• 検索結果がありません。

金融政策の有効性に関する計量分析*―セントルイス・モデルによる検証―

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "金融政策の有効性に関する計量分析*―セントルイス・モデルによる検証―"

Copied!
28
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

1 は じ め に

 1980年代後半にバブルが発生し,1990年代はじめに崩壊,そして日本経済 は戦後経験したことのない長期にわたる景気低迷を経験するに至った.1990 年代後半には日本版金融ビッグバンに象徴される金融制度の諸改革やペイオ フ解禁など規制緩和政策の運営が続く中にあって,景気回復を目的として金 利指標(短期金利)をコントロールする政策から量的指標をコントロールす る政策重視に移行が行われるなど,激動の金融政策運営が行われてきた.

 当然のことながら,金融政策の有効性などを巡る議論が沸騰することとなっ た.学会内外を問わず理論・政策両面からさかんに研究が進められ,数多く の労作を生むに至っている.細野・杉原・三平[42],林・松浦編[33],小 佐野・本多編[20],深尾・日本経済研究センター編[40],深尾・吉川[41] および黒木[23],木村・小林・村永・鵜飼[22],小川[19],中原[30]な どの研究がそうであるし,また金融政策論議を整理したものとして,小宮・

日本経済研究センター編[25]などがあげられる.より最近では,日銀[32]

が日本におけるM2の予測力について,また宮尾[46]が金融政策運営とマネー サプライの役割の関係についての検証報告をそれぞれ行っている.

 本研究は,必ずしも上記の研究成果に直接言及するものではないが,1970 年代後半にマクロ経済政策論争の1つとなった金融政策と財政政策の相対的

【論 説】 

金融政策の有効性に関する計量分析 *

―セントルイス・モデルによる検証―

  廣 江 満 郎  

本研究は、平成17年度関西大学国内研修員研修費によって行った.

(2)

重要性を計量的に分析することを目的とするいわゆるセントルイス型モデル が,少なくとも第一次的接近として有用であるとの立場に立って,1985年以 降の激動の日本経済に再度適用して両政策の有効性について検証を試みるも のである.なお分析に際しては,近年の時系列分析の成果を取り入れるとと もに,分析対象となる期間や経済活動を表す変数を考慮することとする.

2 セントルイス方程式による財政金融の政策論争

2. 1 セントルイス方程式を巡る議論

 金融政策の有効性に関する研究の一つとして,セントルイス連邦準備銀行 のAndersen-Jordan[2](以下,A-Jで表示)による誘導型アプローチとしての セントルイス・モデルいわゆるセントルイス方程式による検証を発端とする 一連の実証研究がある.これは、セントルイス連銀のエコノミスト達が考案 したセントルイス方程式をアメリカ経済に適用して,財政金融の両政策効果 を比較検討しようとする計量分析研究であった.当時の財政政策と金融政策 の有効性に関するケインジアンとマネタリスト間でかわされた論争として有 名であり,多くの研究者によって論文が発表されてきており,日本においても,

このセントルイス方程式による政策効果の検証やそれを巡る論争が少なから ず行われてきた1)

 そこで本節では,この分析方法を日本経済に適用して,日本の金融政策の 有効性についての検証を行ってきた伊藤・廣江[14]の研究をはじめとする われわれの研究を取り上げ,それをセントルイス方程式(以下では,セントル イス・モデルと呼ぶ)による金融政策の有効性に関する計量的分析を巡る研究 と成果についてのサーベイとする.

 さて,この論争の発端となったA-J[2]の研究は,経済活動に対して政 府および中央銀行の政策行動がどのような影響を与えるかを分析し,財政政

1 )この論争の経緯の詳細については,とくに伊藤・廣江[14],廣江[34]および伊藤・廣江・北 川[16]を参照.

(3)

策と金融政策の効果について統計的な検討を加えることを目的としたもので ある.その分析基軸になったのが誘導型アプローチとしての総支出関数い わゆるセントルイス・モデルである.それを用いた彼らの分析は,その後,

Andersen-Carlson[1](以下,A-Cで表示)などによって引き継がれていくが,

政策効果の波及経路について理論的検討を加えず,むしろ実証的な分析結果 からそれぞれの見解の妥当性を判断しようとする考え方に基づくきわめて特 色ある分析であり,この一連の研究を巡ってとりわけケイジアンとマネタリ ストの間で激しい論争を巻き起こすこととなったのである.

 このA-J[2]およびA-C[1]のセントルイス・アプローチの概要は,経済

活動の水準をはかる尺度として財貨サービスに対する支出(名目国民総支出)Y, 金融政策の尺度としてマネタリーベースB,財政政策の尺度として完全雇用 水準政府支出Gをそれぞれ選択して,政策行動の変化が経済活動をどのよう に変化させるかを分析するために,各変数の四半期変化から構成されるモデ ルを設定する.

    (A-J型のセントルイス・モデル:乗数型モデル)

n i=0 m

i=0

    ⊿Yt=Ϸ+

βiBt−i

ϹiGt−i (1)  

 なおA-C[1]のセントルイス・アプローチでは,各変数の成長率から構成 されるモデルが設定される.

    (A-C型のセントルイス・モデル:成長率型モデル)

n i=0 m

i=0

    Y4t=Ϸ+

βiB4t−i

ϹiG4t−i (2)  

 そして上記のラグ構造を示すβとϹをアーモン・ラグ推定法によって推定し ようとするのがセントルイス・アプローチによる実証分析の概要である2).  このアプローチの仕方やその分析結果を巡る論争は大別すると以下の5つ の問題点を巡る論争として整理することができる.

2 )A-J[2]は,財政政策よりも金融政策の方が大きくかつ速いという分析結果を踏まえて経済安 定化政策における金融政策の重要性を主張したのである.

(4)

  1 ミススペシフィケーションの問題   2 同時方程式バイアスの問題   3 政策変数の指標性の問題   4 ラグ推定法の問題   5 Heteroscedasticityの問題

 これら5つの問題の概要を述べると,まず最初に,ミススペシフィケーショ ンの問題とは,セントルイス・モデルが真のモデルから経済的に意義ある変 数を除いて定式化されており,その結果,真のモデルの回帰分析となってい ないという批判である.

 第2の同時方程式バイアスの問題とは,セントルイス・モデルは連立方程 式体系の一部であることから,説明変数である政策変数が他の方程式に含ま れる変数から影響を受ける内生変数である可能性がある.この場合には,推 定方法としては操作変数法(Instrumental Variables Method)の方が望ましく,A-J のようにOLSで推定した結果は信頼できないという批判である.

