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学位論文審査の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 医 学 ) 藤 野 通 宏

学 位 論 文 題 名

Prognostic Significance of p53 and ras p21 Expression     1n Nonsmall Cell Lung Cancer

(非小細胞肺癌の予後因子としてのp 53 夕ンパク質 及びrasp21 夕ンパク質発現の意義)

学位論文内容の要旨

(目的)

  p53遺伝 子異常 は、肺癌をはじめとする多くの悪性腫瘍において最も普遍的に認められ る遺伝子異常のーっであり、PCRーSSCP法による遺伝子変異の検出や免疫組織化学によるp 53タンパク 質の検 出により検討されている。一方rasi伝子異常も非小細胞肺癌で多く認 められる遺伝子異常であり、遺伝子点突然変異やrasp 21タンパク質の発現の検出により検 討されて いる。我 々はrasp21タ ンパク 質発現が非小細胞肺癌の独立した予後因子のひと っである ことを既 に報告した。今回我々は非小細胞肺癌手術標本においてp53遺伝子異常 を免疫組織化学的に検出し、p53タンパク質発現がrasp 21タンパク質発現と同様に独立し た予後因 子である か否かを検討した。さらにp 53タンパク質発現とrasp 21タンパク質発 現を同一症例で組み合わせて解析することが、患者の予後を推定する上で有用であるか否 かについて検討した。

(対象と方法)

  対象は既にrasp 21タンパク質の発現を検討した非小細胞肺癌切除例の手術標本96例で、

1977年から1985年にかけて北大病院で切除された。内訳は、男性60例、女性36例、組織型は 腺癌46例、扁平上皮癌39例、大細胞癌6例、腺扁平上皮癌5例で、手術の根治度により治癒切 除群65例と、非治癒切除群31例に分けられた。全96例中63例で術後に全身化学療法が行わ れたが、放射線治療は行われなかった。

  p53タン パク質 の免疫染色は手術標本のホルマリン固定パラフィン包埋標本に対して、

labeled streptavidin biotin法で行い、一次抗体としてNovo Castra社のモノグローナル 抗体D07を用いた 。細胞核の染色性を顕微鏡下で判定し標本の腫瘍細胞のうち5%以上で細 胞核が染色されるものを陽性とし、それ未満のものを陰性とした。

  同一の全96例に対 するrasp 21タンパク質の免疫染色の結果は既に報告した論文で使用 したものを用いた。(HaradaM,et al.Cancer 1992;69:72―7)

  全96例のp 53免疫染色の結果と他の臨床病理学的因子の相関はズ2検定で判定した。患 者の生存 期間の解 析は術 後3年 以上の 観察期間 を有するもので、術後30月以上生存し、5 年以内に 他病死し なかった91症例について行った。生存曲線の作成はKaplanーMeier法で 行い、生存曲線の差の検定は一般化Wilcoxon法で行った。予後因子の解析にはCoxの比例ハ ザードモデルによる多変量解析を用いた。

(結果)

  p 53タンパク質発現は検討した非小細胞肺癌全96例中56例(58%)で陽性、40例(42%)で陰 性と判定された。年齢、性別、組織型、術後T、N、M因子、術後病期分類、喫煙歴、手術根治度 の9っ の臨床的 及ぴ臨 床病理学的因子とp 53免疫染色性との関係を検討したところ、術後

‑ 83 ‑

(2)

T因子 が相 関を 示 した が(p =0. 005)その 他の 因子 はp53免 疫 染色 との 相関 を示 さ なかっ た。

  生 存 期 間 を 検 討 し た91例 全 例 を 、p53免 疫 染 色 陽 性 群56例 と 陰 性 群40例 の2群 に 分 け て 生 存 曲 線 を 比 較 し た 場 合 、5年 生 存 率 は そ れぞ れ2496と50Y6でp53陽性 群で 有 意に 低値 だっ た (p =0. 002)。 さら に 治癒 切除 され た65例 のう ち、 前述 し た生 存期 間解 析の 基 準に当 ては ま る63例 をp53免 疫 染 色 陽 性 群36例 と 陰 性 群27例 の2群 に 分 け て 生 存 期 間 を 検 討 し た と こ ろ5年 生 存 率 は そ れ ぞ れ3696と63Y6で 、p53陽 性 群 で 有 意 に 低 値 だ っ た (p=0. 005)。   予 後因 子の 解析 とし て 、最 初に 単変 量解析を行った。対象と した性別、年齢、病理組織 型、

