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: 下降音調と肯定的な応答

著者 須藤 潤

雑誌名 コミュニカーレ

号 5

ページ 1‑19

発行年 2016‑03

権利 同志社大学グローバル・コミュニケーション学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000014461

(2)

日本語感動詞の音韻的な形式と 意味に関する一考察

―下降音調と肯定的な応答―

須 藤   潤

1.はじめに―感動詞の下降音調と肯定的な応答

発話の冒頭や末尾,あるいは単独で現れる「あ」「うん」「え」「お」「わ」「は い」といった感動詞や応答詞1は,相手の意見に対する同意や納得といった,

話し手の意図や態度を示すなど,会話の進行に一定の役割を担っている。し かし,その音韻的な形式は特徴的である。具体的には,「あ」「え」「お」が 母音音素のみで構成されるように,音節構造は比較的単純なものが多いのに 対して,その音調2のパターンは複雑である。須藤(2008)によると,最高 7 種類の音調パターンが見られるという。そして,その音調パターンに意 味3が結びついている。だが,表記の上では判断がつかないことが多いため,

感動詞の音韻的な形式と意味を整理することは,日本語の話しことばの指導 に有益な情報を提供することとなる。

さて,感動詞の様々な音調パターンと意味のうち,下降音調が伴う感動詞 について,定延(2015)は,納得・応諾の内部状態と結びつく感動詞が下降 音調で発せられる傾向があると指摘している。確かに,下降が伴うア˺ーや エ˺ー4などは,納得・応諾といった「肯定的な応答」の場面に共通して現 れるものの,「ア˺ーは思いついたようなニュアンスがある点で,エ˺ーとは 異なる」(須藤 2008:37)というように,異なる語である限り,意味するもの が異なるということは当然考えられる。

しかし,その違いについてさらに深く考えると,エ˺ーの時には,果たし てどのようなニュアンスがあるのだろうか,という疑問が浮かぶ。下降がな く短めのアは,思いついたときに発せられることが多いから,ア˺ーにもそ

『コミュニカーレ』5(2016)1−19

©2012 同志社大学グローバル・コミュニケーション学会

(3)

の意味が反映されて,「思いついたようなニュアンス」があるのではないか と推測できる。一方,同様に下降がなく短めのエは,相手から意外なことを 聞き驚いたときに発せられることが多いが,エ˺ーにその意味が反映されて いるようには,単純には思えない。このような韻律的特徴と意味との対応関 係については,個々の感動詞について,十分検討されていないように思える。

そこで,本稿では,このような韻律的特徴と意味との関係,特に,あ系感 動詞およびえ系感動詞5における下降音調と肯定的な応答との対応関係を,

聴取実験の結果をもとに検討する。以下ではまず,日本語のアクセント・イ ントネーション,そして,感動詞の意味と音調についての先行研究に触れ,

本稿での議論の方針を述べる。次に,聴取実験の概要と結果について述べ,

その結果をもとに,あ系・え系の双方の感動詞の下降音調の解釈の違いにつ いてまとめ,さらに,その下降音調を音韻的にどのように記述すべきかにも 触れる。

2.先行研究

2.1 日本語のアクセントとイントネーション

まず,感動詞の音調を記述するための枠組みとしてのアクセントとイント ネーション,そして,感動詞の音調について音韻的にどのような記述が試み られているかを述べる。

アクセントとは,個々の単語(厳密にはアクセント単位6)に指定された,

強さや高さに関する一定した「社会習慣的型」(服部 1951:190)を指す。日 本語の単語は,高さについて社会習慣的な型を持つ「高さアクセント(ピッ チ・アクセント)」を有している。アクセントというと,英語のように,単 語の中に置かれる「強勢(ストレス)」そのもの,あるいは,日本語であれば,

弁別的なピッチの変化点である「アクセント核」そのものを指すこともある

(例えば,早田 1999)が,ここでは採用しない。本稿では,「アクセント」

という語は日本語のアクセント体系やアクセント型を意図して用いることと し,個々の単語における弁別的なピッチの変化点は「アクセント核」ないし は「核」と呼び,区別する。

このように,日本語のアクセントは各単語に付随している声の高さの特徴

(4)