第3の政策変数の指標性の問題とは,セントルイス・モデルは財政金融政策 の両効果を分析対象としているので,説明変数として各々政策行動を的確に 反映する変数が選択される必要がある.しかし,A-Jの選択した変数は政策行 動の適切な指標となっていないという批判である.

 第4のラグ推定法の問題とは,セントルイス・モデルは,A-JやA-Cの研 究以来,推定方法としてアーモン・ラグ推定法を使っている.しかし,この 推定法は選択されたラグや多項式の次数によって推定結果が敏感に影響を受 けることから,セントルイス方程式の結果もラグの長さや次数の選択に依存 しており,選択の仕方しだいで結果が変わるという批判である.

 そして最後のHeteroscedasticityの問題とは,推定結果がhomoscedasticity の仮定を満たしていないという批判である.

 以上5つの主要な問題点を論争の核としながら,財政金融の両政策効果の 分析にA-J型のセントルイス・モデルを適用する研究が数多く行われてきた

(5)

のである3)

2. 2 日本経済への適用

 A-J[2]およびA-C[1]による誘導型アプローチとしての総支出関数の研 究に触発されて,日本においても日本経済にセントルイス型アプローチを適 用する研究が行われてきた.それは,当時の日銀エコノミストの鈴木[29] の研究や伊藤・廣江[14]などわれわれの研究をはじめとして,新保[27]・

[28],折谷[21],中村[31],佐志田[26]などの研究が70年代後半から 80年代前半に集中した.その後,一時の勢いはなくなったが,廣江・伊藤[38]

および廣江[39]の研究において改良型のモデルでの適用が試みられている.

以下では,われわれの研究概要の紹介を通して,日本経済にセントルイス型 アプローチの適用を試みた研究概要を紹介する.

 さて,われわれがこれまでに行ってきた日本経済にセントルイス型アプロー チを適用するという一連の研究の端緒となった研究が伊藤・廣江[14]およ び伊藤[15]であり,その後に廣江[34],伊藤・廣江・北川[16]の研究 へと展開した.そして最近の研究として,廣江・伊藤[38]および廣江[39] の研究へと引き継がれてきた.

 これら一連の研究の展開にあたっては,セントルイス型アプローチの適用 を巡る諸問題に対応しながら政策効果の検証を行うという形で推し進めてき たわけであるが,伊藤・廣江[14]および廣江[34]の研究は,A-J[2]に よる誘導型アプローチとしての総支出関数を適用した分析であり,最近の研 究である廣江・伊藤[38]および廣江[39]は,これをさらに拡張したモデ ルを適用した分析となっている.

 以下,これまでわれわれが行った研究の概要を述べると,研究の出発点と なった伊藤・廣江[14]では,A-J型のセントルイス・モデルとして,つぎの ようなモデルが設定された.

3)これらの詳細については,伊藤・廣江・北川[16]を参照.

(6)

n i=0 m

i=0

    ⊿Yt=Ϸ+

βiBt−i

ϹiGt−i

δirt−i

j i=0

(3)  

 これは,当時の日本における金融政策の特徴を考慮してということで,金 融政策の尺度として日本銀行貸出Bと公定歩合r,財政政策変数として(便宜 的な対処として)国民所得勘定における一般政府経常支出がそれぞれ採択され た,そして,標本期間を1963年第Ⅰ四半期から1974第Ⅳ四半期までとして 推定した結果,日本においてはアメリカと異なり,財政政策の有効性がきわ めて高いことが特徴的であるが,同時に金融政策も公定歩合政策を含めて考 えるならば,同様に有効であること,また金融政策の効果にはより大きなタ イム・ラグがあることを指摘したのである.

 これに続く伊藤[15]では,金融政策と財政政策の相対的重要性を計量的 に分析する際にとくに問題となるラグ(アーモン・ラグ推定法の適用)の問題が 検討されたうえで,伊藤・廣江[14]と同じ標本期間を対象にしてセントル イス型モデルの検証が行われた.この分析では,モデルの従属変数として名 目国民総支出ではなく,製造業における生産活動(製造業内の産業各部門の生産 指数)がディスアグリゲイトされた経済活動の指標として取り上げられ,産業 各部門への波及の仕方の相違や総需要と産業各部門の生産活動に対する政策 効果の波及の関連などが考察された.そして,当時の日本銀行のエコノミス ト達による日銀モデルの分析結果に疑問を呈するなど興味ある幾つかの指摘 が行われている.

 廣江[34]では,セントルイス・アプローチを巡る上記問題のうちミスス ペシフィケーションの問題と政策変数の指標性の問題,そしてラグ推定法の 問題が取り上げられ,なかでもラグ推定法(多項式分布ラグ・モデルの推定)に 着目した研究が行われた.それは,A-Jなどによるセントルイス・モデルの推 定に一般的に使われている推定法に対する批判に応えるためにPagano-Hartley 法を適用して,ラグの長さや多項式の次数の大きさを決定したうえでアーモ ン・ラグ推定を行うというものであり,A-Cによるセントルイス・モデル(成

(7)

長率型モデル)が採用された.標本期間を1967年第Ⅰ四半期から1987第Ⅳ四 半期までとし,金融政策の尺度としてマネタリー・ベースではなくマネーサ プライM2+CDを選択して,この方法をわが国に適用して分析した結果,金 融政策と財政政策の長さと効果についてかなり違うとの興味ある結果を得て いる.それは,金融政策に関しては約2年半あまりにわたってプラスの効果 が持続するが,他方,財政政策に関しては短期的にはプラスの効果が認めら れるものの長期的には疑問が生じる(ラグ変数の係数がすべてマイナス値となる)

というものであった.

 また,伊藤・廣江・北川[16]では,アプローチの仕方やその分析結果を 巡る論争は大別すると先述した5つの問題点を巡る論争として整理すること ができるとし,モデル・スペシフィケーションと推定法の問題,政策変数の 指標性・独立性の問題などいくつかの問題点の解決をはかりながら,あらた めて日本経済へのセントルイス・アプローチ(乗数型モデルと成長率型モデルの 2通り)の適用が試みられた.標本期間は1965年第Ⅰ四半期から1987年第Ⅰ 四半期までの期間であるが,さらにそれを1976年以前の期間と1979年以降 の期間とに2分割して分析した結果から,有効な推定量を得るという目的か らは,変数を変化率でとることがアメリカでは一般的となっているが,日本 の場合には階差型のモデルの方が適切であること,また財政支出・マネーサ プライのいずれもその総効果がきわめて小さく,石油ショック後だけをとれ ば,財政支出の影響は小さくなり,相対的にマネーサプライの影響の方が大 きいと指摘した。

 そして,廣江・伊藤[38]および廣江[39]では,開放体系において資産 効果を考慮した場合の財政政策と金融政策の効果を理論的に明らかにしたう えで,両政策の相対的重要性を分析するために展開した資産効果を含むマン デル=フレミング型のオープンマクロ・モデルから導出される誘導型を推定 するというアプローチ(総支出関数アプローチ)が採用された.なお標本期間は 1973年第Ⅰ四半期から1995年第Ⅳ四半期までである.

