1 はじめに
1. トランプ、7400万票の意味 2. 民主党の旧態依然
3. 幻のブルーウェイブ
4. 民主党の課題とオカシオ=コルテス議員の可能性
(要旨)
2020年のアメリカ大統領選挙で現職のトランプ大統領が敗北したと はいえ、前回得票に800万票を上積みし7400万票を得票した事実はア メリカ政治に重大な変革が生じていることを窺わせるものである。20 世紀は市民にとって複雑化した社会に関する情報と理解を得るのが難し くなり、民主主義は市民が受け身でしかなくジャーナリズムと専門官僚 が指導するものとなっていた。21世紀にSNSが発展して大衆自らがメ ディアを持ち交流することが可能になったことでポピュリズムの政治が 始まった。トランプの善戦はポピュリズムが民主主義の新しい形として 成立するきっかけとなるかもしれない。
トランプは16年にヒラリー ・ クリントンのエリート主義を捕らえて 攻撃し、予想に反して勝利した。ヒラリーが「嘆かわしい人々」と呼ん だ底辺にいる白人労働者階層は見捨てられていると反発し、トランプの 呼びかけに応じたのであった。20年彼の戦略に変化はなかった。他方、
民主党はトランプ再選阻止を至上命題としたために、サンダース議員の
20 年アメリカ大統領選挙の 結果と左派ポピュリズムの可能性
Trump Populism Beat a Predicted Blue Wave and a Prospect for a Democrat Populism
金井光太朗
KANAI Kotaro
東京外国語大学名誉教授
Professor Emeritus, Tokyo University of Foreign Studies
本稿の著作権は著者が保持し、クリエイティブ・コモンズ表示 4.0 国際ライセンス(CC-BY)下に提供します。
左派ポピュリスト的な過激な運動を封じ込めバイデン候補の擁立に動い た。その結果前回トランプが動員した 「 嘆かわしい人々 」 は彼の政策に 反対でも旧態の民主党に投票しなかった。社会混乱で経済不況の20年、
現職大統領は惨敗を喫して政治的な大変動があってもおかしくなかった のに、民主党の勝利は極めて限定されたものでしかなかった。ポピュリ ズム政治の可能性に背を向けたゆえである。
民主党でポピュリズムの持つ可能性を大いに実践しているアレキサン ドリア ・ オカシオ=コルテス議員に注目する。彼女は大衆を突き放すの ではなく、分かりやすく身近な問題で議論を提起し政治を活性化するの に成功している。2024年には彼女の動静に注目することで、 民主主義 の新しい形としてのポピュリズムの可能性が見えてこよう。
(Summary)
Just a narrow victory of the Democrat Party in the 2020 United States presidential election was rather surprising because the social and economic disaster caused by the covid 19 virus pandemic had damaged severely Trump administration’s credibility. He gained a historical number of votes, that is more than seventy-four million. This fact implies that populism is rather a refinement or innovated form of democracy in the age of the IT technology than a distortion of or deviation from it. As the general populace has had for the first time their own media to communicate with the public by themselves, populist politicians like Trump responsive to their interests and opinions could activate massive enthusiastic supporters.
Trump’s populist style campaign managed to defeat elitist Hillary Clinton against almost all the election predictions in 2016. When Hillary once called diehard Trump supporters “deplorable people,” populist Trump made great use of her elitist distance from the general population, and succeeded in catching hearts of abandoned people. President Trump followed this populist style in the 2020 election.
Meanwhile, in the 2020 presidential election campaign Senator Barnie Sanders might have competed for popular support with Trump. However, the top priority for the Democrat party to stop President Trump’s reelection made the party elite
leadership pick up a less risky presidential candidate, Joe Biden. The party failed to set up a political organization to carry out a populist campaign. Since Senator and Vice President Biden is as elite and aloof from the populace as Hillary, a great number of “deplorable people” who opposed Trump policies had little choice but to vote the President again.
In addition to Barnie Sanders, the Democratic Party has another young populist politician, Congresswoman Alexandria Ocasio-Cortes. Her speech to the popular audience is so familiar and easy to understand, and places their close problems in the ultimate value of justice. Her SNS media have more than millions of followers that match Trump’s. She never hesitates to agitate people to protest and fight against injustice. It may be essential to watch the 2024 presidential campaign in the viewpoint of populist politics, especially to check whether or not the Democratic Party can arrange a populist preparation.