であるのに対し,イントネーションは,アクセントの特徴の上に加えて表現 される声の高さの変化である(杉藤 1983)。例えば,東京方言で,ア˺メと 発音すれば雨のことで,ア˹メと発音すれば飴のことである。これがアクセ ントである。一方で,ア˺メ↗,ア˹メ↗のように7,どの単語であっても,

語末を急激に上昇させると,通常,相手に何らかの応答を要求する意図,い わゆる疑問と解釈されるように,どの単語にも適用される声の上げ下げの要 素をイントネーションと呼ぶ。

すると,「雨?」という疑問文の場合は,アからメにかけての下降は「雨」

のアクセント(具体的にはアクセント核)によるもの,そして,メの上昇は イントネーションによるものと区別される。しかし,ピッチの分析に当たっ ては,それがアクセントによるものかイントネーションによるものか,ある いは他の言語的・非言語的な要因によるものかを峻別することが困難なこと もあるため,本稿では,観察される音の高さの変動を一言で言い表すものと して「音調」(郡 2003)と呼ぶことにする。

感動詞の音調については,川上(1992)のように,「はい」「ええ」「うん」

などの語音が音調の乗り物に過ぎない,つまり音調を捨象すればこれらの語 が意味を失い,そのため,語ではなくなってしまうこと,その結果音調は,

ある場合,単語の意味と同様の意味を表す,という指摘もある。しかしなが ら,「はい」「ええ」「うん」はたとえ同じ下降音調で,肯定的な応答という 共通の意味があるとしても,相互に入れ替えできない場合は多いので,ひと まず,各々を独立した語と考えたほうがよいだろう。須藤(2008)では,1 音節の感動詞について,アクセントの体系で説明できる限りアクセント(有 核と無核)で説明し,できないところはイントネーション(文末音調)で記 述するという方法を採用している。

2.2 感動詞の意味

次に,感動詞の意味はどのように記述されてきたかという点について,あ 系・え系感動詞の意味を中心に触れる。辞書的な記述には,「驚き」「感動」

など心的な変化を示す概念的な表現や,「肯定」「承諾」といった,談話機能 的な表現が用いられることが多いが,近年の研究(田窪・金水 1997,冨樫

(5)

2005,須藤 2008 など)では,話し手の心的な情報処理過程を踏まえて記述 されていることが大きな特徴である。

え系感動詞については,田窪・金水(1997)では,「えっ」や「ええ?」

といった表記で,「意外・驚き 1」に分類されている。この分類は,対話の ために準備された知識ベースと矛盾したり関連性が低かったりするような情 報を受け取ったことを表明するもののうち,専ら対話のみに用いられるもの である。また,「ええ」という表記で,「応答 1」にも分類されている。これは,

相手の発話を入力した承認(acknowledgement)の標識である。また冨樫

(2005)はえ系感動詞の機能を「まとまった情報を獲得した上での,データベー スへのアクセスを標示する」と統一的に記述した上で,下降調イントネーショ ンの場合は処理の完了・確定,上昇調イントネーションは処理の未完了・失 敗と記述している。

一方,あ系感動詞については,田窪・金水(1997)では,「ああ」という 表記で「応答 1」に分類されている。また,「あ」「あっ」という表記で「発見・

思い出し」にも分類されている。これは,自分で発見した情報を新規に登録 する際の標識で,特に知識データとの矛盾・関連性の不十分さを表明すると いう機能はないという。

そして,須藤(2008)では,それぞれの音調パターンについて,アクセン ト・イントネーションで記述した上で,対応する意味の記述を試みた。表 1 にまとめる。

表 1 あ系感動詞とえ系感動詞の音調パターンと意味

(須藤(2008)をもとに作成)

あ系感動詞 え系感動詞

有核+平調 入力情報の処理結果表示(肯定的な結果表示)

有核+強調型上昇調 入力情報の処理結果表示

(落胆・不安・不満)

無核+疑問型上昇調 入力情報の処理結果表示(理解不能)

無核+平調 or強調型上昇調

長 入力情報の処理結果表示

(未知の情報の格納)

短 入力情報の処理開始表示

(6)

