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初級・初中級レベル学習者対象の「日本の文化」授 業の実践報告

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業の実践報告

著者 高岸 雅子

雑誌名 同志社大学日本語・日本文化研究

号 14

ページ 169‑189

発行年 2016‑03

権利 同志社大学日本語・日本文化教育センター

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000014447

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初級・初中級レベル学習者対象の

「日本の文化」授業の実践報告

Report on "Japanese Culture" course

for elementary and pre-intermediate level learners

高岸 雅子

要 旨

 外国人学習者の日本留学の動機づけとして「日本文化を学習する」というもの が多い。筆者が考える外国人学習者にとっての「日本の文化学習」というのは、

固定化された「日本の文化」の知識をそのまま受け取るのではなく、自らの目で 日本を見つめることによって、自らの「日本の文化」を発見することではないか と考えている。本稿では、筆者が同志社大学日本語・日本文化センターにおいて 担当している初級・初中級レベルの学習者対象の「日本の文化A(日本文化の諸相)」

の授業で提出された期末レポートをもとに、授業を受けた外国人学習者はどのよ うなものを得られたと考えているかを明らかにした。

 この授業は、(1) 講義、(2) 与えられたテーマについての話し合い、(3) 希望者 による各回のテーマについての発表、という 3 つの授業活動を組み合わせて行なっ た。学習者の期末レポートを読むと、「日本の文化」の授業を受けることによって 自らの視点や認識が変わったことを楽しんでいる者、日本での生活に役立ててい る者、日本文化という異文化を知った上で自国のあるべき姿を展望している者、

多様な国の学習者との話し合いを通じて異文化相互理解が図れたと考えている者、

さらに専門性を追求して学問を続けようとする者の姿が見られ、さまざまな成果 があったことが窺えた。「日本の文化」の授業を受けている学習者は、日本での日 常生活の中で、日本社会に積極的に関わり、自らの「日本の文化」を発見したと 言えるのではないかと考える。

キーワード

日本文化 発見する 話し合い 日本語授業ボランティア 異文化相互理解

1 はじめに

 同志社大学日本語・日本文化教育センター(以下、日文センター)では、学期開始 前に新入の外国人学習者全員にクラス分けのための面接試験を行っている。面接試験 で日本留学の目的について尋ねると「日本の文化を勉強したい。」という答えが多く返っ

(3)

てくる。外国人学習者の日本留学の動機づけとして「日本へ来て、日本の文化を勉強 する。」というものが多くあると言える。そこで筆者は、学習者は「日本の文化」の授 業にどんなことを求めているのか、「日本の文化」の授業を受講してどうだったか、あ るいはどのようなことが得られたと感じているかを明らかにしたいと思った。

 本稿では、「日本の文化教育」の一例として、筆者が 2008 年秋学期から 2014 年秋学 期にかけて日文センターにおいて担当してきた初級・初中級レベルの学習者対象の「日 本の文化A (日本文化の諸相)」の授業について紹介し、受講した学習者がどのような 感想を持ったかについて述べたいと思う。

 金本(1988)は、日本語教育における日本文化の教授は、現状では大きく二つに分 けて考えることができると述べている。一つは日本語教授と一体のものとして言語の 教授の中で行なわれているものであり、もう一方は、「日本事情」の科目名のもとで、

日本そのものに関する知識の教授に重点を置いて捉えられているものである。筆者が 担当した「日本の文化」の授業は、金本が二番目に述べていた、日本そのものに関す る知識の教授に重点を置いて捉えられる「日本文化」の授業と考えられる。

 以下で、まず「日本文化を学習する」とはどういうことかについて述べる。次に外 国人学習者に対する「日本の文化」の教育にはどのような問題点や指導上の留意点が あるかについて述べ、続いて筆者がそれらの点を考慮してどのような授業を行なって きたかを述べる。さらに筆者が担当する「日本の文化」の授業に、学習者がどのよう に取り組み、どのような成果があったと感じているかについて述べる。そして最後に、

外国人学習者に日本の文化を教えるとはどういうことかを改めて考えていきたいと思 う。

2 「日本の文化」を学習するとはどういうことか

 日本へ来て日本の文化を学習するというのはどういうことなのだろうか。頼錦雀

(2012)は、日本文化を教えることについて、下記のように述べている。

 日本文化をどう教えるか、いろいろな説が考えられるが、筆者としては日本文化を体験す ること、母文化と比較する眼を持つこと、積極的に自律学習をする態度を養成すること、教 授法を工夫することなどが要務だと思う1

 倉地(1988)は日本の文化を学習することについて次のように述べている。

 留学生教育の究極的な目的は、留学生に日本語や、日本事情、専門などに関する知識、技 術を教えるというだけではなく、留学生が異文化との直接的な接触を通して、文化を積極的 に深く理解しようとする態度や能力を獲得するよう導き、彼らが 真の 国際人として生き ていくために必要な人間的能力を、総合的に形成することではないだろうか2

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 以上から筆者も、学習者は固定化された「日本文化」の知識をそのまま受け取るの ではなく、積極的に日本の文化に接触し、自らの目で日本人や日本社会を見つめるこ とによって、自らの「日本の文化」を発見してほしいと考えている。それこそが学習 者にとっての「日本の文化学習」ではないかと考えられる。それは自らの文化を見直 したり異文化を理解することにつながり、やがてはグローバルな視点でものごとを見 るという態度を培うことができるのではないかと思われる。

3 「日本の文化」を指導する際の問題点

 筆者はこの科目を担当するにあたって、1)初級レベルの学習者を対象に「日本の文化」

が教えられるか、2)「日本の文化」を教える際にどのような問題点があるか、という 二つの問題に直面した。まず、1)について述べる。初級レベルの学習者に「日本の文化」

を独立した授業において教えるのは一般的にむずかしいと言われている。池田(1975)

は、学習者のレベルが初級段階にある時について、次のように述べている。

 この段階にある時、微妙で抽象的な事柄を、限られた用語、用法のみで誤解を与えずに表 現しようとすることは、もともと至難の業に近いのだ。ましてそれが 文化 に関連する事 であればなおのことである3

 次に、2)の「文化」を教える際の問題点について述べる。まず池田(1975)は次の ように述べている。

 言葉の習得が非常に理論的、技術的なものに頼ることが多いのに対し、文化への接近、理 解は、どちらかといえば主観的、感性的な要素に影響されやすい。したがってそれは、受 け取る側の個人差が大きく、たとえば、10 のものを教えたからといって、習い手が 10 を 10 の形のままで受け取っているとは限らない4

 倉地(1990)も次のように述べている。

 どんなオーソリティーをもってしても、また何人に対しても文化を一方的に『教え込んだ り、押し付けたり』することによって、目的文化を学習する人達に教授者の描く文化像と全 く同じものをそのままの形で移植することは困難であるし、教授者に『押し付けられた』文 化学習が成功すべくもないことは明白であろう5

