新島襄達」 : 日本語・日本文化教育センター「同 志社を学ぼう〜同志社建学の精神と新島襄の生涯」
9年間の授業から考える
著者 高岸 雅子, 飯塚 まり
雑誌名 同志社大学日本語・日本文化研究
号 17
ページ 113‑145
発行年 2020‑03
権利 同志社大学日本語・日本文化教育センター
URL http://doi.org/10.14988/pa.2020.0000000219
要 旨
同志社大学は、その創立の経緯から私立大学であることを誇りとし、また、同 志社建学の精神の教育を学生に対して活発に行っている。建学の精神は、主に創 立者である新島襄1の生涯を語ることで伝えられ、主に日本人学生を対象とした 新島に関する講座やプログラムも多い。しかし、盲点はないのだろうか。本稿は、
2011 年度から 2019 年度にかけて、700 名以上、35 か国を超える留学生に対して行 われてきた「同志社を学ぼう〜同志社の建学の精神と新島襄の生涯」の授業の感 想レポートと、そのレポートから抽出されたキーワードで構成された質問紙によ る調査(2019 年度秋学期実施)の結果をまとめたものである。この授業は、同志 社大学日本語・日本文化教育センターの「日本の文化」の科目のうちの 1 コマで 行われている。調査から明らかになったことは、留学生は、同志社の建学の経緯 や新島襄のことをほとんど知らずに同志社にやってくるが、この授業で新島の生 涯を知ることにより、多くの留学生が同志社で学ぶことの意義を確認する。欧米 系留学生と中国人留学生とでは、強い印象を受ける部分に違いがあるものの、新 島襄が留学したように、日本にやってきた留学生達は、いわば「ミニ新島襄」で ある。言葉の壁がある彼らにしっかりと、新島襄の生涯について伝えることで、
建学の精神の教育を積極的に行うことは、人口減少社会の日本において優秀な外 国人人材を確保、育成するという時代の要請であり、「国際主義」を謳う同志社の 使命であり、また同志社のダイバーシティ推進の精神にものっとったものであろ う。
キーワード
日本語 新島襄 建学の精神 ダイバーシティ 留学生教育
同志社建学の精神教育の盲点と海外から来た「ミニ新島襄達」:
日本語・日本文化教育センター「同志社を学ぼう〜同志社建学 の精神と新島襄の生涯」9 年間の授業から考える
Blind Spots of Doshisha's Founding Spirit Education and Future Joseph Hardy Neesima from Abroad: Findings of
9 year teaching of Doshisha's Founding Spirit and the Life of Joseph Hardy Neesima
高岸 雅子・飯塚 まり
1 はじめに
同志社大学は、日本で最も古い私立大学であり、創立者の新島襄が、その教育理念 を守るためにあえて官立になることを選ばなかった大学である。その創立の経緯から 私立大学であることを誇りとし、また、同志社建学の精神についての教育を学生に対 して活発に行っている。建学の精神は、主に新島襄の生涯を語ることで伝えられ、同 志社大学には、主に日本人学生を対象とした新島に関する講座やプログラムも多い。
しかし、同志社大学の建学の精神、新島襄教育に盲点はないのか。もし盲点があると すれば、それは何か。
本稿では、盲点の一つは留学生、それも日本語の学習途上か、全く日本語の話せな い留学生に対しての教育ではないかということを論じる。同志社大学で学んでいる留 学生にも、その創立の経緯や新島のことを伝える意義があるのではないだろうか。
そういう疑問を出発点として、本稿では、2011 年から 2019 年にかけて、700 名以上、
35 か国を超える国からやってきた留学生に対して行われてきた「同志社を学ぼう〜同 志社の建学の精神と新島襄の生涯」の授業の感想レポートと、そこから抽出されたキー ワードで構成された質問紙による調査(2019 年度秋学期実施)の結果をまとめた。こ の授業は、日本語・日本文化教育センター(以下、日文センター)の「日本の文化」
の科目のうちの一コマの授業で留学生に対して行われているものである。わずか一コ マの授業で新島襄のことを学んだ留学生は、どのような感想を抱くのであろうか。新 島襄が留学生となり日本人初の学士となったように、留学生たちはいわば現代の「ミ ニ新島襄」である。日本人学生以上に、彼らは新島襄に何かを感じるということもあ るかもしれない。またその感想は、彼らの出身国によって違いがあるのではないだろ うか。
本稿では、この「はじめに」に続き、次項において、「同志社を学ぼう〜同志社の建 学の精神と新島襄の生涯」の授業についての説明を行う。そこで、筆者である高岸が 担当してきた 2011 年度から 2019 年度にかけての科目の概要や、授業内容、教材の工 夫などが述べられる。
次に第三項において、調査方法が述べられる。本稿は、2011 年度から 2019 年度春 学期にかけて行われた授業の感想レポートの読み込みを第一段階とし、第二段階では、
それを元に質問紙を作成し 2019 年度秋学期に当該授業を受講した留学生に質問紙調査 を行った。
第四項においては、質問紙調査の結果を分析し、報告を行った。その際、欧米系留 学生と中国人留学生との比較も行っている。
第五項は、「まとめと考察」、および「同志社大学への提言」である。本稿の分析は 粗いものではあるが、傾向は明らかである。まず留学生は、同志社の建学の経緯や新 島襄のことをほとんど知らずに同志社にやってくる。そして、この授業で新島の生涯 を知ることにより、多くの留学生が新島襄に鼓舞され、同志社で学ぶことの意義を確
認する。大学内において日本語で行われている新島襄や建学の精神に関する活発な教 育活動を考えると、海外から来た「ミニ新島襄」である留学生を対象とした同様の授 業はわずかしかない。そのため、同志社建学の精神や新島について知る機会がない留 学生が多いことは誠に残念である。人口減少社会の日本において優秀な外国人人材を 確保、育成するということは「国際主義」を標榜する同志社の社会的使命であろう。
また同志社ダイバーシティ推進の精神からも、この点につき改善の可能性を提言する。
2 「同志社を学ぼう~同志社建学の精神と新島襄の生涯」の授業と科目 2.1 科目について
