• 検索結果がありません。

職業体験活動が子どもに与える教育効果に関する一考察~中学校におけるキャリア教育に視点をあてて~ [ PDF

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "職業体験活動が子どもに与える教育効果に関する一考察~中学校におけるキャリア教育に視点をあてて~ [ PDF"

Copied!
4
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

1.章構成 序章  研究の目的と方法 第1章 中学校におけるキャリア教育の意義や歴史, および 職業体験活動の位置づけ 第1節 キャリア教育におけるキャリアの捉え方 第2節 日本におけるキャリア教育の展開 第3節 中学校におけるキャリア教育および職業体験活動の 取り扱われ方の成果と課題 第2章 職業体験活動における「キャリア形成・自己実現」 の育成についての検討 第1節 中学校キャリア教育における「キャリア形成と自己 実現」の育成 第2節 職業体験活動における「キャリア形成と自己実現」 の育成についての検討 第3節 キャリア教育についての職業体験活動をめぐる課題 についての検討 第3章 生徒の職業体験活動前後の教育効果測定と検証につ いての検討 第1節 教育効果測定の対象と方法 第2節 教育効果測定の実際 第3節 教育効果測定の結果 第4節 教育効果測定の考察 第5節 今後に向けての課題 第4章 職業体験活動を経験した生徒が高校生となった4年 後の追跡調査における検討 第1節 4年後の追跡調査の目的,対象,方法 第2節 4年後の追跡調査の実際 第3節 4年後の追跡調査の考察 第4節 今後に向けての課題 第5章 管理職への半構造化インタビューにおける教育効果 についての検討 第1節 管理職への半構造化インタビューの目的,対象,方法 第2節 管理職への半構造化インタビューの実際 第3節 管理職への半構造化インタビューの考察 第4節 今後に向けての課題 終章  研究の総括と展望 2.概要 序章 研究の目的と方法 中学校におけるキャリア教育は,一人一人のキャリア 形成と自己実現の育成に向けて,教育活動全体を通じて 資質・能力を培うことが必要である。このような生徒を 育成するために,地域や産業界と連携し,生徒自らが将 来の生き方・働き方を深く考える教育の方法として,職 業体験活動の意義や役割は大きい。その反面,藤田(2014) によればキャリア教育が職場体験と同一視されていると いう指摘や,児美川(2007)における学校独自の実態に 応じた職業体験活動の必要性などの課題もあげられてい る。これらは,生徒一人一人のキャリア発達において, これまでの職業体験活動の教育効果を問うものであり, 「生徒にとっての職業体験活動の価値」について検討す る必要があると考え,研究課題として設定した。 児美川(2007)によれば,職業体験活動でのキャリア に関する資質・能力は,中学生の目線から見れば様々な 要素から成り立っており,長期的なスパンや追跡調査を 含めた総合的な効果測定における検討・検証が求められ る。そこで本研究では,短期的なスパンにおける実践報 告や先行研究はあるが,4年間という中等教育の長期的 スパンにおいて,職業体験活動が子どもに与える教育効 果の検証を通して,生徒一人一人のキャリア形成と自己 実現を育成する過程について検討を進めていく。 第1章 中学校におけるキャリア教育の意義や歴史, および職業体験活動の位置づけ 教育活動全体を通じて資質・能力を培う,現在のキャ リア教育は,スーパー(D.E.Super)の生涯発達理論を基 礎として,既に 1970-1980 年代にアメリカのキャリア・ エデュケーション教育として推進されている。その「生 き方」としてのライフ・キャリアの政策的な展開は,学 力や学習意識の低下による問題行動,産業構造の変化へ の職業教育の不適応,人生観や労働観・職業観の育成な どが背景となり,日本における教育と労働力の構造的な 課題の共通点からも,現在の日本のキャリア教育に多大 な影響を与えていることを,第1節では述べた。 第2節では日本におけるキャリア教育の展開を,第3 節ではキャリア教育における職業体験活動の取り扱われ 方の成果と課題を,政策的な展開から整理した(表1)。 結果から着目すべき点は,キャリア教育と労働力との親 和性である。終身雇用システムにおける高度成長期では, アメリカのキャリア・エデュケーション教育の影響は,