表 1 の左列には,感動詞の音調パターンとして,アクセント型(アクセン ト核の有無)と,郡(2003)の文末音調との組み合わせが書かれている。「有 核+平調」はほぼ下降のみの音調であるが,この場合はどちらも入力情報の 処理結果表示,具体的には肯定的な結果を表示する,としている。一方で,「無 核+平調or強調型上昇調」は下降が伴わず,平坦または,わずかに上昇す る音調であるが,こちらは,長短で意味が大きく異なる。短いものは入力情 報の処理開始表示で,あ系・え系それぞれについて,話し手の認識の突発的・

瞬間的な変化を表示するという意味である。具体的には,あ系であれば,「発 見・思い出し」のように,話し手が自分で発見した情報を新規に登録した瞬 間を示し,え系であれば,「意外・驚き」のように,知識ベースと矛盾した り関連性が低かったりするような情報を受け取った瞬間を示している8

以上をまとめると,感動詞の意味記述に話し手の心的な情報処理過程を踏 まえている点では共通しているが,田窪・金水(1997)や冨樫(2005)など では,主に,意外・驚き,発見・思い出し,応答,といった,感動詞の語あ るいは意味ごとに心的な情報処理過程を想定しているのに対して,須藤

(2008)では,音韻的な形式との対応を考慮した上で,心的な情報処理過程 の開始の瞬間を示しているのか,結果を示しているのかという,過程のタイ ミングに着目している,と言える。

3.本稿で明らかにしたい点

本稿では,下降音調を持つ感動詞に共通する意味である肯定的な応答につ いて,あ系感動詞およびえ系感動詞を対象に検討する。その上で,明らかに したいことは,以下の 3 つである。

第一に,下降音調のあ系感動詞,え系感動詞は果たして肯定的な応答と認 識されるのかという点である。つまり,下降音調と意味との必然性に関する 点である。これについては,下降と平坦のピッチで合成した刺激音を用いた 聴取実験により判断する。

第二に,仮に両者とも共通して肯定的な応答と認識される場合であっても,

あ系の場合に「思いついたというニュアンス」が伴うという指摘を踏まえれ ば,肯定的な応答の意味に微妙な違いがある可能性がある。聴取実験で,あ

(7)

系感動詞とえ系感動詞の間での回答のパターンの違い,そして,その違いが 何に由来するかを考察することにより,「肯定的な応答」の性質の違いにつ いて考える。

そして第三に,肯定的な応答と認識される感動詞の下降音調は,各々の感 動詞において,アクセントと解釈されるべきか,イントネーションと解釈さ れるべきかという問題である。今回の実験結果をもとに,その可能性につい て指摘する。

4.聴取実験

あ系感動詞・え系感動詞の下降音調と意味との関係を明らかにするために,

日本語母語話者を対象に,下降・平坦の 2 種類のピッチパターン9,および,

5 段階の持続時間で合成した感動詞の音声を聞いてもらい,各々の刺激音が,

肯定的な応答の意味として認識できるかどうか回答を求めた。あ系感動詞・

え系感動詞とも,「ああ」「ええ」「あ」「え」などと表記されることからも,

持続時間にはある程度の幅があることが予想される。そのため,下降の有無 に加え,持続時間も意味の判断に影響を与えるかについても分析を行ってい る。

以下,4.1 節では,上述の実験方法についてやや詳しく述べ,4.2 節では,

その結果について述べる。

4.1 実験方法 4.1.1 刺激音

刺激音はあ系・え系とも,筆者(北海道出身 30 歳代男性)の音声を用いて,

ピッチパターンおよび持続時間を変えた合成音声を作成した。

ピッチパターンについては下降・平坦の 2 種類を作成した。元の音声は下 降音調のア˺ー,エ˺ーであるので10,下降については,その下降幅をそのま ま用いた。両者ともにF0(基本周波数)の最大値から 5 半音程度(ア˺ーは 5.1 半音,エ˺ーは 4.8 半音)の下降である。また,平坦については,元の音 声で下降が始まる点から,その時点での高さ,つまり,F0 の最大値(ア˺ー は 146Hz,エ˺ーは 140Hz)を維持するように合成した。

(8)