「同志社を学ぼう〜同志社建学の精神と新島襄の生涯」の授業は、高岸が日文セン ターにおいて留学生を対象に 2011 年度から 2019 年度にわたって担当した複数の科目 の中の一コマ(90 分)である。もともとは、2008 年度秋学期から 2010 年度秋学期まで、
当時はオムニバス科目であった「日本の文化A(日本文化の諸相)」において脇田里子 が担当していた。この科目には高岸も関わっていたのだが、その後、科目担当者の改 変を経て、高岸が、2011 年度春学期から 2014 年度秋学期の「日本の文化A(日本文化 の諸相)」、2015 年度秋学期から 2019 年度秋学期の「日本の文化特講A」、2015 年度秋 学期から 2019 年度秋学期の「日本の文化特講C」の中で教えてきた。
「日本の文化A(日本文化の諸相)」と「日本の文化特講A」はともに、日本語初級 前期レベル(Ⅰレベル)と初級後期・初中級レベル(Ⅱ、Ⅲレベル)の留学生を対象 にした科目である。「日本の文化特講C」は、日本語初中級から超上級レベルの中国人 を中心とした留学生を対象としている(各科目の授業概要は、参考資料 1 〜 3 にまと められている)。
表 1 は、当該科目を履修した留学生数をまとめたものであるが、2011 年から 2019 年 までの合計は 710 名にのぼる。また表 2 は、留学生の国籍別にまとめたものであり、
36 か国に及んでいる。また欧米系とアジア・アフリカ系が約半々となっており、中国、
アメリカ合衆国が突出して多い(学期ごとの留学生数の詳細に関しては、参考資料 4、
5 にまとめられている)。
表 1 各科目の留学生数(2011 年度春学期~ 2019 年度秋学期)
科目名
「日本の文化A(日本文化の諸相)」
(2011 年度〜 2014 年度)
「日本の文化特講および A」
(2015 年度〜 2019 年度)
日本の文化特講 C
(2015 年度〜 2019 年度) 合計
留学生数 512 198 710
表 2 当該科目を履修した留学生の国籍別人数
地域 国名
日本の文化A 日本の文化特講A
(2011 〜 2019) 留学生数
日本の文化特講C
(2015 〜 2019)
留学生数 留学生数合計
ヨーロッパ フランス 21 21
ドイツ 20 20
イギリス 14 14
アイルランド 11 11
フィンランド 10 10
スイス 7 7
デンマーク 6 6
ロシア 5 5
スペイン 4 4
アゼルバイジャン 3 3
ノルウェー 1 1
ポーランド 1 1
スウェーデン 1 1
イタリア 1 1
北米 アメリカ合衆国 193 193
カナダ 5 5
中南米 メキシコ 2 2
ブラジル 1 1
コロンビア 1 1
オセアニア オーストラリア 19 19
ニュージーランド 4 4
キリバス 1 1
小計(欧米・中南米・オセアニア) 331 331
アジア 中国 108 190 298
韓国 33 2 35
台湾 19 3 22
マレーシア 5 5
タイ 3 2 5
フィリピン 2 2
日本 2 2
カンボジア 2 2
シンガポール 1 1
ラオス 1 1
ベトナム 1 1 2
中近東 イラン 2 2
アフリカ モザンビーク 1 1
ジンバブエ 1 1
小計(アジア・中近東・アフリカ) 181 198 379
合 計 512 198 710
2.2 授業の概要
「同志社を学ぼう〜同志社建学の精神と新島襄の生涯」の授業は、大きく 2 つに分か れている。授業の前半は講義である。まず同志社の教育の原点が「良心教育」である ことを伝える。そして、同志社の教育は「キリスト教主義」「自由主義」「国際主義」
の 3 つの教育理念に基づいていることを伝える。続いて「新島襄の生涯」を紹介する。
授業の後半は今出川キャンパスツアーの時間となる。留学生を 2 〜 3 の班に分け、
班ごとに、株式会社同志社エンタープライズから派遣された同志社大学学生のツアー ガイド 2 〜 3 名が引率して今出川キャンパスツアーに出かけ、講義時間の終わりに、
それぞれの場所で解散する。いずれの科目も、授業は日本語のみで行われるのだが、
日本語初級レベル、初中級レベルの留学生が受講する「日本の文化特講A」の授業で は、授業で使用するテキストやパワーポイント画面には、日本語と英語訳を載せている。
一方、初中級から超上級レベルの留学生が受講する「日本文化特講C」の授業のテキ ストやパワーポイント画面は日本語のみである。
また日文センターの日本語の授業では同志社大学、同志社女子大学の日本人学生が、
「日本語授業ボランティア」として活躍しており、当該授業でも、ツアー部分を含め日 本語のサポートを行っている。
2.3 教材の工夫
当該授業の前半、「新島襄の生涯」について説明する際には、能田他(2008)『マン ガで読む新島襄〜自由への旅立ち』と能田他(2010)『続マンガで読む新島襄〜日本初 の私立大学創立への挑戦』の漫画を教材として使用している2。さらに初級・初中級 留学生対象のクラスでは、英語版のNoda(2009)“The Manga Story of Jo Niijima : A Quest for Freedom-” とNoda(2012)“A Sequel to the Manga Story of Jo Nijima : The Challenge to Establish the First Private University in Japan” の英語の台詞も併 せて使用している。
授業の初めにこの漫画の存在を紹介すると、留学生は、「大学の創立者の生涯が漫画 になっているなんてすごい。」と驚く。
授業では、パワーポイント画面に漫画の画像を映し込んだものを示し、まず日本語 の台詞を画面に映し出す。初級・初中級留学生のクラスでは、しばらく時間を置いて から、アニメーション機能を使って英語の台詞を表示する。初級・初中級留学生には まず日本語でどれぐらい理解できるのか試してほしいからである。
この漫画は、新島襄の波乱に満ちた生涯を短い時間で留学生に伝えるために不可欠 である。また漫画には、新島の生涯がドラマチックに描かれているので、授業では、
生き生きとした漫画の画像を提示しながら、時には登場人物の台詞を感情を込めて話 したり、擬音語・擬態語を大きな声で発したりして新島襄の生涯を感動的に紹介した。
図 1 は「自由への旅立ちの瞬間と故郷の人々への郷愁」の場面が描かれている。
図 1 「自由への旅立ちの瞬間と故郷の人々への郷愁」
能田茂・和順高雄(2008)『マンガで読む新島襄〜自由への旅立ち』本井康博監修pp.138-139.
