立教大学教職課程 2018 年 3 月
1 はじめに
文部科学省は、2017年3月に学校教育 法施行規則を改正するとともに小学校と中学 校の学習指導要領を公示した。これにより、
2018年度から小学校では英語などの移行措 置を実施し、以後数年をかけて、順次中学校、
高等学校でも移行措置、全面実施の運びとなる。
ところで、今次学習指導要領の改訂では、「主 体的・対話的で深い学び」の実現のための重点 的方策として、教科横断的に「見方・考え方を 働かせる」ことが提起されている。国語科では、
学習指導要領解説・国語編(以下解説・国語)で、
「深い学びのカギとして『見方・考え方』を働 かせることが重要になること」と強調されてい る。今後の国語教育の実践の有り方や方向に大 きな影響を及ぼすことが予想される。
では、「深い学び」のカギとまで重要視され ている「見方・考え方」とは、国語科では何な のか。国語の授業にどう関係するのか。国語の 説明的文章指導における三層の指導過程とその 授業を例に考察していく。
2 言葉による見方・考え方
1)見方・考え方とは教科内容による読み方 言葉で言葉を教える(学ぶ)国語科にとって、
国語科で見方・考え方を働かせるということは、
とても分かりにくい。
学習指導要領国語編では、その「目標」で次
国語の「深い学び」と言葉による見方・考え方
-説明的文章の三読法の指導過程による授業を例に-
高橋 喜代治
のように述べられている。
言葉による見方・考え方を働かせ、言語 活動を通して、国語で正確に理解し適切に 表現する資質・能力を次のとおり育成する
(下線は筆者)。
解説・国語の第2章・第 1 節の1「教科の目 標」では、この言葉による見方・考え方につい て、次のように解説している。
言葉による見方・考え方を働かせるとは、
児童が学習のなかで、対象と言葉、言葉と 言葉との関係を、言葉の意味、働き、使い 方に着目して捉えたり問い直したりして、
言葉への自覚を高めることである。
この解説はやはり難解である。田近洵一は「一 つ一つの言葉を捉え、その関係を踏まえて意味 付けすること」としているが、それでも難解さ が解消されたとは言い難い。_(註1)なぜな ら、一つ一つの言葉を捉え、その関係を踏まえ 意味付けする」という考え方は、実践的にはと もかく、国語教育では別段新しいことでもなく、
むしろ当たり前で言い古された言説だからであ る。国語の授業で「一つ一つの言葉を捉え」な いで「その関係を踏まえ」ないと公言する教師 などいない。だが、それがどのような国語の授 業なのかはやはり明確ではなく、意識的な授業 が弱いことは事実だ。
では、「言葉による見方・考え方を働かせる」
とはどんな学習なのだろうか。実は、先に引用
した解説・国語の言葉による見方・考え方の解 説の後半部に、次のようなヒントになる文言が ある。
様々な内容の事象を自然科学や社会科学 の視点から理解することを直接の学習とし ない国語科においては、言葉を通じた理解 や表現及びそこで用いられる言葉そのもの を学習対象としている。
極めて当たり前の指摘だが、この観点こそが
「言葉による見方・考え方」について考えてい く場合に重要なのである。なぜなら、これまで の国語教育ではこの認識が弱く、説明文の授業 などでは国語の授業なのか社会の授業なのかが 分かりにくい授業が行われていたからである。
その教材でどんな言葉の力を付けるのかという 教科内容があまり意識されてこなかったという ことである。国語のように言葉で言葉を学ぶ教 科は、教科内容が極めて取り出しにくいという 事情がそうさせていたのである。
言葉による見方・考え方とは、読むこと領域 で考えれば読み方であり、それは具体的には教 科内容とその指標のことである。これこそが、
国語を他の教科から峻別する見方・考え方の概 念である。そして文章のジャンル毎に独自の読 みの方法がある。
2)教科内容とは何か
国語の授業で教える内容には、教科内容、教 材内容、教育内容がある。_(註2)
教科内容とは、文章表現の原理・原則であり、
