2002 年度
数学展望 II
— 連続性とトポロジー —
講義録
金井 雅彦 著
名古屋大学 理学部 数理学科
目次
第1章 中間値の定理
A. 中間値の定理の応用2題 . . . 1
B. 問題解説 . . . 4
C. 連続性の新たな定義 . . . 10
D. 有界単調数列 . . . .13
E. 中間値の定理の証明 . . . 17
第2章 Brouwer の不動点定理
A. 連続性と不動点定理 . . . 21B. 応用問題 . . . 26
C. 同相写像 . . . 33
D. ベクトル場のゼロ点の存在 . . . 39
E. Sperner の補題の証明 . . . 45
F. 有界閉集合のコンパクト性 . . . 48
第 1 章
中間値の定理
A
中間値の定理の応用2題区間 I 上で定義された実数値関数 f が与えられたとしましょう.各x∈I に対 し実数 f(x) が定まりますから,その結果,(x, y)-平面内に点(x, f(x))が確定 します.次いでx を区間I すべてに渡って動かせば,点 (x, f(x))もそれに応
じて (x, y)-平面内を移動します.そしてその軌跡として関数f のグラフが得ら
れます.もしそのグラフが切れ目のない,いわゆる連続な曲線になるとき,関数 f は連続であると言うことにしましょう.以降,f は連続であると仮定します.
x
f(x) (x,f(x))
y=f(x)
図 A.1: 関数のグラフ
さて,さらに関数f の定義域I が有界閉区間[a, b]であり,しかも両端点a, b における関数 f の値が,不等式
f(a)·f(b)<0 (1.1) を満たすと仮定しましょう.このとき,f(a)と f(b)は異なる符号を持たなけれ ばなりません.すなわち,f(a)<0かつf(b)>0が成り立つか,あるいは逆に f(a)>0 かつf(b)<0 が成り立つかのどちらかです.したがって y=f(x)
1
(a≤x≤b) のグラフを左側から描き始めると,第1 の場合には x-軸の下側か ら始まりx-軸の上側で終わり,一方第2 の場合には逆にx-軸の上側から始まり x-軸の下側で終わります(図A.2).ところで,関数f は連続であると仮定してい たわけですから,そのグラフは切れ目のない連続曲線なわけです.したがってい ずれの場合にも,関数 f のグラフは少なくとも1点で x-軸と交わるはずです.
そしてその交点のx-座標をc(ただしa < c < b) とすれば,f(c) = 0が成り立 つのは言うまでもありません.また (1.1)の代わりにf(a)·f(b) = 0 が成り立 つときには,f(a) あるいは f(b) の少なくとも一方はゼロでなければなりませ ん.したがってこの場合にも,a, bのうち適当な方をとり c とすれば,やはり f(c) = 0が成り立ちます.
a
b c
(a)
a
c b
(b)
図 A.2: 中間値の定理
左はf(a)<0かつf(b)>0の場合,一方右はf(a)>0かつf(b)<0 の場合.いずれの場合にもグラフはx-軸と交わりを持つ.
以上の議論をまとめることにより,次の定理を得ます.
定理 1.1 (中間値の定理). ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
有界閉区間 [a, b]上で定義された関数 f が連続,かつ f(a)·f(b)≤0 を満たすならば,
f(c) = 0
なる c が区間[a, b]内に少なくともひとつ存在する.
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
言い換えると,この定理の仮定のもと,方程式f(x) = 0(ただしa≤x≤b) が,少なくともひとつの解を持つことが保証されたわけです.
A. 中間値の定理の応用2題 3 この中間値の定理,一見したところ極めて当たり前のこととしか思えません.
その証明も実に簡単でした.しかし実は中間値の定理には大きな力が秘められて います.それを実際に体験するのがこの章の最初の目的です.
さてここで皆さんに中間値の定理の面白さを知ってもらうために,それを使って 解くことができるパズルふうの問題をふたつほど出すことにします.ただし,それ らに対し完全かつ厳密な解答を与えるには,このノートの範囲を超えた知識が若干 必要になるかも知れないことを,あらかじめお断りしておきます.ともかく,解答 を読み始める前に,是非とも皆さん各自で考えてみることを強くお勧めします.
問題 1.2. −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
平面内に有界な領域がふたつ与えられたとき,その平面内に直線を 1本適当に引 くことにより,それら領域のおのおのを面積の等しいふたつの部分に分けられる ことを示せ.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
図 A.3: ケーキの等分問題
この問題は,次の様に例えることが出来るかも知れません.いま,テーブルの 上にケーキがふたつ乗っているとしましょう.それをふたりの人が分け合って食 べることにしました.このふたりは公平を好む質の人らしく,それぞれのケーキ を同じ分量だけ食べたいそうです.したがって,それらふたつのケーキを,ナイ フを使って等分する必要があります.このとき,使うナイフが非常に長ければ,
それをたった一度だけ使うことにより目的が達成される,ということを上の問題 は述べています.ただし,このふたりはそのケーキの上に乗っているかも知れな い苺やチョコレートの分配の公正さまでは期待しないこととさせて下さい.