キーワード:
2020年アメリカ大統領選挙、ブルーウェーブ、「嘆かわしい人々」、エリー ト、ポピュリズム、民主主義、SNS
Keywords:
2020 US presidential election, Blue wave, “deplorable people,” elite, populism, democracy, SNS
はじめに1)
2020年大統領選挙はアメリカ合衆国の大きな政治的な転換を示した ものと考えられる。政治と民衆との関係に根本的な変化が起きているの である。ドナルド ・ トランプ大統領がポピュリズム、大衆迎合政治とい われる手法で先鞭を付けた。大衆に分かりやすく訴えかけ熱狂的な支持 を獲得する。総花的な主張で出来る限り国民全体の支持を集めようとす
1)本稿は21年1月12日の国際関係研究所研究会「『ポスト・トランプ』時代の アメリカ」でのコメント報告を元に加筆訂正したものである。
るのではなく、自分の政策に賛同する勢力をかき集めそれ以外は敵視し て激しく攻撃する政治手法で、それによってアメリカ社会の分断が危惧 されるようになった。さらに、分断が深まる中で生じた新型コロナウィ ルスの感染拡大と社会的混乱の結果、感染防止のための生活規制策とそ れによる経済の急激な落ち込みが政治的対立をなお一層深刻なものとし た。そこで激しい争いとなった大統領選挙戦は感染防止の徹底か経済回 復の優先かといった解決策をめぐる選択だけではなく、ポピュリズムが 民主政治を歪めるものか活性化するものかという選択も問うものとなっ たと考える。大恐慌以来という重大な社会的危機に直面して単なる政権 交替ではなく、民主政治の新しい理念と手法が課題となったのである。
しかし、選挙結果は複雑な形をとることとなった。基本的には事前の 世論調査が予想した通りで終わったとはいえる。民主党ジョー ・ バイデ ン候補が圧勝ではなく、期日前投票や郵便投票の分が開いてゆくにつれ て当日投票の結果優位に立っていたトランプ大統領が逆転されてゆく展 開となる2)。両陣営支持者の投票行動に明らかな差異があり、当日投票 の票に加えて郵便投票などの開票が進むにともなって勝利者が逆転して ゆく状態、いわゆるレッドミラージュについでブルーミラージュが生じ ることになった。新型コロナ感染を警戒する民衆党員に多い郵便投票、
期日前投票が歴史的な数になり、当日投票分での共和党勝利がレッドミ ラージュに終わった一方、トランプ側は郵便投票などの集計には重大な 不正があって民主党勝利はミラージュ(虚構)に過ぎないと主張した。
トランプ陣営が民主党ブル−陣営の勝利を何とか争う余地のある選挙結 果であったことは間違いない。トランプ大統領の政治手法、政策内容、
特に新型コロナ ・ ウィルス感染防止対策の軽視やブラック ・ ライブス ・ マター(黒人の命も大事)運動への理解不足に対して非常に厳しい批判 があり、 世論調査の劣勢が大きかった割には善戦したと言えるであろ
2)20年選挙の結果が大体は予想に近かったとみるのではなく、見方によれば民 主党の大敗と言ってもよいほどの意味合いを持ち、今後アレキサンドリア ・ オ カシオ=コルテス下院議員を代表に民主党左派に注目すべきであると分析する 会田弘継の見解に、本稿も刺激を受けている。「バイデンの民主党は歴史的敗 北を喫した――米政治主流派の破産と凋落」『現代ビジネス』(2020年11月13 日号)。
う。 歴史的な政治転換に際して現職大統領が惨敗に終わる例3)がある ことに鑑みれば、トランプの善戦を支えた要因が何であったのか一考し てみる価値はあろう。それは今後の民主政治の新しい形を示唆している かもしれないからである。
1.トランプ、7400 万票の意味
トランプ大統領は前回の得票に数百万票上積みし、大統領選挙史上こ れまでの候補者得票数の記録を上回る7400万票を獲得している。彼に 対する支持が非常に根強いことが確認できる。その理由の一つは彼のポ ピュリズム政治が大衆の多くに訴える力があったからであろう。ポピュ リズムは民主主義を歪めるものと非難されることも多いが、ある意味で 民主主義の現代的進化とみることも可能である。民主主義の理念では一 人一人の選挙民が自分で情報を得て積極的に政治に参加して意思を表明 する。候補者の方は選挙民の身近で具体的な不満、期待、要望に耳を傾 けるだけではなく、 それを代表して政策化し現実の成果を問うものと される。しかし、現実の民主政治というのは、ヒラリー ・ クリントン元 国務長官が典型的なように、偉い人たちが正しいことなのかもしれない が難しいことを語っているのを、大衆はおとなしく聞いてよくわからな いままでいいから票を投ずるしかなかった。人民は受け身の存在でしか ない。マスメディアも豊かな情報を正しい枠組みで構成し、一方的に送 りつけてくる。 学歴も高く知識と意識を有する優秀な市民でなければ よくわからないような記事や解説ばかりとなっている。 大衆の一人一 人が 「 民主政治 」 に参加しているとの実感を持つことなどなくなってい た。大衆は自分たちなど切り捨てられていると感じてしまうのも無理は ない。それがトランプ大統領の登場によって政治を大衆自身の手に取り
