Title 配電保全情報管理システムにおける保全作業支援に関 する研究
Author(s) 弓部, 良樹 Citation
Issue Date Text Version ETD
URL https://doi.org/10.18910/76657
DOI 10.18910/76657 rights
Note
Osaka University Knowledge Archive : OUKA Osaka University Knowledge Archive : OUKA
https://ir.library.osaka-u.ac.jp/
Osaka University
配電保全情報管理システムにおける 保全作業支援に関する研究
提出先 大阪大学大学院情報科学研究科 提出年月 2020 年 1 月
弓 部 良 樹
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研究業績
A. 学術論文誌論文
1. Yoshiki Yumbe, Takashi Hasegawa, and Naohiro Furukawa, “Optimization method for inspection scheduling of power distribution facilities”, IEEE Transactions on Power Delivery, Vol.28, No.3, pp.1558-1565, 2013.
2. Yoshiki Yumbe, Misa Miyakoshi, Masaharu Kondo, Toshiyuki Arao, and Naohiro Furukawa, “Evaluation of optimization method for inspection scheduling of power distribution facilities using maintenance data accumulated by power utility”, IEEE Transactions on Power Delivery, Vol.32, No.2, pp.696-702, 2017.
3. 弓部良樹, 薦田憲久, 藤原融, “位置情報の測位誤差を考慮したロケーションベース電柱 特定法”,電気学会論文誌C, Vol.139, No.10, pp.1215-1221, 2019.
4. 弓部良樹, 吉村拓真, 浅野愛治, 薦田憲久, 藤原融, “AR を用いた配電設備の巡視作業 支援システムの開発と評価”, 電気学会論文誌C, Vol.139, No.11, pp.1333-1340, 2019.
B. 国際会議
1. Yoshiki Yumbe and Takashi Hasegawa, “Inspection schedule optimization technique for power distribution facilities”, in Proc. of IEEE PES Transmission & Distribution Conference and Exposition, pp.1-7, 2012.
2. Yoshiki Yumbe, Osamu, Segawa, and Makoto Yamakita, “A training-assistance system using mobile augmented reality for outdoor-facility inspection”, in Proc. of The 9th International Conference on Advances in Computer-Human Interactions, pp.116-122, 2016.
ii
3. Yoshiki Yumbe, Norihisa Komoda, and Toru Fujiwara, “Workforce scheduling system to manage static optimization and dynamic re-optimization for field service”, in Proc.
of IEEE International Conference on Systems, Man, and Cybernetics, pp.3122-3127, 2019.
C. 国内会議
1. 弓部良樹, 古川直広, “位置情報誤差にロバストなロケーションベース拡張現実による 配電設備の巡視作業支援システム”, 情報処理学会第 76 回全国大会講演論文集, pp.9- 10, 2014.
2. 弓部良樹, 宮越美沙, 古川直広, “配電設備の巡視作業支援システム向け画像アノテーシ ョンによる拡張現実コンテンツ自動生成方法の提案”, 情報処理学会第 77 回全国大会 講演論文集, pp.51-52, 2015.
3. 弓部良樹, 瀬川修, 山北誠, “モバイルARを用いた屋外通信設備の巡視点検教育支援シ ステムの検討”, 情報処理学会研究報告(ヒューマンコンピュータインタラクション) , Vol.HCI-166, No.10, pp.1-8, 2016.
4. 弓部良樹, 吉村拓真, 浅野愛治, 薦田憲久, 藤原融, “AR を用いた配電設備の巡視作業 支援システムの開発と評価”, 第77回電気学会情報システム研究会, IS-19-013, pp.63- 68, 2019.
D. その他
1. 電気協同研究会編, “配電業務システムの高度化による業務変革”, 電気協同研究, Vol.77, No.2, pp.1-211, 2019(第4章を分担).
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内容梗概
本論文は,筆者が2009年から現在まで(株)日立製作所研究開発グループ中央研究所,東 京社会イノベーション協創センタ,ならびに2018年10月から現在まで大阪大学大学院情 報科学研究科マルチメディア工学専攻在学中に行った,配電保全情報管理システムにおけ る保全作業支援に関する研究成果をまとめたものである。
近年,電力会社を取り巻く環境は大きく変化している。例えば,膨大な設備の高経年化に よって維持管理費用が増大し,熟練作業員の大量退職によって作業品質の維持が困難にな ってきている。さらに,電力システム改革による送配電部門の法的分離に伴い,今後配電分 野は供給信頼度の担保・業務効率化がより強く求められるようになる。このような状況にお いて,供給信頼度の維持と保全業務効率化によるコスト削減が重要課題となっている。配電 における保全対象は,電柱と柱上に設置されている変圧器,開閉器などの設備であり,その 保全業務では,保全計画の立案,計画に基づく確実な保全作業の実施,保全作業の実績確認,
そして蓄積された結果の分析のPDCA(Plan Do Check Act)サイクルを回しながら業務を 実施している。そして,配電の保全業務としては設備巡視が大きな割合を占めていて,その コストのほとんどが巡視の工数である。前述した課題の解決には,情報技術による保全作業 支援が必要である。