次の問題に進みましょう.問題文が少々長いので注意して読み進んで下さい.
問題 1.3. −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
A 駅から B 駅へ至るまっすぐな線路の上を走る1 台の電車がある.そしてその 床面上に,下端がちょうつがいで床面に固定された棒がついていて,それが電車の 加速・減速に応じて前後に揺れ動くようになっているとしよう.さて,その電車 がある時刻に A 駅を出発し,一定時間後 B 駅に到着するとする.ただしその間
電車は加速・減速を何度でも繰り返すことが出来るし,さらには途中で急停止し たり,あるいはバックしたりする可能性もあるものとする.A 駅を出発する瞬間 までは棒を手で保持し,出発の瞬間手を離し,その後は電車の加速・減速に応じ 棒は前後に揺れ動くとする.このとき,もし出発時の棒の角度を適当にとれば,
B 駅に到着した瞬間に棒がまっすぐ立っているよう出来ることを示せ.ただし電 車の運行規則はあらかじめ決まっていて,それに応じて出発時の棒の角度を選べ るものとする.また仮に棒が途中で倒れた場合には,床面上でバウンドしたりし ないでそのまま倒れ続けているものとする.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
A 駅 B 駅
図A.4: 電車の問題
B
問題解説さて,問題1.2の解説を始めることにしましょう.ところで,この問題を初めて 聞いた人のなかには,一体何から考え始めたらいいのか,まったく見当がつか ないと感じた人も少なくないと思います.そこで,そういった人達へのヒント.
一般に,問題が難しすぎて何をやったらいいのか分からないような場合には,
その問題自体のかわりに,それを単純化したより簡単な問題を手始めに考えるこ とが,問題解決の大きな糸口になることがあります.実は問題 1.2はその方法が 有効な典型例です.でも問題 1.2をどのように単純化したらよいでしょう.そも そも問題は,平面内に与えられたふたつの領域をいっぺんに等分せよ,というも のだったわけですが,もし仮に与えられた領域の数がひとつだけだったら話はず いぶんと簡単になるのではないでしょうか.言い換えれば,問題 1.2を解くため の準備として,「平面内に与えられたひとつの有界領域を,その平面内に直線を1 本引くことにより,面積の等しいふたつの部分に分割せよ」という,より易しい 問題を最初に考えよう,というわけです.もちろん,これが出来なければ最初の 問題 1.2が解けるわけがありません.それでは,仮にこの単純化された問題,す なわち,平面内に与えられたひとつの有界領域を1本の直線により等分する問題 が肯定的に解けたとして,それをどうやって本来の問題 1.2の解答に活かすこと が出来るでしょうか.平面内に有界領域がふたつ与えられた場合には,上述の単
B. 問題解説 5 純化された問題に対する解答を,ふたつの領域のうちの一方— これを領域 Ω1
と呼ぶことにしましょう —に適用することにより,その領域Ω1 を等分する直 線が少なくとも 1 本存在することが分かるはずです.したがって問題 1.2の解 答を完成させるためには,領域Ω1 を等分する直線のなかに,第2の領域 —こ れを Ω2 と呼ぶことにします— をも等分するものがあることを言えればよいわ けです.そしてもちろんそのためには,第 1 の領域 Ω1 を等分する直線が沢山 あったほうが有利であろうことは言うまでもないことです.以上のように考える と,問題 1.2を解くための準備として,次の問題を考えたらよいのではないか,
という結論に辿り着きます.
問題 1.4. −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
平面内に有界領域がひとつ与えられたとき,それを面積の等しい2つの部分に分 ける直線はどれくらいたくさんあるか.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
まず問題1.4に対する答を述べることにします.ところでこういった,ある意 味で曖昧な問題に対する答は,ふた通り以上あるのが普通で,実際問題1.4に対 する答え方もいろいろあると思います.以下で述べるものは,単にそのうちのひ とつだと思って下さい.いま Ω で,平面内の任意の有界領域を表すことにしま しょう.一方 を,その平面内の原点O を通る任意の直線とします.このとき,
問題1.4に対するひとつの解答は次のようなものです:
直線 と平行な直線で,しかも領域 Ωを面積の等しいふたつの部 分に分割するものが必ずただひとつ存在する.
したがって,領域Ωを等分する直線が,原点を通る直線と同じだけ多く存在する ことになります.
O
Ω l
図 B.1:
さて,これを証明しましょう.直線と平行な直線をパラメータ付けるために,
平面内に直交座標系(u, v)を,u-軸がちょうど直線と平行になるようとります.