職業体験活動が子どもに与える教育効果に関する一考察

~中学校におけるキャリア教育に視点をあてて~

キーワード:キャリア教育,キャリア形成と自己実現,職業体験活動,4年後の教育効果検証 所 属 教育システム 氏 名 武田 祐子

(2)

(表1)日本におけるキャリア教育の展開 時期  政策的な展開 成果 課題 1950年代 職業指導から進路 指導への移行 進路指導においてすでに「教育 活動全体」という目標を想定 実践には結びつかなかった 1960年~ 1990年代 高度経済成長期 における進路指 導 日本の雇用システムと互恵的な 関係にある偏差値を指標とする 進路指導の撤廃 対抗軸としての「夢」と「自己実現」 を掲げる進路指導の手立てや改善策が 明確に示されていない 1991年~ 2010年 キャリア教育提 唱 教育活動全体に加えて、子ども の発達段階をふまえた組織的・ 系統的なキャリア教育の推進や 学習プログラムの提唱 雇用システムの変化によるニートなど の社会問題を反映し、キャリアの一部 である「職業人としての役割」を焦点 化する緊急対応にとどまった 2011年~ 現在のキャリア教 育 今までの職業や進路を選ぶ「適 応型」のキャリア教育実践か ら、生徒が自主性を発揮し、社 会的・職業的な立場を培う「育 成型」への移行 子どもたちにライフ・キャリアの問題 を考えさせるための基礎的な学習と教 材開発の不足が、さらなる教員の実践 の内容・水準のばらつきにつながる 時期尚早であったが,その後の雇用システムの変化にお ける危機意識から関係府省の連携政策として推進され, 勤労観,職業意識の醸成を目的とした全中学校での職場 体験実施に至っている。藤田(2014)は,職場体験は実 体験のみが中核となり,緊急対策の一側面,特定の方策 に偏った姿として誤解されたと指摘している。今後のキ ャリア教育においては,全教育活動でのカリキュラムと して「生き方」全体の中に,職業の3要素(経済性・社 会性・個人性)としての「働き方」を位置づけ,社会の 諸問題やリスク課題を通して生徒自らがライフ・キャリ アの資質・能力を培うことができるような,キャリア発 達に適合できる学習を推進すべきであることを述べた。 第2章 職業体験活動における「キャリア形成・自己実 現」の育成についての検討 第1節では「キャリア形成と自己実現」の育成は,既 に生涯発達論やアメリカのキャリア・エデュケーション 教育として日本進路指導学会(1987)から示されていた が,日本のキャリア教育展開の遅れから,その実現は特 別活動(2017)の内容として掲げられたことを述べた。 第2節ではキャリア教育では,個人のキャリア形成に 向けた発達を促す指導と,将来の自己実現に向けた職業 や進路選択の指導を,調和的かつ系統的に展開する必要 があること,将来において社会的・職業的自立に向けた 資質・能力「基礎的・汎用的能力」を育成するためには, 社会理解と自己理解の往還が必要であり,中学校におけ る多様な職業体験活動が,その往還を実現する役割を担 っていることを述べた。その検証は各職業体験活動の成 否ではなく,キャリア教育における一連の職業体験活動 の導入による生徒の意識や行動の変化,社会的・職業的 自立への将来の準備の過程で調査すべきと考える。 