(8)

 そして,モデル(セントルイス・モデルの拡張版)の推定に際しては,最近の 時系列分析の成果を考慮して,まず各変数の単位根検定および共和分検定を 行い,その結果にもとづいて誤差修正モデル(error correction model:ECM)が 適用可能かが検討された.そのうえで,つぎのようなECMの推定を行った.

    ⊿Yt=Ϸ+

β1iYt−i

β2iGt−i

β3iMt−i         +

β4iY*t−i

β5i(r−r*)t−i

β6ie*t−i

        +

β7iAt−i+Ϲect−i+ut (4)  

 ただし,ecは誤差修正項であり,変数Yは日本の実質GDP,Gは実質政府 支出,Mは実質マネーサプライM2+CD,Y*はアメリカの実質GDP,rr*は内外金利差,e* は実質為替レートおよびAは実質金融資産残高である.

 その結果,資産変数を含む総支出関数の計量経済学的分析においては,誤 差修正モデルによる総支出関数の推定がバブル期の日本経済に極めて良く適 合すること,財政金融政策の相対的重要性については,(1)資産変数を含め ないで計量分析を行うと,金融政策の効果が過大に評価される危険があるこ と,(2)資産効果によるIS曲線とLM曲線のシフトの合成結果として,財政 政策の効果がプラスの方向に増幅されるなどの指摘が行われた。

3 モデルとデータ

3. 1 モデル

 本研究では,計量分析のためのモデルであるセントルイス・モデルは,乗 数型モデルであるA-J型と成長率型モデルであるA-C型のともにシンプルな セントルイス・モデルの両方を採用することにした.したがって,採用され るこれらのモデルは,基本的にはA-C型のモデルのみを扱った廣江[34]や A-J型およびA-C型の両モデルを扱った伊藤・廣江・北川[16]で採用され たシンプルなセントルイス・モデルとなる.なお,中央銀行がマネーサプラ イをコントロールできるか否かに関する「マネーサプライ論争」には未だ決

(9)

着がついていないが,本研究では金融政策によってマネーサプライのコント ロールが可能であるという前提に立って分析をすすめる.

 したがって,経済活動水準を表すYを従属変数とする誘導型モデルは,

    Yt=Y(Mt, Gt) (5)  

とする.

 ここで経済活動を表す尺度Yとしては,GDP(国内総生産)と鉱工業生産指 数の2通りの場合を考慮する.これまでこのアプローチを適用した研究にお いては,経済活動の水準をはかる尺度として財貨サービスに対する支出(国民 総支出)が採用されてきた.しかし,金融自由化が加速した1980年半ば以降,

金融政策運営の中間目標であるマネーサプライM2+CDと最終目標である名 目GNPへの因果性が希薄になったことから,一つに既存の中間目標と因果関 係を示す新しい最終目標の設定が検討されるようになった.

 宮越[47]の検証もこの一つであり,そこでは金融自由化後の国内の景気 動向を正しく反映する指標として評価されているGDPがはたしてこれまで のGNPに代わる新最終目標となりうるかについて,因果性分析による検証 が行われている.他方,本多他[44]およびTsukada-Miyakoshi[13]では,

1980年代に入り,マネーサプライから所得への因果関係が弱くなったという 結果が報告され,またデータ制約から実体経済変数としてGDPに代わって 鉱工業生産指数を採用した小林[24]をはじめ岩淵[18]および本多他[44]

による同じ変数を用いた検証結果から,宮越[47]では,最終目標として の鉱工業生産指数についての検討の必要が指摘されている.これに対して,

Morimune-Zhao[8]では,1960年から1990年までの長期時系列を分析対象 としてむしろ名目所得からマネーサプライへの因果性が有意であること,一

方Ikeno[6]では,マネーサプライM2の伸び率から名目GDP成長率へ安

定した因果関係の存在がそれぞれ報告されている.より最近の研究としては,

日銀[32]および宮尾[46]があり,両者とも因果性分析を通じてマネーサ プライの予測力が1990年代後半に入って消滅したとの報告が行われている4)

4)日銀[32]および宮尾[46]を参照.

(10)

 本研究では,とくに経済活動を表す尺度の問題に留意して,経済活動を表 す尺度としてGDPだけでなく,鉱工業生産指数の場合も分析対象とした.

 つぎに,金融政策の尺度Mとしてはマネタリーベースもその一つとして考 えられるが,これまでの研究成果との比較および中間目標として広く認識さ れていることなどから,マネーサプライM2+CDを採用した.また,財政政 策の尺度Gとしては政府支出(公的需要)を採用した.なお,次節で行われる モデルの具体的な推定式は,

    (A-J型モデル:乗数型モデル)

n i=0 m

i=0

    ⊿Yt=Ϸ+

βiMt−i

ϹiGt−iut (6)  

    (A-C型モデル:成長率型モデル)

n i=0 m

i=0

    Y4t=Ϸ+

βiM4t−i

Ϲi G4t−iut (7)  

となる.

3. 2 データと単位根および共和分の検定 

 以下で使用する変数記号とそれぞれのデータはつぎの通りであるが,採用 される変数は実質値である.この点については,これまで一連のセントルイ ス方程式を巡る実証研究に採用されてきた変数は名目値であるが,今回の分 析対象とした期間においては,決定係数およびラグ付き金融政策変数および 財政政策変数のいずれの場合も有意ではなかった.これより本研究の分析結 果は,A-JおよびA-C型のシンプルなセントルイス・モデルを採用するもの の必ずしもこれまでの分析結果と同レベルで比較考察できないかもしれない.

なお,全体の標本期間は1985年第Ⅰ四半期から2001年第Ⅰ四半期までとした.

  Y;実質GDP(GDP)または鉱工業生産指数(IP)

  G;実質政府支出(=政府最終消費支出+公的固定資本形成+公的在庫品増加)

  M; 実質マネーサプライM2+CD( 平 均 残 高 ).ただし季節調整値をGDP

(11)

デフレータによって実質化したもの.

 以上の各変数値はすべて単位10億円.ただし実質値は1990年価格であり,

フロー・データのYGMは季節調整値であり,年率の数字である.

 資料出所は,経済企画庁『国民経済計算年報』の各年版および日本銀行『金 融経済統計月報』の各月版である.

