WESTERN JAPAN
ISSN 1340-9883
NEWS No.61
September. 2019
西部地区自然災害資料センタ-ニュ-スN D I C
九州大学西部地区自然災害資料センター
Natural Disaster Information Center of Western Japan
【特集】: 土砂災害対策への新たな技術の応用
巻頭言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・水野 秀明 2 渓流水・湧水を活用した土砂災害予測法の開発 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・地頭薗 隆 3
SAR解析データを用いた土砂災害の把握技術・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・松田 昌之 11
鹿児島県垂水市二川深港地区土石流災害の概要と対応について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・増田 貴文 17
熊本地震に伴う大規模災害の対策工事の事例と概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 山上 直人 23
キャプション
大分県中津市耶馬渓で発生した土砂災害写真 (平成 30 年 4 月 11 撮影:九州大学 水野 秀明)
土砂災害対策への新たな技術の応用
九州大学大学院農学研究院環境農学部門森林環境科学講座 准教授 水野秀明
土砂災害は大雨の最中に発生すると思われがちですが、思いもよらない時や場所で発 生することがあります。最近では、平成30年4月11日に大分県中津市耶馬渓町で発生 した大規模な崩壊による土砂災害が挙げられます。土砂災害は発生した頃の天候は晴れ もしくは曇りで、雨は降っていませんでした。また、平成28年4月14日から16日に かけて突然発生した熊本地震では、熊本県南阿蘇村立野地区をはじめ多くの場所で山腹 が崩壊したため、土砂災害が発生しました。さらに、平成27年7月には鹿児島県垂水 市二川を流れる深港川流域では、雨が降り終わった後に、大規模な崩壊が繰り返し生じ て、その都度土石流が流れ下りました。それによって、土石流の氾濫や国道の通行止め など土砂災害が発生しました。
このような土砂災害を予め軽減したり、土砂災害の発生後の二次的な土砂災害を防止 したりするためには、崩壊や土石流が生じる可能性の高い地域を予め抽出して対策を講 じることや、再び崩壊や土石流が発生したり氾濫したりしないよう対策を早急に講じる ことが求められます。
本号では、そのような対策についての新たな技術の開発に向けた研究や新しい技術の 現場への適用事例をご報告いたします。
(専門:森林保全)
巻頭言
渓流水・湧水を活用した土砂 災害予測法の開発
鹿児島大学農学部 地頭薗 隆
1.はじめに
土 砂 災 害 を 引 き 起 こ す 山 崩 れ は 、 山 地 斜 面 の 風 化 土 層 や 基 盤 岩 が 豪 雨 等 で 安 定 性 を 失 い 高 速 度 で 崩 落 す る 現 象 で あ り 、 斜 面 の 表 層 部 に 生 成 さ れ た 風 化 土 層 が 雨 水 の 浸 透 で 崩 れ る 表 層 崩 壊 や 風 化 し た 岩 盤 が 地 下 水 の 影 響 で 大 規 模 に 崩 れ る 深 層 崩壊などがある。
近 年 、 気 候 変 動 等 の 影 響 に よ る 記 録 的 な 大 雨 の 増 加 に 伴 っ て 、 深 層 崩 壊 に 代 表 さ れ る 深 い 地 下 水 が 関 与 し た 大 規 模 な 崩 壊(以下、地下水型崩壊という)が目立っ ている。このタイプは、崩壊土砂量が多い た め に 大 き な 被 害 を 出 し た り 、 崩 壊 土 砂 が 地 下 水 を 多 量 に 含 ん で 流 動 化 し て 広 範 囲 に 土 石 流 災 害 を 引 き 起 こ し た り す る 。 ま た 、 地 下 水 は 地 中 を ゆ っ く り 流 動 す る た め に 、 雨 が 止 ん で 長 時 間 経 過 し た 無 降 雨時に崩壊が発生することもある。
多 量 の 地 下 水 が 集 中 す る 地 下 構 造 を も つ 斜 面 は 、 地 下 水 の 排 水 シ ス テ ム が 地 下 侵 食 等 で 破 壊 さ れ た り 、 異 常 な 大 雨 に よ り 排 水 能 力 を 超 え る 地 下 水 が 集 中 し た り す る と 、 地 下 水 圧 が 上 昇 し て 深 層 か ら の 崩 壊 発 生 の 可 能 性 が 高 ま る こ と が 予 想 さ れる。
こ こ で は 、 地 下 水 型 崩 壊 に よ る 土 砂 災 害 の 事 例 と 、 そ れ ら の 災 害 地 の 現 地 調 査 に 基 づ く 崩 壊 発 生 危 険 箇 所 の 抽 出 や 警 戒 避 難 対 応 に 関 し て 水 文 学 的 立 場 か ら ア プ ローチした研究を紹介する。
2.地下水型崩壊による土砂災害 (1) 2010 年鹿児島県南大隅町の土砂災害
2010 年 7 月 4 日~8 日、南大隅町船石 川 流 域 の 火 砕 流 台 地 周 縁 で 崩 壊 が 繰 り 返 し発生した(図 -1)1)。崩壊発生時はほと んど雨が降っていなかったが、発生前の
1 カ月間に 1000mm を超える降雨量があ
った。崩壊斜面の地質は、柱状節理の発達 し た 亀 裂 の 多 い 溶 結 凝 灰 岩 と そ の 下 位 の 非溶結凝灰岩から構成される。崩壊直後、
そ れ ら の 地 層 境 界 か ら 多 量 の 湧 水 が み ら れ た こ と か ら 、 台 地 上 か ら 浸 透 し た 雨 水 は 溶 結 凝 灰 岩 層 の 亀 裂 を 通 っ て 非 溶 結 凝 灰 岩 層 に 達 し 、 地 層 境 界 を 流 動 し て 台 地 周 縁 か ら 流 出 し て い る と 考 え ら れ た 。 崩 壊 は 多 量 の 降 雨 に 伴 う 地 下 水 の 集 中 と 地 下 水 圧 の 上 昇 、 湧 水 付 近 の 侵 食 に よ る 溶 結 凝 灰 岩 層 の 不 安 定 化 が 原 因 し て 発 生 し た。
(2) 2015 年鹿児島県垂水市の土砂災害 2015 年 6月、平年の月降水量の 3倍に 達 す る 記 録 的 な 大 雨 に 見 舞 わ れ た 垂 水 市 深港川流域では、6 月から 9 月にかけて 崩 壊 が 繰 り 返 し 発 生 し た 。 崩 壊 土 砂 は 土 石流となって下流を襲い、農地、宅地、国 道に被害をもたらした(図 -2)2)。崩壊斜 面 の 地 質 は 、 火 山 活 動 に 伴 う 降 下 火 砕 物 や 火 砕 流 堆 積 物 と そ の 下 位 の 堆 積 岩 か ら 構 成 さ れ る 。 降 下 火 砕 物 や 火 砕 流 堆 積 物 の地層は、透水性の異なる層が重なり、複 数箇所から湧水がみられた。崩壊は、主に 湧 水 付 近 の 侵 食 に よ る 上 部 層 の 不 安 定 化 が原因して発生した。
(3) 2018 年大分県耶馬溪町の土砂災害 2018 年 4 月 11 日未明、中津市耶馬溪 町 金 吉 で 降 雨 が な い と き に 大 規 模 な 崩 壊 が発生し、6 名が亡くなった(図 -3)3)。 崩 壊 斜 面 の 地 質 は 、 火 砕 流 堆 積 物 と そ の 下 位 の 火 山 岩 類 か ら 構 成 さ れ る 。 火 砕 流 堆積物の溶結部は柱状節理が 発達して急
図 -1 2010 年 南 大 隅 町 船 石 川 流 域 の 土 砂 災 害