3)20世紀以降で現職の大統領が出馬して敗北した例は12年のウィリアム ・ タフ ト、32年のハーバート ・ フーバー、76年のジェラルド ・ フォード、80年のジミー
・ カーター、92年のジョージ ・ ブッシュ(父)であり、ドナルド ・ トランプが 6人目である。フーバーの時はニューディール連合を形成する選挙となり地滑 り的な敗北であった。また、カーターの場合もレーガンが保守体制を構築する 選挙であり、選挙人を獲得した州は7つに過ぎなかった。トランプの場合、全 国の半分25州で勝利し16年の得票に800万票を上積みしており、善戦であっ たと言えよう。
戻したように感じたのである。民主政治はポピュリズムの拡がりという 形で今変わりつつある。
19世紀なら民主主義はシンプルであり、もっと大衆に身近な政治で あった。農民ならトウモロコシの収穫予想とその市場動向に注意してい れば、自己の利害は分かりやすくどの政党の候補者に投票するか迷うこ となく決められた。ところが、20世紀になり社会が複雑化し世界が拡 大したことにより、ウォルター ・ リップマンが『世論』で分析したよう に4)、市民ができるだけ情報を収集分析し社会のことを正確に理解し政 治に責任を持って判断を下すことなど無理と言うしかない。政治と民衆 に一旦大きな距離ができてしまう。たとえば、アイオワの農民にも世界 大戦や国際連盟に関して正確な情報を収集した上でアメリカの 、 いやむ しろ自分自身の利益につながる政策でもしっかりと見極めて選択するこ とが求められる。あるいは、タバコの有害性、そんなものあるのか、な いのか。タバコ農家ならタバコの売り上げに関わるので自己利益はわか りやすい。しかし、国民の健康という問題ではどの科学者を、どの説明 を信じればよいのか。科学に基づいてしっかりと判断するように求めら れてもむずかしいことである。新聞は読むとしても、一日30分程度で 天気と農業生産の動向以外大した興味はなかったであろう。ニューヨー クのビジネスマンにしたところで多忙な勤務の合間に30分から1時間 ざっと新聞に目を通すのがせいぜいであった。連邦政府の広範にわたる 諸活動に合理的な判断を下せる市民は数少なく、これまで支持してきた 政党の候補者か、ステレオタイプ化された気に入った政策を掲げる候補 者がいればその候補者かに投票するのが20世紀民主主義の姿となって いた。
しかし、21世紀を迎えてSNSなど身近なメディアができて自分で情 報にアクセスし、発信できる世界に変わってきている。マスメディアの 中にも単純に割り切って一つの立場を主張するところも出てきた。一般
4)ウォルター ・ リップマン(掛川トミ子訳)『世論』上下、岩波文庫(1987年、
原著1922年)。人間がよくわからない状況を理解しようとする時にはステレオ タイプに頼ることで対処しようとしていることを考察し、社会が複雑化するに ともなって世論が正確な情報判断によって形成されるものではないことを明ら かにした。
大衆の側も自分に興味ない、わけの分からないことを言う政治家には関 心を持たない一方で、自分の 「 身近 」 な分かりやすい問題でアプローチ する政治家は熱狂的に支持する。そうした意味で大衆が自らの手に政治 を取り戻すことが可能となった。大衆自身が情報を集め発信し相互に交 流することで、 自分たちの候補を熱狂的に支持する。 政治家の方は大 衆が求める政策に迎合してさらに煽動する。 確かに、 大衆迎合主義と 言われるポピュリズムである。 アメリカ民主政治に関する古典でアレ クシス ・ ド ・ トックヴィルが洞察した5)のと違って、 最も合理的に判 断された自己利益などで行動する市民ではない。 気に入った現実を構 成し、言説を振りまくデマゴーグに飛びつく大衆。フェイクだろうが、
何だろうが、 大衆は自分の気に入った主張に共感し、 熱狂的に支持す るのである。
当然のことながら、ヒラリー ・ クリントン元国務長官など20世紀民 主主義の王道を信奉する政治家はポピュリズムが伝統的な民主主義を 脅かすものとして激しく攻撃した。 トランプ陣営がフェイクな主張を 叫べば一々ファクトチェックし、 ポリティカリー ・ コレクトネスを侵 害した言動を厳しく批判する。自分たちの変わらぬ信念にしがみつき、
迎合してくるデマゴーグたるトランプ候補を担ぐ大衆に対して、 ヒラ リー候補は「嘆かわしい(deplorable) 人々」 と突き放して見せた。 そ れは新旧の民主主義理解にある距離の大きさを示すものであろう。
その 「 嘆かわしい人々 」 が政治を取り戻そうとしている動きとしてポ ピュリズムに注目する必要がある。大衆はもはやエリート政治家やジャー ナリストが構成する問題枠組みをおとなしく受け入れ従う存在ではない。
彼らが政治を動かす主体的なアクターになろうとする動きであると言え るのではないか。そのエネルギーと活動を肯定し、煽動し、利用するの がポピュリズムだと言えよう。とすれば、トランプ現象を起こしたポピュ リズムは民主主義が単純に歪められたのではなく、それを進化させてい
