筑後川流域における「水の装置」 [ PDF
4
0
0
全文
(2) 3. 効用の分類による考察. ⑩ドンブリ 水槽 飲用水が溜め られている。. この梗概では, 図 2 の分類から「用水の確保」と「用. 共同井戸 集落の住民がか つて共同で使っ ていた井戸。. 水の分配」 , 「水の動力化」の 3 つを取り出し,各効用 において各流域で見られる装置を 1 つずつ紹介する。. 流域:上流域 水の動き:溜める 場所:集落のなか. 3-1. 用水の確保(図 4) 水利開発の変遷 年代 水利設備. 用水を確保するための装置は上流域と下流域で6種. 江戸. 類見られる。また,上流域では溜めることで水を確保. 明治. ウエンホウ 土のついた 野菜などを 洗っている。. オオヅツミ 明治後期に造築され た溜池。集落上流部 の耕作を可能にし, 当集落全体の農業用 水の主水源となって いる。. ドンブリ 小さな 溜池. 水槽のオーバー フローがドンブ リに流れ込む。. 小堤. するが,下流域では流水を抑える働きをもつ装置を組. 42 年. み合わせることによって水を確保するなど,装置が複. 水槽 昭和 30 年頃 消防水利. 堰板 水を一定量,上流 側に溜められる。. 鯉やアブラメが いる。魚が土や 虫などを食べる ことで水を浄化 する。. オオヅツミ 水路. 合的に使われる。このうち上流域からドンブリを,下. 水田. 流域からはクリークを取り上げ考察する。. ドンブリ. ⑩ドンブリ ドンブリは,上流域の山間部にある集落の中に存在 する共同水利施設である。居住域中心部の道と水田の. 水路. 間の土地に,南北に細長く掘り込まれ,周囲を石垣と. 野菜を洗う住民 洗い場と水面との距 離がシタンホウの方 が近く,腰を曲げな くて済むためここで 洗っている。. 散歩中の住民 野菜を洗っている住 民に話しかけている。 毎日散歩をし,ドン ブリにいる 2 匹の赤 い鯉を気にかけ水面 をのぞくという。. 水槽・消防水利の設置 オオヅツミの水をパイ プで引き,オーバーフ ローがドンブリ,消防 水利,その下の水路へ 通された。. コンクリートで固められている。道から階段で下に降. 防火水槽. りられる場所が 2 ヶ所設けてあり,上流側はウエンホ ウ,下流側はシタンホウと呼ばれている。ウエンホウ 0. では野菜などを洗い,シタンホウでは着物や農業用具. 50. 100. シタンホウ かつては着物な どを洗っていた。. ドンブリの水の オーバーフロー が下の農地へ流 れる。. 200m 集落内におけるドンブリの位置. クリーク. を洗い,さらに下流の農業用水路に接続する,流速が. クリーク. 大きい場所ではおむつを洗うように,集落の中で洗い. 水田. 水田. 場の使い分けが決められていた。ドンブリの中心部に. 0. は堰板が設置できるようになっており,一定量の水を ウエンホウに溜めることができる。. 5m. 断面図. 流域:下流域 水の動き:溜める 分ける 通す 場所:下流域全域. 樋門 クリーク. 29 クリーク 排水時. クリークは下流域に見られる,水を広域にいきわた. 用水の確保と水の排水. せるための溝である。主に,クリークは土地の傾斜に. アオ取水 有明海の満潮時,筑後川の淡水は押し上げられる。 それの淡水(アオ)を取水し,農業用水として利用 するしくみである。. そって通っている縦堀と,等高線に沿うように縦堀の. 流れ堀. 水田. クリーク. 屋敷. 樋管. 溜堀. 名流れ堀といい,上流から下流へ水を導引している。. 堤防. 川. 直角方向に走る横堀に分けることができる。縦堀は別 また,横堀は溜堀といい,縦堀の水を周囲の土地へ拡 げる役割をしている。樋門が取り付けられ,稲作の給 水期にはクリークに一定量が溜められるようになって. 揚水. おり,水が多い場合には越流させ排水している。排水 が必要な場合は,樋門を開放し水を一気に流す仕組み. 0. 100. 300m 分布の状況. になっており,水を溜める溜池の機能を果たすと同時. ⑪タメイケ. ⑦イケ 山水などを 引く。. に排水路としての役割を担っている。