崖 を な し て お り 、 そ の 直 下 に は 崩 壊 の 繰 り 返 し に よ っ て 崖 錐 が 発 達 し て い る 。 崩 壊直後、崩壊地内に湧水がみられ、その付 近 の 岩 石 は 地 下 水 に よ っ て 粘 土 化 し て い た。崩壊は、湧水付近の地下水排水システ ム の 破 壊 に よ り 地 下 圧 が 徐 々 に 上 昇 、 あ る い は 、 湧 水 付 近 で 長 年 の 侵 食 に よ り 小 規 模 な 崩 壊 が 発 生 、 連 続 し て 上 部 の 崖 錐 堆 積 物 と そ の 下 位 の 強 風 化 層 が 大 規 模 に 崩壊したと推定される。
3.渓流水・湧水を活用した災害予測
図 -4 は、地下水型崩壊の危険箇所抽出 と 警 戒 避 難 対 応 に 水 文 情 報 を 活 用 す る 方 法の提案である 4)。具体的には、渓流水や 湧 水 を 活 用 し て 地 下 水 の 集 中 と い う 視 点 で 崩 壊 発 生 の 危 険 性 が あ る 斜 面 を 段 階 的 に 抽 出 し 、 さ ら に 危 険 斜 面 か ら の 湧 水 を 監 視 し て 警 戒 避 難 対 応 を 行 う も の で あ る 。 (1) 渓流水から危険箇所抽出
①危険渓流の抽出では、数 km2未満の 小 流 域 を 設 定 し て 、 降 雨 が 一 週 間 以 上 な かった後に、渓床に基盤岩が露出してい
る な ど 、 渓 流 水 が 伏 流 し て い な い 箇 所 で 流量を計測する(図 -5)。測定される流量 は、流域面積が小さく、降雨後一週間以上 経 過 し て 測 定 し て い る の で 、 基 底 流 量 を 把 握 し て い る と 考 え て よ い 。 同 時 に ポ ー タブル電気伝導度(EC)計を用いて渓流 水 ECを測定する(図 -5)。EC は渓流水中 の 溶 存 イ オ ン の 総 量 で あ り 、 地 下 水 が 流 動 す る 過 程 で 岩 石 か ら 溶 出 す る イ オ ン を 取 り 込 む こ と か ら 、 多 量 の 地 下 水 が 湧 出 している流域は渓流水 ECが高くなる 。 渓流水 EC が高くて比流量が大きい流域 は 、 地 形 的 流 域 界 を 越 え た 地 下 水 が 流 域 内 に 流 入 し て い る 可 能 性 が あ り 、 地 下 水 型 崩 壊 の 恐 れ の あ る 流 域 と し て 抽 出 す る 。
なお、渓流 水 ECは人家、畜産施設など の 排 水 の 影 響 を 受 け て 高 い 値 を 示 す こ と が あ る た め 、 渓 流 水 が 人 為 的 な 影 響 を 受 け て い る 可 能 性 の あ る 箇 所 で は シ リ カ
(SiO2) 濃 度 を 活 用 し て 影 響 の 有 無 を 判 断 す る 。 シ リ カ 濃 度 は 地 下 水 が 岩 石 と 接 触 し て 起 こ る 化 学 反 応 に よ っ て 溶 出 す る こ と か ら 、 多 量 の 地 下 水 が 流 出 し て い る 渓流水は ECと同様に高くなる傾向があ る。シリカ濃度の測定は EC 測定に比べ て 手 順 が 煩 雑 で あ る が 、 シ リ カ は ほ と ん ど が 鉱 物 由 来 で あ る た め に 人 為 的 な 影 響 を受けにくいという長所がある。
図 -2 2015 年 垂 水 市 深 港 川 流 域 の 土 砂 災 害
図 -3 2018 年 中 津 市 耶 馬 溪 町 の 土 砂 災 害
図 -4 渓 流 水 ・ 湧 水 を 活 用 し た 地 下 水 型 崩 壊 の 危 険 個 所 抽 出 と 警 戒 避 難 対 応
① 危険渓流の抽出〈流域レベルの評価〉
渓流水の流量と電気伝導度(EC)の測定
⇒渓流水ECが高くて比流量が多い流域の抽出
地形的流域界を越えた地下水流入
⇒深い地下水が関与する崩壊の恐れのある流域
② 危険斜面の抽出〈斜面レベルの評価〉
①で抽出された流域内で湧水の分布調査
湧水流量が多い斜面の背後には地下水集中
⇒深い地下水が関与する崩壊の恐れがある斜面
③警戒避難対応〈湧水センサーによる評価〉
崩壊の恐れのある斜面において湧水観測
⇒湧水を指標とした警戒避難対応
② 危 険 斜 面 の 抽 出 で は 、 ① で 抽 出 し た 流 域 に お い て 湧 水 の 分 布 を 調 査 す る 。 湧 水 流 量 が 多 い 斜 面 の 背 後 に は 地 下 水 が 集 中 し て お り 、 地 下 水 型 崩 壊 の 恐 れ が あ る 斜面と判断する。
(2) 湧水を指標にした警戒避難対応 地 下 水 型 崩 壊 が い つ 起 こ る か と い う 、 時 間 の 予 測 に 関 係 す る 警 戒 避 難 対 応 を 検 討 す る 。 こ の タ イ プ の 崩 壊 は 雨 が 止 ん で 長 時 間 経 過 し て 発 生 す る こ と が あ り 、 警 戒 避 難 対 応 に は 時 間 経 過 の 条 件 も 考 え な ければならない。手法として、崩壊発生危 険 箇 所 を 抽 出 す る 水 文 調 査 で 見 い だ さ れ た 湧 水 を 指 標 に し て 地 下 水 状 態 を 把 握 し 、 崩 壊 発 生 の 危 険 度 を 判 断 す る 装 置 ( 湧 水 センサー)を開発した 5)。③警戒避難対応 は 、 湧 水 流 量 の 変 化 か ら 地 下 水 型 崩 壊 発 生 の 危 険 性 を 判 断 す る も の で あ る 。 湧 水 センサーは、電極式流量計、変換・記録装 置、電源装置、太陽電池、携帯電話伝送 装 置等から構成される(図 -6)。電極式流量 計 は 、 塩 ビ パ イ プ に 取 り 付 け た 鉛 直 方 向 1cm 間隔の電極によ って測定される水位 から流積を求め、流積にマニング式によ
る 流 速 を 乗 じ て 湧 水 流 量 を 算 出 す る 装 置 で あ る 。 塩 ビ パ イ プ 径 の 大 き さ は 設 置 点 の 湧 水 流 量 で 決 定 す る 。 測 定 値 は 携 帯 電 話 を 使 っ て リ ア ル タ イ ム で サ ー バ ー に 送 信 さ れ 、 イ ン タ ー ネ ッ ト を 介 し て パ ソ コ ンやスマートフォンで閲覧できる。
湧 水 流 量 か ら 次 の よ う な 崩 壊 発 生 の 警 戒対応を考えている(図 -7)。湧水が増加 中 の 場 合 は 、 雨 が 止 ん だ 後 で も 基 岩 内 の 地 下 水 位 が 上 昇 中 で あ り 、 崩 壊 の 危 険 性 も増加中、また、湧水が多いまま頭打ち状 態 が 続 く 場 合 は 地 下 水 排 水 シ ス テ ム の 能 力 を 超 え た 地 下 水 が 集 中 し て い る 可 能 性 が あ り 、 基 岩 内 の 地 下 水 位 が 上 昇 し て 崩 壊の危険性が継続している。さらに、湧水 が 急 激 に 減 少 し た 場 合 は 山 体 の 地 下 水 排 水 シ ス テ ム が 地 下 侵 食 等 で 破 壊 さ れ た 可 能 性 が あ り 、 基 岩 内 の 地 下 水 位 が 急 上 昇 し て 崩 壊 発 生 の 恐 れ が あ る 。 以 上 の 状 況 が 降 雨 終 了 後 も み ら れ る 時 は 警 戒 対 応 を 継 続 し な け れ ば な ら な い 。 警 戒 対 応 の 解 除 は 湧 水 流 量 が 初 期 の 流 量 に ゆ っ く り と もどった時と考えている。
4.地下水型崩壊発生の予測事例 (1) 鹿児島県南大隅町の火砕流台地
南 大 隅 町 の 火 砕 流 台 地 を 対 象 に 実 施 し た地下水型崩壊の危険斜面抽出と警戒避 図 -5 渓 流 の 水 文 調 査
湧水
図 -6 湧 水 セ ン サ ー の シ ス テ ム 構 成
流速と流積から渓流水の流量測定
岩盤
流速測定
EC計
タブレットPC
電気伝導度測定
難対応の事例を示す 6)。図 -8は、火砕流 台地周縁に設けた42流域(流域面積0.001