5)アレクシス ・ ド ・ トックヴィル(松本礼仁訳)『アメリカのデモクラシー』岩 波文庫一巻上下 ・ 二巻上下(2005−08年、原著1835−40年)。利益の正しい 理解について特に論じているのは第2巻上214−216ページ。ただし、ド ・ トッ クヴィルはその前提条件として市民が開明されて無知と粗野から脱している必 要性を指摘している。
る面もないわけではない。市民社会全体の 「 公正な 」 価値観とは必ずし も相容れない自分の信条を、不満を、利益を表明してはいけないのか。
社会的公正のために、犠牲にされてきた底辺の白人大衆の思いは置き去 りのままでよいのか。民主主義が本来多様な信条、利害を提示して議論 し妥協して公的な決定に至るのであるとすれば、白人大衆の思いも主張 してよいはずである。同時に、そうした主張は差別を受けてきたマイノ リティの側にもあるはずである。エリートの政治家や学者、ジャーナリ ストが配慮する制度的な差別排除だけではなく、生活上日々身近で受け 止めている構造的な差別を問題化し根本的解決を求める。それは古典的 な 「 最も合理的に判断された自己利益 」 追求の結果で達成できるのであ ろうか。その声はSNSを通じて直接社会に訴え伝えることで政治を動か す必要がある。これまで置き去りにされてきた諸問題を可視化し解決を 迫るには、ポピュリズムをフェイクやデマゴーグに終わらせるのではな く対話と共感が可能となるように政治手法を練り上げてゆくことが課題 なのである。
2.民主党の旧態依然
ところが、20年の大統領選挙を通じて見えてきた問題は、民主党、ブ ルーの政治家が進化した局面にある民主主義について行けてないのでは ないかという懸念である。「嘆かわし人々」が自分で問題を提起して政治 に参加してゆくようにするのがポピュリズム時代の民主政治なのである。
それにもかかわらず 、 ブルーの政治家はそうした人々を見下し切り捨てが ちであった。どうせポリティカリー ・ コレクトネスなどわかりもしない「嘆 かわしい人々」と決めつけてしまう。つまり、民主主義の基本は市民が 真理を目指してしっかりと理解し、実践してゆくべきなのに、大衆もそ んなこと知ったことではないで済ましてはならない。しっかりとよく勉 強して 、 これまで問題ないとされてきたことであってもいかに人権を侵 害し、間違ったことだったのかを心から理解する。それを改め虐げられ た人々を救わなければならない。そうした主張に従えば多数派は譲って 自ら身を引かざるを得ないことになる。今まで優遇されてきたのだから 譲るのが当然なことと押しつける。そう言われてしまえば、白人底辺層 の犠牲はそれまで優遇されていた地位を是正されただけに過ぎないので
あろうか。それにともなう不利益は配慮されないでよいのか。不満の表 明も受け止めてもらえないのか。長年強固な民主党支持基盤の一つ、産 業労働者が16年の選挙でトランプ支持に傾いたのはそうした不満からで あったと考えられている。
そもそも下層の白人マジョリティは近年のグローバル化に伴う産業構 造の変革により失業者となり貧困層に落ちてしまうことが少なくなかっ た。それなのに少なくなった職も優遇措置で女性やマイノリティに奪わ れ、不遇感 ・ 疎外感が大きくなるばかりである。自分たちに救いはない のか。福祉で若干の手当をあてがってもらえば済む問題ではない。まじ めに働き努力した個人が報われるのがアメリカ社会だったのではない か。そうした声を積極的に聴き取り政策課題として寄り添うのはポピュ リストの手法が必要だったのではないだろうか。ラストベルトの白人男 性労働者階級を中心とするマジョリティ大衆の不安や不満に対処するべ く、民主党ブルーに何か有効な戦略があったと言えるだろうか。トラン プ陣営に反発することが優先してポピュリズムの政治から距離をとって いたのではないか。
他方、政治であれば政策の中身が重要なことは明らかである。不遇な 大衆によりそう姿勢だけでなく、大衆の抱える困難を実際に解決する必 要がある。トランプ大統領の場合は、中国や不法移民など敵を作り出し フェイクを利用して「嘆かわしい人々」が分かりやすく乗りやすい政治 を訴えてた。“Make America Great Again”といったスローガンは極めて分 かりやすく、熱狂しやすい。しかも、トランプ支持者にとって自分たち 労働者がまじめに働いて報われる世界こそが「アメリカ」なのである。
しかし、現実には格差拡大に歯止めはかからず、新型コロナ ・ ウィルス 感染は下層のエッセンシャル ・ ワーカーに最悪の事態を見舞うもので あった。感染症は恐るるに足らずとマスクを外して生活しても本当の救 いではあるはずがない。白人至上主義を煽動しても、マジョリティが優 位にあるのもそれなりに正当な理由があるとする自己満足を保障するく らいのものである。職に就いているマイノリティを排除して職を回せる はずがない。それでも救いのなかった人々は熱狂的にトランプ大統領を 支持したのであった。
以上のようにトランプ陣営と民主党それぞれの強みと弱みをみて来る
