 -0.5 -0.7
・0.9 -1.1 -1.3
・1.5
-2.0
ー2.5
-3.0
第51';土地熱地'lIjにおける;ÆEf本流動モニタリングへの適用例
higher resistivity applied →A'
-1.5 -1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 distance (km) LEGEND
2.0 2.5 3.0
口口口 口
resistivity (n -m)
••
155 70 32 15 7.0 3.0 1.0
図5・17. 新比抵抗モデル.
Fig. 5-17 New resistivity model.
ぼ1.24X 0.85= 1.05となり、 殆ど変化しない。 一方、 生産による圧力低下により浅部の気液 比が変化し、 例えば温度一定のまま熱水飽和度が100%から650/0に減少した場合は比抵抗が 1.5...2.3倍、 50%に減少した場合は2""""4倍に上昇注2するので、 気液比の変化により2倍程度 の浅部比抵抗の上昇は起こり得る。 あるいは、 降雨量の減少により地表付近の岩相が乾燥 し、 比抵抗が増加したことも考えられる。 盆地内の高異常が増加したのではなく、 1984年 と同様に盆地周縁部の低異常が増加し、 相対的に盆地内のSPが高くなったと解釈すること
白Archie(1942)の式より、 岩石比抵抗Rは水飽和度Srに対し、In R = a ln Sr-bの関係を持ち、bは実験的に1-2程度なので(伊
関,1994,千葉・熊田,1994,関線ほか,1995)、 Srが100%から50%に減少した場合はRが2-4倍に上昇する。
- 92 -
第5i';1地熱地�iiにおける流体流動モニタリングへの適用例
もできるが、 1997---1998年のLinelの測定値は信頼性が高いので、 盆地内のSPが上昇したと 捉える方が適切である。
5.4.考察
濁川地域は地表付近の比抵抗が小さいため、 生産・ 還元停止時の変化が小さく、 実測値 でもモデル計算においても顕著な変化は得られなかったが、 地表付近の比抵抗が大きい地 域については、 より顕著な変化が生じるはずである。 これを確認するため、 5.3.2と同様な 生産・ 還元を行った場合について、 地表付近の比抵抗によってSPの変化量がどの程度異な るかを計算した。 図5-18は、 図5-7と同じ比抵抗モデルについて生産 ・ 還元のシミュレーシ ョンを行った場合(浅部の比抵抗は3D-m、 一部で1D-m)と、 地表から200m深までの比抵抗
←A (SW)
600
SP simullation onlline AA'
400
200
SP (mV) 0
-200
-400
-600
-800
-0.5 0.0 0.5 1.0
→A' (NE)
1.5 2.0 2.5 3.0
distance (km)
図5-18. 異なる地表付近の比抵抗に対して計算されたSP (流体生産・還元時)•
3.5
Fig. 5-18 Calculated SP for different surface resistivities during fluid production and injection.
- 93司
第51'7t.地熱地イtrにおける流体流動モニタリングへの適川例
をその10倍にした場合とを比較している。 この図に見られるように、 地表付近の比抵抗が 大きい場合には、 地表の電位差が増幅されるため、 流動変化によるsp変化がより明確に測 定値に現われ、 貯留層モニタリングとしてのsp測定の有効性が増大する。
また本研究では移動測定を行ったため、 spの時間変動により閉合誤差が2加lVを超える場 合があり、 1伽lV程度の変化は誤差の範囲で、あった。 誤差の要因としては、 電極内の分極、
人工ノイズ、 温度変化による大地の電気物性の変化、 地表付近の降雨の浸み込み、 空中磁 場の影響などが考えられ、 このうち電極内の分極については、 移動測定の前後に電極聞の 電位差を測定する方法である程度の補正ができるが、 それ以外の誤差については物理的補 正が不可能である。 従ってデータ処理上の誤差の扱い方としては、 閉合誤差を各測点に分 散させるか、 往復の平均をとるなどの方法しか無い。 そのため本研究では10mV以下の変動
を顕著な変化として捕えることができなかったが、 測定網を作って連続観測を行えば微小 な変化をも捕えることができ、 spモニタリングの有効性がさらに増すと考えられる。 5.3.2 (2)で示したマッチングは、 spと種々の物性分布とが一意に対応するわけではないため、 絶 対的な解ではなく、 別の可能性も存在するが、 例えば重力モニタリング及び比抵抗モニタ
リング等との併用により更にモデルの一意性を高め、 sp変化の原因として可能性の高い原 因を推定することができる。
5.5.結論
濁川盆地内の自然状態のsp分布は、 盆地内で盆地周縁部より高い値を示し、 盆地中央で は低い異常が見られた。 E悶-wsw方向の直線上の準三次元モデルによって、 地下流動に よって生じるspを再現したところ、 盆地北東部の地表付近の比抵抗を低く設定した場合に、
測定値とよく一致する計算結果が得られた。 これは最近の比抵抗調査の結果を裏付けるも のである。 また生産・ 還元開始後のspについては、 定期点検の前後での生産停止、 再開に 伴うspの変化は小さく、 生産・ 還元のシミュレーションによっても、 流動変化のみによる SP変化は小さいことが裏付けられた。 一方、 spの経年変化は大きく、 それらは、 盆地周縁
-94 -
出5";モ地熱地':;�:におけるi主体流動モニタリングへの適川例