~1.20km2、平均 0.17km2)の下流端で測
定した渓流水の流量と EC をプロットし たものである。42 流域の渓流水 EC は通 常の河川水より高い 10mS/m 以上を示し ており、流域内に深い地下水が流出して いると判断される。一方、比流量は一様 な 分 布 を 示 さ ず 、 台 地 周 縁 か ら 多 量 の 地 下 水 が 流 出 し て い る 流 域 と そ う で な い 流 域 が 存 在 す る 。 地 下 水 型 崩 壊 の 恐 れ の あ る 流 域 を 地 下 水 の 集 中 と い う 視 点 で 抽 出 す る に あ た り 、 こ こ で は 渓 流 水 EC が
10mS/m 以上かつ比流量が 0.032m3/s/km2
以上(42 流域の平均流量)の流域を抽出 した。それらの最上流斜面(図 -8 の紫色 の実線)は、深い地下水が多量に集まって い る と 判 断 さ れ る こ と か ら 地 下 水 型 崩 壊 発生の恐れがある。2010 年と 1966 年に 発 生 し た 崩 壊 は こ れ ら の 斜 面 に 位 置 し て おり、抽出した斜面は地下水型崩壊発生 の危険性が高く、崩壊土砂が地下水を含
図 -8 南 大 隅 町 の 火 砕 流 台 地 周 縁 に お け る 地 下 水 型 崩 壊 危 険 個 所 の 抽 出 例
図 -7 湧 水 を 指 標 に し た 崩 壊 危 険 度 の 評 価 14 15 16 17 18 2013/8/23
湧水 流 量 が増 加 中
湧水 流 量 が多 い まま 頭打 ち 状 態が 続 く場 合
湧水 流 量 が急 激 に減 少 雨
量
流 量
流 量
流 量
ん で 大 規 模 な 土 石 流 と な っ て 流 下 す る 恐 れがある。
崩 壊 発 生 の 危 険 性 を 判 断 し て 警 戒 避 難 対 応 を 行 う た め に 、 湧 水 セ ン サ ー を 台 地 東 側 の 1966 年 崩 壊 地 に 隣 接 す る 斜 面 に 設置した(図 -9)。火砕流台地の地下構造 は 、 上 層 が 柱 状 節 理 の 発 達 し た 亀 裂 の 多 い溶結凝灰岩、その下層が非溶結凝灰岩 であり、溶結凝灰岩層は透水層、非溶結凝 灰 岩 層 は 難 透 水 層 の 役 割 を し て い る 。 台 地 に 降 っ た 雨 は 浸 透 し て 地 下 水 と な り 、 こ れ ら の 地 層 境 界 を 流 動 し て 台 地 周 縁 の 急斜面から湧出していると推定される。
こ の 地 下 構 造 に 1 段 タ ン ク モ デ ル を 適 用 し て 、 降 雨 と 地 下 水 流 出 の 応 答 を 解 析 した。タンクモデルの流出孔(湧水)と浸 透孔(深部浸透)の係数は、湧水センサー の 観 測 デ ー タ か ら 同 定 し た 。 こ の 地 下 水 流 出 モ デ ル を 用 い て 既 往 の 崩 壊 発 生 時 の 湧 水 流 量 を 計 算 し 、 崩 壊 の 警 戒 避 難 基 準 を 策 定 す る 。 調 査 地 の 台 地 西 側 に 位 置 す る船石川流域では、2010 年 6~7 月の大 雨で崩壊が発生した。図 -10は、調査地に 近 い 田 代 ア メ ダ ス 雨 量 か ら 地 下 水 流 出 モ デ ル で 2010 年 の 湧 水 流 量 を 計 算 し た も の で あ る 。 船 石 川 流 域 で 崩 壊 が 発 生 し た 時期の湧水センサーの湧水流量は 10 L/s 程 度 ま で 増 加 し て お り 、 こ の 値 を 地 下 水 型 崩 壊 発 生 の 危 険 性 が 高 ま る 基 準 値 と し た。
2015 年、九州南部は前線の停滞によっ て 梅 雨 期 の 降 水 量 が 多 く な り 、 特 に 薩 摩 半 島 の 南 部 か ら 大 隅 半 島 に か け て は 平 年 の 6 月降水量の 3 倍に達したところもあ った。図 -11には、2015年6 月に大雨に見 舞 わ れ た 際 の 湧 水 流 量 の 変 化 を 示 す 。 図 中 に は 地 下 水 型 崩 壊 発 生 の 危 険 性 が 高 ま る湧水流量 10 L/s を示している。梅雨に 入った 6 月 2 日から繰り返し大雨に見舞 われ、湧水流量が増加している。6 月 16 日 頃 か ら は 崩 壊 発 生 の 危 険 性 が 高 ま っ た ことがわかる。6 月 19 日から雨が降らな い 日 が 続 い た が 、 湧 水 流 量 は ほ と ん ど 減 少 せ ず 、 台 地 内 の 地 下 水 位 は 高 い 状 態 が 継続していたと推定される。南大隅町の 防災担当者は 、湧水センサーの Web画面
を 監 視 し な が ら 、 住 民 に 雨 が 止 ん だ 後 も 警 戒 が 必 要 で あ る こ と を 伝 え た 。 地 下 水 型 崩 壊 が 発 生 す る ほ ど の 多 量 の 大 雨 の 場 合 は 、 土 砂 災 害 警 戒 情 報 等 の 防 災 情 報 に 加 え て 、 湧 水 セ ン サ ー の 湧 水 流 量 も 警 戒 避 難 対 応 に 役 立 て る こ と が で き る と 考 え る。
(2) 鹿児島県垂水市の姶良カルデラ壁 垂 水 市 深 港 川 流 域 の 崩 壊 は 、 雨 が 止 ん で 長 時 間 が 経 過 し て か ら 発 生 し た た め に 住民等の警戒避難対応が困難であった。
崩 壊 直 後 か ら ビ デ オ カ メ ラ に よ る 崩 壊 地 の 監 視 が 開 始 さ れ た 。 そ の 動 画 を 使 っ て 崩 壊 地 か ら の 湧 水 流 量 の 減 水 割 合 を 観 測 す る と 、 無 降 雨 期 間 で も 減 水 が 非 常 に 小さいことが判明した。そこで、半減期の 長 い 実 効 雨 量 を 指 標 に 警 戒 避 難 基 準 を 設 定することとした。2015 年の崩壊は、半 減期40日の実効雨量が1100mmを超えた 時に発生していた。そこで、2016年の梅 雨期は、半減期 40 日の実効雨量を指標に 警 戒 避 難 基 準 を 設 定 す る こ と を 提 案 し た 。
す な わ ち 、 半 減 期 40 日 の 実 効 雨 量
1000mm で避難勧告、 同 1100mm で避難
指示とした(図 -12)。2016 年の梅雨も2015 年と同様の大雨が続き、6 月28 日に避難 勧告、29 日に避難指示が発令され、その 一 日 後 の 30 日 に 崩 壊 と 土 石 流 が 発 生 し た 。 湧 水 観 測 に 基 づ く 半 減 期 の 長 い 実 効 雨 量 を 指 標 に し た 警 戒 避 難 対 応 の 手 法 が 成功した事例である。
図 -9 南 大 隅 町 に 設 置 し た 湧 水 セ ン サ ー
図 -12 垂 水 市 深 港 に お け る 地 下 水 を 指 標 に し た 警 戒 避 難 対 応 例 湧
水流 量 L/s 時 間雨 量 mm
2010年
計算値
10 L/s
2010年船石川深層崩壊発生
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 深部浸透 湧水
タンク モデル
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
時 間雨 量 mm/h
湧水 流量 L/s
累 加雨 量 mm
地下水型崩壊発生の
危険流量10 L/s
6/1 6/5 6/10 6/15 6/20 6/25 6/30
図 -10 南 大 隈 町 の 火 砕 流 台 地 周 縁 の 船 石 川 流 域 に お け る 深 層 崩 壊 発 生 時 の 湧 水 流 量 の 再 現
時間雨量mm/h半減期40日 実効雨量mm崩壊地からの湧水 (7/6流量を10とした値)
6月29日避難指示 6月28日避難勧告 輝北アメダス