第3節では職業体験活動をめぐる藤田(2014)の「職 場体験を中核とした職業体験活動」の必要性と,児美川 (2007)の「学校の特色に応じた職業体験活動の必要性」 の2つの立場を通して,「キャリア形成と自己実現」へ向 かう職業体験活動の教育効果の必要性を検討した。 第3章 生徒の職業体験活動前後の教育効果測定と検 証についての検討 本章では,永柄(2014)を先行研究とし,事前・事後 アンケートに新たに体験後の自由記述を加えて,キャリ ア形成と自己実現の効果検証を量的・質的分析から調査 した。企業人材育成プログラムとは,学校教育(文部科 学省)と企業人材育成(経済産業省)の双方が奨励する 学校内職業体験システムである。「基礎的・汎用的能力」 と「日常生活での職業に関する会話や職業意識」につい て事前・事後調査した後,フリー統計ソフト R を使用し て,t 分布を用いて平均値の差について検定した(表2)。 「キャリアプランニング能力」では,生徒は講師が若手 社員でも職業体験活動で働くことを意識しており,将来 を設計する能力が向上する可能性が高いと判断できる。 (表2)職業体験活動結果(フリー統計ソフトRを用いたt検定) 「キャリアプランニング能力」 統計的に有意な差がある t (102)=-3.82, p< 0.01 「なりたい職業や興味を持っている仕事」 統計的に有意な差はみられない t(98)= -0.97595, p> 0.1 「職業を知ることは,職業につく前に必要」 統計的に有意な差はみられない t(109)= -0.75, p> 0.05 「職業体験をしてみたいと思う」 統計的に有意な差はみられない t(114)= -0.099, p> 0.05 男女の職業性差は,「人間関係形成・社会形成能力」は 男女とも比較的自覚があり,永柄・横田(2014)の先行 研究の結果と同様,女子がより顕著に自覚している。 自由記述の分析枠組みには,「一つだけのケースのデー タやアンケートの自由記述など比較的小さな質的データ 分析にも有効である」とされる,大谷(2007)の SCAT (Steps for Coding and Theorization)を用い,言語デ ータをセグメント化し,4つのステップコーディングで データ分析した。112 のテキストデータの収集分析から, 職業体験活動は一定の教育効果があることが分かった。 一方,効果の影響は生徒が「特別な学びの機会」か「連 続した学びの機会」かの捉え方で,キャリア発達への情 報が体験時の限定か,将来への活用に繋がるかが異なる ことが分かった。先行研究と異なり有意ではない「職業 体験をしてみたいか」を,量的分析と質的分析から検証 すると,体験後にマイナスに変化した生徒が7%を占め, その自由記述から「特別な学びの機会」と限定している ことが分かった。また生徒たちは4学級中の2学級に集 中し,全体の自由記述でも文字数の少なさや未回答の割 合が多いことが明らかになった。以上のことから職業体 験活動の教育効果は,担任が生徒のキャリア発達を促す 事前・事後指導や学級での関わり,教科等を含めた指導 過程に課題があり,菊池(2008)における教員が体験活 動を生徒のキャリア発達に結び付けていく指導・支援の 不足,キャリア・カウンセリングの育成が求められる。

