博 士 ( 農 学 ) 阿 部 尚 樹
学 位 論 文 題 名
『 抗 腫 瘍 抗 生 物 質 生 産 菌 株 が 微 量 に 生 産 す る 生 物 活 性 化 合 物 に 関 す る 研 究 』
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
微 生 物 を 探 索 源 と し た 、 抗 腫 瘍 物 質 の ス ク リ ー ニ ン グ の過 程 に お い て 、 Pluramycin関 連 化 合 物 生 産 株 で あ るStreptomyces sp. HP530株 、 さ ら に Lavendamycin生 産 株 で あ るStreptomyces sp. G324株 を 得 た。 こ れ ら の 菌 株 の 生 産 する 化 合 物 は 、in vivo抗腫 瘍活 性試 験に おい て、 強い 延命 効果 或は、
腫 瘍 の 増 殖 抑 制 効 果 を 示 し た 。HP530株 は 既 知 のPluramycin群 の 化 合 物 に 比 ベ 極 性 の低 い 部 分 に 強 い 細 胞 障 害 活 性 を 示 す 同 じuvス ペ クト ルを 持つ 微量成 分 が 存 在 す る こ と 、 ま た 、G324株 はLavendamycinよ り も 高い 極 性 の 部 分 に Lavendamycin類 似 のUVス ペ ク ト ル を 示 す 複 数 の 微 量 細 胞 障害 活性 物質 の存在 が 認 め ら れ た 。 抗 腫 瘍 ス ペ ク トル は 、AdriamycinとDaunomycin、 或 はVin− blastineとVincristineに も 見 ら れ る よ う に 、 構 造 上 の わ ずか な 違 い に よ り 大き く変 化す ること が知 られ てい る。 一方 、抗 腫瘍 抗生 物質 の多 くは 、抗菌 活 性も 合わ せ持 つこと より 、微 生物 は自 身に 対す る影 響の 上か らも 活性 の強い 二 次代 謝産 物の 生産は 極力 抑え られ てい る可 能性 が強 いこ とか ら、 既知 抗腫瘍 物 質生 産株 が微 量に生 産す る活 性化 合物 は、 より 強い 活性 、異 なっ た特 徴の活 性 を示 す可 能性 がある 。ま た、 主生 産物 との 生合 成の 面か らの 関連 性か らも、 前 駆体 、制 御因 子、分 岐に よる 生産 物な どの 可能 性も 考え られ 、有 用な 化合物 で ある と考 えら れるこ とか ら、 その 検討 を行 った 。。
第1部 で はStreptomyces sp. HP530株 の 生 産 す るPluramycin関 連 化 合 物 の 検 討 を行 っ た 。HPLC分 析 に お ぃ て 既 知 のPluramycin群 化合 物と ほば 同じ挙 ‑ 324ー
動 を示 す2種 の主 生 産 物と 、 糖の 結 合 して いなぃ タイプと思 われる3種 の化合物 を単離 した。こ のうち1種は 既知化合物(ロ−Indomycinone)と同定されたが、他 の4種 化合 物 は、2位 の 側 鎖の み の違 い で はあるが 、すべて新 規化合物 であった (SaptomycinA,Ci,C2,F) 。 さら に 、HPLCによる分 析はこれ らZグル― プの中 間の極 性を示す 微量活性物 質の存在 を示唆した。そのうちの1種化合物を単離し、
構 造解 析 を行 っ た 結果 、Saptomycin Ciの6´ 位立 体 配置 異 性 体で あ るSapto− mycinBを 構 造 決 定 し た 。SaptomycinBと 同 じ 程 度 の 極 性 を示 す 化 合物 を 比較 的 多量 に 生産 す る 株を 得 るた め 、 単胞 子 分離し た株を培養 し、HPLCによ り生産 物 の分 析 を行 っ た とこ ろ 、目 的 の 極性 付 近の化 合物のみを 主生産物 とする、 自 然 変異 に よる と 思 われ る 変異 株 を 分離 し た。こ の変異株を 大量に培 養し、親 株 で は微 量 にし か 生 産さ れ なぃ 化 合 物の 単 離、構 造決定を試 みた。各 種クロマ ト グ ラフ イ ーを 繰り返 し用い、4種の化合 物を得た 。これらの 化合物の 各種機器 分 析 を用 い た構 造解析 の結果、 これら4種 化合物は 、モノアミ ノグリコ シドの新 規 化 合物 で ある ことが 判明した 。これら の化合物 の構造を決 定し、SaptomycinD、 E、G、Hと 命 名 し た 。 こ れ らの 化 合物 に 関 して は 、さ ら に 、Deacetylsapto− mycinD、Eを誘導し、アミノ糖部分(鹽,竪一dimethylvancosamine)の3´.位の置換 基 効果 及 び6′位の立 体配置の 違いによ る立体配 座の変化に ついての 構造的知 見 を 得 た 。 そ の 結 果 、3′ 位 が フ リ ー の 水 酸 基 の 場 合 は 、boat formに 近 い twist formを と り 、Acetyl基 な ど に よ ル エ ス テ ル 化 さ れ る とchair formの 立 体 配 座 を と る こ と が 明 か と な っ た 。 ま た 、6′ 位 の 立 体配 置 の 変化 し た、
SaptomycinB及 びHに お いて は 、3′、 位 の 置換 基 の有 無 に よら ず 、Deacetyl― saptomycinD、Eと は 違 う タ イ プ のchair formを と る こ と を 示 し た 。 以 上 の 知見をもとに、Saptomycin A〜Hの相対配置を決定した。
Saptomycin類の生 物活性は 、抗菌活性 、細胞障 害活性( 皿虹彑翌)、抗腫瘍活
性(in vivo) について検討した。抗菌活性は菌によって多少のばらっきは認めら れる もの の、全般的にはSaptomycinD において最も強い活性が認められた。
また、細胞障害活性試験においては、DeacetylsaptomycinD 、E に強い活性を 認めた。抗腫瘍活性試験では、マウス腫瘍系MethA についてSaptomycin Ci ` C2 、 D に有効な活性が認められたものの、他の腫瘍系に対しては顕著な活性は 示さなかった。以上の結果をまとめると、Saptomycin 類はその母核にキノン部 分を持つことから、この官能基において活性が発現されることが予想されるが、
一方、各種生物活性試験の結果は、2 位の側鎖、8 位のangolosamine 、10 位の N ,N;dimethylvancosamine の3 カ所の構造が相互に関連しあって、それぞれの生 物活性に対する特異性、有効性、選択性などに影響を与えているものと考えら れる。さらに、3 ´位、 11 位に長さの異なるAcyl 基を導入し5 種の誘導体を調 製し、細胞障害活性、抗腫瘍活性の改善を試みたものの有効な結果は得られな かっ た。 S め tomycin 類に おぃ て、 微量 生産物と考えられるSaptomycinD 、E さらにそこから誘導したDeacetylsaptomycinD 、E は、腫瘍細胞に対する細胞 障害活性において、従来より知られているタイプの主生産物である化合物に比 ベ、10 〜 100 倍もの強い活性を示すことから、本研究においてーつの目的として いた、主生産物よりも非常に活性の強い微量生産物の発見に値する化合物であ った。
第 2 部に おいて は、 Streptomyces sp. G324 株の生産するLavendamycin 類 似の uv ス ペク トル を示す 、複 数の 微量 細胞障害活性物質の検討を行った。
主生産物としてLavendamycin が同定された。Lavendamycin はその構造上の特 徴から、Streptonigrin との生合成的な関連が指摘されている。本菌株の生産 する化合物の分析、並びに細胞障害活性試験の詳細な検討を行ったところ、
Lavendamycin よりも極性の高い画分に、しavendamycin 、 Streptonigrin のuv
スベクトルと類似のスペクトルを持った、複数の微量生産物の存在が認められ た。そこでこれらの化合物の精製・単離を試みた。各種クロマトグラフイーを 用いて単離した5種の化合物について、各種機器分析により構造解析を行ったと ころ、これらの化合物は、ロ‑carbolineを基本骨格に持ち、1位にC8ユニット を共通に持つ新規な化合物群であることが明かとなった。さらに、このうち3種 の化合物は、1位の側鎖にL―(+)‑rhamnoseをグリコシル結合している構造であ ることが示された。すべての化合物の構造を決定しOxopropalineA、B、D、E、 Gと命名した。in虹よroでの細胞障害活性試験の結果は、特異性のある強い活 性は認められなかった。しかし、Oxopropal ine類は、構造上の特徴、並びに培 養過程における存在量の変化等、Lavendamyc inの生合成を考える上で、非常に 重要な知見を与える化合物群であると考えられる。また、Oxopropal ine類が弱 いながらも細胞障害活性を示すことから、他のロ‑carbol ine化合物が多様な 生理活性を示すこと、とも考え合わせ、Oxopropal ine類も何らかの重要な生理活 性をもつ可能性が強いと思われる。
以上、『抗腫瘍抗生物質・生産菌株が微量に生産する生物活性化合物に関する 研究』として、2種の菌株について検討を行ってきた。Saptomycinにおいては、
今後の展開如何によっては、更なる成果も期待できると思われる。また、Oxo− propalineにおいては、主生産物であるLavendamycinの生合成を考える上で、
重要な知見を与えるものと思われ、また、他の活性が期待できる面からも今後 に検討を残すものであると思われる。本研究において得られた結果は、方向性 として本テーマのめざすものが、臨床上有効な制癌剤の発見に貢献可能ナょこと を示した。従って、今後さらに本研究を進めることにより、最終目的である、
臨床で有効な制癌剤の開発に対し合致した化合物を提供できると思われる。
学位論文審査の要旨 主査 教授 市原耿民 副査 教授 水谷純也 副査 教授 冨田房男
学 位 論 文 題 名
抗 腫瘍抗生物質生産菌株が微量に生産する 生 物活性 化合物 に関す る研究
本 論 文 は 緒 諭 と 2 部 、 4 章 で 構 成 さ れ 、 表 22 、 図 21 、 チ ヤ ― ト 130 お よ び 引 用 文 献 107 を 含 む 総 頁 数 191 の 和 文 論 文 で あ る 。 別 に 参 考 論 文 7 編 が 添 え ら れ て い る 。
現在 死因 の第 1 位を 占める に至っ た悪 性腫瘍 (癌) はさま ざ まな 治療法 の開発 にも拘 らず増 加傾向にあり癌化学療法の重要 性が高まっている。このようナょ状況のな.かで、動植物、微生物 由来の効果的ナょ薬剤の発見及び開発が望まれている。本論文は 2 種 の Streptomyces 属 菌 の 生 産物 の 検 索 を 行 い、 腫 瘍 細 胞 に 対し 高い生 物活性 を示す 新規化 合物を見出し、構造研究、生理 活性に新知見を加えたものである。
第1 部で は Streptomyces 属 HP530 株の 生産す る Pluramycin 関連 化 合物 の検索 を行っ ている 。 HPLC (高 速クロ マトグ ラフ ィ−)
分 析 に おい て 既 知 の Pluramycin と ほば 同 じ挙動 を示す 2 種の主
生 産 物 のほ か 、 極 性 の高 い 3 種 の 化 合物 を単 離した 。こ のうち
1 種 は 既 知 化 合 物 で p ― Indomycinone と 同 定 さ れ た が 、 他 の 4
種の化合物はすべて新規化合物であり、 SaptomycinA 、Cl. C2 、F
と 命名 してい る。さ らにHPLC 分 析で中 間の極 性も持 つ微 量成分
の存在が示されたので、単離、精製を試み、SaptomycinC 】の立 体異性体であるSaptomycinB を得ている。さらに親株の変異株 を HPLC で 精査したところ、新株にはみられない、中間の極性 を示す成分を主生産物とすることを認めたので、この近傍の微 量生産物の単離、精製を行い、 4 種のアミノグリコシドである 新規化合物を得て、SaptomycinD 、E 、G 、H と命名した。これらの なかで SaptomycinD 、E の3 位アセチル基を水酸基に変えた化合 物 DeacetylsaptomycinD 、E に立体配座が大きく変化することを 見出している。即ち 3 .の水酸基の場合は舟形に近いねじれ形を とり、アセチル化され元に戻すと椅子形の立体配座をとること を明らかにした。っぎにSaptomycin 類の抗菌活性、細胞障害活 性、抗腫瘍活性にっき検討を加えた。抗菌活性は菌により多少 のばらっきが認められるものの、全般的にはSaptomycinD に最 も高い活性が認められた。また、細胞障害活性試験においては DeacetylsapmtomycinD 、E に高い活性を、抗腫瘍活性試験ではマ ウス腫瘍に対しSaptomycin C1 、C2.D が有効であった。以上の結 丶
果をまとめるとSaptomycin 類はその母核にキノン部分をもつこ とから、この官能基において活性が発現されると予想されるが、
各 種生物 活性試験の結果は 2 位の側鎖、8 位の angolosamine 、 10 位の N . N ー dime thylvancosamine の3 箇所の構造が相互に関連 して、それぞれの生物活性に対する特異性、有効性、選択性な ど に影響 を与えているものと考えられる。微量生産物である SaptomycinD 、E およびこのヒド口キシ誘導体に高い細胞障害活 性が認められたことは探索研究における微量成分の重要性を示 したものといえる。
第2 部ではStreptomyces 属 G324 株の生産する Lavendamycin に 類似の紫外線吸収スペクトルを示す複数の微量細胞障害活性物 質の検討を行っている。その結果主産物としてLavendamycin を 同定したほか、5 種の新規化合物、OxopropalineA 、B 、D 、E 、G を
ー329―
単離 した。 構造 解析に より、これらはすべてロ― carboline を基 本骨 格とし 、 1 位 に C3 単 位の側鎖を持つ化合物群であることを 示し た。さ らに 、この う′ち 3 種 の化合 物は 1 位 の側鎖 にグリ コ シル結合しているL −(十)―thamnose を保持していることを明らかに した 。これ らの 細胞障 害活性 試験の 結果は 特異 性のあ る高い 活 性倣 認めら れな かった ものの 、構造 上の特 徴な らびに 培養過 程 にお ける存 在量 の変化 などか ら、 Lavendamycin の生合 成を考 え るう えで貴 重な 知見を 与える もので ある。 また 、 Oxopropaline 類が 弱いな がら も細胞 障害活性を示すことから、声一 carboline 化合 物が多 様な 生理活 性を示 すこと を考え 合せ 、将来 全く異 な る生理活性を、 Oxopropaline 類に見い出すことも可能であろう。
以 上 Streptomyces 属 の 2 種の 菌株に っいて 行った 新規 生理活 性 物質の 単離、 構造、 生物 活性試験は新しい抗腫瘍活性物質の 発 見にっ ながっ たぱか りで なく、臨床上有効な制癌剤の開発に 基 礎的知 見を加 えたも ので あり高く評価できる。よって審査員 一 同は別 に行っ た学力 認定 試験の結果と合せて、本論文の提出 者 阿 部 尚 樹は 博 士 ( 農 学) の 学 位 を 受 ける のに充 分な 資格が あ るもの と認定 した。
ー 330ー