博 士 ( 農 学 ) 前 田 征 之
学 位 論 文 題 名
ジャガイモそうか病菌Strept07Tlyces scabzes の 定量法に関する研究
学位論文内容の要旨
ジ ャ ガ イ モ そ う か 病 は 放 線 菌 で あるStreptomyces属菌 によ って 引き 起こ され る 土壌 病害 であ り、 世界 中の ジャ ガイ モ生 産地 帯で 確認 さ れて いる。本病に罹病した 塊茎 は外 観を 著し く損 なう ため 商品 価値 を失 う。 また 、 デン プン含量・品質を低下 させることが知られている。
近 年 、 北 海 道 に お い て も 本 病 に おけ る被 害が 増加 傾向 にあ り、 生産 者に とっ て 深刻 な問 題と なっ てい る。 本病 の防 除策 とし ては 土壌 消 毒、 土壌の酸性矯正、灌水 によ る効 果が 古く から 認め られ てい るが 、広 大な 作付 面 積を もつ北海道においては この よう な防 除法 を適 用す るこ とは 困難 であ る。 また 、 本病 原菌は根菜類にも寄生 する こと や、 宿主 がな くと も土 壌中 で長 期間 生存 する た め輪 作による被害の軽減を 期待 する こと が困 難で ある 。そ のた め一 刻も 早い 有効 な 防除 法の確立が望まれてい る。 防除 を考 える 上で 土壌 中の 病原 菌の 生態 を明 らか に する ことは重要である。し かし 、土 壌中 の病 原菌 を分 離す るこ との 困難 さか ら、 土 壌中 の病原菌に関する報告 は皆 無で あっ た。 病原 菌の 定量 法が 可能 とな れば 病原 菌 の生 態を解明することがで き、 資材 、薬 剤に よる 病原 菌へ の影 響を 評価 する こと も 可能 となる。また、土壌中 の病 原菌 量と 発病 度の 間に 相関 が認 めら れれ ば土 壌診 断 法に も応用できる可能性が ある。
本 研 究 で は 数 種 報 告 さ れ て い る ジャ ガイ モそ うか 病菌 のう ち世 界中 の優 占種 で あるStreptomyces scabiesを対 象と し、 本菌 を土 壌か ら 定量 することを目的として 行 っ た 。 定 量 を 行 う た め に は 土 壌 か ら の 分 離 用 培 地 お よ びS. scabiesと 他 種 Streptomyces属菌 を識 別す るた めの 血清 学的 方法 の開 発 が必 要であり、両者を用い て定量を行うことを考えた。
土 壌か らのS. scabiesの 分離 用培地を作成 するため、培地に添加する抗生物質と 抗 菌 物 質 並 び にNaCl濃 度 を 検 討 し た。 その 結果 、0.5 0/oNaClを含 むSIR培 地の 基 礎 培 地 に シ ク 口 ヘ キ シ ミ ド100ppm、 ナ リ ジ キ シ ン 酸20ppm、 デ ヒ ド ロ 酢 酸 ナ ト リ ウ ム350ppm、 リ フ ァ ン ピ シ ン0.5ppm、 ト リ メ ソ プ リ ム20ppm、 ポ リ ミ キ シ ン B硫 酸 塩1ppm、LiCl2000ppmを 加 え る こ と で 、 分 離 の 障 害 と な る 土 壌 細 菌 の 抑 制効 果が 高く 、S. scabiesの分 離に有効なNo. 11培地を作成することができた。ま た 、Kenneth et al.( 1998)のSIR培 地 の 有 効 性 も 明 ら か と な っ た 。 S. scabiesを 他 種Streptomyces属 菌 と 識 別 す る 目 的 でS.scabies subsp.
