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るフレーミング効果の発生

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るフレーミング効果の発生

著者 中井 教雄

雑誌名 社会科学

巻 41

号 3

ページ 31‑59

発行年 2011‑11‑30

権利 同志社大学人文科学研究所

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000012537

(2)

会計基準の差異と銀行行動

─ 銀行貸出行動におけるフレーミング効果の発生 ─

中 井 教 雄

本稿では,銀行貸出における貸倒引当金の取り扱いが,財務会計と税務会計におい て異なるため,リスク中立的な銀行の貸出行動が,利得領域においてリスク回避的に,

損失領域においてリスク愛好的なものに歪曲することを理論的に示す。

本稿の主な結論は,次の 3 点が挙げられる。第 1 に,税制が存在しない場合,貸倒引 当金制度の有無にかかわらず,リスク中立的な銀行による貸出の継続または清算の選 択は,各選択による期待収益の大小関係に依存して決定される。第 2 に,税制が存在 し,貸倒引当金の取り扱いについて,財務会計と税務会計において一致している場合,

リスク中立的な銀行による貸出の継続または清算の選択は,銀行の期待フリーキャッ シュフローを最大化するように選択される。最後に,税制が存在し,貸倒引当金の取 り扱いについて,財務会計と税務会計において異なる場合,リスク中立的な銀行は,

利潤に対してリスク回避的に,損失に対してリスク愛好的(すなわち損失回避的)と なるような貸出決定を行う。この結果は,銀行貸出における貸倒引当金の取り扱いが,

財務会計と税務会計において異なるため,銀行がプロスペクト理論型の効用関数を持 つように変化し,銀行行動において内生的にフレーミング効果が発生することを意味 する。

1 はじめに

米国のサブプライム・ローン・ショックを発端とした金融危機により,金融市場は機 能不全に陥り,先進国を中心とした世界経済の悪化が生じた。この金融危機の経緯にお いて問題とされている 1 つに,銀行によるリスク管理の失敗が挙げられている1)

Kashyap, Rajan, and Stein(2008)によれば,銀行は,金融工学を駆使することによ り,低品質でリスクの高い金融資産を証券化してリスクの低減を図ったが,テール・リス クについてはほとんど認識されていなかった。また,銀行は,財務健全性を擬似的に改 善させるために,不良債権処理を先送りにし,中小零細企業への貸出などの比較的リス クの高い貸出先に対して貸し渋りを行った。そのため,そのような銀行行動により,実

(3)

体経済が更に悪化し,一層の貸し渋りが起きるという悪循環が生じた。

このような不良債権処理の先送りと貸し渋りという銀行行動は,バブル崩壊後の日本 の銀行でも見られた現象である。当時,日本の銀行(経営者)は,BIS規制下において,

倒産(あるいは早期是正措置の適用)を回避するために,不良債権に対し,直接償却によ る清算よりもむしろ,貸出損失の一部を貸倒引当金の積み増しで対応した2)。その結果,

銀行システムが回復・改善するまでに多くの時間と費用を要することになった。

それではなぜ銀行はバブル期に不十分なリスク管理しか行わず,景気後退期に不良債 権処理を先延ばしにするのだろうか。本稿では,このような銀行行動の原因が,金融商 品会計(企業会計)と税務会計の差異にあるものとし,会計制度が銀行行動に及ぼす影 響について考察する。

銀行は金融システム上最も重要な要素の 1 つを成していることから,健全性の確保が必 然となる。そのためには,銀行資産の適正なリスク管理が必要不可欠である。すなわち,

リスクを伴う金融商品において,ファイナンス型会計理論における評価基準である公正 価値が,妥当性と重要性を有するべきである3)。古賀(2003)によれば,公正価値とは,

独立した第三者間の取引で成立する場合における価格の見積額であり,市場価値(客観 的価値)および使用価値(主観的価値)を包括するものとされている。しかし,金融資 産の価値は,会計制度によってその評価が変化する。そのため,金融商品会計と税務会 計では,金融資産の評価が異なる4)

ここで,本稿で取り扱う銀行の貸倒引当金の計上に関する問題について述べる。一般 的に,銀行は,貸出債権が回収不能となる場合に備え,当該債権のリスクに応じて予め 引当金を積み立てる。これにより,貸出資金の回収不能という不測の事態が発生した場 合でも,大きな損失を被るリスクを回避することができる。貸倒引当金には,個別貸倒 引当金と一般貸倒引当金の 2 種類がある。一般貸倒引当金とは,健全な財務戦略として,

貸出債権の回収不能に備えて,予め計上する引当金である。一方,個別貸倒引当金とは,

経営破綻または実質的に経営破綻している貸出債権に対して,貸出先企業ごとに計上さ れる引当金を指す。

また,貸倒引当金の算出方法については,金融商品会計(企業会計上)と税務会計上 で若干定義が異なる。そのため,これら 2 つの会計制度間において,引当金の計上額の 差異が発生し,税効果会計にも影響する。主な相違点としては,金融商品会計上の破産 更生債権等と税務上の個別評価金銭債権の範囲および一括評価金銭債権に関する貸倒実 績率の算定方法などが挙げられる5)。さらに,税務会計において,貸出実積率に応じた貸

(4)

倒引当金の繰入限度額が存在する。貸倒引当金の繰入限度額とは,貸倒引当金という企 業会計上の損失を税務会計上の損失である損金に算入する金額の上限である。そのため,

金融商品会計上の貸倒引当金が税務上の算定額を上回れば,その差分は算入限度超過額 として,今期分の損金算入が認められない。この金融商品会計と税務会計上との差分は,

税効果会計上,「将来減算一時差異」として今期に繰延税金資産に計上され,次期以降の 損金算入が認められる時点に取り崩しされることになる。

しかし,税効果会計により,金融商品会計と税務会計上における利益が一致する一方 で,キャッシュフローは,貸倒引当金の損金不算入の金額分,金融商品会計のケースよ りも減少する。このように,これら 2 つの会計制度の違いによるキャッシュフローの減 少は,銀行行動に様々な影響を及ぼす可能性がある6)。例えば,奥田(2001)では,有税 償却の場合は納税額が減少し,無税償却の場合は繰延税金資産が増加するため,自己資 本は増加するものと推測されている。