するともちろん,直線と平行な任意の直線は,v=t(ただしtは定数とする)
の形に一意的に表されます.そしてパラメータ tの値を変化させるとそれに応じ て直線v =tが平行に移動します.とくにtの値が非常に小さいときには,領域 Ω全体が直線v=tの上側にあることが(領域Ωの有界性より)判ると思います
(ただし,ここで「上側」とは,あくまで(u, v)-座標系に関してのものです).と ころがtの値を徐々に増加させていくと,そのうち直線 v=tと領域Ωとが共 通部分を持つようになります.そしてさらに tの値を増加させていくと,今度は 逆に領域 Ω全体が直線v=tの下側にある,といった状態になります.いま一 般に,直線 v =t 上の下側にある部分の面積を A−,上側にある部分の面積を A+としましょう(図B.2 ). ただし,領域 Ω全体が直線v=tの上側にある
u v
v=t
A
A
+
-
O
図 B.2:
場合には A−= 0 と,また逆に領域Ω全体が直線v=tの下側にある場合には A+= 0と約束することにします.すると,ふたつの面積の差A+−A−は変数 t の関数と思えるので,それを記号f(t) で表すことにします:
f(t) =A+−A−.
そのとき,関数 f(t) が減少関数であること,すなわち,t1 < t2 ならば f(t1) ≥f(t2) となることがただちに判ります.また S で領域 Ω 全体の面 積を表すことにすれば,さきほど述べたことより,t が十分小さいときには f(t) =S >0,一方t が非常に大きいときには f(t) =−S <0 が成り立つこ とも明らかだと思います.そして最後に,関数 f(t) がt の連続関数であること も,少なくとも直観的には困難なく見てとれるのではないでしょうか. ここまで 来れば,後どうやって問題 1.4 に対する上述の答を導くかはきわめて容易なは ずです.実際,関数 f に対し,中間値の定理を適用すれば,f(t0) = 0 なる実 数 t0 が存在することがただちに結論されます.さらに関数f の単調性より,
t0 の一意性 もただちに判ります.そしてこのt0 に対応する直線v=t0 が,領 域 Ωを面積の等しいふたつの部分に分割することは,関数f の定義からすぐに 見てとれると思います.以上が,問題 1.4に対する解答です.
ようやく問題1.2に対する解答を述べる準備が出来ました.いま,Ω1,Ω2 を
B. 問題解説 7
t f(t)
O S
-S t0
図B.3: 関数f(t)のグラフ
平面内の任意の有界領域としましょう.一方,その平面内の原点から発する単位 ベクトルu を任意に取ります. ただし,単位ベクトルとは長さが 1のベクトルを 意味します.このとき,この単位ベクトルu が,あらかじめ平面内に与えられた O−xy 座標系の x-軸正の部分とそれ自身がなす角 θ(ただし0≤θ≤2π)に より完全に決定されるのは言うまでもありません.さてここで問題1.4の解答を,
特に第1の領域Ω1,およびベクトルuと平行な直線に対し適用することにより,
ベクトルu に平行で,しかも領域Ω1 を面積の等しいふたつの部分に分割する直 線が,ただひとつ存在することが導かれます.その直線は,単位ベクトル u と x-軸正の方向のなす角 θにより完全に決定されるので,それを以下で はθ と書 くことにします.たったいま述べたとおり,直線θ は第 1の領域 Ω1 を等分し ますが,第2の領域Ω2 を等分するとは限りません.そこで,次のようなθの関 数g(θ) を導入します.まず,直線θ が領域Ω2 をふたつの部分に分ける場合を 考えます.直線θ によって分割されたΩ2 のふたつの部分のうち,直線θ 上を ベクトルu と同じ向きに進んだとき,その右側に見える部分をとり,その面積を ARと,またその左側に見える部分の面積をALとします.そしてこの場合には,
g(θ) =AR−AL
で関数 g(θ) を定義します. 一方,直線 θ 上をベクトルu の向きに進んだと
u
Ω
Ω
1
2
lθ
θ
AL
AR
図 B.4:
き,領域 Ω2 全体がその右側にのみにある場合にはg(θ) = (領域Ω2の面積)と,
また逆に,左側にのみにある場合には,g(θ) =−(領域Ω2の面積) と定義するの はきわめて自然です.たったいま導入した関数g(θ) (0≤θ <2π)の最も重要な 性質は
g(θ+π) =−g(θ), 0≤θ < π (1.2) が成り立つことです.どうしてこの (1.2)が成り立つのかを,説明しましょう.