本論文では,情報技術による配電保全支援に関して,次の4点を課題として設定し,解決 方法を検討する。
(1) 定期巡視工数削減のための,広域かつ膨大な設備に対する効率の良い巡視計画の立案 (2) 定期巡視工数削減のための,保全履歴,設備属性,地域属性など複数要素を考慮した設
備の巡視タイミングの設定
(3) モバイル端末による巡視作業支援に関する,位置情報の測位誤差を考慮した対象電柱の 特定
iv
(4) 巡視作業の効率・品質の向上のための,モバイル端末による現場で必要な情報のタイム リーな提示
本論文は全6章から構成される。
第 1 章の序論では,配電分野における保全業務の概要と,本論文において解決すべき課 題を述べ,従来研究を概観するとともに,本論文の目的と位置付けを明らかにする。
第 2 章では,巡視工数を低減するための巡視計画立案方法を提案する。配電設備の巡視 業務の課題を解決するための保全履歴に基づく設備の巡視タイミングモデルと,巡視タイ ミングをもとに,供給信頼度を維持しつつ巡視工数を低減する巡視計画立案方法を説明す る。最後に,テストデータを用いたシミュレーションによって,提案方法の効果を確認する。
第3章では,保全履歴,設備属性,地域属性などの蓄積データの分析による巡視タイミン グの設定方法を提案する。まず,データ分析による設備不良の予測方法とその結果に基づく 巡視タイミングの設定方法,そして,巡視工数削減効果の評価方法を説明する。そして,電 力会社の実データを用いて巡視工数削減効果を評価する。
第4章では,モバイル端末による巡視作業支援に関して,GPS(Global Positioning System)
の測位誤差に影響されずに,巡視対象の電柱を特定する方法を提案する。広域かつ膨大な電 柱に対して適用容易性が高い方法を提案し,実環境で提案方法の有効性を評価する。
第5章では,モバイルAR(Augmented Reality)によって必要な情報をタイムリーに提 示できる巡視作業支援システムを提案する。はじめに,従来の巡視業務フローとその課題を 整理し,ARを活用した課題の解決方法を提案する。そして,プロトタイプを用いて実現場 で巡視作業の経験者に使用してもらい,結果を従来システムと比較することで提案システ ムの有用性を評価する。
第6章では,結論として本研究で得られた成果を要約し,今後の課題を述べる。
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目次
第1章 序論 ... 1
1.1 研究の背景 ... 1
1.2 関連研究 ... 4
1.2.1 設備群に対する保全計画の立案 ... 4
1.2.2 設備状態の予測や保全タイミングの設定 ... 5
1.2.3 位置情報の測位誤差を考慮した対象の特定 ... 5
1.2.4 モバイル端末による保全作業支援 ... 6
1.3 研究の方針 ... 7
1.4 本論文の構成 ... 9
第2章 巡視工数を低減する配電設備の巡視計画立案方法 ... 11
2.1 緒言 ... 11
2.2 従来の設備管理・巡視方法と課題 ... 12
2.3 巡視計画の立案方法 ... 13
2.3.1 課題の解決方針 ... 13
2.3.2 保全履歴を活用した巡視タイミングモデル ... 14
2.3.3 エリア巡視と個別巡視の組合せによる巡視方法 ... 17
2.3.4 問題の定式化 ... 18
2.3.5 巡視計画生成アルゴリズム ... 21
2.4 評価結果 ... 25
2.4.1 評価方法 ... 25
2.4.2 巡視工数低減効果の評価結果と考察 ... 28
2.4.3 解の最適性に関する検討 ... 31
2.5 結言 ... 33
第3章 巡視工数低減のための保全データ分析による巡視タイミングの設定方法 ... 35
3.1 緒言 ... 35
3.2 巡視工数低減のための巡視タイミングの設定方法 ... 36
3.2.1 課題の解決方針 ... 36
3.2.2 保全データ分析による設備不良の予測 ... 37
3.2.3 巡視タイミングの設定と巡視工数低減効果の評価方法 ... 40
vi
3.3 実データによる巡視工数低減効果の評価 ... 42
3.3.1 評価対象 ... 42
3.3.2 評価結果と考察 ... 43
3.4 結言 ... 46
第4章 位置情報の測位誤差を考慮したロケーションベース電柱特定方法 ... 49
4.1 緒言 ... 49
4.2 位置情報誤差を考慮した電柱の特定方法 ... 50
4.2.1 提案方法 ... 50
4.2.2 プロトタイプ開発 ... 59
4.3 実環境での評価 ... 59
4.3.1 評価方法 ... 59
4.3.2 評価結果と考察 ... 60
4.4 結言 ... 66
第5章 モバイルARによる巡視作業支援システムの開発と評価 ... 67
5.1 緒言 ... 67
5.2 従来の巡視作業と課題 ... 68
5.2.1 従来の巡視作業の概要 ... 68
5.2.2 巡視作業の課題 ... 71
5.3 モバイルARによる巡視作業支援システム ... 71
5.3.1 課題の解決方針 ... 71
5.3.2 ARによる設備情報の提示 ... 73
5.3.3 ARとチェックリストによる状態確認 ... 73
5.3.4 プロトタイプの開発 ... 75
5.4 実現場での評価 ... 77
5.4.1 評価方法 ... 77
5.4.2 評価結果と考察 ... 80
5.5 結言 ... 81
第6章 結論 ... 83
6.1 本研究のまとめ ... 83
6.2 今後の課題 ... 85
謝 辞 ... 87
参考文献 ... 89
1
第 1 章 序論
1.1 研究の背景
電力会社は,発電所で作られた電気を送電線によって配電用変電所に送り,需要家に 利用可能な電圧まで降圧して,生活圏に面的に張り巡らされた配電網を使って,それぞ れの需要家に電力を供給している[1]。電力会社の中でも配電部門は,配電用変電所から 需要家までの配電設備(電柱,変圧器,開閉器など)の建設・維持管理・運用を担って いる。高度経済成長期から電力需要は大きく増大し[2],それに加え住民のライフスタイ ルの変化によって,電力は欠かすことのできない重要なインフラとなっている。電力需 要の増加につれて配電設備が建設され,現在では日本全国で約2,200万基にも及ぶ膨大 な電柱が設置されており,その全てを維持管理する必要がある[3][4]。生活者の一番身 近に設置されている電力設備であるため,わずかな不具合が停電や公衆災害につながる おそれがあり,設備の維持管理には万全を期す必要がある。配電における保全業務とし て,定期的な巡視や点検などの予防保全と,停電事故への対応などの事後保全がある[5]。
巡視は主に目視による状態確認であり,点検は計測器などを用いて状態を詳細に確認す る業務である。これらの保全業務において,その大きな割合を占めるのが巡視であり,
電力会社によって2~5年ごとに,前述したように日本全国で約2,200万基にも及ぶ膨 大な電柱の状態を確認している。