(3)

第4章 職業体験活動を経験した生徒が高校生となっ た4年後の追跡調査における検討 本章では高校生となった4年後の生徒に,中学校の職 業体験活動での教育効果を検証した。高校でのキャリア 教育の効果測定は,先行研究では吉本(2012)や立石 (2014)により検証されている。本研究では,職業体験 活動で習得した資質・能力が,高校ではどのように促進 されるのか,中学校から高校を貫く中等教育のスパンで, 検証する。調査方法は高校生4名を半構造化インタビュ ーし,分析枠組みには第3章と同様に SCAT を分析手法と した。まず,4ステップのコーディングから生徒4人の ストーリー・ラインを記述し,それを基に理論を記述し た。理論は「職業体験活動は教育効果としてどのように 引き継がれ,生かされているか」であり,「行為者である 生徒がどのように,職業体験活動の価値を引き継ぎ生か しているか」に着目し分類した。最後に4人の理論をテ ーマや構成概念の関連性に着目し総合分析した。 職業体験活動の教育効果は,高校生活では教育的環 境・生育的環境・文化的環境と多様な空間的要素に繋が っている。教育的環境では,実体験した「特別な学びの 機会」は「思い出」として捉えている。「連続した学びの 機会」における半構造化インタビューでの R 女の発言お よび理論は以下の通りである。 1 年の時,人のためになる仕事がしたいと思って。小学校から憧れ ていたので,母校の小学校で職場体験ができるんだっていうことが, 胸に残っています。今でも美術の授業に役に立っているなって思いま す。デザインの参考資料とか調べ方は,職場体験で養護の先生にこう やってみてって教わったので,それをまねしながら,資料やイラスト をある程度抜き出して。過去のものを見ながら参考にして。 (表3)R女理論 どのような環境 どのような仕組み 何に関する効果か       教育効果(●マイナスとしての効果) 教育的環境・教育課程 学校(中学校) ・特別な機会としての学習 ・職場体験での実際の体験や経験が生徒に与えるインパクトは大きい 教育的環境・教育課程 学校(中学校)・企業人材プログラムによる  若手社員 ・経験が浅い若手社員が講師であっても,生徒に働くことの視点転  換,勤労観・ 職業的の芽生えを意識させるキャリア教育は可能 教育的環境・教育課程 学校(中・高校) ・ロールモデル・キャリアモ  デルの継承 ・学び方(情報収集)の獲得 ・汎用性・有効をもたらす学習  方略の獲得 ・中学校の教科や学びで習ったことは,関わったロールモデル・キャリ  アモデルを継承する形で,学び方(情報収集)の獲得や汎用性  ・有効性をもたらす学習方略の獲得につながる 教育的環境・学校生活 学校(中・高校) ・中高の接続によるギャップ ●生徒のキャリア発達は,中学校から高校の接続などターニングポイン   トとなる地点で,ギャップによる行動様式や価値観の反転や戸惑い   を生み出す可能性がある 1年の職業体験活動が2年の職場体験から高校の美術学 習へとつながり,中学校の教科や学びの中で影響を受け たロールモデル・キャリアモデルの行動様式を継承する 形で,学び方(情報収集)の獲得や汎用性・有効性をもた らす学習方略として引き継がれることが明らかになった。 続いては K 男の半構造化インタビューである。 父が銀行員でどんな仕事してるのかなって。中学校での体験から, やっぱり銀行に興味があるので,経済学部に行こうかなって考えてい ます。