ふたつの直線θ とθ+π を考えると,定義によれば,これらはともに領域 Ω1 を 等分し,しかも,互いに平行でなければなりません.さてここで,問題 1.4 に 対する解答を思い起しましょう.与えられた直線に平行で,しかも与えられた ひとつの領域を等分する直線の存在だけでなく,その一意性もそこで示したは ずです.とくに,その一意性を適用することにより,ふたつの直線 θ,θ+π が 一致することが結論されます.ここでさらに関数 g(θ) の定義を思い出すと,
g(θ) と g(θ+π) は符号を除いては等しい,すなわち,|g(θ)|=|g(θ+π)|が 成り立つことが判ります.ただし,直線 θ と直線 θ+π の「向き」は異なるの で,直線 θ から見て右側にあるものは直線 θ+π から見ると左側に,また逆に θ から見て左側にあるものはθ+π から見ると右側に位置することになります.
以上から関数 g(θ) が性質(1.2)を有することが結論されます.
性質(1.2) から特に g(0)·g(π)≤0 が成り立つことがただちに見て取れま す.さらに関数 g(θ) のもうひとつの重要な性質として,— ただし,その証明 は必ずしも容易ではありませんが — それが連続であることが挙げられます.
これらふたつの事柄から,関数 g(θ) に対し中間値の定理を適用しg(θ0) = 0な る角度 θ0 の存在を導くことが可能になります.そして,この角 θ0 に対応する 直線 θ0 が,第 1の領域 Ω1 のみならず第2 の領域 Ω2 をも等分することが,
直線 θ および関数 g(θ) の定義から判ります.これで,問題1.2に対する解答が
(関数f,および gの連続性の証明を除いて)終了したわけです.
電車の問題1.3の解説に進むことにしましょう.はたして,本当にこの問題の なかで述べられているようなことは可能なのでしょうか.少し考えただけではあ りそうもないことと感じられるかも知れません.ところでこの問題で述べられ ている棒の運動自体は,Newton の運動方程式という,一種の常微分方程式に より記述されます.けれども運動方程式を具体的に解こうとすることは,この 問題を考えるうえで得策ではありません.そもそも,電車の運行自体が具体的 に与えられていないからです.それでは,電車の運行が具体的に与えられてい た場合に限ったらどうでしょうか.たしかにこの場合には,運動方程式を解き 棒の運動を決定することで問題に答えられるかもしれません.しかし実際それ を実行することは,一般には決して容易ではないはずです.ところが中間値の 定理を用いると,これから見るように,なんの技術的困難もなく,しかもどんな
(すなわち具体的に与えられているとは限らない)電車の運行に関しても,この問
B. 問題解説 9
題を解くことが出来ます.
ともかく中間値の定理をこの問題に応用するためには,なんらかの関数を導入 する必要があります.さて,どうやってその関数を探したらよいでしょう.出発 時における棒の角度を選ぶ,これだけがこの問題のなかでわれわれが自由に出来 ることです.そこで,出発時の棒の角度θ(ただし −π/2≤θ≤π/2)を図B.5 のように計り,それをいわゆる独立変数と考える,というのはさほど不自然では ないはずです.一方,問題なのは到着時の棒の角度です.途中のことは問題には なりません.しかも,「電車の運行はあらかじめ決まっている」という約束からす ると,到着時の棒の角度は出発時の棒の角度θ のみで決定される,すなわち,変 数 θの関数であることが判ります.そこで到着時の棒の角度を出発時と同様な仕 方で計り,それを h(θ)と書くことにしましょう.
θ
+ − + −
A 駅 B 駅
θ h( )
図 B.5: 棒の傾き具合の計り方
棒が鉛直からどれだけ傾いているかを計る.ただし進行方向に対し前向き に傾いたときにはマイナスと,また後ろ向きに傾いているときにはプラス と約束する.
さて,ここでもうひとつの取り決め,すなわち,「棒はいったん倒れたらそれ以 降ずっと倒れたままである」という約束を思い出して下さい.したがって,とく に出発時に棒を倒しておけば到着時にも棒は同じよう倒れている,ということに なります.これを関数 h(θ) を用いて表現すれば,
h(−π/2) =−π/2 かつ h(π/2) =π/2
ということに他なりません.一方,先程述べた通り,棒の運動はニュートンの運動 方程式という,一種の常微分方程式で記述されます.そして,「常微分方程式の解 は,初期条件に連続的に依存する」という,常微分方程式に関する基本的な定理 のひとつを適用することにより,特に関数hが連続であることが結論されます.
