富 山 医科 薬 科 大 学看護 学 会 誌 第1 号 19 9 8
精 神障 害患 者
の セ ル フ ケ ア領 域
の問題
に対
する看護診 断
と診 断指標
に関す
る研究
神郡 博, 田中い ずみ 富 山 医科 薬 科 大 学 医 学 部 看 護 学 科
要 約
本 研 究では, F ehring の モデルを 使っ て, 精神障害者の 食事, 排 他, 洗 面, 入 浴のセル フケ ア領 域の能 力 低 下に対 する診 断指標の適 否につ い て検討 した. この検討で は, 全 国の精神 病 院 あ るい は総 合 病 院の精神 科 病 棟で働いている看 護 者2 4 5名から 集め られ た 記 述 項 目 を 用い , それ ら をF ebring の D C V 法に よ っ て検討 し, それを 更に C D V 法に よ って検討 する方 法 を 用い た. そ
の結 果 次の点が妥当 な ものとして確認さ れ た.
1) 食事では, 「 食事をこぼ し たり, 落 ち 着い て食べら れない」 「箸やコ ップの管 理が でき ない」
「 後 始 末が でき ない」 の 3 項 目
2) 排 港では, 「 自 分でできる が後始 末でき ない」 「 衣 類 を 汚 す」 「 失 禁 を する」 「 不潔行 為 を す る, ト イレを 汚 す」 「 便 通に関 心がない」 の5 項 目
3) 洗 面で は, 「 洗 面 しようと しない」 「 きちん と洗 面でき ない, 洗い方が雑」 「 洗 面 したり し なか っ たり する」 「 一 人で洗 面でき ない」 の4 項 目
4) 入 浴で は, 「自 分で入る が よく身体 を 洗わない」 「入 浴後着 替 え ない」 「ス ム ー ス に入 浴で き ない」 の3 項 目
これ ら は, 抑うつ , 不 安, 感 覚 ・ 知 覚, 認 知 領域の障 害 を もつ精 神 障 害 患 者の セ ル フ ケア領 域
の診 断 指 標 を 表 す もの で, N A N D A その ものよりは, むし ろ, T o w n s e nd や Ca rpe nito ,
N A N D A が1 9 9 4年に承 認し たア メリ カ看 護協会 精 神 保 健グル ー プの診 断指 標に近い.
キ ー ワ ー ド
セ ル フケア能 力の低 下, 看護 診 断, F ehring モデル, 診 断 指 標
は じめに
看 護 診 断と は, 看 護 過 程の 一 部 を な す 重 要 な 要 素で, 実 際の健 康 問 題 また は潜 在 的な健 康 問題に 対 する個 人, 家 族, 地 域 社 会の反 応につ いての臨 床 的 な 判 断と定 義さ れ て いる1).
しか し, 実 際の健 康 問 題 また は潜 在 的 な 健 康 問 題に対 する反 応に は, それぞれの国や地 域の社 会 的 文 化 的 要 素が様々 な 形で反 映している. こ のた め, 看護 診 断の過 程に は, これ らの健 康 間 違に対 する反 応 をどう 判 断 する か という 間蓮と同 時に,
それ に ど んな 看 護 診 断 用 語 を 適 用 する か という 重 要 な 課 題が含 まれて いる.
N A N D A (N o rth A m e ric a n N u r sing D iag ‑
n o sis A s s o ciatio n) は人 間の反 応 を9 つ の カテ ゴリ ー に わけて, 共 通して使 える看 護 診 断 用 語 を 開 発 する作業の過 程で, 既にこ の点に気付 き, 香 護 診 断 用 語の使 用と合わ せてその妥 当 性の検 討 を 勧めて きた.
N A N D A の こうし た意 図の背 景に は, N A N D A が開 発 した看 護 診 断用 語 を 精 選して世 界の看 護に 共 通し て使 用できる用 語に発 展さ せ た いという 期
待がこめ ら れて い る2).
本研 究では, こうし た観 点か ら, 精神障 害 患 者 に み ら れ る セル フケ ア領 域の看 護 問 題に焦 点 を あ
て
, 食事, 排 壮, 洗 面, 入 浴に関 する問題 を 中 心 に, 患 者のもつ看 護 問 題の特 徴 と 診 断 指 標との関 係, 及び診 断 用 語 適 用の妥当性につ いて検 討 した.
研 究の対象及 び 方 法 1 . 対象
本 研 究では入 院 中の精 神 障 害 患 者に み ら れ る食 辛, 排 壮, 洗 面, 入 浴の セル フケア領 域の 問題 を 対象と し, それらを 実 際に働いてい る全 国の看 護 者の観 察 を 通して抽 出し た. 患 者の問題の見 方に は看 護 者の臨床 経 験が影 響 すること を 考 慮して,
観察者 と して, 本 研 究の趣 旨に賛 同の得ら れ た精 神科看護 経 験1 ‑ 3 年4 5名, 4 ‑ 5 年4 2名, 6 ‑
1 0年4 9名, 1 1年以上1 0 9 名の2 4 5 名が選 ばれた. 捕 出の方 法は, 看 護 者が看 護の過 程で実 際に観 察し たもの, あるい は経 験し たものに限 り, それを
「 一 人で洗 面でき ない」 「 一 人で食べ ら れない」 等 具 体 的に記 述して表 現 する方 式 を 取っ た.