achromogenes SNS‑39株の 菌 体破 砕液 上清 を300/0飽和 で 硫安 塩析した沈殿画分を免 疫 原 と し 、 ウ サ ギ を 用 い て ポ リ ク ロ ー ナ ル 抗 体 を 作 成 し た 。 得ら れた 抗体 をS. bottropensis、S.diastatochromogenes、S.turgidiscabiesの生菌体で吸収した精製抗
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体 はELISAに お い てS.scabies、S.scabies subsp. achromogenesと の 反 応 性 が高 くS. bottropensis、S.diastatochromogピnes以 外 の 菌 種 と は 交 差 反 応 は 見 ら れ ず 、 識 別 性 は 高 か っ た 。 未 精 製 の 本 抗 体 を 用 い た ウ ェ ス タ ン ブ 口 ッ テ ィ ン グ の 結 果 、S. scabies とS. bottr・叩ピnJむ、S.dfロJ紜fD曲rDmDgPnPJ、S.nグロ呂ロWロPnぷむの4菌種の抗原構造は 非 常 に 酷 似 し て お り 、 血 清 学 的 に 近 縁 で あ る こ と が 明 ら か と な っ た 。 一 方 で 本 抗 体 か らS. めff′ 叩 ピnsむ 、S.dぬJ地 め曲mmDgビnピsに対 する 交 差反 応を 除く こ とは 困難 で あ る と 考 え ら れ た 。 さ ら に 、SNS―39株 の 胞 子 懸 濁 液 、 オ ー ト ミ ー ル 培 地 で 培 養 し た 菌 体 の 磨 砕 液 、 加 熱 菌 体 磨 砕 液 の そ れ ぞ れ を 免 疫 原 と し て ポ リ ク 口 ー ナ ル 抗 体 を 作 成 し た が 、 い ず れ も 上 記 抗 体 の 識 別 能 カ を し の ぐ も の で は な か っ た 。 ポ リ ク ロ ー ナ ル 抗 体 の 結 果 を 踏 ま えSNS,39株 に 対 す る モ ノ ク 口 ー ナ ル 抗 体 を3 種 ( 胞 子 懸 濁 液 、 菌 体 破 砕 液 、 菌 体 磨 砕 液 ) の 抗 原 に 対 し 作 成 し た 。 そ の 結 果 、 胞 子 懸 濁 液 、 菌 体 破 砕 液 を 免 疫 原 と し た も の か ら 得 られ た抗 体は 、S.ぷcロ みfビぷ に強 く 反応するが、S.6DffrDpPnJむ、S.dfロJぬめC轟′DmD呂enぞS、S.nグロgロWロPnSむのいずれか に 交 差 反 応 を 示 す も の で あ っ た 。 一 方 、 菌 体 磨 砕 液 を 免 疫 原 と し て 得 ら れ た 抗 体 の うち6つ の抗 体はS.6DffrDpビnSむ、S.d血S地細C轟mmDgPnピS、S.nぞyロgロWロピnぷむに交 差 反 応 を 示 さ な か っ た 。 そ の う ち4っ はS.grむPMssubsp.grむPHJビ の1菌 株 に 反 応 し た が 、2つ の 抗 体 (7F11H10、78EH10) は 他 種Sfr印fD′ 緲cPs属 菌 に 対 し て 反 応 は 認 め ら れ ず 、S.scロ6fぞ ぷ に 特 異 的 な 抗 体 で あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。7F11mO、78EH10 の 両 抗 体 は ウ エ ス タ ン プ 口 ッ テ イ ン グ に お い てS.s凹 みfPsの 抗 原 を 異 な る 分 子 量 の パ ン ド で 認 識 し て い る が 、 両 抗 体 でDAS‐EuSAを 行 う こ と が 可 能 で あ っ た 。 本 結 果 か ら 両 抗 体 は 同 一 の 抗 原 上 の 異 な る 抗 原 決 定 基 を 認 識 し て い る こ と が 考 え ら れ た 。 