図 -11 南 大 隈 町 の 火 砕 流 台 地 周 縁 に お け る 2015 年 6 月 の 大 雨 時 の 湧 水 流 量
図 -12 垂 水 市 深 港 に お け る 地 下 水 を 指 標 に し た 警 戒 避 難 対 応 例
(3) 大分県耶馬溪町の火砕流台地
2018 年 4 月 11 日に大規模な崩壊が発 生 し た 耶 馬 溪 町 の 火 砕 流 台 地 を 対 象 に 水 文調査を実施した 7)。図 -13は、火砕流台 地周縁に設けた 90 流域(流域面積 0.004
~2.07km2、平均 0.104km2)の下流端で測
定した渓流水の流量と EC をプロットし たものである。90 渓流のうち通常河川よ り高い渓流水 EC10mS/m 以上は 13 渓流、
こ の う ち 90 流 域 の 流 量 合 計 を 全 流 域 面 積で除した平均比流量 0.005m3/s/km2以上 は 6 渓流であり、シリカ濃度によるチェ ック後も 6 渓流であった。図 -13において 流域界を紫色で示した 6 渓流は地形的流 域 界 を 越 え て 地 下 水 が 集 中 す る 地 下 構 造 を有すると推定される。6流域のうち 5 渓 流 は 台 地 の 東 側 に 分 布 し て お り 、 台 地 に 浸 透 し た 雨 水 は 地 下 水 と し て 台 地 の 東 側 へ流動していることがわかる。この 5 渓 流のひとつで4月11日に大規模な崩壊が 発生した。
崩壊地内の標高 220m 付近から湧出す る地下水の流量と EC を測定すると、流
量 0.55L/sec、EC12mS/m であった。湧水
付近における地形的流域面積は 0.007km2 であり、比流量は 0.079m3/s/km2 となる。
こ の 値 は 90 流 域 の 平 均 比 流 量 0.005
m3/s/km2 の約 16 倍である。したがって、
湧 水 付 近 に お け る 水 文 的 流 域 面 積 は 、 地 形的流域面積の約 16倍と大きく、崩壊し た 斜 面 に は 広 範 囲 の 地 下 水 が 集 中 し て い る地下構造が推定される。
5.おわりに
地 下 水 型 崩 壊 に よ る 土 砂 災 害 の 事 例 を 説 明 し 、 そ の 崩 壊 発 生 危 険 箇 所 の 抽 出 や 警 戒 避 難 対 応 に 関 し て 水 文 学 的 ア プ ロ ー チによる研究を紹介した。現在、土砂災害 発 生 の 恐 れ が あ る 区 域 指 定 ( 土 砂 災 害 警 戒区域等)は、主に地形地質条件に基づい ている。2017 年・2012年九州北部豪雨お よび 2016年熊本地震の際は、地下水型崩
渓流水
なし 0.01 0.05 比流量 (m3/s/km2)
渓流水 なし
0 1 km
国土地理院の5mメッシュ標高データから作成したCS立体図
中津市耶馬溪町 2018年4月11日 大規模崩壊発生
火砕流台地
図 -13 耶 馬 溪 町 の 火 砕 流 台 地 周 縁 流 域 に お け る 地 下 水 が 集 中 し た 流 域 の 抽 出
壊 が 危 険 箇 所 と し て 指 定 さ れ な い 30 度 未 満 の 斜 面 で 発 生 し た 。 地 下 水 集 中 の 水 文 条 件 を 加 え る こ と は 土 砂 災 害 の 危 険 区 域 指 定 の 精 度 を 高 め る こ と に な り 、 こ れ ま で の 手 法 で は 抽 出 さ れ な か っ た 危 険 斜 面が抽出できる可能性がある。
一 方 、 豪 雨 時 に 土 砂 災 害 発 生 の 恐 れ が 生 じ た と き に 発 表 さ れ る 土 砂 災 害 警 戒 情 報 は 、 降 雨 ピ ー ク で 発 生 す る こ と が 多 い 表 層 崩 壊 や 土 石 流 を 対 象 に し て お り 、 本 研 究 で 対 象 と し て い る 地 下 水 型 崩 壊 の よ う に 時 間 差 が あ る 大 規 模 崩 壊 は 含 ま れ て いない。また、地下水量が多いときに地震 が 発 生 す る と 崩 壊 土 砂 の 移 動 距 離 が よ り 長 く な り 、 広 範 囲 に 被 害 を 及 ぼ す 可 能 性 が あ る 。 湧 水 流 量 の 変 化 を リ ア ル タ ム で 把 握 す る こ と は 、 地 下 水 型 崩 壊 が 発 生 し や す い 火 山 地 域 に お け る 大 雨 や 地 震 時 の 防災対策に有効である。
最 近 の 土 砂 災 害 を み る と 、 明 ら か に 大 規 模 な 土 砂 移 動 現 象 が 多 発 し て い る 。 気 候 変 動 等 の 影 響 に よ る 集 中 豪 雨 、 局 地 的 大雨、大型台風等の増加に伴って、これま で に 経 験 し た こ と が な い 大 規 模 な 土 砂 災 害 の 発 生 リ ス ク が 各 地 で 高 ま っ て い る 。 降 水 予 測 の 精 度 が さ ら に 高 ま れ ば 、 予 測 さ れ る 降 水 量 に 合 わ せ て 土 砂 災 害 の 警 戒 区 域 の 範 囲 や 警 戒 体 制 の レ ベ ル を 設 定 す る 仕 組 み も 必 要 に な る と 考 え ら れ る 。 た とえば、「今後 400mm を超えるような大 雨が予想される」等が発表された場合は、
警 戒 区 域 や 警 戒 体 制 を 拡 大 し て 大 規 模 災 害 に 備 え る 、 同 時 に 住 民 に ど の よ う な 対 応 を 求 め る か 、 な ど を 具 体 的 に 検 討 す る 時 代 に 入 っ た と 思 っ て い る 。 そ う い っ た 具 体 的 な 対 策 に 寄 与 す る た め に 、 本 論 で 説 明 し た 大 規 模 土 砂 災 害 を 引 き 起 こ す 地 下 水 型 崩 壊 の 発 生 場 と 発 生 時 期 の 予 測 研 究 を 一 層 推 進 す る 必 要 が あ る と 考 え て い る。
末 筆 で あ る が 、 本 論 で 紹 介 し た 研 究 成 果 は 、 当 時 研 究 室 に 在 籍 し て い た 学 生 諸 氏 と 実 施 し た も の で あ る 。 こ こ に 記 し て 謝意を表します。
引用文献
1) 下川悦郎・小山内信智・武澤永純・地 頭薗隆・寺本行芳・権田豊(2010):2010 年(平成 22年)7 月鹿児島県南大隅町で 発生した連続土石流災害、砂防学会誌、63
(3)、p.50-53.
2) 綾織孝文(2017):平成 27 年鹿児島県 垂 水 市 二 川 深 港 地 区 土 石 流 災 害 の 概 要 と その後の対応、砂防学会誌、70(1)、p.60- 67.
3) 久保田哲也・地頭薗隆・長井義樹・清 水収・水野秀明・野村康裕・鈴木大和・山 越 隆 雄 ・ 厚 井 高 志 ・ 大 石 博 之 ・ 平 川 泰 之
(2018):2018年 4 月11 日大分県中津市 耶 馬 溪 町 で 発 生 し た 斜 面 崩 壊 、 砂 防 学 会 誌、71(2)、p.34-41.
4) 地頭薗隆(2014):渓流水の電気伝導度 を 用 い た 深 層 崩 壊 発 生 場 の 予 測 、 砂 防 学 会誌、66(6)、p.56-59.
5) 地頭薗隆・石塚忠範・能和幸範・柳町 年輝(2014):深層崩壊警戒対応の湧水セ ンサーの開発、砂防学会誌、66(5)、p.49
-52.
6) 地頭薗隆(2018):最近の土砂災害の特 徴 と 防 災 研 究 、 一 般 社 団 法 人 日 本 応 用 地 質学会九州支部・九州応用地質学会会報、
39、p.2-7.
7) 地頭薗隆・宮本祐成・天野祐 一朗・清 崎淳子(2019):大分県耶馬溪町の火砕流 台 地 周 縁 に お け る 渓 流 水 ・ 湧 水 を 活 用 し た崩壊予測、2019年度砂防学会研究発表 会概要集、p.525-526.