Shigeru Noda, Takao Wajun (2009) “The Manga Story of Jo Niijima : A Quest for Freedom-”, Editorial supervision : Yasuhiro Motoi, Doshisha University.pp.138-139
また、「新島襄の生涯」の授業の進行中に「クイズ」を度々出題した。例えば、「ア メリカにいる新島襄は日本でキリスト教主義の学校を創ろうと決心した。けれどもそ のための資金は全くない。どうしたと思うか。」という質問を投げかけた。正答は「宣 教師の年次大会のスピーチで『日本でキリスト教主義の学校を創立すること』を宣言し、
賛同者から多くの献金を集めた。」である(この場面をパワーポイントに映した漫画の 画像については、参考資料 6 の図 2「新島襄、グレイス教会で寄付をお願いする」を参 照のこと)。このクイズに正しく答えられた留学生は何名かいた。
別のクイズとして、「1880 年に同志社英学校において、クラス編成をめぐり教師と 生徒の間で対立が起こり、学校の措置に不満を持った生徒が集団欠席をした。新島は、
生徒の集団欠席に関わる一連の責任は校長である自分にあると考え、全校礼拝である 行動をとった。それはどんな行動だったと思うか。」というものがある。その回答は、「自 責の杖事件3」と呼ばれ、新島を語る上で決まって登場するエピソードになるのだが、
このクイズに答えられた留学生はいなかった(この場面をパワーポイントに映した漫 画の画像については、参考資料 7 の図 3「自責の杖事件」を参照のこと)。
このような時も漫画の画像が役に立つ。アニメーション機能を使って、ある画像か らストーリーの続きの画像に切り替えると、すぐにクイズの正答を留学生に示すこと
ができる。正答を知ると声を上げて驚く者もいる。このようなクイズを出題すると、
留学生はクイズに答えようと真剣に考えたりクラスメートやボランティアと相談した りすることによって、一方的な講義形式の授業の流れが変わり、授業に参加している という自覚が生まれる。そして正答を聞いてその意外性に驚き、新島が辿ってきた生 涯にますます関心を深めていく様子が見られることもあった。
このように、漫画やパワーポイントのアニメーション機能を使うことで、留学生の 心に強く訴えることができた。留学生の間で「この漫画は大好きだ。」「この漫画を買っ て帰りたい。」との感想が出ており、漫画教材は大好評であった。
3 調査方法
本稿では、「同志社を学ぼう〜建学の精神と新島襄の生涯」の授業が、留学生に対し てどのようなインパクトを与えたのかを調べることを目的としている。そのために、
以下のステップをとる。
第一段階として、2011 年春学期から 2019 年春学期にかけて留学生が提出したレポー トをもとに、留学生がどのような感想を持ったか、どのようなことを学んだかを分析し、
キーワード(キーとなる事柄を含む)ごとに分類した。次に第二段階として、第一段 階で分類されたキーワードを中心にして質問紙を作成し、2019 年秋学期の留学生を対 象に質問紙調査を実施した。
3.1 授業感想レポート(2011 年度春学期~ 2019 年度春学期)の分析
第一段階での分析は、「日本の文化A(日本文化の諸相)」「日本の文化特講A」「日 本の文化特講C」を履修した 9 年分の全留学生によって提出された「同志社建学の精 神と新島襄の生涯」の「授業感想レポート」の文章と、「期末レポート」のうち「同志 社建学の精神と新島襄の生涯」について書かれた文章に対して行った。手作業ではあっ たが、文中に多く見られたキーワードや事項を拾いあげ、グループ化した。なお「授 業感想レポート」とは、各授業終了時に配布し翌週に提出させる A4 サイズ 1 枚の宿 題プリントで、授業の感想や意見を書かせる 2 〜 3 の質問があり、留学生は日本語で 回答する。また「期末レポート」とは、期末試験として「授業の感想レポート」を書 くものである。キーワードの分類などについては、3.2 で詳しく述べることとし、ここ では、留学生がどのような声を挙げているのかを簡単に紹介する。
多かったのが、「鎖国の時代に、国禁を犯し密入国をして、アメリカに渡ったこと」
と「仏教徒の強い反対を受けながらも、京都でキリスト教の学校を創ったこと」に対 する驚きの声である。「同志社大学の創立者は新島襄であることだけは知っていたが、
これほどすごい人物だったのか。」という驚きである。留学生も書いているように、常 人には成し得ないことを新島襄はやってのけたのである。これらの事実を知った留学 生は、新島襄のイメージを「勇敢な」「情熱的な」「実行力がある」など様々な形容詞
で表現していた。
中には新島襄を「大胆な人」と評した留学生もいた。その理由として「新島襄は、
将来の計画も何も立てず、大変な危険を冒して突然アメリカに行った。一人の人間に こんなに熱意があるというのはすごいと思う。」と、あまりに無謀で無計画な行動を、
見つかったら殺されるかもしれない恐怖と戦いながらも、強い意志を持って実行に移 したことに対する驚きの気持ちを書き表していた。
また、「先進的な考えを持つ」という感想もあった。これは、新島が先進国を自分の 目で見、キリスト教をその地で学ぶことによって、将来、日本の近代化を進めるリー ダーを育成するためには、キリスト教主義の高等教育が必要であると考えるに至った という経緯から感じ取られたイメージではないかと考えられる。それに関連して、「今 後の学校教育のあり方に貢献した。」という感想もあった。今の時代だからこそ「良い 心を育む教育」は必要だと考えられるが、まだそのような教育理念がなかった時代に、
新島はいち早く「良心教育」を打ち立てたのである。「良心」という教育理念もまた、
新島の先進的思想を反映したものである。「良心教育」についてある留学生は、「グロー バル化の進む 21 世紀には、良心教育の重要性がさらに増すだろう。」と書いていた。
また、新島襄の教育観を象徴的に示した「諸君よ、人一人は大切なり」という言葉 については授業で触れていなかったが、留学生の「自責の杖事件」についての感想の 中に、「新島先生は、本当に学生一人ひとりを愛していたと思った。」というものがあっ た。こちらから説明しなくても、新島襄の学生に対する深い愛情を自然に感じてくれ たと考えている。
また、同じ留学生の立場としての感想が述べられたものもあった。「肌の色も異なり 流暢な英語も話せない新島襄がアメリカの大学で本当に受け入れられていたのか心配 している。」という感想が書かれていた。同じ留学生という立場で、共感したり身近に 感じたりしたのであろう。