ま た 、7F11H10、78EH10の 両 抗 体 の 認 識 す る 抗 原 物 質 の 特 性 を 調 べ る た め 、 抗 原 に プ ロ テ イ ナ ー ゼK、 熱 、 ク 口 口 ホ ル ム 処 理 を お こ な い 、ELISAで 活 性 を 調 べ た 。 そ の 結 果 、 プ 口 テ イ ナ ー ゼK、 熱 処 理 抗 原 で は 反 応 が 認 め ら れ ず 、 ク 口 口 ホ ル ム 処 理 抗 原 で は 無 処 理 の 抗 原 に 比 ベ 発 色 値 が 低 下 し た 。 そ の た め 、 両 抗 体 の 認 識 す る 抗 原はタンパク質と考えら れた。
S.scロ ろfぞsの 分 離 培 地 と モ ノ ク ロ ー ナ ル 抗 体 (7F11HlO、78EH10) を 用 い て14の ジ ャ ガ イ モ そ う か 病 発 病 圃 場 か ら のS. ぷ 凹 ろfピs定 量 を 行 っ た 結 果 、 中 発 生 以 上 の 圃 場 の 菌 量 は2.60X103〜5.75X104cfu/gsoilで あ っ た 。 少 発 生 圃 場 で は1圃 場 で3.09 X103cfu/gsoilで あ っ た が 、 他 の3圃 場 か ら は 定 量 す る こ と は で き な か っ た 。 ま た 、 十 勝 農 試 コ ン ク1」 ー ト 枠 圃 場 に お け るS. ぷ 閲 みfピJの 経 時 的 変 化 を 調 べ た 結果 、植 付 け 時 に3.13X103cfu/gsoilで あ っ た 菌 量 は 植 付 け 後50日に は 最大 菌量2.57X10゜cfu/g soilに 達 し 、 収 穫 時 の 菌 量 は1.44X104cfu/gS0ilで あ っ た 。 植 付 け 後50日 目 は 塊 茎 形 成 期 か ら 肥 大 期 に 相 当 し 、 本 病 の 感 染 時 期 と 考 え ら れ て い る 。 そ の た め 感 染 に 伴 いS.scロみfPsの菌量が 増加したことが考えられた。
ア メ ル カ 産S. ざ 凹 みfP5に 対 す る ポ リ ク 口 ー ナ ル 抗 体 に よ るELISAの 反 応 は 、 全 て の 菌 株 に 反 応 し た 。 し か し 、 基 準 菌 株 とDNAの 相 同 性 が70% よ り も 低 い3菌 株 で はELISAの 発 色 値 が 低 く 認 め ら れ た 。 モ ノ ク 口 ー ナ ル 抗 体 のEIJSAに よ る 反 応 は こ れ ら3菌 株 を 除 き 全 て の 菌 株 に 反 応 し た 。PCRに お け る 反 応 も こ れ ら3菌 株 を除き全ての菌株に反応 した。
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学位論文審査の要旨 主 査 教授 生越 明 副 査 教授 小林喜六 副査 助教授 近藤則夫
学位論文題名
ジャガイモそうか病菌Strept07nyces scabies の 定量法に関する研究
本 論 文 は 、 図5、 表36、 図 版4、 引 用 文 献129を 含 み 、9章 か ら な る 総 頁 数136の 和 文 論 文で ある 。別 に参 考論 文5編 が添 えら れて いる 。
本研 究は 、土 壌中 のStreptomyces scabiesの生態を明らかにするため 、土壌からの分離 用 培地 の作 成、 血清 学的 方法 を用いた識別法を開発し、土壌中における 病原菌の定量法を 確 立す るこ とを 目的 とし たも ので ある 。ま た、 多様 な集 団と報告されているアメリカ産S scaろ 洒 に 対 す る 血 清 学 的 方 法 、 & 脚 ろ 洒 に 特 異 的 な プ ラ イ マ ー を 用 い たKR法 によ る 識 別能 カを 検討 した 。そ の概 要は 以下 の通 りで ある 。