持続時間については,元の音声の下降幅を維持した上で,200msから 400msまで 50ms刻みで 5 段階(200ms, 250ms, 300ms, 350ms, 400ms)で作 成した。持続時間については,音声波形を参照し,定常部を測定している。

図 1 に,あ系・え系感動詞のF0 曲線の例として,いずれも持続時間が 300msで,下降および平坦のピッチパターンで合成したものを示している。

下降の場合,持続時間に関係なく下降幅が一定なので,全体の持続時間が長 くなればなるほど,下降の傾きが緩やかになるとともに,下降にかかる時間 も長くなる。一方で,短くなればなるほど,下降の傾きは急になり,下降の 時間も短くなる。

刺激音は全部であ系・え系感動詞,それぞれ 10 種類(ピッチパターン 2 種類×持続時間 5 種類)作成した。

4.1.2 実験参加者と回答方法

実験参加者は 14 名で,全員が 20 〜 23 歳の大学生である。性別は男性が

図 1 合成音声の F0 曲線

(左列:あ系感動詞,右列:え系感動詞,上段:下降,下段:平坦,持続時間は 300ms)

Time (s)

0 0.4108

Pitch (Hz)

100 150 200

50 70

Time (s)

0 0.4108

Pitch (Hz)

100 150 200

50 70

Time (s)

0 0.4377

Pitch (Hz)

100 150 200

50 70

Time (s)

0 0.4377

Pitch (Hz)

100 150 200

50 70

(9)

4 名で,女性が 10 名である。出身地別では,近畿地方が 9 名,広島県が 2 名,

その他,石川・新潟・宮城県が各 1 名である。

実験参加者には,前節の方法で作成された刺激音を 1 種類ずつ提示し,そ の刺激音がどのような印象に聞こえるか,二者択一で回答を求めた。あ系感 動詞を提示する場合は,「何かを思い出した印象(思い出し)」と「相手の質 問に肯定的に応答した印象(肯定的な応答)」の中から,え系感動詞の場合は,

「相手の発言に驚いた印象(驚き)」と「相手の質問に肯定的に応答した印象

(肯定的な応答)」の中から,それぞれより強く感じる方を選んで回答しても らった。

「肯定的な応答」「思い出し」「驚き」という選択肢は,須藤(2008)の「入 力情報の処理結果表示(肯定的な結果表示)」(肯定的な応答)と「入力情報 の処理開始表示」(思い出し・驚き)にあたるものである。思い出しのニュ アンスが「肯定的な応答」に伴うかどうかを確認する目的があるため,あ系・

え系それぞれの「入力情報の処理開始表示」に相当する「思い出し」「驚き」

を,「肯定的な応答」のペアの選択肢となるように採用した。

実験はまず,実験 1 として,あ系感動詞の 10 種類の刺激音に対し,回答 を求めた。その後,実験 2 として,え系感動詞の 10 種類の刺激音に対し,

回答を求めた。どちらの実験においても,1 問につき刺激音を 1 種類ずつ,

二回繰り返して聞いてもらった上で,回答を求めた。また,1 種類の刺激音 に対して,二度回答が得られるように,同じ刺激音を提示する問題を 2 問作 成し,10 種類の刺激音からなる計 20 問をランダムに並べた。異なるタイミ ングで別々に回答を求めることで,実験への慣れや疲れ等の影響を抑える目 的がある。また,同様の目的で,この 20 問以外に,実験結果に含めないダミー の問題を最初と最後に 3 問ずつ挿入している。

4.2 実験結果 4.2.1 あ系感動詞

図 2 は,実験 1 の結果を示したものである。縦軸には,10 種類の刺激音 が並んでおり,上の 5 つが下降,下の 5 つが平坦のピッチパターンである。

また,持続時間は下降・平坦とも,上から順に長くなっている。

(10)

横軸は,当該の刺激音に対する回答の割合を示したものである。これを見 ると,まず,平坦では持続時間の長短に関係なく,おおむね「思い出し」が 選択されていることがわかる。ただし,持続時間が比較的長い,300~400ms において,わずかに「肯定的な応答」の回答も見られる。

