博 士 ( 農 学 ) 川 岸 康 司
, 学 位 論 文 題 名
寒冷地向け一季成り性イチゴ品種の 栽 培 と 育 種 に 関 す る 研 究
学位論文内容の要旨
北海道におけるイチゴは,品種や栽培面において温暖地とは異なる経過をたどってきたが,
寒冷地向けイチゴ品種の栽培技術を体系的に研究した例はほとんどない。本研究は,寒冷地向 けの代表的イチゴ品種 きたえくぼ における栽培技術を検討するとともに, きたえくぼ よ り早生で,生理障害「先自果」が発生しない品種の育成を試みた。さらに,著者らが育成した 新品種 けんたろう の北海道における普及状況を検証し,今後の育種の課題を明らかにした。
また,今後の寒冷地向け品種開発に向けて,これまで国内ではほとんど活用されてこなかった ヨ ー ロ ッ パ 系 品 種 の 果 実 特 性 を 明 ら か に し て , そ の 利 用 の 可 能 性 を 検 討 し た 。
1.寒冷地向けイチゴ品種 きたえくぼ の栽培技術体系の確立
きたえくぼ における定植時期と定植時の苗の大きさを収量性や果房数から検討するとと もに,そ れに伴う 採苗時 期と採苗 時の葉数を検討した。その結果,道南地域では8月中〜下旬 に中苗を ,道央地 域では8月中 旬に中 苗,また は8月 下旬に 中〜大苗 を,道 北地域で は8月中
〜下旬に 中〜大苗 を定植 するのが 適切で あった。 また,8月中旬に中苗を得るには,7月中旬 に3葉 前後の苗 を採苗 し,8月下旬に 中苗を 得るには7月 中旬に2葉前 後の苗 ,または7月下 旬に3葉程度の 苗を採 苗するの が適当であった。このように,定植時期と苗質の基準を地域別 に 確 立 す る と と も に , 定 植 時 期 と 苗 質 に 対 応 し た 採 苗 時 期 を 提 示 し た 。 定植の遅れによる減収対策として,越冬前のトンネルやべたがけを利用した秋保温により,
果房数が増し,収量が増加する傾向があったことから,定植が遅れた場合の秋保温の有効性を 明らかにした。
小果対策として摘花にっいて検討したところ,摘花により減収となったが,上物率や果実品 質が向上したことから,摘花を行う際の目安を提示することが出来た。 きたえくぼ の着色改 善を図るため,梱包資材のエアーキャップシートの敷設と,果実が葉の陰にならないように花 房を通路側ヘ誘引する花房出しの効果を検討した結果,エアーキャップシートにより果実の色 むらが抑えられ,花房出しで果実濃色面の赤みが増し,先自果の発生が少なくなった。果皮色 が淡い きたえくぼ では,着色促進のためにエアーキャップシートや花房出しを行うことは 有効な手段と考えられた。
きたえくぼ では,果実の先端部が着色しない先白果が多発したため,その発生状況を調 査するとともに,遮光と先白果発生の関係を検討した。保温開始から収穫までの日数が長くな ると先自果が増加し,窒素施肥量が1.5 kg/a以上で先白果の発生が多くなる傾向がみられた。
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また ,開花直後からの遮光により先自果の発生が増加した。以上のことから,先白果発生を抑 える ためには,早期からの保温を避け,窒素施肥量は1.5 kg/a未満とし,ハウスビニールの更 新を毎年行う必要性を明らかにした。これらの結果から, きたえくぼ における栽培マニュア ルを作成した。
2.寒冷地向けイチゴ新品種 けんたろう の育成と品種特性
きたえくぼ では収穫期が遅れるため,旧来の主要品種である 宝交早生 並の早生で,
きたえくぼ 並の品質を持ち,先白果の発生しない寒冷地向けイチゴ品種の育成を目指し,
きたえくぼ を雌親, とよのか を花粉親として交配を行った。その後,個体選抜,生産力 予備検定等を経て 道南26号 として生産力検定試験,地域適応性試験等を実施した結果, 道 南26号 は きたえくぼ より早生で,先白果の発生がみられず, きたえくぼ 並の日持ち 性や輸送性を持ち,食味や外観品質も良好で,耐病性に優れることが明らかとなった。その後 道南26号 は新 品種 け んたろう とし て2004年に 品種登録された。 けんたろう の育 成により,無加温半促成作型において 宝交早生 に替わる,優れた果実品質を持つ北海道で 初めての早生品種として普及が期待できる。また, きたえくぼ と組み合わせることで,高品 質,良食 昧の一季 成り性 品種の収 穫期間 延長と労 働競合の回避を図ることが可能となった。
3.北海道におけるイチゴ作付け状況の変化
