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「南九州から南西諸島における総合的防災研究の推進と地域防災体制の構築」報告書

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志布志湾及び鹿児島湾における津波の数値シミュレーション

理工学研究科 柿沼 太郎 1.研究の背景及び目的 日本は,地震多発地帯であり,プレート間地震は,津波を生成することが多い.九州地方沖も この例外でなく,宮崎県沖では,マグニチュード7~7.6 程度の日向灘地震が,十数年から数十年 に一度といった比較的短い周期で発生している.そこで,1968 年及び 1970 年日向灘地震,また, これらを参考にしたモデル地震を対象とし,生成される津波の数値解析を行ない,津波の伝播特 性を把握する.そして,1968 年日向灘地震津波に対する志布志湾の水位応答に関して調べる. 一方,海底火山の噴火に伴う津波に関しては,その発生頻度が比較的低いこともあり,研究が あまり進んでいない.例えば,鹿児島湾内で,1780 年 9 月 9 日に海底噴火が生じ,噴火地点付近 で 9 m 程度の高さの水柱が現れた後,ある浜辺に約 6 m の津波が押し寄せたという記録が見ら れる(都司,1997).海底噴火においても,地上における火山噴火と同様に噴出物が放出され, これによって海水の運動が発生し,津波が引き起こされることが予想される.しかしながら,海 底噴火では,こうした噴出物の放出のみならず,水中における噴火に特有な現象として,マグマ 水蒸気爆発の発生が考えられる(谷口,1996).すなわち,海水が,高温のマグマに接触し,瞬 時に気化して体積が爆発的に増大するマグマ水蒸気爆発により,津波が発生する可能性がある. そこで,マグマ水蒸気爆発を考慮した海底噴火の規模の指標の値を設定し,鹿児島湾内を対象と して,海底噴火に伴うマグマ水蒸気爆発により生成される津波の伝播解析を行なう. 2.志布志湾における日向灘地震津波の数値シミュレーション (1) 基礎方程式系及び数値解析法 非粘性かつ非圧縮性である流体の非回転運動を対象とする.流体の密度 ρ は,流体内で一様, かつ,時間的に一定であるとする.速度ポテンシャルを

(

)

{

( )

}

α α α α α φ x,z,t =

m=10 φ x,tzφ z のよう にm 個のべき関数の重み付き級数に展開する.変分法を適用すると,非線形波動方程式系(柿沼 ら,2011)が得られる.本研究では,速度ポテンシャルの展開項数を m = 1 とし,山下ら(2012) で浅水条件を仮定した場合の数値モデルを適用して,基礎方程式系を陰的な差分法を用いて解く. (2) 日向灘地震津波の数値解析条件 1968 年 4 月 1 日に発生した日向灘地震は,宮崎県沖の日向灘で発生したプレート間地震である. 震源位置は,北緯32.28°,東経 132.53° であり,モーメントマグニチュードは,7.5 であった. また,1970 年 7 月 26 日の日向灘地震は,震 源位置が北緯 32.07°,東経 132.03°であり, モーメントマグニチュードは,6.7 であった. ここでは,これら両者の日向灘地震,そして, 1970 年日向灘地震の断層の食い違い量のみ が,より大きな1968 年日向灘地震と等しい モデル地震の,計3 種類の地震に伴う津波の 伝播解析を行なう. 図-1 に,計算対象領域の水深分布を示す. 対象範囲は,北緯30.0°~33.0°,東経 130.5° ~134.0°の領域であり,直交座標系を適用す る.計算格子間隔は,緯度方向を0.79 km, 経度方向を0.92 km とする. 表-1 及び表-2 に,それぞれ,1968 年及び 1970 年日向灘地震の静的断層パラメタを示 す(佐藤ら,1989).また,表-3 に,モデル 図-1 計算対象領域の水深分布

(2)