SAR 解 析 デ ー タ を 用 い た 土 砂災害の把握技術
国土交通省 国土技術政策総合研究所 松田 昌 之
1.はじめに
従来 か ら 土砂 災 害の 把 握に 関 し ては 、 光 学衛 星 画 像や 空 中写 真 を用 い た 判読 の ほ か、 ヘ リ コプ タ ーと い った 航 空 機に よ る目 視調 査 、 地上 調 査な ど が行 わ れ てい る 。近 年は さ ら に、 無 人飛 行 機( ド ロ ーン 等 )の 活用 も 進 んで い る。 し かし こ れ らの 調 査手 法は 、 調 査の 進 捗が 天 候に 大 き く左 右 され ると い っ た課 題 があ る 。
平成 26 年には、(国研)宇宙航空研究 開発機構(JAXA)により、地球観測衛星
ALOS-2(だいち 2 号)が打ち上げられ、
高 分 解 能 の 合 成 開 口 レ ー ダ ー (SAR: Synthetic Aperture Radar)の実用体制が整 った。合成開口レーダー(SAR)衛星は、
衛 星 か ら マ イ ク ロ 波 を 地 表 に 向 け て 斜 め 下 方 に 照 射 し 、 そ の 反 射 波 の 散 乱 強 度 や 位 相 を 観 測 す る こ と で 、 地 表 面 の 状 況 を 把 握 す る こ と が で き る 能 動 型 ( ア ク テ ィ ブ)センサである。そのため、昼夜・天候 を 問 わ ず 観 測 す る こ と が 可 能 で あ る 。 悪 天 候 が 継 続 す る こ と が 多 い 豪 雨 災 害 な ど 、 土 砂 災 害 の 発 生 状 況 を 迅 速 に 把 握 す る こ と が で き 、 災 害 対 応 の 初 動 時 の 効 率 的 な 被 害 状 況 把 握 に 活 用 さ れ 、 そ の 後 の 調 査 の 効 率 化 を 図 る た め の 資 料 と な る こ と も 期待される。
本稿ではSAR観測の基本原理等を整理 し、土砂災害分野における衛星 SAR 観測 の事例について紹介する。
2.合成開口レーダー( SAR)観測の基 本原理と特性
合 成 開 口 レ ー ダ ー 観 測 は 、 衛 星 等 が 自 ら マ イ ク ロ 波 を 地 表 面 に む け て 斜 め 方 向 に 照 射 し 、 地 表 面 等 か ら 跳 ね 返 る マ イ ク ロ 波 の 強 度 を 観 測 す る 手 法 で あ る 。 こ の 強 度 は 、 レ ー ダ ー か ら 送 信 さ れ た マ イ ク ロ 波 に 対 す る 対 象 物 の 散 乱 の 強 さ を 示 し 、
後方散乱係数と呼ばれる。
ま た 、 得 ら れ る 画 像 は マ イ ク ロ 波 の 強 度 を 示 す た め 、 空 中 写 真 等 の 光 学 画 像 と は見え方が異なる。さらに、以下のような 観 測 手 法 に 起 因 す る 画 像 の 歪 み や 倒 れ こ みが生じる(図 -1)。
1)フォアショートニング
観 測 対 象 物 の 高 さ に 応 じ て 、 実 際 よ り も観測点側に近づくように歪む現象。
2)レイオーバ
急 峻 な 山 地 や 高 い 建 物 な ど 、 観 測 域 に 極 端 な 高 さ の 変 化 が あ る 場 合 、 山 頂 部 な ど の 高 標 高 部 で は 、 周 囲 よ り も 観 測 点 と の 距 離 が 短 く な る た め に 反 射 波 の 受 信 順 序に逆転が生じる。これにより、観測値の 画 像 化 の 際 に 投 影 位 置 が 重 複 ・ 逆 転 し て しまう現象。
3)レーダーシャドウ
山 地 や 建 物 な ど 高 い 遮 蔽 物 が あ る 場 合 に 、 レ ー ダ ー の 照 射 方 向 の 裏 側 に レ ー ダ ーが到達せず、影が生じる現象。このエリ アでは、データを取得できない。
一 般 に 、 照 射 さ れ た マ イ ク ロ 波 の 方 向 と 地 表 面 の 法 線 と の な す 角 を 局 所 入 射 角 と 呼 び 、 こ の 角 度 の 関 係 に よ り レ イ オ ー バ や レ ー ダ ー シ ャ ド ウ 等 の 歪 が 生 じ 、 判 読 の し や す さ に も 大 き な 影 響 を 与 え る
(図 -2)。
また、ALOS-2 は日本 上空を昼夜それぞ
れ 12時頃に通過し、1日 2 回の観測機会 がある。ただし、レーダーの照射角度や観 測 幅 に は 限 度 が あ る た め 、 1 日 で 観 測 で き る 場 所 は 限 ら れ る 。 観 測 値 は 後 方 散 乱 強度の画像として提供される。1時期の観 測 デ ー タ だ け で 活 用 さ れ る 場 合 も あ る が 、 本 稿 で は よ り わ か り や す く 、 近 年 の 主 要 な利用手法である災害前後の 2 時期の観 測データによるカラー合成SAR画像を用 いた土砂移動域の把握事例を紹介する。
2 時期のカラー合成 SAR 画像は、観測 仕様(衛星、観測モード、軌道、入射角な ど ) が 同 じ 条 件 で 得 ら れ た 複 数 時 期 の 画 像 セ ッ ト を 用 い て 、 赤 バ ン ド に 災 害 前 の 画 像 を 、 緑 と 青 の バ ン ド に 災 害 後 の 画 を 割り当てたものである。これにより、災
「 災 害 時 の 人 工 衛 星 活 用 ガ イ ド ブ ッ ク 」よ り 引 用
害 前 後 を 比 較 し 、 後 方 散 乱 係 数 が 災 害 前 の 方 が 大 き い 場 合 に は 赤 色 に 、 災 害 後 の 方が大きい場合には青色に表示される。
多 く の 崩 壊 は 樹 木 等 の あ る 山 地 で 発 生 し 、 凸 凹 の 大 き な 森 林 域 か ら 比 較 的 滑 ら か な 崩 壊 地 面 に 変 化 す る た め 、 後 方 散 乱 係数が減少する(=赤色で示される)。逆 に 、 畑 地 や 水 田 な ど 平 坦 な 土 地 に 土 砂 が 堆 積 し た 場 合 に は 、 堆 積 土 砂 に よ り 地 表 面の凹凸が増え、後方散乱係数が増加し、
青色で表示される。また、天然ダム等によ る 湛 水 域 は 、 山 林 や 谷 底 部 の 畑 地 等 が よ り 平 坦 な 水 面 へ 変 化 す る た め 、 後 方 散 乱 係 数 が さ ら に 小 さ く な り 、 相 対 的 に 災 害 前 の 後 方 散 乱 係 数 が 大 き い 赤 色 で 表 示 さ れる。
このように2時期のカラー合成SAR画 像 を 用 い て 、 災 害 前 後 の 色 の 変 化 に 着 目 し、土砂移動域の判読等を行う。
3.過去の災害における土砂移動域判 読事例
本稿では、近年の 2 時期の観測データ によるカラー合成SAR画像を用いた土砂 移動域の判読事例として、平成 30 年北海 道胆振東部地震、平成 29年九州北部豪雨、
平成 27年熊本地震について紹介する。
(1)平成 30 年 北海道胆振東部地震 平成30年9月6日 の早朝に北海道の胆 振地方中東部でマグニチュード 6.7 の地 震が発生し、厚真町では震度 7 を記録し た 。 震 源 の 厚 真 町 付 近 に 多 数 の 崩 壊 が 発 生した。発災当日の 9 月 6日には SAR 画 像 の 緊 急 撮 影 が 実 施 さ れ た 。 災 害 前 後 の SAR 画像を用いたカラー合成画像により、
崩壊集中域の把握が行われた。
2 時期のカラー合成 SAR 画像では、山 襞 に は 赤 色 の 領 域 が 密 集 し 、 谷 底 部 に は 土 砂 の 堆 積 域 と 思 わ れ る 青 色 の 領 域 が 確 認 さ れ 、 厚 真 町 の 山 間 部 に 多 く の 崩 壊 地 が密集していることを把握した(図 -3 上)。
その後 9 月 10 日に撮影された光学衛星
(SPOT6/7)画像において茶色で示される
崩 壊 地 の 密 集 域 と 2 時 期 の カ ラ ー 合 成 SAR 画像で把握した赤色の密集域がほぼ 一致していることが確認された(図 -3 下)。
さ ら に 、 災 害 後 に 観 測 さ れ た デ ー タ の 比 較 か ら 天 然 ダ ム に よ り 生 じ た 湛 水 域 も 確認された。
日高幌内川流域では、災害後の 9 月20 日と10月4日の2時期のカラー合成SAR 画像による判読で、谷底部が赤色(後日画 像 の 方 が よ り 滑 ら か な 地 表 面 ) を 示 す 場 所が確認された(図 -4 上)。この地点は 10 月 3 日のヘリ調査において、天然ダムに よ る 湛 水 域 が 生 じ て い た こ と が 確 認 さ れ た場所であった(図 -4 下)。
また、ヤチセ沢川においても、同様に災 害後の 9 月 20 日と 10 月 4 日の 2 時期の カラー合成 SAR画像では、谷底部が赤色 を示す領域が確認される(図 -5 上)。
図 -1 SAR 観 測 に よ る 地 形 の 歪 み 等 の 影 響
図 -2 SAR 観 測 に お け る 地 表 面 の 局 所 入 射 角 山 下 ら (2019)よ り 引 用
この場所は、10 月 3 日のヘリ調査によ り 湛 水 域 が 生 じ て い る こ と が 確 認 さ れ た 地点である(図 -5 下)。
こ の よ う に 、 災 害 前 後 の 画 像 を 用 い た 土砂移動域の判読だけでなく、災害後も 複 数 回 継 続 的 な 観 測 を 行 う こ と に よ り 、 災 害 後 に 徐 々 に 形 成 さ れ る 湛 水 域 を 把 握 することもできる。
(2)平成 29 年九州北部豪雨
平成 29 年 7 月 5 日から 6 日にかけて、
梅雨前線の影響で、線状降水帯が形成・維 持され、九州北部地方で総降水量 500 ミ リ を 超 え る 記 録 的 な 大 雨 と な っ た 。 福 岡 県、大分県の両県で死者 37 名行方不明者