一方,下降の場合は,全体的に「肯定的な応答」が優勢ではあるが,持続 時間で特に短くなければ,おおむね 2~3 割程度「思い出し」を選択している ことがわかる。また,200msのように,特に持続時間の短い刺激音では,「思

0% 20% 40% 60% 80% 100%

ୗ㝆䞉200ms

ୗ㝆䞉250ms

ୗ㝆䞉300ms

ୗ㝆䞉350ms

ୗ㝆䞉400ms ᖹᆠ䞉200ms ᖹᆠ䞉250ms ᖹᆠ䞉300ms ᖹᆠ䞉350ms ᖹᆠ䞉400ms

⫯ᐃ ᛮ䛔ฟ䛧

図 2 実験 1(あ系感動詞)の聴取実験結果

0% 20% 40% 60% 80% 100%

ୗ㝆䞉200ms

ୗ㝆䞉250ms

ୗ㝆䞉300ms

ୗ㝆䞉350ms

ୗ㝆䞉400ms ᖹᆠ䞉200ms ᖹᆠ䞉250ms ᖹᆠ䞉300ms ᖹᆠ䞉350ms ᖹᆠ䞉400ms

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図 3 実験 2(え系感動詞)の聴取実験結果

(11)

い出し」が半数を超えていた。

4.2.2 え系感動詞

図 3 は,実験 2 の結果を示している。実験 1 の図 2 と同様のグラフで,縦 軸に刺激音の種類,横軸に回答の割合を示している。

これを見ると,下降の場合は,ほぼすべてにおいて,「肯定的な応答」と 選択されていた。200msにわずかに現れていた「驚き」の回答はすべて,実 験 2 の 4 問目,つまり,最初のダミーの問題の直後の回答であったことを考 えると,回答者が実験に十分慣れていない中で選択した回答とも考えられる。

そして,平坦の場合は,持続時間に関係なく,すべて「驚き」と選択して いた。

5.考察

前節の実験結果をもとに,以下の考察では,3 節で提示された 3 つのポイ ントについて考える。5.1 節では,実験結果をまとめた上で,下降音調と肯 定的な応答との関係について,あ系・え系感動詞の間の共通点と相違点につ いて議論する。5.2 節では,肯定的な応答の意味を持つ感動詞の下降音調は,

あ系・え系感動詞それぞれにおいて,アクセントと考えるべきか,イントネー ションと考えるべきか,その可能性について指摘する。

5.1 下降音調は肯定的な応答と認識されるのか?

4.2 節の実験結果から,あ系・え系感動詞とも,先行研究の指摘通り,下 降のピッチパターンにおいて,全体的には肯定的な応答と解釈される傾向が あることがわかる。

しかしながら,両者の回答パターンは大きく異なる。あ系感動詞の場合は,

下降であっても,平坦での回答のほとんどを占めていた「思い出し」と解釈 されることがあり,特に,持続時間の短い 200msのものは,「肯定的な応答」

とも「思い出し」とも解釈されやすかった。ところが,え系感動詞の場合は,

下降のピッチパターンはほとんどが「肯定的な応答」,平坦はすべて,「驚き」

と解釈された。4 節で触れた通り,下降でわずかにあった「驚き」の回答は

(12)

すべて,実験開始直後で回答に慣れていない状況であったことも考慮に入れ ると,下降は「肯定的な応答」,平坦は「驚き」,とピッチパターンの違いで,

回答がはっきりとわかれていた。

以上,実験結果をまとめると,下降音調のえ系感動詞は,ほぼ 100%「肯 定的な応答」と解釈されるのに対し,下降音調のあ系感動詞は,「肯定的な 応答」とともに,持続時間が短いものを中心に,「思い出し」とも解釈された。

この結果は,1 節で述べた,ア˺ーは肯定的な応答の意味とともに「思いつ いたようなニュアンス」があるという指摘を支持している。なぜ,下降音調 のあ系感動詞は,解釈に揺れが生じるのだろうか。