表-1 1968 年 4 月 1 日に発生した日向灘地震の静的断層パラメタ(佐藤ら,1989) N (°) E (°) d (km) θ (°) δ (°) λ (°) L (km) W (km) U (km) 32.45 132.82 27 207 17 90 56 32 160 表-2 1970 年 7 月 26 日に発生した日向灘地震の静的断層パラメタ(佐藤ら,1989) N (°) E (°) d (km) θ (°) δ (°) λ (°) L (km) W (km) U (km) 32.29 131.98 44 215 10 90 31 24 100 表-3 モデル地震の静的断層パラメタ N (°) E (°) d (km) θ (°) δ (°) λ (°) L (km) W (km) U (km) 32.29 131.98 44 215 10 90 31 24 160 地震の静的断層パラメタを示す.ここで,断層の西端点を断層基準点とし,N は,その緯度,E は,経度,d は,深さを示す.また,θ は,北から東回わりに断層の走行方向を測った角度,δ は,断層面の傾き角,λ は,走行方向から反時計回わりに断層の食い違い方向を測った角度,L は,走行方向の長さ,W は,傾斜方向の幅,そして,U は,食い違い量である. 海 底 面 の 変 動 量 は ,Mansinha ・ Smylie(1971)の理論により算定し, 津波初期波形が海底面の永久変位に等 しいと仮定して,初期水面形を時刻 t = 0 s において与える.図-2 に,こうして 求めた,1968 年日向灘地震による津波 初期波形の水位分布を示す. 簡単のために,陸地と海域の境界を完 全反射の鉛直壁とし,10 m 以浅の水域 の水深を10 m として,津波の砕波減衰 及び陸上遡上を考慮しない.他方,海域 の開境界には,Sommerfeld の放射条件 を適用する. 図-2 1968 年日向灘地震津波の津波初期波形の水位分布 (3) 九州東岸における日向灘地震津波の数値シミュレーション 図-3 (a) に,1968 年日向灘地震津波の場合の,図-1 に示す①~⑫の各地点における水面変動 ζ の数値解析結果を示す.これらの地点の静水深は,30 m~70 m である.地震発生後,10,000 s 経過しても,第1 波の津波高さと同程度の水面変動が継続していることに注意する必要がある. 九州北部~中部の東岸では,引き波が先行しており,津波高さは,0.1 m~0.2 m である.地点 ④では,第2 波が最大水位を示している. 一方,九州南部東岸では,押し波が先行しており,津波高さは,0.1 m 未満であるが,第 1 波 の波高と同程度,もしくは,それ以上の水面変動が長時間にわたって継続している.これは,異 なる 2 種類の経路を経て,九州南部に到達する津波が存在するためである.すなわち,波源から 九州南部に直線的に到達する津波と,北部~中部の広範囲に到達した津波の反射波が,陸棚上に トラップされながら南下して,九州南部に到達する津波である.このように,九州東岸の広範囲 に到達した津波は,最終的に九州南部に到達する傾向があるため,九州南部で周期性のある水面 変動が継続し,また,津波の重合が生じて,局所的に大きな津波高さを示す可能性がある. 図-3 (b) に,1970 年日向灘地震津波の数値解析結果を示す.1968 年日向灘地震津波と比較し て,各地点の最大水位が著しく低いが,上述した特性は,ほぼ一致している. また,図-3 (c) に,モデル地震に伴う津波の数値解析結果を示す.1970 年日向灘地震津波と 比較して津波高さが大きいが,位相は,ほぼ一致している.ただし,断層の深さ d が浅い 1968 年日向灘地震の方が,海底面の変動量が大きく,津波高さが総じて大きい. 図-4 に,1968 年日向灘地震津波による,志布志湾近傍における最大水位の分布を示す.また, 図-4 の①~⑦の各地点における水面変動を図-5 に示す.特に,内之浦漁港のある地点②を含む内 之浦湾で最大水位が高い.また,石油備蓄基地のある地点④及び志布志漁港のある地点⑥といっ