しかし,高度経済成長期に建設された膨大な設備の高経年化によって維持管理費用が 増大し[1][6],熟練作業員の大量退職によって作業品質の維持が困難になってきている [7][8]。さらに,電力システム改革による送配電部門の法的分離に伴い[9][10][11],今後 配電分野は供給信頼度の担保・業務効率化がより強く求められるようになる。このよう な状況において,供給信頼度の維持と保全業務効率化によるコスト削減が重要課題とな っている[12][13][14][15]。そのため,配電事業者各社では,情報技術を駆使して業務改 革を実現する保全情報管理システムが求められている[16][17][18]。
図 1-1 は配電分野における一般的な保全情報管理システムの全体像を示すものであ る[19][20][21]。前述したように,配電事業者は,電柱とその柱上に設置されている変圧
2
器,開閉器といった広域かつ膨大な設備を管理している。膨大な設備に関する情報は,
その設置位置(緯度経度)も含め,地理情報システム(Geographical Information System: GIS)上で管理されている[22][23][24]。そして,保全履歴や,保全作業を実施 する作業員に関する情報も管理されている。保全情報管理システムでは,これらの管理 データを中心として,保全業務に関する機能群を保有している。保全業務では,保全対 象である保全作業の計画立案,計画に基づく確実な保全作業の実施,保全作業の実績確 認,そして蓄積された結果の分析のPDCA(Plan Do Check Act)サイクルを回しなが ら業務を実施しており,保全情報管理システムは,それぞれの支援機能を有しており,
保全管理に関して様々な検討がされている[25][26]。
図1-1 配電保全情報管理システムの概要
保全計画管理はPlanに該当し,設備保全の中長期計画の立案・管理,そして年度計 画の立案・管理を支援する。前述したように,配電における保全では,従来,電力会社 ごとに巡視間隔を定めており,2~5 年ごとに設備の定期巡視を実施している。広域か つ膨大な設備群に対する定期巡視には多くのコスト(ほぼ工数に相当)がかかっており,
その低減が課題となっている。センサやカメラなどを設置して以上を検知することも考 えられるが,対象が膨大であること,配電設備はその寿命が長いものが多いこと,そし て錆,ヒビ,設備と周囲の建造物との離隔距離,樹木の接触有無など多くの項目を確認 数する必要があることから,巡視をセンシングで置き換えることは難しい。そのため,
・設備保全の中長期計画の 立案・管理
・設備保全の年度計画の 立案・管理
保全計画管理(Plan) 保全作業管理(Do)
保全実績管理(Check)
保全結果分析(Act)
GIS(地理情報システム) 設備台帳 保全履歴 作業・作業員
・モバイル端末による保全作業支援
・現場作業員の作業・ロケーション 管理
・保全実施結果の品質評価
・保全結果の蓄積
・蓄積された保全結果や設備 データの分析による保全周期や 属性の見直し
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巡視工数を低減するには,設備ごとにその劣化の進行状況は異なるため,設備ごとに供 給信頼度を維持できる適切な巡視タイミングを設定し,広域かつ膨大な設備間の移動も 含め,効率の良い巡視計画を立案することが必要とされる。故障間隔の予測や保全タイ ミングの設定[27-38],そして保全タイミングに基づく保全計画の策定に関する取組み が行われているが[39-44],具体的な保全業務への適用,従来業務への適合性,そして保 全業務全体のコスト低減まで考慮している取組みは少ない。
保全作業管理はDoに該当し,モバイル端末による保全作業支援や,現場作業員の作 業やロケーション管理を行う。立案された巡視計画をもとに巡視を行うが,現場作業員 はモバイル端末を携帯して現場に出向き,必要な情報を参照しながら設備を目視によっ てチェックし,その結果を入力していく[45-49]。現状では,電力会社で管理されている 電柱の位置情報とモバイル端末のGPS(Global Positioning System)の位置情報,も しくは電柱それぞれに貼り付けられている電柱番号札を確認しながら,作業員が自ら必 要な情報にアクセスしている[48]。しかし,電柱番号札はそれ自体が小さい上,よごれ や破損も多い。また,道路に面している一方向から,根元付近まで近づかないと内容を 確認することが難しい。配電設備の巡視では,対象電柱を俯瞰して確認した後,近づい て個別の機器を確認することが多い。対象となる電柱も広域かつ膨大であるため,電力 業界では,巡視における情報参照・入力に時間を要していると言われている。また,似 た設備を多く確認していくことから,巡視対象・項目のチェック漏れが生じる可能性が ある。この課題を解決するには,作業員が自ら必要な情報にアクセスするだけではなく,
作業者に必要な情報をタイムリーに提示するなど,巡視対象チェックの支援技術が必要 である。一般にこの課題の解決方法として,拡張現実感(Augmented Reality: AR)が 注目されている[50][51][52]。配電設備の巡視業務に対しても,タブレットを用いて地 図上に配電設備の保全データをARにより可視化し,巡視点検を支援するシステム[53]
が報告されている。しかし,このシステムではGPSの測位誤差(モバイル端末位置の 測位誤差)が考慮されておらず,正確に対象電柱を特定できないという課題がある。さ らに,作業者の判断支援に関しても,配電線などの設備とその関連情報をARによって 可視化するだけに留まっており,具体的な業務への適用検討やその有効性の評価が十分 に行われていない。
保全実績管理は Check に該当し,保全実施結果の品質評価や保全結果の蓄積を支援 する。巡視対象・項目のチェック漏れなど作業品質に関する評価を,実施結果をもとに
4
評価するが,これは,保全作業管理で述べたような作業者の判断支援によって支援でき る。
保全結果分析はActに該当し,蓄積された保全結果や設備データを分析することで,
保全の周期などの見直しを行い,継続的に業務効率化によるコスト低減を図ることが求 められる。前述したように,定期巡視のコストを低減するには,設備ごとに供給信頼度 を維持できる適切な巡視タイミングを設定し,広域かつ膨大な設備間の移動も含め,効 率の良い巡視計画を立案することが必要とされる。そのため,保全結果分析は,保全計 画立案と連係して行われる。
以上から,本研究では,情報技術によって以下の課題を解決することを目的とする。
(1) 定期巡視工数削減のための,広域かつ膨大な設備に対する効率の良い巡視計画の立 案
(2) 定期巡視工数削減のための,保全履歴,設備属性,地域属性など複数要素を考慮し た設備の巡視タイミングの設定
(3) モバイル端末による巡視作業支援に関する,位置情報の測位誤差を考慮した対象電 柱の特定
(4) 巡視作業の効率・品質の向上のための,モバイル端末による現場で必要な情報のタ イムリーな提示
1.2 関連研究
ここでは,配電保全情報管理システムに関する従来技術と本研究で扱う課題の関連につ いて述べる。