そこで,2.2 節で取り上げた,話し手の心的な情報処理過程の先行研究を もとに,あ系感動詞の意味を再構築した上で,解釈に揺れが生じた原因の説 明を試みる。

あ系感動詞の語彙的な意味として,「話し手自身が発見した情報を新規に 登録する」という情報処理過程を設定する。その上で,この語彙的な意味が,

音調パターンに応じて,処理のどの部分に注目しているかが変わり,結果と して,具体的に解釈可能な意味も変わってくると考える。

まず,平坦のピッチで現れる場合,情報処理過程自体に注目した意味,つ まり話し手自身が発見した情報を新規に登録したことに注目した意味とな る。今回の実験結果によると,平坦は「思い出し」と解釈されたが,これは,

今まで話し手の意識になかったものが,何かのきっかけで突然話し手の意識 に上ったことを示していると解釈できる。

次に,下降のピッチの場合,情報処理過程が終了した後の結果に注目した 意味,つまり,話し手自身が発見した情報を新規に登録した後の状態に注目 した意味とする。この「後の状態」とは,思い出したり,発見したりした後 の話し手の状態を示すことになるが,その状態は多様であり,感動詞自体の 細かい韻律的特徴によって,その状態をある程度区別することは可能である と考えるが,具体的にどういった状態かを聞き手が十分把握するためには,

感動詞や発話全体の韻律的特徴のみならず,前後の文脈などの言語的な情報,

さらには,顔の表情といった非言語的な情報も必要となると考える。

そういった,多様な状態を示す中でも,少なくとも,思い出したり,発見

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したりしたことと強く結びつく状態と,弱く結びつく状態があると考える。

具体的には下の作例のBのように,テストについて忘れそうになっていた ところを思い出して,安心したような状態も想定できれば,B'のように,「テ ストが来週だ」ということは,あまり意識になかったが,特に否定すべきこ ともなく,そのまま受け入れているような状態も想定できよう。どちらも下 降音調ではあるが,Bのような発話の場合は,比較的思い出しの意味が強く 感じられるのに対して,B'の発話の場合は,比較的弱く感じられると考え られる。

A : テストって来週だよね。

B : ア˺ー,忘れるところだった。

B' : ア˺ー,そうだよ。

ここから考えると,単なる下降のア˺ーということだけでは区別がつきに くいことがわかる。今回の実験で実験参加者は,単なる下降だけでは意味の 判別がつかず,持続時間の長短や,それに伴う下降の緩急を手がかりに,「思 い出し」と「肯定的な応答」のどちらの意味がより想定しやすいかを判断し,

回答したものと思われる。

今回は,どちらかの意味を必ず選択してもらう実験であったが,「思い出し」

「肯定的な応答」という発話意図を明示した上でBやB'のような文脈,さ らには今回の実験よりさらに多様な韻律的特徴を持つ刺激音を提示し,どの ような韻律的特徴を持つあ系感動詞が自然か判断してもらう実験を行うこと で,それぞれの意味によりふさわしい韻律的特徴を観察することが可能であ ろう。「思い出し」「肯定的な応答」にふさわしい韻律的特徴が異なる場合も あれば,重なっている場合も考えられる。

なお,感動詞の音声的特徴については,後続発話にかけての音調パターン が発話意図に影響を与える可能性も指摘されている(須藤 2014)ことから,

後続発話も含めた上で,より肯定的な応答らしい,より思い出しらしい韻律 的特徴を明らかにする必要もあるだろう。

(14)

5.2 下降音調はアクセントかイントネーションか?

前節では,あ系・え系感動詞とも下降音調はおおむね「肯定的な応答」と 対応することを確認した上で,あ系は,持続時間が短いものを中心に,「思 い出し」にも解釈される一方,え系については,持続時間に関係なく,「肯 定的な応答」と解釈されると述べた。また,平坦な音調は,あ系はほぼ「思 い出し」,え系はすべて「驚き」と解釈されていた。

このような意味と韻律的特徴との関係から,肯定的な応答に見られる下降 音調をどのように記述できるのか,考えてみる。

須藤(2008)では,2 節で触れた通り,あ系感動詞・え系感動詞については,

アクセント型として有核・無核の両方があると記述した。しかし,今回の実 験のあ系感動詞に見られるように,下降でも平坦でも,「思い出し」と解釈 され,さらに,下降の場合は,持続時間の長短・下降の緩急に応じて,「肯 定的な応答」とも解釈されたことを考えれば,平坦の音調である無核と比べ て,下降音調である有核の場合は,意味的に不安定となってしまい,これを もってアクセントが付与されるべき語と判断してよいのか疑問が生じる。む しろ,意味的に不安定な要素は,下降のイントネーションによって反映され る,話し手の意図や態度と考えたほうが自然かもしれない。