4名の人的被害の他、多くの家屋の全半壊 や床上浸水 など、甚大な被害が発生した。
7 月 7日には JAXA により衛星 SAR の 緊急観測が実施され、朝倉市、東峰村、日 田市を中心に国総研で衛星SAR画像を用 い た 土 砂 移 動 域 の 判 読 を 実 施 し た 。 利 用 した画像は平成 28年4月29日(災害前)、
平成 29年 7 月7 日(災害後)より作成し た 2 時期のカラー合成 SAR 画像である。
こ れ に よ り 多 数 の 土 砂 移 動 域 が 把 握 さ れた(図 -6)。この結果につ いては当日(7 月 7日)の夜に国土交通省九州地方整備 局に提供し、災害対応初動期の被害の概 (ALOS-2 2018.8.23-2018.9.6)
©JAXA
©Airbus DS/Spot Image 2019
(SPOT6/7 2018.9.6)
図 -3 2 時 期 カ ラ ー 合 成 SAR 画 像 と 光 学 衛 星 画 像 例 ( 北 海 道 厚 真 町 付 近 )
2018/09/20 時点→2018/10/04 時点の変化を表現した画像
(ALOS-2 2018.8.23-2018.9.6)
10/3 ヘリ調査写真
図 -4 2 時 期 カ ラ ー 合 成 画 像 で 把 握 さ れ た 湛 水 域 と 現 地 ヘ リ 調 査 写 真 ( 北 海 道 厚 真 町 日 高 幌 内 川 流 域 )
©JAXA
況 把 握 や 防 災 ヘ リ に よ る 詳 細 調 査 の ル ー ト検討などに活用された。
その後も 7月9日及び7月10日に追加 観 測 が 実 施 さ れ 被 害 状 況 の 把 握 に 活 用 さ れた。
また、大分県日田市の小野地区では、災 害前後の2時期カラー合成 SAR画像によ り 、 斜 面 中 腹 に 赤 い 領 域 と 直 下 の 谷 底 部 に 青 色 の 領 域 を 持 つ 大 規 模 崩 壊 地 が 確 認 できた。さらに、谷底部の上流側(北側)
に 湛 水 域 の 可 能 性 が 考 え ら れ る 赤 色 領 域 も確認された(図 -7)。
2018/09/20 時点→2018/10/04 時点の変化を表現した画像
(ALOS-2 2018.9.20-2018.10.4)
10/3 ヘリ調査写真
図 -5 2 時 期 カ ラ ー 合 成 画 像 で 把 握 さ れ た 湛 水 域 と 現 地 ヘ リ 調 査 写 真 ( 北 海 道 厚 真 町 ヤ チ セ 沢 川 )
図 -6 九 州 北 部 豪 雨 に お け る 2 時 期 カ ラ ー 合 成 SAR 画 像 と 土 砂 移 動 域 抽 出 結 果
00
©JAXA
(ALOS-2 2016.4.29-2017.7.7)
図 -7 2 時 期 カ ラ ー 合 成 SAR 画 像 と 現 地 ヘ リ 調 査 写 真 ( 日 田 市 小 野 地 区 )
©JAXA
©JAXA
(3)平成 27 年熊本地震
平成 27 年 4 月 16 日に発生した熊本地 震では、強い揺れを観測した益城町、西原 村、南阿蘇村、阿蘇市等を中心に多数の崩 壊が発生した。また、南阿蘇村の立野地区 で は 大 規 模 崩 壊 が 発 生 し 、 直 下 の 阿 蘇 大 橋が落下するほか、多くの被害が生じた。
熊本地震においては、災害後の 4 月 18 日に SAR観測が実施された。このデータ と災害前(3 月7 日観測)のデータから 2 時期のカラー合成 SAR画像を作成し、土 砂移動域を判読した。
図 -8 は、南阿蘇村立野地区における大 規模崩壊地と阿蘇大橋付近の 2 時期カラ ー 合 成 画 像 と 現 地 ヘ リ 調 査 写 真 で あ る 。 この 2 時期カラー合成 SAR画像は、SAR 衛 星 が 東 側 か ら 西 向 き に マ イ ク ロ 波 を 照 射して得られたものである。そのため、立 野 地 区 で 発 生 し た 大 規 模 崩 壊 地 が あ る 西 向 き 斜 面 が オ ー バ ー レ イ に よ り 、 白 く つ ぶ れ て お り 、 崩 壊 等 を 示 す 後 方 散 乱 強 度 の変化を確認できない。
ただし、阿蘇大橋の落下により、災害後 の 後 方 散 乱 強 度 が 消 失 し 、 結 果 と し て 赤 色(災害前の後方散乱強度が強い)の線と して表れている。
こ の よ う に 、 傾 斜 と 起 伏 が 大 き い 斜 面 では、SAR 観測方向により、オーバーレ イ や レ ー ダ ー シ ャ ド ウ な ど が 生 じ 、 判 読 が 困 難 と な る 場 合 が あ る こ と に も 注 意 が 必要である。
また、長野地区においては、農地の一部 が 青 色 に 変 化 し て い る 領 域 が 確 認 で き る
(図 -9 上)。災害前は後方散乱係数が比較 的 小 さ い 平 坦 な 農 地 が 、 崩 壊 に 伴 う 土 砂 堆 積 に よ り 地 表 の 凹 凸 が 増 加 し 、 災 害 後 の 後 方 散 乱 係 数 が 増 加 し た た め 青 色 を 示 しているものと考えられる。
4.SAR を用いた土砂移動域判読時の 留意点
衛星 SAR(ALOS-2)は南北方向に周回
し な が ら 東 ま た は 西 方 向 に レ ー ダ ー を 照 射して、その反射波を観測する。そのた め、地形の起伏によっては、レーダーの照
射 方 向 へ 画 像 が 歪 む な ど 、 画 像 の 見 や す さ に 方 向 依 存 性 が あ る た め 留 意 が 必 要 で ある。山下ほか(2019)では、平成 29年 7 月 の 九 州 北 部 豪 雨 に お け る 土 砂 移 動 域 の 判 読 事 例 を 用 い て 、 レ ー ダ ー の 照 射 方 向 に 対 す る 斜 面 向 き に 着 目 し 、 崩 壊 地 の 判 読 の し や す さ に つ い て 検 証 し て い る 。 こ の 報 告 で は 、 衛 星 側 を 向 い た 斜 面 で は レ イ オ ー バ 等 の 影 響 に よ り 画 像 に お け る 空 間 分 解 能 が 低 下 し 、 崩 壊 地 の 抽 出 率 が 著しく低くなること、さらに、地表面の法 線 と 照 射 さ れ る レ ー ダ ー の 角 度 の 差 ( 局 所入射角)による判読のしやすさへの影 響を指摘している。
(ALOS-2 2018.3.7-2018.4.18)
図 -8 2 時 期 カ ラ ー 合 成 SAR 画 像 と 現 地 ヘ リ 調 査 写 真 ( 南 阿 蘇 村 立 野 地 区 )
阿蘇大橋
©JAXA
また、2 時期カラー合成 SAR画像を用 い た 判 読 で は 、 災 害 前 後 の 後 方 散 乱 強 度 の 変 化 か ら 土 砂 移 動 等 を 読 み 解 く こ と に なる。そのため、利用する前後の画像で時 間 間 隙 が 大 き い 場 合 に は 、 人 工 改 変 等 の 影 響 が 含 ま れ や す く な り 判 読 結 果 の 解 釈 に留意が必要となる。特に、伐採地と崩壊 地 は と も に 山 林 の 樹 木 が 無 く な り 、 同 様 の 強 度 の 変 化 ( 災 害 前 の 散 乱 強 度 が 高 い 赤色)を示す。そのため、必要に応じて光 学 衛 星 画 像 や 空 中 写 真 等 を 用 い て 、 災 害 直 前 の 人 工 改 変 等 の 有 無 を 確 認 す る こ と が望ましい。
5.まとめ
本稿では、SAR 解析データを用いた土 砂災害の把握技術として、衛星 SAR の基 本 原 理 と 特 性 を 整 理 す る と と も に 、 平 成
30 年北海道胆振東部地震、平成 29 年九 州北部豪雨、平成 27 年熊本地震における 土砂移動域の把握事例を紹介した。
衛星 SARは、悪天候時や昼夜問わず観 測 可 能 な た め 、 崩 壊 等 の 迅 速 な 把 握 に は 有 効 な ツ ー ル で あ る 。 そ し て 災 害 前 後 の 2 時期カラー合成 SAR画像により、比較 的 規 模 の 大 き な 斜 面 崩 壊 や 土 石 流 等 の 土 砂 移 動 域 の 抽 出 が 可 能 と な っ て き た 。 し か し 、 衛 星 か ら の マ イ ク ロ 波 の 照 射 方 向 と 斜 面 方 向 の 関 係 に よ っ て は 土 砂 移 動 域 の 抽 出 が 困 難 と な る 場 合 が あ る ほ か 、 伐 採地を誤判読するなどの課題もある。
そ の た め 、 高 頻 度 に ア ー カ イ ブ 画 像 を 整 備 す る ほ か 、 災 害 前 後 の デ ー タ 期 間 の 差 を 小 さ く す る 取 り 組 み や 、 空 中 写 真 や 光 学 衛 星 画 像 等 の 手 段 と 組 み 合 わ せ て い くなど、衛星 SARの特徴を十分考慮し効 果的に活用することが重要である。
2020 年度には、JAXA により先進光学
衛星(ALOS-3)および先進レーダー衛星
(ALOS-4)の打ち上げが予定されており、
さらに広域にかつ高頻度にSAR観測が行 わ れ る と と も に 、 高 解 像 度 の 光 学 衛 星 画 像 も 利 用 可 能 な 体 制 が 構 築 さ れ る 予 定 で ある。これにより、災 害時の迅速な被害状 況把握や、情報提供 手法として、さらに有 効性が高まるものと考えられる。
判 読 に は JAXA が 所 有 す る ALOS- 2/PALSAR-2 デ ー タ を 提 供 頂 い た 。 こ こ に記して謝意を表する。
参考文献
1) 「災害時の人工衛星活用ガイドブック」
平成 30年.3 月、JAXA・国土交通省砂防部. 2) 「単偏波の高分解能SAR画像による 河道閉塞箇所判読調査手法(案)」平成 25 年11 月、国総研資料第760 号.