と、今回の大統領選挙で民主党は大きな失敗を犯したと言わざるをえな い。新型コロナ ・ ウィルスの感染拡大と経済不況で世相は大混乱を来し ており、 現職が大惨敗しておかしくない状況だった。 政権の誤りを糾 弾し野党側が楽に大勝を博するはずの選挙だったのである。本来、民主 党はポピュリスト的で「過激な」バーニー ・ サンダース議員を候補者に 立てて、前回トランプがやったように、下層で見捨てられている大衆層 の票を人種の白黒等の違いを超えて獲得し大勝してもおかしくないので あった。
3.幻のブルーウェイブ
世論調査を通して時にいわれたように、20年の選挙は大統領選挙そ して上下両院議員選挙で民主党が圧勝する勢いのブルーウェーブが生じ ていたはずであった。 実際にウェーブは生じていたのであろう。 それ なのに結果はトランプ大統領が16年の得票に800万票も上積みしてい たのである。世論調査で大体10パーセント以上の差があったのに結果 は51.3対46.8でやっとバイデン候補が勝利したのである。上院議員選 挙では改選後に多数派になるのは確実とされた民主党が議員総数の過半 数に届かず敗北に終わった。改選議席で言えば、民主党はわずか1議席 増の13議席を獲得し、共和党が20議席を獲得したのであった。6)下院 議員選挙でも民主党は議席を増やすどころか減らしてしまい、かろうじ て多数を維持した程度で終わった。かつてニューディールの時がそうで あったように、2020年アメリカ政治の枠組みが大転換を遂げる可能性 が十分にあったはずである。
今回の選挙みたいに社会が大混乱にあり、現職大統領がそれになすす べのない状況においては、政権交替にとどまらず圧倒的多数の大衆が政 治的な大転換を歓迎することがある。 そうした転換をもたらすために は、ポピュリズムの手法をうまく活かし民主主義を新たなものとしてゆ
6)
ジョージア州で2議席を争っていたが、いずれも過半数得票に達した候補者が なく、州選挙法の規定で再選挙となった。そのため、11月の選挙で決まった 上院の議席は33で民主党13対共和党20であった。なお、21年1月に行われ たジョージア州での再選挙の結果、2議席とも民主党候補が勝利を収めたこと で上院の議席は民主党系と共和党とで50対50と均衡し、可否同数となれば議 長を務める民主党のカマラ ・ ハリス副大統領が決することになる。
かねばならない。そうすることによって大衆の圧倒的支持を受ければ、
アメリカが民主的社会主義体制を選択することも期待されていた。社会 主義に対して強い拒否反応を持っていたアメリカ社会に、民主的との限 定付きであれ社会主義が受容されるチャンスなのであった。その意味で 2020年選挙は重大な歴史的転換点となったかもしれなかった。
グローバルなシステムを構築するエスタブリッシュメントが指導する 政治では、社会主義が選択肢となることはありえないであろう。大衆が 抱える諸問題の解決に社会主義的な方策がいかに有効であり、それを求 める大衆が相当数いたとしても、社会主義を実践する政府の樹立を待っ ていては実現しない。新時代の民主主義、ポピュリズムの下で大衆自身 が身近な問題解決に現実を捉え直し社会主義の可能性をつかみ取り、そ の実践を要求し、それに答える政治家を選択し支援する必要がある。そ うなれば自らの利益を実現するために民主的社会主義を選択肢とするこ とに国民全体の抵抗が弱くなってもおかしくない。今回は民主的社会主 義が大きな波となって全米を 、 人種 、 ジェンダーを横断して覆っても不 思議のない選挙なのであった。
その様な歴史的転換を民主党のエスタブリッシュメントが極力回避し たのである。民主党の大統領候補を決める予備選挙は難しい選択を迫ら れた。毀誉褒貶の激しいトランプ大統領の再選を何としてでも阻止した いとの思いは多くの民主党員に共有されていた。言動の多くに厳しい非 難が浴びせられたにしてもトランプ大統領が選挙戦に勝つ見通しはかな り有力であったのである。やがてトランプ大統領は新型コロナ ・ ウィル ス感染症対策の不備と経済の大きな落ち込みで支持を減らすことになる ものの、 予備選の早い時期には情勢がどう動くか読み切るのは至難で あった。対立候補には支持層が幅広く勝てる可能性が高い人物がふさわ しいと民主党指導部が考えたのも不思議ではない。実際、予備選挙が始
まってみると毎回勝者が入れ替わり票は割れてしまった。どんぐりの背 比べのまま有力な対抗馬が現れずに終わる可能性も真剣に懸念されるに 至った7)。党大会で正式に大統領候補者指名が決着を付けるまで本命候 補が浮上せず、その間にトランプ大統領にいいようにあしらわれ大きな リードを許してしまえば再選を阻むことが極めて困難となりかねない。
また、混戦のなかで社会主義者といってはばからないサンダース議員が リードしておりこのまま党の候補となれば中道票を逃がしてしまい、ト ランプ陣営の過激派攻撃にあっさり敗退してしまうかもしれない。黒人 票が勝敗を左右する南部、サウスカロライナ州予備選挙では初めてバイ デン候補が首位に立つ一方で、若手候補の支持が伸び悩みを見せた。そ こで民主党指導部は中道派候補であり票をまんべんなく集められる候補 としてバイデン候補に一本化する必要があるとの判断に至った。 スー パーチューズデイを前に急遽他の中道派候補者を下ろしてバイデン候補 に集約させたのである。トランプ大統領が再選される悪夢だけは何とし ても避けることが緊急課題だという名目の下に伝統的民主党指導部の権 益を守るように動き、以後バイデン候補が順調に予備選で代議員を集め 過半数を超えた。
