p 進簡約群の Plancherel 公式
(Harish-Chandra, Waldspurger による )
今野 拓也 1 、今野 和子 2
2002
年6
月28
日1
九州大学大学院数理学研究院E-mail : [email protected]
URL : http://knmac.math.kyushu-u.ac.jp/tkonno2599.html
このノートの作成およびその元となったセミナーは文部科学省学術振興会科研費課題番号
12740018
からの補助を受けています。2
学振特別研究員 京都大学大学院人間環境学研究科E-mail : [email protected]
i
序文
これは
2001
年度に九州大学で行った「簡約群と保型形式」セミナーのノートである。テー マとしてp
進簡約群上の調和解析を選び、J.-L. Waldspurgerによるp
進群のPlancherel
公式の証明の論文[Wal]
を詳説した。実
Lie
群に対するPlancherel
の公式はHarish-Chandra
の1975
年から翌年にかけての 一連の論文[HC84a], [HC84b], [HC84c]
で証明されている。彼は同様にp
進群に対してもPlancherel
公式の構成のプログラムやその帰結をアナウンスしていたが[HC84e], [HC84d]、
不幸にしてその完成を見ないまま
1983
年に死去してしまった。しかしHarish-Chandra
は指標の局所可積分性を証明した[HC78]
のうち概説にとどまっている第3部の証明や、p
進群のPlancherel
公式について多くのノートを残していたことがわかり、L. ClozelとP.-J. Sally
がそれを整理し発表する努力を続けてきた1
。私の理解が正しければ、[Wal]はこのプロジェクトの一環である。しかし、Waldspurger自身が導入の中で述べているよ うに、ここでの証明は
Harish-Chandra
の議論を再現するものではなく、その後の表現論 の進歩を取り入れた新しいものになっている。Harish-Chandra
の議論ではまずEisenstein
積分を導入しその解析接続を行う。そしてその函数等式から
c
函数を構成し、その性質から絡作用素の基本性質を引き出すという 道筋である。一方の[Wal]
では、[VW90]による実Lie
群上の絡作用素を直接攻略する議 論の類似が展開される。[VW90] では、有限次元表現を用いてa ∗ M,
上の微分作用素D π
と「b 函数」bπ
で函数等式b π (λ)J P | P (π λ )φ = J P | P (π λ+4ρ P )I P G (π λ+4ρ P , D π (λ))φ
を満たすものを構成する。ただし
4
章の記号を用いた。これにより絡作用素J P | P (π λ )
を その4ρ P
シフトに関係づけて順次− ρ P
の方向に解析接続していく。p
進群の場合にも微 分作用素の代わりにLevi
部分群の中心の作用を使って類似の議論を行うが、上の函数等式は
4.1.5
節(4.8)
に簡略化してしまう。特に絡作用素はa ∗ M,
上の有理型函数であるばかりか、Levi 部分群の不分岐指標のなす複素トーラス上の有理函数になってしまう。[VW90]
のアプローチの優れている点は、単に絡作用素が有理型に解析接続できるだけでなくそ の特異点をもとらえている点である。これにより絡作用素から
c
函数やPlancherel
測度 が構成できるのでPlancherel
公式の証明を著しく単純化できる([Wal92]
の前半を参照)。[Wal]
においてもそのp
進類似が展開される。1 [HC78]
第3部についてはHarish-Chandra (notes by S. Debacker and P.-J. Sally, Jr.), Admissible
invariant distributions on reductive p -adic groups , Univ. Lecture Series vol. 16, AMS, (1999)
として発表 されている。このノートではこれらの構成をできるだけ自己完結するよう解説した。数箇所の例外を 除いて、予備知識としては
[Wei]
の1章にある非アルキメデス局所体の基本性質と、それを用いて
[BZ76], [BZ77]
で構成されているp
進簡約群の表現論の基礎のみを仮定している。参照する際の利便性のため章や定理などの番号付けはなるべく
[Wal]