わずかであるが、新島襄を「幸運な人」と評した留学生もいた。新島襄は確かに崇 高な目標に向かってたゆまぬ努力を続けた。けれども新島はその生涯において、数多 くの素晴らしい人々との奇跡とも言える出会いがあったのである。その人々の献身的 な助けや協力がなければ、その崇高な目標は達成できなかったと言える。「本当に神さ まが新島襄を守っていたのでしょう。彼の周りには慈愛に満ちた人がたくさんいまし た。」という感想があった。
一方、「新島襄の生涯を学んで今後の自分の志を新たに持つことができた。」という 感想や、「ここで学べるのは新島先生のおかげである。新島先生に感謝したい。」「この 大学で学べることに誇りを持つ。」という感想も多かった。
さらに、「同志社建学の精神」や「新島襄の生涯」の授業について、「せっかく同志 社大学に留学したのに、同志社の歴史や新島襄先生について全く知らないのはすごく 悲しいことだと思う。」「これまで学ぶ機会がなかったので、この授業で学べてよかっ
た。 また学ぶべきだと思う。」という感想もあった。
またキャンパスツアーに参加した感想として、「これまで通りすがりに眺めていただ けの同志社礼拝堂に初めて入れて嬉しかった、神聖な気持ちになれた。」「いろいろな 建物の歴史について習うことは本当に面白かった。」と書かれていた。またハリス理化 学館については、「キャンパスの中に博物館があるのを知って驚いた。展示されている ものを見て同志社の歴史を感じることができた。」と書いている留学生もいた。
3.2 質問紙の作成
第二段階として、質問紙を作成した。質問紙の作成方法について述べる。
(1) 提出レポートに書かれた文章を読んで、まず「講義の感想」と「キャンパスツアー の感想」の 2 つに分けた。「講義の感想」から、「①新島襄に対するイメージ」「② 新島襄が成した事柄のうち心に響いたこと」「③新島襄について学び自分に変化が あったこと」それぞれについて書かれた文章を取り出した。
(2) 上記 3 つの項目ごとに、書かれている内容をもとにいくつかのキーワードをグルー プ化しカテゴリーに分類した。例えば「①新島襄に対するイメージ」には「勇敢 である」「開拓者精神がある」「情熱的である」「大胆である」などの表現があったが、
それぞれカテゴリーに分けた。上位 14 のカテゴリーをリストアップしたものを表 3 に示した。1 の「勇敢である」と「勇気がある」、または 2 の「開拓者精神がある」
と「チャレンジ精神がある」、さらに 5 の「先進的な考えを持つ」と「先を見通す 力がある」のような 2 つの類似した意味のキーワードはグループ化し、一つのカ テゴリーとした。
表 3 「①新島襄に対するイメージ」についての上位 14 のカテゴリー 1 勇敢である、勇気がある
2 開拓者精神、チャレンジ精神がある 3 困難があっても逃げずに努力する 4 責任感がある優秀なリーダーである 5 先進的な考えを持つ、先を見通す力がある 6 情熱的である
7 自由をこよなく愛する 8 大胆である
9 実行力がある
10 キリスト教精神に溢れている 11 神の慈愛に恵まれている 12 国際的視野を持っている 13 祖国愛が強い
14 一人ひとりの学生を大切にする
(実際に書かれていた文章例については、参考資料 8 に掲載した。)
同じく「②新島襄が成した事柄のうち心に響いたこと」は、事柄によって分類した。
上位 9 つのカテゴリーを表 4 に示す。
表 4 「②新島襄が成した事柄のうち心に響いたこと」の 9 つのカテゴリー 1 国禁を犯して、密入国をしてアメリカに渡った。
2 日本人で初めてアメリカの大学で学位を取った。
3 宣教師の年次大会のスピーチで「日本でキリスト教主義の学校を創立すること」
を宣言し、賛同者から多くの献金を集めた。
4 宣教師の年次大会のスピーチ後、貧しい農夫から 2 ドルの献金を受け取った4。 5 仏教徒の多い京都でキリスト教の学校を創った。
6 日本で初めてのキリスト教主義の私立大学を創った。
7 「自責の杖事件3」
8 同志社大学創立の旨意を「『一国の良心』というべき人を養成する」とした。
9 校名を「同じ志を持つものの結社」という意味で「同志社」とした。
(実際に書かれていた文章例については、参考資料 8 に掲載した。)
同じく、「③新島襄について学び自分に変化があったこと」について書かれていたこ とも表 5 に示されるように 4 つのカテゴリーに分けた。
表 5 「③新島襄について学び自分に変化があったこと」の 4 つのカテゴリー 1 新島先生が創った同志社で勉強することができて誇りに思った。
2 新島先生のおかげで同志社に留学できたので、心からの感謝の気持ちを持った。
3 自分も新島先生のように、高い志を持って頑張りたいと思った。
4 自分も新島先生のように、不可能と思われることでも諦めず、最後までやり抜き たいと思った。
(実際に書かれていた文章例については、参考資料 8 に掲載した。)
(3) 質問紙調査では、「①新島襄に対するイメージ」、「②新島襄が成した事柄のうち心 に響いたこと」、「③新島襄について学び自分に変化があったかどうか」について 質問をし、回答の選択肢には、各項目にリストアップされた表現を使用した。さ らに①②③とも選択肢の最後に「その他」の選択肢を追加し、「その他」を選んだ 者は( )に自由に記述するように指示した。
また選択に当たっては、上位 3 つを選ばせ、1 位から 3 位までのランク付けを行わ せた。
(4) 質問紙調査においては、他にも「『同志社建学の精神や新島襄の生涯』についてこ れまで勉強したことはあるか」「キャンパスツアーで印象に残ったところはどこか」
「良心教育についてどう思うか」「『同志社建学の精神と新島襄の生涯』について授 業で勉強する重要度はどれぐらいあると思うか」についても質問項目とした。
3.3 質問紙調査の実施
2019 年度秋学期 10 月中旬から 11 月下旬にかけて、「日本の文化特講A-74」「日本の
文化特講A-73」「日本の文化特講C-72」の科目を履修している留学生のうち「同志社
を学ぼう〜建学の精神と新島襄の生涯」の授業を受講した留学生計 43 名を対象として、
授業後に質問紙調査を行った。回答は 36 名からあり、回収率は 83.7%であった。その うち中国人留学生が 20 名中 17 名、欧米系留学生が 23 名中 19 名であった。質問紙調 査に回答した留学生の内訳は、表 6 に示す。
表 6 質問紙調査用紙に回答した留学生の内訳 中国人留学生
(初中級〜超上級) 欧米系留学生
(初級前半〜初中級) 合計
17 名 19 名
アメリカ 8 名、フランス 4 名、イギリス 3 名、
ドイツ 2 名、アイルランド 1 名、カナダ1名 36 名
中国人留学生の日本語レベルは初中級から超上級レベルであるため、質問紙調査用 紙は全て日本語で記述し、日本語で回答させた。欧米系留学生の日本語レベルは初級 から初中級レベルであるため、質問紙調査用紙には英語と日本語と併記し、回答は英 語で書かせた。英語と日本語を併記した質問紙調査用紙については、参考資料 9 を参 照のこと。