それに対して、16年に共和党はそのような作為的な仕掛けを行うこ とがなかった。泡沫候補のトランプをほったらかし、予備選挙を重ねる ごとに選挙民自身に候補を選び出させたのである。予備選が始まるとす ぐに公職のキャリアを持たず過激な発言を繰り返すトランプ候補が首位 に躍り出て他の候補を圧倒していったのである。その結果。予備選挙で の勢いに乗って本選挙でも一般投票では300万票以上の差があったにも かかわらず選挙人の数で勝利を勝ち取ったのであった。ところが、民主 党は明らかにサンダース候補の芽をつぶした。過激な主張で本来なら多 数を得られそうにもない候補であっても、予備選のプロセスで大衆的な
7)予備選挙が始まったところで開催された民主党候補者の討論会に参加した候補 者はウォーレン上院議員、サンダース上院議員、クロブシャー上院議員、ブティ ジェッジ ・ サウスベント市長、バイデン元副大統領、ブルームバーグ元ニュー ヨーク市長の6人であった。アイオワ州党員集会で1位となったのはブティ ジェッジ市長、ニューハンプシャー予備選ならびにネバダ州党員集会の1位は サンダース議員であり、中道派の本命バイデン候補は南部サウスカロライナ州 予備選挙でやっと1位を占めた。
支持を高めて勢いを付けると意外に多くの票を集めることもありえない わけではない。過激とされる主張でも選挙集会で大衆の中に入ってゆく と熱狂的に歓迎され支持を固めることにもなる。16年の予備選挙を最 後まで戦う中で、サンダース現象と呼ばれるほどの若者支持者の熱狂を 巻き起こした実績もあったからである。今回左右の過激な主張が真正面 からぶつかり合い大衆の明確な選択があれば、その主張に沿った選択が 承認されて大きな変革を達成することが可能となったはずである。
ただ、民主党にとってトランプをあと4年も引き受けるかと言えば 、 そんなことはとてもあってはならない事態である。何としてでもトラン プ再選を阻止するのが至上命題となったのは確かである。それでも今回 民主党指導部の保守 ・ 保身によってはっきりした体制選択の問いかけが 不発に終わってしまった。それゆえ、24年の選挙がまた混乱になりか ねない。 年齢的にももうトランプの時代は去っていると思われるもの の、 彼は再出馬の可能性までほのめかしている。 結局の所、20年の選 挙で穏健な主流派となじみのよい候補のバイデンを押し立てたことで、
民主党は下層の大衆を突き放してしまった。そのおかげで、これまでト ランプに頼るより他に選択肢のなかった下層の大衆は相変わらず彼に投 票するより他に道がなくなってしまったのである。トランプ大統領が前 回より800万票も得票を伸ばし、7400万票を獲得した背景にはポピュ リズムを選択肢として消極的ながらトランプに入れた票が相当数あった ものと考えられる。それに対して 、 民主党の側は24年に大衆に近い存 在の指導者がサンダース現象と呼ばれたような熱狂を呼び起こしてゆく ことができるであろうか。サンダース議員も24年には83才を迎えてい るので、彼のような熱狂を呼び起こし 「 過激な 」 社会主義でも受け入れ させられる魅力的指導者が必要かもしれない。その様な可能性を有する 政治家として、アレキサンドリア ・ オカシオ=コルテス下院議員に注目 してみたい。
4.民主党の課題とオカシオ = コルテス議員の可能性
ブルー 、 民主党の側でポピュリズム時代にしっかり対応できているス ターがアレキサンドリア ・ オカシオ=コルテス議員であろう。大衆に熱 狂を起こしてゆく存在であり、新時代の民主党の顔となるべき人物とみ
ている。何よりも騒ぎを起こしそこに民衆を巻き込んでゆく力がある。
そのためのSNSツールもトランプ以上に駆使しており、うまく利用し て政治活動を展開している。政策も明らかな左派でかなり過激な立場だ としても、それが大衆の生活を直でよくする点を巧みに訴え、納得させ る力を持つ。大衆に対して身近な様々な諸問題に注意を喚起した上で、
民主的社会主義があなたの問題を解決するよと激しく揺さぶって参加さ せてゆく。今回20年の連邦下院議員選挙でもなんなく再選を果たしさ らに大きな注目を集めている。現時点ですでに民主党の顔だとは言えな いにしても、民主党が真剣に新生ポピュリズムの党に変革するのであれ ばその顔になるのにふさわしい存在であろう。彼女ならこれまでの民主 党がエリート志向の頭でっかちでポピュリズムに弱い部分を大きく転換 させてゆく可能性がある。奇妙な言い方になるが、民主党の「トランプ」
になるかもしれない。彼女はトランプの口先攻撃にも全く動ずることが ないばかりか、逆に自己の世界観からトランプに激しく攻撃を仕掛ける こともできよう。これまで彼女は不当な主張に対しては徹底的に追及し 表面的な言い訳を受け入れることは決してしない8)。24年の選挙時には 35才に達する。つまり、合衆国憲法上大統領職の被選挙権を獲得して いる。アメリカは4年後にも大きく転換することは間違いなかろう。だ からこそアメリカ政治の持つポピュリズムの意味を根底から確認してお く必要がある。民主主義が現代に展開する形だからである。