に一致させた が、いくつかの箇所でずれが生じているのは上の理由で初等的な解説や補題などを差し挟 んだためである。各章の内容は以下の通りである。1
章では非アルキメデス局所体上の連結簡約群の構造や、その表現についての基本的 な結果を準備する。1.1 節ではあまり文献がない制限ルートの構造や、基礎体の付値の離 散性から引き起こされる特性を特に解説した。1.2 節では頻繁に用いられる中心指数に よる展開を始め、放物型誘導やJacquet
加群などp
進群の表現論の基礎的な道具を思い 出す。中心指数以外の概念は許容表現に限らず代数表現に対して意味を持つ点が重要で ある。[BZ76] ではJacquet
加群の反傾表現についての記述がないため、それについてのCasselman
の議論[Cas, 4
章] を1.3
節にまとめておいた。誘導表現の連続族のように許容的でない代数表現を扱うため、[BDKV84] から表現の
B
族の概念を引用する1.4。最
後に1.5
節で表現の行列成分からなる許容函数の空間を用意する。2
章では以下で用いる評価式を一手に準備する。2.1 節では緩増加性を定義する際に用いられる
Harish-Chandra
のΞ
函数を評価するが、後のLanglands
分類の証明に備えて少し拡張した函数を扱っている。アデール群に対するリダクションの理論と同様、評価式 を得るには有理表現を用いることになる。2.2 節ではこの既約有理表現の分類を復習して いる。ここでは
Galois
コホモロジーについての基礎的な知識が必要になる。2.3, 2.4節で はこれらを用いて主に種々のノルムの比較や積分の収束を中心とした評価式を証明する。3
章では以下の主人公である緩増加表現を導入する。3.1 節で土台となる二乗可積分 表現やその行列成分の間のSchur
の直交関係を復習した後、3.2-3.5節で緩増加表現と弱Jacquet
加群や弱定数項などそれにまつわる基本概念を導入する。3.6, 3.7 節ではこれらの双対的な役割を果たす
Schwartz-Harish-Chandra
函数を導入し、二乗可積分表現の行 列成分が中心を法としてSchwartz-Harish-Chandra
函数であることを見る。絡作用素の解析は
4
章で行われる。絡作用素の定義を述べた後、それが収束域を持つ ことを証明する4.1.3, 4.1.4。この議論は標準的で基礎体がアルキメデス的な場合と全く
同じである。上で述べた[VW90]
の構成の類似は4.1.5
で行われる。これらから直ちに従 う絡作用素の基本性質を4.1.6
にまとめておく。4.2 では誘導する表現が緩増加な場合の 絡作用素を考察する。特にG
正則な既約二乗可積分表現からの誘導表現は既約でその上 の絡作用素が定数倍になることが重要である。4.3 は私が完全に付け加えた唯一の節であ る。ここではまず絡作用素の応用として既約許容表現のLanglands
分類を証明する。これと
4.1.5
の中心指数の議論を組み合わせることにより、既約二乗可積分表現からの放物型誘導表現がパラメタ集合の
Zariski
開部分集合上で既約なことが示せる。この性質により
Plancherel
測度の逆数であるj
函数の存在が保証される4.4。
5
章ではPlancherel
公式の記述に現れるEisenstein
函数、c 函数、Plancherel 測度が 導入される。Waldspurger はK
タイプに沿って積分したEisenstein
積分を全く用いず、代わりに放物型誘導表現の行列成分である
Eisenstein
函数を扱っている。c函数もすでに 準備されている絡作用素を用いて直接的に定義される。c函数のユニタリ軸上の主張部がiii
Plancherel
測度で与えられることがここでの主結果である5.2。
Plancherel
公式、あるいはL 2 (G)
のスペクトル分解の構成は6
章から始まる。ここでは
Eisenstein
函数が滑らかであることを確認した後、それを表現の多様体の連結成分上で積分して波包函数
(wave packet)
を構成する6.3。これは既約二乗可積分表現からの誘
導表現のWeyl
群不変なファイバーの切断にSchwartz-Harish-Chandra
函数を対応させ る連続写像になる。6.4
では波包函数の定数項(Harish-Chandra
変換)を計算する。続く
7
章では逆向きのSchwartz-Harish-Chandra