文学作品では、文学表現の原理・原則とその技 術を指し、説明的文章でいえば、説明や論理構 築の原理・原則とその技術である。一般に「教
材で教える」ということである。書く側からは 書き方、述べ方、表現の仕方であり、読み手か らは読み方ということになる。
教材内容とは、教材固有の内容のことである。
文学作品でいえば、その作品がどんな事件か、
どんな主題なのかということである。説明的文 章でいえば、題材であり、書かれている事実や 事柄のことである。授業では「教科書を教える」
という立場である。
教育内容とは、他の教科にも共通するもので あり、授業を通して身に付ける価値であり、人 間や社会の価値に関わるものである。また、学 び方を通して身に付く助け合いなどの道徳的な 内容も含む。
この三つの学習内容のうち、言葉による見 方・考え方とは、教科内容にもっとも近い概念 である。それは、国語科だけが担うべき内容で あり、他の国語の教材にも転移するから汎用的 であり、「深い学び」に深く関係するのである。
3 説明的文章の教科内容と三層の指導過程 1)説明的文章とはなにか
説明的文章とはいわゆる非文学的な文章の総 称として国語科では設定することが一般的であ る。下位の文種には、「説明文」「意見文」「報 告文」「記録文」「解説」「マニュアル」「社説」「論 文」など、その内容や性格、目的によって多種 多様である。そして、これらの文章を私たちは 無意識だが、それぞれ読み分けている。「説明文」
や「解説文」などは、書いてあることを正確に 読もうとし、論文や社説などは、正確に理解し ながらもその主張や論理を評価的に読もうとす る。
したがって、教科書教材では、説明的文章を 大きく二つの文種に分けて指導することが有効 かつ実際的である。そして、それが言葉による 見方・考え方に深く関係する。説明文は、すで に定説になっていることを読者に解き明かす文 章、もう一つは、まだ定説になっていないこと を筆者が仮説を立て主張する論説文である。中 学から高校にかけてより多く掲載されている評 論文は、真善美の観点からその価値について述 べるので論説文に含めることができる。
説明文では、ある事柄に深く専門性を持つ筆 者が、すでに解明されていることをまだ知らな い読み手(児童・生徒)に向かって書く。だか ら理解しやすいように具体例を挙げたり述べる 順序を工夫したりして書こうとする。論説文で は、ある事柄に対する自らの仮説や主張を読み 手(児童・生徒)に納得させるために書く。そ のために、仮設や主張を論理立てて述べようと する。
だから授業で説明文を学習する場合、述べ方 の順序や例などがどんなふうに工夫されている かを読むことになる。論説文を学習する場合、
その論理展開そのものの論理性や工夫、妥当性 を読むことになる。
2)三層の指導過程とその意義
前述のように説明的文章を捉えると、説明的 文章の文章構造とその指導過程が重要になって くる。なぜならそれは述べ方だからである。説 明的文章の構造を典型構造で捉え、〈構造よみ
―論理読み―吟味よみ〉の三層の過程で相互に 関連させながらその追究的な学びの過程で深い 読みを掴んでいく指導の方法である。
《第1読 典型構造と構造よみ》
説明的文章の構造は次のように典型を定め、
その指標を基に読んでいく(言葉による見方・
考え方)ことができる。
序論(はじめ) 問題提示 導入
本論(なか) 答え 詳細な説明 論証 結び(おわり) まとめ 結論 新たな問題
提示・感想 付けたし
この典型としての三部構造を、紙数の関係上、
「『ドラえもん』の秘密」という短い例文を示し 説明する。小学校等で説明的文章の基礎を教え る際によく使われる開発教材である。□内の数 字は段落番号を示す。○内の数字は形式段落内 の文番号。
『ドラえもん』の人気のひみつ
1①「あんなこといいな、できたらいいな…」
これは、まんが『ドラえもん』の歌の一部です。
②『ドラえもん』は、子どもたちにもっとも人 気のあるまんがの一つです。③『ドラえもん』は、
なぜそんなに人気があるのでしょう。