民衆党、 ブルーの政治家はともすればエリートで、 未来になすべき ことがよくわかっていてそれを論理的に(上から目線で) 語ることを しがちである。 しかるに、 極めて優秀なエリート政治家は大衆の中に 入っていって同じ皮膚感覚で共感しながらやるべきことを協働して引 き付ける力に欠ける嫌いがある。よいことなのだから皆さんはしっか
8)20年の7月共和党のテッド ・ ヨーホー議員がアレキサンドリア ・ オカシオ= コルテス議員が発言した時に女性蔑視の言を浴びせかけたことで大きな問題に なった。ヨーホー議員はこうした侮蔑語を彼女に投げたわけではないし、自分 には妻も娘もいて女性を大事に思っていることは疑いがないと主張した。彼女 はさらにその言い訳を厳しく糾弾して、侮蔑語を発してしまうことを気にかけ ない男性文化こそが問題であり、身近に女性がいてもそうした自覚を男性が持 つわけではないと断言した。その内容は広く伝えられ喝采を浴びた。國崎万智
「女性議員、蔑視発言の同僚に痛快な反論」『HUFFPOST』(2020年7月25日号)。
りとしなくてはなりません、で終わり。しかも、エリートはそんなこと すでに実践していることが前提になっている。 大衆にとってその主張 は、だから何をどうすればよいのか、それで自分の生活が現実にどうよ くなるのか、うまく政治に巻き込んでくれるわけではない。ヒラリー ・ クリントン元国務長官がその典型といえよう。よいことが分かっていて もそれに距離をとる人は嘆かわしい人だとしてしまう。因みに、トラン プ支持者のプラカードに、“I am proud of a deplorable”というのがよく見 られた。そこにはエリート政治家の上から目線に対する大衆層の激しい 反発を見て取ることができるし、トランプ陣営がその反発を巧みに自分 への支持に取り込んでいることが分かる。それが分かっていても、ヒラ リー ・ クリントン氏のような政治家が大衆の中に飛び込んで熱く煽動す る姿はとても想像できない。
オカシオ=コルテスはそうした大衆の中に飛び込み、巻き込み、しか もそのためのツールとしてツィッターに加えてインスタグラムも駆使し てコミュニケーションをとり、動きを盛り上げてゆく政治家である。何 よりもお騒がせ力ともいうべき喚起力を持ち合わせており、これまで激 しい非難、攻撃を受ける度に巧妙に、厳しく反撃して大いに注目を浴び てきた。2018年に初めて連邦下院議員に当選した後、19年1月のウー マンズ ・ マーチに臨んで行った演説はポピュリスト政治家の面目躍如た るものがある。エリートの言葉ではよくわからないかもしれない 「 嘆か わしい人々 」 にも分かりやすく、力強く語りかけ、彼らの身近な問題こ そまさに正義の問題なのだと煽っている。
「・・・ 正義とは本の中で勉強するような抽象概念ではありません。 正 義とは私たちが飲む水、呼吸する空気についてのものです。正義とは投 票するのに余計な条件がどれだけ小さいか、正義とは女性の給料がきち んと支払われているのかということです。正義とは子どもたちが生まれ てから母親や父親、あらゆる形態の親にとってわが子と一緒に過ごす時
間が十分にあることです。正義が教えてくれます。おとなしく黙ってい ることが礼儀なのではない。なすべき正しい行動が机を揺さぶるという ことも、少なくありません。昨年、私たちは投票所で力を持ちました。
・・・」9)
本で学ぶことが正義ではない。ごく身近にある諸々の問題がまさに正 義として問わなければならないのだというメッセージは分かりやすく、
大衆に響くものである。生活する具体的な状況で、水道事業民営化など の政策の混乱で飲料水まで汚染されたものになってしまった。子どもた ちがなぜ喘息で苦しんでいるのか。選挙になれば主権者人民であるにも かかわらず底辺の大衆が投票しようとすると様々な障害を設けている州 法がたくさんある。女性の給与が同一労働の場合でも男性より低くされ ている。何とか生活を維持するために子どもを持つ親が長時間働かざる をえず、子どもと接する時間がどうしても削られてしまう。これらのこ とは当然のことではない、仕方ないことではない。立ち上がって机をば んばんやってでも改めることなんだと力説している。煽動している。まっ たく以てポピュリストの手法である。聴いている大衆も自分の問題には 声をあげ行動すべきことだと了解し、しかもそうした具体的な諸問題が 正義という社会全体の秩序を構成する重大な問題であると理解できる。
行動する。「嘆かわしい人々」も身近に問題を抱えて悩んでいるであろ う。それは重大であって政治が是非解決する。だから政治に参加しよう と呼びかける。問題が次々に寄せられれば連邦議会が一つ一つ対応して ゆくはずであると約束する。民主主義が選挙と投票に終わるものではな く、大衆も問題を提起し政治家がそれを受け止め、行政につなげる。問 題はマスメディアのキャンペーンが取り上げ、ロビーストが暗躍するこ とで動くわけではない。大衆が声を上げても無駄に終わるのではない。
それを十分に期待させるのが、アレキサンドリア・オカシオ=コルテス 議員達の左派ポピュリズムである。