 最初に,これらの変数についてまず単位根検定を行う.検定方法として はWeighted Symmetric(tau)検 定(Wtd.Sym),Augmented Dickey-Fuller検 定

(Dickey-F),Phillips-Perron検定(Phillips)の3つの方法を適用した.検定結果 は第 1 表(レベル変数の単位根検定結果)および第 2 表(1次階差変数の単位根検 定結果)に示した通りである.これらの結果は,すべての変数がI(1)である

Test Statistics

GDP M IP G

Wtd.Sym. −0.49144 −0.50384 −1.74052 −1.67303

Dickey-F −1.90214 −2.60606 −2.48558 −0.95232

Phillips −2.09004 −3.84448 −6.12878 −4.33705

P-values

GDP M IP G

Wtd.Sym. 0.99407 0.99384 0.80025 0.83055

Dickey-F 0.65356 0.27711 0.33521 0.95020

Phillips 0.96785 0.89553 0.73517 0.86614

Number of lags

GDP M IP G

Wtd.Sym. 6 3 5 2

Dickey-F 6 3 5 3

Phillips 6 3 5 3

第 1 表 レベル変数の単位恨検定の結果

(12)

ことを示している.

 モデルに含まれる変数がすべてI(1)であると判定されたので,つぎ にA-J型およびA-C型の各モデルを構成する各変数間の共和分関係につい て,Engle-Grangerの 方 法 とJohansenの 方 法 を 採 用 し て 検 定( 共 和 分 検 定:

Cointegration Test)した.その結果,これら2つのいずれの方法においても,

変数間[YMG]に共和分関係なしという帰無仮説は棄却されない.したがっ て,以下の分析においては,変数間に共和分関係なしという前提にたって分 析をすすめることとした.

4 因果性テスト

 前節の考察にもとづいて,A-J型およびA-C型モデルの推定を行う前に,

グランジャー因果性テストを用いて経済活動の尺度であるGDP(国内総生産)

Test Statistics

DGDP DM DIP DG

Wtd.Sym. −2.62280 −3.01743 −3.22242 −5.44246

Dickey-F −2.50914 −2.80008 −3.07173 −5.29547

Phillips −64.75163 −41.76614 −34.56765 −54.22639

P-values

DGDP DM DIP DG

Wtd.Sym. 0.22284 0.081013 0.045592 0.000062722

Dickey-F 0.32341 0.19691 0.11312 0.000057675

Phillips 3.07205D−06 0.00064098 0.0032151 0.000036411 Number of lags

DGDP DM DIP DG

Wtd.Sym. 9 2 4 2

Dickey-F 9 2 4 2

Phillips 9 2 4 2

第 2 表 階差変数の単位恨検定の結果

(13)

あるいは鉱工業生産指数Yと財政政策の尺度である政府支出(公的要需)Gお よび金融政策の尺度であるマネーサプライM2+CD Mなどとの間の因果関係 について検証する.

 通常,グランジャーの方法による因果性テストを行う際には,経済変数が 定常であることを前提とするが,非定常な場合には階差モデルか,あるいは 近年の時系列分析における成果を取り入れた誤差修正モデルが適用される.

しかし,近年においてこれまでの方法に比べてより簡便で実用的な2つの方 法がToda-Phillips[11]とToda-Yamamoto[12]によってそれぞれ提案され ている.両方法ともレベル変数によるVARモデルの推定結果から得られるワ ルド統計量を用いて因果性の検証が行われるが,Toda-Phillipsの方法が共和 分関係ありの条件付きであるのに対して,Toda-Yamamotoの方法は単位根や 共和分に関する事前のテストを行うことなく適用できるという特徴をもつ5). これらの方法は,日本でも小林[24]や宮越[47]をはじめとする先行研究 および廣江[37]や伊藤・南波[17]によって紹介され,GDPなどの実体経 済変数とマネーサプライなどの金融変数の間の因果関係分析に適用されてい る6)

 ここでは,変数間に共和分の関係が存在しないという共和分検定の結果を 受けて,両モデルを構成する[YMG]の3変量VARモデルに,上記2 通りの因果性テストの一つである事前に単位根や共和分の検定を必要としな

いToda-Yamamotoの方法を適用して,各変数間の因果関係を検証する7).な

お,分析の際の標本期間について,前節で採用した全期間(1985年第Ⅰ四半期

〜2001年第Ⅰ四半期)の場合に加えて,経済・金融構造の変化の存在も考慮し て期間を限定した場合(1985年第Ⅰ四半期〜1998年第Ⅳ四半期、1991年第Ⅰ四半 5 )これらの方法についての詳細については,廣江[37],伊藤・南波[17]を参照.

6 )廣江[35]・[36]および[37]では,Toda-PhillipsToda-Yamamoto2つの方法と誤差修正 モデルによる因果性テストを使用して,金融変数と実体経済変数間の因果関係の検証が行われて いる.

7 )なお,第2表の検定結果より,各変数が階差をとることによって単位根をもつという帰無仮説 が棄却されることから,階差モデルによるグランジャー因果性テストも可能である.

(14)

期〜2001年第Ⅰ四半期)についても分析対象の期間とした.また,ラグの長さ はAIC基準などを参考にして7期を選択する.

4. 1 全期間の場合

 Toda-Yamamotoの方法を適用したテスト結果が第 3 表⑴と⑵である。⑴は 経済活動の尺度をGDPとした場合であり、⑵は経済活動の尺度を鉱工業生産 指数とした場合である。表の数値は表中の左の欄に示される変数から上の欄 に示される変数への因果性を検定するワルド統計量であり,カッコ内の数値 はχ2乗分布の裾の確率を示すP-valueである.

 第3表⑴と⑵のテスト結果を整理すると,つぎのようになる.⑴の場合に おいては,GDPからマネーサプライへの因果性が認められないことを除いて,

検証対象となる他の各変数間には高度に有意な双方向の因果性が認められる.

ただし,政府支出からマネーサプライへの因果性については有意水準5%の もとで認められる.また,⑵の経済活動の尺度をGDPではなく鉱工業生産指 数にした場合にも,有意水準5%で鉱工業生産指数からマネーサプライへ因

⑴経済活動の尺度:国内総生産の場合

GDP M G

GDP 2.19469(0.33376) 10.41092(0.0054865)

M 23.57103(7.61405D−06) 15.16595(0.00050905)

G 25.71206(2.61035D−06) 6.87999(0.032065)

( )内はP-value

⑵経済活動の尺度:鉱工業生産指数の場合

IP M G

IP 5.15162(0.076092) 6.32701(0.042277)

M 36.08177(1.46199D−08) 17.42924(0.00016417)

G 50.43891(1.11514D−11) 6.87250(0.032185)

( )内はP-value 第 3 表 因果性テストの結果

(15)

果性が認められないことを除いて,検証対象となる他の各変数間には高度に 有意な双方向の因果性が認められる.なお,この場合には同水準で政府支出 とマネーサプライ間には双方の因果性が認められる.