2①それは、ドラえもんが子どもの夢を叶えて くれるからです。②空を飛びたいな、未来の世 界に行ってみたいな。③みなさんはそう思った ことがあるでしょう。④ドラえもんにたのめ ば、四次元ポケットからいろいろな道具を取り 出し、本当に実現してくれます。
3①また、いつもは力の弱いのび太が、ドラえ もんの助けをかりて活躍することも理由にあげ られます。②のび太は勉強も運動も苦手で、け んかも強くはありません。③特に体の大きな
ジャイアンには勝つことができません。④でも、
ドラえもんの力をかりて、乱暴なジャイアンを こらしめることがあります。⑤それを見て、み んなは拍手を送ります。
4①簡単にはできないことをできるようにして くれる、それが『ドラえもん』の人気のひみつ と言えます。
「『ドラえもん』の人気の秘密」は、4つの形 式段落で構成されている。第1段落③文に「『ド ラえもん』はなぜそんなに人気があるのでしょ う」という問題提示があり、その答えが第2段 落と第3段落で説明されているから第1段落が 序論(はじめ)である。
問題提示に対して、第2段落で「ドラえもん が子どもの夢をかなえてくれる」、第3段落で
「力の弱いのび太が、ドラえもんの助けを借り て活躍する」と答えている。だから、第2段落、
第3段落が本論(なか)なのである。第2段落 と第3段落の関係は、対等で、順序的にはどち らが先にきてもよいことになるが、なぜこの順 序に筆者がしたのかが、述べ方の工夫であり、
吟味の対象になる。
第4段落は、本論(なか)のまとめになって いる。また、第1段落の問題提示に対応してい る。だから、結び(おわり)なのである。「簡 単にはできないことをできるようにしてくれ る」ことが「人気のひみつ」というまとめは、
第2段落の①文の「夢をかなえてくれる」と第 3段落の①文の「力の弱いのび太が、ドラえも んの助けを借りて活躍する」をまとめたもので ある。夢も弱虫のび太が力の強いジャイアンに 勝つことも簡単にはできないことなのである。
一般的に、国語教室では説明的文章の三部構 造は、〈序論(はじめ)・本論(なか)・結論(お わり)〉という各部名称で指導されるが、教科 書教材では、〈結論〉には結論だけでないこと の方が多い。付け足しであったり、新たな問題 提示や展望、感想などであったりする。構造を 単なる形式の当てはめではなく、文章の述べ方 で捉えることこそが、言葉による見方・考え方 を働かすことなのである。それが〈結び〉とす るゆえんである。〈結び〉は、文章全体の位置 を示し価値的内容が薄いので児童・生徒に思考 させることができ実践的なのである。
「『ドラえもん』の人気のひみつ」の三部構造 は下記のようになる。
序論(はじめ)
1 ドラえもんはなぜ人気があるか本論(な か)
2 子どもの夢をかなえてくれる
3 弱いのび太がドラえもんの助けをかりて 活躍する。
結び(おわり)
5 簡単にはできないようなことをできるよ うにしてくれることが人気のひみつ
《第1読―〈構造よみ〉》
第1読の〈構造よみ〉では、指標に基づいて これから述べていく文章内容のおおまかな方向 を読み取る。何が課題とされ、その課題がどこ で説明され、どこでどのように展開され結ばれ るかをあらあら読み取るのである。そしてこの 読みは第2読の〈論理よみ〉を準備することに なる。この〈構造よみ〉があることで、次の各 段落の関係が確かに読み取れるのである。
《第2読―〈論理よみ〉》
第2読の〈論理よみ〉では、第1読の構造把 握を活かして説明や論理関係を段落と段落、文 と文の関係で読み取っていく。そして、要約し 要旨を得る。文学の広がる読みに対して、絞る 読み方ということになる。_(註3)
「『ドラえもん』の人気のひみつ」の第2段落 は4つの文で成り立っているが、①が中心文で ある。①文の「ドラえもんが子どもの夢をかな えてくれる」内容を、②文③文④文が詳しく説 明しているからだ。文と文の関係は、対等の関 係(A+B)と、片方が片方に収れんする関係(A