 このように教授側と学習者側にギャップが生じる可能性があり、文化を教える際に 特に気をつけなければいけないと述べている。

(5)

 さらにトムソン(2012)は下記のように述べている。

 何を日本文化と呼ぶのかは大きな課題である。筆者は日本文化は固定的なものではなく、

誰かによって認識されるものだと考えている。(中略)この認識は流動的なもので、長期に わたり歴史とともに変化したり、短期間に何らかのきっかけで変化したりする6

 このように「文化」の捉え方には流動性があることを述べている。

 そして久保田(2013)は、文化の教授内容は広範であるため、学習者によって扱う 内容を吟味する必要性について、下記のように述べている。

 日本語教育における文化の位置付けや扱う文化の内容は、学習者の年齢、バックグラウン ド、学習動機、教育の目的、地域性などによっても異なってくる7

4 「日本の文化」を指導する上での留意点

 以上の問題点を念頭に置いて、次のステップとしてどのような指導をすればよいの か考えなければいけないが、倉地(1988)は、外国人学習者に文化を指導する、つま り外国人学習者の異文化理解を目指す教育実践で留意しなければならないこととして 次の四点を挙げている。

 まず第一に、学習者が主体になり、自分の力で異文化探究の道を切り開いて行こうとする 積極的な意欲とそれに伴う行動力を喚起させる事が必要で、これはともすれば、受け身の姿 勢になり易い、教師依存型の留学生にとって、極めて重要な事である。第二に日本に滞在し ているということが異文化学習に利点になるように、学習の場を教室中心に考えるのではな く、むしろ「一般社会との触れ合い、出合いの中にこそ、真の異文化理解に到達するような 機会があるのだ」という発想的転換をすることが指導者側に必要である。第三は、教師が一 つの枠にはまった教科内容を教え込むという指導だけではなく、多様な背景をもった学生の 発見学習や問題提起によって学習の方向性が教師の思惑を遥かに越えて広がり深まっていく よう『開かれた』学習指導をめざすこと。そして第四に学生が、教師やみんなの前で独自の 考えや意見を躊躇なく自己開示出来るようなクラス環境を整えることである8

 筆者は上記に書かれているように、クラスでは「学習者は受け身の姿勢でなく主体 的に学ぶ」「多様な背景を持った学習者の発見学習や問題提起により、学習の方向性が 広がり深まっていく」「学習者独自の考えを躊躇なく自己開示できる」ということが可 能なクラス環境を作っていこうと考えている。

 次の章では、「日本文化A(日本文化の諸相)」でどのように授業を行なってきたか を述べる。

(6)

5 どのような授業を行なってきたか

5.1 2008 年秋学期から 2014 年秋学期にかけての授業の構成と受講者の情報

 現在、総合Ⅰ(初級前半レベル)、総合Ⅱ(初級後半レベル)、総合Ⅲ(初中級レベル)

の学習者対象に行なわれている「日本の文化A(日本文化の諸相)」の授業は、2008 年 秋学期より、脇田里子、パイエ由美子、筆者の 3 名のオムニバス授業として始められた。

翌年春学期よりブルース・ホワイトが加わり 2010 年秋学期まで 4 名のオムニバスの授 業が行なわれた。下記の表は、2008 年度秋学期から 2010 年秋学期までの科目名、担当 者、授業内容、学習者情報をまとめたものである。

表 1 2008 年度秋学期〜 2010 年度秋学期「日本の文化」担当者、授業内容、受講者の人数・

国籍

学 期

科目名 担当者名 授業内容 受講者の人数・国籍

2008 年度

「日本の秋学期 文化 2-52」

高岸雅子・

パイエ由美子・

脇田里子

1 〜 5 回「京都クイズに挑戦」「日本の遊び」「日本の漫画」

「関西弁講座」「若者ことば講座」(高岸担当)

6 〜 10 回 神道と武道のつながり、合気道の体験、スポー ツと武道の違い、座禅と呼吸法などの講座や実習(パイ エ担当)11 〜 14 回「京都ゆかりの歌」「京都の年中行事」「同志 社大学建学の精神① 新島襄の生涯」「同志社大学建学の 精神② 新島襄の残した言葉、重要文化財のキャンパス ツアー」(脇田担当)

15 回「総括」

35 名(1レベル(初級前半)

〜Ⅲレベル(初中級))

(交換留学生 13 名、私費留 学生 22 名)(中国 14 名、台 湾 4 名、韓国・アメリカ各 3 名、ドイツ・イギリス各 2 名、オランダ・フランス・

メキシコ・ポーランド・チ リ・フィンランド・カナダ 各 1 名)

2009 年度

「日本の春学期 文化A-51」

脇田里子・

高岸雅子・

パイエ由美子・

ブ ル ー ス・ ホ ワイト

1 〜 3 回「京都ゆかりの歌」「京都の年中行事」「同志社 大学建学の精神 新島襄の生涯、重要文化財のキャンパ スツアー」(脇田担当)

4 〜 7 回「京都クイズ(京都の基礎知識を学ぶ)、日本 の遊び」「京都の企業クイズ、日本の漫画」

「京都クイズ(中級レベル)、関西弁講座」「京都クイズ(上 級レベル)、若者ことば講座」(高岸担当)

8 回〜 11 回「神道と武道」「合気道の体験」「武道と禅

① 禅について」「武道と禅② 座禅実習」(パイエ担当)

12 〜 14 回「日本のポピュラー・カルチャー①(音楽)」、「日 本のポピュラー・カルチャー②(サブカルチャー)」、「日 本のポピュラー・カルチャー③(音楽)」(ホワイト担当)

15 回「総括」

31 名(1レベル(初級前半)

〜Ⅲレベル(初中級))

(交換留学生 17 名、私費留 学生 14 名)(アメリカ 15 名、

中国 6 名、台湾 5 名、韓国 2 名、スイス・スウェーデン・

オーストラリア各 1 名)

2009 年度

「日本の秋学期 文化A-51」

脇田里子・

パイエ由美子・

高岸雅子・

ブ ル ー ス・ ホ ワイト

1 〜 3 回「京都ゆかりの歌」「京都の年中行事」「同志社 大学建学の精神(新島襄の生涯、重要文化財のキャンパ スツアー)」(脇田担当)

4 〜 7 回「神道と武道」「合気道実習」「武道と禅① 禅に ついて」「武道と禅② 座禅実習」(パイエ担当)

8 〜 11 回「京都の基礎知識を学ぶクイズと日本の遊び」

「京都の最新の漫画クイズと日本の漫画」

「中級レベルの京都クイズと関西弁」「上級レベルの京都 クイズと若者ことば」(高岸担当)

12 〜 14 回「日本のポピュラー・カルチャー①(音楽)」、「日 本のポピュラー・カルチャー② (サブカルチャー)」、「日 本のポピュラー・カルチャー③(音楽)」(ホワイト担当)

15 回「総括」

29 名(1レベル(初級前半)

〜Ⅲレベル(初中級))

(交換留学生 13 名、私費留 学生 16 名)(中国 7 名、台 湾 7 名、アメリカ 4 名、韓 国 3 名、イギリス・オース トラリア各2名、フィンラ ンド・フィリピン・フラン ス・日本/アメリカ各 1 名)

(7)

2010 年度

「日本の春学期 文化A-51」

(日本文化 の諸相)

脇田里子・

高岸雅子・

パイエ由美子・

ブ ル ー ス・ ホ ワイト

1 〜 3 回「京都ゆかりの歌」「京都の年中行事」「同志社 大学建学の精神(新島襄の生涯、重要文化財のキャンパ スツアー)」(脇田担当)

4 〜 7 回「京都の基礎知識を学ぶクイズと日本の遊び」「京 都の最新の漫画クイズと日本の漫画」

「中級レベルの京都クイズと関西弁」「上級レベルの京都 クイズと若者ことば」(高岸担当)

8 回〜 11 回「神道と武道」「合気道実習」「武道と禅① 禅について」「武道と禅② 座禅実習」(パイエ担当)

12 〜 15 回 日本のポピュラー・カルチャーについて「① 音楽、②サブカルチャー、③音楽、④アイデンティティ」

(ホワイト担当)

35 名(1レベル(初級前半)

〜Ⅲレベル(初中級))

(交換留学生 15 名、私費留 学生 20 名)(アメリカ 13 名、

中国 8 名、台湾・韓国各 5 名、

イギリス・スペイン・タイ・

ロシア各 1 名)

2010 年

「日本の秋学期 文化A-52」

(日本文化 の諸相)

脇田里子・

パイエ由美子・

高岸雅子・

ブ ル ー ス・ ホ ワイト

1 〜 3 回「京都ゆかりの歌」「京都の年中行事」「同志社 大学建学の精神(新島襄の生涯、重要文化財のキャンパ スツアー)」(脇田担当)

4 〜 7 回「神道と武道」「合気道実習」「武道と禅① 禅に ついて」「武道と禅② 座禅実習」(パイエ担当)

8 〜 11 回「京都の基礎知識を学ぶクイズと日本の遊び」

「京都の最新の漫画クイズと日本の漫画」

「中級レベルの京都クイズと関西弁」「上級レベルの京都 クイズと若者ことば」(高岸担当)

12 〜 15 回「日本のポピュラー・カルチャー①(音楽)」、「日 本のポピュラー・カルチャー② (サブカルチャー)」、「日 本のポピュラー・カルチャー③(音楽)」(ホワイト担当)

39 名(1レベル(初級前半)

〜Ⅲレベル(初中級))

(交換留学生 21 名、私費留 学生 18 名)(アメリカ 10 名、

中国 8 名、台湾 6 名、韓国 4 名、ドイツ 2 名、イギリス・

イスラエル・オーストラリ ア・カナダ・スペイン・日 本・フランス・ポーランド・

ロシア各 1 名)

 そして 2011 年春学期より現在の、パイエ由美子と筆者との 2 名体制になった。この 授業は、「日本の文化」の入門のクラスであるため、現代文化と古典文化とどちらも学 べた方がよいという判断から、2 名の教員によるオムニバス授業を継続することになっ た。そして 2011 年ごろから総合Ⅰ〜Ⅲレベルの学習者数が多くなり「日本の文化」の 受講者も増えてきたため、2012 年度春学期から、Ⅰレベルの学習者とⅡ、Ⅲレベルの 学習者と、2 つのクラスに分けられた。Ⅰレベルのクラスでは、学期前半を高岸が担当 し「現代文化」を扱い、後半をパイエ由美子が担当し「古典文化」を扱った。Ⅱ、Ⅲ レベルでは学期前半をパイエが担当し、後半を筆者が担当している。それぞれのクラ スの授業内容はほぼ同じだが、二つのクラスで学習者の日本語レベルに差があるため、

各レベルに合わせて進度を調節している。

 次に、「現代文化」「古典文化」を学ぶ順番について述べる。「現代文化」は、扱う内 容が学習者に身近で語彙も比較的易しく、理解しやすいと考えられる。一方「古典文化」

は、内容がやや難しく、使われる語彙も抽象的なものが多い。そのためⅠレベルのク ラスでは、「現代文化」の授業を前半に、「古典文化」を後半に設定した方が理解する 上でよいと考えている。

 一方、Ⅱ、Ⅲレベルのクラスでは、「古典文化」「現代文化」の順番に学ぶ。そこに は時代順に学ぶというメリットがある。例えば「古典文化」の授業で神道や仏教につ いて学んだあと、「現代文化」の「京都の年中行事」を学ぶと、日本の祭りには、日本 人の神仏への感謝や祈りの精神が形になったものが多いという説明がより深く理解で きると考えられる。

 2011 年春学期から 2014 年秋学期にかけての受講者数や国籍については下記の表の通 りである。

(8)

表 2 2011 年度秋学期〜 2014 年度秋学期「日本の文化」、学習者の人数・国籍学期

学期科目名 受講者の人数・国籍

2011 年春学期

「日本の文化A-71」

(日本文化の諸相)

1レベル(初級前半)〜Ⅲレベル(初中級)29 名

(交換生 10 名、私費留学生 19 名)(中国 13 名、台湾 6 名、韓国 3 名、アメリカ 2 名、スイス・

ドイツ・イラン・シンガポール・ニュージーランド各 1 名)

2011 年度秋学期

「日本の文化A-72」

(日本文化の諸相)

1レベル(初級前半)〜Ⅲレベル(初中級)34 名

(交換生 16 名、私費留学生 18 名)(中国 12 名、台湾 6 名、アメリカ・イギリス各 5 名、フ ランス 2 名、韓国・スペイン・カナダ・スイス各 1 名)

2012 年度春学期

「日本の文化A-71」

(日本文化の諸相)

1レベル(初級前半)25 名

(交換留学生 19 名、私費留学生 6 名)(アメリカ 9 名、中国 5 名、アゼルバイジャン 3 名、

台湾 2 名、オーストラリア・デンマーク・カナダ・イラン・メキシコ・カンボジア各 1 名)

2012 年度春学期

「日本の文化A-72」

(日本文化の諸相)

Ⅱレベル(初級後半)、Ⅲレベル(初中級)33 名

(交換留学生 11 名、私費留学生 22 名)(中国 15 名、アメリカ7名、台湾 3 名、韓国・ドイ ツ各 2 名、オーストラリア・カナダ・シンガポール・タイ各 1 名)

2012 年度秋学期

「日本の文化A-74」

(日本文化の諸相)

1レベル(初級前半)10 名

(交換留学生 10 名)(アメリカ 3 名、オーストラリア2名・フランス・ロシア・スウェーデン・

フィンランド・日本)

2012 年度秋学期

「日本の文化A-73」

(日本文化の諸相)

Ⅱレベル(初級後半)、Ⅲレベル(初中級)16 名

(交換留学生 8 名、私費留学生 8 名)(中国 8 名、フランス・オーストラリア各 2 名、ロシア・

イギリス・アメリカ・韓国各 1 名)

2013 年春学期

「日本の文化A-71」

(日本文化の諸相)

1レベル(初級前半)14 名

(交換留学生 11 名、私費留学生 3 名)(アメリカ 7 名、中国 3 名、デンマーク 2 名、ドイツ・

エルサルバドル各1名)

2013 年春学期

「日本の文化A-72」

(日本文化の諸相)

Ⅱレベル(初級後半)、Ⅲレベル(初中級)24 名

(交換留学生 3 名、私費留学生 21 名)(中国 18 名、アメリカ・メキシコ・フランス・オース トラリア・デンマーク・韓国各 1 名)

2013 年度秋学期

「日本の文化A-74」

(日本文化の諸相)

1レベル(初級前半)17 名

(交換留学生 16 名、私費留学生 1 名)(アメリカ 7 名、フランス・韓国各 3 名、中国 2 名、オー ストラリア・フィンランド各1名)

2013 年度秋学期

「日本の文化A-73」

(日本文化の諸相)

Ⅱレベル(初級後半)、Ⅲレベル(初中級)18 名

(交換留学生 9 名、私費留学生 9 名)(中国 10 名、アメリカ 5 名・オーストラリア・フランス・

日本各 1 名)

2014 年春学期

「日本の文化A-71」

(日本文化の諸相)

1レベル(初級前半)10 名

(交換留学生 10 名)(アメリカ 3 名、スイス・中国各 2 名、カナダ・ドイツ・イギリス各1名)

2014 年春学期

「日本の文化A-72」

(日本文化の諸相)

Ⅱレベル(初級後半)、Ⅲレベル(初中級)23 名

(交換留学生 19 名、私費留学生 4 名)(アメリカ 11 名、中国 5 名、台湾・ポーランド・韓国・

フィリピン・デンマーク・スイス・オーストラリア各 1 名)

2014 年度秋学期

「日本の文化A-74」

(日本文化の諸相)

1レベル(初級前半)11 名

(交換留学生 10 名、私費留学生 1 名)(アメリカ 5 名、フランス 2 名、中国・オーストラリア・

ロシア・タイ各1名)

2014 年度秋学期

「日本の文化A-73」

(日本文化の諸相)

Ⅱレベル(初級後半)、Ⅲレベル(初中級)24 名

(交換留学生 18 名、私費留学生 6 名)(アメリカ 12 名、フランス・韓国各 2 名、中国・ドイツ・

スイス・フィンランド・アイルランド・イギリス・台湾・ブラジル各 1 名)

 次に、筆者がどのような授業を行なってきたかを述べる。高岸の扱うテーマは、ま ずは自分の周りのことを知ってもらうために、「京都や同志社大学について知る」を取 り上げ、次に多くの学習者にとって関心の高い「ポップカルチャー」を扱い、最後に 日常生活でよく耳にする「言葉」を扱った。「言葉」を最後に設定したのは、標準日本 語文法の基礎を学習している初級レベルの学生にとって、関西弁や若者言葉は難易度 が高いと思われるためである。

 以上のような 3 つの大きな柱にしている。「自分の周りのこと」として「京都を知ろ う」「京都の祭礼・行事」「同志社大学:建学の精神とキャンパスツアー」、「ポップカル

(9)

チャー」として「日本の漫画」「日本の流行歌」「日本の子供の遊び」、「言葉」として「関 西弁と京ことば」「若者言葉」をそれぞれテーマにした授業を、90 分 1 コマを 1 つずつ のテーマで行なっている。

 90 分の授業では、大きく分けて 3 つの活動をしている。(1)その日の学習内容につ いての講義を聞く、(2)その日の学習内容に関連するテーマが与えられ、4 〜 5 人ずつ のグループで話し合い、その後グループのリーダーが話し合いの内容について簡単に 発表する(例:「京都の祭りと自分の出身地の地域文化の祭りの違い」「なぜ日本の漫 画は世界中で人気を博しているか」「自分の国の若者言葉を紹介する」)、(3)希望する 留学生がその日の学習に関連する内容について短いプレゼンテーションを行なう(例:

「好きな漫画について」「自国の漫画事情」「好きな日本語の歌」)などである。倉地(1990)

が述べているように、教科内容を教え込む一方的な講義だけでなく、日本文化のある テーマについて多様な背景をもった学習者間で発表したり、話し合ったりする機会を 多く持つことによって、学習者自身の考えを躊躇なく自己開示できるようになると考 えられる。また問題提起や発見学習を繰り返すうちに、他文化、多文化理解に広がっ ていくと考えられる。

表 3 2011 年春学期〜 2014 年秋学期のⅠレベル対象の「日本文化 A(日本文化の諸相)」

の授業内容

(Ⅱ、Ⅲレベル対象のクラスではパイエが学期前半、筆者が学期後半を担当する)

担当者、授業のテーマ 授業の活動

担当者:高岸 自分の周りのこと①

「京都を知ろう」

京都クイズに挑戦しましょう。

⑵地図で同志社大学の近くにどんな文化遺産があるか確かめましょう。

⑶『京都の通り名の歌』を紹介します。一緒に歌いましょう。

担当者:高岸 自分の周りのこと②

「京都の祭礼と年中行事」

京都の祭礼と年中行事について勉強しましょう。

グループで、京都の祭りと自分の出身地の地域文化の祭りとを比べて話し合ってく ださい。最後にリーダーが発表してください。

担当者:高岸 自分の周りのこと③

「同志社大学建学の精神と 新島襄の生涯」

同志社大学の創始者、新島襄先生の生涯や同志社大学の始まりについて勉強しましょ

⑵学内の重要な文化財や建築物が見られるキャンパスツアーに参加しましょう。う。

担当者:高岸 ポップカルチャー①

「昔の日本の子供の遊び」

テレビゲームがなかった頃、日本の子供達はどんな遊びをしていたのか、子供の遊 びにはどんな意味があるのか、一緒に考えましょう。

⑵昔の遊び道具を使って、実際に昔の遊びを体験しましょう。

⑶みなさんの国の遊びも紹介してください。

担当者:高岸 ポップカルチャー②

「日本の漫画」

日本の漫画の歴史、日本の漫画が社会にどのような影響を与えているかを説明しま

「どうして日本の漫画は世界中で人気があるか」について話し合いましょう。最後にす。

リーダーが発表してください。

⑶「好きな日本の漫画」「自分の国の漫画事情」について発表してください。

担当者:高岸 ポップカルチャー③

「日本の流行歌の歴史」

第二次世界大戦後の流行歌『りんごの歌』から最近の流行歌まで、日本の社会情勢 の歴史とともにいろいろなジャンルの歌を紹介します。知っている歌があれば一緒 に歌いましょう。

⑵ 20 世紀と 21 世紀以降の歌を比べてどんな点が違うか話し合いましょう。

⑶自分の好きな日本の歌、歌手について発表してください。

担当者:高岸

「関西弁講座」言葉①

関西弁は、おもに近畿地方で話される方言ですが、今では日本で標準語の次に知ら れている言葉になっています。関西弁の音の特徴や文法、生活でよく使われる表現 を勉強しましょう。

発音やイントネーションに気をつけながら関西弁の短いスキットを練習して発表し ましょう。

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担当者:高岸

「若者言葉」言葉②

若者言葉とは、若い人達が生活の中で使っている俗語のことです。今の日本の若者 言葉にどんな特徴があるのか、どのようなメカニズムで若者言葉が作られているか 考えましょう。

⑵グループごとに、自分の国の若者言葉を紹介し合ってください。

⑶関西弁と若者言葉を使って短いスキットを作って発表しましょう。

担当者:パイエ 神道の文化 1

神道クイズに挑戦しましょう。

日本の神話を読み,日本にはどんな神々がいるのか,また,神社との関わりを学び ましょう。

⑶各国の聖人やヒーロー,ヒロインについてグループで話し合い,発表しましょう。

担当者:パイエ 神道の文化 2

神道の概観について学び,日本人の生活との関わりを知りましょう。

日本の生活の中でのタブーについて知りましょう。各国のタブーについてグループ で話し合い,発表しましょう。

担当者:パイエ 神道の文化 3

京都の町・祭りとのつながりについて勉強しましょう。

神道と武道とのつながりについて学び,次回実習する合気道の歴史や理念について 知りましょう。

担当者:パイエ

合気道の実習 「調和の武道」と呼ばれ,力を使わない武道を実際に体験してみましょう。

担当者:パイエ

禅の文化1 禅の歴史,概観を学び,禅と武道のつながりについて知りましょう。

⑵禅のお坊さん,一休さんのクイズにグループで挑戦してみましょう。

担当者:パイエ 禅の文化2

禅文化について知りましょう。禅画を見て何を感じるか話し合ってみましょう。

⑵座禅実習の前に,座禅について学び、呼吸の練習をしてみましょう。

⑶茶道のお点前を体験してみましょう。

担当者:パイエ

座禅実習 和尚様と一緒に心を静めて座禅を試してみましょう。

5.2 初級レベルの学習者に対する「日本の文化」の授業で行なった工夫  ここでは、初級レベル対象の授業ならではの工夫について述べる。

5.2.1 講義のときに用いる表記について

 初級レベルの学習者が受講するクラスでは、英語という媒介語を使うことはやむを 得ないと考えている。しかし授業ではあくまで日本語だけで講義をする。そして配布 するレジュメや授業で見せるパワーポイント画面に日本語と英語訳を載せている。講 義スタイルの授業の時は次のような手順で行なう。教師がゆっくりと簡単な日本語で 話し、パワーポイントには話した内容と同じ日本語の文をアニメーションで見せる。

少し時間を置いてからその英語訳をアニメーションで示すようにしている。英語訳ま で少し間をとるのは、日本語の説明を聞く、文字を読むなどしてどれぐらい理解でき るのか試してほしいからである。またレジュメとPPT画面に載せる日本語は漢字仮名 交じり文を用い、ほぼすべての漢字にふりがなを打っている。はじめに漢字だけを見 せて、そのあとふりがなをアニメーションで示すようにしている。漢字が読めなくて も意味がわからなくても、常に漢字仮名まじり文を眼にしながら、「日本の文化」を少 しずつ理解してほしいと思うからである。

 英語圏以外の初級レベルの学習者については、日本語授業ボランティアの学生(5.2.2 で後述)に学習者の横に座ってもらいサポートをしてもらう。漢字圏の学習者には横 について漢字を書くなどのサポートをしてもらう。非漢字圏の学習者に対しては、上 級レベルの同じ国の学習者に来てもらい通訳をしてもらったこともある。

(11)

5.2.2 日本語授業ボランティアによるサポート

 日文センターでは同志社大学・同志社女子大学の学生に向けて、留学生の日本語授 業をサポートし、会話練習やディスカッションをしてもらう「日本語授業ボランティア」

を募集している。「日本語授業ボランティア」を希望する教師は日文センターの担当者 に申し込む。日文センターの募集方法として、日文センターのホームページに掲載する、

校門付近の立て看板やキャンパス内の掲示板に掲示するなどがある。日本語授業ボラ ンティアを希望する学生は、希望する授業の担当教師へ直接E-mailを送って申し込み をする。学生からのEmail受信後 1 週間以内に、教師から学生に参加可か不可かを連 絡し、参加可の場合は教室や授業内容について連絡する。

 このような方法で、筆者の「日本の文化」の授業に多くの日本語授業ボランティア が参加してくれた。参加してくれる学生は、数年前までは 3,4 回生が多かったが、最近 では入学してすぐの 1 回生の学生からの応募も多くなった。学生の所属学部はさまざ まである。中には海外留学経験者や、日本語教師を志望している学生もいる。筆者は「日 本の文化」以外の授業でも日本語授業ボランティアを募集しているが、中でも「日本 の文化」の授業に来てくれる日本語授業ボランティアは多い。もともとの参加者が友 人を勧誘して連れてきてくれることもあり、ボランティアの人数は、回を追うごとに 増えていくことが多い。学期の終わり頃には登録している学習者数を上回ったことも あった。

 「日本の文化」での日本語授業ボランティアの役割は、授業中の日本語サポートと「話 し合いの活動」の時のサポートである。4、5 人のグループに分かれて話し合う時、そ の中に必ず日本語授業ボランティアに 1 〜 2 人ぐらい入ってもらう。外国人学習者だ けでは話し合いが盛り上がらない場合、日本語授業ボランティアの方から話題を持ち かけることにより、活発な話し合いに発展することが多い。そして外国人学習者がリー ダーになって話し合いの内容について日本語で発表するときも、日本語授業ボランティ アが手助けをしてくれる。また話し合いを通して、外国人学習者、日本語授業ボランティ アともに、普段気にとめずにいる事柄を意識化したり、考えたりするきっかけになっ ている。さらにグループで一つのことを話し合い、協働作業をすることにより、外国 人学習者と日本語授業ボランティアとの間に深い交流の場が生まれることもある。

6 学習者は何を得たのか

 「日本文化」の授業を受講した学習者は、何を得ることができたのだろうか。この章 では、学習者がどのようにこの授業に取り組み、どのような印象を持ち、どのような 成果があったと感じているかを紹介する。以下で、2008 年度から 2014 年度の授業を受 講した学習者が期末レポートとして提出した「授業の感想」をもとに、学習者の反応 を下記のように 8 つの項目に分けて、項目別に紹介していきたい。

1. 日本語での講義の理解度について、日本語能力について

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2. 授業を受けて「日本の文化」に対する認識、視点が変化したこと 3. 日常生活で「日本の文化」を学ぶ必要性を実感したこと

4.「日本の文化」に触れて自文化を内省したこと

5. 様々な国の外国人学習者や日本人学生との協働作業によって異文化相互理解が図 れたこと

6.人前で発表する経験ができたこと

7.「日本の文化」に触れて、さらに挑戦したいと感じたこと 8. 授業の問題点

 期末レポートは、これまでの「日本の文化の諸相」の授業を受講した学習者全員が 提出しているので、合計 457 名のレポートがある。457 名分のレポートの文面から、本 稿で紹介する文章をどのように選んだかについては下記の通りである。

(1)まずすべてのレポートを読み直したうえで、8 つの項目を考えた。

(2)8 つの項目それぞれに適した内容の文章を抜き出して振り分けていった。

(3) 1 つの項目に多くの文章が振り分けられたが、そのうち特に視点がおもしろいと 感じた文章、深く学んだと感じられる文章を、1 項目につき 2 つか 3 つずつ選ん でいった。

6.1 日本語での講義の理解度について、日本語能力について 6.1.1 聴解力と会話力について

「私は日本の文化に興味がありますが、難しすぎる言葉で教えられたら困ると思い ました。けれども先生は、簡単な言葉を使いました。とてもわかりやすかったです。」

(ドイツ人、女性)

「授業の前に、このクラスは全部日本語で教えると聞いてびっくりしました。でも、はじめ の頃は 50%しかわからなくてもいろいろ習えました。そしてだんだん慣れてきました。」(ア メリカ人、女性)

「グループで話すのがよかったです。みなが日本語で話す練習ができました。わからなかっ たら、ボランティアさんが教えてくれました。発表のときも助けてくれました。世界中のお 祭りについていろいろわかりました。これは一石二鳥ではないでしょうか。」(韓国人、男性)

6.1.2 筆者の見解

 初級レベルの学習者にとって、日本語だけで難しい内容の講義を聞くのは大きな負 担になると考えられる。けれども、5.2.1 で述べたような表記上の工夫をしたり、わか らない時には日本語授業ボランティアに教えてもらったりすることにより、ほとんど

(13)

の学習者は継続して出席している。これまでの学期で日本語の難易度を理由にキャン セルした学習者は、ほんの僅かな人数である。またこの「日本の文化A(日本文化の 諸相)」の授業の出席率が 100%という学習者は、毎学期 90%以上であったということ も付け加えたい。

6.2 授業を受けて「日本の文化」に対する認識、視点が変化したこと 6.2.1 関西弁について

「『関西弁』の授業で、関西弁と標準語の違いについて学びました。標準語との大きい違いは 単語ではなくアクセントとイントネーションです。文字だけ見ると、これらの違いはわかり にくいですが、聞くとその違いが感じられます。関西弁は標準語に比べると、長く伸ばして 発音します。そしてもっとフィーリングがあると思います。」(中国人、女性)

6.2.2 若者言葉について

「若者が使う言葉の意味は時とともに変化しています。「やばい」は、元々は「危ない」とい う意味でしたが、今は「とてもよくてたまらない」という意味にもなると習いました。この ように言葉は生きているということがよくわかりました。日本語学習者にとって若者言葉は はじめて聞いたとき、まったく意味がわからず混乱することもあるでしょう。でも若者言葉 が作られるメカニズムや日本の若者の考え方がわかると、だんだんそのおもしろさがわかっ てきました。」(中国人、男性)

6.2.3 「日本の漫画」について

「アメリカで日本の漫画はかなり人気がありますが、その理由がよくわかりませんでした。

グループで『なぜ日本の漫画は世界で人気があるのか』について話し合いました。「いろい ろなジャンルの漫画があるので好きなものを選ぶことができる」「メッセージ性が強い」「登 場人物に共感できる」「読むと元気になれる」「擬音語・擬態語など日本語表現のおもしろさ を感じることができる」など、いろいろな意見がでました。それからもっと漫画が読みたく なりました。」(アメリカ人、女性)

「私の国では、漫画は子供にとって教育的効果があるべきものであるという考え方ですが、

それに比べて日本の漫画家は自由に作品を作っていると思います。例えば強盗が主人公の漫 画や、どんなに苦労しても報われずに死んでしまう主人公の漫画などもあり、まったく教育 的ではないですが、大人が読んでもおもしろく、意味が深いものが多いです。」(中国人、女性)

6.2.4 「同志社の建学の精神:新島襄の生涯」について

「私は同志社の創始者の話を聞いて感動しました。江戸時代日本人は外国に行けなかったこ と、京都にキリスト教の学校を作る前に仏教徒から強い反対を受けたことなど知りました。

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けれども新島襄は自分の夢を実現するためにあきらめずに努力しました。そのような姿に感 動しました。その話を聞いたあとでキャンパスツアーに行きました。普段何も考えずに通り 過ぎていた建物について、深い思いで説明を聞くことができました。」(台湾人、女性)

「私の母校、アーモスト大学のチャペルの祭壇の右側に新島襄の肖像画があります。これは とても大切な場所だと言われています。きょうその新島襄の話が聞けてよかったと思いま す。」(アメリカ人、女性)

6.2.5 筆者の見解

 池田(1975)は学習者の学びについて下記のように述べている。

学習者が大人であればあるほど、 言葉 を学ぼうとするのは、何か新しい こと が学び たいからである。それは表面的には 言葉 の学習という形にみえるが、彼らは無意識的に はそれで満足しているわけではない。 言葉 の学習の中で、抽象的な世界に遊び、価値観 の相違に驚くといった、非常に高度な精神的な要求を充足させているのである9

 外国人学習者は、自国の社会においてそれぞれ固有の価値観を持っている。けれど も日本の文化を学ぶことで、それまでの価値観と違うことに驚いたり視点や認識が変 わることを楽しんだりしているようである。このように自国との違いに違和感や拒否 反応を感じるのではなく、「おもしろい」と感じている。その気持ちは日本の文化理解 につながり、やがては自らの「日本文化」を発見することにつながっていくのではな いかと感じた。

6.3 日常生活で「日本の文化」を学ぶ必要性を実感したこと 6.3.1 日常生活で使う言葉について

「日本人の友達と日本語の教科書の文法を使って話したら笑われてしまったので、それ以降、

日本人と話すたびに緊張するようになりました。けれども、日本人みんなが使っている関西 弁や若者言葉を使うとみんなが喜んでくれてお互いの間にあった壁がなくなったように感じ ました。自然にコミュニケーションをするために、今使われている言葉を聞いたり話したり することは大切だと思いました。」(中国人、女性)

「今私の周りには、『毎日クラスで勉強する言葉』と、キャンパスで耳にする『関西弁』『若 者言葉』の 3 つの言葉があることがわかった。3 つの言葉は、話し相手や場面によってきち んと使い分けなければいけないこともわかった。このようなことは学期のできるだけ早い時 期に学んだ方がいいと思った。」(アメリカ人、女性)

(15)

「母国の大学院の外国人対象の中国語授業の研修を受けているとき、先生から「教師である 以上、学生たちに正しくていい言葉を教えなければいけない。」と叩き込まれた。しかし私は、

言語と文化は離れられない共同体だと思う。正式な言葉ではないがよく使われている若者言 葉や方言も教えてもよいのではないかと思っている。「関西弁」「若者言葉」の授業を受けて から、自分の考え方は間違っていないことを実感した。」(中国人、女性)

6.3.2 筆者の見解 

 学習者の中には日常生活でよく使われる言葉に敏感で、その言葉を使えた方がスムー ズにコミュニケーションが図れると感じている者が多い。それだけに「関西弁」や「若 者言葉」など言葉についての授業は、普通の生活につながっていて役に立つ、またこ のような言葉を習うことに意味があると考えていることがわかった。中には「京都に 住んでいるうちに、標準語より関西弁で話した方が自分の気持ちを伝え易いし、自然 な行動もできると感じるようになった。」というアメリカ人男性の学習者もいた。この 学習者は、異文化の中で生きていくための新しい学習方法、つまり新しい文化を体得 したと言えるのかもしれない。

6.4 「日本の文化」に触れて自文化を内省したこと 6.4.1 自国の祭りについて

「韓国は戦争や急速な経済発展などの理由で、いくつかの伝統的なお祭りはなくなってしま いました。今韓国には、地域の経済発展のために始めた祭りが多く、外国からの観光客も楽 しめるようなエンターティメント性のあるものが多いです。一方日本には、古くからの伝統 的な祭りがたくさん残っているようです。私は近い将来、韓国でも伝統的で独自性のある文 化を伝えていけるような祭りを新たに興したいと思っています。」(韓国人、女性)

6.4.2 筆者の見解

 日本のことや京都のことを伝えたあとは、必ず自国の状況を振り返ってクラスメー トと伝え合う時間を持たせている。この活動を通して自分の文化を客観的な視点で見 つめ直した上で、物事を全体的に把握する能力がつけてほしいと思う。それによって 異なる多様な文化を受け入れる柔軟性を養うことができる。さらに自国の将来のある べき姿を展望することもできると考えられる。

6.5 様々な国の留学生や日本人学生との協働作業によって異文化相互理解が図れたこと 6.5.1 予想外の発見があった例

「ヨーロッパから来た留学生が、日本に近い韓国から来た自分より、もっと日本の文化につ いてよく知っていることにとても驚きました。」(韓国人、女性)

(16)

「アメリカ人留学生が、韓国の歌手の日本発売の曲を紹介したことが記憶に残っています。

他の国の留学生が日本の文化だけでなく、私の国の文化を紹介してくれたのでとても嬉し かったです」(韓国人、女性)

6.5.2 話し合いの重要性を知った例

「グループで自国の若者言葉について話し合いました。それで、若者言葉は若者同士が分か り合う鍵になるということも、世界中の若者の考え方が似ていることもわかりました。昔か ら外国人の考え方は理解できないと思っていましたが、話し合うと理解し合えるということ がわかったような気がしました。」(中国人、男性)

6.5.3  異文化交流を楽しんだ例

「皆がたくさん意見と感想を言う時間がありました。他の国から来た学生は漫画についての 意見が私と結構違いましたが、異なった意見を持っていたからこそ、いい議論ができました。」

(台湾人、女性)

「授業を通じて、同じ趣味を持っている同級生と知り合えて本当に嬉しかったです。これか らも同じ趣味を通してたくさんの友達を作りたいです。」(フィンランド人、女性)

「クラス全員で遊ぶことを体験しました。留学生は、いろいろな国から来ているので文化も 言葉も違いますが、子供のときの遊びには同じものがあります。みんなで一緒に子供のよう に遊んだり笑ったりして、すごく不思議な時間でした。」(イスラエル人、女性)

「最初はこのクラスは「日本の文化」だけ一方的に習うと思ったが、そうではなく自分の文 化を見直せるし、さまざまな国の文化についても学ぶことができる。だからこそ教科書以外 の貴重な知識を勉強でき、国際交流も築くことができる。」(中国人、男性)

6.5.4 筆者の見解 

 倉地(1990)は、異文化接触について次のように述べている。

 多民族・多文化的背景を持った学習者によってクラスが構成されている場合、クラスその ものが異文化接触の日常的な場となり、異文化理解教育の大切な機会となることを充分に配 慮し、この多文化的グループ・ダイナミックスを最大限に学習活動に発揮出来るような教育 方法を生み出すことも肝要である10

 授業での学習者の様子を見ていると、グループで話し合うように教師から指示され ると、普段はそれほど深い付き合いをしていない学習者同士でも真剣に話し合おうと

(17)

している。その際、相手の話を日本語で聞こうとし、自分の伝えたいことを日本語で 伝えようとしている。このように日本語を駆使してお互いの文化について分かり合お うとしている。そうしたことが繰り返されることによって、さまざまな国の文化を理 解しようとする態度が育まれ、異文化理解が深まっていくように感じた。

6.6 人前で発表する経験ができたこと

「私は漫画が大好きですから、『フランスの漫画事情』について発表しました。私は初級なの で難しかったですが、初めて自分で日本語で話しました。自分の好きなことについて話すの はおもしろい経験だったと思います。」(フランス人、女性)

「関西弁と若者言葉の会話を練習して発表しました。先生やボランティアさんの細やかな指 導のもとで発音とアクセントを直していただき何回も練習してやっとみんなの前で発表しま した。日本語がもっと好きになりました。」(アメリカ人、女性)

「友達と一緒にある漫画について発表しました。同じ漫画好きの友達と大好きな漫画につい ての発表だったので、日本語で発表する緊張感すら忘れてしまうほど楽しかったです。」(台 湾人、女性)

「学生の発表はおもしろかったです。授業で習うことも多いですが、いろいろな学生達が発 表して、その学生の考え方が分かるようになっておもしろかったです。そして私が好きなも のとよく似ていることもあって嬉しかったし、新しい情報も得ることができました。」(アメ リカ人、女性)

6.6.1 筆者の見解

 まだ初級前半レベルで語彙数が極端に少ない学習者でも、自分の好きなこと、例え ばアニメや漫画、歌などについてであれば、「そのことについて話したい」という強い 動機づけになり、驚くほどの集中力で発表原稿を書き、教師に添削を求め、さらに発 表のために凝った視覚教材を作ってきたりすることがある。日本語レベルの高い学習 者が混じっているクラスなら発表を躊躇するかもしれないが、同じぐらいのレベルの 学習者だけのクラスなら、それほど躊躇なく発表できるようだ。発表のあと達成感に 浸っている学習者を見ていると、教師の方で「初級前半レベルの学習者は言葉も足り ないし、むずかしいテーマの発表は無理だ。」と勝手に決めつけてはいけない、学習者 の可能性を引き出すために教師も努力しなければならないと感じた。

6.7 「日本の文化」に触れてさらに挑戦したいと感じたこと

「祇園祭はどういう祭りかという説明だけでなく、祇園祭の起源について勉強できたのがお

(18)

もしろかったです。今後は日本人の習慣の歴史的意義を現代的意義と比べたいと思います。

一例として、多くの人々は今も鬼や厄払いを信じているかどうかを調べたいです。」(アメリ カ人、男性)

「新島襄の授業が一番印象に残りました。国禁を犯して船で脱出する情熱、死ぬ前まで熱心 に運動する教育精神、仏教徒の反対が強い京都の町にキリスト教の学校を作りたいという強 い挑戦の気持ちもすごかったです。私も若者として高い志を持って、全力を尽くして夢に向 かって頑張ろうと思いました。」(中国人、女性)

6.7.1 筆者の見解 

 この「日本の文化」の授業では、90 分 1 コマで 1 つのテーマを扱っているので、そ れほど深い内容の授業はできないが、この授業をきっかけに、もっと深く勉強したい、

全力を尽くしたいという動機付けになることがあれば、この授業はその学習者の目標 決定に一役買ったことになる。今後も学習者の関心を大いに喚起するような内容の授 業を考えたいと思う。

6.8 授業の問題点

6.8.1 授業のやり方、テーマの選び方、課題の与え方などについての問題点

「希望者だけにプレゼンテーションをさせるのでなく、学生全員にさせた方がいいと思う。

そうすれば、みんな頑張って準備をしたと思う。」(アメリカ人、男性)

「学生にとって、授業を受けてそれで終わりというのはよくないです。やはりそれぞれのテー マについてどんなことでもいいから日本語で語れるようになりたいです。そうでないと自分 たちに進歩がないと思います。」(ドイツ人、男性)

「授業の内容は、私の役に立つこともそうじゃないこともありました。身近なことは役に立 ちましたが、流行歌は歌詞の意味もわからないし、よく聞こえなかったし難しかったです。

そして若者言葉は、標準日本語もわからないのに、若者言葉はもっとわかりにくいです。」(韓 国人、男性)

「それぞれのトピックの勉強の時間はちょっと短いと思います。 1 つのテーマで 1 コマしか 勉強しませんでした。 1 つのテーマで 2,3 コマ勉強した方がいいです。」(台湾人、女性)

6.8.2 授業の問題点についてどう改善したか

 以上のような授業に対する不満や授業への注文については、これからも耳を傾けて

(19)

いきたいと思う。登録学習者の数や授業時間数などの事情により改善できない点もあ るが、授業のやり方については改善できる。たとえば、「学生にとって、授業を受けて それで終わりというのはよくない。」という学習者の指摘を受けて、以降の学期では、

毎回授業内容について感想を書かせる、または質問に答えさせるなどの課題レポート を宿題として課し、日本語で書いて提出させることにした。提出された宿題は、教師 が添削し文法的誤りを訂正し、内容についてわかりにくいところは翌週、書いた本人 に聞いて直させたりしている。それにより習ったテーマについて自分の意見を少しで も話すことができるようになったと思われる。

 一方、「標準日本語もわからないのに、若者言葉はもっとわかりにくい。」という声 もあった。このように初級学習者に関西弁や若者言葉を教えることについての負の影 響も考えなければならない。初級学習者に関西弁の文法や若者言葉の作られるメカニ ズムを説明しても、混乱を招くおそれがある。そこで負の影響をできるだけ小さくす るために、(1)関西弁、若者言葉を扱う授業は、筆者担当の学期の最後の 2 コマの授 業に設定している。(2)文法の説明をできるだけ減らし、ひとことで使える役に立つ 表現、例えば「ほんま?」「めっちゃ○○い!」などを紹介している。(3)アクセント やイントネーションの違いであれば初級学習者にもわかりやすいと考えられる。そこ で標準日本語と関西弁の違いの一つとして、アクセントやイントネーションの違いを 耳で聞かせてその違いがわかるようにしている。

 また、「1 つのテーマで 1 コマしか勉強できないので、学習内容が深まらない。」とい う不満点についてだが、この授業は「日本文化の諸相」というタイトルのとおり、日 本文化のさまざまな断面を紹介していくものであり、初級の学習者が理解できる日本 語で伝えられる範囲の内容を、毎週テーマを変えて紹介していく授業だと考えている。

けれども不満点を書いた学習者にとっては物足りないと感じたのかもしれない。今後 はできるだけ表面的な紹介のみに終わらないように、それぞれの「文化」が学習者自 身の身近な生活、あるいは今後の社会にどのような影響を与えるかを考えさせるよう な内容にしていきたいと考えている。

 2015 年度秋学期から「日本のきもの文化」をテーマとした授業を取り入れ、ゲスト スピーカーとして京都のきものメーカー会社の社長で小紋研究家である方に講演をお 願いすることにした。今後できれば、「京都の企業」「京の食文化」「日本の昔話」など についても扱ってみたいと考えている。可能であれば、3 コマで 1 つのテーマを扱う教 室活動や教室外での活動も取り入れることができればと思っている。3 コマの内訳は、

「事前学習(テーマについての基礎知識を学ぶ。)」「現地の見学または調査」「事後学習(見 学の感想の発表、現地調査の結果発表、ディスカッションなど)」である。このような 教室活動を取り入れることにより、学習者はこれまでより主体的な態度で「日本の文化」

を探究することが求められる。

表 2 2011 年度秋学期〜 2014 年度秋学期「日本の文化」、学習者の人数・国籍学期 学期科目名 受講者の人数・国籍 2011 年春学期 「日本の文化 A-71」 (日本文化の諸相) 1レベル(初級前半)〜Ⅲレベル(初中級)29 名 (交換生 10 名、私費留学生 19 名)(中国 13 名、台湾 6 名、韓国 3 名、アメリカ 2 名、スイス・ドイツ・イラン・シンガポール・ニュージーランド各 1 名) 2011 年度秋学期 「日本の文化 A-72」 (日本文化の諸相) 1レベル(初級前半)〜Ⅲレベル

参照

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