1.2.1 設備群に対する保全計画の立案
故障間隔や点検周期を設定し,保全計画を策定する取組みが行われている[39-44]。研 究[39]では設備の故障モデルを提案し,故障率の経年変化を用いて,設備単体の最適点 検周期を求め,保全計画の策定を支援するシステムを開発している。研究[40]は,設備 群の保全計画を,各種制約を満たすように最適化するハイブリッドインテリジェントア ルゴリズムについて述べている。研究[41]は,送電設備に関して,その状態をマルコフ
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モデルでモデル化し,保全タイミングをGA(Genetic Algoerithm)によって求め,保 全計画を求めている。研究[42]は,配電設備における開閉器についてその故障率を算出 し,メンテナンス前後のリスク変化をもとに保全計画を立案する方法を提案している。
研究[43]は,設備の健全度や重要度を示すリスクレベルを提案し,保全計画への活用方 法を示しており,リスクレベルのランキングによって保全の実施順番を決めている。研 究[44]では,変電所に設置されている遮断器の保全計画について提案している。保全履 歴やセンシングデータから,遮断器の運用年数に対する故障率の変化を求め,保全のタ イミングや方法のいくつかのパタンを提示し,そのトータルコストを比較している。こ れは,設備個々の保全計画にとどまっており,近接設備の同タイミングのリプレースな ど,保全業務全体の効率まで考慮していない。
以上のように,これらの研究では,劣化の進行モデルをもとに保全タイミングを定め,
信頼性や経済性の制約を満たす保全計画を立案している。しかし,これらの研究では,
従来業務への適合性,そして保全業務全体の工数低減まで考慮していない。
1.2.2 設備状態の予測や保全タイミングの設定
設備の故障タイミングの予測や保全タイミングの設定に関する研究は多くなされて いる[27-38]。研究[27][28]では,保全を計画する際の指標となる設備の余寿命の確率分 布を正規分布と仮定して,電柱群の余寿命を示す確率モデルを提案している。研究[29- 38]では,設備の劣化の進行プロセスを,マルコフ過程によってモデル化し,そのモデ ルを用いて設備の劣化状態を予測する手法を提案している。しかし,配電設備は膨大な 対象が広域にわたって設置されている。その設備群の劣化状況は,設備が設置されてい る環境や使用状況により異なる。例えば,海に近い地域では塩害,強風地域では風害と いうように地域的特性によって劣化に影響する要因が異なる。また同じ設置エリアであ っても,経過年数などによって劣化の進行が異なる。このように,設備の不良には様々 な要素が影響していると考えられるが,不良に与える多様な要素を考慮した保全タイミ ングの設定方法,そして,実際の保全業務への適用効果を評価している事例は少ない。
1.2.3 位置情報の測位誤差を考慮した対象の特定
位置情報を活用した電柱の特定方法に関して,研究[54][55]では,タブレットとGIS
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を用いて,地図上に配電設備の保全データマッピングし,GPS 位置をもとに可視化す ることで巡視点検を支援するシステムを提案している。ユーザの位置をもとに地図上で 配電網を確認でき,さらにそこから設備の詳細情報にアクセスできる。また,研究[53]
では,タブレットとARにより保全データを可視化する巡視点検支援システムを提案し ている。この研究ではGPSを用いてAR表示を行う従来のロケーションベースARが 適用されている。以上の事例では,電柱の位置情報とモバイル端末のGPSを用いて,
現場での情報提示を行なっているが,GPS等の測位誤差については考慮されていない。
一方,カーナビゲーションや,屋外での AR システムに向けて,GPS 測位誤差の影 響を他のセンシング手段を組合せて補正する方法が提案されている。研究[56]では,カ ーナビゲーション向けの車両の位置推定方法を提案している。GPS と予め用意されて いる交通信号機の位置情報と,画像から信号機の色を検出し,それらを組合せることで,
車両の位置推定を補正している。この事例では,位置合せのランドマークとして,表示 色がはっきりしていて昼夜問わず検出が容易な信号機を活用している。電柱そのものを ランドマークとして考えた場合,信号機に比べ画像から特徴が得にくく,似た構造物が 多くあるため,検出が容易ではない。また,同様に信号機をランドマークとして活用す ることも考えられるが,電柱の設置密度のほうが大きく,タブレットのカメラで配電設 備と信号機を両方捉えることができるケースは少ない。
研究[57]では,AR 表示を活用したカーナビゲーションに向けたカメラの位置推定方 法を提案している。GPS とジャイロセンサのセンサヒュージョンでベースとなる大ま かな位置を定め,デジタル道路地図をもとに道路形状のモデリングを行い,撮影画像と マッチングすることで位置を特定する。研究[58]では,屋外でのARシステム向けの位 置合せ方法を提案しており,対象の空間を3D モデルとして管理し,3Dモデルと撮影 画像の特徴点マッチングによって位置合せを行っている。これらの事例では,対象の空 間を3Dモデリングしておく必要があり,電柱は対象が膨大なため,広範囲エリアの3D モデルを用意する必要があるため,適用が容易ではない。
1.2.4 モバイル端末による保全作業支援
配電分野におけるモバイル端末を用いた保全作業支援に関して,研究[47]では,強風 災害に対して,計画的かつ効果的な巡視・復旧作業の実施を支援するシステムを提案し
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ている。モバイル端末を利用し,設備の被害状況,被害写真,そして巡視の進捗状況を 現地からのデータ送信でシステムに自動登録することで災害復旧を支援する。研究[48]
では,GPS 機能付携帯電話を利用した,需要家からの申込み対応業務や停電復旧業務 などの支援システムを提案している。現場作業者がモバイル端末を携行し,事業所では 作業者の位置と作業状況を一括把握する。需要家からの申込みがあると,作業者の位置 と作業状況から最適な作業者を選定し,作業指示をモバイル端末に送信する。これによ って現場到着時間を短縮することができる。研究[49]では,スマートフォンを活用した 配電線の事故復旧支援システムを提案している。事故現場で必要な情報の参照を効率化 し,指令側と現場側の情報共有を行なう。
以上の事例では,設備の位置情報とモバイル端末のGPSを用いて,現場での情報参 照や入力を効率化しているが,作業品質の向上・平準化については言及していない。