函数に波包函数を対応させる写像を構 成する。これは既約二乗可積分表現からの誘導表現にそれへのSchwartz-Harish-Chandra
函数の作用を対応させるという自然なもので、特にHarish-Chandra
変換と可換である。7.2
ではこれら二つの写像がほぼ逆写像になっていることを示す。特に波包函数を取る写 像はC (G)
への単射になる。最後の
8
章ではこの写像の全射性を示す。これはK
タイプと中心指標を止めたときにそ れらを持つ既約二乗可積分表現が有限個しかないことから従う。この有限性はそれらの行 列成分たちの間の内積を表す積分の収束によって保証される。タイトルにあるPlancherel
公式はこの定理の系として得られる(系 8.1.2)。
付録
A
では本文中で何度も用いられるBernstein
の中心について[BDKV84]
から復習 しておいた。特に群の中心の非コンパクトな成分については[BZ76]
ではなく[BDKV84]
の扱い
A.2
によった。また補題A.3.5
の単射性の主張は実Lie
群の表現の指数が消えな いことの代わりとして重要な役割を果たしている。最後になったが、技術的でわかりづらいセミナーに最後までつきあってくださった九州 大学数理学府博士課程の井原健太郎君、安田貴徳君に心から感謝したい。
平成14年6月28日博多にて 今野拓也
v
目 次
序文
i
第
1
章 設定と準備1
1.1 p
進簡約群の構造. . . . 1
1.1.1
放物型部分群と実Lie
環. . . . 1
1.1.2
制限ルート. . . . 2
1.1.3
制限ルートの幾何. . . . 3
1.1.4
不分岐擬指標. . . . 6
1.1.5
極大コンパクト部分群と積分. . . . 8
1.2
許容表現. . . . 16
1.2.1
代数表現. . . . 16
1.2.2
許容表現. . . . 18
1.2.3 Jacquet
加群. . . . 19
1.2.4
放物型誘導表現. . . . 21
1.2.5 Bruhat
フィルタ. . . . 22
1.3
行列成分とそのJacquet
加群による評価. . . . 26
1.3.1 L
標準持ち上げ. . . . 26
1.3.2 Jacquet
加群の双対性. . . . 29
1.3.3
許容表現の行列成分の評価. . . . 32
1.4 B
許容表現への拡張. . . . 34
1.5
許容函数とその定数項. . . . 35
第
2
章 評価式39 2.1 Harish-Chandra
のΞ
函数. . . . 39
2.2 G
の有理表現. . . . 44
2.2.1 G
の既約有理表現の分類. . . . 44
2.2.2 F
有理表現. . . . 46
2.3 P
基本表現による評価. . . . 52
2.4
ユニポテント根基上の積分. . . . 63
第
3
章 緩増加表現とSchwartz-Harish-Chandra
空間69
3.1
二乗可積分表現. . . . 69
3.2
緩増加表現. . . . 78
3.3
弱Jacquet
加群. . . . 80
3.4
既約緩増加表現の弱い分類. . . . 82
3.5
弱定数項. . . . 83
3.6 Schwartz-Harish-Chandra
函数. . . . 85
3.7
緩増加函数とSchwartz-Harish-Chandra
函数. . . . 88
第
4
章 絡作用素95 4.1
定義と基本的性質. . . . 95
4.1.1
多項式函数、有理函数. . . . 95
4.1.2
絡作用素の定義. . . . 96
4.1.3
収束性の証明1 . . . . 97
4.1.4
収束性の証明2. . . . . 100
4.1.5
有理函数であることの証明. . . . 102
4.1.6
基本性質. . . . 105
4.2
緩増加表現上の絡作用素. . . . 109
4.3 Langlands
分類とその応用. . . . 111
4.3.1
標準加群とその行列成分. . . . 112
4.3.2
半順序≤ P
とa G, M ∗
の分割. . . . 117
4.3.3
無限小指標. . . . 119
4.3.4 Langlands
分類. . . . 120
4.3.5 Waldspurger
の一定理. . . . 124
4.4 j
函数. . . . 131
第
5
章c
函数とµ
函数135 5.1 Eisenstein
函数とc
函数. . . . 135
5.2 Plancherel
