心尖部心室瘤を合併した心室中部閉塞性肥大型心筋症に対する外科治療の経験
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(2) 大賀勇輝ほか:心尖部心室瘤を合併した心室中部閉塞性肥大型心筋症に対する外科治療の経験. 179. Fig. 1 ( a )Preoperative electrocardiogram shows widespread T-wave inversion in precordial leads. ( b )Preoperative Holter monitoring shows five beats of nonsustained ventricular tachycardia. ( c )Postoperative electrocardiogram shows decreased amplitude of inverted T waves.. 症. 例. 患者:76 歳,男性. 主訴:労作時呼吸苦. 現病歴:近医を受診した際に心電図で巨大陰性 T 波を 指摘されて,当院循環器科を紹介受診した.検査入院とな り,経胸壁心臓超音波検査で心室中部閉塞性肥大型心筋症 および心尖部心室瘤を指摘されるが自覚症状に乏しく,経 過観察された.7 カ月後に労作時呼吸苦が出現し,増悪傾 向を認めたため手術加療目的に当科へ紹介され,入院と なった. 既往歴:肺気腫,不眠症,便秘症.. Fig. 2 Perioperative change of mid-ventricular obstruction. Midventricular obstruction was clearly demonstrated in preoperative transthoracic echocardiography( a ), but disappeared in postoperative transthoracic echocardiography( b ).. 手術歴:特記すべきものなし. 家族歴:特記すべきものなし. 入院時現症:身長 159 cm,体重 57 kg,体温 35.9℃, 血圧 131/83 mmHg,脈拍 60 回/分・整.明らかな心雑 音は認められなかった.. では 5 連の非持続性心室頻拍が認められた(Fig. 1b). 経胸壁心臓超音波検査:四腔断面像で乳頭筋位での著明 な心筋肥厚,および心尖部壁の菲薄化と瘤状化を認めた (Fig. 2a).また狭窄部を隔てて左室内に 3.7 m/s の加速血. 心電図検査:正常洞調律,69 回/分.V3-5 誘導におい. 流,および拡張期において心尖部から心基部にむかう奇異. て巨大陰性 T 波を認めた(Fig. 1a) .またホルター心電図. 性血流が観察された.左室流出路の狭窄は認められず,僧.
(3) 180. 日本心臓血管外科学会雑誌. 50 巻 3 号(2021). Fig. 3 Preoperative myocardial scintigraphy. Apical blood flow was reduced during both stress and rest, and redistribution was not observed.. 帽弁の収縮期前方運動(systolic anterior movement,以下. した.胸骨正中切開でアプローチし,上行大動脈送血,上. SAM)も確認されなかった.左室拡張末期容積は 70.2 ml. 大静脈および下大静脈脱血,左室ベントで体外循環を確立. と比較的低値であり,心尖部周囲の壁運動は低下してい. した.大動脈を遮断し,心停止を得た.心尖部に瘤を認. た.左室駆出率は 65%,左室拡張末期径は 49 mm,左室. め,これを切開し内腔を観察したところ,瘤壁は薄く,内. 収縮末期径は 32 mm,心室中隔厚は 8 mm,心室後壁厚は. 膜は白色で肉柱組織が豊富であった(Fig. 4a).正常心筋. 11 mm であり,有意弁膜症は認めなかった.. との境界が明瞭であったため,これに沿って瘤を切除し,. 心臓カテーテル検査:左室造影では心室中央下部の著明. そのまま経心尖部アプローチで心筋切除を行った.左室の. な心筋肥厚により,左室内腔と瘤化した心尖部がそれぞれ. 瘤入口部は狭窄が強く,小指が挿入できなかった.心室中. 造影された.圧較差を測定したところ,左室内腔が心尖部. 部の肥厚部は内腔が線維化のためかなり狭小化しており,. 瘤内より 24 mmHg 高値であった.冠動脈造影では左右冠. 瘤入口部から中隔∼後壁∼側壁の肥厚心筋を両側乳頭筋の. 動脈に有意狭窄を認めなかった.. 根部まで慎重に 11 番メスとメッチェンバウム剪刀で切除. 心臓 MRI 検査:左室心尖部に 30×38 mm 程度の心尖部 瘤を認めた.. し,狭窄を解除した(Fig. 4b).特に線維化部分は残らず 切除した.左室内腔が十分に確保されたことを確認し,ダ. 201. :負荷時および安静 心筋シンチグラフィ( Tl-SPECT). クロンフェルトを用いて 2-0 prolene で mattress および. 時ともに心尖部の心筋血流は低下しており,再分布は認め. .大動脈遮断時間 over and over で左室縫合した(Fig. 4c). られなかった(Fig. 3).. は 141 分,体外循環時間は 195 分,手術時間は 5 時間 35. 治療方針:心尖部心室瘤を合併した心室中部閉塞性肥大 型心筋症と診断.心室性不整脈に加えて,本人の自覚症状 が強く,手術加療の方針となった. 手術所見:術後左室縫合部の後負荷を軽減するため,大 動脈内バルーンパンピング(intra-aortic balloon pumping, 以下 IABP)を挿入し,全身麻酔下,仰臥位で手術を開始. 分であった. 病理所見:心室瘤部分では心筋線維の著明な減少と高度 の線維増生を認めた.心筋肥厚部は心筋核の大小不同およ び心筋線維の腫大と錯綜配列を認め,肥大型心筋症として 矛盾しない所見であった. 術後経過:術後,集中治療室に挿管のまま帰室となっ.
(4) 大賀勇輝ほか:心尖部心室瘤を合併した心室中部閉塞性肥大型心筋症に対する外科治療の経験. 181. Fig. 4 ( a )The cardiac apex was incised, and the left ventricular lumen was observed. There were significant trabeculae carneae, and the mid-ventricular lumen had narrowed.( b )Myocardium was resected until the level of the papillary muscles to increase the ventricular luminal size.( c )The view after left ventricular suture.( d )Schema of procedures. Dash line ① presents excision line of apical aneurysm, and ② presents excision line of hypertrophic myocardium until the level of the papillary muscles. Ao, aorta ; LA, left atrium ; PMs, papillary muscles ; AA, apical aneurysm.. た.心室性不整脈は認めなかったが,予防的にアミオダロ. 考. ン 600 mg/day を静脈経路で持続投与した.呼吸状態およ. 察. び循環動態は安定しており,術翌日に抜管,術後 2 日目に. MVO-HCM は 1976 年に Falicov ら 1)によって初めて報告. IABP 抜去となった.術後 4 日目よりアミオダロン 200. され,心室中部における心筋の肥大や乳頭筋の異常増殖に. mg/day の内服へと変更し,心室内血栓の予防目的にワー. よって閉塞を引き起こす,肥大型心筋症の一亜型とみなさ. ファリンの内服を開始した.術後 10 日目の心臓超音波検. れており,HCM 患者の 8∼12.9% に認められる 2).通常の. 査では左室駆出率は 66%,左室内の加速血流は消失してお. 肥大型心筋症と同様に,症状としては胸痛や呼吸苦,動. り,左室拡張末期容量は 98.5 ml と左室容量の増加を確認. 悸,めまい,失神などの胸部症状が多い 3).MVO-HCM の. した(Fig. 2b) .術前と同じく心尖部周囲の壁運動は低下. 患者は 28.3% で心尖部心室瘤を合併するとの報告があり 4),. していた.入院中に心室性不整脈は認められず,胸部症状. 心室性不整脈および突然死の大きな原因と考えられてい. の訴えは認めなかった.全身状態が安定したため,術後. る.. 19 日目に退院とした.術後 6 カ月目の心電図検査では陰. 心尖部心室瘤の発生機序について多くの論文で言及され. 性 T 波は認められるものの減高しており,心室性不整脈. ているが,慢性心筋虚血の関与が原因であると考えられて. は観察されなかった(Fig. 1c) .. いる.MVO-HCM では左室中部が肥大しており,収縮期.
(5) 182. 日本心臓血管外科学会雑誌. 50 巻 3 号(2021). に左室内腔が二分化される.これによって収縮期では左室. すると肥厚心筋によって左室から瘤にかけて細い通路に. 中部が閉塞することで心尖部の内圧上昇をきたし,拡張期. なっており,これを拡大するように心筋を切除した.する. には心尖部から心基部にむかう奇異性血流が認められる.. と視野が展開して両側乳頭筋の基部が確認でき,比較的容. 左室肥大と心尖部における圧の上昇による酸素需要量の増. 易に肥厚心筋や白色化した線維化心筋の切除が可能であっ. 大および心筋灌流障害により,相対的心筋虚血をきた. た.この際,左室内腔が十分に確保されるように注意を. 4, 5). .本症例では心筋シンチグラフィにおいて負荷時と. 払った.本症例では肥厚部位が乳頭筋位までであり(Fig.. 安静時の心尖部血流は低下しており,また心臓超音波検査. 4d) ,大動脈弁位まで肥厚は及んでいなかった.大動脈弁. において奇異性血流と壁運動低下も確認された.心筋肥大. 輪周囲の肥厚や SAM などが認められる症例では,経大動. が進行性の疾患であるため,年齢とともに病態は悪化する. 脈弁アプローチを行うことがある.Tang ら 11) は,MVO-. と考えられており,この心尖部の虚血は慢性的かつ進行性. HCM では経大動脈アプローチで心室中部までの心筋切除. の経過をたどる.Kawai ら 6) は心臓超音波検査において. が可能であり,特に SAM による僧帽弁逆流症を合併した. 1.5 m/s 以上の加速血流が心尖部心室瘤を形成する予測因. 患者では術後の逆流を減少させ,血行動態を改善すると報. 子となる可能性を報告しており,心尖部心室瘤を認めない. 告している.しかし肥厚部位が長い症例や病変が心室中部. MVO-HCM 患者の日常診療において心臓超音波検査は重. に限局している症例,心尖部瘤を合併している症例では経. 要な指標になると思われた.. 心尖部アプローチでの心筋切除の追加を検討するべきだと. す. 心尖部心室瘤を合併した MVO-HCM では心電図異常を. している.その他に,Kunkala ら 12)は心尖部アプローチで. 97% の患者で認め,胸部誘導での陰性 T 波や異常 Q 波,. も肥大した中隔や乳頭筋を良好な視野で確認することがで. ST 変化といった虚血性心疾患に類似した所見を呈する 3).. き,心尖部切開による特異的な合併症を認めなかったと報. また心室頻拍などの心室性不整脈を合併することがあり,. 告している.本症例では肥厚部位が乳頭筋根部から心尖部. 7). 一年あたり 4.7% の発生率との報告がある .これは心尖部. までであり,心尖部アプローチで良好な視野を獲得するこ. 瘤形成に伴い引き伸ばされ傷ついた心筋線維が誘発してい. とができ,心尖部アプローチ単独でも瘤切除および十分な. ると考えられている 8).全死亡率は 9∼10.5% との報告もあ. 心筋切除が可能であった.以上から心尖部瘤を合併した. 9). り ,心尖部心室瘤を合併した MVO-HCM 患者の治療に. MVO-HCM では,術前検査で肥厚部位および左室流出路. おいて不整脈治療は重要な意味をもつ.. 周囲の狭窄の有無について確認することが重要であり,こ. 心尖部心室瘤を合併した MVO-HCM の治療については 明確な適応や基準が存在しておらず,内科的および外科的 治療もあることから,いまだ議論がなされている.治療の 主軸として考えるべき要素は 3 つあり, 「心室中部閉塞」. れによって経大動脈アプローチの追加を検討する必要があ ると考えられた. 術後の抗凝固療法の必要性について検討された報告例は 少なく,本症例では術後も抗凝固療法を継続している.術. 「心室性不整脈」「血栓塞栓症」に分けることができる.心. 後 6 カ月目では血栓塞栓症の新規発症や心内血栓は認めら. 室性不整脈に対する内科的治療として薬物療法,カテーテ. れなかった.また術後早期の心室性不整脈は確認されな. ルアブレーション療法があるが,奏効しない例や再発例も. かったが,術後 4∼9 年を経過して認められる報告例もあ. しばしば認められ,外科的治療や植込み型除細動器が必要. り 9),今後も慎重に経過を診ていく必要性があると考えら. となることがある. 8, 10). .また瘤内血栓による血栓塞栓症の. れた.. リスクがあるため,瘤径とは関係なく永続的な抗凝固療法. 結. が必要となる 7).外科的治療では心尖部瘤の切除および MVO を解除するために肥厚心筋の切除が施行され,これ 9). 語. 心尖部心室瘤を合併した MVO-HCM を外科的に治療し. らの問題を解決し得る可能性がある.Nguyen ら の報告. た 1 例を経験した.心尖部からの瘤切除と心筋切除は視野. では,術前の心室性不整脈が 39% で認められたのに対し,. が良好であり,また心内膜における線維化心筋を残さず切. 術後心室性不整脈の合併率は 9% と低値であった.また. 除することができた.外科治療は本疾患において不整脈と. 1∼24 年の術後観察期間において血栓塞栓症の合併は認め. 心不全の症状を改善することができ,有効な治療法である. られず,外科的治療の有効性を示している.本症例では非. と考えられた.. 持続性心室頻拍の存在に加えて,患者の呼吸苦症状が強 く,肥厚心筋を切除することができる外科的治療を選択し た. 手術では心尖部心室瘤を切除し,経心尖部アプローチで 肥厚心筋を両側乳頭筋の根部まで切除した.心室瘤を切除. 文. 献. 1) Falicov RE, Resnekov L, Bharati S et al. Mid-ventricular obstruction : a variant of obstructive cardiomyopathy. Am J Cardiol 1976 ; 37 : 432-37. 2) Efthimiadis GK, Pagourelias ED, Parcharidou D et al..
(6) 大賀勇輝ほか:心尖部心室瘤を合併した心室中部閉塞性肥大型心筋症に対する外科治療の経験. 3). 4). 5). 6). 7). Clinical characteristics and natural history of hypertrophic cardiomyopathy with midventricular obstruction. Circ J 2013 ; 77 : 2366-74. Okayama S, Fujimoto S, Tsutsumi T et al. A pediatric case of hypertrophic cardiomyopathy with mid-ventricular obstruction incidentally detected by electrocardiography. J Cardiol Cases 2009 ; 1 : e67-70. Minami Y, Kajimoto K, Terajima Y et al. Clinical implications of midventricular obstruction in patients with hypertrophic cardiomyopathy. J Am Coll Cardiol 2011 ; 57 : 2346-55. Ito N, Suzuki M, Enjoji Y et al. Hypertrophic cardiomyopathy with mid-ventricular obstruction complicated with apical left ventricular aneurysm and ventricular tachycardia : a case report. J Cardiol 2002 ; 39 : 213-9. Kawai K, Taji A, Takahashi A et al. A natural history of apical hypertrophic cardiomyopathy with development of an apical aneurysm formation : a case report following a quarter century. J Cardiol Cases 2014 ; 9 : 221-5. Rowin EJ, Maron BJ, Haas TS et al. Hypertrophic cardiomyopathy with left ventricular apical aneurysm. J Am Coll Cardiol 2017 ; 69 : 761-73.. 183. 8) Mantica M, Bella PD, Arena V. Hypertrophic cardiomyopathy with apical aneurysm : a case of catheter and surgical therapy of sustained monomorphic ventricular tachycardia. Heart 1997 ; 77 : 481-3. 9) Nguyen A, Schaff HV, Nishimura RA et al. Early outcomes of repair of left ventricular apical aneurysms in patients with hypertrophic cardiomyopathy. Circulation 2017 ; 136 : 197981. 10) Nguyen A, Schaff HV, Minn R. Electrical storms in patients with apical aneurysms and hypertrophic cardiomyopathy with midventricular obstruction : a case series. J Thorac Cardiovasc Surg 2017 ; 154 : e101-3. 11) Tang Y, Song Y, Duan F et al. Extended myectomy for hypertrophic obstructive cardiomyopathy patients with midventricular obstruction. Eur J Cardiothorac Surg 2018 ; 54 : 875-83. 12) Kunkala MR, Schaff HV, Nishimura RA et al. Transapical approach to myectomy for midventricular obstruction in hypertrophic cardiomyopathy. Ann Thorac Surg 2013 ; 96 : 564-70..
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