屋外設備の巡視点検を対象とした研究として,研究[54][55]がタブレットとGISを用 いて,地図上に配電設備の保全データを可視化し,巡視点検を支援するシステムを提案 している。地図上で配電網を確認でき,さらにそこから設備の詳細情報にアクセスでき る。また,研究[53]では,タブレットとARにより保全データを可視化する巡視点検支 援システムを提案している。これらの事例では,配電線などの設備とその関連情報をAR によって可視化するだけに留まっており,具体的な業務への適用検討やその有用性の評 価を行っていない。
1.3 研究の方針
前節までに述べた課題を踏まえ,本研究における各課題の位置付けを図 1-2に示す。
以下,図1-2に従い,本研究の方針を説明する。
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図1-2 配電保全情報管理システムにおける本研究の位置付け
(1) 巡視工数を低減する配電設備の巡視計画立案方法
保全情報管理システムにおける保全計画管理に関して,広域かつ膨大な設備に対する 効率の良い巡視計画の立案方法を提案する。保全履歴に基づいて設備の巡視タイミング を設定し,それをもとに巡視工数を低減する巡視計画を立案する。巡視計画の立案では,
従来業務への適合性を考慮し,従来の巡視方法である管理エリアごとの巡視と,管理エ リアを跨ぐ個別巡視を組合せて用いることで,巡視業務全体の工数低減を実現する。そ して,テストデータによるシミュレーションによって巡視工数低減効果を評価する。
(2) 巡視工数低減のための保全データ分析による巡視タイミングの設定方法
保全情報管理システムにおける保全計画管理に関して,保全情報管理システムに蓄積 されている保全履歴,設備属性,地域属性などの様々なデータに基づく巡視タイミング の設定方法を提案する。提案方法では,多重相関分析によって様々なデータから設備の 不良に相関の高いデータを絞込み,数量化理論Ⅱ類によって設備の不良を予測し,「不 良」と予測された設備を巡視対象に設定する。「不良」のデータが極端に少ない不均衡 データに対して,少数派クラスを正しく分類することが求められるため,得られる事後 確率にバイアスを加えることで,「不良」の発見率を高くする。実業務で維持したい信 頼度によってバイアス値を設定すればよく,業務への親和性が高い方法である。そして,
電力会社の実データを用いて提案方法による巡視業務効率化の評価を行う。
・設備保全の中⻑期計画の⽴案・管理
・設備保全の年度計画の⽴案・管理
保全計画管理(Plan) 保全作業管理(Do)
保全実績管理(Check)
保全結果分析(Act)
GIS(地理情報システム) 設備台帳 保全履歴 作業・作業員
・モバイル端末による保全作業⽀援
・現場作業員の作業・ロケーション管理
・保全実施結果の品質評価
・保全結果の蓄積
・蓄積された保全結果や設備データの分析に よる保全周期や属性の⾒直し
巡視⼯数を低減する配電設備の 巡視計画⽴案⽅法(2章)
【課題】広域かつ膨⼤な設備に対する 効率の良い巡視計画の⽴案 巡視⼯数低減のための 保全データ分析による
巡視タイミングの設定⽅法(3章)
【課題】様々な要素を考慮した 設備の巡視タイミングの設定
位置情報の測位誤差を考慮した ロケーションベース電柱特定⽅法(4章)
【課題】GPS誤差に影響されない 対象電柱の特定 モバイルARによる巡視作業
⽀援システム(5章)
【課題】作業効率・品質の向上のための 必要な情報のタイムリーな提⽰
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(2) 位置情報の測位誤差を考慮したロケーションベース電柱特定方法
保全情報管理システムにおけるモバイル作業管理に関して,モバイル端末のGPSの 測位誤差に影響されずに対象電柱を特定する方法を提案する。提案方法は,タブレット のGPSから取得した位置情報,加速度センサ値や地磁気センサ値から算出した撮影方 角と撮影距離,GISで管理される建造物,道路などの地形データを組合せて用いること で,それらが含む誤差に影響されずに,多くの候補から対象の電柱を絞込み特定する。
そして,提案方法の有効性を実環境で評価する。
(3) モバイルARによる巡視作業支援システムの開発と評価
保全情報管理システムにおける保全作業管理に関して,現状の配電の巡視業務を分析 し,AR技術で必要な情報をタイムリーに提示できる巡視作業支援システムを提案する。
提案システムでは,業務課題に対応したARによる設備情報提示機能,ARとチェック リストを組合せた設備状態確認機能によって構成される。提案システムを,実現場で巡 視作業の経験者に使用してもらい,結果を従来システムと比較することで提案システム の有用性を評価する。
1.4 本論文の構成
本論文は全6章から構成され,第2章以降を以下のように構成する。
第 2 章では,文献[59][60][61]に基づき,巡視工数を低減するための巡視計画立案方 法を提案する。はじめに,従来の配電設備の管理方法や巡視業務,その課題について説 明する。次に,これを解決するための保全履歴に基づく設備の巡視タイミングモデルと,
巡視タイミングをもとに巡視工数を低減する巡視計画立案方法を説明する。最後に,テ ストデータを用いたシミュレーションによって,提案方法の効果を確認する。
第3章では,文献[3][62]に基づき,巡視工数低減のための保全データ分析による巡視 タイミングの設定方法を提案する。まず,巡視タイミングの設定方法と,それを活用し た巡視業務効率化の評価方法を説明する。そして,電力会社の実データを用いて提案方 法による巡視業務効率化の評価を行う。
第4章では,文献[63][64]に基づき,モバイルによる巡視作業支援に関して,GPSの 測位誤差に影響されずに,巡視対象の電柱を特定する方法を提案する。広域かつ膨大な
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電柱に対して適用容易性が高い方法を提案し,実環境で提案方法の有効性を評価する。
第5 章では,文献[65-69]に基づき,モバイルAR によって必要な情報をタイムリー に提示できる巡視作業支援システムを提案する。はじめに,従来の巡視業務フローとそ の課題を整理し,ARを活用した課題の解決方法を提案する。そして,プロトタイプを 用いて実現場で巡視作業の経験者に使用してもらい,結果を従来システムと比較するこ とで提案システムの有用性を評価する。
第6章では,結論として本研究で得られた成果を要約し,今後の課題を述べる。
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第 2 章 巡視工数を低減する配電設備の巡視計画立 案方法
2.1 緒言
本章では,保全情報管理システムにおける保全計画管理に関して,広域かつ膨大な設 備に対する効率の良い巡視計画の立案方法を提案する。