 以上の分析結果にもとづいて,本研究では財政金融政策が実体経済に影響 を及ぼすというセントルイス・モデルが示す因果性は正当化されるものと考 える8)

4. 2 期間限定した場合

 つぎに,期間限定した場合について,全期間を分析対象とした場合に適用 した方法と同様の手順で因果性分析を行う.そのテスト結果が,第 4 表⑴ 1985年第Ⅰ四半期から1998年第Ⅳ四半期までと⑵1990年第Ⅰ四半期から 2001年第Ⅰ四半期までである.期間⑴と期間⑵のテスト結果を整理すると,

つぎのようになる.期間⑴の場合には,全期間の場合と類似した結果を得るが,

GDPと鉱工業生産指数ともにマネーサプライへの因果性についてはより低い

有意水準10%のもとで認められる.このことは期間⑵の場合についても当て

はまる.

 以上の分析結果にもとづけば,期間限定をした場合についても全期間を分 析対象とした場合と同様にセントルイス・モデルが示す因果性は正当化され る.

8 )廣江・伊藤[38]においても,拡張された総支出関数を構成する7変量VARモデルでの因果性 テストの結果を得たうえで,総支出関数の推定作業が行われている.

第 4 表 因果性テストの結果

⑴1985年第Ⅰ四半期〜1998年第Ⅳ四半期   経済活動の尺度:国内総生産の場合

GDP M G

GDP 5.81220(0.054689) 16.8286(0.00022176)

M 12.74398(0.0017088) 13.74803(0.0010343)

G 19.90436(0.000047624) 7.50521(0.023457)

( )内はP-value

(16)

5 A-J

型および

A-C

型モデルの推定

 モデルの推定に際しては,近年の時系列分析の成果を考慮して,単位根検 定および共和分検定を行い,その結果にもとづいて誤差修正モデルの適用が 検討される.しかし,他の方法として,モデルに含まれる変数がすべて非定 常であっても,見せかけの回帰を回避できるCochrane-Orcutt法によるモデル 推定も可能である9).したがって,ここでは先の共和分検定による結果も考 慮し,Cochrane-Orcutt法を適用してA-J型およびA-C型モデルを推定するこ   経済活動の尺度:鉱工業生産指数の場合

IP M G

IP 5.25498(0.072260) 6.90290(0.031700)

M 54.81451(1.25078D−12) 10.98537(0.0041168)

G 49.68369(1.62676D−11) 9.42250(0.0089935)

( )内はP-value

⑵1991年第Ⅰ四半期〜2001年第Ⅰ四半期  経済活動の尺度:国内総生産の場合

GDP M G

GDP 7.69571(0.021325) 46.47145(8.10688D−11)

M 10.58759(0.0050227) 13.74803(0.0010343)

G 27.74077(9.46604D−07) 7.50521(0.023457)

( )内はP-value

 経済活動の尺度:鉱工業生産指数の場合

IP M G

IP 7.91371(0.019123) 16.39044(0.00027597)

M 19.95785(0.000046367) 44.79088(1.87838D−10)

G 32.77090(7.65400D−08) 19.03867(0.000073419)

( )内はP-value

9)この点については,Hamilton[4],p.561-562および廣江・伊藤[38],246ページを参照.

(17)

ととした.

 いずれの推定モデルも分布ラグ・モデルであるとし,アーモン・ラグ推定 法を併用する.これより,ここでの具体的な推定式は前節で示した(6)式お よび(7)式となる.また,1985年第Ⅰ四半期から2001年第Ⅰ四半期までの 全期間を分析対象とした場合に加え,先と同様に金融制度改革などの諸制度 改革による経済・金融構造の変化の存在を考慮して,期間を限定した場合(1985 年第Ⅰ四半期〜1998年第Ⅳ四半期,1991年第Ⅰ四半期〜2001年第Ⅰ四半期)につい ても推定することとした.

 なお,セントルイス型のモデル(総支出関数)を巡る問題の一つに誘導型ア プローチそのもののに関する批判があるが,そのアプローチが依然として有 効であるとの廣江・伊藤[38]での論及から本研究でも採用した10)

5. 1 全期間の場合

 まず最初に,使用するデータと標本期間は前節と同じ1985年第Ⅰ四半期か ら2001年第Ⅰ四半期までを全期間として分析を行う.なお,ラグをどこまで 含めるかは,各変数について3期から12期までのラグをとってSBICおよび AIC基準による長さの選択も参考にしつつ,決定係数およびt統計量にもと づいて最も良好な推定結果が得られる場合のラグを選択することとした.そ の結果,金融政策の尺度であるマネーサプライMについては,ラグは5とした.

他方,財政政策の尺度である政府支出Gについては,ラグは4とした.

 推定結果はつぎの通りである.経済活動の尺度がGDPの場合の推定結果は 第 5 表,鉱工業生産指数の場合は第 6 表であり,すべてラグ付き説明変数の 推定結果を掲載したものとなっている11).なお両表とも,2つのタイプのモ デルすなわち⑴A-J型モデル(乗数型モデル)と⑵A-C型モデル(成長率モデル)

の場合についてそれぞれ掲載した.

10 )蓑谷教授などによる誘導型アプローチに対する批判に応えたものである.廣江・伊藤[38],6-8ペー ジを参照.

11 )階差変数でなく,レベル変数表示の総支出関数の推定では,決定係数は大きく改善されること になったが,ここでの本来の目的ではないのでその分析結果は割愛することとした.

(18)

(推定結果の吟味)

 それでは,以上のようなA-JやA-Cなどによる本来のセントルイス型のモ デル,いわゆるセントルイス方程式の推定結果にもとづいて,財政・金融の 両政策効果をどのように評価するべきであろうか.決定係数の低さを考慮す ると,本研究で試みたきわめてシンプルなセントルイス型のモデルによる分 析は一考を必要とするかもしれない.