術 後T、N、M因 子 、術 後病 期、 手 術根 治度 、化 学療 法 の有 無、p53免疫 染色 性の10因子の うち で 、 病理 組織 型(p =0. 02)、 術 後N因 子(p=0. 04)、 術後M因 子(p‑ニO. 04)、術後病期 (p

=0. 008)、 手 術 根 治度 (p<0. 001)、p53免 疫染 色 性(p=0. 03)の6因子 が有 意 であ った 。さ ら にCoxの 比 例 ハ ザ ー ド モ デ ル を 用 い て こ れ ら の 因 子 の う ち で 独 立 し た有 意 な予 後因 子を 検 討 した とこ ろ、p 53免 疫染 色性 (ハ ザー ド 比1.72、p=0. 04)は、手術根治度(ハザー ド比 4. 69、p<0. 001)、病理組織型(ハザード比1.58、p‑ニO. 004)と共に独立した有意な予後因子 であ った。

  同 一 の91症 例 に お け るrasp 21免 疫 染 色 の結 果 とp53免 疫染 色の 結果 を併 せ て検 討し た。

p53免 疫 染 色 陽 性/rasp 21免 疫 染 色 陽 性 (p53十/ras十 ) 群、p53免 疫 染色 陽性 /rasp 21免 疫 染 色陰 性(p 53十/ras―)群、p53免疫染色陰性/rasp 21免 疫染色陽性(p53ー/ras十) 群、

p 53免 疫 染 色 陰 性 /rasp 21免 疫 染 色 陰 性 (p53―/rasー ) 群 の4群 で 生存 曲 線を 作成 した と こ ろ 、p 53―/rasー の 群 は5年 生 存 率 が87%で 他 の3群 (p53十/ras― ヽp53−/ras十 、p 53十/ras十 、 そ れ ぞ れ5年 生 存 率43%、26%、23%)と 比 べ 有 意 に 生 存 期 間 が 長 か っ た (p

〓0.005)。

  p 53免 疫 染 色 陰 性 の 群 はrasp 21の 染 色 性 に よ りp53−/ras← 、p53ー/ras十 の2群 に 分 け ら れ 、5年 生 存 率 は そ れ ぞ れ87%と2696で 有意 差を 示 した が(p=0. 001)、p53免疫 染色 陽 性 の 群 をrasp 21の 染 色 性 で 分 け たp53十/ras− 、p53十/ras十 の2群 問 で5年 生 存 率 は43%と23grroで有意差を示さ なかった(p―−0.5)。同様に′aざp21免疫染色陰性の群をp53の 染 色 性 に よ りp53― / 朋s― 、p53十 / 朋s− の2群 に分 ける と、5年 生存 率は そ れぞ れ87%と 43% で有 意差 を示 した が (p二 ニO.03)、 朋sp21免疫 染色 陽 性の 群をp53の染 色性 で分け たp 53―/朋s十 、p53十/朋s十 の2群 間 で5年 生 存 率 は26% と23% で 有 意 差 を 示 さ な か っ た (p

=O.5)。

(考 案)