測度. . . . 142
5.3
作用素◦ c P | P (w, σ) . . . . 145
第
6
章 波包函数からSchwartz-Harish-Chandra
函数へ147 6.1
設定. . . . 147
6.2 Eisenstein
函数の滑らかさ. . . . 148
6.3
波包函数. . . . 154
6.4 Fourier
変換像の性質. . . . 162
第
7
章Schwartz-Harish-Chandra
函数から波包函数へ173 7.1
逆波包変換. . . . 173
7.2 C (G)
から波包函数へ. . . . 178
vii
第
8
章Plancherel
公式185
8.1
結果. . . . 185
8.2
カスプ成分. . . . 186
8.3 L 2
内積の収束. . . . 189
8.4
カスプ函数と二乗可積分表現. . . . 195
8.5
主定理の証明. . . . 198
付 録
A Bernstein
の中心201 A.1
代数表現の圏の中心. . . . 201
A.1.1 Hecke
環と代数表現. . . . 201
A.1.2
完備化. . . . 203
A.1.3
中心Z . . . . 206
A.1.4
アーベル圏の中心の分解. . . . 208
A.2
準カスプ表現の圏とその直和分解. . . . 209
A.2.1
有限表現. . . . 209
A.2.2
表現のなす複素多様体. . . . 210
A.2.3
許容表現のB
族. . . . 214
A.2.4
準カスプ表現. . . . 216
A.3 Bernstein
の中心. . . . 216
A.3.1 p
進簡約群の状況. . . . 217
A.3.2
カスプデータによるAlg(G)
の分解. . . . 217
A.3.3 Bernstein
の中心Z(G)
の構造. . . . 220
A.4
応用—
有限性定理など. . . . 223
A.4.1 Z(G)
許容性. . . . 223
A.4.2 Jacquet
加群とB
許容性. . . . 224
A.4.3 B
有限生成表現と放物型誘導. . . . 225
A.4.4 Hecke
環とBernstein
の中心. . . . 228
1
第 1 章 設定と準備
1.1 p 進簡約群の構造
ここでは
p
進体上定義された簡約代数群の構造について必要なことを復習しておく。基 本的なことについては[Bor91], [Spr98], [BT75], [Spr79]
などを参照されたい。F
を非アルキメデス局所体とする(正標数でもよい)。O , p,
をそれぞれF
の整数環、その唯一の極大イデアル及びそれを生成する素元とする。 剰余体
O /p
の位数をq
と書 く。F の代数閉包F ¯
を固定し、そのF
上のガロア群をΓ = Gal( ¯ F /F )
と書く。F
のモ ジュラスを| | F
で表す[Wei]。
1.1.1
放物型部分群と実Lie
環F
上定義された代数群G
に対してX ∗ (G) := Hom(G, G m )
と書き、その中のF
有理的 な元からなる部分群をX ∗ (G) F
と書く。G
の導来群をG der
と書き、G ab = G/G der
をそ のアーベル商とする。以下G
は連結簡約だとしよう。するとG ab
はトーラスでX ∗ (G) X ∗ (G ab )
は自由である。AG
でG
の中心Z(G)
内の極大F
分裂トーラスを表す。制限射X ∗ (G) χ → χ | A G ∈ X ∗ (A G )
は同型X ∗ (G) F ⊗ Q −→ ∼ X ∗ (A G ) ⊗ Q (1.1)
を与える。G
内の極大F
分裂トーラスA 0
を1
つ固定する。その中心化群M 0
はある極小(F
有 理) 放物型部分群P 0
のLevi
成分である。M0
を含むG
のF
放物型部分群、F-Levi
部 分群の集合をそれぞれF
、L と書く。P ∈ F
はL
に属するLevi
成分をただ一つ持つこ とに注意する。さらに一般にM ∈ L
を含む放物型部分群の集合をF (M )、Levi
部分群 の集合をL (M )
で表す。 またM
をLevi
成分に持つF
放物型部分群の集合をP (M )
と 書く。P∈ P (M)
に対してP ¯
でP ¯ ∩ P = M
となるP (M)
の元を表し、M に関してP
と相対する放物型部分群と呼ぶ。M ∈ L