 さて,経済活動の尺度がGDPの場合においては,決定係数は若干低いも

⑴乗数型モデルの推定結果

  Adjusted R−squared=0.393514     Durbin−Watson statistic=2.04313   Rho(autocorrelation coef.)=−0.233185  Standard error of rho=0.127687

係数推定値 t値 係数推定値 t値

β0=0.1231 1.3848 Ϲ0=1.1555 4.2054 β1=0.1206 2.7599 Ϲ1=0.3894 2.4955 β2=0.1204 2.0546 Ϲ2=0.05973 0.3363 β3=0.1227 2.0860 Ϲ3=0.1664 1.0807 β4=0.1275 2.6240 Ϲ4=0.7094 2.7467 β5=0.1346 1.3524

Σβi=0.7490 5.304 ΣϹi=2.480 3.783

⑵成長率型モデルの推定結果

 Adjusted R−squared=0.443796     Durbin−Watson statistic=2.05501   Rho(autocorrelation coef.)=−0.230794  Standard error of rho=0.127761

係数推定値 t値 係数推定値 t値

β0=0.1111 1.2381 Ϲ0=0.1901 4.0932 β1=0.1110 2.6528 Ϲ1=0.06085 2.3373 β2=0.1118 1.9653 Ϲ2=0.003056 0.1014 β3=0.1133 1.9985 Ϲ3=0.01675 0.6493 β4=0.2212 2.6494 Ϲ4=0.1019 2.2813 β5=0.1186 1.2494

Σβi=0.6812 6.077 ΣϹi=0.3727 3.479 第 5 表 経済活動の尺度:国内総生産GDPの場合

(19)

のの,乗数型モデルでは金融政策および財政政策の効果はともに有効であり,

財政政策の効果の方が相対的に大きいと判断される.他方,成長率型モデル でも,いくつかのラグ変数に有意性の問題が残るが両政策の有効性について はほぼ同様のことがいえるであろう.しかし,この場合には財政政策の効果 が金融政策の効果と比較して極端に低くなる12)

⑴乗数型モデルの推定結果

  Adjusted R−squared= 0.186442    Durbin−Watson statistic=1.98251   Rho(autocorrelation coef.)=0.226747  Standard error of rho=0.127886

係数推定値 t値 係数推定値 t値

β0=2.6445D−05 0.7630 Ϲ0=−5.5931D−05 −0.5162

β1= 5.8414D−05 2.9074 Ϲ1=−3.2615D−05 −0.04502

β2= 7.2531D−05 3.0630 Ϲ2=  1.7262D−05  0.2189 β3= 6.8795D−05 2.8722 Ϲ3=  5.6384D−05  0.07978

β4= 4.7206D−05 2.1202 Ϲ4=−3.8131D−05 −0.3655

β5= 7.7639D−05 0.1984

Σβi=0.2812E−03 3.888 ΣϹi=−0.7442E−04 −0.2432

⑵成長率型モデルの推定結果

  Adjusted R−squared= 0.185138    Durbin−Watson statistic=2.00388   Rho(autocorrelation coef.)=0.257073   Standard error of rho=0.126893

係数推定値 t値 係数推定値 t値

β0=0.1334 0.7672 Ϲ0=−0.06867 −0.7627 β1=0.2641 2.7757 Ϲ1=−0.01883 −0.3100 β2=0.3150 2.8508 Ϲ2=−0.001576 −0.02372 β3=0.2861 2.5887 Ϲ3=−0.01692 −0.2835 β4=0.1775 1.7850 Ϲ4=−0.06486 −0.7346 β5=0.1857 −0.05898

Σβi=1.165 3.925 ΣϹi=−0.1709 −0.6721 第 6 表 経済活動の尺度:鉱工業生産指数の場合

12 )なお,金融政策の尺度をマネタリー・ベースとした場合に,いずれの場合も決定係数が一段と 低くなること,また,マネタリー・ベースのラグ係数推定値の有意性に問題が発生することを報 告しておく.

(20)

 これに対して,経済活動の尺度が鉱工業生産指数の場合には,いずれのモ デルにおいても決定係数が極端に低くく,経済活動の尺度としての鉱工業生 産指数とする推定モデルに問題があることを示す結果となっている.財政政 策の効果はもちろんであるが,金融政策の効果も推定値の大きさを考えると ほとんど有効でないとの結論に落ち着く.

 したがって,経済活動の尺度をGDPとした乗数型モデルの推定結果に限定 するならば,これまでのわれわれの研究成果と同じく金融政策は有効である が,日本においてはアメリカの場合と異なり,財政政策の有効性が高いとい うことが特徴となっている.これは,本研究の分析対象である1985年以降の 戦後類をみない激動の日本経済のもとで制度改革や構造変化を生起させてき た期間を考えるとき,きわめて興味深いことといえるであろう.

5. 2 期間限定した場合

 上記分析対象とした期間は,バブル経済の生起と崩壊,その後の長期にわ たる不況と日本版ビッグバンに象徴される経済・金融制度改革を含む戦後の 日本経済の中で類をみない激動期間である.当然のことながら,経済・金融 構造の変化が認められる場合には,それを考慮した推定を行う必要がある.

したがって以下では,上記期間を限定した(1)金融制度改革後の影響を除く 期間(1985年第Ⅰ四半期〜1998年第Ⅳ四半期)と,(2)バブル経済の拡張期を除 く期間、すなわちバブル崩壊とその後の長期不況期(1991年第Ⅰ四半期〜2001 年第Ⅰ四半期)の2つの場合について,全期間を推定した場合と同様に2つの タイプのモデルについて推定を行った13).推定結果は第 7 表⑴と⑵であるが,

比較的結果が良好と考えられる経済活動の尺度をGDPとした乗数モデルの場 合のみを掲載した.

 これに対して,経済活動の尺度を鉱工業生産指数の場合においては,いず れの場合にも決定係数が極端に低く,ほとんどのラグ変数の推定値も有意で なかった.一方,成長率型モデルにおいて,経済活動の尺度をGDPとした

13)後者の期間については,サンプル数のことを考慮した期間である.

(21)

場合には決定係数は低くなり,ラグ変数の推定値もほとんどが有意でなかっ た14).また,経済活動の尺度を鉱工業生産指数とした場合には,いずれの型 のモデルにおいても決定係数が極端に低く,ほとんどのラグ変数の推定値も 有意でなかった.