下流域の低平地. 余水は,農業用 水と合流する。. 山水,谷川などが流れ込む。. は,日本最大の干満差を有する有明海の潮汐の影響を 受ける。排水路から塩水の浸入を防ぐために,クリー. 流域:上流域 水の動き:溜める 場所:屋敷の庭. ク外へ排水できない時期がある。この時期は,水田の. 土地を掘り込 んで溜める。 石で補強して いる。. 流域:上流域 鯉や鮒が食べか 水の動き:溜める すなどを食べ水 場所:農地の上流部 を浄化する。. エンタイ. 排水はクリークに貯留され,引き潮の時に一度に排水. 余水は水路に 常時排水 給水期,栓を開け 下方の棚田へ流す。. ヒカン コンクリート で,流路を狭 める。. する。また,満潮時には海水が筑後川を逆流し,比重. コンクリートの 擁壁に開口が開 けられている。. の違いにより, 筑後川の豊富な淡水を上に押し上げる。 流域:下流域 水の動き:抑える 場所:クリーク. この淡水を取水するアオ取水という取水法がかつて行 われおり,取水をクリークに溜めていた。. 一定の水量があ ると越流し,少 ないと流れず溜 められる。. 堰板をはめ込める ようにし,高さを 調整する。. 流域:下流域 水の動き:抑える・ 通す 場所:クリーク. 図 4.「用水の確保」装置. 10-2. 土地を掘 り込む。 石やコン クリート で補強す る場合も ある。. 差蓋の上下さ せ,流水量を調 整する。.
(3) 以上のように,上流部と下流部では自然の状態での. ③タケドイ. 水のあり方が異なる。上流部では斜面地に居住地や農. 竹の大きさによ り,流量が制限 される。. 石 タケドイの上に石 を置き,水をこぼ すことによって流 量を調整する。. 地がつくられる。水はその斜面に沿って勢いよく流下 する。したがって土地を掘って,山水などの少量の水. 流域:上流域 動き:分ける 通す 場所:水路の分岐点. を少しずつ溜めて使用していた。しかしながら下流域. 古屋敷井手. 水田. は,自然の川などは集まり流域面積は大きくなるが,. 上の水路から 流れてくる。. 水路 下の水田に 水を運ぶ。. 竹樋 水田 川. 広域に分布することはなく,水量は上流が使用するご. タケドイで取水する。. とに少なくなっていく。また,有明海の潮汐の影響が. 棚田の階段形状の脇を 水系①. 水が流れ,水が落ちる. あるため,淡水を広くめぐらせ,広い範囲で水を貯蓄. ところにタケドイを設 け,水を水田に分ける。. することにより水の反復利用を行った。. 水路から遠いところへ は,タケドイを連結し,. 3-2. 用水の分配(図 5). 水路のように水を運び 分水する。. 用水を分配する装置は,上・中・下流域すべての流. 0. 域でみられる。全部で 8 種類見られ,その中から上流. 25m. 域のタケドイ,中流域のカクマテンビン,下流域のフ ミグルマの 3 つを紹介する。 ③タケドイ 0. 50. 100m. 上流域の棚田で,主に水を水田に供給するために用. タケドイを用いた 3 つの給排水システム. ⑰カクマテンビン. いられる。2,3m の竹を半割にして節を取り除いたも. 大石堰. ので,給水期だけ水路と水田の間に設置され,その時. 筑後川から取水し, 大石長野水道. 水道に流す。. カクマテンビン. 期以外は水田の脇に置かれる。流れ込む水は,タケド 流域:中流域 動き:分ける 場所:水路の分岐点. イの形状により一定量しか流れず,他はこぼれ水路を 下っていく。また,タケドイ上に石をおいて水をこぼ し,流量を調節する。山間部の水は冷たく稲作には不. 0. 適で,水田は斜面に築かれるために小さく,水温の影. 5km 大石長野水道受益地域. ⑳フミグルマ. 響を大きく受ける。したがって,流量を制限し,少し ずつ水田に供給することで,水田の水温を一定に保つ. 計石 大きな石が 3 つおか れている。堰板が取 り付けられ,流量を 調節できる。. 玉石が敷かれ ている。. ようにしている。また,図中の棚田では,タケドイが. 流域:下流域 動き:上げる 分ける 場所:水田とクリークの間. 全域に使用されている。そこでは,地形の起伏に対応. 線. してタケドイを連結させ,水路から離れている水田ま. 長野水道. 水門が取り 付けてある。. 南本. ②オトシ. 農家の足 羽根板を踏み込 むことで水を揚 げる。. 堰板で水量を 調節する。石 を置く場合も ある。. る。大石堰から取水した筑後川の水を,下流の各地域 に分配する機能を果たしている。分岐する各水路の始. 水田. 点には様々な仕掛けがなされ,分水する水量を決定し. クリーク. ④エンビドイ. ている。北本線の入口には,計石と呼ばれる大きな石. 流域:上流域 動き:分ける 場所:イデ. イデ. 下の水路に流れ ていき,水田に 供給される。. ⑭サンレンスイシャ 水が樋にこ ぼれ,水路 へ運ばれる。. 堰板を外し 取水する。. コンクリー トの水路が 通っている。. が 3 つ置かれ, その間に堰板を設置し流量を調節する。. 控石 水を刎ね流れ を左岸側に誘 導する。. 堰板が取り 付けてある。. 線. で水を引き,一枚ずつ分配していく景観も見られる。 カクマテンビンは,中流域に設けられた分水点であ. 1.5 2 2 1 1 1. 北本. 桜馬場線. 揚程差. ⑰カクマテンビン. 2. 柄杓が水 をすくう。. また,他の水路の入口にも水門や堰板が設置され流量 流域:上流域 動き:分ける 通す 場所:水路と水田の間. が調節され,残りの水が南本線へ流れて行く。これら は,江戸時代に中流域の灌漑と耕作地拡大を目指した. L 字型の塩ビパイプ. 取水口と の高低差 を利用し, 水量を調 節する。. ⑮ブンスイボックス. 長大な水路の建設に伴うもので,各集落に決められた た。 このように決められた水量を緩勾配の水路に流し, それをさらに分水していき,水路脇の開口から水田に 落とし灌漑している。. 流域:中流域 動き:分ける 場所:水路の分岐点. 羽根板が水を受け, 回転する。. 段差が付 けられ, 一定量を 越えると 流れる。. 水を落と すように 分配する。. 水が水路に より運ばれ てくる。. 用水を 運んで くる。. 流域:下流域 動き:溜める 分ける 通す 場所:農地や宅地の側. 図 5.「用水の分配」装置. 10-3. 用水路 の水を こちら に送る。. クリーク. 小さな水門. 水量を供給し,争いがおこらないよう慎重に計画され. 流域:中流域 動き:上げる 分ける 場所:水路の脇. 用水を広域 に行き渡ら せる。. 下流の地域 に水を運ぶ。.
(4) ⑳フミグルマ. ⑥カラウス. 一方下流域では,農地全域への水の分配はクリーク がその役割を担う。しかし,クリークの水面は農地よ り低いため,水を揚げる必要があった。そのため使用. 流域:上流域 動き:受ける 溜める 場所:川の側. されたのがフミグルマという人力の揚水用水車であ. 小鹿田焼 - 皿山地区 伝統的製陶技法でつくられる民陶。 周辺でとれる土を原料とし,唐臼で 粉砕して加工する。. る。これは,クリークと水田の畦にかけて設置される もので,農家の屋敷に保管され,分解して運び使用さ. 断面透視図. れる。鞘箱と呼ばれる円形の 4 分の 1 の形をした箱に, カラウス. 水がこぼれないように精密につくられた羽根車が取り 付けられ,その上に人が乗り,歩くように羽根車を踏 井堰により,川の水をカラ ウスまで水を導引する。. んでいくことで稼動する。羽根車の構造が単に軸を中 心に放射状に広がる形態なっておらず,角度がついて いるのは,人力で動かすため,なるべく一回転ごとの 揚程差をだし,負担を減らす工夫である。. 0. 25. 50. 100m 小鹿田地区におけるカラウス小屋の分布. 以上のように用水を分配する際,山間部では斜面地. ⑭サンレンスイシャ. を自然流下する水を,土地の傾斜を利用して分配して. サンレンスイシャ 堀川水道. ニレンスイシャ. いき,中流域では筑後川の豊富な水量を,藩の統治に. 山田堰. より巨大な労働力を投資して灌漑を可能にし,下流域. 0. 堀川水道受益地域. 2km. 川. では用水の分配はクリークが担い,それを各個人が揚. 筑後. 流域:中流域 動き:受ける 上げる 場所:水路の脇. 堀川用水受益地域とスイシャの位置. 水するという方法で行われた。. 堀川用水. 堰. 3-3. 水の動力化(図 6). 板羽根. 山田堰 水外し枠. ゴミカケ. 水切り. 水を動力に変換する装置は,上流域と中流域で 4 種. 柄杓. 類見ることができた。また,水の重さを利用するもの. 上車. 中車. 懸樋. 下車. 集水路. サイフ. と,水の流れを利用するものの 2 種類確認できた。そ. ォン. の中から,上流域のカラウスと,中流域のサンレンス. 水田. 堀川の水流. イシャを取り上げる。. 0. 1. 2. 3m. 水流の使い方と揚水のしくみ. ⑥カラウス. ①イモアライ. ⑤スイシャ 里芋を入れる。 互いにこすれ て皮がむける。. カラウスは山間部に見られる装置で,脱穀や製粉,. 歯車や チェーンで 隣の小屋の 脱穀器に動 力を伝え る。. 竹や鉄の棒 などの軸を 通す。. 陶土の粉砕などに使用される装置である。シーソーの ように支点を持った水平な杵の一方に,水を溜めてい. 流域:上流域 動き:受ける 場所:イデや川. き徐々に荷重をかけていく。次第に重さで傾き,水が. 川などの流れ があるところ に架ける。. 流域:上流域 動き:受ける 場所:水路. 水田の用水路 の上に架けら れる。. 図 6.「水の動力化」装置. こぼれたら元の水平の位置に戻るように杵が落ち,臼. 水が斜面上を流れたり,水路の幅が小さく流速がでや. を打ち付ける仕組みになっている。水が得やすい川岸. すい。また斜面の高低差を活かし水を上から下に落と. で, 水を落とすための高低差がある場所に設けられる。. すことによって, 動力化する工夫がされていた。また,. ⑭サンレンスイシャ. 中流域においては,筑後川の豊富な水量を利用した水. 中流域では,筑後川の水を灌漑用水とするために造. 路で,さらに水路幅を狭くし流速を上げ,巨大な水車. 築された流速を持つ用水路の上流側の脇に,サンレン. を 3 機も動かせるエネルギーを生んでいた。. スイシャが架けられている。用水路に簡易な堰が設置. 4. まとめ. され,水は水車が架けられている幅の小さい水路に通. 水の装置は,使用目的は同じものでも,場所ごとで. され,勢いを増し,水車の羽根板を押し上げる。そし. 様々な形態をとる。地形や水の状態,人々の社会的な. て水車は軸を中心として回転し,側方に取り付けてあ. 関係など,場所の特性に対応して工夫が施され,自然. る柄杓で水を汲み取る。汲みとった後は,横に取り付. の中でみられる水の理屈をうまく利用していた。それ. けられた樋に流され,用水路により運ばれる。. は,人々が日々の生活の中で生み出してきた,生きる. このように,水を動力化する装置は,水の高さや流. ための知恵の集積であり,水を通したその場所の表現. 速が得やすい上流域と中流域で見られた。上流域は,. である。. 10-4.
(5)
関連したドキュメント
Declaration concerning the Interim Committee for coordination of investigations of the lower Mekong basin, signed by the representatives of the goverments
国連海洋法条約に規定される排他的経済水域(以降、EEZ
一方、介護保険法においては、各市町村に設置される地域包括支援センターにおけ
・性能評価試験における生活排水の流入パターンでのピーク流入は 250L が 59L/min (お風呂の
第1条
脱脂工程 調合 塗布工程 セッティング..
低圧代替注水系(常設)による注水継続により炉心が冠水し,炉心の冷 却が維持される。その後は,約 17
循環注水冷却システムを構成するセシウ ム吸着装置/第二セシウム吸着装置でセ