4 質問紙調査の結果
調査結果については、まず全体を合計したものを算出した。しかし、中国人留学生 と欧米系留学生に傾向の違いがあるため、ここでは中国人(17 名)と欧米系(19 名)
を分けて結果を表わし、両者を比較した。
4.1 「同志社建学の精神」「新島襄の生涯」について勉強したことがあるか
「同志社建学の精神」や「新島襄の生涯」についてこれまで勉強したことがあるかと の質問に対して、「ある」は 5 名(中国人 4 名、欧米系 1 名)、「少しある」が 4 名(中 国人 2 名、欧米系 2 名)であり、ほとんどの留学生は、「建学の精神」や「新島襄の生涯」
について学ぶことなく同志社に来ていた。どこで勉強したかという質問に対しては、「本 で読んだ」「大学のホームページを読んだ」という回答が多かった。
4.2 「新島襄に対するイメージ」
次の質問は、「新島襄の生涯を勉強したあと持つようになった『新島襄に対するイメー ジ』について、選択肢から自分の考えに近いものを 3 つ選び、近いものから(1)(2)(3)
と順位をつけて、それぞれ選んだ理由を簡単に書く。」というものだった。便宜的な重 みづけではあるが、傾向を知るために、ここでは(1)を 3 点、(2)を 2 点、(3)を 1
点としてそれぞれ合計点を算出し、合計点の多いものから順位をつけ、表 7 にまとめた。
表 7 「新島襄に対するイメージ」の調査結果
順位 『新島襄に対するイメージ』 中国人(点) 欧米系(点) 合計点
1 開拓者精神、チャレンジ精神がある 31 14 45
2 勇敢である、勇気がある 11 30 41
3 困難があっても逃げずに努力する 13 17 30
4 情熱的である 3 18 21
5 責任感がある優秀なリーダーである 13 6 19
6 先進的な考えを持つ、先を見通す力がある 6 6 12
6 国際的視野を持っている 7 5 12
8 大胆である 4 6 10
9 実行力がある 7 1 8
10 祖国愛が強い 4 2 6
11 キリスト教精神に溢れている 2 1 3
11 神の慈愛に恵まれている 0 3 3
11 その他 0 3 3
14 一人ひとりの学生を大切にする 1 1 2
15 自由をこよなく愛する 0 1 1
合計で一番多かったのが、中国人留学生が多く選んだ「開拓者精神、チャレンジ精 神がある」であった。二番目に多かったのが、欧米系留学生が多く選んだ「勇敢である、
勇気がある」であった。この 2 つが他の回答を圧倒していた。三番目に多かったのが「困 難があっても逃げずに努力する」で、これは中国人も欧米系もほぼ同じぐらいの人数 の留学生が選んでいた。
中国人留学生が一番多く選んだのは「開拓者精神がある」であるが、それを選んだ 理由として「日本で初めてキリスト教の学校を創立した。」「誰もしていないこと、考 えてもいないことを実現した。」などが挙げられていた。
欧米系留学生が一番多く選んだのが、「勇敢である、勇気がある」であった。それは、
「自分の夢のために、国禁を犯し、殺されるのを覚悟で米国に渡ったこと」という理由 が多く挙げられていた。
欧米系留学生で二番目に多かったのが「情熱的」で、その選択肢を選んだ留学生か らは、「新島の生き様を見ると、『情熱的』という言葉しか思いつかない。」「新島のキ リスト教や教育に対する情熱は、様々なリスクへの恐れをはるかに勝っている。」「仏 教の町にキリスト教主義の学校を創る、これは長い間守られていた規範を破ろうとす る強いチャレンジ精神によるもので、そこに新島の熱い情熱を感じた。」などの回答が あった。
中国人留学生で二番目に多かったのが「責任感がある優秀なリーダーである」であっ
た。この選択肢を選んだ理由として「自責の杖事件」を挙げた者が多く、「この一連の 行動を知り、新島がいかに責任感が強いかを感じずはいられなかった。」と回答していた。
4.3 「新島襄が成した事柄のうち心に響いたこと」
「新島襄は、その生涯をかけて様々なことを成したが、そのうち心に響いたことはあ るか」との質問に対し、「心に響いたことはない」と答えたのは欧米系留学生 19 名の うち 2 名、中国人留学生 17 名にうち 1 名であった。他の留学生は全員「心に響いたこ とがある」と回答した。
そして「ある」と回答した者のみ、次の質問に進む。次の質問とは、1 〜 9 の選択肢 のうち「自分の心に響いたこと」を 3 つ選び、(1)、(2)、(3)と順位をつけるという ものである。便宜的な重みづけではあるが、傾向を見るために(1)を 3 点、(2)を 2 点、
(3)を 1 点としてそれぞれ合計点を算出した。その結果を中国人留学生と欧米系留学 生を別々に計算し、表 8 にまとめた。
表 8 「②新島襄が成した事柄のうち心に響いたこと」の調査結果
順位 項 目 中国人(点) 欧米系(点) 合計点
1 国禁を犯して、密入国をしてアメリカに
渡った。 11 29 40
2 日本人で初めてアメリカの大学で学位を
取った。 17 21 38
3 「自責の杖」事件3 24 12 36
4 同志社大学創立の旨意を「『一国の良心』
というべき人を養成する」とした。 10 7 17
4 日本で初めてのキリスト教主義の私立大学
を創った。 7 10 17
4 宣教師の年次大会でのスピーチ後、貧しい
農夫から 2 ドルの献金を受け取った4。 14 3 17 7 仏教徒の多い京都でキリスト教の学校を
創った。 6 10 16
8 宣教師の年次大会のスピーチで「日本でキ リスト教主義の学校を創立すること」を宣
言し、賛同者から多くの献金を集めた。 6 0 6
8 その他 0 6 6
10 校名を「同じ志を持つものの結社」という
意味で「同志社」とした。 1 4 5
合計で一番多かったのが、多くの欧米系留学生が選んだ「国禁を犯し、密入国をし てアメリカに渡った」であった。欧米系留学生は、「新島襄のイメージ」で「勇敢である」
を一番多く選んでおり、その理由として、この「国禁を犯しアメリカに渡った。」を多 く挙げていた。しかし中国人の中では、順位は高くなく 4 位であった。
合計で二番目に多かったのが、「日本人で初めてアメリカの大学で学位を取った。」で、
この項目は中国人留学生、欧米系留学生どちらも高い得点をつけ、それぞれ 2 位であっ た。「日本人初めてのアメリカの大学卒業者」が同志社の創立者であったことについて は意外性が大きかったようだ。
合計で三番目に多かったのが、「自責の杖事件」であった。この項目は、中国人留学 生が一番多く心を揺り動かされた項目として選んでいた。ある中国人留学生は、「文化 財に登録されるにふさわしい建物と長い歴史も同志社の誇りだが、学問や学生に対す る新島先生の行ないにも心打たれた。新島先生は自分の手が潰れるまで杖で手を打ち、