←B)の二つの型に大別される。収れんされる 方が中心文(キーセンテンス)である。これは 段落と段落の関係でも同じである。すでにみて きたが、第2段落と第3段落の段落関係は、両 方とも中心段落(キーパラグラフ)で、どちら かに収れんする関係ではない。
このように文関係と段落関係を読み取ってい くことは、論理を読み取っていくことと同義で あり、〈論理よみ〉という学習過程である。各 段落の中心文を繋げて主述などを整理すれば、
結果として要約文や要旨文ができる。
因みに、「ドラえもんの人気のひみつ」の要 旨は次のようになる。
「『ドラえもん』の人気のひみつは、ドラえも んが子どもの夢をかなえてくれたり力の弱いの び太がドラえもんの助けをかりて活躍したりし て、簡単にはできないことをできるようにてく れるからである。」
文字数制限があれば、更に短くすればよい。
大事なのは、このように述べ方(説明の論理展 開)の読み方を児童・生徒に教える指導課程に 方法があるかどうかである。
《第3読 〈吟味よみ〉》
〈吟味よみ〉は、三層の読みの過程の最後の 読みである。それまでの〈構造よみ〉と〈論理 よみ〉を活かしながら、対象となる文章の優れ た点と不十分な点を評価し批判していく過程で ある。その対象事項は、構成上の対応(序論と 本論の対応)や本論の順序性と論理性等、具体 例の意味、用語の意味等である。これらを、評 価的側面と批判的側面の両面から吟味してい く。それゆえ〈吟味よみ〉は、児童・生徒が対 象となる文章を客観的に読む力を養うことが可 能となり、深い学びを実現できる読み方になる。
「『ドラえもん』のひみつ」で、第2段落と第 3段落の順序性を吟味してみよう。学習課題(問 題)は「第2段落と第3段落は、この順序でい いですか、逆ではだめですか」ということにな る。この問いと学習で、文章のメタ認知的な読 みの力を養うことが可能となる。
この問いを巡り話し合うなかで、第2段落が、
「夢をかなえてくれる」という全体的、一般的 なことを説明していることに対して、第3段落 は「のび太」という個人的なことの説明である ことを読み取らせる。だから、筆者はこの順序 で書いたということが分かれば、それはこの読 みの学習に留まらず、「書くこと」の学習にも 転移する。汎用的で「深い学び」である。
また、書き手である筆者は、できるだけ読み 手に興味を持って読んでもらおうと様々な表現 上や用語上の工夫をする。子どもたちがこのこ とに気づけることも、「書くこと」につながる。
例えば、序論(はじめ)は、問題提示が構造上 の主たる役割だが同時に導入としての工夫も仕 掛ける。第1段落の①文で「あんなこといいな、
できたらいいな」はアニメ『ドラえもん』の主 題歌であるが、これを冒頭の①に持ってくるこ とで、一気に子どもたちの興味関心を引くこと ができる。そう狙って書いたのである。また、
この「…できたらいいな」という歌詞は、結び(お わり)の「簡単にはできないことをできるよう にしてくれる」に見事に対応している。更に第 2段落③文にもいわゆる「呼びかけ」がある。
子どもたちに当事者性を思わせる表現上の工夫 である。このように、その述べ方に対して吟味 する学習過程が吟味よみで、「深い学び」の重 要な要素である。
4 三層の学習過程による「深い読み」の授業例
〈構造読み―論理よみ―吟味よみ〉の三層の 指導過程による「深い読み」の授業を紹介する。
この授業は2018年2月4日に、大阪府豊 中市立小学校東豊台小学校の公開授業で行われ た「『鳥獣戯画』をよむ」(小6 高畠勲 光村 図書)の授業である。
1)指導計画と三層の指導過程
三層の指導過程との関係をみるために、指導 計画をそのまま転載する。10 時間扱い。本時 は9時間目で、第8段落の吟味の授業である。
①~⑨は段落番号を示す。
《1時間目》
• 題名を読み、筆者の紹介をする。
•『鳥獣戯画』の絵を見て、意見を発表する。
• 段落番号・音読・難語句の意味調べを行な う。
《2時間目》
• 文章全体を「序論・本論・結論」に分ける。
• 序論がないことに気付かせる。