あとは単に中間値の定理を関数 hに適用するだけです.実際,中間値の定理によ れば h(θ0) = 0 となる角度 θ0 が存在しなければなりません.ところがこれは,
出発時に棒を角度θ0 で立たせておけば,到着時には棒が鉛直である,ということ
にほかなりません.これが問題 1.3に対する答です.1
C
連続性の新たな定義§Aで述べた定義によれば,区間I 上で定義された実数値関数が連続であるとは,
そのグラフが連続曲線となることを意味しました.でも,実はこの定義,いくつ か本質的な難点を持っています.まずこの定義によれば,関数の連続性はそのグ ラフとして得られる曲線の連続性に帰結されますが,そもそも,曲線,およびそ の連続性とは一体何なのでしょう.これに対する厳密な解答無くしては,関数の 連続性の厳密な議論は不可能です.これが§Aで述べた連続性の定義の第1の問 題点です.第 2の問題点は,たとえば前節で取り扱ったような,中間値の定理の 応用問題を通じて顕れます.問題1.2,1.3に対する解答を思い起こして見ましょ う.その中には,f,g,h合計 3つの関数が現れました.そしてそれら連続性が 解答において最も本質的な役割を果たしていました.これら関数の連続性,たぶ ん直感的には正しいであろうと感じられるとは思いますが,果たして本当にそう なのでしょうか.一旦疑いを抱くと,厳密な証明を与えない限りなかなか心は晴 れません.でもどうやってこれら関数の連続性を証明すればよいのでしょうか.
§Aで与えた定義に基づくならば,まずこれら関数のグラフを描き,そのグラフが 連続曲線になっていることを確認すればよいはずです.ところが,前節の問題の解 答で利用した3つの関数は,具体的な式で与えられているようなものではありませ ん.したがって,そのグラフを具体的に描くことが出来ないわけで,その結果グラ フを通じて連続性を判定するのは実際的には不可能になります.これら関数以外に も,抽象的な仕方でしか定義できない関数を取り扱う必要がしばしばありますが,
それらに対しても事情は全く同じです.これが第2の欠点です.第 3の欠点は,
高次元化が困難であることです.数学では,区間上で定義された実数値関数のみな らず,ふたつのユークリッド空間の間で定義された写像 Rn→Rm や,さらには
1この問題を実際講義中に出題したときによく受ける質問として次のようなものがあります.
A駅からB駅に向かう途中,電車が例えば1時間停止するとする.すると停止し 始めのときに棒はまっすぐ立っていなければならない.ところが1時間の停止時間 が経過した後に電車が思いっきり勢いよく急発進するとしよう.すると棒は後ろ向 きに倒れてしまうではないか!
この論法のどこが誤りなのでしょう.「棒が倒れるには時間がかかる」というのがポイントです.例え ば棒を床面からの角度が30度であるよう傾け,手を離します.棒が倒れきるまでに,例えば0.1 秒かかったとしましょう.今度はもう少しまっすぐに棒をたててから手を離してみましょう.例えば 最初に床面からの角度が89度であるように傾けた場合,倒れきるまでにかかる時間は先程より大分 長くなるはずです.最初の棒の角度を鉛直に近づければ近づけるほど,倒れるのに要する時間はいく らでも長くできます.したがって電車が長時間停止する場合でも,その停止開始時期に棒はまっすぐ にたっている必要はありません.むしろ停止時間が終わり急発進する瞬間に棒が思いっきり前屈みに なっていた方が好都合なはずです.
C. 連続性の新たな定義 11
「無限次元」空間の間で定義された写像の連続性を議論することがありますが,こ のような関数のグラフを描くと言うことは現実的には不可能です.たとえば,
n-次元ユークリッド空間Rn から m-次元ユークリッド空間 Rm への写像に対 し,そのグラフを形式的に(m+n)-次元ユークリッド空間Rm+nの中の部分集 合として定義することは可能です.しかし m+n >3の場合には,そのグラフ を実際に描くことは不可能です.それどころかそのグラフを頭の中に思い浮かべ ることさえ極めて困難なはずです.したがって,この場合にもまた,グラフを介 して与えられた写像の連続性を判定することは,実際的には不可能としか言いよ うがありません.
関数の連続性をそのグラフの連続性に還元することにより定義する,という方 法は,一見直感的には理解が容易に見えるかも知れませんが,以上で述べたとお り,種々の問題点を有します.そこで,この連続性の定義にこれ以上固執するの はやめにして,別の定義を与えることにします.2
定義 1.5. −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
f を区間 I 上で定義された関数とする.a∈I に対し,以下の条件が成り立つと き,f は a において 連続であると言われる:
{an} を,すべての番号n に対 しan∈I,かつ aに収束するような任意 の数列としたとき,必ず,
nlim→∞f(an) =f(a) (1.3) が成り立つ.
またすべての a∈I において f が連続であるとき,f はI 上連続,あるいは単 に連続であると言われる.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
条件(1.3)においてa= limn→∞anでしたから,これを右辺に代入すれば,
nlim→∞f(an) =f( lim
n→∞an), すなわち,関数f は極限操作 lim
n→∞と可換である,ということになります.そし て,これが定義区間I 内の任意の収束数列に対し成り立つということが,連続性 の意味です.
2関数の連続性を定義するひとつの方法として−δ論法と呼ばれるものがあります.ただこの論 法,微積分を初めて本格的に学ぶ大学1年生等初学者にとっては余りに厳密すぎて,決して理解が容 易ではないものとして定評があります.そこでここでは−δ論法を避け,もう少し理解の容易な 別の定式化を行います.しかしここで与えた定義と−δ論法を用いた定義は全く同等ですので,
−δ論法を使っていないからと言ってなんら心配する必要はありません.
たとえば
f(x) =
x+ 1 x <0, x−1 x≥0
で定義される関数は,そのグラフを考えればすぐ分かるように,x= 0で不連続な はずです(図C.1).これを定義 1.5にのっとって実際に示してみましょう.その ためにとくに an=−1/n(n= 1,2,· · ·)で定義される数列{an}をとります.
an<0 かつ an→0 (n→ ∞)であることに注意しましょう.したがって,と くに f( lim
n→∞an) =−1 が成り立ちます.ところが一方,lim
n→∞f(an) = 1 を得 ます.したがって,lim
n→∞f(an)=f( lim
n→∞an) となり,f がx= 0 で連続でな いことが分かります.
x y
O
図 C.1: 不連続な関数の例
この定義,関数の連続性をそのグラフの連続性により定義するという流儀と比 べると,随分形式的であり,したがってまた直感的には理解しにくいもの,とい う印象を与えるかも知れません.確かにその通りだと思います.しかし,その
「形式性」こそが連続性の厳密な取り扱いを初めて可能にします.また視覚的直感 に依存していないことから,後に見るように,その高次元化も容易です.ただし 区間上で定義された実数値関数の場合には,そのグラフを介して連続性を理解す る,という考え方は,厳密ではないにせよ,いろいろな現象を予期したり,ある いは理解したりする上で,極めて重要であることに変わりありません.数学にお いては直感的理解が極めて重要な役割を果たします.確かに,数学は他の学問分 野と比べたとき,極端に厳密性を好む学問です.とくに,数学的主張,あるいは 仮説は,それが証明されて初めて正しいもの,すなわち定理として認知されます.
しかしながら,数学者が新たな定理を得るにあたっては,それに対するの証明を 与える前に,その主張が正しいであろうことを何らかの直感に基づき期待・判断 します.これなくして定理は生まれてこないのです.直感力こそ数学の原動力で ある,と言っても過言ではないと思います.しかし一方,数学の対象は極めて抽 象的で,しかもその中にはときに一種病理的なものが含まれていることがありま す.そして,そのようなものに対し私たちの直感を不用意に適用すると,しばし
D. 有界単調数列 13 ば誤った結論に導かれることがあります.その危険を回避するために,厳密な論 理的・形式的な思考が必要となるわけです.
ところで,問題1.2,1.3の解答に現れた3つの関数f,g,h の連続性もこの 新しい定義にのっとり証明できます.とくに関数 f の連続性の証明はそれほど難 しくありません.諸君もちょっと努力すれば,証明できるかと思います.一方,
関数 gの連続性はそれより大分難しいかと思います.なお,g の連続性を示すに あたっては解答に現れた直線θ の一意性が必要不可欠です.電車の問題に対する 解答に現れた関数 hの連続性が常微分方程式に対する一般論から従うことはすべ に述べた通りです.これは数学関連の学科では,通常大学2,3年生で学習する はずの内容です.
D
有界単調数列ともかく,今後われわれは定義1.5を関数の連続性の定義として採用します.する と,もはや中間値の定理は自明な主張ではありません.新たな定義1.5に基づいた 中間値の定理の証明を与えなければなりません.ただしそのためには数列の収束に 関する準備が必要です.それをこの節で行うことにしましょう.まずは定義です.
定義 1.6. −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
{an}を数列とする.
(1)もし
a0 ≤a1≤ · · · ≤an≤an+1≤ · · ·
が成り立つならば,{an} は広義単調増加,あるいは単に単調増加であると言われ る.また,逆に
a0 ≥a1≥ · · · ≥an≥an+1≥ · · ·
が成り立つならば,{an} は広義単調減少,あるいは単に単調減少であると言われ る.
(2)定数 K を適当に取ると,すべての番号 n= 0,1,· · · に対し an≤K
が成り立つとする.このとき数列{an} は上に有界であると言われる.また,適 当に定数 K をとったとき,すべての番号 n= 0,1,· · · に対し
an≥K
が成り立つならば,数列 {an} は下に有界であると言われる.
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
例えば,an=nで定義される数列{an}は単調増加ですが,上から有界であ りません.一方,{bn} を bn=−2−n で定義される数列とすると,これは単調 増加,かつ上に有界となります.
なお,通常ここで述べた広義単調性とは別に,狭義の単調性が,次のようにし て定義されます:
数列 {an} が狭義単調増加であるとは,
a0 < a1<· · ·< an< an+1<· · ·
が成り立つことを,また{an} が狭義単調減少であるとは,
a0 > a1>· · ·> an> an+1>· · ·
が成り立つことを意味する.
広義の単調性と狭義のそれとの差異は,前者においては,その定義において等号 付きの不等号が用いられていることから,隣り合う 2項が同じ値をとるのを許し ているのに反し,後者においては,数列の値が本当に増え続けるか,あるいは減 り続けなければならないことです.ただしこのノートでは,広義の単調性しか利 用しない予定ですので,それを単に単調性と称することにします.
定理 1.7 (有界単調数列の収束性). ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
上に有界な単調増加数列は必ず収束する.また,下に有界な単調減少数列も必ず 収束する.
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たとえば{an}を上に有界な単調増加数列としましょう.その各項 an を実数 直線上にプロットすると,単調増加性から,an に対応する点は,番号nが増え るにつれて右に移動する,あるいはより厳密な言い方をすると,決して左方向に 引き返すことがないということになります.一方上からの有界性によれば,実数 直線上に定数 K に対応する点が存在し,数列{an}の各項に対応する点はそれ より右側には存在しないことが保証されます. これは次のように例えることがで きるかもしれません.真っ直ぐな道を,決して後戻りはしないという頑固なうさ ぎが,ぴょこぴょこはねながらやってきます.しかしその前方には非常に高い柵 があって,そのうさぎには決して飛び越えることが出来ないといった,うさぎに
D. 有界単調数列 15
a0 a2 a3
K a1
図D.1: 上に有界な単調増加数列
とっては少々気の毒な状況を考えてみて下さい.時刻を無限大に発散させたとき に,そのうさぎの位置は,柵の手前のある点に収束するというのが,有界単調数 列の収束性定理が主張している内容です.こう考えると,定理の主張の正当性が ある程度直感的に把握できるかも知れません.また,このように視覚的に解釈す れば,たとえば単調増加数列の収束性を保証するため必要なのは,下への有界性 ではなく,上への有界性であることも直ちに理解されると思います.
さて有界単調数列の収束性定理の証明を始めたいと思います.まずその準備と して,次のような補題を用意しましょう.
補題 1.8. ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
{an} を,すべての項が整数であるような数列とする.もし {an} が上に有 界かつ単調増加であるか,あるいは下に有界かつ単調減少であるならば,あ る番号 N から先,数列 {an} の各項は一定の値をとり続ける:すなわち,
aN =aN+1=aN+2=· · · が成り立つ.
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この補題において注意すべきことは,そこで扱う数列は整数列,つまりそのす べての項が整数であるような数列に限られている点です.さてここで,先ほどの 頑固うさぎのことを思い出して下さい.すると,この補題 1.8の設定は,次のよ うに例えることが出来るでしょう.やはり,以前と同様,真っ直ぐな道を決して 後戻りをしない頑固なうさぎが飛び跳ねながらやってきます.一方,その前方に そのうさぎには飛び越えることの出来ない塀があるというのも,以前と同様です.
前回との相違は,その道には敷石が一列に(しかも等間隔に)置かれていて,うさ ぎはその上を飛び跳ねてくると言う点です.もちろんこれは補題1.8における数列 が整数列であることの比喩です.ある時刻以降その可哀想なうさぎはあるひとつの 敷石の上で飛び跳ね続けるしかない,というのが補題 1.8の述べるところです.
このように考えると,補題 1.8で主張されている内容が正しいことが,何の苦も なく理解されるでしょう.すなわち,この補題1.8は証明を必要としないほど自 明な主張なわけです.そしてこれは,補題1.8と有界単調数列の収束性定理,す なわち定理1.7とを比べたとき,前者においては数列の取り得る値が整数という 実数の中に離散的に分布する数に限られていることに起因しています.
さて定理1.7の証明を始めましょう.{an} が上に有界な単調増加数列である としたとき,これが必ず収束することを以下において証明します.{an} が下に 有界な単調減少数列の場合にも本質的には同様な仕方で,あるいは {an} から bn=−anにより定義される数列{bn}が,上に有界かつ単調増加であることを利 用して容易に示されるので,ここでは省略することにします.まず数列 {an}の 各項を整数部分と小数部分とに分解します.すなわち,各n= 0,1,· · · に対し,
an=Mn+rn
(ただし Mn は整数,0≤rn<1)とするわけです.さらに少数部分rn を, rn= 0.dn1dn2· · ·
(だたしdn1, dn2,· · · は0以上 9以下の整数)のよう,10 進小数として表記し ましょう.するともともとの数列{an}が上から有界,かつ単調増加であること より,その整数部分を取ることにより得られる数列 {Mn}も上から有界かつ単調 増加であることが直ちに判ります.しかもこれは整数列であるから,補題1.8で 述べたように,ある番号 N0 から先Mn は同一の値M を取らなければならない ことが保証されます
次いで,小数点以下第1位の数字を集めて得られる数列{dn1}に注目しましょ う.これも明らかに上に有界な整数列です.しかももともとの数列{an}が単調 増加であること,またその各項 an の整数部分 Mn が番号 N0 から先変化しな いことより,{dn1} は番号 N0 から先では単調に増加することが判ります.し たがって,再び補題 1.8 によれば,ある番号N1(ただし N1 ≥N0) から先,
dn1は同一の値d1 をとり続けねばなりません. 全く同様な議論を,小数点以下第 2位以降に対しても行うことにより d2, d3,· · · が定義されます.
以上の議論は,自動車に付いている走行距離計のようなデジタル・メーターを 思い浮かべると,理解が容易かも知れません(図 D.2).そのメーターには,まず 整数部分を表す部分があり,さらにその右側に,小数点以下の各位を表す部分が 一列にしかも無限に並んでいます(実際の走行距離計は有限桁しか持ちませんが,
そこは目をつぶって下さい).さて,そのメーターに表示されている数値が刻々変 化している状況を想定しましょう.まず,第一にそこに表れる数値は,決してあ る数よりは大きくならないと仮定します.第二に,そのメーターは,自動車の走 行距離計と同様,逆回転はしない,したがってその数値が時間の経過とともに減 少することはあり得ない,と仮定します.するとどうでしょう,ある時間が経過 すると,まず整数部分をあらわす桁が停止し,その後は決して値を変えなくなる はずです.そして,さらに時間が経過するにつれ,少数部分を表す各桁が,左か ら順に静止していくはずです.
E. 中間値の定理の証明 17
2 1 7 4 5 .
2 1 7 4 5 . . . . . .
dn1 dn2dn3
Mn ...
3 9 2 3 9 2
図D.2: 無限の精度を持つ走行距離計
さて,まず実数r を先程求めた d1, d2,· · · を用い r = 0.d1d2· · · で定義しましょう.次いで実数 aを
a=M+r
で定義します.すると,an→ aであることを結論するのは容易です.以上で,
有界単調数列の収束性定理の証明は終わりです.
E
中間値の定理の証明さていよいよ中間値の定理の証明です.
定理 1.1 の証明. f(a)·f(b) = 0 が成り立つときには,f(a) = 0 または f(b) = 0 でなければならない.したがってこの場合にはc=aあるいは c=b とおけばよい.そこで以下では f(a)·f(b) <0 の場合を考える.もちろん,
f(a)·f(b)<0であるならば,f(a)<0かつf(b)>0が成り立つか,あるい は f(a)>0かつ f(b)<0 が成り立つかのふたつの場合が考えられる.しかし 第 2 の場合には第1 の場合の議論に少々手直しを加えることで,あるいは −f を改めてf と取り直し第1の場合に帰着することにより証明できる.そこでここ では第1 の場合,すなわち
f(a)<0 かつ f(b)>0
が成り立つ場合のみを取り扱うことにする.
最初にふたつの数列{an},{bn} を次のように帰納的に定義する.まず,
a0 =a, b0 =b
で初項a0,b0 を定める.さらにすでにan,bn が定義されているとき,次の項 an+1,bn+1 を,
f
an+bn 2
≥0 のときには an+1=an, bn+1= an+bn
2 ,
f
an+bn
2
<0 のときには an+1= an+bn
2 , bn+1=bn
で定義しよう(図E.1). このとき,これらふたつの数列{an},{bn}が以下に
bn
an=an+1
=bn+1
mn
(a)
an mn=an+1
bn =bn+1
(b)
図E.1:
mn = (an+bn)/2 における f の値が,(a) ゼロないし正のときに は an+1 =an, bn+1 =mn と,また (b) 負のときには an+1 =mn, bn+1=bn と定義する.
述べる性質を有することが容易に判る:
a≤an≤b, a≤bn≤b; (1.4) bn−an= b−a
2n ; (1.5)
f(an)<0, f(bn)≥0; (1.6) {an} は単調増加, {bn}は単調減少; (1.7) (1.4)および (1.7)によれば,{an},{bn} はおのおの上に有界な単調増加数列 および下に有界な単調減少数列であるから,有界単調数列の収束性定理よりこ れらふたつの数列がともに収束することが保証される.しかも (1.5) によれば bn−an→0(n→ ∞)であるから,これらふたつの数列の極限は一致しなけれ ばならない.そこで,{an},{bn}共通の極限を c で表わすことにする:
c= lim
n→∞an= lim
n→∞bn. (1.4)よりもちろん a≤c≤bである.
このcに対し f(c) = 0 が成り立つことを以下で示したい.まず,連続性の定 義,c= limn→∞an,およびf(an)<0 より,
f(c) =f( lim
n→∞an) = lim
n→∞f(an)≤0.