さらに,近年の金融危機を踏まえ,IASBおよびFASBは,金融商品会計における貸出 債権の評価と貸倒損失の認識・測定について,現行の発生損失モデルから,公正価値モ デルおよび予測損失モデルなどのよりリスク管理に適応した貸倒引当金の積み立てを推 進している7),8)。このような主に金融機関を対象とした会計制度の改正は,税務会計との 差異を更に拡大させる可能性がある。この点において,本稿のように,これら 2 つの会 計制度の差異が銀行行動に与える影響について考察することには一定の意義がある。

一方,フレーミング効果とは,同じ意思決定問題が,その問題の心理的構成の仕方に よって選択結果が異なる現象である。すなわち,論理的には同じ選択肢であっても,表 現や状況の違いによってその心理的な解釈の枠(フレーム)が変化する効果である。フ レーミング効果を説明する理論の 1 つとして,プロスペクト理論がある9)。プロスペクト 理論とは,数理的には同一の意思決定問題であっても,心理的には異なる意思決定が行 われることを示した理論である。つまり,投資の意思決定において,利潤に対してリス ク回避的に,損失に対してリスク愛好的な投資を行うことを表している。

本稿の目的は,銀行貸出における貸倒引当金の取り扱いが,財務会計と税務会計にお いて異なるために,リスク中立的な銀行行動が歪曲し,銀行がプロスペクト理論型の効 用関数に基づく意思決定を行い,フレーミング効果が内生的に発生することを理論的に 示すことである。行動経済学あるいは行動ファイナンスは,市場経済における人間心理 に着目し,心理学的アプローチによって実証的に理論を構築する研究領域である。しか し,本稿では,銀行の限定合理性を外生的に設定することにより,そのような銀行行動に

(5)

よる市場への影響について検証するのではなく,金融商品会計と税務会計の差異により,

リスク中立的な銀行行動がプロスペクト理論型の効用関数に従うものに変化するという ことを理論的に明示している10)。この点が本稿の特徴である。

米山(2011)によれば,金融危機の原因を会計基準の介在によるものとそれ以外のもの

(金融的要因など)に分類して考察すべきであることを指摘している11)。この指摘に従え ば,本稿の貢献は,複数の会計基準により銀行行動が歪曲するために,潜在的な金融危 機発生の可能性が生じることを理論的に明示している点にある。

ここで,予め本稿の結果について簡潔に述べる。第 1 に,税制が存在しない場合,貸倒 引当金制度の有無にかかわらず,リスク中立的な銀行による貸出の継続または清算の選 択は,各選択による期待収益の大小関係に依存して決定される。第 2 に,貸倒引当金制 度および税制が存在し,貸倒引当金の認識が財務会計上と税務会計上で等しい場合,リ スク中立的な銀行による貸出債権の継続または清算の選択は,銀行の期待フリーキャッ シュフローを最大化するように選択される。最後に,貸倒引当金制度および税制が存在 し,貸倒引当金の認識が財務会計上と税務会計上で異なる場合,銀行の貸出決定は,利 得領域においてリスク回避的になり,損失領域においてリスク愛好的(すなわち損失回 避的)になり易くなる。すなわち,銀行がプロスペクト理論型の効用関数を持つように なり,銀行行動において内生的にフレーミング効果が発生する。

本稿の構成は以下の通りである。第 2 節では,先行研究と本稿の関係について述べる。

第 3 節では,モデルの設定および基本的なモデルについて述べる。第 4 節では,財務会 計と税務会計において,貸倒引当金の取り扱いに関する差異が存在するケースと存在し ないケースについて分析を行う。第 5 節では,第 4 節で示された貸倒引当金の取り扱い に関する差異によって歪曲した銀行行動が,プロスペクト理論型の効用関数に従うこと を示す。また,それを踏まえ,銀行行動において内生的にフレーミング効果が生じるこ とを明らかにする。最後に結論を述べる。

2 先行研究と本稿の位置付け

本稿と先行研究との関係は,以下の通りである。プロスペクト理論に基づいた意思決 定問題について理論的に分析した研究において,Kyle, Hui, and Xiong(2006)と密接に 関係している。Kyle, Hui, and Xiong(2006)は,プロスペクト理論型の効用関数を持つ エージェントによる投資の清算決定をモデル化し,行動経済学の領域で示されている気

(6)

質効果およびブレーク・イーブン効果の発生メカニズムを理論的に明らかにしている。

また,税制による投資行動および配当政策の影響との関係では,大野・林田(2010)お

よびMori(2010)と関連している。大野・林田(2010)は,配当課税による家計の投資

行動に対する影響について実証分析を行い,配当課税が,投資家による資産保有期間の長 期化および取引の不活性化をもたらすということを明確にしている。一方,Mori(2010)

は,キャピタルゲインに対する限界税率が配当に対する限界税率よりも高いために,機 関投資家が企業の利益の全額または非常に高い配当を要求することを理論的に示してい る12)

さらに,銀行の貸倒引当金に関する議論では,奥田(2001)および児嶋(2010)と関連 している。特に,プロスペクト理論と不良債権問題の関連について考察している点にお いて,本稿は,三隅(2002)と密接な関係にある。三隅(2002)は,銀行行動において,