(推定結果の吟味)

 推定結果から明らかなように,対象期間(1)の場合の方が対象期間(2)

⑵乗数型モデル:1991年第Ⅰ四半期〜2001年第Ⅰ四半期

 Adjusted R−squared= 0.194364     Durbin−Watson statistic=2.02722   Rho(autocorrelation coef.)=−0.181452  Standard error of rho=0.155489

係数推定値 t値 係数推定値 t値

β0=0.1607 1.1678 Ϲ0=1.0563 2.7806 β1=0.1192 1.6734 Ϲ1=0.3204 1.4360 β2=0.09478 0.9561 Ϲ2= 0.01880 0.07903 β3=0.08739 0.8307 Ϲ3=0.1514 0.7571 β4=0.09704 1.1332 Ϲ4=0.7183 2.1963 β5=0.1237 0.9271

Σβi=0.7490 5.304 ΣϹi=2.265 2.531 第 7 表 経済活動の尺度:国内総生産GDPの場合

⑴乗数型モデル:1985年第Ⅰ四半期~1998年第Ⅳ四半期

 Adjusted R−squared= 0.509256     Durbin−Watson statistic=2.26174   Rho(autocorrelation coef.)=−0.379973   Standard error of rho=0.136383

係数推定値 t値 係数推定値 t値

β0=0.1002 1.3020 Ϲ0= 1.0334 3.5908 β1=0.1348 3.8067 Ϲ1= 0.4499 3.0377

β2= 0.1524 3.1376 Ϲ2= 0.1967 1.0676

β3= 0.1528 3.1219 Ϲ3=0.2737 1.8537

β4=0.1362 3.4795 Ϲ4=0.6809 2.3957 β5= 0.1024 1.2302

Σβi=0.7788 6.849 ΣϹi=2.635 4.265

14)これより,成長率型モデルによる推定結果は省略することとした.

(22)

の場合と比較して,決定係数およびラグ変数の推定値が良好である.しかも,

全期間を分析対象とした場合と比べても,決定係数およびラグ変数の推定値 を上回っている15)

 以上を整理すると,オリジナルまたはシンプルなセントルイス・モデル(A-J 型モデル)を使用した限りにおいては,財政金融の両政策とも有効であり,こ れまでの研究成果と同じような財政政策の方が金融政策よりも効果が大きい との結論を得ることができる.より厳密には,1998年以降の期間を分析対象 期間から除けば、上記のことがより支持される.換言すれば,1998年4月以 降から本格化する金融制度改革と押し寄せる金融再編の大きなうねりの中,

2000年に入ると金融政策運営の転換などが行われるなど,これまでの経済・

金融構造を根底から揺るがしているとみることができる.また,このことは 日銀[32]や宮尾[46]で取り上げられている金融政策運営におけるマネー サプライの役割について,よりいっそう詳細な検討が必要であることを示唆 する一つとなるであろう.

6 む す び

 これまで財政金融政策の効果については,多くの研究者によって,理論的・

実証的分析が行われてきた.とくに実証的な研究としては,IS-LMモデルか ら導出される誘導型としての総支出関数アプローチ(セントルイス方程式)が ケインジアン対マネタリスト論争に大きな波紋を投げかけることとなり,日 本においてもこれを巡って多くの研究が行われてきた.

 本研究では,伊藤・廣江[14]にはじまるわれわれの一連の研究成果を踏 まえて,A-Jなどによって考案・適用されたセントルイス方程式の原型に近い 型のモデルを1985年以降にはじまる日本の激動の経済に再度適用して,財政 政策と金融政策の有効性に関する検討を試みた.

 その結果,いくつかの点で問題はあるものの,乗数型モデルにおいてこれ

15 )なお,この傾向は掲載を割愛した鉱工業生産指数の場合の期間限定した場合および成長率型モ デルによる推定結果においても当てはまる.

(23)

までのわれわれの研究成果とほぼ同じ分析結果が得られた.これは1985年以 降の激動の日本経済を考えるとき,きわめて興味ある結果といえよう.しかし,

今回の分析結果には,以前の分析結果と比較して決定係数が低く,変数の有 意性に問題が残るなど,オリジナルまたはシンプルな形でのセントルイス・

モデルによる分析に限界の可能性が考えられる.したがって,廣江・伊藤[38]

で展開された資産効果を含むオープン・モデルのように,現実経済に対して より整合的と考えられる拡張したモデルの設定などが今後の課題となろう.

加えて,推定の際に採用された変数の的確さや経済データの整合性など,依 然多くの問題点を残したままの分析となっている.このことから,これらの 点を踏まえたさらなる検討が必要であることはいうまでもなく,本研究はあ くまでも出来る限り原型に近いセントルイス・モデルの適用による分析であ ることを断るものである.

(24)

【参考文献】

[1]Ande rsen L.C. and K.M.Carlson, (1970) A Monetarist Model for Economic Stabilization, St. Louis Review, Apr. (St.Louis Review, Vol.68,No.8,pp.45- 66;reprint)

[2]Ande rsen L.C. and J. L. Jordan, (1968) Monetary and Fiscal Actions:A Test of Their Relative Importance in Economic Stabilization, St.Louis Review, Nov. (St.Louis Review, Vol.68,No.8, pp.29-44; reprint)

[3]Philli ps, P. C. B. and P. Perron, (1988) Testing for a Unit Root in Time Series Regression, Biometrika, Vol.75, pp.335-346.

[4]Hamilton, J. D., (1994) Time Series Analysis, Princeton University Press.

[5]Hans en, B. E., (1992) Test for Parameter Instability in Regressions with I (1) Prosess, Journal of Business & Economic Statistics, Vol.10, No.3, pp.321-335.

[6]Iken o, H., (2001) Causality from Money Supply Growth to GDP Growth in Japan, 『金 融経済研究』No.17, pp.49-69.

[7]Maddala, G. S., (1992) Introduction to Econometrics, 2nd edition, Prentice-Hall.

[8]Mori mune, K. and G. Q. Zhao, (1997) Unit Root Analysis of the Causality between Japanese Money and Income, Japanese Economic Review, No.48, pp.343-367.

[9]Paga no, M. and R. J. Hartley, (1981) On Fitting Distributed Lag Models Subject to Polynominal Restriction, Journal of Econometrics, Vol.16, No.2, pp.171-198.

[10]Pant ula, S. G., G. Gonzalez-Farias and W.A.Fuller, (1994) A Comparison of Unit-Root Test Criteria, Journal of Business and Economic Statistics, Vol.12, pp.449-459.

[11]Toda ,H. and P. C. B. Phillips, (1993) Vector Autoregressons and Causality, Econometrica, Vol.61, pp.1367-1393.

[12]Toda , H. and T. Yamamoto, (1974) Statistical Inference in Vector Autoregressions with Possibly Integrated Processes, Journal of Econometrics, Vol.66, pp.225-250.

[13]Tsuk ada, Y. and T. Miyakoshi, (1998) Granger Causality between Money and Income for the Japanese Economy in the Presence of a Structural Change, Japanese Economic Review, Vol.49, pp.191-209.

[14]伊藤 史 朗・ 廣 江 満 郎,(1976)「 金 融 政 策 の 有 効 性   セ ン ト ル イ ス・ モ デ ル

(25)

による計量的分析  」『経済学論叢』(同志社大学)第23巻第5・6号,

pp.37-54.

[15]伊藤 史朗 ,(1976)「金融政策の効果に関する計量分析」『経済学論叢』(同志社大学)

第24巻第4・5号,pp.1-25.