に対してa M := Hom(X ∗ (M ) F , R ), a ∗ M := X ∗ (M ) F ⊗ R
とおき、これらの間の 標準双対性を,
と書く。 制限射たちのなす図式X ∗ (M ) F −−−→ X ∗ (A M )
X ∗ (G) F −−−→ X ∗ (A G )
は可換である。特に
R
に係数拡大して可換図式a ∗ M a ∗ M
埋め込み
射影a ∗ G a ∗ G
が得られる。言い換えれば、a
∗ G
は標準的にa ∗ M
の直和因子と見なせる。双対を取れば、a G
もa M
の標準直和因子である。これらの補空間をa G, M ∗ := X ∗ (A M /A G ) ⊗ R , a G M := { H ∈ a M | χ, H = 0, ∀ χ ∈ X ∗ (G) F }
と取れば、これらはそれぞれa ∗ M a ∗ G , a M a G
の核だから、互いに双対な直和分解a ∗ M = a G, M ∗ ⊕ a ∗ G , a M = a G M ⊕ a G
が成り立つ。λ
∈ a ∗ M
のこの分解でのa G, M ∗
およびa ∗ G
成分をおのおのλ G , λ G
と書く。H ∈ a M
に対しても同様にH G ∈ a G M , H G ∈ a G
が定まる。1.1.2
制限ルートG
のLie
環g
上のA M
の随伴表現に現れる非自明な既約(1
次元)表現をA M
のG
で のルートと呼び、その集合をΣ M
と書く。P ∈ P (M )
に対して、α∈ Σ M
でP
のLie
環上に現れるものをP
についての正ルート(positive root)
とよび、その集合をΣ P
で 表す。さらにα ∈ Σ P
でα/n / ∈ Σ P ( ∀ n ≥ 2)
なるものを被約ルート(reduced root)
と呼び、それらの集合をΣ red P
とする。 定義から明らかにΣ M ⊂ X ∗ (A M /A G )
である。逆に
X ∗ (A M ) := Hom( G m , A M )
をA M
の一変数部分群の群として、µ∨ ∈ X ∗ (A M )
がα, µ ∨ = 0, ∀ α ∈ Σ M
を満たせばim µ ∨ ⊂ Z (G)
である。imµ ∨
はG m
にF
同型ゆえ、これは
µ ∨ ∈ X ∗ (A G )
を意味する。特に(Span Σ M ) ⊥ ⊂ a G
ゆえ、結局a G, M ∗ = Span Σ M (1.2)
を得る。
特に
M = M 0
のとき、ΣM 0 , a M 0
などをΣ 0 , a 0
などと略記する。[BT75,
系5.8]
から(Σ 0 , a G, 0 ∗ )
はルート系をなす。すなわち、(RS1) Σ 0
は有限集合でa G, 0 ∗
を生成する。(RS2)
各α ∈ Σ 0
に対してコルートと呼ばれるa G 0
の元α ∨
であって、付随する鏡映r α : a G, 0 ∗ λ −→ λ − α ∨ (λ)α ∈ a G, 0 ∗
が
Σ 0
を保つようなものがある。 それらの集合をΣ ∨ 0
と書く。(RS3) α, β ∨ ∈ Z , ∀ α ∈ Σ 0 , β ∨ ∈ Σ ∨ 0 .
1.1. p
進簡約群の構造3
を満たしている。しかもコルートたちは[Spr79, 2.2]
の構成のF
有理版で得られるから、Σ ∨ 0 ⊂ X ∗ (A 0 )
である。P0 ∈ P (M 0 )
を止めれば、正系Σ P 0 ⊂ Σ 0
やその中の被約ルートの 集合Σ red P
0
および単純ルートの集合∆ P 0
が定まる。∆ P 0
は(Σ 0 , a G, 0 ∗ )
の基底であるから、(1.2)
より∆ P 0
はa G, 0 ∗
の基底である。(1.3)
∆ ∨ P
0 := { α ∨ | α ∈ ∆ P 0 }
とおけば、ルート系の定義は双対性で閉じている[Boua, 6
章§ 1 n.1
命題2]
から∆ ∨ P 0
はa G 0
の基底である。(1.4)
∆ ∨ P 0
および∆ P 0
に対するa G, 0 ∗ , a G 0
の双対基底をおのおの∆ P 0 , ∆ ∨ P 0
と書く。次に一般の
M ∈ L
の場合を考えよう。P∈ P (M )
を止め、P0 ⊂ P
なるP 0 ∈ P (M 0 )
を取る。∆P := { α 0 | M | α 0 ∈ ∆ P 0 \ ∆ P M
0 }
とおき、α= α 0 | M ∈ ∆ P
のコルートα ∨
を(α ∨ 0 ) M
と定める。P0
の取り方はM (F )
共役をのぞいて一意だからこれはP 0