  正 常 なp53遺 伝 子 に よ り 作 ら れ るp53タ ン パ ク 質 は 半 減 期 が 短 く 通 常 は 免 疫 染 色 で 染 色 さ れ な い が 、 ア ミ ノ 酸 置 換 を 伴 う 点 突 然 変 異 を 有 す るp53遺 伝 子 か ら 作 ら れ るp53タ ン パ ク 質 は 半 減 期 が 延 長 し 、 細 胞 核 に 集 積 さ れ る ため 免疫 染 色で 検出 可能 とな る 。今 回我 々は p53免 疫 染 色 の 一 次 抗 体 と し てD07(NovoCastra社 )を 使 用し たが 、1977年 に さか のぽ る古 い 標 本 に 対 し て も 細 胞 核 に 限 局 し た 明 瞭 な 染 色 態 度 を 示 し 有 用 で あ っ た 。   こ の 研 究 に お い て、 我々 はp53タ ンパ ク 質発 現が 、手 術 によ り切 除さ れた 非 小細 胞肺 癌の 独 立 し た 有 意 な 予 後 因 子 で あ る こ と を 示 し た 。 非 小 細 胞 肺 癌 の 手 術 例に 対しp53の遺 伝子 異 常 をPCRーSSCP法 や タン パク 質の 免疫 染 色を 用い て検 出 し、 有意 な予 後不 良 な因 子で ある こと をQuinlanら(CancerRes1992;52:4828−31)、Horioら(CancerRes1993;53.:1―4)、

Mitsudomiら (JNatlCancerInst1993;85:2018一23) も示 して いる 。 しか しMcLarenら (Br JCancer1992;66:735−8)、Brambilaら (AmJPath011993;143:199ー210) はp53遺伝 子異 常 と 非 小 細 胞 肺 癌 の 予 後 に は 相 関 は な い と し 、 さ ら にPasslickら (JNatlCancerInst 1994;86:801―2)はp53遺伝 子異 常が 予 後良 好な 因子 で ある とし てお り論 議 のあ ると ころ で あ る 。 今 回 我 々 が 示 し た よ う に 、 朋sp21免 疫 染 色 陰 性 の 群 をp53の 染 色 性 に よ り2群 に 分 け る と5年 生 存 率 は 有 意 差 を 示 し た が 、 朋sp21免 疫 染 色 陽 性 の 群 をp53の 染 色 性 で 分 け た2群 間 で5年 生 存 率 は 有 意 差 を 示 さ ず 、 検 討 対 象 症 例 の 背 景 に あ る 他 の 遺 伝 子 異 常 の 有 無や 偏りにより異なった結果が 導かれる可能性が示唆された 。

  さ ら に 我 々 はp53と 朋 ざp21の 免 疫 染 色 を 同 一 症 例 で 行 い 、 両 者 が 陰性 な群 が他 の3群と 比 較 し て 有 意 に 生 存 期 間 が 長 い こ と を 示 し た 。こ れが さ らに 大規 模な 臨床 試 験で 確認 され れ ば 、 非 小 細 胞 肺 癌 患 者 の 予 後 の 推 定 や 治 療 戦略 の上 で 有用 な指 標と なる こ とが 期待 され る。

    ー84―

(3)

学位論文審査の要旨

主 査   教 授   葛 巻   暹 副 査   教 授   加 藤 紘 之 副 査   教 授   川 上 義 和

学 位 論 文 題 名

Prognostic Significance of p53 and ras p21 Expression     1n Nonsmall Cell Lung Cancer

(非小細胞肺癌の予後因子としてのp 53 夕ンパク質 及びrasp21 夕ンパク質発現の意義)

  p53遺伝子異常は、悪性腫瘍で最も普遍的に認められる遺伝子異常のーつである。非小 細胞 肺癌の手術例に対しp53遺伝子異常をPCR―SSCP法やp53蛋白質の免疫染色で検出し予 後と の相関を検討した報告はこれまで数編あるが一定の結論は得られていない。ー方ras 遺伝 子異常も 非小細 胞肺癌で 多く認められ、申請者らはrasp21蛋白質発現が非小細胞肺 癌 の 独立 し た 予後 因 子 のー っ で ある こ と を 既に 報 告 した(HaradaM,et al. Cancer 1992;69:72―7)。本研究では非小細胞肺癌手術標本においてp53遺伝子異常を免疫組織化 学的 に検出し 、p53蛋白質発 現が独立した予後因子であるか否かを検討した。更にp53蛋 白質 発現とrasp21蛋白質発 現を同一症例で組み合わせて解析することが、患者の予後を 推定する上で有用であるか否かを検討した。