配電における保全では,従来,電力会社ごとに巡視間隔を定めており,2~5 年ごと に設備の定期巡視を実施している。広域かつ膨大な設備群に対する定期巡視には多くの コスト(ほぼ工数に相当)がかかっており,その低減が課題となっている。センサやカ メラなどを設置して以上を検知することも考えられるが,対象が膨大であること,配電 設備はその寿命が長いものが多いこと,そして錆,ヒビ,設備と周囲の建造物との離隔 距離,樹木の接触有無など多くの項目を確認数する必要があることから,巡視をセンシ ングで置き換えることは難しい。そのため,巡視工数を低減するには,設備ごとにその 劣化の進行状況は異なるため,設備ごとに供給信頼度を維持できる適切な巡視タイミン グを設定し,広域かつ膨大な設備間の移動も含め,効率の良い巡視計画を立案すること が必要とされる。故障間隔や点検周期を設定し,保全計画を策定する取組みが行われて いるが[39-44],具体的な保全業務への適用,従来業務への適合性,そして保全業務全体 の工数低減まで考慮している取組みは少ない。
そこで本研究では,広域かつ膨大な設備群に対する効率の良い巡視計画の立案方法を 提案する。保全履歴に基づく設備の巡視タイミングの設定方法と,それをもとに巡視工 数を低減する巡視計画立案方法を提案する。巡視計画の立案では,従来の巡視方法を大 きく変えず組合せて用いることで,従来業務への適合性を考慮しながら巡視業務全体の 工数低減を実現する。
以下,2.2節において電力会社における配電設備の管理方法と従来の巡視方法を説明 し,その課題を示す。2.3節で巡視計画の立案方法を提案する。そして2.4節で提案方 法の評価結果を示す。
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2.2 従来の設備管理・巡視方法と課題
配電部門は,配電用変電所から需要家までの配電設備の維持管理・運用を担っており,
保全の対象は電柱と柱上の変圧器,開閉器などの配電設備である。
従来,配電部門では主な保全業務として,定期的な目視による巡視を行っている。例
えば図2-1(a)のように,1つの営業所がその管轄地域をメッシュで分割し,その管理メ
ッシュ単位で設備を管理している。そして,営業所から割り当てられた巡視員が,各管 理メッシュを定期的(電力会社ごとに2~5年に設定)に巡視することで,異常の有無 を確認している。この巡視方法を「メッシュ巡視」と呼ぶ。
また,ある電力会社では,配電線単位で設備を管理している。図2-1(b)に示すように,
複数の配電用変電所があり,それぞれの供給エリアに電力を供給している。さらにそれ ぞれの変電所からは複数の配電線に分かれて電力を供給している。営業所から割り当て られた巡視員は,各配電線を1日で巡視可能な範囲に分けて巡視し,異常の有無を確認 している。この巡視方法を「フィーダ巡視」と呼ぶ。
一方で,上記の定期巡視以外にも,図2-2に示すように,特定の目的に応じた個別巡 視も行われている。例えば,台風や地震などの発生後に行う被害状況の把握のための巡 視や,竹や蔓など成長の早い植物が設備に接触しないように植生に応じて状態を確認す る巡視などである。このような場合は,メッシュ,フィーダの管理エリアを跨いで設備 の異常を把握する。
以上のように,配電部門では,広域かつ膨大な設備群を管理エリアで区分けして管理 し,管理エリアごとに一律に予防保全として定期巡視している。この業務には多くの工 数がかかっており,その低減が課題となっている。
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図2-1 配電設備の管理と巡視方法
図2-2 特定の目的に応じた個別巡視
2.3 巡視計画の立案方法
2.3.1 課題の解決方針
定期巡視は予防保全として実施されており,巡視で実際に不具合が発見されるのは全 体の割合から見るとごくわずかである。そのため,巡視工数を低減するためには,まず,
設備の状態に応じて,適切な巡視タイミングを設定することが求められる。さらに,数 百万にも及ぶ膨大な配電設備が対象となるため,設備ごとの巡視タイミングに加え,そ の設備間の移動など業務全体の工数低減まで考慮して,効率の良い巡視計画を立案する ことが必要である。さらに,前節で説明した設備の管理方法や巡視方法は,電力会社で 以前から実施されてきており,具体的な業務への適用を考えると,従来の管理エリアご との設備管理方法や,巡視方法を大きく変えないことが必要と考える。
S/S
S/S S/S
S/S
S/S S/S
⽬視による状態の確認 営業所
配電設備(電柱、変圧器等)
(a) メッシュ巡視 (b) フィーダ巡視
S/S
S/S S/S
営業所
14
そこで本研究では,広域かつ膨大な設備に対する効率の良い巡視計画の立案方法を提 案する。提案方法は,図2-3に示す2つのステップ,(1)保全履歴に基づく設備の巡視タ イミングの設定方法と,(2)それをもとに巡視工数を低減する巡視計画立案方法から構 成される。(1)では,電力会社に蓄積されている保全履歴をもとに,設備ごとに供給信頼 度を維持できる巡視タイミングを設定する。そして(2)では,従来の巡視方法である管理 エリアごとの巡視と,管理エリアを跨ぐ個別巡視を組合せて用いることで,従来業務へ の適合性を考慮しながら巡視業務全体の工数低減を実現する。具体的には,管理エリア 内の早期要巡視の設備を抜粋して個別巡視し,エリアの巡視タイミングを延ばす。それ によって,管理エリアごとに巡視タイミングを可変にし,管轄地域全体で巡視工数を低 減する。
以降では,それぞれのステップについて,分かりやすさのため,定期巡視の方法とし て「メッシュ巡視」を例として詳細を説明する。
図2-3 本研究のアプローチ
2.3.2 保全履歴を活用した巡視タイミングモデル
電力会社では,長年に渡って設備保全を実施してきており,保全履歴が蓄積されてい る場合が多い。本研究では,特に修繕履歴を用いて巡視タイミングを設定するモデルを 提案する。図2-4に示すように,設備が修繕を繰り返しながら運用している状態を考え る。電力会社では設備の巡視を実施し,不良を発見する度に修繕/リプレースを行い,そ の結果を蓄積しながら運用している。
4yr
2yr 5yr
3yr 3yr4yr
3yr
3yr 2yr 4yr
3yr
: : 5
2 : ) 2 : )
12 : :
:
15
図2-4 巡視タイミングの設定
このような状態において,現時点𝑡における設備iの巡視タイミング𝑇#を式(2-1)で示す。
𝑇# = 𝑡%,#+ (𝐸#− 𝛼𝑆#) − 𝑇. (2-1)
ここで,設備 i の故障確率が正規分布に従うと仮定し,過去の故障間隔の平均を𝐸#, 故障間隔の標準偏差を𝑆#とする。𝑡%,#は設備iの最新の修繕日である。設備iの巡視タイ ミング𝑇#は,最新の修繕日𝑡%,#に故障間隔の平均𝐸#を加えた想定される次回の故障日より,
故障間隔の標準偏差𝑆#に信頼性パラメータ𝛼を乗じた間隔分だけ余裕を持って設定され る。信頼性パラメータ𝛼は,供給信頼度と工数のバランスを考慮して設定するパラメー タである。信頼性パラメータ𝛼は,設定した巡視タイミングで不具合があった電柱数が 従来の2~5年の定期巡視における不良数以下となるように設定する。巡視の頻度を大 きくするほうが工数を大きく低減できるため,信頼性パラメータ𝛼はできる限り小さく 設定することが好ましい。そこで,𝛼は次式を満たすように設定する。
𝑛0𝑝#|𝑡3,# < 𝑡%,#+ 𝑇#5 = 𝑛0𝑝#|𝑡3,# < 𝑇.+ 𝑇65 (2-2)