によらず定 まる。∆∨ P := { α ∨ | α ∈ ∆ P }
とおけば、定義と(1.3), (1.4)
から∆ P
はa G, M ∗
の、∆∨ P
はa G M
の基底である。(1.5) α = α 0 | M ∈ ∆ P
には双対基底元α ∨ 0 ∈ ∆ ∨ P 0
が対応する。これはa M, 0 ∗ = Span∆ P M
0
と直交しているから自然に
a M
の元と見なせる。これをα ∨
と書き、∆ ∨ P := { α ∨ | α ∈ ∆ P }
とおく。同様に∆ ∨ P
から∆ P := { α := α 0 | α = α 0 | M ∈ ∆ P }
が定まる。定義から明ら かに∆ P ⊂ a G, M ∗
は∆ ∨ P
の、∆ ∨ P ⊂ a G M
は∆ P
のそれぞれ双対基底になっている。(1.6)
なお(Σ M , a G, M ∗ )
は必ずしもルート系にはならないことを注意しておく。1.1.3
制限ルートの幾何前節の記号を使い続けるものとする。まず
(Σ 0 , a G, 0 ∗ )
がルート系で∆ P 0
がその基底で あることから、α, α ∨ = 2, α, β ∨ ≤ 0, ∀ α = β ∈ ∆ P 0 (1.7)
が成り立っている。aG, 0 ∗
内の∆ P 0
および∆ P 0
で張られる開錐をおのおのa G, P 0 ∗ ,+ := { λ ∈ a G, 0 ∗ | α ∨ (λ) > 0, α ∈ ∆ P 0 } , + a G, P 0 ∗ := { λ ∈ a G, 0 ∗ | α ∨ (λ) > 0, α ∈ ∆ P 0 }
とおき、a∗ P ,+ 0 := a G, P 0 ∗ ,+ ⊕ a ∗ G , + a ∗ P 0 := + a G, P 0 ∗ ⊕ a ∗ G
と定める。[Boua, 5
章§ 3 n.5]
から次を 思い出す。補題
1.1.1. a ∗
を正定値対称形式( | )
付きの有限次元実ベクトル空間とし、∆
をその基 底でα = β ∈ ∆
に対して(α | β) ≤ 0
を満たすものとする。このとき(λ | α) > 0, ∀ α ∈ ∆
なるλ ∈ a ∗
をλ =
α ∈ ∆ c α α
と書けば、その係数c α
はすべて正である。証明.
a ∗
上のノルム をx 2 := (x | x)
で定める。まずa ∗
の元λ 1 , . . . , λ r
が(1) i = j
に対して(λ i | λ j ) ≤ 0,
(2) a ∗
の双対空間a
の元H
があってλ i , H > 0, ( ∀ i = 1, . . . , r)
を満たすならば、λ1 , . . . , λ r
は一次独立である。実際、(1) からr
i=1 c i λ i = 0
ならばr i=1
c i λ i 2 = r i,j=1
c i c j (λ i | λ j ) = r
i=1
c 2 i λ i 2 +
1 ≤ i<j ≤ r
2c i c j (λ i | λ j )
≥ r
i=1
c 2 i λ i 2 +
1 ≤ i<j ≤ r
2 | c i c j | (λ i | λ j ) = r
i=1
| c i | λ i 2 .
から
r
i=1 | c i | λ i = 0
である。よって0 =
r i=1
| c i | λ i , H = r
i=1
| c i | λ i , H
に
(2)
を用いて全てのc i
が0
でなければならない。さて、λ
=
α ∈ ∆ c α α
が(λ | α) > 0 ( ∀ α ∈ ∆)
であるにも拘わらずあるβ ∈ ∆
に対してc β < 0
だとすれば、{− λ } ∆
は上の条件(1)
を満たす。加えてH ∈ a
をα, H :=
1 α = β
のとき− c β
α ∈ ∆ | c α |
それ以外のとき と定めれば、α, H > 0, ∀ α ∈ ∆, − λ, H = − c β +
α =β c α
α ∈ ∆ | c α | c β > 0
より
(2)
も満たされる。従って{− λ } ∆
は一次独立となるが、これは∆
がa ∗
の基底 であることに反する。すなわちc β ≥ 0
でなくてはならない。さらに、もしc β = 0
なるβ ∈ ∆
があったとすると(α | β) ≤ 0, ( ∀ α = β ∈ ∆)
から(λ | β) =
α =β
c α (α | β) ≤ 0
とならねばならず仮定に矛盾する。従って
c α > 0, ( ∀ α ∈ ∆)
でなくてはならない。A 0
のG
でのWeyl