  対象 は既にrasp21蛋白質の 発現を 検討した 非小細 胞肺癌切除96例で、p53蛋白質の免 疫染 色はlabeled streptavidin biotin法で行い、一次抗体としてNovo Castra社のモノ クロ ーナル抗 体D07を用いた 。p53免疫染色の結果と臨床病理学的諸因子の相関はX2検定 で判 定した。 生存曲 線はKaplan‑Meier法で作成し、その差の検定は一般化Wilcoxon法で 行っ た。予後 因子の 解析にはC,oxの比例 ハザード モデル による多 変量解 析を用い た。

  p 53蛋白質発現は非小細胞肺癌全96例中56例(58%)で陽性、40例(42%)で陰性であった。

臨床 病理学的諸因子とp 53免疫染色性との関係では、術後T因子のみが相関を示した。生 存期 間を検討 した91例 をp53免 疫染色陽性群53例と陰性群38例の2群に分けて比較した場 合、 生存期間 はp53陽性群で 有意に短かかった。予後因子の多変量解析でp53免疫染色性 は、 手術根治 度、病 理組織型 と共に独立した有意な予後因子であった。rasp21免疫染色 の結 果とp53免疫染 色の結果 を併せて検討したところ、p53陰性/rasp 21陰性の群は他の 3群と比べ 有意に 生存期間 が長か った。rasp21免 疫染色 陰性の群 をp53の染色性 により 2群 に分 け る とB牛 生 存率 は 有意差 を示した が、rasp21免 疫染色陽 性の群 をp53で 分け た2群では 有意差 を示さず 、検討 対象症例の背景にあるp53以外の遺伝子異常の有無や偏 りにより異なった結果が導かれる可能性が示唆された。以上より、p 53免疫染色性が非小 細胞 肺癌の独 立した 予後因子 であり、これをrasp21免疫染色と併せて用いることの有用 性が示された。

  審 査に当た っては 、副査加 藤教授より、1.p53蛋白質の検討の他に、PCR法などを用 い たDNAの 検索を 加える必 要性について、2.予後因子である手術根治度や組織型とp53 蛋白質の異常における、予後を判定する上での重要性の度合いについて、3.他のグルー     ―85−

(4)

プからの研究報告で 、p 53蛋白質に異常がある方が予後が良いとする結果との差異をどう 考えるべきかについ て質問があった。申請者はこれらの質問に対して的確な 回答をおこ なった。さらに副査 川上教授より、1.今回用い たp53蛋白質の免疫学的検索 法は定性的 なものであるが、定 量的な方法はあるか、およぴその方法を用いることによってより多く の正確な情報が得ら れるかどうかについて、2.今回の解析で、年齢が予後因 子にならな か った 理由 、3. p53とras蛋 白質の組み合わせにおける予後の判定において、臨床の 背 景因子がそろってい るかどうかについて、4. p53蛋白質の異常における評価 の差異が他 の遺伝子異常による ことについて、考えうる具体的な遺伝子名について質問があった。申 請者はこれらいずれ の質問に対しても適切な回答をおこなった。また主査葛巻より、1. p 53の検出に用いた 抗体について、この抗体が野生型の蛋白質と反応する可 能性、2.p 53変異蛋白質にのみ 反応する抗体を用いた経験の有無にっいて、3.p53の異 常を判定す る 際のcut off pointを5−10%とする妥当性と、他の研 究報告との相違について、4.p 53とras遺伝子の相関作用における試験管内での 成績と、今回の予後に及ばす影響の相違 について質問をおこ なった。申請者はこれらいずれの質問に対しても適切な 回答をおこ なった。

  さらに、抗体によ る蛋白質の検索に加え遺伝子の異常の検索をおこなう検体数を増やす 事によって、より詳 細な結果が得られることが期待される。

  審査員一同は、本 研究を、癌抑制遺伝子p 53および癌遺伝子rasの基礎研究を非小細胞 肺癌の予後の判定と いう臨床上重要な診断法に応用するための研究として高く評価し、申 請 者 が 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 充 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 定 し た 。

86ー

参照

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