《3時間目》
• 絵の解説と『鳥獣戯画』の特徴を基準に本 論を5つに分ける。
本論1⇒①段落、②段落 『鳥獣戯画』の絵の 解説1
本論2⇒③段落、④段落 『鳥獣戯画』は漫画 の祖でありアニメの祖である。
本論3⇒⑤段落、⑥段落 『鳥獣戯画』の絵の 解説2
本論4⇒⑦段落 『鳥獣戯画』の絵の解説3 本論5⇒⑧段落 絵の力で物語を語る日本文化
《4時間目》
• 本論1を読み、絵と文章を照らし合わせ、
内容をつかむ。
• 筆者の意見と絵の解説を分けて線を引く
• 解説されている絵の描き方や意味、絵の特 徴を読み取る。
《5時間目》
• 本論2を読み、絵と文章を照らし合わせ、
内容をつかむ。
• 筆者の意見と、絵の解説を分ける。
•『鳥獣戯画』はアニメの祖だという筆者の 仮説とその理由を読み取る。
《6時間目》
• 本論3を読み、絵と文章を照らし合わせ、
内容をつかむ。
• 筆者の意見と、絵の解説を分ける。
• 筆者の細かな絵の解釈を読み取る。吹き出
しのようなものについて自分の意見を考え る。
《7時間目》
• 本論4を読み、絵と文章を照らし合わせ、
内容をつかむ。
• 筆者の意見と、絵の解説を分ける。
• 絵物語の特徴を読み取る。
《8時間目》
• 本論5を読み、絵と文章を照らし合わせ、
内容をつかむ。
• 筆者の意見と、絵の解説を分ける。
• 結論を読み、筆者の主張を読み取る。
《9時間目》
• 第8段落の役割について考える。
《10 時間目》
• 検討したことをもとに、意見文を書く。
この 10 時間の指導計画を三層の指導過程で 読み直すと次のようになる。
構造よみ⇒2時間目
論理よみ⇒3時間目~8時間目 吟味よみ⇒9時間目と 10 時間目
1時間目は、導入である。『火垂るの墓』な どで知られるアニメ映画監督として著名な高畠 勲氏の紹介は、子どもの興味関心を喚起するこ とになるであろう。10 時間目は 9 時間目の吟 味で読み取ったことを活かした意見文というこ とで、「書くこと」(リライト)だが、これも吟 味よみと考えられる。
2)『鳥獣戯画』という教材の特徴
「『鳥獣戯画』を読む」は,平安時代末期の作 とされる国宝絵巻「鳥獣人物戯画」甲巻の蛙と 兎の相撲の場面について、その優れた描写を解 説しながら、その歴史的な価値や意味を論じた 文章で、文種は論説文である。
構造上に次の二つの特徴がある。一つは、「『鳥 獣戯画』を読む」という題名である。筆者の主 張は、結び(第9段落)の①文「十二世紀とい う大昔に、まるで漫画やアニメのような、こん なに楽しく、とびきりモダンな絵巻物が生み出 されたとは、なんとすてきでおどろくべきこと だろう」にあるから、題名はさしずめ「『鳥獣 戯画』はアニメの祖」等の方が妥当である。だ が、筆者はそうしなかった。
また、この文章には序論(はじめ)がなく、
「はっけよいのこった、のこった。秋草の咲き 乱れる野で、蛙と兎が相撲をとっている。」(第 2段落)と、いきなり本文に入るという特徴が ある。
実はこの二つの特徴は相互に関連している。
それを解くカギが第8段落にある。第8段落が 事実上の序論の役割を果たしているのである。
ここでは、鳥獣戯画を始めとして今日のアニ メーションに至る日本の絵巻物の歴史と意義が 述べられていて、アニメーションの祖が「鳥獣 戯画」等の絵巻物であるという筆者の主張の背 景が分かって来る。つまり、問題提示である。
ではなぜ、序論として本論の前に持ってこな かったか。それは、やはり読み手が小学生だと いうことに尽きるだろう。だから、最初の段落 でいきなり「はっけよい、のこった。」と生き 生きとした描写で始めたのだ。
題名も「~読む」としたのは、子どもに予定
調和的な読みをさせないためで、一緒に『鳥獣 戯画』 という絵を読ん(見るのではなく)で いくから、いきなり「はっけよい、のこった。」
と解説に入ったのである。
3)吟味の授業と「深い読み」
《本時の学習目標》
• 著者の見解を基に、第8段落の役割につい て自分の考えを明確にする。
《本時の中心発問》
• 第8段落は必要なのか