部で、の地表水流入の増加、 南西部の上昇流の減少、 浅部比抵抗の増加で、特徴づけられるこ とが、 準三次元モデリングにより示された。 このように、 物性分布を与えて流動シミュレ ーションを行い、 SP分布を計算するモデリングは、 SPに変化が起きた場合に、 それがどの ような物性変化により発生したものであるかを推定するのに有効である。 SP変化の原因と してここに示した物性変化は、 必ずしも一意に決まるものではないが、 起こり得る物性変 化の中から原因を絞り込む上でSP調査とそのモデリングが有効であり、 重力・比抵抗モニ
タリング等との併用により、 さらに任意性の低いモデルを構築することが可能である。
また、 濁) 11盆地は地表付近の比抵抗がSD-m以下と小さいため、 流動変化に伴うSPの変 化が顕著では無かったが、 この値がSOD-mと大きい場合には、 より顕著な変化が生じるこ
とが、 シミュレーションにより示された。 この結果は、 地表付近の比抵抗が大きいフィー ルドに対しては、 SPの繰り返し観測が、 流体流動の変化を捕えることにも役立ち得ること を示唆している。 また連続測定を行えば精度が増すため、 より小さな変化の捕捉が可能と
なり、 貯留層のモニタリングに有効であると考えられる。
- 95 -
第61';1:. *,Ij"品
第6章 結論
地下流体の流速分布からSP分布を計算する二次元の数値シミュレータPTSPを開発し、
これを用いて地形や温度変化の影響がある場合について、 地下の流体流 動によって生じる SP異常を計算したo PTSPは、 与えられた初期条件および境界条件に対し、 各タイムステ ップ毎の系の温度、 圧力、 流速分布を計算した後、 任意のタイムステッ プについて、 与え られた電気物性分布に対してSPの分布を計算するシミュレータである。 運動方程式に基 づいて流速分布を計算するので、 従来の圧力源や熱源を強制的に負荷し てSPを計算する アプローチとは異なり、 実際の流動の様子を物理的に表わしている点が優れている。 また 系の時間変化を再現することができるので、 SP調査を流動系のモニタリングに利用する 際、 モデルのシミュレーション計算を行うのに適している。
まず、 第l章でこれまでのSPモデリングの問題点について指摘し、 本研究の意義と目 的を明らかにした。 第2章では流動電位に伴うSPを計算する基本式の理論的背景につい て述べた。 第3章前半ではシミュレータPTSPの構築について述べ、 後半では理想化した 流動モデルに対するSPプロファイルを計算し、 比抵抗、 カップリング係数および温度分 布といったパラメータが、 SPプロファイルの概形に及ぼす影響について明らかにした。
次に第4章では、 SPモデリングの地熱探査への適用の有効性について述べた。 前半で は地形と物性分布のSPへの影響について調べ、 地下を構成する物質に不均質性が存在す る場合には、 リニアな地形補正は不適切であり、 SPデータの定量的解析には流動モデル に基づいたSPモデリングが不可欠で、あることを明らかにした。 また後半では、 比抵抗 調 査が行われている涌蓋火山周辺について、 比抵抗分布データに基いてSPを計算し、 観測 値とのマッチングを行い、 浸透率分布および広域熱水流動系の流動パターンを推定し、 坑 井データが存在しない場合でも、 SPモデリングによって、 より任意性の少ない水理モデ
ルの構築が可能であることを明らかにした。
さらに第5章では、 北海道濁川地域を例に、 SPモデリングの貯留層モニタリングへの 応用可能性について述べた。 この地域については浸透率及び比抵抗分布が文献に示されて
- 96 -
第61�.結晶
おり、 それらに基づいて自然状態のモデルを作ってSPを計算したところ、 発電所運関前 のSPの測定値とよく一致したので、 次に流体の生産・ 還元時のSPの経時変化をシミュレ
ーション計算した。 すると、 計算上は生産・ 還元によるSPの変化は小さく、 測定値に現 われたような変化を再現できなかった。 そこで、 なんらかの物性あるい は状態の変化があ ったものと仮定してSPを計算し、 経時変化の要因を推定した結果、 各年の変化は、 地表 水流入量の増加、 生産部への流体供給の減少、 浅部比抵抗値の変化により、 それぞれ説明 されることが明らかになった。
以上のように、 運動方程式に基づいたSPの計算結果と観測データとのマッチングによ
り、 より一意性の高い流動モデルの構築が可能であることが示され、 地熱探査へのSPモ デリングの有効性が明らかになった。 特に地下の不均質性や地形の影響の大きい場合には、
このようなシミュレータを用いたマッチングが不可欠である。 また、 このようなシミュレ ータの利用により、 物性変化を考慮して流動系の変遷をシミュレーショ ン計算できるので、
SPプロファイルの変化から地下の物性変化を推定することが可能となり、 SP調査の貯留 層モニタリングへの適用の有効性が明らかにされた。
一方、 インパージョン手法に共通の問題であるが、 地表で測定されたSPからだけでは、
地下の物性分布を一意的に決めることはできない。 従ってSPデータの解析の際は、 まず 水理学的概念モデルに基づいてモデルの概形を構築する必要があり、 少 なくとも比抵抗或 いは浸透率のどちらかの分布が事前に推定されていることが望ましい。 またカップリング 係数は、 実際のフィールドにおける値を測定するのが困難なので、 本論文における研究で は、 代表的な岩石サンプルについての測定値および他のパラメータとの相関性を参考にし ながら、 未知のパラメータとしてマッチングにより推定した。 このよう に、 SPのマッチ
ングにおいては、 シミュレーション計算に不可欠な3つのパラメータを相互に補間しなが ら推定する過程が残されており、 モデルの一意性を高めるためには、 他 の手法との併用が 不可欠である。