寒 冷地向け一季成り性品種は道外ではほとんど利用されていないが,北海道ではイチゴ作付 け 面積の50%以上を占める。そのため,北海道における寒冷地向けー季成り性イチゴ品種の作 付け動向や高設栽培の導入状況について把握するとともに, けんたろう の普及状況について 調 査した。2004年の全道のイチゴ作付け面積は126. 3haで,寒冷地向け一季成り性品種は減少 傾 向を示したが, けんたろう は 宝交早生 と同等の面積となった。2005年の けんたろ う はさらに増加が予想され,道内の寒冷地向け一季成り性品種の50%を越えると推察されて い る 。 け ん た ろう は 都府県 から青果 物取引 の要請が あり道外 移出も 検討され ている 。
4.寒冷地向け品種開発に向けたヨーロッパ系品種の利用の可能性
イギリス におけ る一季成 り性イ チゴ品種の果実特性と収穫期間中の品質の変化を検討すると ともに, 四季成 り性品種 を含む 果実特性の組み合せ能カについて検討し,ヨーロッパ系品種の 北海道に おける 育種素材 として の可能性 を考察し た。1年株61品 種・系 統,2年株37品種・系 統を調査 したと ころ,糖 度は日 本の品種と同等であった。また,糖度と食昧に正の相関が認め られ,果 実硬度 は感圧軸 にデス ク状・直径4 mm径を使用して150g以上と硬くなると食味評価が 低くなっ た。収 穫期間中 の糖度 ,pH,果実硬度の変化は,品種により異なり,気象条件を考慮 したサン プリン グが必要 であっ た。ヨーロッパの一季成り性系統と四季なり性品種及びアメリ カのday‑neutral(四季 成り性 )品種を 用いて ,糖度,pH,果肉硬度,果皮硬度のダイアレル 分析を行 った結 果,一般 組み合 せ能カの分散分析ではいずれも有意差がみられ,親の糖度とpH の推定値 は一季 成り性系 統で高 かった。また,ヨーロッパ系の四季なり性品種は果肉硬度が比 較的高めであった。このように,ヨー口ツノく系品種は糖度や硬度は十分であることが明らかと なった。これまで利用が少なかったヨーロッパ系品種は,病害抵抗性などの優良形質も有する′
こ と か ら , 今 後 の 一 季 成 り 性 品 種 の 育 種 を 進 め る 上 で 遺 伝 資 源 と し て 有 効 で あ る 。
以上のように,寒冷地向け品種 きたえくぼ の栽培技術を確立するとともに, きたえくぼ
より早生の,高品質な寒冷地向けイチゴ品種 けんたろう を育成した。さらに、寒冷地のイ チゴ育種におけるヨーロッパ系品種の有効性を明らかにした。
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学 位論文 審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授
大澤 喜多村 荒木 鈴木
勝次 啓介 肇 卓
学 位論文題 名
寒冷地 向け一季 成り性イチゴ品種の 栽 培と育 種に関する研究
本 論 文 は6章 か ら な り 、 図30、 表 58、 引 用 文 献 138を 含 む 、 総 頁 数158の 和 文 論文 で あ り、 他 に 参考 論 文5編 が 付 され て い る 。
北 海 道 に お け る イ チ ゴ は , 品 種 や 栽 培 面 に お い て 温 暖 地 と は 異 な る 経 過 を た ど っ て き た が , 寒 冷 地 向 け イ チ ゴ 品 種 の 栽培 技 術 を 体系 的 に 研究 し た 例は ほ と んど な い 。 本 研 究 は , 寒 冷 地 向 け の イ チ ゴ 品 種 き た え く ぼ の 栽 培 技 術 を 体 系 的 に 検 討 し 、 その 問 題 点を 克 服 する た め の新 品 種 け ん た ろ う を 育 成し た。更 に、 けんたろ う の 実 用 性 を 作 付 面 積 の 推 移 か ら 明 ら か に し 、 今 後 の 寒 冷 地 向 け イ チ ゴ 品 種 開 発 の た め に ヨ ー ロ ッ パ 系 イ チ ゴ 品 種 の 利 用 の 可 能 性 を 明 ら か に し た も の で あ る 。
1. 寒 冷 地 向 け イ チ ゴ 品 種 き た え く ぼ の 栽 培 技 術 体 系 の 確 立 き た え く ぼ に お け る 定 植 時 期 と 定 植 時 の 苗 の 大 き さ を 収 量 性 や 果 房数 か ら 検 討 す る と と も に , そ れ に 伴 う 採 苗 時 期 と 採 苗 時 の 葉 数 を 検 討 し た 。 そ の 結 果 ,8月 中 〜 下 旬 に 道 南 地 域 で は 中 苗 , 道 北 地 域 で は 中 〜 大 苗 、 道 央 地 域 で は8月 中 旬 に 中 苗 , ま た は8月 下 旬 に 中 〜 大 苗 を 定 植 す る の が 適 切 で あ っ た 。 ま た ,8月 中 〜 下 旬 に 中 苗 を 得 る た め の 適 切 な 採 苗 時 期 と 採 苗 時 の 葉 数 を 明 ら か に し た 。 定 植 の 遅 れ に よ る 減 収 対 策 と し て , 越 冬 前 の ト ン ネ ル や べ た が け を 利 用 し た 秋 季 保 温 に よ り , 果 房 数 が 増 し , 収 量 が 増 加 す る 傾 向 が あ っ た こ と か ら , 定 植 が 遅 れ た 場 合 の 秋 保 温 の 有 効 性 を 明 ら か に し た 。