[16]    ・廣江満郎・北川雅章,(1990)「マネーサプライ,財政支出と名目GNP  

セントルイス方程式の再検討  」『経済学論叢』(同志社大学)第41巻第3 号,pp.179-217.

[17]    ・南波浩史,(1998)「金融政策の波及経路  グランジャー因果性テストに

よる実証分析  」『経済学論叢』(同志社大学)第49巻第4号, pp.94-115.

[18]岩淵 純一,(1990)「金融変数が実体経済に与える影響について  モデルによる 再検討  」『金融研究』(日本銀行金融研究所)第9巻第3号,pp.79-118.

[19]小川一夫,(2003)『大不況の経済分析』日本経済新聞社.

[20]小佐野広・本多佑三編著,(2000)『現代の金融と政策』日本評論社.

[21]折谷 吉治,(1979)「マネーサプライおよび財政支出と名目GNPの関係について」『金 融研究資料』(日本銀行)第1号,pp.37-48.

[22]木村 武・小林洋史・村永淳・鵜飼博史,(2002)「ゼロ金利制約の下でマネタリーベー スの増加が日本経済にもたらした効果:実証分析」『日本銀行調査月報』(日 本銀行)12月,pp.61-69.

[23]黒木祥弘,(1999)『金融政策の有効性』東洋経済新報社.

[24]小林 孝次,(1995)「マネーサプライのコントロールと産出高への影響  最新の 方法によるグレンジャー因果性の検定  」『創価経済論集』第24巻 第4号,

pp.77-85.

[25]小宮 隆太郎・日本経済研究センター編,(2002)『金融政策論議の争点』 日本経済 新聞社.

[26]佐志 田晶夫,(1983)「総支出関数の計測結果について」『日本経済研究』(日本経 済研究センター)No.12,pp.87-99.

[27]新保生二,(1979)『現代日本経済の解明』多賀出版.

[28]    ,(1980)「マネタリストモデルによる日本経済分析の有効性」『週間東洋経済:

近代経済学シリーズ』(東洋経済新報社)No.52,pp.112-121.

(26)

[29]鈴木 淑夫,(1975)「日本におけるマネー・サプライの重要性について」 『調査月報』

(日本銀行)7月,pp.1-19.

[30]中原伸之,(2002)『デフレ下の日本経済と金融政策』東洋経済新報社.

[31]中村 洋一,(1982)「名目国民総支出とマネーサプライ」『ESP』(経済企画協会)

No.118,2月,pp.32-34.

[32]日本 銀行,(2003)「金融政策に果たすマネーサプライの役割」『日本銀行調査月報』

(日本銀行)1月,pp.69-126.

[33]林敏 彦・松浦克己編著,(2002)『金融変革の実証分析』(郵政研究所研究叢書)日 本評論社.

[34]廣江 満郎,(1989)「セントルイス・モデルの再考  Pagano-Hartley法の適用を めぐって  」『大阪商業大学論集』(大阪商業大学)第84 号,pp.79-97.

[35]    ,(1997a)「金融政策と金融指標の選択」『経済論集』(関西大学)第46巻第5号,

pp.197-216.

[36]    ,(1997b)「信用と実体経済」『経済学論叢』(同志社大学)第48巻第3号,

pp.81-100.

[37]    ,(1998)「マネーサプライM2+CD,銀行貸出と実体経済変数  グランジャー

の因果性テストを中心として  」『経済論集』(関西大学)第47巻第6 号,

pp.125-143.

[38]    ・伊藤史朗,(1999)「開放経済体系における資産効果と財政金融政策  誘 導型アプローチによる計量的分析  」『経済論叢』(関西大学)第49巻第2 号,pp.87-110.

[39]    ,(2001)『資産効果と財政金融政策  資産効果に関する理論・ 実証分析  』

関西大学出版.

[40]深尾光洋・日本経済研究センター編,(2000)『金融不況の実証分析』日本経済新聞社.

[41]   ・吉川洋,(2000)『ゼロ金利と日本経済』日本経済新聞社.

[42]細野 薫・杉原茂・三平剛,(2001)『金融政策の有効性と限界  90年代日本の実 証分析  』東洋経済新報社.

[43]本多 佑三,(1994)「金融変数,実物変数そして金融政策:近年の実証分析の展望」

『金融経済研究』第6号,pp.5-26.

(27)

[44]    ・上岡孝一・洞口紳也,(1995)「金融情報変数とタイムラグ」,本多佑三編『日 本の景気』有斐閣,所収,pp.157-193.

[45]蓑谷千凰彦,(1997)『計量経済学』多賀出版.

[46]宮尾 龍蔵,(2005)「金融政策運営におけるマネーサプライの役割」,岩本康志・橘 木俊詔・二神孝一・松井彰彦編『現代経済学の潮流2005』東洋経済新報社,所収,

pp.75-99.

[47]宮越 龍義,(1996)「金融変数から実物変数への因果性検定  金融自由化の影 響  」『ファイナンス研究』第21号,pp.103-120.

(28)

The Doshisha University Economic Review Vol.57 No.3

Abstract

Mitsuro HIROE, An Econometric Test of Monetary Effect on Economic Activity: An Analysis by St. Louis Model

  This study pays attention to the test of the policy effect given by St. Louis model (inducement approach) which turned out to be one of the macro economic policy disputes between Keynesians and Monetarists, and then applies this approach to Japanese economy which experienced the agitation after 1985 and tests the effectiveness for monetary and financial policies. This test brought us the similar result to that of the analysis we had made; that is, both the financial and monetary policies were effective. However, the time which this result is applied to covers only the period before 1999 with regard to the change of economic and monetary structure.

参照

関連したドキュメント

The results of this study suggest a possible approach to investigate the impact of flexibility on product quality and, finally, with extensions and enrichment of the model, may lead

A knowledge of the basic definitions and results concerning locally compact Hausdorff spaces and continuous function spaces on them is required as well as some basic properties

Therefore, we presuppose that the random walk contains a sufficiently large number of steps, so that there can be an equivalent to finite partial sums of both sums in (2.13)

The aim of this leture is to present a sequence of theorems and results starting with Holladay’s classical results concerning the variational prop- erty of natural cubic splines

The main observation is that each one of the above classes of categories can be obtained as the class of finitely complete categories (or pointed categories) with M-closed

In this paper we develop the semifilter approach to the classical Menger and Hurewicz properties and show that the small cardinal g is a lower bound of the additivity number of

arXiv:1101.2075 (2011)), we claimed that both the group algebra of a finite Coxeter group W as well as the Orlik–Solomon algebra of W can be decomposed into a sum of

As an application of this technique, we construct a free T -algebra functor and the underlying T -monoid functor, which are analogues of the free monoidal category functor and