研 究の対 象になっ た記 載 例は, 食事に関するも
の5 8 7, 排 壮に関 するもの2 8 1, 洗 面に関 するもの 3 0 9 , 入 浴に関 するもの3 6 0 の1 5 3 7例であっ た. さ ら に, こ の疾 病 別 内訳は, 精 神 分 裂 病 患 者に関す るもの1 9 5 , 操 うつ病 患 者に関 するもの2 2 3, 神 経 症 患 者に関 するもの8 8, 摂 食 障害患 者に関 するも
の1 8 4 , 登 校 拒 否 患 者に関 するもの3 6, てんかん 患 者に関 するもの1 1 6 , 老 人 精 神 障 害 患 者に関 す るもの3 2 9, 器質性 精 神 障 害患 者に関するもの1 2 5,
ア ルコ ー ル依 存 患 者に関 するもの6 4, 精 神 遅 滞 患 者に関 するもの1 7 7 であった.
2 . 方 法
これ らの記 載 例 をカテ ゴリ ー 別 内容 別に分 類 集 約し, それ らをさ ら に1 0 0 名の看 護 者に依 頼し,
F eh ring の診 断 内 容 妥 当 性モ デル (D C V 法) に
よっ て診 断指標と して の妥当性 を検討し た. こ の 結 果 を 次に実 際の事 例に適 用して , F ehring の
臨 床 診 断 妥 当 性モ デル (C D V 法) に よ る信 頼 比 を 求め, こ の 二つを 合わ せ て診 断 指 標と して の適 否 を 検 討し た.
D C V 法の検討は, ア メリ カでは看 護の大 学 を
卒 業し たその領 域の熟 達 者が当た るのが通例に なっ て いる が, 本 研 究で は我が国の看 護の実 情 を考え,
Snyde r 3)
の示 唆に基づ い て精 神 科 看 護 経 験5 年 以上の看 護 者1 0 0 名に依 頼 し, 7 7 名( 5 ‑ 7 年16 名, 8 ‑ 10 年8 名, 1 1年 以上5 3名) か ら回 答 を 得 た.
C D V 法で は, T 大 学, G 大 学 付 属 病 院 及び A 病 院 精神科 病 棟に入 院 中のそれぞれ食事, 排 他,
洗 面, 入 浴のセル フケア領 域に障 害がある と考 え ら れ る患 者10 名 を 対象に, いずれも 精 神 科 看 護 経 験1 0年以上の熟 達 した 看 護 者2 人が相 前後して観 察し, その結 果 を検 討し た.
検討の方 法は, 最 初に食 事, 排 壮, 洗 面, 入 浴
のそれぞれの セ ル フケア領域の障 害(能 力 低 下)
に関 する記 述 項 目につ いて, それぞれの看 護 者が 診 断 指 標と し て どの程 度 関 連してい る と思っ た か を, 1 ‑ 全 く 関 連がない , 2 ‑ ほ と ん ど関 連がな
い, 3 ‑ 少し関 連がある, 4 ‑ かなり 関 連がある,
5 ‑ 非 常に関 連がある, の基 準に従っ てマ ー ク し,
それ ら に 1 ‑ 0.0 0 , 2 ‑ 0 .2 5 , 3 ‑ 0.5 0 , 4 ‑ o .7 5, 5 ‑ 1.0 0の秤 量 値 を 付 加して0 .5 1 ‑ 0.7 9を
小 項 目, 0 .8 0以上を 大 項目 とする. 次にこれ らの 指 標 を 食事, 排 壮, 洗 面, 入 浴の セ ル フケア領 域
のいずれ か に障害がある と考 えら れ る実 際の患 者 に適 用して, 二人の熟 達し た看 護 者が観 察 し, そ
の結 果 を 図1 に示 す 数 式に当ては めて評 価 者 間 信 頼 比 を 求め, 診 断指標として の妥当 性 を 決め るも
のである.