ここで,n(*)は*の数のカウントを示す。次回巡視タイミングより修繕タイミング(=故 障タイミング)が短い電柱は,巡視前に故障すると想定する。それぞれの電柱に関する 最新の修繕日𝑡%,#と次回の修繕日𝑡3,#は前述したシミュレーションによって定められる。
𝑇6は従来の2~5 年の定期巡視タイミングを示している。もし,算出された巡視タイミ
ング𝑇# ≤ 0となる場合は,巡視タイミングを1年と設定する。巡視は年ごとに計画され
るので,巡視タイミングは1年を単位として設定される。巡視タイミング𝑇# ≤ 0と算出 tp,i
i i T
i
Ei
aSi
tp,i
T
iEi, Si
T
c16
された設備に対しては故障の可能性が高く,1年,つまり今年度中に巡視する対象とす る。
配電における管理対象は,電柱と柱上に設置されている変圧器,開閉器などの設備で ある。それら全てが巡視対象となるため,機器ごとに巡視タイミングを算出する必要が ある。しかし,同じ電柱上に設置されている機器は同時に確認することになるため,そ れらの機器の巡視タイミングの中で最短のものを,その電柱のセットとしての巡視タイ ミングとする。以降では,同じ位置にある電柱のセットを電柱𝑝#として説明する(i は 電柱の通し番号を示す)。
このように,過去の修繕履歴をもとに電柱ごとに巡視タイミングを設定すると,図2- 5のようなイメージとなる。それぞれの管理エリアに,設備が設置されており,色でそ の巡視タイミングを示している。図 2-5は特に,エリアmの様子を示しており,エリ アm には,巡視タイミングが2 年後~9年後と定められた設備がある。実際には巡視 は年ごとに計画されるので,巡視タイミングモデルで得られた巡視タイミングは1年を 単位として値を切り捨てて用いる。ここで,1年後は今年度中,2年後は次年度中に実 施するという意味である。
図2-5 巡視タイミングの設定結果のイメージ
巡視タイミング [年後]
(現時点)0 5
m
電柱
10 3 5
4 6
4 9
2 エリアm
2年3年 4年5年 6年>6年
17
(a) 個別巡視対象の抜粋によるエリア巡視タイミングの延長
(b) 個別巡視のグルーピング
図2-6 エリア巡視と個別巡視の組合せによる巡視方法
2.3.3 エリア巡視と個別巡視の組合せによる巡視方法
次に,電柱ごとに設定された巡視タイミングを用いて巡視計画を立案する。従来の巡 視方法である管理エリアごとの巡視と,管理エリアを跨ぐ個別巡視を組合せた巡視方法 を提案する。管理エリア内の早期要巡視の電柱を抜粋して個別巡視することとし,エリ アに残った電柱をエリアごとに巡視する。それぞれの管理エリアの巡視タイミングは,
エリア内の電柱の最短の巡視タイミングとする。個別巡視対象の抜粋によって,管理エ リアの巡視タイミングを延ばすことができる。
例えば,図2-6(a)において,管理エリアmの巡視タイミング算出の結果,2年後に要
巡視タイミング [年後]
0 5
m
電柱
10 3 5
4 4 6
9 2
a b c
d e
a d
c
b e
2→6 yearsエリアm
エリアの巡視タイミングを延ばす
→個別巡視対象が発⽣
2年3年 4年5年 6年>6年
3 4 4
6 6 6 6 5
5 3
2
3 5 2 4
18
巡視の電柱aを含むとする。この場合,電柱aを抜粋して2年後に「個別巡視」するこ とで,「エリア巡視」の次回巡視までの間隔を3年に延長することができる。同様な考 え方を用いて,図 2-6(a)に示すように管理エリアmの巡視タイミングを1 年ずつ延ば していくと,電柱a: 2年後,電柱d: 3年後,電柱b-c: 4年後,電柱e: 5年後と実施タ イミングの異なる個別巡視が発生する。
さらに,同じ巡視タイミングとなる個別巡視対象を,図2-6(b)に示すように近傍でグ ループ化し,一緒に巡視するようにする。巡視員は毎日営業所から出発して対象設備を 巡視し,当日中に営業所に戻って巡視結果を報告する必要がある。そのため,個別巡視 のグループはそれぞれ1.0人日以下の工数で実施できるグループとする必要がある。
個別巡視の組合せによって管理エリアの次回巡視までの間隔を延ばしていくと(3→
4→5→…),エリア巡視の実施頻度は減少するため,エリア巡視にかかる工数も次第に
減少していくが,それに伴って発生する個別巡視の累積工数が増加していく。それに加 えて,個別巡視の工数はそのグループの作り方によって変化する。巡視工数を管轄地域 全体で最小とするためには,管轄エリア全体で工数が最小となるそれぞれの管理エリア の巡視タイミングと,個別巡視グループの組合せを求める組合せ最適化問題[70]を解く 必要がある。一般に,大規模な組合せ最適化問題の厳密解を得ることは難しいため,本 研究では,この問題に対して効率的に近似解を得るヒューリスティックを提案する。
以降の節では,提案アルゴリズムについて説明する。まず,問題を定式化し,本問題 の目的関数と制約条件を示す。そして,最適化問題に対して効率よく近似解を得るヒュ ーリスティックを提案する。
2.3.4 問題の定式化
まずは問題の定式化を行う。管理エリア𝑟#の集合,つまり,営業所の管轄地域全体は 式(2-3)によって表す。管理エリア𝑟#は,電柱の集合𝑃;<と,エリアの巡視タイミング𝑦;<の 組合せで表す(式(2-4))。電柱の集合𝑃;<は,そのエリアに設置されている電柱𝑝#の集合で ある(式(2-5))。電柱の順番は,巡視の順番を示す。さらに,電柱𝑝#は,その設置位置𝑋#
(緯度,経度)と,巡視タイミングモデルによって設定された巡視タイミング𝑇#を持つ (式(2-6))。
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𝑅 = A𝑟B, 𝑟C, … , 𝑟#, … , 𝑟EF G (2-3)
r# = 0𝑃;<, 𝑦;<5 (2-4)
𝑃;<= I𝑝B, 𝑝C, … , 𝑝#, … , 𝑝JF< K (2-5)
𝑝# = (𝑋#, 𝑇#) (2-6)
ここで,𝑁;と𝑀;<はそれぞれ,管轄地域にある管理エリアの数,管理エリア𝑟#にある電柱 の数を示す。これらを用いて,巡視工数を式(2-7)のようにモデル化することができる。
𝐶;0𝑃;<5 = 𝑢0𝑃;<5 + 𝑣0𝑃;<5 + 𝑤0𝑃;<5 (2-7)
管理エリアの巡視工数𝐶;0𝑃;<5(人日)は3種類の工数によって構成される。図2-7を用い て巡視工数を説明する。𝑢0𝑃;<5は電柱の状態確認に必要な工数,𝑣0𝑃;<5は電柱間の移動工 数,そしてw0𝑃;<5は管理エリアと営業所の往復に要する工数であり,それぞれの工数を 以下で示す。
図2-7 巡視工数モデル
𝑢0𝑃;<5 = 𝑈𝑀;< (2-8)
𝑣0𝑃;<5 = 𝑉𝑑6;UVWX (2-9)
𝑤0𝑃;<5 = 𝑊𝑑;Z[\]6;#% (2-10)
𝑈は,電柱あたりに必要な状態確認の工数である。𝑑6;UVWXは管理エリア𝑟#に設置されてい
る電柱間のトータル移動距離であり,𝑉は移動速度から決まる工数である。そして同様 管理エリアri
営業所 電柱pi
w(Pri) v(Pri)
u(Pri)
20