学生を正しいと思う道に導こうとした。どれだけ多くの人々が先生の思いに動かされ たのだろう。」という感想を書いていた。しかしながら、この項目は欧米系では3位であっ た。
四番目に多かった「スピーチ後、貧しい農夫から 2 ドルの献金を受け取った。」と八 番目に多かった「新島のスピーチのあと、賛同者から多くの献金を集めた。」について、
「心に響いた」という中国人留学生は何名かいたが、欧米系留学生はほとんどいなかっ た。欧米の若者は、宣教のための寄付に関する逸話を子供の頃からよく聞いているか らか、「寄付」や「献金」にまつわる項目については、それほど心に響かなかったのか もしれない。
以上のように、中国人留学生も欧米系留学生も、新島が成したことに対して「心に 響いた」という者は多いが、両者の間で心に響いた項目には、顕著な違いがあるようだ。
4.4 「③新島襄について学び自分に変化があったかどうか」
新島襄について学んだことで、自分の気持ちに変化があったかどうかを質問した。
その結果は下記の表 9 の通りである。
表 9 ③新島襄について学び自分に変化があったかどうか 中国人留学生(名) 欧米系留学生(名)
変化があった 16 17
変化がなかった 1 2
「自分の気持ちに変化はなかった。」と回答したのは、回答者 36 名中、わずか 3 名であっ た。ほとんどの留学生は「変化があった。」と回答していることがわかった。
「変化があった。」と回答した留学生に、「どのような変化があったか。」と質問し、
選択肢から自分の考えに近いものを一つ選ばせた。その結果は表 10 の通りである。
表 10 ③新島襄について学び自分にどんな変化があったか
中国人留学生(名) 欧米系留学生(名)
新島のように高い志を持って頑張りたい 5 5
不可能と思われることでも諦めず最後までやり抜きたい 5 4
同志社で勉強ができて誇りに思った 3 4
留学できて新島先生に感謝したい 3 4
このうち「新島のように高い志を持って頑張りたい。」という答えが、中国人留学生、
欧米系留学生とも 5 名ずつで一番高かった。中国人留学生は、「高い志を持って頑張り たい。」と「不可能と思われることでも諦めず最後までやり抜きたい。」と同数であった。
けれども全体の回答状況をみると、どの項目も同じぐらいの人数の留学生が選んでい ることが明らかになった。これらの「気持ちの変化」については、過去 9 年間の留学 生のレポートで多く書かれていたものを選択肢に設定したため、今回の対象者も同じ ような気持ちの変化を感じていたことがわかった。
今回の調査対象者 36 名のうち 33 名が、授業を受けて何らかの気持ちの変化があっ たと答えており、またその変化も、「新島に対する感謝の気持ちを持てた。」「この大学 に留学できて誇りに思った。」という者、さらに、「新島の生き方が今後の自分の生き 方に良い影響を与えた。」と答えた者もいた。以上から、この授業は留学生にとって様々 な意義があったと言える。
4.5 「今出川キャンパスツアー」で印象に残ったところ
「今出川キャンパスツアー」で印象に残ったところ上位 3 つを選択肢から選ばせ順位 をつけさせた。またそれぞれどのような感想を持ったかを書かせた。便宜的な重みづ けではあるが、傾向を知るために(1)を 3 点、(2)を 2 点、(3)を 1 点としてそれぞ れ合計点を算出した。ここでは点数が高かった 4 箇所について、中国人留学生と欧米 系留学生を別々に計算し、表 12 にまとめた。
表 12 「今出川キャンパスツアーで印象に残ったところ」調査結果
順位 キャンパスツアーで印象に残ったところ 中国人(点) 欧米系(点) 合計点
1 同志社礼拝堂(チャペル) 42 42 84
2 ハリス理化学館 同志社ギャラリー 15 18 33
2 良心館 17 16 33
4 良心の碑 2 17 19
合計点で、圧倒的に高かったのが「同志社礼拝堂(チャペル)」であった。これは中 国人留学生も欧米系留学生も同じであった。
中国人留学生は、同志社礼拝堂について、「私の母国の大学には礼拝堂がないので感
動した。」「ステンドグラスの窓もリーダーたちの肖像画も素晴らしい。」という回答が あった。また、「外から見ると、古くて冷たい感じがして、キリスト教信者でもない私 が入ってもいいのかと思った。けれども一歩中に入ると雰囲気が一変して温かく感じ た。古典的な外観と温かい内部とのギャップに感服し、私は『同志社礼拝堂』にすっ かり魅了されてしまった。」という感想もあった。
欧米系留学生からは、「信仰に対する気持ちが形になっているチャペルは重要であ る。」「単なる学問知識以上に、同志社の高貴な志が印象付けられた。」という回答があっ た。また「入った瞬間、家に戻ったような錯覚に陥った。」という回答もあった。
このように中国人留学生からは、これまであまり馴染みのなかった礼拝堂に感動し たという感想があり、欧米系留学生からは礼拝堂に対する深い思いや、礼拝堂に入っ て故郷への郷愁に駆られたという感想があった。
ハリス理化学館については、中国人留学生、欧米系留学生ともに「歴史博物館のよ うだ。」「大学の歴史と新島襄の生涯の足跡が感じられた。」のような感想があった。中 国人留学生からは「『自責の杖』の本物を見たので印象深い。」という感想があった。
「良心館」については、「この建物の館名に、『同志社建学の精神』を表す『良心教育』の『良 心』が用いられているのが面白い。」「現代的で様々な設備があり素晴らしい。」という 感想があった。
中国人留学生と欧米系留学生の違いが顕著だったのは「良心の碑」である。中国人 留学生は少なかったが、多くの欧米系留学生が選択していた。「正門に入るとすぐ見え るので印象深い。」「新島襄の自筆が書いてあり面白い。」「それほど大きくないが、こ れが同志社大学の代表的なものだと思う。」「新島の強い意志を教えられたような気が した。」などの感想が書かれていた。
4.6 「良心教育」について
同志社大学が掲げる「良心教育」についてどのような感想を持ったかについて自由 記述で回答させた。
中国人留学生からは「良心は人にとって重要、良心がある人こそ優れた人間になる。」
「交換留学を申し込む時に大学のホームページを読んで、同志社の良心教育を知り感心 した。学問知識を学ぶだけでなく、健全な人格を育み、社会と国に役立つ人材になる べきだと思った。」「知識よりまず善悪を判断する意識が備わることを重んじているの は素晴らしい。」「国では勉強することだけが大切だと思っていたが、今は良心教育を 重視することも大切だと思っている。」「同志社創立の基本は『良心教育』である。そ して同志社大学は優秀な学生や研究者を世界中から受け入れている。同志社の良心の 精神は広がり、国境を越えて『良心教育を受けた人物』を輩出している。私はすごい と思う。」「同志社の先生方の授業の様子を見たら、同志社は良心教育を実践している と思う。感謝している。」などの回答があった。これまで学問知識を学ぶことだけが大