《授業の経過》
これは、第8段落の必要性について考える吟 味読みである。この学習を通じて子どもたちは 文章を客観的に把握し自分の意見を形成する訓 練ができるようになる。
まず、教師は子どもとのやりとりで第8段落 が直接『鳥獣戯画』について書かれていないこ とを確認した。次に、そうであるなら「第8段 落は必要なのか」について考えさせた。子ども たちは3人1組のグループになって約 5 分検討 し、グループとしての意見をボードに書いて発 表した。その結果は、「必要ない」が 1 つのグルー プで他の8グループがオリジナルどおりを支持 した。
その後、必要ない派と必要派で討論した。そ の結果、必要ない派が自説を取り下げた。
《吟味で実現した「深い学び」》
必要ない派と必要派のボード内容を示す。
〈必要ない派〉
▽今度は君たちが考える番だとあるのに、いき なり絵巻の説明に入るのはおかしいから。そし て、⑦~⑨にいったらすっきりするから。(5班)
〈必要派〉
▽第8段落の④文に「これら絵巻物」とありま すが、これは『鳥獣戯画』を含む絵巻物である と思いました。第8段落の⑤文は「日本文化の 特色」で、これは第9段落の⑥文の「人類の宝」。
この両方を筆者は伝えたかったのではないかと 思います。だから第8段落はいると思います。
(3班)
▽筆者が本当に伝えたいことは『鳥獣戯画』で はなく『鳥獣戯画』が私たちに何を伝えてくれ たかであり、それを説明するためには『鳥獣戯 画』の歴史について書いている8段落は必要だ と思います。(1班)
両者を比べると次のことが分かる。必要派は それまでに学んだ構造よみを踏まえて考えてい る。だから、「これら」に着目し前段までの論 理展開のつながりを指摘できた。また第9段落
(結び)との関連にも気づけたということにな る。だが、〈必要ない派〉はそれがない。この ことは、〈構造よみ―論理よみ―吟味よみ〉と いう三層の相互関連的な指導過程によるものと 考えられる。それは、文章を述べ方(書かれ方)
に即してメタ認知的に読み、吟味して対象化し て理解する「深い学び」の重要な要素であり、
言葉による見方・考え方そのものなのである。
5 おわりに
「深い学び」とは何か。言葉による見方・考 え方とは何か。おそらくこの具体的なあり方 が、今後の教育実践を巡る大きな課題になるだ ろう。とりわけ言葉で言葉を教える国語科では その解明が喫緊の課題になるだろうし、そうな
るべきだ。
だが一方で、解説・国語の授業改善の留意点 でも危惧し指摘しているが、「地道に取り組ま れ蓄積されてきた実践を否定」するようであっ てはならない。要は「読むこと」の説明的文章 指導の三層の読み方を例に述べてきたように、
その文種固有の述べ方に即した教科内容に基づ いた読み方を一層、解明することである。国語 教育で言い古された「教科書を学ぶではなく、
教科書で学ぶ」ことを思い起こし発展させるこ とである。それが、言葉による見方・考え方で あり「深い学び」の実現に近づく確かな方法で ある。
《註》
註1 田近洵一「主体的・対話的で深い学びの 授業改善」 読みの授業研究会編『国語 授業改革17』2017年8月 135 頁。この論稿で田近は更に、読みの活動 に即して「文脈の中で、一つ一つのこと ばを、それが何を意味しているかを、前 後の関係を踏まえて読むということ」と 述べている。
註2 鶴田清司「文学の授業で何を教えるか―
〈教材内容〉と〈教科内容〉と〈教育内容〉」
柴田義松 他編著『あたらしい国語科指 導法』2014年3月 47~55頁。
ここで鶴田は文学作品の教材内容、教科 内容、教育内容について述べているが、
その枠、概念は、説明的文章でも同じで ある。
註3 髙橋喜代治「構造よみー文章の構成・構 造を読む指導過程」 2016年 髙橋 喜代治他編著『国語力をつける説明文・
論説文の「読み」の授業』21頁~31 頁参照
《参考文献》
『 国 語 力 を 付 け る 説 明 文・ 論 説 文 の「 読 み」の指導』(高橋喜代治他編著 明治図書 2016年9月)