音波伝播に着目した媒質の情報抽出
The Extraction of Medium Information Focusing on Sound Propagation
1W070238-6 三枝 英一 指導教員 及川 靖広 准教授
SAEGUSA Hidekazu Assoc. Prof. OIKAWA Yasuhiro
概要: 本研究は、媒質を介して伝播する音波を観測し、その幾何学構造やその他の物理特徴を非破壊・非接触で抽 出する技術を確立しようとするものである。具体的には、構造物に音波を入力してその伝播を観測し、その周波数領 域の情報に着目することで板振動の運動理論により構造物内部の三次元幾何学情報の抽出する手法を検討した。更に 音波による光の回折現象に着目し、光学干渉計を用いた音場把握および媒質の物理特徴抽出の手法を検討した。この 二つの手法により、定量的かつ非破壊非接触な媒質のさまざまな情報抽出が可能となる。現在経験的に行われている 音響診断技術の確実性向上や高効率化に寄与し、音波と光波を併用した非破壊・非接触な情報抽出の新たな手法を提 案する。
キーワード:音響診断、音響光学効果、非破壊非接触、干渉計
Keywords:acoustic diagnostics, acousto-optic effect, nondestructive & noncontact, interferometer
1 まえがき
本研究では、音響診断の経験的技術に着想を得て、
媒質を介して伝播する音波を観測し、その幾何学構 造やその他の物理特徴を非破壊非接触に抽出する手 法を検討する。具体的には、単純化を図ったいくつ かの構造物試験体に音波を入力し、その伝播を観測 することにより構造物の幾何学情報を非破壊非接触 で抽出した。更に、音場の観測および屈折率や密度 等の物理情報の抽出を、音波による屈折率のゆらぎ に着目し、光の変調として観測することにより試み た。
2 音波伝播の観測による固体内部の幾何 学情報抽出
構造物内部の非破壊非接触な三次元幾何学情報抽 出を目的として試験体に音波を入力し、その伝播を 観測、解析を行った。本実験の試験体は壁等の構造 物を想定し、板振動の物理的挙動に着目して解析を 行う。
パルス入力により構造物の二次元情報を得る実験 を行った。本実験では試験体として、縦 23cm×横
32cm×厚さ 4.5cm の石膏板を、空洞が無いものと、
中央深さ1cmに縦8cm×横12cm×厚さ1cmの直方体 状の空洞が有るものとの二種類用意し、多点(横 9×
縦7点)で叩いて打面の裏側に取り付けた振動ピック アップにより測定した。測定したインパルス応答を 各点ごとに周波数解析し、更にオクターブバンド分 析を用いて空洞の二次元位置情報推定を試みた。
図-1に中心周波数10kHzの1/6オクターブバン ド分析結果の9×7点エネルギー分布を示す。空洞位
図-1 1/6oct.分析による試験体のエネルギー分布
(空洞有、中心周波数10kHz)
置でのエネルギーが明らかに大きいことが分かり、
空洞のある部分が全体の系とは異なる特性を持った 振動系として運動していることが考えられる。以上 のことから壁のような構造物の内部情報を、異なる 振動系の特性に着目することで二次元的に推定が可 能である。
また試験体を立て、非接触に白色雑音を放射し、
その振動をレーザードプラ振動計(Polytec OFV-505) で多点観測(横17 点、縦13 点、一列ずつ)し、観測 点ごとの振幅周波数特性の違いを観察する。図-2、
図-3はそれぞれの試験体における水平方向一列の 観測点ごとの時間平均振幅周波数特性である。図2 ではモードと考えられる周波数の遷移はみられない が、図-3では一次モードと考えられる450Hz付近 のピークが、空洞の影響により遷移していることが わかる。本実験では、振幅周波数特性における板全 体の一次モードのピークよりも空洞部分に起因する と考えられる一次モードのピークが大きい観測点
図-2 振幅周波数特性の遷移(空洞無、水平)
図-3 振幅周波数特性の遷移(空洞有、水平) において空洞ありと判断する。これより二次元空洞 位置は板中心において横12.5cm、縦8.5cmとなった。
またこの結果から、板振動の運動理論を用いて空洞 上部の振動系の板の厚さを推定したところ 0.992cm となり、試験体の空洞(縦8cm×横12cm×厚さ1cm) とおおむね一致する結果となった。この手法により 板振動に着目した構造物の非接触非破壊三次元情報 抽出が可能であると言える。
3 光の干渉を用いた音場把握と物理情報 抽出
音波による光波の変調に着目し、幾何学情報以外 の物理量抽出を目指す。本実験では、音波による光 干渉を観測することで、屈折率のゆらぎとして音場 を捉え、更にその観測から媒質の物理特徴抽出を試 みた。
音場に対して垂直に平行光を入射すると回折光が 生じ、屈折率の変動によりその光強度が変化する。
このことを利用し、光学干渉計により位相の変化を みることで、音場観察および媒質の物理特徴把握が 可能である。具体的には図-4の概略図で示される ように、マッハツェンダ干渉計を利用した実験系[1]
で、フォトダイオードを用いて光強度の変動を観測 した[2]。なお光源は He-Neレーザ を用い、超音波 スピーカから40kHz正弦波を出力する。
図-4 光学干渉計を用いた実験系概略図
図-5 干渉による光強度変動のスペクトル 図-5は、観測した光強度の変動を周波数分析し、
時間平均したスペクトルより、暗騒音の時間平均ス ペクトルを減算し、得たものである。この図から、
試験光路中に40kHz正弦音場が存在することがわか り、非破壊非接触な音場の抽出が可能であることが わかる。更にこれらの情報から物理情報の抽出も可 能であると考えられる。
4 むすび
本研究では、音波伝播の観測により媒質のあらゆ る特徴を抽出することを目的として、固体内部の三 次元幾何学情報を非破壊非接触で抽出し、さらに光 の干渉を用いた音場把握と物理情報抽出に関する実 験から非破壊非接触な手法で音場を観測した。これ より非破壊非接触な媒質の情報抽出が可能となる。
今後は、構造物内部の幾何学情報抽出において、位 置情報を推定するためのモードと関係するスペクト ルの閾値設定や、光学系を用いた音場把握における 具体的な物理量算出等の課題に取り組み、より一般 的な例での非破壊非接触な音波伝播に着目した情報 抽出を行う。
参考文献
[1] 流れの可視化学会, “流れの可視化ハンドブッ ク,” 朝倉書店, 1986.
[2] 谷善平, “新版 オプト・デバイス応用ノウハウ”, CQ出版, 2000.