そこで,1 音節感動詞の下降音調の記述の可能性の 1 つとして,無核+下 降調という記述方法も候補として挙げることができると考える。あ系感動詞 の場合は,「話し手自身が発見した情報を新規に登録する」こと,つまり,

発見や思い出しを語彙的な意味として持つものと考える。音調が平坦となる 無核のアクセント型では,そのまま発見・思い出しといった意味を持つもの とし,下降のイントネーションが伴うことにより,肯定的な応答の解釈も生 じるという考え方である。下降のしかた等の違いにより,例えば,肯定的な 応答としての解釈が強まったり,発見・思い出しの解釈が強まったり,とい うように,下降をイントネーションととらえることにより,パラ言語的情報 として連続的な解釈が可能となる。

それに対して,下降と平坦の双方で意味の解釈が安定しているえ系感動詞 については,従来通り,有核・無核の 2 種類のアクセント型を持ち,それぞ れ,肯定的な応答と驚きという離散的な意味を持っているものと考える。こ

(15)

の 2 つは冨樫(2005)が指摘するように,「まとまった情報を獲得した上での,

データベースへのアクセスを標示する」という共通の情報処理過程を持つも のの,一方はアクセスが成功するのに対し,他方は,矛盾があったり,関連 性が低かったりするためにアクセスが成功しないことから,各々が相反する 情報処理過程を背景とした意味を持っていると言える。そのため,各々の意 味は離散的で完全な使い分けがなされているものの,え系感動詞としての共 通性もあることから,1 つの語を 2 つのアクセント型で使い分けている,と 考える。なお,1 つの語が異なるアクセント型を持ち,それぞれが異なる意 味で使い分けている例としては,ナガシ(尾高型では台所など,頭高型では タクシーなど)などがある(上野 1984)。

6.おわりに

以上,あ系感動詞とえ系感動詞について,下降音調と意味との関係,そし て,その音調の記述について,聴取実験の結果をもとに議論した。まず,下 降音調を持つあ系・え系感動詞はおおむね肯定的な応答と解釈される傾向が 見られた。しかし,あ系感動詞については,肯定的な応答と同時に思い出し とも解釈され,下降音調において意味的に不安定であった。それに対して,

え系感動詞については,平坦は驚き,下降は肯定的な応答というように,意 味的に安定していた。このことから,同じ感動詞の下降音調とはいえ,両者 では性質の異なる意味解釈が見られた。これを根拠に,この下降音調を,音 韻的にどう記述するかについて,従来の有核のアクセント型として記述する 方式の他に,無核+下降調というイントネーションを組み合わせた音調記述 を提案した。その上で,あ系感動詞の下降音調はイントネーションによる下 降,一方,え系感動詞の下降音調は有核のアクセント型によるもの,という ように,音韻的には異なる形式で記述されうることにも触れた。

1 音節感動詞は,このほかにも,うん系,お系など,多様な音調をもつも のは幾つかある。それぞれが実際にどのような韻律的特徴を持ち,どのよう な音韻的な形式で記述可能で,そして,どのような意味解釈が可能であるか を,聴取実験以外にも,音声会話コーパス等の観察等により,検討する必要 がある。特に,「ああ」「あっ」「あー」「あ?」など,書きことばでもある程

(16)

度定まった表記があるが,それが,どのような音韻的な形式と対応している かについては,ほとんど議論がない。このことからも,音声データを扱った 研究により,感動詞を音韻的な枠組みに位置付けたうえで,意味の検討を行っ ていく必要があるだろう。

1 「ありがとうございます」「そう」といった概念語から転化したものや,「う んうん」といった畳語形式,「よいしょ」「どっこいしょ」といった掛け声・

はやしことばの類は除外して考える。また,本稿では,以下,応答詞も含め,

「感動詞」という語を用いる。

2 2.1 節で触れるように、現実の音声に即した音の高低変化には「音調」とい う用語を用いる。

3 感動詞が語として持つ意味に注目し,本稿では「意味」としているが,対象 となる感動詞は特に,話し手の心的処理過程を示すもの,つまり,話し手の 態度や意図が反映されることも考慮に入れると,「機能」とも重なる概念で あると言える。