切だと思っていたという中国人留学生にとって、「良心教育」の考えは彼らの心に大き く響いたようである。
欧米系留学生からは、「当時としては非常に先進的な考え方で、時代を先取りしてい ると感じた。」「学問も重要だが、正しいモラルを教えることも、今後様々な困難に遭 遇するであろう学生たちにとって重要である。」「新島は、『一国の良心』というべき人 になってほしいという願いを、将来を担う若い日本人に伝えることが極めて重要なこ とであると感じた。新島はその願いを叶えるために学校を創るという難しいタスクを 達成した。これは誇るべき偉業である。」というものがあった。さらに、「同志社では、
学生に、『一国の良心』たる人間になってほしいという願いを込めて教育理念を定めて いる。自国イギリスの大学にはそのような教育理念はないので、同志社の教育理念は 非常に興味深くユニークだと感じた。」というものがあった。一方ドイツ人留学生から は「仮に良心教育が存在するなら、それは学生たちの行動に何らかの形でつながるは ずである。けれども大学ではそれを感じないので、良心教育が実践されているとは思 えない。」という批判的な意見も出ていた。
4.7 「同志社建学の精神と新島襄の生涯」について勉強する重要度
次に、授業で「同志社建学の精神と新島襄の生涯」について勉強する重要度につい て質問し、「非常に重要」「やや重要」「どちらとも言えない」「あまり重要ではない」「重 要ではない」の 5 段階から選ばせた。その結果を示したものが表 13 である。
表 13 「同志社建学の精神と新島襄の生涯」について勉強する重要度 中国人留学生(名) 欧米系留学生(名)
非常に重要 9 5
やや重要 7 10
どちらとも言えない 1 2
あまり重要ではない 0 2
重要ではない 0 0
中国人留学生は「非常に重要」を選んだ者が一番多く、欧米系留学生は「やや重要」
を選んだ者が一番多い。いずれにしても、「非常に重要」と「やや重要」を合わせると、
合計が 31 名であり、サンプル数は少ないものの授業を受け回答をした学生全体の 86 パーセントが「重要」と思っていることになる。
「非常に重要」を選んだ中国人留学生からは「自分が通う同志社大学の歴史は知って おくべきだ。創立された経緯や理念を知っておくと、同志社で勉強する意義がわかる からである。」「新島先生のおかげで留学できたので心からの感謝の気持ちを持ってい る。建学の精神、創立者、歴史について勉強することは重要である。」「新島先生の生 涯を学び、留学生として異国の文化の中で勉強することの重要性を充分に理解できた。」
という回答があった。
「非常に重要」を選んだ欧米系留学生からは、「新島がなぜ、どのような思いでこの 大学を創立したかがわかった。それによって、新島の自由を求める強い気持ちを知る ことができてよかった。」「今通っている大学の歴史を学ぶことは重要である。私は新 島襄のストーリーを知ることによって、同志社で学ぶことに誇りを持てた。そして今 の自分はとても幸運だと思っている。」と回答していた。
また「あまり重要ではない」「重要ではない」という回答は、中国人留学生の中には なかったが、「あまり重要ではない」と回答した欧米系留学生は 2 名いた。その留学生 は「特定の宗教の価値を押しつけられることに抵抗がある。また、同志社の歴史を知 ることは重要だが、新島の生涯についてはそれほどではない。」「基本的に大学では『教 育』が大切であり、『大学の歴史』は補完的で二次的なもので、それほど重要ではない。
また、もし大学創立の趣旨がまだ健在で確固たるものとして大学に存在しているので あれば、ここであえて創立者について学ぶ必要はない。」という意見を書いていた。
5 まとめと考察、同志社大学への提言 5.1 まとめと考察
本稿では、700 名以上、35 か国以上の国からやってきた留学生に対して、2011 年か ら 2019 年にかけて行った「同志社を学ぼう〜建学の精神と新島襄」の授業の感想レポー トを分析し、それをもとに質問紙を作成し、調査を行った。さらに欧米系留学生と中 国人留学生に分けて、回答の傾向を比較した。
この質問紙調査からわかった傾向をまとめると、以下のようになる。
・ 留学生は同志社の建学の歴史や新島襄についてほとんど知らずに同志社に来てい る。
・ 授業後、新島襄に対するイメージとして、「開拓者精神」「勇気がある」「困難があっ ても逃げない」「情熱的」などが挙げられた。しかし、欧米系と中国人との間に違 いがあった。
・ また、新島襄の成した事柄で、欧米系は「国禁を犯して渡米したこと」が心に響くが、
中国人は「自責の杖事件」が響いている。両者とも「日本人で初めての学位を取得 したこと」には高い関心を示しているが、欧米系は献金にまつわる話では響かない。
・ ほとんどの留学生は、新島襄の生涯を学んで鼓舞され、建学の精神や新島襄につい て学ぶことは有益であると考えている。
・ 同志社の建物・場所で欧米系と中国人の両者から人気があるのは同志社礼拝堂だが、
中国人は良心碑にはあまり反応しない。
新島に対するイメージや新島の業績に対する感じ方についてみると、中国人留学生
と欧米系留学生との間には微妙な違いがある。欧米系は、新島が権威に反抗し、ルー ルを破ってまでも脱国したり大学を創立したりした情熱を持っていたレベリオンで あったところに反応している。例えば「鎖国時代には考えられないような大それたこ とをした日本人が、まさに今自分が留学している大学の創立者であった。」のような驚 きの声がある。それに対して中国人は、新島を偉人として見、新島への尊敬の念を持ち、
「自分もこのような高い志を持って励みたい。」と、自分自身の将来の生き方に結びつ けて考えている者が多いように感じられる。
この違いは、自我のあり方や、教師などの権威に対する態度の違い(パワーディス タンス)等でも説明することができると考えられる。本稿では、これらの指標を計測 していないので、今述べたことはあくまでも憶測である。将来は、この違いを解明す るような質問を行えば、新島や建学の精神の教育に対する反応の違いについて、より 正確な分析を行うことができるであろう。
また、今回の教育実践の報告の中で、漫画を使って授業を行う利点が挙げられている。
これは、たまたま同志社大学の創立者である新島襄の漫画に日本語版と英語版が揃っ ていたからであるが、特に日本語のつたない留学生に、建学の精神を伝えていくには、
素晴らしいメディアを同志社が有していると思われる。
本報告は、はじめは、留学生にも同志社のことを知ってもらいたいという高岸の母 校愛から、新島襄についての授業を一コマ教えたところから始まっている。やがて留 学生が新島襄の生涯について学ぶことを喜んでいる顔を見、また 10 年弱の間に感想文 が蓄積され、そこから留学生の声を何かしらの形で伝えたいと願っていた。同じ思いは、