群W := Norm(A 0 , G(F ))/M 0 (F )
はa G, 0 ∗
に作用し、ルート系Σ 0
のWeyl
群と同一視される。以下、W のNorm(A 0 , G(F ))
での完全代表系を固定し、そ れとW
を同一視する。またw ∈ W
のときw( • ) := Ad(w) •
などと書く。aG, 0 ∗
上のW
不変正定値対称形式( | )
を固定して、aG 0
をa G, 0 ∗
と同一視する。このときα ∨ ∈ Σ ∨ 0
は1.1. p
進簡約群の構造5 2α/(α | α)
と同一視される[Boua, 6
章§ 1 n.1,
補題2]。このとき λ =
α ∈ ∆ 0 c α α ∈ a G, P ∗ ,+
0
とすれば仮定から
(λ | α) = (α | α)
2 α ∨ (λ) > 0, ∀ α ∈ ∆ 0
ゆえ、補題1.1.1
によりλ ∈ + a G, P 0 ∗
である。すなわちa ∗ P ,+
0 ⊂ + a ∗ P 0 . (1.8)
これらの性質を
a ∗ M
の場合に拡張しよう。a∗ P ,+ 0
は∆ P 0
で張られる開錐だから、+ a P 0
の定義と併せて
(1.8)
はα , β ∨ ≥ 0, ( ∀ α ∈ ∆ P 0 , β ∨ ∈ ∆ ∨ P
0 )
を意味する。これを∆ P = { α | α ∈ ∆ P 0 \ ∆ P M
0 } , ∆ ∨ P
に制限して、α , ∨ β ≥ 0, ∀ α ∈ ∆ P , ∨ β ∈ ∆ ∨ P (1.9)
あるいはa ∗ P ,+ := { λ ∈ a ∗ M | α ∨ (λ) > 0, ∀ α ∈ ∆ P } , + a ∗ P := { λ ∈ a ∗ M | ∨ α (λ) > 0, ∀ α ∈
∆ P }
としてa ∗ P ,+ ⊂ + a ∗ P (1.10)
が従う。ただし、a
∗ P ,+
がa G, M ∗
内の∆ P
で張られる開錘とa ∗ G
の直和であることを使っ た。上と異なり閉包の間の包含関係になっていることに注意する。次にα = α 0 | M ∈ ∆ P , (α 0 ∈ ∆ P 0 \ ∆ P M
0 )
を取れば、α= (α 0 ) M
でα M 0 ∈ a M, 0 ∗
はα M 0 =
γ ∈ ∆ P M
0
x γ γ, x γ ∈ R
と書ける。β
∈ ∆ P M
0
の係数x β
は∆ P M
0 ⊂ a M, 0 ∗
の双対基底∆ ∨ P M
0
の元∨ β ,M
を用いてx β = α M 0 , ∨ β ,M = α 0 , β ∨ ,M
と表せる。(1.8) からβ ∨ ,M ∈ a M,+ P M
0 ⊂ + a M P M
0
ゆえβ ∨ ,M =
γ ∈ ∆ P M
0
y γ γ ∨ , y γ ≥ 0
と書ける。よって
(1.7)
からx β = α 0 , β ∨ ,M =
γ ∈ ∆ P M
0
y γ α 0 , γ ∨ ≤ 0
を得る。特に
α = (β = β 0 | M ) ∈ ∆ P
に対してα, β ∨ = α 0 −
γ ∈ ∆ P M
0
x γ γ, β 0 ∨ = α 0 , β 0 ∨ −
γ ∈ ∆ P M
0
x γ γ, β 0 ∨ ≤ 0. (1.11)
一方、β
= α
の場合にはα, α ∨ > 0, ∀ α ∈ ∆ P (1.12)
である。実際
α ∈ ∆ P
がこれを満たさなければ、α, β ∨ ≤ 0, ( ∀ β ∨ ∈ ∆ ∨ P )
だからα ∈
− a G, P ∗ ,+ ⊂ − + a G, P ∗
。これはα ∈ + a G, P ∗ ∩ − + a G, P ∗ = { 0 }
を意味するので矛盾である。a ∗ M,reg := { λ ∈ a ∗ M | α ∨ (λ) = 0, ∀ α ∈ Σ M }
とおけば、これはP ∈ P (M)
に対する正の 部屋(P -positive chamber)
の直和に分解する:a ∗ M,reg =
P ∈P (M) a ∗ P ,+
。a ∗ M \ a ∗ M,reg
がa ∗ M 1 , (M 1 ∈ L (M ) \ { M } )
たちの合併であることに注意して、直和分解a ∗ M =
P 1 ∈F (M)
a ∗ P ,+ 1 (1.13)
を得る。
同様に
P ∈ P (M )
はa G M
内の正錘a G,+ P := { H ∈ a G M | α(H) > 0, α ∈ ∆ P }
およびa + P := a G,+ P ⊕ a G
を定めている。1.1.4