小 果 対 策 と し て 摘 花 に つ い て 検 討 し , 摘 花 に よ り 上 物 率 や 果 実 品 質 が 向 上 す る 目 安 を 提 示 し た 。 ま た 、 着 色 改 善 を 図 る た め , 梱 包 資 材 の ェ ア ー キ ャ ッ プ シ ー ト の敷 ′ 設 と , 果 実 が 葉 の 陰 に な ら な い よ う に 花 房 を 通 路 側 ヘ 誘 引 す る 花 房 出 し の 効 果 を 検 討 し 、 工 ア ー キ ャ ッ プ シ ー ト に よ り 果 実 の 色 む ら が 抑 え ら れ , 花 房 出 し で 果 実 濃 色 面 の 赤 み が 増 す こ と を 明 ら か に し た 。
きたえくぼ では,果実の先端部が着色しない先自果が多発したため,その発 生 状況 を調 査する とと もに ,遮 光と 先自 果発 生の 関係 を検 討し た。保温開始から収 穫 まで の日 数が長 く、 窒素 施肥 量が
1.5 kg/a以上 、開 花直 後か らの遮光区で先白果
´ の発 生が多くなる傾向が認められたので、早期からの保温を避け,窒素施肥量を抑 え 、 ビ ニ ー ル の 更 新 を . 行 う こ と に よ り 、 先 白 果 発 生 の 抑 制 を 可 能 に し た 。
2
. 寒 冷 地 向 け イ チ ゴ 新 品 種 け ん た ろ う の 育 成 と 品 種 特 性
きたえくぼ は高品質であるが、収穫期が遅れる欠点があった。そこで、旧来の 主 要品 種で ある 宝 交早生 並 の早 生で、高品質かつ先白果の発生しない寒冷地向 けイチゴ品種の育成を目指し, きたえくぼ を雌親, とよのか を花粉親として 交 配 を 行 っ た 。 その 後代 は 道南
26号 とし て生 産力 検定 試験 ,地 域適 応性 試験 等を実施し、 きたえくぼ より早生で,先白果の発生がみられず, きたえくぼ 並 の日 持ち 性や 輸送 性を持 ち, 食味 や外観品質も良好で,耐病性に優れることが明 らかとなり、 けんたろう と命名した。 けんたろう と きたえくぼ を組み合 わせることで,高品質,良食味の一季成り性品種の収穫期間の延長が可能となった。
3
.北海道におけるイチゴ作付け状況の変化
寒 冷地 向け 一季 成り 性品 種は 北海 道ではイチゴ作付け面積の50 %以上を占める。
そのため,北海道におけるイチゴ品種の作付け動向について把握するとともに, け んた ろう の 普及 状況 につ いて 調査 した。一季成り性品種は四季成り性品種に押さ れ減少傾向を示したが, けんたろう は増加しっづけており、2005 年はさらに増加 し , 寒 冷 地 向 け 一 季 成 り 性 品 種 の
50% を 越 え る と 推 察 さ れ て い る 。
4
, 寒 冷 地 向 け イ チ ゴ 品 種 開 発 に 向 け た ヨ ー ロ ッ パ 系 品 種 の 利 用 の 可 能 性
イ ギリ スに おけ る一 季成 り性 イチ ゴ品 種の果実特性と果実特性の組み合せ能カに つい て検 討し ,ヨ ーロ ッパ 系品 種の 北海 道における育種素材としての有用性を考察 した。ヨーロッパ系品種は、収穫期間中の糖度,pH ,果実硬度の変化等、品種により 異な り, 気象 条件 を考 慮し たサ ンプ リン グが必要であった。ヨーロッパの一季成り 性系 統と 四季 成り 性品 種及 びア メリ カの
day‑neutral品 種を 用い て, 糖度,pH ,果 肉硬 度, 果皮 硬度 のダ イア レル 分析 を行 った結果,一般組み合せ能カの分散分析で はい ずれ も有 意差 がみ られ ,親 の糖 度と
pHの推定値は一季成り性系統で高かった。
ヨー ロッ パ系 品種 の糖 度や 硬度 は十 分で あることが明らかとなり、更に,病害抵抗 性な どの 優良 形質 を有 する 特徴 的な 品種 もあり、今後の寒冷地向け一季成り性品種 の 育 種 を 進 め る 上 の 遺 伝 資 源 と し て 有 効 で あ る こ と を 明 ら か に し た 。
以上のように本論文は, きたえくぼ における栽培技術の確立と新品種 けんた ろう を育成するとともに、寒冷地のイチゴ育種におけるヨーロッノく系品種の有効 性を 明ら かに した もの であ り、 学術 上、 応用上高く評価される。よって、審査員一 同 は 川 岸 康 司 が 博 士 ( 農 学) の 学 位 を 受 け る に 十 分 な 資 格 を 有 す る と 認 め た。
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