経済の中心の東京に行って,ほかの先輩がどのように働いてい るのかを見たり聞いたりしたい。 ロールモデル・キャリアモデルの継承として,職業の親 和性の背景となる銀行員の父親の存在が,要因として大 きく影響していることが明らかになった。さらに K 男は 文化的環境である部活動も影響している。 小学校からのラグビーはいろんな形でやっていきたいとは思ってい ます。体をぶつけたりすることが好きで,そのなかでチームメイトと 他のスポーツにはない関わり方みたいな。だから続けてこられました。 ラグビーは体をぶつけて痛い行為なんで,大変な人の気持ちがわかる。 例えば重い荷物とか持っている人がいたら,荷物とか持ってあげるよ うになりました。 (表4)K男理論 どのような環境 どのような仕組み 何に関する効果か       教育効果(●マイナスとしての効果) 教育的環境・教育課程 学校(中学校)・特別な機会としての学習・良さの実感 ・通常では学べない仕事について実感できる職業体験活動(プレ職場体験)の良さを実感 教育的環境・教育課程 学校(中学校) ・キャリアについての情報の継承 ・中学校の職業体験活動や職場体験を契機に,高校では将来の仕  事に関連した大学の学部を選択・職業へのキャリアの情報は中・高と  つながっている 教育的環境・教育課程 学校(高校) ・学びの汎用性 ・学習内容と意欲の関係性 ・高校生となって教科の学びは学校だけでなく,社会生活に役立つ汎  用的な能力として活用できると意識している ・学習内容と学習者の意欲の一致 生育的環境・学校外 学校(中・高校) ・ロールモデル・キャリアモデルの  継承 ・ロールモデル・キャリアモデルは,教育的環境く家庭環境など生育的  環境や文化的環境も要因として影響する 文化的環境・学校外 学校(中・高校)・ライフ・キャリア(社会的役 割) ・部活動での体験やチームメイトとの関わりは,ものの見方や考え方を  価値づける文化的環境であり、社会的な役割の自覚を培うライフ・  キャリアの一部 1年の職業体験活動での職業観は「自分の好きなこと(ラ グビー)を仕事にしたい」であったが,人との関わり方か ら社会的な役割を意識し,ものの見方や考え方が文化的 環境によって価値づけることが明らかになった。このよ うに,長期的なスパンの追跡調査を含めた総合的な効果 測定により,行為者である生徒の目線から,職業体験活 動の価値に着目し分類したことは有効であったと考える。 第5章 管理職への半構造化インタビューにおける教 育効果についての検討 本章ではキャリア形成と自己実現の育成に向けて,教 員は職業体験活動やキャリア教育を,生徒のキャリア発 達にどのように結び付け,指導・支援に関わっていたか, 校長・教頭からの半構造化インタビューを通して,その 教育効果を検証した。分析枠組みには第3・4章と同様 に SCAT を分析手法とした。理論は「職業体験活動の効果 をどのように捉え,指導していたか」に着目し分類した 上,2つの理論を総合分析した(表4)。その結果,教員 は教育効果を,生徒・教員・学校・企業の対象から捉え ており,第4章の行為者である生徒の目線との違いが明 らかとなった。教員は学校を取り巻く家庭や社会の変化, 生徒指導の困難さから,教員自身の実感として今までの 進路指導では対応できず,「生き方指導」としてのキャリ ア教育や職業体験活動の必要性を強く感じている。着目 すべきは生徒に対して,人材育成プログラムで年齢差の