不分岐擬指標以下簡単のため
G := G(F )
などと書く。χ∈ X ∗ (G) F
とすればχ(G) ⊂ F ×
なので| χ | F : G g −→ | χ(g) | F ∈ R × +
は定義可能である。G
1 :=
χ ∈ X ∗ (G) F ker | χ | F
とおく。有限生成自由アーベル群X ∗ (G) F
のZ
基底{ χ i } 1 ≤ i ≤ r
を取れば、im| χ i | F = q n i
, ( ∃ n i ∈ N )
と書けるので同型r i=1
| χ i | F : G/G 1 −→ ∼ r i=1
q n i
(1.14)
が得られる。
G 1
上自明なG
の擬指標たちのなす群をX(G) := Hom(G/G 1 , C × )
と書 く。{ χ ∨ i } 1 ≤ i ≤ r
で{ χ i } 1 ≤ i ≤ r
に双対なa G
の基底を表す。準同型H G : G → a G
をχ, H G (g) = log | χ(g) | F , ∀ χ ∈ X ∗ (G) F
によって定めれば、その核は
G 1
でその像a G := H G (G) =
r i=1
Z (n i log q)χ ∨ i
は
a G
内のZ
格子である。同様にa G := H G (A G )
はa G
の部分格子になる。これらの 双対格子をa ∗ G := Hom(a G , Z ) ⊂ a ∗ G := Hom( a G , Z ) ⊂ a ∗ G
とする。定義から、a∗ G, :=
a ∗ G ⊗ C = r
i=1 C χ i
に注意して得られる全射a ∗ G, λ −→ λ G := (g → exp λ, H G (g) ) ∈ X(G) (1.15)
1.1. p
進簡約群の構造7
は同型a ∗ G, /(2πi)a ∗ G −→ ∼ X(G)
を与える。これによりX(G)
はC
トーラスの構造を持つ。X (G) := { ω ∈ X(G) | im ω ⊂ R × + } , X unit (G) := { ω ∈ X(G) | im ω ⊂ C 1 }
とおき、ω
∈ X(G)
の分解X(G) = X (G) × X unit (G)
におけるX (G)
及びX unit (G)
成分を各々Re ω, im ω
と書く。次に
M ∈ L
としてX(M)
とX(G)
の間の関係を見てみよう。χ ∈ X ∗ (G) F
でm ∈ M 1
ならば| χ(m) | F = | (χ | M )(m) | F = 1
だから、M1 ⊂ G 1
である。特に制限射X(G) χ −→ χ | M ∈ X(M) (1.16)
は定義可能である。同様に
X G (M) := Hom((M ∩ G 1 )/M 1 , C × )
も定義可能である。次の 補題で用いるGalois
コホモロジーについては[Ser68]
を参照されたい。補題
1.1.2. M 0 → G
から定まるGalois
コホモロジー群の射H 1 (F, M 0 ) → H 1 (F, G)
は 単射である。証明.
M 0 ( ¯ F )
値の1
コサイクル{ m σ } σ ∈ Γ
がG
で分裂していれば、g∈ G( ¯ F )
があって 任意のσ ∈ Γ
に対してm σ = g − 1 σ(g)
である。P0 ∈ P (M 0 )
を止めてP 0 := Ad(g)P 0 , M 0 := Ad(g)M 0
とおけば、これはσ(P 0 , M 0 ) = Ad(σ(g))(P 0 , M 0 ) = Ad(gm σ )(P 0 , M 0 ) = Ad(g )(P 0 , M 0 )
= (P 0 , M 0 )
より再び
G
の極小放物型部分群である。従って[BT75,
定理4.13、命題 4.7]
からh ∈ G(F )
で(P 0 , M 0 ) = Ad(h)(P 0 , M 0 )
なるものが存在する。m:= h − 1 g
とおけば、m∈ Norm(P 0 , G( ¯ F )) = P 0 ( ¯ F )、さらに m ∈ Norm(M 0 , P 0 ( ¯ F )) = M 0 ( ¯ F )
がわかる。このとき 任意のσ ∈ Γ
に対してm − 1 σ(m) = g − 1 hσ(h − 1 g) = g − 1 hh − 1 σ(g) = m σ
が成り立つ。つまり
{ m σ } σ ∈ Γ
はM
ですでに分解しており、補題が証明された。系
1.1.3. M ∈ L , χ ∈ X ∗ (G) F
のとき、χ(M) =χ(G)
である。証明.