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表-1 1968 年 4 月 1 日に発生した日向灘地震の静的断層パラメタ(佐藤ら,1989) N (°) E (°) d (km) θ (°) δ (°) λ (°) L (km) W (km) U (km) 32.45 132.82 27 207 17 90 56 32 160 表-2 1970 年 7 月 26 日に発生した日向灘地震の静的断層パラメタ(佐藤ら,1989) N (°) E (°) d (km) θ (°) δ (°) λ (°) L (km) W (km) U (km) 32.29 131.98 44 215 10 90 31 24 100 表-3 モデル地震の静的断層パラメタ N (°) E (°) d (km) θ (°) δ (°) λ (°) L (km) W (km) U (km) 32.29 131.98 44 215 10 90 31 24 160 地震の静的断層パラメタを示す.ここで,断層の西端点を断層基準点とし,N は,その緯度,E は,経度,d は,深さを示す.また,θ は,北から東回わりに断層の走行方向を測った角度,δ は,断層面の傾き角,λ は,走行方向から反時計回わりに断層の食い違い方向を測った角度,L は,走行方向の長さ,W は,傾斜方向の幅,そして,U は,食い違い量である. 海 底 面 の 変 動 量 は ,Mansinha ・ Smylie(1971)の理論により算定し, 津波初期波形が海底面の永久変位に等 しいと仮定して,初期水面形を時刻 t = 0 s において与える.図-2 に,こうして 求めた,1968 年日向灘地震による津波 初期波形の水位分布を示す. 簡単のために,陸地と海域の境界を完 全反射の鉛直壁とし,10 m 以浅の水域 の水深を10 m として,津波の砕波減衰 及び陸上遡上を考慮しない.他方,海域 の開境界には,Sommerfeld の放射条件 を適用する. 図-2 1968 年日向灘地震津波の津波初期波形の水位分布 (3) 九州東岸における日向灘地震津波の数値シミュレーション 図-3 (a) に,1968 年日向灘地震津波の場合の,図-1 に示す①~⑫の各地点における水面変動 ζ の数値解析結果を示す.これらの地点の静水深は,30 m~70 m である.地震発生後,10,000 s 経過しても,第1 波の津波高さと同程度の水面変動が継続していることに注意する必要がある. 九州北部~中部の東岸では,引き波が先行しており,津波高さは,0.1 m~0.2 m である.地点 ④では,第2 波が最大水位を示している. 一方,九州南部東岸では,押し波が先行しており,津波高さは,0.1 m 未満であるが,第 1 波 の波高と同程度,もしくは,それ以上の水面変動が長時間にわたって継続している.これは,異 なる2 種類の経路を経て,九州南部に到達する津波が存在するためである.すなわち,波源から 九州南部に直線的に到達する津波と,北部~中部の広範囲に到達した津波の反射波が,陸棚上に トラップされながら南下して,九州南部に到達する津波である.このように,九州東岸の広範囲 に到達した津波は,最終的に九州南部に到達する傾向があるため,九州南部で周期性のある水面 変動が継続し,また,津波の重合が生じて,局所的に大きな津波高さを示す可能性がある. 図-3 (b) に,1970 年日向灘地震津波の数値解析結果を示す.1968 年日向灘地震津波と比較し て,各地点の最大水位が著しく低いが,上述した特性は,ほぼ一致している. また,図-3 (c) に,モデル地震に伴う津波の数値解析結果を示す.1970 年日向灘地震津波と 比較して津波高さが大きいが,位相は,ほぼ一致している.ただし,断層の深さ d が浅い 1968 年日向灘地震の方が,海底面の変動量が大きく,津波高さが総じて大きい. 図-4 に,1968 年日向灘地震津波による,志布志湾近傍における最大水位の分布を示す.また, 図-4 の①~⑦の各地点における水面変動を図-5 に示す.特に,内之浦漁港のある地点②を含む内 之浦湾で最大水位が高い.また,石油備蓄基地のある地点④及び志布志漁港のある地点⑥といっ (a) 1968 年日向灘地震津波 (b) 1970 年日向灘地震津波 (c) モデル地震による津波 図-3 図-1 に示す①~⑫の各地点における水面変動の数値解析結果(対象地点の水深は,30 m~70 m である.) 図-4 志布志湾近傍における最大水位の分布 図-5 図-4 に示す各地点における水面変動 (1968 年日向灘地震津波の数値解析結果) (1968 年日向灘地震津波の数値解析結果) た志布志湾湾奥でも,最大水位が高い.両者の湾内とも,水面変動が長時間継続する. 3.鹿児島湾の海底噴火に伴うマグマ水蒸気爆発により生成される津波の数値シミュレーション (1) 気化する水の体積膨張率 液体の水1 mol の質量及び密度は,それぞれ,18 g 及び 1 g/cm3であるから,水1 mol の体積 は,18 ml である.他方,気体の標準状態を STP,すなわち,温度 0℃及び気圧 105 Pa(1 bar) とすると,水蒸気の場合,理想気体1 mol は,22,700 ml であるから,標準状態において水が水 蒸気に変化すると,体積は,22,700 / 18 ≒ 1,261 倍となる. また,圧力がp (Pa) であるとき,温度がτ (℃) の気体の体積 V は,0℃の気体の体積を V0とし て,Boyle・Charles の法則より,V = V0 (105 / p) (1 + τ / 273) となる.従って,体積 Vwの水が,体 積がV である,温度τ (℃) 及び圧力 p (Pa) の水蒸気に変化するときの体積膨張率 α は,次式で 表わされる. α = V / Vw = 1,261×105 (1 + τ / 273) / p (1) (2) マグマ水蒸気爆発における水の体積膨張率 マグマが水に接触した直後,マグマと水の各パラメタの間で,次式が成立する(Fauske,1973). (τm − τi) / (τi − τw) = (ρw cpw kw / ρm cpm km)1/2 (2)

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ここで,τiは,マグマと水の界面温度である.また,他のパラメタは,一般に,次のような値を とる(谷口,1996). [マグマの諸量]: 密度 ρm = 2,400 kg/m3,温度τ m = 973 K, 定圧比熱 cpm = 1.2×103 J/kgK,熱伝達率 km = 1.2 W/mK [ 水 の 諸 量 ]: 密度 ρω = 1,000 κγ/µ3,温度τw = 273 K, 定圧比熱 cpw = 4.2×103 J/kgK,熱伝達率 kw = 0.61 W/mK 式(2) にこれらの値を代入して,界面温度 τi が次式のように得られる. τi = 649 K = 376℃ (3) ところで,水は,温度が上昇すると,液体の状態を保てなくなり,突然,沸騰を起こす.この 現象は,水があたかも自ら核を形成したかのような振る舞いをするため,自発核生成と呼ばれて いる(谷口,1996).このときの温度を自発核生成温度と言い,水の場合,大気圧下において, 約583 K である.また,水の自発核生成温度に対する圧力の影響は,僅かであることがわかって いる.例えば,圧力が2 MPa の場合,水の自発核生成温度は,大気圧下と比較して 10 K 程度し か上昇しない.従って,算出された式(3) の界面温度は,自発核生成温度を超えており,水蒸気 爆発を発生させるための条件を満たしている. (3) 水の体積膨張率と水深の関係 海底火山の噴火口が,水面下h (m) の場所にあるとする.すると,この噴火口における水圧 p は,重力加速度をg = 9.8 m/s2として,次式で表わされる.

p = ρw g h = 9,800 h (Pa) (unit of length: m) (4)

式(1) の τ に,式(3) の τi の値を代入し,また,式(1) の p に,式(4) の p を代入することに より,次式を得る. α = V / Vw = 30,600 / h (unit of length: m) (5) 式(5) は,水の体積膨張率と,噴火口位置の静水深の関係を表わしている.例えば,噴火口位 置の静水深がh = 3,000 m であれば,水の体積膨張率は,α = 10.2 に,また,h = 50 m であれば, α ≒ 6.1×102 になる. (4) 津波初期波形に対する海底噴火の規模の指標 海底噴火によってマグマ水蒸気爆発が生じ,体積Vwの海水が鉛直上向きに瞬時に膨張すると仮 定する.海底(海底面)においてマグマが海水に接する部分が,半径 r の円形の水平面であると すると,水蒸気の全体の形状は,底面の半径 r の円柱形となる.そして,この水蒸気が海水を鉛 直上向きに上昇させ,形状及び大きさがこの水蒸気と同一である津波初期波形が形成されるとす る.この円柱の高さがη0 であるとき,水蒸気の体積は,V = πr0であるから,式(5) より,水蒸 気に変化した海水の体積は,次式となる. Vw =1.0×10 −4r 2η0 h (unit of length: m) (6) (6) は,静水深 h の水域の海底において,体積 Vwの海水を水蒸気に変える海底噴火により, 底面の半径 r,高さη0の円柱形の津波初期波形が形成されることを示している.すなわち,マグ マ水蒸気爆発により生成される津波に対しては,水蒸気に変化する海水の体積 Vwが,「海底噴火 の規模を表わす指標」となる.

(5)

ここで,τiは,マグマと水の界面温度である.また,他のパラメタは,一般に,次のような値を とる(谷口,1996). [マグマの諸量]: 密度 ρm = 2,400 kg/m3,温度τ m = 973 K, 定圧比熱 cpm = 1.2×103 J/kgK,熱伝達率 km = 1.2 W/mK [ 水 の 諸 量 ]: 密度 ρω = 1,000 κγ/µ3,温度τw = 273 K, 定圧比熱 cpw = 4.2×103 J/kgK,熱伝達率 kw = 0.61 W/mK 式(2) にこれらの値を代入して,界面温度 τi が次式のように得られる. τi = 649 K = 376℃ (3) ところで,水は,温度が上昇すると,液体の状態を保てなくなり,突然,沸騰を起こす.この 現象は,水があたかも自ら核を形成したかのような振る舞いをするため,自発核生成と呼ばれて いる(谷口,1996).このときの温度を自発核生成温度と言い,水の場合,大気圧下において, 約583 K である.また,水の自発核生成温度に対する圧力の影響は,僅かであることがわかって いる.例えば,圧力が2 MPa の場合,水の自発核生成温度は,大気圧下と比較して 10 K 程度し か上昇しない.従って,算出された式(3) の界面温度は,自発核生成温度を超えており,水蒸気 爆発を発生させるための条件を満たしている. (3) 水の体積膨張率と水深の関係 海底火山の噴火口が,水面下h (m) の場所にあるとする.すると,この噴火口における水圧 p は,重力加速度をg = 9.8 m/s2として,次式で表わされる.

p = ρw g h = 9,800 h (Pa) (unit of length: m) (4)

式(1) の τ に,式(3) の τi の値を代入し,また,式(1) の p に,式(4) の p を代入することに より,次式を得る. α = V / Vw = 30,600 / h (unit of length: m) (5) 式(5) は,水の体積膨張率と,噴火口位置の静水深の関係を表わしている.例えば,噴火口位 置の静水深がh = 3,000 m であれば,水の体積膨張率は,α = 10.2 に,また,h = 50 m であれば, α ≒ 6.1×102 になる. (4) 津波初期波形に対する海底噴火の規模の指標 海底噴火によってマグマ水蒸気爆発が生じ,体積Vwの海水が鉛直上向きに瞬時に膨張すると仮 定する.海底(海底面)においてマグマが海水に接する部分が,半径 r の円形の水平面であると すると,水蒸気の全体の形状は,底面の半径 r の円柱形となる.そして,この水蒸気が海水を鉛 直上向きに上昇させ,形状及び大きさがこの水蒸気と同一である津波初期波形が形成されるとす る.この円柱の高さがη0 であるとき,水蒸気の体積は,V = πr0 であるから,式(5) より,水蒸 気に変化した海水の体積は,次式となる. Vw =1.0×10 −4r 2η0 h (unit of length: m) (6) (6) は,静水深 h の水域の海底において,体積 Vwの海水を水蒸気に変える海底噴火により, 底面の半径 r,高さη0 の円柱形の津波初期波形が形成されることを示している.すなわち,マグ マ水蒸気爆発により生成される津波に対しては,水蒸気に変化する海水の体積 Vwが,「海底噴火 の規模を表わす指標」となる. 図-6 噴火口位置が桜島北方沖の場合の最大水位分布 図-7 噴火口位置が隼人沖の場合の最大水位分布 図-8 噴火口位置が竜ヶ水沖の場合の最大水位分布 図-9 噴火口位置が黒神町沖の場合の最大水位分布 (5) 海底噴火に伴うマグマ水蒸気爆発により生成される津波の伝播解析

火口半径 r (m) は,噴出量を Ve(m3) として,次式により推定できる(Sato and Taniguchi,

1997).

r = 0.97 Ve0.36 (unit of length: m) (7)

ここで,火山爆発指数VEI が,平均規模 VEI = 2 より大きな VEI = 3 の場合を想定すると,Ve の 範囲は,107 m3 < Ve< 108 m3 となる(Newhall and Self,1982).従って,321 m < r< 736 m と

推定されるから,ここでは,火口半径 r を 700 m に設定する.そして,津波に対する海底噴火 の規模を表わす指標の値が Vw = 4.5×104unit of length: m)である海底噴火が,桜島北方沖, 霧島市隼人沖,鹿児島市吉野町竜ヶ水沖及び鹿児島市黒神町沖の4 地点(図-6~図-9 の白色の円 の地点)で発生する場合を対象とする. これらの地点の静水深h は,約100 m であり,生成される半径 700 m の円柱状の津波初期波 形の最大水位 η0 は,式(6) より,約 9.0 m となる.この津波初期波形を仮定し,2.と同様に, 山下ら(2012)で浅水条件を仮定した場合の数値モデルを適用して,鹿児島湾内における津波の 伝播解析を行なう. 図-6~図-9 は,最大水位η の分布の数値解析結果である.(x, y) = (20 km, 14 km) の地点周辺 では,静水深が約200 m と周囲より深いため,最大水位 η が低減する.他方,湾奥に位置する隼 人沖の (x, y) = (16 km, 16 km) の地点付近では,静水深が浅いため,η が増大する. なお,海底噴火の発生地点にあまり依存することなく,最大水位η が高くなる地点が存在する. すなわち,図-6,図-7,図-8 及び図-9 の場合に,η が,それぞれ,桜島の北岸域で 5.7 m,3.2 m, 8.9 m 及び 5.4 m,湾奥の隼人沖で 5.4 m,7.0 m,3.4 m及び 3.1 m,そして,大隅半島の西岸 域で 3.6 m,4.9 m,4.8 m 及び 6.5 m 程度と比較的高い.これら桜島北岸域,湾奥隼人沖及び大

(6)

隅半島西岸域の3 地点は,いずれも,陸に向かって水深が急に浅くなるという特徴を有している. また,図-6 の場合,桜島北方沖で発生した後,南下した津波は,桜島北縁で反射し,北に向か って伝播する.一方,図-7 の場合,隼人沖で発生した後,北上した津波は,隼人沿岸で反射し, 南に向かって伝播する.そして,図-8 の竜ヶ水沖及び図-9 の黒神町沖で津波が発生した場合には, それぞれ,東方及び西方に,桜島に沿うように伝播していく津波成分が存在し,これらの成分の 最大水位が,比較的高くなっている. 参考文献 柿沼太郎・山下 啓・帖佐繁明・藤間功司・中山恵介: 津波の生成や伝播に対する流速分布及び密度成層の影響, 土 木学会論文集 B3(海洋開発), Vol. 67, No. 2, pp. 553-558, 2011. 佐藤良輔・岡田義光・鈴木保典・阿部勝征・島崎邦彦: 日本の地震断層パラメター・ハンドブック, 鹿島出版会, pp. 47-48, p. 262, 1989. 谷口宏充: 高温流紋岩質溶岩流-水接触型マグマ水蒸気爆発の発生機構, 地質学論集, 第 46 号, pp. 149-162,1996. 都司嘉宣: 火山活動と津波の発生, 火山とマグマ(兼岡一郎・井田喜明編), 東京大学出版会, pp. 194-206, 1997. 山下 啓・柿沼太郎・山元 公・中山恵介: マッハステム形成過程の数値解析, 土木学会論文集 B2(海岸工学), Vol. 68, No. 2, pp. 6-10, 2012.

Fauske, H. K.: On the mechanism of uranium dioxide-sodium explosive interactions, Nucl. Sci. Eng., Vol. 51, pp. 95-101, 1973.

Mansinha, L. and Smylie, D. E.: The displacement fields of faults, Bull. Seismological Society of America, Vol. 61, No. 5, pp. 1433-1440, 1971.

Newhall, C. G. and Self, S.: The volcanic explosivity index (VEI): an estimate of explosive magnitude for historical volcanism, J. Geophys. Res., Vol. 87, No. C2, pp. 1231-1238, 1982.

Sato, H. and Taniguchi, H.: Relationship between crater size and ejecta volume of recent magmatic and phreatomatic eruption, Geophys. Res. Lett., Vol. 24, pp. 205-208, 1997.

参照

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