(4)

近い若年社員との関わりで実演・実体験ができた効果を 感じているが,半構造化インタビューの発言では, 1 年の職業体験活動は,振り返りのシートしか作っていない。それ もリフレクションを明確にしていない。感想だけだった。教員がキャ リア教育後,何を関連させるかで大きく変わる。 と,⑥特別な学びの機会に終わらせないための職業体験 活動での振り返り(リフレクション)と,教育活動全体 へ波及することの大切さが検証できた。さらに教員の効 果は,⑨外部との打ち合わせの効率化は実現できたが, 日頃の学習に対する職員の姿勢づくりもある,学級担任の経験値, 何回も卒業生を出した経験がある,あるいはいろんな子どもの 10 年 後・20 年先を見据えてきた担任の先生と,初めて卒業生を出すあるい は担任をもつ先生の違い。こんな子がいて,こんな夢を見て,こうい う努力をして変わったとか,失敗した経験も語れるかもしれないしね。 と,⑩教員の力量形成や経験差を解消できる反面,⑪指 導と評価が一本化されパターン化し,形骸化する可能性 を指摘している。 終章 研究の総括と展望 本研究は生徒における職業体験活動の価値の検討,お よび長期的なスパンにおける教育効果の検証の課題にこ たえるものであった。「職業体験活動」の価値については, 職業や進路を選ぶ「適応型」がキャリア発達理論の枠組 みをもとに職業やキャリアを育て作り上げる生き方とし ての「育成型」へと移行する必要性を論じ,キャリア教 育における職業体験活動の位置づけを,キャリア教育の 理念や本質,推進施策,実践の在り方から明らかにした。 長期的なスパンにおける教育効果の検証は,職業体験 活動が高校2年となった生徒のキャリア形成と自己実現 の育成に与える影響を,t 検定による量的研究法,SCAT による質的研究法,半構造化インタビューから検証した。 そして4年間の教育効果検証を「関係性とつながり」か ら総括した。 (図 1)は職業体験活 動を生徒・教員・ 講師である若年社 員の3者を中心に 図式化したもので ある。藤田(2014) の事前・事後指導 の改善,菊池(2008)のキャリア発達に結び付ける指導・ 支援の必要性を裏付けるものとなった。4年後の教育効 果は(図2),時間的な系列(過去・現在・未来)と空間 的な系列(教育的・生育的・文化的)環境で構成され, 高校生は半構造化インタビューにおいて,職業体験活動 で習得した基礎的・汎用的能力は,現在や未来にも活用 できると自ら語り意味づけている。 今後は,中等教育における生徒のキャリア発達段階を 踏まえた職業体験活動の検討,「教員と生徒が伝え合う関 係を構築する」ためのキャリア指導・支援の手立ての構 想をより精緻な論として展望をもち研究していきたい。 3.主要参考文献 大谷尚(2007)「4 ステップコーディングによる質的デー タ分析 SCAT の提案」『名古屋大学大学院教育発達科 学研究科紀要(教育科学) 』第 54 巻第 2 号,pp. 27-44. 児美川孝一郎(2007)「日本における「キャリア教育」実 践の展開(2)文部科学省『中学校職場体験ガイド』の検 討」『法政大学紀要生涯学習とキャリアデザイン』 pp.3-18. 永柄真澄(2014)「企業人材育成プログラムを活かした中 学校キャリア教育の試みとその効果」『佐賀女子短期 大学研究紀要』第 49 集,pp.11-16. 藤田晃之(2014)『キャリア教育基礎論―正しい理論と実 践のために―』実業之日本社 (表5)Y中学校教員(管理職)の職業体験活動における教育効果(●マイナス効果) どのような対象 どのような教育効果 教育効果が与える影響 具体的な教育効果 情動の育成 ①自尊感情の低下を回復することが期待  できる 系統的な教育 ②学校と社会(企業)でつくる生徒の発 達に合わせたキャリア教育の育成 生き方指導 ③生徒指導の改善、進路指導からキャリア  教育へのシフト 親和性のある学習 ④年齢差の近い若年社員との関わりの中  で、実演・実体験できる人材育成プロ  グラム 生徒主体 ⑤教育活動全体でのキャリア教育の継続 振り返り (リフレクション) ⑥キャリア形成へのつながりと教育活動 全体への波及 担任の働きかけ方の違い ⑦●特別な学びの機会として断片的・期   間限定的な指導として捉える キャリア教育 意識改革 ⑧変化する社会や親に合わせた、今日的 なキャリア教育の必要性 負担軽減 ⑨外部との取り組みの打ち合わせが効率  的にできる リーダーシップを生かした 共同体制 ⑩教員の力量形成や経験差を解消できる 連携・共同による支援 ⑪●指導と評価が一本化され、パターン  化してしまう 働きかけ方の違い ⑫●職業体験活動の効果が日々の授業に   つながらない 生徒のキャリア形成と自己 実現の理解 ⑬形骸化しないための教育活動全体での  継続 学校・企業 若年社員による企業人材育成プログラム 連携・共同による価値の共有 ⑭学校と企業がキャリア教育の目指すべ きベクトルを合わせることができる 独自性・オリジナル ⑮学校の目的と課題に応じたプログラム  の設定 前期中等教育の充実 ⑯学年で段階的に身に着けるべき資質・  能力の育成 キャリア教育 学校 生徒 キャリア教育 若年社員による企業 人材育成プログラム 教員 若年社員による企業 人材育成プログラム

参照

関連したドキュメント

オーディエンスの生徒も勝敗を考えながらディベートを観戦し、ディベートが終わると 挙手で Government が勝ったか

「職業指導(キャリアガイダンス)」を適切に大学の教育活動に位置づける

ら。 自信がついたのと、新しい発見があった 空欄 あんまり… 近いから。

 英語の関学の伝統を継承するのが「子どもと英 語」です。初等教育における英語教育に対応でき

小学校学習指導要領総則第1の3において、「学校における体育・健康に関する指導は、児

小・中学校における環境教育を通して、子供 たちに省エネなど環境に配慮した行動の実践 をさせることにより、CO 2

小学校における環境教育の中で、子供たちに家庭 における省エネなど環境に配慮した行動の実践を させることにより、CO 2

● 生徒のキリスト教に関する理解の向上を目的とした活動を今年度も引き続き