1.ジャガイモそ うか病菌S.蝋ろ洒の分離用 培地の作成
数種抗生物質および抗菌陸物質の効果を検 討した結果、O.5%のNaClを含む跏印舫 グc豁 sel鹹ve培 地( 聡紐lem口矼 ,1998)の 基礎 培地 にデ ヒド ロ酢 酸ナ トリ ウム350ppm、 ナリ ジ キ シ ン 酸2叩pm、 シ ク 口 ヘ キ シ ミ ド10C帆 )m、 トリ メ ソプ リム2叩pm、 リフ んン ピ シ ンO.5ppm、 ポ リ ミ キ シ ンB硫 酸 塩1ppm、nC120( 耽彊 )mを 加え るこ とでS賊zみ洒 の 分 離に適した培地(No.11培地)を作成するこ とが可能となった。
2.ジャガイモそうか病菌S scaろぬの血清学的方法による識別
S鰡ろ ぬsubsp. 鋤m職 曙ぱ .ゞSNS―39株 の菌 体破 砕液 上清 を30%飽 和で 硫安 塩析 した沈 殿 画分 を免 疫原 とし 、ウ サギ を用 い て抗 体を 作成 した 。得ら れた抗体を&め鰤甲開血、S ぬ 嫐め めmmDg開Bゞ、 &m′g泌 ぬめぬの生菌体で吸収した精製 抗体は、S鍛め洒、&歟め洒 輒Ibsp.ロ 出MM冨E肥 ゞと の反 応陸 が高 く、Sめ伽 ゆ洲 む、 &ぬ 燗餓d珊鰍 櫓開 館2菌種に 強い交差反応が認 められたが、他種.跏印め仰憾ゞ属菌とは交差反応は見られず、識別性は 高 いも のであった。しかし、ウエスタンブロッティングの結果 からも、本抗体ではS鰡ろ洒 と & めf0叩 肌 虹 ゞ 、 &d辺 , 吻 耽 ・ 触 朋 昭 ピ 肥 ゞ を 識 別 す る こ と は 困 難 で あ っ た 。 特 異抗 体を 得る 目的 で胞 子懸 濁液 、 オー トミ ール 培地 で培 養し た菌 体磨 砕液 、加 熱菌体 の そ捫 ぞ捫 を免 疫原 とし てポ リク 口ーナル抗体を作成したが、いずれも上記抗体の特異性
をしのぐものではなかった。
ポリクローナル抗体の結果を踏まえS scabies sub叩.ロ曲m臘鄂肥ゞSNS‐39株に対する モノク口ーナル抗体を3種の抗原に対し作成した。胞子懸濁液、菌体破砕液を免疫原とし たも ので は、
S
聊 ろぬに 強く 反応 する が、S
め 鰤甲所 血、S
ぬ 賊如c
轟m職郡 肥ゞ、Sの7ロg洲棚繊のいずれかに交差反応を示す抗体しか得られなかった。一方、菌体磨砕液 から得られた抗体のうち
2
つの抗体(7F11H10、78EHlo)はS脚ろぬ以外の跏りめ刪弛ゞ 属菌に対して反応は認められず、高い識別能カを示した。また、両抗体の認識する抗原物質はク口口ホルム、熱、プ口ティナーゼK処理を行っ たEuSAの結果から、夕ンバク質であることが考えられた。
3
.ジャガイモそうか病菌S scabies
の定量& scaろ洒の分離用培地とモノク口ーナル抗体(7F11H10、78Emo)を用いて異なる14 のジャガイモそうか病発病圃場からS鍛め洒の定量を行った結果、中発生以上の圃場の 菌量は2.60X1ぴ〜5.75X14血/gsmであった。少発生圃場では1圃場で3.09X1醜血/gsoil であったが、他の
3
圃場では定量することはできなかった。また、十勝農試コンクリート 枠圃場における&鍛め沁の経時的変化を調べることが初めて可能となり、植付け時3.13X1
ぴ剛g
駈m
であ った 菌量は、50日後には最大菌量2.51X14n蟾s皿に達した。本時期 はジャガイモの塊茎形成期から肥大期に相当し、本病の感染時期に相当する。そのため感 染 に 伴 い 土 壌 中 の 病 原 菌 量 が 増 加 し た こ と が ー つ の 要 因 と して 考 え ら れ た 。 本研究の結果得られた定量法は土壌中におけるS鰡ろ洒の菌量を評価する上で有効で あることが明らかとなった。4
. ア メ リ カ 産 &scabies
に 対 す る 血 清 学 的 方 法 お よ びPCR
に よ る 識 別アメリカ産S scaろ洒に対するポリク口ーナル抗体の反応は、全ての菌株に反応したが、
基 準菌 株と