3) 「2 偏波SAR画像による大規模崩壊 及 び 河 道 閉 塞 箇 所 の 判 読 調 査 手 法 ( 案 )」
平成 26年 6 月、国総研資料第791 号. 4) 山下ら(2019):二時期 SAR 強度画像を 用 い た 土 砂 移 動 箇 所 判 読 精 度 の 検 証 - 平 成 29年 7 月九州北部豪雨-,砂防学会誌, vol.71, No.6,p.21-27.
©JAXA
図 -9 2 時 期 カ ラ ー 合 成 SAR 画 像 と 現 地 ヘ リ 調 査 写 真 ( 南 阿 蘇 村 長 野 地 区 )
(ALOS-2 2018.3.7-2018.4.18)
©JAXA
鹿 児 島 県 垂水市
た る み ず し
二川
ふ た が わ
深港
ふかみなと
地 区 土石流災害の概要と対応につ いて
鹿児島県土木部砂防課 増田 貴文
1.はじめに
平成 27 年 6 月に発生した鹿児島県垂水市 二川深港(図-1)で発生した土石流災害の概 要と対応状況について紹介する。
垂水市は、大隅半島の北西部、鹿児島湾の ほぼ中央に面しており、今回の土石流は垂水 市の北部、深港川の支川から発生した。(写真 -1)
土石が流下した深港川は、垂水市が管理す る準用河川であり、その下流には、国土交通 省が管理する国道220号の深港橋が横断して いる。
土石流は河口まで達する大規模なものだけ でも6回発生し、その都度避難勧告や国道の 通行止めを余儀なくされた。
土石流災害に対する不安をはじめ、漁船に よる通学、道の駅の売り上げの大幅減など住 民生活・産業・経済・観光といった各分野に 大きな影響が及んだため、この土石流災害に 対し、国土交通省、鹿児島県、垂水市は、早 急な復旧に向けて連携して取り組んだ。
本稿では、土石流災害の概要と対応を「被 害の概要」「災害応急対応」「関係機関による 情報の共有」「土石流への対策」に分けて報告 する。
2.被害の概要 (1)気象状況
土石流災害発生当日には雨は降っていたも のの、1時間当たり10ミリ程度であった。
しかし、発災当日までの累積雨量は1、000
ミリを超えており、結果として6月の降雨量 は1、311ミリとなった。(輝北観測所:気象 庁)
この雨量は、平年の6月の月間雨量の約2.4 倍であり、6月の月間雨量としては1977年観 測開始以降最大となった。
(2)土石流発生状況
平成27年6月24日午前11時50分に発生 した土石流は、河口まで到達し、河道が完全 に埋塞したため、垂水市は周辺の 41世帯 75 人に避難勧告を発令した。
また、18時時には第2波が発生し、1戸で 床下が浸水するとともに、国道橋が一部損壊 したため国道220号は通行止めとなった。
その後は、時間雨量が0~1mmにもかかわ 写真-1 被災直後の深港川
図-1 位置図
らず、7月5日に2回、7月28日に2回と合 計6回土石流が発生した。
これらの土石流は斜面が崩壊し、土石流化 して下流の国道まで2~5分程度で到達した。
時速にすると上流域では約60km/h、下流域で
は約30km/h程度であった。
なお、7 月28日の5、6 回目に発生した土 石流については、大隅河川国道事務所が設置 した監視カメラに、斜面の崩壊から土石流化 し国道に達するまでの一部始終が録画されて おり、貴重な資料となった。この映像は、「巨 石が水に浮かぶように流れてきた」あるいは、
「崩壊斜面付近で大きな水しぶきが上がった」
との住民の証言を裏付けるものであった。
(3)土石流の発生メカニズム
今回発生した土石流は、深港川の支川流域 内で大規模な崩壊が発生して生じたものであ る。崩壊した斜面の地質は、亀裂の多い帯状 の溶結凝灰岩の上に火砕流堆積物が厚く堆積 したものである。
今回、長期間雨が降り続いたことから、地 下水位が上昇し湧水の浸食により、溶結凝灰 岩付近が崩落したために、上部斜面が緩み大 規模な崩壊につながったと考えられる。
3.災害応急対応
(1)初期対応
災害の翌日には国土交通省九州地方整備局 のヘリ「はるかぜ」の支援を得て、上空より 被災状況等を詳細に写真撮影した。撮影した 写真はその後の対応を検討するにあたり大い に役立った。
また、鹿児島大学や国土技術政策総合研究 所、土木研究所の土砂災害の専門家に現地調 査を依頼し、土石流の発生メカニズムや今後 の崩壊の可能性や規模について所見を求めた。
これにより、以降幾度となく発生する土石流 への応急対応方針を決めることができた。
(2)応急対応
まず、鹿児島県ではソフト対策として携帯
電話回線を使って WEB 上で確認できる監視 カメラを2基設置した。(うち1基は、崩壊斜 面正面に設置したため、5 回目の土石流で流 失)
その後、国土交通省大隅河川国道事務所が 監視カメラ3基、ワイヤーセンサーの情報を 鹿児島県や垂水市にリアルタイムで提供し、
これにより、土石流発生時に直ちに対応でき る体制が整った。
次に、ハード対策(写真-2)として、まず、
河道内の土砂撤去を優先して行うこととし、
土石流の影響を受ける上流域を鹿児島県で、
その下流域を垂水市で実施することとした。
鹿児島県が実施した上流側については一部 が崩壊斜面直下であり非常に危険であるため、
無線を用いて 100~300m程度離れた操作室 から建設機械を操縦する無人化施工で実施す ることとした。
また、鹿児島県では、人家等への土砂流出 を防ぐため、導流堤や床固工、大型土のうを 設置した。(写真-3,4)
写真-2 応急工事実施個所
また、垂水市は、土石流のたびに深港川の 河道内に土砂が埋塞したため、流下断面を確 保するため 24 時間体制で土砂の除去を行っ た。(写真-5)
国土交通省大隅河川国道事務所では、国道 220 号において、土石流発生した場合でもで きるだけ安全に通行できるよう桁下の空間を 確保した応急組立橋を用いた迂回路を設置し、
9月に供用開始した。(写真-6)
(3)関係機関による情報の共有
今回発生した土砂災害に対して、関係機関 がそれぞれに円滑に各種対策を実施するため、
崩壊や土砂流出の危険性に関する土砂災害専 門家の評価や各機関の対策の実施状況等につ いての情報の共有を行うことを目的に、「垂水 市二川深港土砂災害に関する連絡会」を設置 した。(写真-7)参加機関は、土砂災害の専門
家として、
・鹿児島大学
・国土技術政策総合研究所 行政機関からは、
・垂水市総務課、土木課
・国土交通省九州地方整備局、大隅河川国道 事務所
・鹿児島県砂防課、河川課、森づくり推進課、
写真-7 連絡会の様子 写真-3 県による導流提・床固工設置
写真-4 土石流を抑制
写真-5 垂水市による土砂除去
写真-6 深港橋の仮橋架設
大隅地域振興局
・消防、警察で構成された。
これにより、当初、各機関の調整に時間を 要していたものが、関係機関が一同に会し、
専門家による助言や応急対策の進捗、今後の 方針等の情報共有を図ったことで、各機関の 対策が円滑に進むようになった。
また、垂水市は避難勧告解除の判断材料の 一つとして,本連絡会を有効に活用した。
(4)土石流への対応
連続して発生する土石流への対応として,