に,𝑑;Z[\]6;#%は営業所と管理エリアの往復移動距離であり,𝑊は移動速度から決まる工
数である。𝑑6;UVWXと𝑑;Z[\]6;#%は,それぞれの管理エリア𝑟#において,そのエリア内に設 置 さ れ て い る 電 柱𝑃;<に 対 し て 起 点 と 終 点 を 営 業 所 と し て 巡 回 セ ー ル ス マ ン 問 題 [71][72]を解くことで得られる。
提案方法では,管理エリア内の早期要巡視の電柱を抜粋して個別巡視することとし,
エリアに残った電柱をエリアごとに巡視する。個別巡視対象の抜粋と近傍でのグループ 化によって,管理エリアの巡視タイミングを延ばす。この管理エリアを跨いだ個別巡視 グループ𝑔#に関しても,式(2-3)-(2-5)と同様に定義できる。個別巡視グループ𝑔#の集合𝐺 を式(2-11)によって表す。個別巡視グループ𝑔#は,電柱の集合𝑃`<と,個別巡視グループ 𝑔#の巡視タイミング𝑦`<の組合せで表す(式(2-12))。電柱の集合𝑃`<は,その個別巡視グル ープ𝑔#に含まれる電柱𝑝#の集合である(式(2-13))。𝑁`と𝑀`<はそれぞれ,個別巡視グルー プの数,個別巡視グループ𝑔#に含まれる電柱の数を示す。そして個別巡視工数C`0𝑃`<5も 式(2-7)-(2-10)と同様に定義でき,(2-14)のようにモデル化できる。
𝐺 = I𝑔B, 𝑔C, … , 𝑔#, … , 𝑔Eb K (2-11)
g# = 0𝑃`<, 𝑦`<5 (2-12)
𝑃`<= I𝑝B, 𝑝C, … , 𝑝#, … , 𝑝Jb< K (2-13) 𝐶`0𝑃`<5 = 𝑢0𝑃`<5 + 𝑣0𝑃`<5 + 𝑤0𝑃`<5 (2-14)
本問題は,管轄地域全体で工数が最小となる管理エリア𝑟# = 0𝑃;<, 𝑦;<5,個別巡視グル ープ𝑔# = 0𝑃`<, 𝑦`<5の組合せを求めることが目的となる。具体的には,それぞれの管理エ リア𝑟#の巡視タイミング𝑦;<と,エリア内の電柱の巡視順番𝑃;<,それぞれの個別巡視グル ープ𝑔#の巡視タイミング𝑦`<と,エリア内の電柱の巡視順番𝑃`<が目的変数となる。本問 題の目的関数を次式に示す。
Minimize 𝑓, 𝑓 = ∑ fFghF<i
jF<
EF
#kB + ∑ fbghb<i
jb<
Eb<
#kB (2-15)
21 Constraints,
C;0𝑃;<5 ≤ 1.0 for 𝑟# ∈ 𝑅 (2-16)
C`0𝑃`<5 ≤ 1.0 for 𝑟`∈ 𝐺 (2-17)
𝑦;<= min g𝑇B, 𝑇C, … , 𝑇t, … , 𝑇JF<i ≠ 0 for 𝑟# ∈ 𝑅 (2-18)
𝑦`< = 𝑇Bg= 𝑇C= ⋯ = 𝑇JF<i ≠ 0 for 𝑔#∈ 𝐺 (2-19)
式(2-15)において,第1項と第2項はそれぞれ管轄地域全体のエリア巡視と個別巡視の 1年あたりの工数の総和を示す。目的関数は,管轄地域全体の巡視工数の最小化を示し ている。式(2-16)-(2-19)は制約条件を示す。式(2-16)と式(2-17)はそれぞれ,エリア巡視 と個別巡視グループの工数の上限を示している。前述したように,各巡視グループの工 数は1.0人日以下に抑える必要があるため,この上限を設定している。式(2-18)は,そ れぞれの管理エリアにおける巡視タイミングに関する制約である。それぞれのエリアの 巡視タイミングは,そのエリア内に設置されているエリア巡視対象電柱の持つ最短のタ イミングに設定する。式(2-19)は個別巡視グループの巡視間隔に関する制約である。個 別巡視グループは,同じ巡視タイミングの設定値を持つ電柱をグルーピングするため,
同じグループに属する電柱の巡視タイミングは全て同じである必要がある。
2.3.5 巡視計画生成アルゴリズム
提案アルゴリズムのフローチャートを図2-8に示す。提案アルゴリズムはグリーディ 法の一種である。管理エリアの巡視タイミングを1年ずつ延長しながら,それに伴って 発生する個別巡視対象をグループ化していくプロセスを繰り返し行う。その際に,それ ぞれの管理エリア𝑟#に巡視タイミング𝑦;<延長の優先度指標∆𝑓;<を定め,優先度指標∆𝑓;<の 最小値を持つ管理エリアから巡視タイミングを延長していく。巡視タイミング𝑦;<を持 つ管理エリア𝑟#に関する優先度指標∆𝑓;<を次式で表す。
∆𝑓;< = 𝑓0𝑦;<+ 15 − 𝑓0𝑦;<5 (2-15)
22
∆𝑓;<は,管理エリア𝑟#の巡視タイミング𝑦;<を1年延長する場合の目的関数の変化量を示 す。式(2-10)を用いて,管理エリア𝑟#の巡視タイミング𝑦;<を1年延長した場合と,現状 の場合の関数𝑓の値,つまり管轄地域全体で巡視工数を算出し,その差分を取る。具体 的には,管理エリア𝑟#の巡視タイミング𝑦;<を1年延長することによって管理エリア𝑟#に は,巡視タイミング𝑦;<の個別巡視対象が発生する。それによって,管理エリア𝑟#のエリ ア巡視対象から除外する。発生した個別巡視対象は近傍の同タイミングの個別巡視グル ープとグループ化する。この際のエリア巡視及び個別巡視グループの電柱間の移動工数
𝑑6;UVWXと営業所との往復移動工数𝑑;Z[\]6;#%は,起点と終点を営業所として巡回セールス
マン問題を解くことで得られる。ここでは,近似解法の2-opt法[73]によって解く。
もし∆𝑓;<< 0であれば,巡視工数が減少するため管理エリア𝑟#の巡視タイミングを1年 延長できる。しかし,∆𝑓;<≥ 0であれば,管理エリア𝑟#の巡視タイミングはそれ以上延長 できない。具体例を図2-9に示す。ここでは,管理エリアmの巡視タイミングが3年 の状態であり,それを4 年に延長することを考える。この際,管理エリアmは優先度 指標∆𝑓を持ち,その値が負の場合は,巡視タイミングの延長によって巡視工数が減少す る。巡視タイミングを 4 年に延長することで発生する 3 年の個別巡視対象を近傍の同 タイミングの個別巡視グループとグループ化する。優先度指標が正の場合は,巡視タイ ミングを延長しても巡視工数が減少しないため,延長できない。このように,巡視タイ ミング延長の優先度指標∆𝑓によって,巡視タイミングの延長が決定される。
図2-8と図2-10を用いて,提案アルゴリズムの処理について説明する。まずは初期 状態として,全ての管理エリア∀𝑟# ∈ 𝑅の巡視タイミングを 1 年と設定し,それぞれの 管理エリアに対して,優先度指標∆𝑓;<を算出する。図2-10に示すように,全ての管理エ リアの巡視タイミングを1年の状態とする。この初期状態では,まだ個別巡視対象がな い状態である。そのため,∆𝑓;<を算出する際には,近傍エリアの個別巡視対象とのグル ープ化を考える必要はない。
23
図2-8 提案アルゴリズムのフローチャート
図2-9 巡視タイミング延長の優先度指標の例
∀ri∈R, yri= 1
∀ri∈R
Df T
Df a rx F
a rx E yrx S
a E S
1 E d
a rx a ∀rj∈hx
Df T
a rx Df (yrx+1) T
Dfmax≧0
3 4 4
6 6 6
5
5 3
3 5 2 4
3 2
3 4 4
6 6 6
5
5
3 4 5 2
4
2 3
Df>0:
Df<0: