日機連20事業環境-6
平成20年度
新たな金属資源ナショナリズムが我が国の機械産業に 与えるインパクトと対応策等に関する調査研究報告書
平成21年3月
社団法人 日本機械工業連合会 神 鋼 リ サ ー チ 株式会社
この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。
http://ringring-keirin.jp/
序
我 が 国 の 機 械 工 業 を 取 り 巻 く 事 業 環 境 は 、グ ロ ー バ ル 経 済 の 進 展 の 中 で 、資 源・エ ネ ル ギ ー 問 題 、環 境 問 題 、等 も 含 め 、世 界 規 模 で 取 り 組 ま な け れ ば な ら な い 数 多 く の 深 刻 な 問 題 を 抱 え て お り ま す 。
ま た 、BRICs を は じ め と し た 新 興 工 業 国 は 、 生 産 技 術 力 を 著 し く 向 上 さ せ て お り 、先 進 国 間 の 差 別 化・高 付 加 価 値 化 等 の 技 術 競 争 も 厳 し さ を 増 し 、技 術 競 争 力 で 優 位 に あ る と さ れ た 我 が 国 機 械 産 業 の 相 対 的 な 地 盤 低 下 が 懸 念 さ れ る よ う に な っ て き て お り ま す 。
さ ら に 情 報 通 信・輸 送 手 段 の 発 達 が そ う し た 競 争 を 一 層 激 化 さ せ 、世 界 中 で 生 き 残 り を か け た 企 業 競 争 が 展 開 さ れ る 状 況 下 に あ り ま す 。
世 界 市 場 で の 競 争 力 強 化 に 有 効 な 対 策 や 、 将 来 性 の あ る 新 興 国 市 場 へ の 進 出 に 向 け た 対 応 等 も 求 め ら れ る 一 方 、そ う し た 技 術 競 争 の 中 に も 、 国 際 的 な 社 会 責 任 を 果 た す た め に 守 ら な け れ ば な ら な い 安 全 保 障 管 理 制 度 や 貿 易 制 度 調 和 が あ り 、 今 後 よ り 緊 密 に 各 国 間 の 協 調 を は か る 必 要 が で て き て お り ま す 。
こ う し た 背 景 に 鑑 み 、弊 会 で は 機 械 工 業 の 事 業 環 境 に 係 わ る 調 査 の テ ー マ の 一 つ と し て 神 鋼 リ サ ー チ 株 式 会 社 に「 新 た な 金 属 資 源 ナ シ ョ ナ リ ズ ム が 我 が 国 の 機 械 産 業 に 与 え る イ ン パ ク ト と 対 応 策 等 に 関 す る 調 査 研 究 」を 調 査 委 託 い た し ま し た 。本 報 告 書 は 、こ の 研 究 成 果 で あ り 、関 係 各 位 の ご 参 考 に 寄 与 す れ ば 幸 甚 で す 。
平 成 2 1 年 3 月
社 団 法 人 日 本 機 械 工 業 連 合 会 会 長 金 井 務
はしがき
昨年の上半期は、資源・エネルギー価格高騰がニュースに出ない日はないという ぐらい原油や天然ガス、あるいは農産物等の値上がりが話題となりました。こうし た動きは、金属資源においても同様であり、鉄、アルミニウムや銅などのベースメ タルからニッケル、タングステンなどのレアメタルに至る金属資源全般に及んでい ます。資源に乏しい我が国では、主要な資源、原材料は輸入に依存しているため、
資源価格の高騰は経済活動に大きな影響を与えます。
ベースメタルやレアメタル等の金属資源は、電機、自動車、工作機械、原子力な ど機械産業においても幅広い分野で使用されています。しかしながら、ベースメタ ルについては、鉱石が賦存している資源国の政策転換や採掘権を保持しているメジ ャーの寡占化などにより価格高騰や供給制限のリスクが高まり、またレアメタルに ついては、鉱石等をそのまま輸出するのではなく、国内関連産業を育成し付加価値 をつけてから輸出するなど、資源関連産業への国家関与を強め、自国資源を囲い込 む動きが拡大しています。
本調査事業はこうした背景の下、鉄、アルミニウムや銅などのベースメタルやレ アメタルの我が国の輸入量・生産量などのデータを整理し、経済活動に占める重要 性を把握するとともに、金属資源国の政策動向について議論し、価格高騰や供給制 限の影響が我が国機械産業に与える影響、具体的にはモータ産業と原子力産業を取 り上げ、調査、検討したものです。併せて、今後の我が国の対応策等についても提 言いたしております。
最後になりましたが、本報告書を作成するにあたり、ご指導を賜った社団法人日 本機械工業連合会をはじめ、調査研究を遂行する上で助言・提言を頂いた関係者に 厚く御礼を申し上げます。本調査結果が関係各位において参考になれば幸いです。
平成21年3月
神 鋼 リ サ ー チ 株 式 会 社 代表取締役社長 大友 朗紀
目 次
第1章 世界の資源・エネルギーを巡る動向と新たな資源ナショナリズムの台頭
1.1 世界の資源・エネルギーを巡る動向 ・・・・・・・・・・・・・・ 1 1.2 新たな資源ナショナリズムの台頭 ・・・・・・・・・・・・・・・ 8 1.3 これまでの日本政府の対応 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13
第2章 日本の機械産業と主要な金属資源
2.1 世界の主要な金属資源 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19 2.1.1 金属資源について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19 2.1.2 鉄・ベースメタル、レアメタルの埋蔵状況 ・・・・・・・・・ 21 2.2 日本の産業を支える主要な金属資源 ・・・・・・・・・・・・・・ 28 2.2.1 鉄について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28 2.2.2 アルミニウムについて ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34 2.2.3 銅について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40 2.2.4 インジウム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47 2.2.5 プラチナ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 53 2.2.6 ガリウム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 59 2.2.7 ニオブ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 65 2.2.8 ストロンチウム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 72 2.2.9 タンタル ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 78 2.2.10 レアアース ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 86 2.3 日本の機械産業における金属資源の重要性 ・・・・・・・・・・・ 93 2.3.1 日本の機械産業と金属資源 ・・・・・・・・・・・・・・・ 93 2.3.2 機械産業における具体的な鋼材の使用用途 ・・・・・・・・・ 98
第3章 世界の主要な金属資源国の資源政策
3.1 世界の金属資源保有国の動向 ・・・・・・・・・・・・・・・・・101 3.2 日本にとって重要な金属資源国 ・・・・・・・・・・・・・・・・103 3.3 主要な金属資源国の資源政策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・114 3.3.1 中国の資源政策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・115 3.3.2 ロシアの資源政策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・121
3.3.3 ブラジルの資源政策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・124 3.3.4 オーストラリアの資源政策 ・・・・・・・・・・・・・・・・126 3.3.5 南アフリカの資源政策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・128 3.4 対象5カ国のまとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・130
第4章 金属資源ナショナリズムによる機械産業への影響と日本の機械メーカーの対応 4.1 機械産業への具体的な影響 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・135 4.1.1 モータ産業への影響 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・135 4.1.2 原子力産業への影響 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・144 4.2 日本の機械メーカーの対応 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・150 4.2.1 各社の対応 -インタビュー調査結果- ・・・・・・・・・・150 4.2.2 日本の機械メーカーの対応 ・・・・・・・・・・・・・・・・153
第5章 今後の我が国の機械産業の対策
5.1 我が国の機械産業の対策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・155 5.2 今後の課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・156
第1章 世界の資源・エネルギーを巡る動向と新たな資源ナショナリズムの台頭 1.1 世界の資源・エネルギーを巡る動向
(1) 主要なエネルギー資源の動向
世界の商品市場では、2003 年以降、資源・エネルギー価格の上昇傾向が始まり、
2005年頃から価格の高騰が顕著になった。例えば、主要なエネルギー資源である原油 価格は2002年の年初には1バレル20ドル前後であったが、2008年1月には1バレ ル100ドルを突破し、一時140ドルに達した。我が国では、過去に2度の原油価格の 急上昇を経験しており、今回が3度目に当たる。過去2回の石油ショックでは、原油 価格は第4次中東戦争やイラン・イラク戦争を契機とする産油国側の事情によるとこ ろが大きかった。
また、原油価格に引きずられる形で、天然ガスや石炭といった他のエネルギー資源 の価格も上昇した。これら商品も 2002 年頃までは比較的安定していたが、それ以降 は原油価格と同じように価格が高騰した。
こうした動きはエネルギー資源にとどまらず、鉄や銅、アルミニウムなどの金属資 源にもおよび、さらにトウモロコシや大豆などの農産物においても価格上昇の局面を 迎えた。
以上の動きは、原油価格の下落に加え9月の「リーマン・ショック」による金融危 機で需要が急減し、状況が一変する2008年の年央まで続いた。
1
0.00 10.00 20.00 30.00 40.00 50.00 60.00 70.00 80.00
1972 1974
1976 1978
1980 1982
1984 1986
1988 1990
1992 1994
1996 1998
2000 2002
2004 2006
Dubai (US$/バ レ ル )
図1-1 原油価格の動向(ドバイ)
(出典)BP(ブリティッシュ・ペトロリアム)資料
0.00 1.00 2.00 3.00 4.00 5.00 6.00 7.00 8.00 9.00 10.00
1984 1986
1988 1990
1992 1994
1996 1998
2000 2002
2004 2006
LNG Natural Gas
(US$/million Btu)
(注)天然ガス価格はEU CIF、LNG価格は日本 CIF
(出典)BP(ブリティッシュ・ペトロリアム)資料
図1-2 天然ガス(LNG含む)の価格
0.00 10.00 20.00 30.00 40.00 50.00 60.00 70.00 80.00 90.00 100.00
1987 1988
1989 1990
1991 1992
1993 1994
1995 1996
1997 1998
1999 2000
2001 2002
2003 2004
2005 2006
2007
Japan coking coal import cif price
( US$/t)
図1-3 石炭価格の動向
(出典)BP(ブリティッシュ・ペトロリアム)資料 2
(2) 金属資源の価格動向
金属資源は、一般的に「鉄」と「非鉄」に大別される。非鉄金属のうち、消費量の 多さや用途によってベースメタル、レアメタルに分けられる。ベースメタルは建築材 料、機械類等、多量に使用される基礎的な金属であり、アルミニウム、銅、鉛、亜鉛 等がある。一方、レアメタルは希少金属と言われ、31鉱種あり、構造材、自動車用排 ガス触媒、電子機器等のハイテク機器用部品に多く使われている。
1) 鉄鉱石の価格動向
鉄の原料となる鉄鉱石の価格は1980年代から2000年初めまで、トン当たり30ド ル前後で推移していたが、2004年に突如37.9ドルに上昇、2008年2月には80ドル 弱にまで高騰している。
世界の鉄鉱石市場の供給側は、ヴァーレ(ブラジル)、BHPビリトン(英/豪)、リオテ ィント(英)の 3大メジャーが押さえている。一方、需要側は、これまでの日本、欧州 企業に加え、中国企業が大量に輸入するようになったため需給バランスが崩れ、鉄鉱 石の価格が上昇した。中国は現在、世界の鉄鉱石輸入量の約40%を占める。
0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 8,000 9,000 10,000
2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年
円/トン
図1-4 鉄鉱石の輸入価格推移
(出典)財務省貿易統計
3
2) アルミニウム、銅、亜鉛の価格動向
ベースメタルであるアルミニウム、銅、亜鉛の国際商品市場における近年の価格の 動きは、以下のようになっている。
いずれの金属もLME(London Metal Exchange)年平均価格は、2003年から上昇 に転じ、2006年に大きく値上りした。2007年にピークを迎えた後、2008年前半も高 値を維持し、特に銅は史上最高値であるトン当たり8,000ドルを超えたが、9月の「リ ーマン・ショック」による世界経済の需要減に伴い、現在は下落傾向にある。
0.0 1,000.0 2,000.0 3,000.0 4,000.0 5,000.0 6,000.0 7,000.0 8,000.0
2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年
アルミ(US$/t) 銅(US$/t) 亜鉛(US$/t)
(US$)
図1-5 アルミニウム、銅、亜鉛地金の価格動向(LME年平均)
(出典)(社)日本アルミニウム協会資料、JOGMEC資料、日本伸銅協会資料
0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 8,000 9,000 10,000
07.
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月
10月 11月
12月
08.1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月
10月 11月
12月 09.1月
アルミ(US$/t) 銅(US$/t) 亜鉛(US$/t)
(US$)
2008年9月 リーマン・ブラザーズ破綻
図1-6 直近の価格動向(LME 2007年~2009年1月)
(出典)(社)日本アルミニウム協会資料、JOGMEC資料、日本伸銅協会資料 4
3) レアメタルの価格動向
経済産業省・資源エネルギー庁が指定している備蓄対象レアメタル7鉱種(ニッケ ル、クロム、モリブデン、マンガン、タングステン、コバルト、バナジウム)の 国際的な価格動向について、日本の輸入価格で見ると、表1-1のようになっている。
表1-1 主要レアメタルの日本の輸入価格推移(年平均)(単位:$)
年 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 ニッケルマット(kg) 3.2 3.5 5.4 3.9 4.1 5.6 8.7 9.3 13.7 24.2 クロム鉱石(t) 99.8 82.6 77.1 66.0 58.5 79.5 156.7 210.7 190.4 269.7 マンガン鉱石(t) 95.3 91.5 95.1 98.8 95.4 101.2 132.4 167 154.7 153.8
タングステン(ATP*)(kg) 4.8 4.4 5.3 7.9 4.9 5.3 7.5 18.6 22.5 22.0 コバルト塊・粉(kg) 43.0 31.9 29.7 23.6 15.4 19.4 48.7 35.4 31.6 54.1 モリブデン鉱石(t) 5,093 3,629 3,533 3,220 4,899 6,296 17,044 41,043 33,060 38,518 金属バナジウム(kg) 23.6 21.5 19.8 17.5 16.7 15.7 22.3 54.7 33.7 33.6
(出典)財務省貿易統計(*タングステンの中間原料ATP(パラタングステン酸アンモニウム)
ニッケル地金の原材料となるニッケルマットの平均輸入価格は、2003年から上昇に 転じ、2004年、2006年と前年比約50%値上がりし、2007年にピークに達した。2007 年の平均輸入価格は$24.2/kgは、1998年の実に7.6倍である。
タングステンの中間原料であるATP(パラタングステン酸アンモニウム)の平均輸 入価格は、2003年から上昇に転じ、2005年に前年比約150%値上がりし、2006年に ピークを迎えた後、2007年も高値を維持した。2007年の平均輸入価格は$22/kgは、
1998年の4.6倍である。
0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0
1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
$/kg
ニ ッ ケ ル マ ッ ト タ ン グ ス テ ン (ATP*)
図1-7 ニッケルマットおよびタングステン(ATP)の輸入価格推移
(出典)財務省貿易統計(*パラタングステン酸アンモニウム)
5
クロム鉱石の平均輸入価格は、2003年から上昇し、2004年は前年比約97%値上が り、2005年も約34%値上がりしたが、2006年に▲10%値下がり後、2007年にはピ ークに達した。2007年の平均輸入価格$269.7/tは、1998年の2.7倍である。
0 50 100 150 200 250 300
1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
$/ton
クロム鉱 石 マ ンガン 鉱石
図1-8 クロム鉱石およびマンガン鉱石の輸入価格推移 (出典)財務省貿易統計
マンガン鉱石の平均輸入価格は、2003年から上昇し、2004年は前年比約31%値上 がり、2005年も約26%値上がりしたが、2006年に▲7%値下がり、2007年は横這い であった。2007年の平均輸入価格$153.8/tは、1998年の1.6倍である。
コバルト(塊・粉)の平均輸入価格は、2003 年から上昇し、2004年は前年比約2 倍に値上がり、2005年▲27%、2006年▲11%と2年連続値下がりしたが、2007年 は 71%値上がりし史上最高値をつけた。2007 年の平均輸入価格$54.1/kg は、1998 年の1.3倍である。
金属バナジウムの平均輸入価格は、2003年から上昇し、2004年は前年比42%値上 がり、2005年は約145%上昇し、$54.7/kgの史上最高値をつけた後、2006年に▲38%
値下がりした。2007年はほぼ横這いで推移し、2007 年の平均輸入価格$33.6/kgは、
1998年の1.4倍である。
モリブデン鉱石の平均輸入価格は、2002 年頃から上昇し、2004 年は前年比約 2.7 倍に値上がり、2005年も約2.4倍に値上がりし史上最高値の$41,043 /tをつけた。
6
その後、2006年に約▲20%値下がり後、2007年に再び16.5%値上がりし、高値水準 が続いた。2007年の平均輸入価格$38,518/tは、1998年の実に7.6倍である。
0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0
1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
$/kg
コバルト塊・粉 金属バナジウム
図1-9 コバルト(塊・粉)および金属バナジウムの輸入価格推移
(出典)財務省貿易統計
0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 30,000 35,000 40,000 45,000
1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
$/ton
図1-10 モリブデン鉱石の輸入価格推移
(出典)財務省貿易統計
7
1.2 新たな資源ナショナリズムの台頭
上記1.1では金属資源を中心に近年の資源・エネルギー価格の動向を見たが、この ような資源・エネルギー価格高騰の背景には、先進国の経済成長に加えBRICs(ブラ ジル、ロシア、インド、中国)と呼ばれる成長国の経済拡大など実需に伴う面や、投 機マネーの国際商品市場への流入といった要因のほかに、資源偏在の顕在化・寡占化 の進行の動きも影響していると考えられる。
例えば、経済産業省・資源エネルギー庁の「エネルギー白書(2008年版)」では、
原油価格高騰の背景について、長期的な需給の逼迫化傾向や地政学的リスクの増大、
資源ナショナリズムの台頭などの要因を指摘している。
図1-11 原油価格に影響を及ぼす要因
原油は確認埋蔵量の6割が中東に集中するなど資源によっては特定の国・地域に生 産地が集中しているため、地政学的な影響を受け易い。また、1990年代に石油メジャ ーや金属資源メジャーの寡占化が進んだが、この結果、供給者側の需給・価格に対す る影響力は以前よりも大きくなった。
8
図1-12 代表的な地政学的リスク事象と原油市場
(原資料)各種資料に基づき日本エネルギー経済研究所作成
(出典)経済産業省・資源エネルギー庁「エネルギー白書(2008年版)」
さらに、近年は資源国による資源関連産業への国家関与が強まりつつあり、自国資 源の囲い込みや自国産業の発展を優先する動きが拡大するなど、ナショナリズム的な 政策も関係している。資源ナショナリズムの台頭である。このように複数の要因が絡 み合い、資源の供給不安に拍車がかかっている。
歴史的に見れば、資源ナショナリズムは新しい動きではない。資源ナショナリズム とは、「多国籍企業や先進工業国による資源の乱掘、利益独占などの経済的支配に反 対し、重要資源について国有化や民族資本の経営参加を求めるといった、資源産出国 による自国の天然資源に対する主権確立の運動」のことである。
一般には、①産油ガス国政府による国内の石油天然ガス資源に対する国家管理を強 化し自国の下で開発・生産を行なおうとする動き、ないしは②同じく産油ガス国政府 による国内の資源部門で操業する外資企業からの税収を増大させようとする動き1を 指す。
現在の発展途上国が第二次世界大戦後に相次いで独立国となったとき、それらの国 の地下資源の開発権は利権の形で先進国企業の手に握られていたが、発展途上国の資 源に対する開発権の問題が国連の場において 1952 年から取り上げられ、同年の国連 決議以来、1962 年、66 年、70 年とそのたびに強化された「天然資源に関する恒久主 権」決議として結実したことから、これが発展途上国のその後の行動の論拠となって
1 経済産業省・資源エネルギー庁「エネルギー白書」
9
いる。具体的には、1960 年からアフリカやアジアの鉱物資源産出国を中心とした動 き(ザンビアナイゼーション、ナイジェリアナイゼーションなど)が盛んになり、銅産 業や鉄鉱産業が次々に国有化あるいは経営参加の対象となった。これらの動きは、
CIPEC(銅輸出国会議)や IOPO(鉄鉱石生産者会議)などの国際資源カルテル結成 の動きと相呼応して行われていった。
石油については、1960 年の OPEC (石油輸出国機構)への団結以来、資源国側 による主権の奪還が逐次進められた。特に 1968 年の OPEC 総会における共通政策 の基本原則の中で自主開発と既存開発利権への参加がうたわれて以来、石油利権の一 部または全部の国有化や石油利権への国営会社の参加が各国において実現した。また 石油危機以後は OPEC が原油価格の決定権を掌握した。
1973年10月の第4次中東戦争による石油危機では、原油が1バレル1ドル台から 一気に1バレル20 ドル近くまで暴騰し、中東の石油への依存度の高かった先進国で は物価が暴騰した。日本では相次いだ便乗値上げなどにより国内の消費者物価が1974
年は21.8%上昇した。急激なインフレを抑制するために公定歩合の引き上げが行われ
たため、企業の設備投資などが抑制された。その結果、1974年度の実質GDPは▲0.7%
となり、戦後初めてマイナス成長を経験し、景気沈滞は数年続いた。
以上の従来の資源ナショナリズムの動きに対して、近年の動きは次のようなもので ある。すなわち、2003 年以降、世界経済は大きく成長したが、資源需要の増加に よる資源価格の高騰や資源の有限性が見えてきたことを背景に、資源産出国によ る自国資源の国家管理の強化が顕著となった。具体的には、資源探鉱及び開発に 係る権益が国または国営企業により独占され、あるいは外国資本に対する参入規 制が強化される事例や資源輸出が規制される事例が増加するなど、資源国の強力 な外交カードにもなっており、新たな資源ナショナリズムということができる。
資源ナショナリズムの動きが最も顕著なのは、南米ベネズエラである。同国では石 油権益に対する国家管理を急速に強めており、2002年に探鉱、開発契約に関して、国 営石油会社の51%以上の権益保有を定め、2005年には操業サービス契約においても、
国営石油会社が 51%以上保有するジョイントベンチャーへの契約変更と法人所得税 率の引き上げを通告した。また、2007年にはオリノコ超重質油プロジェクトの国有化 を宣言し、石油メジャー各社に国営石油会社への過半数の株式譲渡を要求し、一部石 油メジャーはベネズエラから撤退した。
このベネズエラの動きに触発され、隣国ボリビアでも 2006 年に天然ガス・石油事 業の国有化が宣言され、外資系企業は利権を放棄するか撤退かの岐路に立たされた。
10
ロシアにおいてもエネルギー産業を戦略産業と位置付け、国営石油企業やガスプロ ムによる石油・ガス資源の権益独占化を進めており、資源の国家管理を強めている。
2005年には主要資源の開発鉱区の新規入札には、ロシア企業が過半数を出資している 企業のみ参加を認めるという地下資源法の改定を行い、事実上の外資規制を強化した。
石油・天然ガスについては、かつて世界の市場を支配した石油メジャー等の国際石 油企業が世界全体の石油・ガス埋蔵量に占める割合は約 6%にまで低下し、各資源国 の国営石油会社が今や約90%を保有するに至っている。
また、一部の新興国が資源・エネルギー市場で積極的な資源確保に動いており、そ れが買い手側である消費国の乱れを招き、売り手側である資源国の強気の姿勢に繋が っている。自国のエネルギー確保を優先し、国際秩序を無視したような資源確保のや り方がその他の消費国との摩擦や資源国の強気な資源外交を引き起こしており、資源 価格高騰の一因ともなっている。
表1-2 資源ナショナリズムの主な動き(石油ガス資源関連)
(出典)経済産業省・資源エネルギー庁「エネルギー白書(2008年版)」
11
こうした資源ナショナリズムの動きは、石油・ガス等のエネルギーにとどまらず、
世界の鉱物・金属資源にも広がっており、供給不安が懸念されている。
例えば、金属資源を取り巻く環境は、図1-13の通りであり、特にレアメタルの 供給構造は非常に脆弱である。
図1-13 ベースメタル(非鉄金属資源)、レアメタル資源を取り巻く環境
(出典)JOGMEC資料
特に我が国の産業は、ベースメタルやレアメタルなど多くの金属資源に支えられて いるが、機械産業においても電機、自動車、工作機械、原子力など幅広い分野で使用 されている。資源に乏しい我が国は、金属資源の原材料等を輸入し、高度な加工技術 により製品化し、経済活動を営んでいる。しかしながら、ベースメタルにおいては鉱 石等が賦存している資源国の政策転換や採掘権を保持しているメジャーの寡占化によ り、価格高騰や供給制限のリスクが存在し、レアメタルにおいては各資源保有国の排 他的な政策が打ち出され、我が国の金属資源の調達リスクは一気に高まる懸念がある など、資源国の政策動向は我が国産業へ大きな影響を及ぼしている。
12
1.3 これまでの日本政府の対応
前述のように、近年は資源・エネルギーの高騰や資源ナショナリズムの台頭が顕在 化しているが、我が国では過去2回の石油危機を経験している。
(1) 石油危機による日本経済への影響
石油危機により日本経済は大きな影響を受けたが、特に1973(昭和48) 年10月に 起こった第 4 次中東戦争に端を発する石油輸出国機構(OPEC)の原油価格の引き上げ による第一次石油危機の影響は大きかった。下図はその前後の主要経済指標である。
表1-3 1973年度およびその前年度と次年度以降の主要経済指標
1972年度 1973年度 1974年度 1975年度 1976年度 GNP 国民総生産(実質) 11.0 6.5 ▲0.0 3.2 5.9 GDP 国内総生産(実質) 9.0 5.3 ▲0.7 4.2 3.6 鉱工業生産 10.8 12.4 ▲9.7 ▲4.4 10.8 製造工業稼働率
(昭和45年=100) 96.7 100.3 86.2 83.4 87.4 卸売物価 3.2 22.7 23.5 1.9 5.5 消費者物価 5.2 16.1 21.8 10.4 9.4 機械受注(船舶・電力を
除く民需) 24.2 37.0 ▲3.1 ▲18.3 9.8 企業売上高経常利益率
(製造業、%) 4.0 5.6 3.6 1.2 2.5
有効求人倍率(倍) 1.30 1.74 0.98 0.59 0.64 完全失業者数(万人) 72 68 80 104 106 通関額 19.4 32.3 47.3 ▲2.4 23.9 輸出
数量 - 3.7 19.0 1.8 21.5
通関額 25.2 77.2 39.3 ▲7.1 15.1 輸入
数量 - 25.7 ▲9.4 ▲7.6 10.5 国際収支(百万ドル) 2,962 ▲13,407 ▲3,392 ▲1,772 3,252 (注)表示のないものは全て前年比増減率(%)。
(出典)内閣府「経済白書」「国民経済計算年報」「機械受注統計調査年報」、
財務省「貿易統計」「法人企業統計」、総務省「労働力調査」
1973年の石油危機後の翌1974(昭和49)年度は、GNP 国民総生産(実質)およ びGDP 国内総生産(実質)がそれぞれ前年度比▲0.0%、▲0.7%と戦後初めてのマイナ ス成長となり、卸売物価、消費者物価はそれぞれ同23.5%、21.8%も上昇した。また、
鉱工業生産が同▲9.7%、機械受注(船舶・電力を除く民需)が同▲3.1%となったほ か、製造工業稼働率が前年度の100.3から86.2に大幅に下がり、製造業企業の売上高 経常利益率が前年度の5.6%から3.6%に2.0ポイントも下がった。また、輸入数量が
13
前年度比▲9.4%と大幅減少したにも拘わらず、輸入額は同 39.3%増加した。国際収 支は1973年度、1974年度、1975年度と3年連続の赤字となった。
一方、1978年のイラン革命に端を発する石油輸出国機構による再度の原油価格の値 上げによる第二次石油危機では、日本経済に対する影響は第一次石油危機での経験や 省エネルギー政策の浸透、企業の合理化効果などにより、第一次石油危機ほどひどい ものにはならなかった。
表1-4 1979年度およびその前年度と次年度以降の主要経済指標
1978年度 1979年度 1980年度 1981年度 1982年度 GNP 国民総生産(実質) 5.7 5.0 2.1 2.7 2.9 GDP 国内総生産(実質) 5.6 5.0 2.3 2.8 2.7 鉱工業生産 7.0 9.3 4.5 3.7 ▲0.6 製造工業稼働率
(昭和55年=100) 95.6 101.2 98.3 95.2 91.9
卸売物価 ▲2.3 12.9 13.3 1.4 1.0
消費者物価 3.4 4.8 7.8 4.0 2.4 機械受注(船舶・電力を
除く民需) 13.0 17.6 15.7 ▲2.7 ▲5.0 企業売上高経常利益率
(製造業、%) 3.0 4.0 3.6 3.0 2.8
有効求人倍率(倍) 0.59 0.74 0.73 0.64 0.60 完全失業者数(万人) 122 114 118 127 143
通関額 16.9 8.1 29.0 10.1 ▲10.1
輸出
数量 ▲5.6 6.1 17.1 8.4 ▲3.1 通関額 18.1 42.3 19.5 ▲0.9 ▲10.8 輸入
数量 9.9 5.8 ▲4.8 ▲0.6 ▲4.4 国際収支(百万ドル) ▲2,297 ▲18,951 ▲380 ▲7,859 ▲1,988
(注)表示のないものは全て前年比増減率(%)。
(出典)内閣府「経済白書」「国民経済計算年報」「機械受注統計調査年報」、
財務省「貿易統計」「法人企業統計」、総務省「労働力調査」
1979(昭和54)年度は、卸売物価、消費者物価がそれぞれ前年比12.9%、4.8%上 昇し、輸入数量が同 5.8%の増加に対し、輸入額は同 42.3%も増加し、国際収支も
▲18.951百万ドルの大幅赤字となったが、GNP 国民総生産(実質)、GDP 国内総生 産(実質)、鉱工業生産、機械受注(船舶・電力を除く民需)はプラス成長であった。
翌1980(昭和55)年度は、卸売物価、消費者物価がそれぞれ前年比13.3%、7.8%上 昇し、輸入数量が前年度比▲4.8%減少したにも拘わらず、輸入額は同 39.3%増加し たが、国際収支は▲380百万ドルと大幅に改善した。また、GNP 国民総生産(実質)、
14
GDP 国内総生産(実質)、鉱工業生産、機械受注(船舶・電力を除く民需)についても 数値的には減少したが、やはりプラス成長であった。
-30.0 -20.0 -10.0 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0
1972 1973 1974 1975 1976 1977 1978 1979 1980 1981 1982
(%)
GDP 鉱工業生産 機械受注 消費者物価
第一次石油危機
第二次石油危機
図1-14 1972年から1982年までの主要経済指標の推移(前年度比%)
二度の石油危機の経験を体験し、これまで日本経済がいかに中東の石油に依存して いるかを改めて認識することとなった。これを受けて、中東以外での新しい油田開発 や調査が積極的に行われるようになったほか、石油エネルギーの高価格化と供給不安 が進んだことで、非石油エネルギーの活用や代替エネルギーの開発と同時に省エネル ギー政策が推進され、省エネルギー技術の研究開発と石油の備蓄体制の強化が進めら れることとなった。
15
(2) 金属資源に対する日本政府の対応
経済産業省・資源エネルギー庁によると、現在の我が国の金属資源に関する対応は、
「安定的かつ効率的な供給の確保のため、中長期的な対策として探鉱開発の促進・リ サイクルの促進及び短期的な供給障害への備えとしてレアメタル備蓄事業を推進す る」としている。
鉱物資源の安定供給確保の具体策は、図1-15の通りである。
鉱物資源の探鉱・開発、リサイクルの推進、代替材料 等の開発、レアメタル備蓄等により、中長期的かつ持続 的に鉱物資源の安定供給の確保を図る。
激化する資源獲得競争 の中で、資源確保に向け た多面的、総合的な対策 を実施。
【 探 鉱 開 発 の 推 進 】
技術開発により、国内 で収集された使用済製品 等に含有する非鉄金属の 回収率向上を促進
【 リ サ イ ク ル の 推 進 】
希少金属の使用量低減 技術及び記章金属の機能 を代替する新材料の開発 を実施。
【 代 替 材 料 等 の 開 発 】
官民協調によるレアメ タル備蓄について、備蓄 物資の機動的な保有・売 却を実施。
【 レ ア メ タ ル 備 蓄 】
【鉱物資源の安定供給確保】
図1-15 鉱物資源の安定供給確保への取り組み
(出典)経済産業省資料
<探鉱開発の推進>
1) 海外鉱物資源確保ワンストップ体制の整備
2008年3月に出された閣議決定の「資源確保指針」に従い、「海外鉱物資源確保ワ ンストップ体制」を整備した。これは、海外鉱物資源確保に係る政府及び関係機関の 体制を整理・強化したもので、鉱山に係る探鉱・開発のみならず、周辺インフラ整備、
二国間関係強化等、政府や関係機関が実施する各支援施策である。
経済産業省・資源エネルギー庁、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、
国際協力銀行(JBIC)、日本貿易保険(NEXI)、国際協力機構(JICA)の 4 者が緊 密な連携を取りつつ、資源開発の民間企業をバックアップする。
2) 海洋資源探査
2008 年度より、新規の「海底熱水鉱床の開発」を開始する。海底熱水鉱床につい ては、1985年からJOGMECの前身の金属鉱業事業団が、EEZ(Exclusive Economic Zone、排他的経済水域)の沖縄トラフ海域や伊豆・小笠原海域等の賦存調査を実施し ており、日本近海の熱水鉱床は2海域・11カ所が確認されている。なお、海底鉱物資
16
源は、熱水鉱床以外にマンガン団塊、コバルト・リッチ・クラスト等が挙げられる。
表1-5に深海底鉱物資源の特長を示す。
表1-5 深海底鉱物資源の特長
海底熱水鉱床 マンガン団塊 コバルト・リッチ・クラスト 含有有用金属の品位 含有有用金属の品位
銅(海底) 1~3% マンガン(海底) 28.8% 24.7%
(陸上) 1~2% (陸上) 40~50% 40~50%
鉛(海底) 0.1~0.3% 銅(海底) 1.0% 0.1%
(陸上) 1~2% (陸上) 0.5~1.0% 0.5~1.0%
亜鉛(海底) 30~55% ニッケル(海底) 1.3% 0.5%
(陸上) 3~7% (陸上) 0.4~1.0% 0.4~1.0%
金(海底) 5~10ppm コバルト(海底) 0.3% 0.9%
(陸上) - (陸上) 0.1% 0.1%
その他 他に銀、レアメ タル等
その他 30種以上の金 属含有
プラチナ 0.5ppm
(出典)工業レアメタルNo.124 2008ほか
<リサイクルの推進>
非鉄金属リサイクル技術開発の推進として、希少金属等の高効率回収システムの開 発を行っている。具体的には、一部の非鉄金属を除き、スラグとして廃棄処分されて いる希少金属を経済的に回収する技術開発を行っている。
<代替材料等の開発>
ハイテク製品の製造に不可欠で、世界的な需給逼迫が懸念されるレアメタルについ て、ナノテク等の技術を活用して、資源制約を打破する代替材料開発、使用量削減を 行うとしている。
平成19 年度(2007年度)から開始されている代替化、使用量削減の研究鉱種は、
次のとおりである。
① インジウム(In) 薄型テレビ用透明電極
② ディスプロシウム(Dy) 希土類磁石(ハイブリッド用モータ)
17
③ タングステン(W) 超硬工
また、平成21年度(2009年度)から新規追加の鉱種案は、次のとおりである。
④ プラチナ(Pt) 自動車、重機、化学プラントの排ガス浄化用触媒
⑤ テルビウム(Tb) 蛍光体 ユーロピウム(Eu)
⑥ セリウム(Ce) 液晶ディスプレイ等用ガラス精密研磨
<レアメタルの備蓄制度>
昭和58年度(1983年度)から、代替が困難で供給国の偏りが著しい「レアメタル・
7鉱種」について、短期的な供給障害に備える備蓄を行っている。
備蓄しているレアメタルの7鉱種は、ニッケル、クロム、モリブデン、マンガン、
タングステン、コバルト、バナジウムである。
備蓄目標は、国内消費量の60日分(国:42日分、民間18日分)としている。
国家備蓄の実施主体は、JOGMECが実施しており、民間備蓄は製鋼企業・16社、製 練企業・13社が実施している。平成19年度末現在で23.6日分(全鉱種平均)が備蓄 されている。
なお、レアメタル 31 鉱種のうち、すぐに備蓄は必要ないが注視し検討を必要とす る鉱種として、プラチナ、レアアース、インジウム、ニオブ、タンタル、ストロンチ ウム、ガリウムが挙げられている。
さらに、近年の資源・エネルギーの価格高騰や資源ナショナリズムの高まり等を背 景に、「エネルギー基本計画(2007 年 3 月閣議決定)」に基づき、我が国政府として 重要な資源獲得案件(本邦企業が関連する権益取得案件及び長期供給契約案件等)を 政府全体で支援するための指針として、2008 年 3 月に「資源確保指針」が閣議で了 解された。これにより、政府は重要な資源獲得案件の支援に当たり、外交を積極的に 展開していくとともに、政府開発援助、政策金融、貿易保険などの経済協力との戦略 的な連携を推進している。
18
19 第2章 日本の機械産業と主要な金属資源
2.1 世界の主要な金属資源 2.1.1 金属資源について
金属は、一般的に「鉄」と「非鉄」に大別される。
鉄鋼とは、鉄と鋼の総称であり、「鉄」とは軟鉄、鋳鉄などのことを指し、機械的 性質を満たすために成分調整され「鋼」となる。鋼は主に炭素含有量が0.3~2%以下 だが、炭素含有量が 0.3%以下でもステンレス鋼などは、この範疇に入る。これら鉄 鋼は、ビル等の建築物や橋梁等の構造物向けから、自動車、電機、造船など世の中に ある製品のほぼ全ての分野で使用されている。
また非鉄金属は、消費量の多さや用途によってベースメタル、レアメタルに分けら れる。ベースメタルは、一般的にアルミニウム、銅、鉛、亜鉛等のことである。
一方、レアメタルは希少金属とも言われ、ニッケル、コバルト、タングステンなど 31 鉱種がある。なお、レアメタルには世界的に共通した定義があるわけではなく、
1984年に当時の通商産業省(現経済産業省)が31鉱種をレアメタルとして定義した。
レアメタルは鉄やベースメタルに添加、或いは加工されることによって、様々な製品 に利用され、近年、電子情報産業分野(小型モータ、コンデンサ、ディスプレイなど)、
環境分野(自動車用排ガス触媒など)、省エネルギー分野(小型モータなど)での利 用が増加している。特に日本経済を支えるハイテク産業において、製品の小型化・軽 量化・高機能化・省エネルギーの観点から必要不可欠な素材となっている。
このほかレアメタルの一鉱種に数えられる、レアアースと呼ばれる希土類は、
図2-1のとおり、周期律表の原子番号21 番のスカンジウム(Sc)、39 番のイット リウム(Y)、57番ランタン(La) ~ 71番ルテチウム(Lu)を一括して総称している。
20
ⅠA ⅡA ⅢA ⅣA ⅤA ⅥA ⅦA ⅧA ⅠB ⅡB ⅢB ⅣB ⅤB ⅥB ⅦB O
1 1H 2He
水素 ヘリウム
2 3Li 4Be 5B 6C 7N 8 O 9F 10Ne
リチウム ベリリウム ホウ素 炭素 窒素 酸素 フッ素 ネオン
3 11Na 12Mg 13Al 14Si 15P 16S 17Cl 18Ar
ナトリウム マグネシウム アルミニウム ケイ素 リン イオウ 塩素 アルゴン
4 19K 20Ca 21Sc 22Ti 23V 24Cr 25Mn 26Fe 27Co 28Ni 29Cu 30Zn 31Ga 32Ge 33As 34Se 35Br 36Kr カリウム カルシウム スカンジウ
ム チタン バナジウム クロム マンガン 鉄 コバルト ニッケル 銅 亜鉛 ガリウム ゲルマニウム ヒ素 セレン 臭素 クリプトン
5 37Rb 38Sr 39Y 40Zr 41Nb 42Mo 43Te 44Ru 45Rh 46Pd 47Ag 48Cd 49In 50Sn 51Sb 52Te 53 I 54Xe
ルビジウム ストロンチ ウム
イットリウ ム
ジルコニウ
ム ニオブ モリブデン テクネチウム ルテニウム ロジウム パラジウム 銀 カドミウム インジウム スズ アンチモン テルル ヨウ素 キセノン
6 55Cs 56Ba 57-71 72Hf 73Ta 74W 75Re 76Os 77Ir 78Pt 79Au 80Hg 81Tl 82Pb 83Bi 84Po 85At 86Rn
セシウム バリウム ランタノイ
ド ハフニウム タンタル
タングステ
ン レニウム オスミウム イリジウム 白金 金 水銀 タリウム 鉛 ビスマス ポロニウム アスタチン ラドン
7 87Fr 88Ra 89- 104Rf 105Db 106Sg 107Bh 108Hs 109Mt
フランシウム ラジウム アクチノイドラザホージウ
ム ドブニウム シーポーギウ
ム ボーリウム ハッシウム マイトリウム
ランタン系列 57La 58Ce 59Pr 60Nd 61Pm 62Sm 63Eu 64Gd 65Tb 66Dy 67Ho 68Er 69Tm 70Yb 71Lu
ランタン セリウム プラセオジ
ム ネオジム プロメチウ
ム サマリウム ユーロピウ ム
ガドリニウ
ム テルビウム ジスプロシ
ウム ホルミウム エルビウム ツリウム イッテルビ
ウム ルテチウム
アクチ 89Ac 90Th 91Pa 92U 93Np 94Pu 95Am 96Cm 97Bk 98Cf 99Es 100Fm 101Md 102No 103Lr
ニウム系列 アクチニウム トリウム プロトアクチ
ウム ウラン ネプツニウム プルトニウム アメリシウム キュリウム バークリウムカリホルニウ ム
アインスタイ
ンイウム フェルミウムメンデレビウ
ム ノーベリウムローレンシウ ム
(典型金属元素) (金属元素) (希ガス)
(半金属元素) (遷移金属元素) (太字のものがレアメタル)
(希土類)
図2-1 周期表におけるベースメタル、レアメタル
2.1.2 鉄・ベースメタル、レアメタルの埋蔵状況 (1) 鉄鉱石の埋蔵量
鉄の原料となる鉄鉱石の埋蔵量は、全世界の資源量が約1,800億トン、埋蔵量はお よそ730億トンと推定されている。鉄鉱石の埋蔵量が多い国は、表2-1のとおり、ロ シア、豪州、ブラジルである。同 3 カ国の埋蔵量は、全世界の埋蔵量の約 45%を占 める。
なお、我が国で輸入されている主な鉄鉱石は赤鉄鉱、磁鉄鉱、褐鉄鉱からの粉鉱石
(粉状5mm以下の鉱石)で、鉄分の含有率60%前後のものを使用している。鉄鉱石
の輸入元は豪州、ブラジル等である。
(2) ベースメタルの埋蔵量
1) ボーキサイト(アルミニウム)
アルミニウムの原料はボーキサイトで、全世界の資源量が約330億トン、埋蔵量は およそ250億トンと推定されている。ボーキサイトの埋蔵量が多い国は、表2-1のと おり、ギニア、豪州、ジャマイカである。同3カ国の埋蔵量は、全世界の埋蔵量の約 61%を占める。
2) 銅鉱石の埋蔵量
銅の原料は銅鉱石で、全世界の資源量が約9.4億トン、埋蔵量はおよそ4.7億トン と推定されている。銅鉱石の埋蔵量が多い国は、表2-1のとおり、チリ、米国、イン ドネシアである。同 3カ国の埋蔵量は、全世界の埋蔵量の約 45%を占める。特にチ リ一国で全世界の埋蔵量の30%を占める。
3) 鉛鉱石の埋蔵量
鉛と亜鉛は同時に産出されるため、鉛・亜鉛鉱山としてまとめて見られる。また銅 鉱山や銀鉱山から副産物としても少量産出する。
鉛の原料となる鉛鉱石は、全世界の資源量が約1.4億トン、埋蔵量がおよそ7,900 万トンと推定されている。鉛の埋蔵量が多い国は、表2-1のとおり、豪州、中国、米 国である。同3カ国の埋蔵量は、全世界の埋蔵量の約60%を占める。
21
22 4) 亜鉛鉱石の埋蔵量
亜鉛の原料となる亜鉛の鉱石は、全世界の資源量が約4.6億トン、埋蔵量がおよそ 1.8億トンと推定されている。亜鉛の埋蔵量が多い国は、表2-1のとおり、豪州、中 国、ペルーのほか、米国、カザフスタンがある。上位3カ国の埋蔵量は、全世界の埋 蔵量の約51%を占める。
表2-1 ベースメタルの埋蔵量
単位 量 第一位(%) 第二位(%) 第三位(%)
1 鉄 億t 730 ロシア(19) 豪州(14) ブラジル(12) 2 ボーキサイト 百万t 250 ギニア(30) 豪州(23) ジャマイカ(8) 3 銅 百万t 490 チリ(31) 米国(7) インドネシア(7) 4 鉛 百万t 79 豪州(30) 中国(14) 米国(10) 5 亜鉛 百万t 180 豪州(23) 中国(18) ペルー(10)
(出典)鉄鋼統計要覧、各種資料より
また図2-2に、ベースメタルの埋蔵状況を示す。
【ロシア】
【ブラジル】
【米国】
【オーストラリア】
【中国】
【チリ】
【インドネシア】
Fe 14,000
×Million t
Fe
10,000
×Million t
Fe 8,900
Al 7,400
×Million t
Al
5,800
×Million t
Al
2,000
Cu 150
×Million t
Cu
35
×Million t
Cu
35
×Million t
Pb 24
×Million t
Pb
11
×Million t
Pb
8
Zn 42
×Million t
Zn
32
×Million t
Zn
18
【ジャマイカ】
【ギニア】
【ペルー】
23
図2-2 ベースメタル国別埋蔵量-鉱種別上位 3 カ国
(3) レアメタルの埋蔵量
レアメタル 31 鉱種は、世界的にみて限られた国に偏って存在しており、そのうち 経済産業省・資源エネルギー庁が指定する「レアメタル備蓄対象・7 鉱種」は、ニッ ケル、コバルト、マンガン、クロム、モリブデン、タングステン、それにバナジウム である。
また、経済産業省・鉱業審議会で対象となった「レアメタル要注視・7 鉱種」は、
インジウム、プラチナ、ニオブ、タンタル、ストロンチウム、ガリウム、それに希土 類である。レアメタル31鉱種・埋蔵量(上位3カ国)は表2-2のとおりである。
また図2-3、図2-4に、レアメタルの埋蔵量を示す。
24
25
表2-2 レアメタル31鉱種・埋蔵量(上位3カ国)
単位 埋蔵量 第一位(%) 第二位(%) 第三位(%) 備考 1 ニッケル 百万t 64豪州(37.5) ロシア(10.3) キューバ(8.8) 純分量 2 クロム鉱 百万t 475カザフスタン(61.1) 南ア(33.7) インド(5.3) グロス量 3 マンガン 百万t 440ウクライナ(31.8) インド(21.1) 豪州(16.6) 純分量 4 コバルト 百万t 7コンゴ民(48.6) 豪州(20.0) キューバ(14.3) 純分量 5 タングステン 百万t 2.9中国(62.1) カナダ(9.0) ロシア(8.6) 純分量 6 モリブデン 百万t 8.6中国(38.4) 米国(31.4) チリ(12.8) 純分量 7 バナジウム 百万t 13ロシア(38.5) 中国(38.5) 南ア(23.1) 純分量 8 ニオブ 百万t 4.4ブラジル(97.7) カナダ(2.5) 豪州(0.7) 純分量 9 タンタル 万t 4.3豪州(93.0) カナダ(7.0) ブラジル(-) 純分量 10 ゲルマニウム t 2,150カナダ(32.6) 米国(20.9) - 純分量 11 ストロンチウム 百万t 6.8中国(-) アルゼンチン(-) 米国(-) 純分量 12 アンチモン 百万t 1.7中国(43.9) ロシア(19.4) ボリビア(17.2) 純分量
13 白 金 属
(PGM) 万t 71南ア(88.7) ロシア(8.7) 米国(1.3) 純分量 14 イルメナイト 百万t 610中国(32.8) 豪州(21.3) インド(13.9) TiO2量 15 ルチル 百万t 52豪州(36.5) 南ア(16.0) インド(14.2) TiO2量 16 ベリリウム 万t 48ブラジル(29.1) ロシア(18.7) インド(13.3) 純分量 17 ジルコニウム 百万t 38南ア(36.8) 豪州(23.9) ウクライナ(10.5) ZrO2量 18 レニウム t 2,500チリ(52.0) 米国(15.6) ロシア(12.4) 純分量 19 リチウム 百万t 4.1チリ(73.2) 中国(13.2) ブラジル(4.6) 純分量 20 ホウ素 百万t 170トルコ(35.3) 米国(23.5) ロシア(23.5) B2O3量 21 ガリウム 万t 11(ナミビア) - - 純分量 22 バリウム 百万t 200中国(31.0) インド(26.5) 米国(12.5) 重晶石量 23 セレン 万t 8.2チリ(19.5) 米国(12.2) カナダ(7.3) 純分量 24 テルル 万t 2.1米国(14.3) ペルー(7.6) カナダ(3.3) 純分量 25 ビスマス 万t 32中国(75.0) ペルー(3.4) ボリビア(3.1) 純分量 26 インジウム t 2,800カナダ(35.7) 米国(10.7) 中国(10.0) 純分量
27 セシウム 万t 7カナダ(100) - - 純分量
28 ルビジウム t n.a. (北米) - - 純分量 29 タリウム t 380米国(8.4) - - 純分量 30 ハフニウム 万t 61南ア(45.9) 豪州(29.5) 米国(11.1) HfO2量 31 希土類 百万t 88中国(30.7) CIS(21.6) 米国(14.8) 酸化物量
(出典)JOGMEC「レアメタル備蓄データ集(総論)」ほか
26
Ni 6,600
×103
Ni 24,600
×103t
Ni 5,600
Cr 29,000
×105t
【カザフスタン】
【ロシア】
【キューバ】
【米国】
【南アフリカ】
【チリ】
【オーストラリア】
Cr
16,000
×105t
Cr
2,500
【インド】
Mn 14,000
×105t
【ウクライナ】
Mn 9,300
×105t
M n 7,300
Co 3,400
×103t
【コンゴ民主】
Co
1,400
×103t
Co 1,000
W 1,800
×103t
W
260
×103t W
250
Mo 3,300
×103t
【カナダ】
Mo 2,700
×103t
M o 1,100
V 5,000
×103t
V 5,000
×103t
V 3,000
【中国】
図2-3 レアメタル国別埋蔵量(備蓄対象・7 鉱種)-鉱種別上位 3 カ国
27
【ロシア】
【ブラジル】
【米国】
【南アフリカ】
【オーストラリア】
(Ga:アフリカ)
【カナダ】
【中国】
Nb 4,300
×103t
Nb
110
×103t
Ta
3,000
(t)
Sr
n.a Sr
n.a
Sr
n.a
PGM 63,000
(t)
PGM
6,200
(t)
PGM
900
(Ga:オセアニア)
Ga
9,000
(Ga:欧州)
In 1,000
(t)
In
300
(t)
In
280
RE 27,000
×103t
RE
19,000
×103t
RE
13,000
【メキシコ】
【スペイン】
Ga 45,000
(t)
Nb
29
Ta 40,000
(t) Ga
40,000
(t)
図2-4 レアメタル埋蔵量(要注視・7 鉱種)-鉱種別上位 3 カ国
2.2 日本の産業を支える主要な金属資源
我が国の産業を支える主要な金属資源につき、鉄及びベースメタルのアルミニウム、銅 と、レアメタル31鉱種の中から<要注視7鉱種>と呼ばれるインジウム、プラチナ(PGM)、
ガリウム、ニオブ、ストロンチウム、タンタル、レアアースの埋蔵量、生産、輸入量等に ついて整理した。
2.2.1 鉄について (1) 製造フロー
鉄(原子番号 26/Fe)は、鉄 鉱石だけで生産されるわけでは ない。
例えば、銑鉄 1t を生産するた めには、およそ「鉄鉱石1.5~1.7 トン、石炭0.8~1.0トン、石灰石 0.2~0.3トン、電力10~80kWh、
水30~60トン」(大和 久重雄 著
『鋼のおはなし』/社団法人 日 本鉄鋼連盟HPより)が必要とさ れる。日本の鉄鉱石、原料炭の輸 入依存度はほぼ 100%である。
鉄・鋼の製造フローについては、
図2-5のとおりである。
図2-5 鉄・鋼の製造フロー
(出典)社団法人 日本鉄鋼連盟HPより引用
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