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個人化社会における労働の変容と心の問題

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Academic year: 2021

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個人化社会における労働の変容と心の問題

たなか けいこ

田中 慶子

本論文の目的は、現代日本社会において、社会的に対処されるべき労働問題が個人の(心 の)問題として潜在化していくメカニズムを実証的に明らかにするものである。

本論文では労働問題が心の問題へと社会的に構成されていった事例として、電通過労自 殺事件をめぐる社会問題の構成過程を分析する。「過労自殺」という社会問題カテゴリーが 誕生する契機となり、初めて自殺における企業側の損害賠償責任が認められた電通過労自 殺事件をめぐる社会問題の構成過程は、当初、長時間労働の抑制という労働問題として登 場したアジェンダが企業側のリスク管理問題へ、労働者個々人のメンタルヘルスケアへ、

さらに自殺対策全般としてのうつ病・メンタルヘルス対策へと推移していくことで、労働 問題が医療化することを通じて、個々人が自己責任で対処すべき「心の問題」へと還元し ていく社会的メカニズムを生み出していく。

次に、本論文では 2012 年に改正された労働者派遣法で「日雇い派遣原則禁止」の例外と して位置づけられた労働として、日雇い派遣イベントコンパニオンの労働現場を事例とし て取り上げる。コンパニオンの労働現場への参与観察調査にもとづいて、彼女たちが労働 の場面で直面していく様々な問題へ対処していく様を労働の変容という視角から分析して いく。

コンパニオンが置かれている労働状況は、1)日雇い派遣という不安定な雇用、2)労働条 件の不透明性、3)接客販売という対人サービスとノルマ、4)ある種の女性性が必要とされ るジェンダー化された職場、として特徴づけることができる。こうした労働状況において コンパニオンが日雇い派遣労働者として労働へ適応し、雇用を維持していくために必要と されているのは、彼女たちが労働現場で直面する問題へとフレキシブルに対応する「スキ ル」である。こうした「スキル」は努力して身につけていくというよりも、発揮された後 に雇用が継続されるという結果によって事後的に確認されるような能力である。常にフレ キシブルな対応が要請されるコンパニオンの労働現場からは、不安定性、一時性、柔軟性 など労働の現代的変容がドラスティックに浮かび上がってくる。加えて、日雇い派遣とい う法的にグレーゾーンの雇用状況に置かれることによって被るコンパニオンたちの労働問 題は、彼女たちに感情労働・管理を課し、彼女たちの「心の問題」として個人化され、潜 在化していくことになる。

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