英語のみでの科目で修了できる大学院に所属し、留学生に多く接する飯塚も持ってい た。よって今回、報告書という形をとろうとしたのである。
5.2 同志社大学への提言
最後に、同志社大学への提言である。同志社大学では、日本人学生に対する新島襄 教育や建学の精神教育は様々な方策をもって行われている。新島襄に関する授業以外 にも、リーダー養成と銘打った新島塾があったり、新島ゆかりの土地を訪れる企画が あったり様々である。しかし、盲点として、言葉の壁がある留学生を対象とした建学 の精神や新島襄についての教育が充分行われていないのではないか。そしてそれは、
同志社大学にとっても、留学生にとっても、大きな損失ではないのだろうか。
留学生は、海を越えて、日本という難しい言語が話されている国にやってきた「ミ ニ新島襄」である。日本で育った大学生よりも、ある意味では新島襄に近いものがあ るのかもしれない。だからこそ、新島襄は留学生の心に響く。「新島襄」は、留学生が 同志社への母校愛を育むという点で非常に有効なファクターになるかもしれない。
今回の調査は、その点を明らかにした。そして、留学生の声として、建学の精神の 教育や新島襄の生涯についての教育が重要であることを明らかにした。
日本社会は少子化人口減少に向かっており、優秀な留学生の確保は今後の大学運営 のためにも社会的な要請にこたえるうえでも重要である。また、言わずもがなではあ るが、同志社には、「国際主義」という教育理念がある。また、ダイバーシティ推進の ためにさまざまな取り組みを進めている。このような背景を考えても、同志社大学では、
建学の精神や新島襄の生涯を、どのように留学生に教育をしていくのかを真剣に考え る時期に来ているのではないだろうか。
注
1 新島襄
「建学の精神と新島襄(新島と同志社)」(抜粋)
「同志社の創立者新島襄。幕末の 1864(元治元)年、激動する日本の将来を憂い、国禁 を犯して脱国し、約 10 年間にわたってアメリカ、ヨーロッパで学び、キリスト教の洗 礼を受けて帰国しました。そして、国内外の多くの人々の協力を得て、1875(明治 8)
年 11 月 29 日、京都の地に同志社大学の前身となる同志社英学校を設立しました。新 島は、学問の探求とともにキリスト教を徳育の基本として人格を陶冶する教育機関を めざし、同志社においてキリスト教主義に基づき、自治自立の精神を涵養し、国際感 覚豊かな人物を育成することを教育の理念としました。」
同志社大学ホームページ 大学紹介「建学の精神と新島襄(新島と同志社)」
https://www.doshisha.ac.jp/information/history/neesima/neesima.html (2020 年 2 月 7 日閲覧)
2 『マンガで読む新島襄〜自由への旅立ち』の「あとがき」に、監修の本井は次のように 書いている。
世はマンガ全盛です。とりわけ、日本のマンガ、劇画、アニメは今や世界的ブームです。
大学でも関連学部ができる時代です。本学もこの潮流を無視できません。
そこで、国際主義を謳う大学である以上、というわけではありませんが、現代の「活 字離れ世代」のためにも、創立者の生涯をマンガで伝えることにあえて挑戦しました。
新島襄が知ったなら、びっくり仰天するでしょうか。
本井は「できるだけ歴史的事実に忠実で、しかもマンガの展開上も面白いーこの両立、
調和は大変でした。」と書いているが、確かに新島の生涯がドラマチックに描かれてい る。そして本井は、「副題の『自由への旅立ち』に込められた新島の心意気が、読者の 心に届いてくれますように、と祈るばかりです。」と書いているが、新島の心意気は留 学生に充分届いている。さらに本井は『続マンガで読む新島襄〜日本初の私立大学創 立への挑戦』の「あとがき」において、「日本語版、英訳版を問わず、本書が、日本の 内外で広く読まれ、読者を次なるステップへと導いてくれることを期待します。」と書
いているが、その期待にも充分応えられていると考える。
3 自責の杖事件
「新島の生涯で最も有名な挿話は、一八八〇年に起きた「自責の杖」事件であろう。生 徒のことを優先的に考える新島の教育姿勢が鮮明に表れているからである。全校礼拝 の場で、学園ストをして校則を破った生徒たちや、対応に手抜かりのあった若い教員 を責めずに、むしろ校長たる自分を責めた。しかも持参の杖で自分の手のひらを殴打 するという衝撃的な事件である。」
本井康博(2011)『新島襄と建学精神:「同志社科目」テキスト』同志社大学出版部, p.77.
4 二ドルの献金
「寄付者の中には貧しい農夫と寡婦がいた。前者は帰りの汽車賃を含む所持金全額の二 ドルを泣きながら捧げてくれた。後者はその場で出すことに気後れして、会場の外で 新島を待ち受け、そっと二ドルを手渡した。新島はこの日の献金でこれらの二ドルが 一番自分の胸を打った、と後日、何度も語った。」
本井康博(2011)『新島襄と建学精神:「同志社科目」テキスト』同志社大学出版部, p.59.
参考文献
現代語で読む新島襄編集委員会編(2000)『現代語で読む新島襄』
同志社大学良心学研究センター(2019)『新島襄 365』
同志社編(2013)『新島襄自伝〜手紙・紀行文・日記』岩波文庫 新島襄(1888)「同志社大学創立の旨意」
―――(2005)『新島襄の手紙』岩波文庫
能田茂・和順高雄(2008)『マンガで読む新島襄 〜自由への旅立ち』本井康博監修, 同志社 大学
――――――――(2010)『続マンガで読む新島襄 〜日本初の私立大学創立への挑戦』本井
康博監修, 同志社大学
Shigeru Noda, Takao Wajun (2009) “The Manga Story of Jo Niijima : A Quest for Freedom-”, Editorial supervision : Yasuhiro Motoi, Doshisha University.
―――――――――――――― (2012) “A Sequel to the Manga Story of Jo Nijima : The Challenge to Establish the First Private University in Japan”, Editorial supervision : Yasuhiro Motoi, Doshisha University.
本井康博(2011)『新島襄と建学精神:「同志社科目」テキスト』同志社大学出版部 和田洋一(2015)『新島襄』岩波書店
参考資料 1
2011 年春学期〜 2014 年秋学期のⅠレベル対象科目の「日本文化A(日本文化の諸相)」
の授業概要(Ⅱ・Ⅲレベル対象科目の「日本文化A(日本文化の諸相)ではパイエが