期待効用原理ではなく行動経済学の原理が働いているために,銀行が,公的資金の投入 にもかかわらず,不良債権処理を積極的に行うインセンティブを持たないということを,

心理的収支計算を用いて明らかにしている。

中井(2008)では,銀行の目的関数にプロスペクト理論で示される効用関数を組み込 んだ場合における貸出市場の部分均衡分析を行うことにより,そのような貸出市場にお いて,銀行の自己資本が減少するにつれ,貸出量が増加するという「追い貸し」が生じ ることを理論的に示している。さらに,このモデルに,財市場の均衡を組み込んだ動学 モデルを構築することにより,上述の追い貸しという非効率な貸出が,経済の不均衡が 是正される期間を長期化させるため,信用市場および財市場で最適な資源配分が行われ る機会が減少することを明確にしている。しかし,中井(2008)では,銀行行動にプロ スペクト理論型の効用関数を外生的に導入することにより,限定合理的な銀行行動によ る貸出市場およびマクロ経済に対する影響について分析しているため,銀行行動におけ る限定合理性(特にフレーミング効果)の発生メカニズムを明示的に扱っていない。

そこで,本稿では,財務会計と税務会計における貸倒引当金の取り扱いの差異により,

リスク中立的な銀行行動が歪曲され,プロスペクト理論型の効用関数に基づく貸出行動 が生じるメカニズムを理論的に明示する。

(7)

3 基本モデル

3.1 モデルのセット・アップ

本稿では,t=0, 1, 2, …, nからなるn期モデルを考える。任意のt期には,t0,t1およ びt2という 3 期の小期間に分割される。ただし,t0期は(t−1)2期(t−1 期の期末)に 等しく,t2期は(t+1)0期(t+1 期の期首)に等しくなる。

プレーヤーは,リスク中立的な銀行のみとする。単純化のため,このモデルには,貸出 市場および国債市場が存在するものとし,銀行は自己資本(全額普通株とする)と預金 で貸出および国債の購入を行えるものとする。また,貸出費用を 0 とし,預金準備制度,

預金保険制度および自己資本比率規制を無視する。

t0期の期首において,銀行の資産ポートフォリオは最適化されているものする。その資 産構成により,t1期およびt2期にそれぞれ確実にXtの利潤が得られる。この利潤には,

この資産ポートフォリオによる純収益から預金調達コスト等の総費用を差し引いた利益 を表している。

また,このt0期において,銀行は規模(L)の新しい投資機会に直面する。この投資機 会は,t1期にシグナルsgもしくはシグナルsbを発する。シグナルsgが発せられた場合,

銀行は利子収入であるrLLのキャッシュフローを得て,当該貸出債権が正常債権であると 判断する。このとき,正常債権は,t2期において確率pgで元利合計の(1+rLLが償還 され,確率 1−pgで元本のLのみが償還される。ここで,rLは貸出利子率である。また,

この正常債権をt1期に清算する場合,銀行は元本Lを得て,それを国債に投資すること ができる。この場合,t2期に(1+rfLのキャッシュフローが得られる。ここで,rfを安 全資産利子率とする。

一方,シグナルsbが発せられた場合,銀行はt1期にキャッシュフローを得ず,当該貸 出債権が不良債権であると判断する。このとき,不良債権は,t2期において確率pbで元 本(L)が償還され,確率 1−pbで償還 0 の完全なデフォルトとなる13)。また,この不良 債権をt1期に清算する場合,銀行は(1−w)Lのキャッシュフローを得て,それを国債に 投資することができる。この場合,t2期に(1+rf)(1−w)Lのキャッシュフローが得られ る。ここで,wを初期清算損失率とする(0<w<1)。

銀行がこの投資を行う場合,信用創造により新規投資量(L)をファイナンスできるも のとする14)。この投資をファイナンスするための預金での資金調達は,t期を通して行わ れ,t1期での途中償還が不可能であるものとする。また,その資金調達コストは,t1期お

(8)

よびt2期にそれぞれrDLを支払うものであると仮定する。ここで,rDを預金利子率とす る。この新規投資量は,t2期に貸出を清算した後に償還されるものとする。

最後に,各シグナルが発せられた場合において,銀行がt1期にどのような資産保有を 選択したとしても,t1期の期末に得られたフリーキャッシュフローは,t2期まで国債に投 資されるものとする。また,t2期において,t期に得られたフリーキャッシュフローは,

すべて株主に配当として還元されるものとする15)

以上,ゲームの意思決定の順序を図示したものが,図 1 および図 2 である。

3.2 税制が存在しないケース

税制が存在せず,財務会計に貸倒引当金制度が存在しない場合,本稿のモデルにおい て,銀行の利潤はフリーキャッシュフローと等しくなる。本稿では,以降の分析との比 較・検討を容易にするため,銀行の期待フリーキャッシュフローに焦点を当てる。

まず,t1期にシグナルsgが発せられるケース(以下,このケースを「利得領域」と呼 ぶ)について考える。銀行がt2期まで貸出(L)を継続する場合,t2期における銀行の期 待利潤すなわち期待フリーキャッシュフロー(π PAN,t)は,次式のように表される16)

図 1 モデルのタイミング(貸出を継続するケース)

t-1 期 t t+1 期

資 産 ポ ー ト フォリオの最 適化

t0 t1 t2

資 産 ポ ー ト フォリオの最 新規投資機会 適化

(L)の実行

シグナルsgの場合

(正常債権)

rLLのキャッシュフローを得る

確率pgで元利合計(1+rLL 償還確率 1−pgで元本Lが償還 シグナルsbの場合

(不良債権)