4 ˺は下降音調,˹は上昇音調を示している。また,音声として提示する際の 表記としてカタカナを用いる。

5 あ系感動詞は/a/の母音音素で構成された感動詞で,このバリエーションと して,長音化したものや,様々な音調パターンが加わったもの,さらには,

「はー」のように,冒頭に声門摩擦が加わるものなどが含まれる。え系感動 詞も同様に,/e/の母音音素で構成され,上記のようなバリエーションが見 られるものである。

6 服部(1951)では「強め段落」とされているもの。いずれも、おおむね「文 節」に近い概念である。

7 ↗は,疑問文末に見られるような急激な上昇音調を示す。

8 そのほか,急激に上昇し,処理しようとした情報が理解不能である結果を示 す「無核+疑問型上昇調」,あ系で見られる,一度下降し,その後わずかに 上昇し,落胆した時などにため息交じりで発する「有核+強調型上昇調」,

え系で「へえー」と語頭に声門摩擦が伴う形で見られる,初めは平坦でその 後わずかに上昇することもある音調で,相手の話などを一通り聞いたことを

(時に,関心の有無をも)表す「無核+平調or強調型上昇調」の音調パター ンも見られるが,ここでは詳しい説明は割愛する。

(17)

9 本稿の論点を踏まえれば,下降するものについても,下降幅の小さいもの,

大きいものというように,いくつかの段階を設けるべきであるが,今回は,

回答者の負担を大きくはできなかったため,刺激音の種類を制限せざるを得 なかった。今後の本格的な実験の準備段階と位置づけ,2 種類のピッチパター ンによる結果で考える。

10 ア˺ーには,F0 曲線上ではじめにわずかな上昇が認められる。聴覚的には 全く認識されないものであるので,ここでは,エ˺ーと同列に扱っている。

<参考文献>

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郡史郎(2003)「イントネーション」『音声・音韻』(朝倉日本語講座 3)109-131, 朝倉書店.

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(19)

A Study of the Phonological Form and Meaning of Japanese Interjections: Falling Pitch as

an Affirmative Response

Jun SUDO

Keywords: Japanese interjection, falling pitch, affirmative response, intonation, pitch accent

The correlation between a phonological form and the meaning is in general arbitrary, whereas a consistent correlation can be found in terms of Japanese interjections. Interjections such as /a/, /un/, /e/, and /o/ with falling pitch tend to be interpreted as affirmative responses. However, there seems to be no experimental study that has examined the equivalence of such a meaning for each interjection.

In the study reported in this paper, I focused on the meaning “affirmative response” and the interjections /a/ and /e/. These interjections each consist of single vowel and var y in duration and pitch patterns. I examined the correlation between the phonological form and meaning of the interjections by means of a perceptual experiment.

Fourteen native speakers of Japanese born mainly in Kinki Region listened to various /a/ and /e/ stimuli, varying in terms of durations(five between 200 and 400ms)and two pitch patterns(falling and flat). Upon hearing each stimulus, they were required to indicate whether it expressed “recalling” or an

“affirmative response” for /a/, and “amazed” or an “affirmative response” for /e/.

These native speakers interpreted almost all /e/ stimuli with falling pitch as affirmative responses. Although they interpreted many /a/ stimuli with falling pitch as affirmative responses, some were interpreted as recalling, as

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were almost all /a/ stimuli with flat pitch.

Thus, the interjections /a/ and /e/ with falling pitch were generally interpreted as affirmative responses. However, /a/ with falling pitch has a variable meaning, as it was also sometimes interpreted as recalling, depending on its prosodic features, whereas /e/ has a constant meaning: falling pitch was consistently interpreted as an affirmative response, and flat pitch as amazed.

On the basis of these meaning interpretations of the interjections /a/ and /e/, I suggest that the falling pitch of an interjection could be described as a non- nuclear accent with falling intonation, which can convey paralinguistic information.

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参照

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