R ‑
#
D X(F;‑ + F;‑ ) ×i
R ‑ 評 価 者 間信 頼 比 A ‑ 一 致ノ数 D ‑ 不 一 致ノ数
F l ‑ 最 初ノ評 価 者ガ観 察シタ特 徴ノ数 F 2 ‑ 二番 目ノ評 価 者ガ観 察シタ特徴ノ数 N ‑ 観 察サ レタ対象ノ数
図1 評 価 者 間 信 頼 比 算 出 式
富 山 医 科 薬科大 学看護 学 会 誌 第1 号 1 9 98
結 果
1 . 看 護 診 断 指 標の基 礎となる特 徴の観察結 果 全 国の2 4 5名の看護 者が実 際に患 者 を 観 察 して 得ら れ た食事, 排 壮, 洗 面, 入 浴の セ ル フケア領 域の問 題の特 徴はそれぞれ2 2 項 目, 1 2項 目, 9 項 目, 1 0項 目で, その内 容は表1 , 2 , 3 , 4 に示 す 通 りであっ た.
表1 観察 され た セル フケ ア(食事) 領 域の特徴 か ら 取り 出 さ れ た 記 述 項 目
1. 食 事 をこぼ したり, 落 ち 着い て食べられない 2. 食 事 を食べようとしない
3. 調 味 料 を使いす ぎる
4. 間 食が多い
5. 噛 まない で食べる. 誤 壊 す る
6. 偏 食, むらが ある
7. 美 食 行 為がある
8. 食 事 を楽しん で食べら れない. 機 械的 に食べる
9. 多 飲. 多食 す る
1 0. 盗 食
1 1. 座る位 置が決 まって い て トラブルを起こす
1 2二食 事に時 間が か か る 1 3. 礁下 が 上手くできない
1 4 箸やコップの管 理が できない 1 5. ある だ け食べて しまう, 抑 制できない
1 6. 介 助 されるのを嫌 う
1 7 . 後 始 末が できない 1 8. 儀式行 為 をす る
1 9. 制 限 食の意 味が 分 か ら な い 2 0.t蛋れ食い
2 1. 無 理 に晦 吐 する
2 2. 残飯漁リ
表2 観 察さ れ た セル フケ ア (排 他) 領 域の特 徴から 取 り 出さ れ た記 述 項 目
1. 自 分で できるが後 始 末できない
2. 衣 類 を汚す
3. 失 業 する.
4. 不潔 行 為 をす る. トイレを汚 す
5. 介 助しないと落 ち 着い て できない
6. 政 見 放 便 をする
7. 生理の手 当 ができない 8. 便 透に関 心 が ない. 分か らない
9. 弄 便. 弄 尿
1 0. パンツを便 蕃に詰める
1 1. トイ レットペ ー パ
ー を多 量に使 う
1 2. 儀式的 行 為 をする
表3 観 察さ れ たセル フケア(洗 面) 領 域の特徴 か ら 取 り 出された 記 述 項 目
1. 気が散れ て よく洗 面できない 2. 洗 面しようとしない
3. 洗面用 具 を散ら か して片 付 けようとしない
4. きちん と洗 面できない. 洗い方が雑
5 . 頻 回に手 を洗う
6. 洗面がスム ー スに できない 7. 洗面 した り. しなかった りする
8.
一人 で洗面 できない
9. 偉 式的行 為 をす る
表4 観察 され た セル フケ ア (入 浴) 領 域の特 徴か ら 取 り 出された記 述 項 目
1. 自 分で 入るがよく身 体 を洗 わない
2. 風 呂に 入 らな い. 入浴 を嫌 が る
3. 入浴 後 着 替えない
4. 洗 髪 を何 回も 繰り返す 5. 入浴に時間 がか かる
6. スム ー スに 入浴できない 7. 気 まま. 不規 則
8, 介 助 を嫌 がる. 怒 る. 苛立つ 9. 儀 式 的 行 為 をする
1 0. 身 体 を頻 回に洗う
即 ち, 食事で は 「 食事をこぼしたり, 落 ち着い
て 食べ られ ない」 「 噛 ま ないで食べ る, 誤 隣 する」 等のマナ ー や食べ方に関するもの, 排 壮で は 「自 分でする が, 後 始 末が でき ない」 「 衣 類 を 汚 す」
「 放 尿, 放 便」 等排 壮 習 慣や行 動に関 するもの,
洗 面, 入 浴では 「 一 人で洗 面でき ない」 「 洗 面 し ようと しない」 「 風 呂に入 りた が らない , 人 浴 を 嫌が る」 「 入 浴 後 着 替 え ない」 等清 潔に対 する行 為や関 心に関 するものが大 部 分 を 占めて い た.
2 . F ehri□g モデルに よ る検討の結 果
これらを 食事, 排 壮, 洗 面, 入 浴の セ ル フケア 領 域の診 断指標 記 述 項 目の候 補として, 前 述し た 1 0 0 名の看 護 者に依 頼し, F ehring の D C V 法に よっ て チ ェ ックしてもらっ た ところ, 表5 , 6 ,
7 , 8 のよう な 結 果 を 得た. 即 ち 食事で は 「 食事 をこぼし た り, 落 ち 着いて食べ ら れない」 等の1 0 項 目に, 排 壮では 「 自 分で できる が後 始 末できな
い」 等の9 項 目に, 洗 面では 「 洗 面し ようと しな