県では国の災害関連緊急砂防事業の採択を受 け,①河道内の土砂の除去,②斜面の安定を 図るための地下水対策などの土砂流出対策を 実施した。その後は特定緊急砂防事業等によ り③土石流を防ぐ砂防堰堤や④崩壊斜面を安 定させるための山腹工を実施した。
①無人化施工による土砂除去
今回の現場では土石流により河道内に溜ま った土砂が流出する恐れがあり,緊急に土砂 の除去を行う必要があったが,いつ斜面が崩 壊し土石流が発生するかわからない危険な現 場であったため無人化施工により土砂の除去 を行うこととした。
今回行った無人化施工は,有人施工が危険 な箇所において,無線を用いて建設機械を 100~300m程度離れた安全な箇所に設置した 操作室から操作する工事である。オペレータ ー(操縦者)は直接作業現場が見えないため,
建設機械本体や作業箇所周囲に設置したカメ ラの映像を見ながら建設機械を操縦した。
今回の無人化施工では、下流の安全な高台 の位置に操作室を、その上流 100m程度の安 全な高台に無線基地局を配置した。この基地 局から上流が無人化施工で土砂の除去を行っ た範囲である。操作室から無線基地局の間は 光ファイバーケーブルで結び、無線基地局と 各建設機械の間は 5GHz 帯無線 LAN で結び 双方向通信により建設機械の操作を行った。
使用した建設機械は1.4m3級と0.45m3級
のバックホウを各1台、1300kg級のブレーカ 1台及び2台の不整地運搬車を使用した。
現地での施工方法として、大きな岩はブレ ーカで砕き、バックホウで掘削した土砂等を 不整地運搬車に積み込み、土砂の仮置き場へ 運び出すという流れで行った。
以上の無人化施工を実施することで、土石 流の恐れがある危険な場所で安全に土砂の除 去を行う事ができた。(写真-8、9、10)
②地下水対策
今回の災害では、大量の地下水が源頭部の 不安定化を招いていることが想定されたため、
崩壊斜面上部において水位観測及び電気探査 を実施したところ、低比抵抗部が検出され、
降雨量が少ない時期でも水位が高いことが確 写真-8 無線操作室の様子
写真-9 無人化施工状況
認された。
このことから、崩壊の要因である地下水を 排除するため、崩壊斜面上部に深さ約50mの 2 基の集水井及び中継井を整備し、今回の調 査で地下水位の高いと判断された低比抵抗部 に届くように集水ボーリングを施工した。
③砂防堰堤の整備(恒久対策)
今回の崩壊の要因であった地下水の排除、
土砂流出の恐れのあった河道内に溜まった土 砂の除去を実施したことから、平成29年3月
に幅146.5m、高さ11.5mのコンクリート重力
式砂防堰堤の工事に取りかかり、約2年かけ て平成31年3月に完成した。(写真-11)
施工途中の平成30年 7月には、連続雨量 が400ミリ近くになる大雨が降ったが、6月 中に本堤部分が完成していたため、上流に溜 まっていた土砂や流木を捕捉し、下流への被 害を防止することができた。(写真-12)
④山腹工(恒久対策)
平成 30年から崩壊斜面部の対策として、現 場吹付法枠工による山腹工を斜面上部から実
施しており、現在も施工中である。(写真-13) 写真-12 土砂・流木の捕捉状況 写真-10 無人化施行配置計画
写真-11 完成した砂防堰堤
写真提供:(株)熊谷組
4.おわりに
災害対応では、初期対応が非常に大事であ り、その後の迅速な応急対応等につながる。
垂水市は、被災当日に河川内の埋塞土砂の 除去を開始し、鹿児島県も、崩壊斜面直下と いう危険な場所での埋塞土砂の除去作業を無 人化施工により早急に実施することで、次の 崩壊に備えることができた。
また、国、県、市それぞれの関係部署が一 同に会す連絡会を定期的に開催、情報を共有 し、調整しながら実施したことが円滑な対応 につながった。
今回の監視体制は、監視カメラの映像を国 土交通省の光回線を使い鹿児島県河川砂防情 報システムに接続したため、関係者がPCや スマートフォンで現場の映像をリアルタイム で確認することができた。
本現場の対策工事は4年経過した現在も実 施されているが、引き続き国土交通省、垂水 市との連携を図りながら、土砂災害対策の早 期完成を目指していきたい。
写真-13 山腹工の状況
熊本地震に伴う大規模災害の 対策工事の事例と概要
国土交通省 熊本復興事務所 山上 直人
1.はじめに
平成 28 年 4 月 16 日に発生した熊本地震
(本震)により、熊本県南阿蘇村立野地区に おいて大規模な斜面崩壊が発生した。これに より、斜面下の国道57号やJR豊肥本線、灌 漑用水路等が流失し、阿蘇大橋(国道325号)
が落橋するなど周辺一帯では壊滅的な被害を 受けた。この災害に対し、国土交通省九州地 方整備局は、地震直後から無人化施工や、建 設 ICT、遠隔操作等を駆使しながら緊急対策 工事(平成28年12月完了)を行い、その後、
平成 29年 7 月より斜面の恒久的な安定化対 策を進めているところである。
本稿では、災害発生当初に無人化施工で行 った緊急対策工事の内容と、その後、現場フ ィールドで施工業者が試行した AI 制御によ る不整地運搬車(クローラーキャリア)の自 動走行技術について報告する。
2.災害の概要
阿蘇大橋地区で発生した大規模崩壊の規模 は、長さ約700m、幅約200m、土砂量約50万
㎥(推定)におよび(写真-1)、斜面上部には、
崩落部を取り囲むように亀裂が分布し(図-1) 多量の不安定土砂が存在した。不安定土砂は、
降雨や余震により更なる崩壊が懸念され、崩 壊地内に残存する土砂は、降雨により流出す る可能性があった。崩落斜面は阿蘇外輪山の 内側斜面に位置し、阿蘇山の度重なる火山活 動による火山噴出物が広く分布しており、地 質は、崩落しやすい凝灰角礫岩や安山岩質溶 岩のほか、火山灰質粘性土が多く含まれる「黒 ボク土」が主体であり、含水状態によっては 泥濘化してトラフィカビリティに悪影響をお よぼすことから施工上の配慮が必要であった。
3.斜面監視体制
このような状況の中、阿蘇大橋地区におい ては、二次災害を防ぐことを最重要課題とし て、不安定土砂や崩壊地内土砂の挙動を監視
しながら工事を進める必要があった。そこで、
本工事では、工事の安全性確保および恒久対 策計画に資するデータとすることを目的とし て、地震直後より各種観測計器が設置され、
崩壊斜面周辺の監視・計測を実施している。
また、工事の進捗に伴い配置計画の見直し 等を行っている。監視・計測に用いた機器は、
伸縮計、地盤傾斜計、孔内傾斜計、パイプひ ずみ計、GPS(GNSS)、地震計、雨量計で(図 -2)、それぞれの計器ごとに管理基準値が定め られており、基準値を超過した場合にはメー ル配信し、WEB 上で計測値を確認して周知 する体制としている。
4.緊急対策工事(土留盛土工)の概要 緊急対策工事のうち、土留盛土工は、斜面 上部からの落石を捕捉し、斜面下部で行われ る復旧工事の安全を確保するための工事であ る。
1)土留盛土工の設計
まず、設置位置については、崩壊斜面の勾 配や崩壊土砂の堆積状況などを UAV 映像等 から確認し、無人化施工の限界を踏まえて選 定した。そして、降雨による黒ボクの泥濘化
(写真-2)に対する施工性を考慮して、比較的 緩勾配となる勾配変化点に土留盛土工を配置
写真-1 阿蘇大橋地区の被災状況
図-1 斜面上部に分布する亀裂の状況