0 のキャッシュフローを得る

確 率pbで 元 本Lが 償 還 確 率 1−pbで償還 0 の完全なデフォ ルトとなる

図 2 モデルのタイミング(貸出を途中清算するケース)

t-1 期 t t+1 期

資 産 ポ ー ト フォリオの最 適化

t0 t1 t2

資 産 ポ ー ト フォリオの最 適化 新規投資機会

(L)の実行

シグナルsgの場合

(正常債権)

rLLのキャッシュフローを得る キャッシュフロー(貸出元本)L を国債に投資

(1+rfLのキャッシュフローを 得る

シグナルsbの場合

(不良債権)

0 のキャッシュフローを得る 貸倒損失(wL)を確定した残余 キャッシュフロー((1−w)L)国 債に投資

(1+rf(1−w)Lの キ ャ ッ シ ュ フローを得る

(9)

π PAN,t=(Xt+rLL−rDL)(1+rf)+(Xt+pgrLL−rDL) (1)

上式において,第 1 項は,t1期に得られたフリーキャッシュフローをt2期まで国債に 運用した利潤である。また,第 2 項は,貸出(L)をt2期まで保有した場合におけるt1期 からt2期までの銀行の利潤である。(1)式を整理すると,以下の式が得られる。

π PAN,t=(Xt−rDL)(2+rf)+(1+rf+pgrLL (2)

一方,銀行がt1期に貸出(L)を清算し,国債にシフトする場合,t2期における銀行の 期待利潤すなわち期待フリーキャッシュフロー(π PCN,t)は,次式のように表される。

π PCN,t=(Xt+rLL−rDL)(1+rf)+(Xt+rfL−rDL) (3)

上式において,第 1 項は,t1期に得られたフリーキャッシュフローをt2期まで国債に 運用した利潤である。また,第 2 項は,t1期に貸出(L)を清算しその元本を国債にt2期 まで投資した場合におけるt1期からt2期までの銀行の利潤である。(3)式を整理すると,

以下の式が得られる。

π PCN,t=(Xt−rDL)(2+rf)+(rL+rf rL+rfL (4)

ここで,(2)式と(4)式を比較することにより,利得領域における銀行の各資産選択 行動による期待フリーキャッシュフローの大小関係は,以下の式に依存する。

π PAN,t−π PCN,t=(pgrL−rfL

  If pgrL<rf then π PAN,t<π PCN,t (5)

  If pgrL>rf then π PAN,t>π PCN,t

上式により,利得領域において,銀行が貸出を継続するのか,もしくは貸出を清算し て国債保有にシフトするのかという資産選択は,各行動による期待収益率の大小関係に 依存する。すなわち,t2期の期待収益率が国債の収益率よりも高い(低い)場合,銀行

(10)

は貸出を継続(清算)する。このような銀行行動の結果は,銀行がリスク中立的であり,

期待利潤の最大化を目的とするという仮定と整合的である。

また,t1期にシグナルsbが発せられるケース(以下,このケースを「損失領域」と呼 ぶ)について考える。銀行がt2期まで貸出(L)を継続する場合,t2期における銀行の期 待利潤すなわち期待フリーキャッシュフロー(π LAN,t)は,次式のように表される。

π LAN,t=(Xt−rDL)(1+rf)+{Xt−rDL−(1−pbL} (6)

上式において,第 1 項は,t1期に得られたフリーキャッシュフローをt2期まで国債に 運用した利潤である。また,第 2 項は,貸出(L)をt2期まで保有した場合におけるt1期 からt2期までの銀行の利潤である。(6)式を整理すると,以下の式が得られる。

π LAN,t=(Xt−rDL)(2+rf)−(1−pbL (7)

一方,銀行がt1期に貸出(L)を清算し,国債にシフトする場合,t2期における銀行の 期待利潤すなわち期待フリーキャッシュフロー(π LCN,t)は,次式のように表される。

π LCN,t=(Xt−rDL−wL)(1+rf)+{Xt−rDL+r(1−w)f L} (8)

上式において,第 1 項は,t1期に得られたフリーキャッシュフローをt2期まで国債に 運用した利潤である。また,第 2 項は,t1期に貸出(L)を清算した残余資金((1−w)L)

を国債にt2期まで投資した場合におけるt1期からt2期までの銀行の利潤である。(8)式 を整理すると,以下の式が得られる。

π LCN,t=(Xt−rDL)(2+rf)−(w−rf+2rf w)L (9)

ここで,(7)式と(9)式を比較することにより,損失領域における銀行の各資産選択 行動による期待フリーキャッシュフローの大小関係は,以下の式に依存する。

(11)

π LAN,t−π LCN,t={(w−rf+2rf w)−(1−pb)}L

  If (w−rf+2rf w)<(1−pb) then π LAN,t<π LCN,t (10)

  If (w−rf+2rf w)>(1−pb) then π LAN,t>π LCN,t

上式により,損失領域において,銀行が貸出を継続するのか,もしくは貸出を清算して 国債保有にシフトするのかという選択は,各行動による期待損失率の大小関係に依存す る。すなわち,貸出をt2期まで保有した場合の期待損失率が,貸出をt1期に清算して国 債にシフトした場合の収益率よりも高い(低い)場合,銀行は貸出を清算(継続)する。

このような銀行行動の結果は,銀行がリスク中立的であり,期待利潤の最大化(もしく は期待損失の最小化)を目的とするという仮定と整合的である。

以上により,税制が存在せず,財務会計に貸倒引当金制度が存在しない場合,リスク 中立的な銀行による貸出債権の継続・清算の選択は,銀行の期待利潤の最大化あるいは 期待損失の最小化を達成するように選択される。

上記の分析とは対照的に,税制は存在しないが,財務会計に貸倒引当金制度が存在する 場合,本稿のモデルにおいて,銀行の利潤は,t1期ではフリーキャッシュフローと異なる が,t2期ではフリーキャッシュフローと等しくなる。これは,t1期における貸倒引当金の 積み立てが当期の銀行の費用として計上されるが,t期全体を通してはフリーキャッシュ フローに何ら影響を与えないためである17)

4 応用モデル:税制が存在するケース

4.1 財税務会計が税務会計と一致する場合

ここでは,税制が存在し,尚且つ財務会計と税務会計において貸倒引当金の取り扱い が一致しているケースについて考察する。この場合,各小期間における利潤に対して課 される税率をτとする(0<τ<1)。また,貸倒引当金の積み立ては,貸出 1 単位当たりh の費用が計上される。ここで,hを「貸倒引当繰入比率」とする(0<h<1)。さらに,t1

期に(キャッシュアウトフローとして)積み立てられた貸倒引当金は,国債として運用 され,t2期に(1+rfhLを(キャッシュインフローとして)得る。

まず,t1期にシグナルsgが発せられるケースについて考える。銀行がt2期まで貸出(L)

を継続する場合,t2期における銀行の期待フリーキャッシュフロー(π PAT,t)は,次式のよ うに表される。

(12)

π PAT,t=(Xt+rLL−rDL−hL)(1−τ){1+(1−τ)rf

   +{Xt+pgrLL−rDL+(1+rfhL}(1−τ) (11)

上式において,第 1 項は,t1期に得られたフリーキャッシュフローをt2期まで国債に 運用したものである。また,第 2 項は,貸出(L)をt2期まで保有した場合におけるt1期 からt2期までの銀行の期待フリーキャッシュフローである。(11)式を整理すると,以下 の式が得られる。

π PAT,t=[{2+(1−τ)rf }(Xt−rDL)+{1+pg+(1−τ)rf rLL+τrf hL](1−τ) (12)

一方,銀行がt1期に貸出(L)を清算し,国債にシフトする場合,t2期における銀行の 期待フリーキャッシュフロー(π PCT,t)は次式のように表される。

π PCT,t=(Xt+rLL−rDL)(1−τ){1+(1−τ) rf }+(Xt+rf L−rDL)(1−τ) (13)

上式において,第 1 項は,t1期に得られたフリーキャッシュフローをt2期まで国債に 運用したものである。また,第 2 項は,t1期に貸出(L)を清算しその元本を国債にt2期 まで投資した場合におけるt1期からt2期までの銀行の期待フリーキャッシュフローであ る。(13)式を整理すると,以下の式が得られる。

π PCT,t=[{2+(1−τ)rf }(Xt−rDL)+{1+(1−τ)rf rLL+rf L](1−τ) (14)

ここで,(12)式と(14)式を比較することにより,利得領域における銀行の各資産選 択行動による期待フリーキャッシュフローの大小関係は,以下の式に依存する。

π PAT,t−π PCT,t={pgrL−(1−τh)rf }(1−τ)L

  If 0<pg<p*g then π PAT,t<π PCT,t (15)

  If p*g<pg<1 then π PAT,t>π PCT,t

  where p*g≡(1−τh)rf

rL

(13)

上式により,利得領域において,銀行が貸出を継続するのか,もしくは貸出を清算し て国債保有にシフトするのかという選択は,貸出プロジェクトの成功確率(pg)に依存す る。すなわち,貸出プロジェクトの成功確率(pg)が相対的に高い(低い)場合,貸出の 継続による期待収益が,短期貸出と国債による期待収益よりも大きく(小さく)なるた め,銀行は貸出の継続(貸出の早期清算)を行う。

また,t1期にシグナルsbが発せられるケースについて考える。銀行がt2期まで貸出(L)

を継続する場合,t2期における銀行の期待フリーキャッシュフロー(π LAT,t)は,次式のよ うに表される。

π LAT,t={Xt−rDL−(1−pbL}(1−τ){1+(1−τ)rf

   +{Xt−rDL+(1−pbrf L}(1−τ) (16)

上式において,第 1 項は,t1期に得られたフリーキャッシュフローをt2期まで国債に 運用したものである。ここで,−(1−pbLは,t2期に生じる貸出の期待損失を貸倒引当 金として損失計上した額である。また,第 2 項は,貸出(L)をt2期まで保有した場合に おけるt1期からt2期までの銀行の期待フリーキャッシュフローである。(16)式を整理す ると,以下の式が得られる。

π LAT,t=[{2+(1−τ)rf(Xt−rDL)−(1−τrf)(1−pbL](1−τ) (17)

一方,銀行がt1期に貸出(L)を清算し国債にシフトする場合,t2期における銀行の期 待フリーキャッシュフロー(π LCT,t)は,次式のように表される。

π LCT,t=(Xt−rDL−wL)(1−τ){1+(1−τ)rf }+{Xt−rDL+r(1−w)f L}(1−τ) (18)

上式において,第 1 項は,t1期に得られたフリーキャッシュフローをt2期まで国債に運 用したものである。また。第 2 項は,t1期に貸出(L)を清算した残余資金((1−w)L)を 国債にt2期まで投資した場合におけるt1期からt2期までの銀行の期待フリーキャッシュ フローである。(18)式を整理すると,以下の式が得られる。

π LCT,t=[{2+(1−τ) rf(Xt−rD L)+(rf−w−2rf w+τrf w)L](1−τ) (19)

(14)

ここで,(17)式と(19)式を比較することにより,損失領域における銀行の各資産選 択行動による期待フリーキャッシュフローの大小関係は,以下の式に依存する。

π LAT,t−π LCT,t=[−(1−pb)(1−τrf)+(rf−w−2rf w+τrf w)](1−τ)L

  If 0<pb<p*b then π LAT,t<π LCT,t (20)

  If p*b<pb<1 then π LAT,t>π LCT,t

  where p*b≡1−rf−w−2rf w+τrf w 1−τrf

上式により,損失領域において,銀行が貸出を継続するのか,もしくは貸出を清算し て国債保有にシフトするのかという選択は,貸出債権の回復率(pb)に依存する。すなわ ち,貸出債権の回復率(pb)が相対的に高い(低い)場合,貸出の継続による期待収益 が,短期貸出と国債による期待収益よりも大きく(小さく)なるため,銀行は貸出の継 続(貸出の早期清算)を行う。

以上により,税制が存在し,尚且つ財務会計と税務会計において貸倒引当金の取り扱 いが一致している場合,リスク中立的な銀行による貸出債権の継続および清算は,銀行 の期待フリーキャッシュフローを最大化するように選択される。このような銀行行動の 結果は,銀行がリスク中立的であるという仮定と整合的ではあるが,前節で示されたよ うな期待利潤最大化行動とは異なる。

4.2 財税務会計が税務会計と異なる場合

ここでは,税制が存在し,尚且つ財務会計と税務会計において貸倒引当金の取り扱い異 なるケースについて考察する。この場合,前述のように,新規貸出の利得領域において,

貸倒引当金の繰入限度額が存在する可能性がある。また,損失領域において,規制当局 による貸倒引当金の更なる積み増しの要求が生じる可能性もある。

そこで,本モデルでは,利得領域における貸倒引当金の積み立てについて,貸出 1 単位 当たりαhの費用が計上される。ここで,αを「貸倒引当繰入限度比率」とする(0<α<1)。

また,損失領域における貸倒引当金の積み立てについては,貸倒引当金繰入に制限が生 じる場合,利得領域と同様に,「貸倒引当繰入限度比率(β)」が存在する(0<β<1)。そ れに対し,銀行による新規貸出の貸倒の見込みが楽観的であり,規制当局から強制的な 貸倒引当金の積み増しが要求される場合,βを「強制貸倒繰入比率」とし,β>1 と設定さ

(15)

れる。ただし,この場合,税額控除(損金算入)される貸倒引当金に対しても,β>1 の 強制貸倒繰入比率が適用されるものとする。

まず,t1期にシグナルsgが発せられるケースについて考える。銀行がt2期まで貸出(L)

を継続する場合,t2期における銀行の期待フリーキャッシュフロー(π PBT,t)は,次式のよ うに表される。

π PBT,t=[(Xt+rLL−rDL−hL)−(Xt+rLL−rDL−αhL)τ]{1+(1−τ)rf

   +[{Xt+pgrLL−rDL+(1+rfhL}−{Xt+pgrLL−rD L+rf hL+αhLτ] (21)

上式において,第 1 項は,t1期に得られたフリーキャッシュフローをt2期まで国債に運 用したものである。また,第 2 項は,貸出(L)をt2期まで保有した場合におけるt1期か らt2期までの銀行の期待フリーキャッシュフローである。ここで,第 1 項および第 2 項 の大括弧中の式はそれぞれ,税引前キャッシュインフローから税控除額を差し引いたも のである。(21)式を整理すると,以下の式が得られる。

π PBT,t=[{2+(1−τ)rf(Xt−rDL)+{1+pg+(1−τ)rf }rLL+τrf hL](1−τ)

   −(1−α)(1−τ)τ rf hL (22)

一方,銀行がt1期に貸出(L)を清算し,国債にシフトする場合,t2期における銀行の 期待フリーキャッシュフローは,π PCT,tと等しくなる。これは,銀行がt1期に貸出を清算 するため,貸倒引当金制度の影響を受けないためである。

ここで,(14)式と(22)式を比較することにより,利得領域における銀行の各資産選 択行動による期待フリーキャッシュフローの大小関係は,以下の式に依存する。

π PBT,t−π PCT,t={pgrL−r(1−τh)−(1−α)f τrf h}(1−τ)L

  If 0<pg<p**g then π PBT,t<π PCT,t (23)

  If pg**<pg<1 then π PBT,t>π PCT,t

  where pg**r(1−τh)+(1−α)f τrf h rL

上式により,利得領域において,銀行が貸出を継続するのか,もしくは貸出を清算し て国債保有にシフトするのかという選択は,貸出プロジェクトの成功確率(pg)に依存す

(16)

る。すなわち,貸出プロジェクトの成功確率(pg)が相対的に高い(低い)場合,貸出 の継続による期待収益が,貸出の早期清算と国債による期待収益よりも大きく(小さく)

なるため,銀行は貸出の継続(貸出の早期清算)を行う。

また,t1期にシグナルsbが発せられるケースについて考える。銀行がt2期まで貸出(L)

を継続する場合,t2期における銀行の期待フリーキャッシュフロー(π LBT,t)は,次式のよ うに表される。

π LBT,t= [{Xt−rD L−max(1,β)(1−pbL}−{Xt−rD L−β(1−pbLτ]{1+(1−τ)rf

+[{Xt−rDL+max(0,β−1)(1−pbL+max(1,β)(1−pbrf L}−{Xt−rDL−

(1−β)(1−pbL+max(1,β)(1−pbrf Lτ] (24)

上式において,第 1 項は,t1期に得られたフリーキャッシュフローをt2期まで国債に運 用したものである。また,第 2 項は,貸出(L)をt2期まで保有した場合におけるt1期か らt2期までの銀行の期待フリーキャッシュフローである。ここで,第 1 項および第 2 項 の大括弧中の式はそれぞれ,税引前キャッシュインフローから税控除額を差し引いたも のである。(24)式を整理すると,以下の式が得られる。

π LBT,t=[{2+(1−τ)rf(Xt−rDL)−(1−τrf)(1−pbL](1−τ)

   −(1−β)(1−pb)(1−τ)τ rf L (25)

一方,銀行がt1期に貸出(L)を清算し,国債にシフトする場合,t2期における銀行の 期待フリーキャッシュフローは,π LCT,tと等しくなる。これは,銀行がt1期に貸出を清算 するため,貸倒引当金制度の影響を受けないためである。

ここで,(19)式と(25)式を比較することにより,損失領域における銀行の各資産選 択行動による期待フリーキャッシュフローの大小関係は,以下の式に依存する。

π LBT,t−π LCT,t=[−(1−pb){(1−τrf)+(1−β)τrf }+(rf−w−2rf w+τrf w)](1−τ)L   If 0<pb<pb** then π LBT,t<π LCT,t (26)

  If pb**<pb<1 then π LBT,t>π LCT,t

  where pb**≡1−rf−w−2rf w+τrf w 1−βτrf

(17)

上式により,損失領域において,銀行が貸出を継続するのか,もしくは貸出を清算し て国債保有にシフトするのかという選択は,貸出債権の回復率(pb)に依存する。すなわ ち,貸出債権の回復率(pb)が相対的に高い(低い)場合,貸出の継続による期待収益 が,貸出の早期清算と国債による期待収益よりも大きく(小さく)なるため,銀行は貸 出の継続(貸出の早期清算)を行う。

以上により,税制が存在し,財務会計と税務会計において貸倒引当金の取り扱いが異 なる場合,リスク中立的な銀行による貸出債権の継続および清算は,銀行の期待フリー キャッシュフローを最大化するように選択される。このような銀行行動の結果は,4.1 節 の結果と類似しているが,貸出債権の継続および清算を選択する臨界値は,貸倒引当金 の取り扱いが同じ場合におけるそれとは異なる。

次節では,このような差異が銀行行動に及ぼす影響について分析を行う。

5 内生的フレーミング効果の発生メカニズム

本節では,前節における 2 つのケースの結果を比較することにより,財務会計と税務 会計において貸倒引当金の取り扱いが異なる場合,銀行行動がどのように歪曲するのか について検証する。さらに,その結果を踏まえ,そのような銀行行動の歪曲により,銀 行がプロスペクト理論型の効用関数を持つようになる,すなわち,銀行行動が,利得領 域においてリスク回避的となり,損失領域においてリスク愛好的になることを示す。

まず,財務会計と税務会計において貸倒引当金の取り扱いが異なるために,銀行行動が 利得領域においてリスク回避的となることを示す。(12)式および(22)式より,貸倒引 当金の取り扱いが同一である場合と異なる場合の期待フリーキャッシュフローの差は,

次式のようになる。

π PAT,t−π PBT,t=(1−α)(1−τ)τ rf hL>0 (27)

上式のように,貸倒引当金の取り扱いが同一である場合における期待フリーキャッ シュフローの方が大きいのは,t1期に算入される損金扱いの貸倒引当金が,貸倒引当金の 取り扱いが異なる場合の方が少ない(すなわち,貸倒引当繰入限度額が存在する)ため である。

また,以下の式のように,貸倒引当金の取り扱いが同一である場合と異なる場合での

(18)

利得領域における資産選択の臨界値(pg*およびpg**)の大小関係は,pg*<pg**となる。これ は,貸倒引当繰入限度額が存在する場合,初期(t1期)に余分な税金の支払いが生じるこ とにより,銀行がより高いプロジェクトの発生確率(すなわちより高い期待収益率pgrL) を要求するためである。

pg*−pg**=−(1−α)τrf h

rL <0 (28)

さらに,(15)式,(23)式,(27)式および(28)式により,利得領域における各期待 フリーキャッシュフローの大小関係は,以下のようになる。

If 0<pg<pg* then π PBT,t<π PAT,t<π PCT,t (29a)

If pg*<pg<pg** then π PBT,t<π PCT,t<π PAT,t (29b)

If pg**<pg<1 then π PCT,t<π PBT,t<π PAT,t (29c)

その結果,同じ期待収入をもたらす投資機会に直面しているにもかかわらず,貸倒引 当繰入限度額が存在する場合における銀行の方が,貸出を継続するためにより高いプロ ジェクトの発生確率(すなわちより高い期待収益率pgrL)を要求する。特に,(29b)式 は,貸倒引当繰入限度額が存在するために,銀行が本来継続すべき貸出債権を清算し,国 債保有にシフトすることを示している。すなわち,この結果は,貸倒引当繰入限度額の 存在により,銀行行動がリスク回避的なものに変化することを表している。

次に,財務会計と税務会計における貸倒引当金の取り扱いが異なるために,銀行行動が 損失領域においてリスク愛好的となることを示す。(17)式および(25)式より,貸倒引 当金の取り扱いが同一である場合と異なる場合の期待フリーキャッシュフローの差は,

以下のようになる。

π LAT,t−π LBT,t=(1−β)(1−pb)(1−τ)τ rf L

  If 0<β<1 then π LAT,t>π LBT,t  (30)

  If 1<β then π LAT,t<π LBT,t

上式のように,0<β<1 の場合,貸倒引当金の取り扱いが同一である場合における期待 フリーキャッシュフローの方が大きいのは,貸倒引当金の取り扱いが異なる場合の方が,

(19)

t1期に算入される損金扱いの貸倒引当金が少なくなる(すなわち,貸倒引当繰入限度額が 存在する)ためである。一方,1<βの場合,強制的な貸倒引当金の積み増しにより,貸 倒引当金の運用益が,貸倒引当金の取り扱いが同一である場合の運用益よりも大きいた め,t期全体を通しての期待フリーキャッシュフローは,貸倒引当金の取り扱いが異なる 場合の方が大きくなる。

また,貸倒引当金の取り扱いが同一である場合と異なる場合での損失領域における資 産選択の臨界値(pb*およびpb**)の大小関係は,(20)式および(26)式より,次式のよ うになる。

pb*−pb**=−(rf−w−2rf w+τrf w)(1−β)τrf

(1−βτrf)(1−τrf

  If 0<β<1 then pb*<pb**  (31)

  If 1<β then pb*>pb**

0<β<1 の場合,貸倒引当繰入限度額が存在する。このとき,貸倒引当金の取り扱いが 同一である場合における期待フリーキャッシュフローの方が大きくなるので,貸倒引当 金の取り扱いが異なる場合における貸出債権の回復率(pb)が相対的に高くなければ,銀 行は貸出の継続を行わなくなる。

一方,1<βの場合,強制的な貸倒引当金の積み増しが存在する。このとき,貸倒引当 金の取り扱いが異なる場合における期待フリーキャッシュフローは,(強制的に)積み増 しされた貸倒引当金の運用益分増加するため,貸出債権の回復率(pb)が相対的に低くて も,貸出を継続することが容易になる。

さらに,(20)式,(26)式,(30)式および(31)式により,損失領域における各期待 フリーキャッシュフローの大小関係は,以下のようになる。

(ⅰ)0<β<1 の場合

If 0<pb<pb* then π LBT,t<π LAT,t<π LCT,t (32a)

If pb*<pb<pb** then π LBT,t<π LCT,t<π LAT,t (32b)

If pb**<pb<1 then π LCT,t<π LBT,t<π LAT,t (32c)

(20)

(ⅱ)1<βの場合

If 0<pb<pb** then π LAT,t<π LBT,t<π LCT,t (33a)

If pb**<pb<pb* then π LAT,t<π LCT,t<π LBT,t (33b)

If pb*<pb<1 then π LCT,t<π LAT,t<π LBT,t (33c)

上式の中で,(32b)式および(33b)式が特に重要な結果である。(32b)式は,貸倒引 当繰入限度額が存在するために,銀行が本来継続すべき貸出を清算し,資金を国債にシ フトさせるというリスク回避的な貸出行動を示している。すなわち,これは,貸し剥し が生じることを意味している。また,(33b)式は,強制的な貸倒引当金の積み増しによ り,銀行が本来清算すべき貸出を継続するということを示している。したがって,これら 2 つの式は,銀行行動が利得領域においてリスク回避的になり,損失領域においてリスク 愛好的になるということを表している。

これら 2 つの結果を踏まえると,擬似的に銀行行動がプロスペクト理論型の効用関数 を持つものと考えられる。本節では,貸倒引当金の取り扱いに関する財務会計と税務会 計の差異が,利得領域および損失領域において,相対的危険回避度に与える影響につい て検証する。本稿では,Tversky and Kahneman(1992)に倣い,次式のようなプロス ペクト理論型の効用関数を考える18)

U(x)=xγ    if x>_0  (34a)

U(x)=(−x)δ if x<0  (34b)

ここで,Uは効用を表し,xを利得(x>_0)または損失(x<0)とする。また,γおよ びδはそれぞれ,プロスペクト理論型効用関数のパラメータである。このような効用関 数では,利得領域および損失領域における相対的危険回避度はそれぞれ,(1−γ)および

(1−δ)となる。

先の結果より,財務会計と税務会計において貸倒引当金の取り扱いが異なるために,リ スク中立的な銀行行動が,利得領域においてリスク回避的となり,損失領域においてリス ク愛好的になるということが明確にされている。この点を踏まえると,(34a)式のx

(12)式のπ PAT,tを代入したものが,(22)式のπ PBT,tと一致し,(34b)式のxに(17)式の π LAT,tを代入(ただし,L<0 とし,(−L)をLに置換して代入)したものが,(L<0 とし,

(21)

(−L)をLに置換した)(25)式のπ PBT,tと一致することになる。よって,以下の式が成り 立つ。

U(π PAT,t)=(π PAT,tγ=π PBT,t (35a)

U(π L−AT,t)=(π L−AT,tδ=π L−BT,t (35b)

ここで,π L−AT,tおよびπ L−BT,tはそれぞれ,(17)式および(25)式において,L<0 とし,

(−L)をLに置換して代入した値を表している。

上の 2 式をパラメータγおよびδについて解くと,それぞれ以下のようになる。

γ=logπ PAT,t π PBT,t (36a)

δ=logπ L−AT,t π L−BT,t (36b)

これらをそれぞれ「貸倒引当繰入限度比率(α)」および「貸倒引当繰入限度比率

(0<β<1)」(もしくは「強制貸倒繰入比率(β)」)について偏微分すると,次式のように なる。

∂γ

∂α= 1

loge π PAT,t× 1

π PBT,t×{(1−τ)τ rf hL}>0 (37a)

∂δ

∂β= 1

loge π L−AT,t× 1

π L−BT,t×{−(1−pb)(1−τ)τ rf L}>0 (37b)

(37a)式より,「貸倒引当繰入限度比率(α)」が上昇すると,利得領域における相対的 危険回避度(1−γ)が低下し,銀行行動がリスク中立的なものに近づく。すなわち,貸倒 引当金の繰り入れが制限される(αが低下する)ほど,利得領域において銀行行動がリス ク回避的なものになる。

また,(37b)式より,「貸倒引当繰入限度比率(0<β<1)」が上昇すると,損失領域に おける相対的危険回避度(1−δ)が低下し,銀行行動がリスク中立的なものに近づく。す なわち,貸倒引当金の繰り入れが制限される(βが低下する)ほど,利得領域と同様に損 失領域においても,銀行行動がリスク回避的なものになる。

さらに,損失領域において,「強制貸倒繰入比率(1<β)」が上昇すると,相対的危険 回避度(1−δ)が負になり,銀行行動がリスク愛好的なものに変化する。本稿では,プロ

参照

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