9)「正義とは、わたしたちが飲む水、吸う空気のこと」『クーリエ ・ ジャポン』(2019 年1月26日号)、訳文は筆者自身の修正による。この時の演説は動画にもアッ プされていて、例えば以下でみることができる。(2021年4月20日現在)
https://www.youtube.com/watch?v=TNJZhuZCYow&t=7s
トランプの場合もそのお騒がせ力で(ホワイト)アメリカ ・ ファース トを力強く盛り上げ、とんでもないことも含めて次々に事件を起こして 盛り上げ続けてきた。その成果が今回も前回得票に800万票を上積みし 7400万票に上る得票だったのである。根強い人気で熱烈な支持者を動 員し、さらに支持を拡げている。ラストベルトの白人労働者層だけでな く、ヒスパニックから黒人層でも支持者を拡大した。自分たちのことを 気遣ってくれている、話しに耳を傾け状況をくみ取ってくれると実感で きるようなことをトランプはしっかりとやってきたのである。フェイク を活用しながらであっても。さらに、若干の経済的利益も確かにないわ けでもない。それに対して、白人労働者に限らず下層大衆の境遇に共感 し、寄り添って、民主的社会主義による資源の根本的な再配分による解 決を熱く語るのがオカシオ=コルテス議員なのである。
これまでの民主党はそうしたポピュリズムの戦略が弱かった。現代の アメリカ政治はポピュリズムへと急速に変貌しているのではないか。こ れまではエリートが中央で難しい議論を戦わす、選挙民の多くはどうせ 難しいことは分からないからこれまでの枠組みに従って投票する、 と いった選挙で済ませてきたと思われる。 労働組合員だったらもう民主 党。黒人なら民主党。余り考えなくてもいいから、わが党なら安心です と。伝統的な民主主義の手法に依存することしかしてこなかった。しか し、ポピュリスム時代の民主政治では一段と身近になってもう大衆自身 が熱狂的に政治に参加する必要がある。大衆が自分も一言あるし、言わ せてくれ。それを聞いてくれる奴じゃないと信用しない。政治を身近で 捉え、分かる言葉、政策を持ってくる者に投票する。その意味で民主主 義が進化していると言っても過言ではない。投票に出かけないとしても 無関心で白けているのではない。白けているように見えるのは 、 自分と 関係ない話しかしない奴らには興味がないと割り切るようになったから である。問題を身近に引き付けて語り迫ってくれば問題を共有して投票 するし、熱気をこめて応援するのがSNS時代の大衆である。
トランプ大統領はそこを非常にうまく衝いたといえるだろう。進化し た民主主義に実にうまく対応できた政治家だったのである。自分を支持 してくれる層に受けるテーマで直に分かりやすく語りかける。しかも、
在職中にも盛んにラリーを開催して、何万のもの聴衆を集め、筋書き、
パターンにそってエンターテイメント的に演説を行う。話の途中には支 持者から応答があり、チャントがわき起こる。このラリーには大衆が予 約申込に殺到し、チケットを獲得できれば熱狂的に参加するのである。
自己の利害を冷静に 、 合理的に判断するよりは、気に入った主張には熱 狂し、敵に対する怒りを叩きつける。この場の体験、共感の一体感を盛 り上げることが重要で、資金寄付も含めてトランプ政治を一体となって 推進している意識を高める。大統領が全人民を代表する公的存在である ことは棚上げ、分断大いに結構とするポピュリズム民主政といえよう。
民主党で、その状況を感覚から理解し、ポピュリズム政治を実践して いるのがオカシオ=コルテス議員だと思われる。彼女の主張は 「 過激 」 であることは間違いない。かなり社会主義であり、民主的社会主義。ま だまだ少数派ではある。それはアメリカの中で拒否反応も強い信条であ る。でも巨大な格差社会を是正する現在の必要に答える革新的な方法な のではないか。格差がここまで極端な状況になってしまえば社会主義を 積極的に取り入れるしかない。その時に大衆に向かって難しい理論を振 りかざして語りかけ、皆さんにもとてもよいことで是非支持して下さい と言われたってついて来てくれるはずがない。オカシオ=コルテスのよ うに騒ぎをかき立てあなた自身に関係するし、何かよくなる、それに参 加しているといった思いを抱かせる。それに必要な広報で新しい手法、
SNSを駆使して呼びかけを届くようにする。それができる人材が彼女で ある。一種のデマゴーグといっても差し支えない。しかし、今はよきデ マゴーグを選択するのが民主主義なのかもしれない。トランプはよいデ マゴーグか、見かけ倒しか。オカシオ=コルテスはどうか。
現在、進化した民主主義はトランプ流のポピュリズムになっている。
そのせいか、常識的にはポピュリズムをフェイクでも何でもうまいこと だけ言って、敵を作って、格差を拡大するだけの不毛な政治と受け取ら れがちである。しかし、ポピュリズムは中身のある、人類に、大衆に生 きる方法を支える民主主義の新しい形となる可能性がある。それを大衆 と密接にコミュニケーションをとるポピュリズムで実現する。オカシオ
=コルテス議員はポピュリスト政治家の才能が豊かにある。新しい民主 主義時代の政治家としてこれからも活躍に注目してゆきたい。