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中間構文における任意動作主と未完了アスペクト

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(1)

中間構文における任意動作主と未完了アスペクト

井口, 容子

広島大学大学院総合科学研究科 : 教授

https://doi.org/10.15017/26078

出版情報:Stella. 31, pp.1-9, 2012-12-18. Société de Langue et Littérature Françaises de l’Université du Kyushu

バージョン:

権利関係:

(2)

中間構文における任意動作主と未完了アスペクト

井      

1 .はじめに

 英語やドイツ語などに見られる( 1 )のような構文は「中間構文 middle construction」と呼ばれる。

( 1 )a.This book reads easily.[英]

   b.Das Buch liest sich      the book reads REFL

leicht.[独]

easily

フランス語においては,受動的再帰構文(受動的代名動詞の構文)が中間構文 に相当するものとされる。

( 2 )a.Ce livre se lit facilement.

   b.Le vin blanc se boit frais.

だが近年,フランス語の受動的再帰構文に 2 つの下位クラスを区別すべき,と する提案がなされている(Yamada 2002,林 2004 等)。筆者もこの立場に立 ち,井口(2007)においては,(2 a)に代表されるタイプを「中間構文型」,(2 b)

のタイプを「未完了受動型」と呼んだ。英語等の「中間構文」に意味・機能的 に近いと考えられるのは,前者である。

 中間構文をめぐっては,英語のそれを中心にさまざまな角度から分析がなさ れているが,このところ「総称性」の観点からの研究が目を引く。本稿におい ては Lekakou(2008)をとりあげ,これを出発点としてこの問題を考察してみ たい。Lekakou の分析はテクニカルな色彩が強いものであるが,直観レベルに おいても訴えかけてくるものがあり,興味深い。ただ同時にいくつかの問題点 を含んでいるとも思われるので,そのあたりを検証していきたい。

2 .Lekakou(2008)による中間構文の類型

 Lekakou(2008)は,非対格(unaccusative) / 非能格(unergative)の統語

(3)

構文の類型(typology)を提示している。

 Lekakou によると,英語やドイツ語,オランダ語といったゲルマン系の言語 における中間構文は非能格であるのに対して,ギリシア語やフランス語におけ るそれは非対格である。そしてこのことは,それぞれのタイプの言語のアスペ クト的な特性に関連しているという。Lekakou は以下のように定式化する。

( 3 ) A language will employ an unaccusative structure to convey the middle interpretation iff

Gen is encoded in imperfective morphology.

Otherwise, an unergative structure is used.

    (Lekakou 2008:259)

ここで

Gen

というのは,任意(arbitrary)の解釈を受ける動作主,すなわち

「誰でも」「誰にとっても」といった意味を持つ不定の動作主の存在を認可する 要素(licensor)である。平たく言えば,文の総称的解釈を可能にする要素と考 えてよい。( 3 )によると,「当該言語において

Gen

が未完了形態中にコード化 されている場合,そしてその場合にのみ,中間構文は非対格構造をとる。その 他の場合には非能格構造をとる」ということになる。そして「Genが未完了形 態中にコード化」されている言語というのは,ひとつ以上の時制(tense)にお いて,総称的文脈か非総称的文脈かによって,異なる動詞形態を使い分ける言 語である(ibid.)。たとえばフランス語は「過去時制」において「半過去 / 単 純過去」の区別をもつ言語であるため((4 a–b)参照),その中間構文は非対格 構造である,ということになる。一方,英語は総称 / 非総称の対立を示す形態 論的手段をもたない。(5 a–b)が示すように,同じ drove という形態が,非総 称的文脈(5 a),総称的文脈(5 b)いずれにおいても用いられている。したがっ て英語における中間構文は,非能格構造ということになる。

( 4 )a.Jean écrivit une lettre hier / *chaque jour.

   b.Jean écrivait une lettre chaque jour.

( 5 )a.John drove to school (yesterday).

   b.John drove to school (as a teenager).

      (以上,Lekakou 2008:259–260)

 ただ,ここであらためて考えておきたい。「Genが未完了形態中にコード化 されている」とはどういうことなのか。この点にかんして,Lekakou(2008)は

(4)

上記の引用以上のことは述べていない。だが Lekakou(2002)には次のような 記述がある。未完了の形態は,「進行 progressive」と「習慣 habitual」の間で 両義的であることが知られているが,これに加えてもうひとつ,「能力 capabi- lity, ability」をも表し得る。完了 / 未完了の区別を形態的に明示する言語は, その未完了形態の中に「可能 , 能力」のモダリティをコード化しているという のである(Lekakou 2002: 406)。

 Lekakou(2002)では

Gen

のかわりに

« can »

(および

« can* »)という記号が

用いられており 1),コード化されているのは総称性一般ではなく,「可能」のモ ダリティに特化されている。Lekakou(2002) / (2008)の間でこのような違い はあるものの,未完了形態中に総称的解釈を生み出す要素をコード化する,と いう考えは共通している。未完了アスペクトに限定される形態を有する言語は, 動詞の形態から「可能」のモダリティもしくは「総称性」を読み取ることがで きるというのである。

 これに対して,完了 / 未完了の形態的区別を持たない英語やオランダ語など のゲルマン系の言語では,総称性は形態・統語レベル(morphosyntax)におい てコード化されない。これらの言語においては,統語以前の部門(presyntactic component),すなわち概念構造(conceptual structure)のレベルにおいて,動 作主が総称量化されることにより,middle の意味を持つ述語が派生される。こ れは状態述語(stative predicate)であり,統語的には非能格構造(unergative)

として実現されることになる。

 一方,現代ギリシア語やフランス語などでは,統語レベルで形態的にコード 化されている総称の意味を読み取ることができるため,概念構造において状態 述語を派生する必要はない。受動文と同様の非対格構造を持ちながら,「中間構 文 middle」の解釈を受けることができるのである。

 以上,Lekakou(2002,2008)の分析の概要を見てきた。次節以降において は,いくつかの点に的を絞って順次検証していく。

3 .非対格 / 非能格

 中間構文の統語構造にかんしてはさまざまな分析が提案されているが, Ackema & Schoorlemmer(1995)は,少なくとも英語やオランダ語等におけ る中間構文は,受動文のような NP 移動(NP-movement)を伴う「非対格構

(5)

レベルの叙述(individual-level predication)」と見なし,主語が topic phrase に基底生成されると考える Kageyama(2006)もこのような立場に近いのでは ないかと思われる。

 筆者は井口(2010)においてこの問題を取り上げ,英語の中間構文を「非能 格」と見なす分析にはかなり説得力があること,他方フランス語の受動的再帰 構文にかんしては,少なくとも「未完了受動型」は非対格構造と見なすべきで あること,「中間構文型」のステイタスは微妙ではあるが,英語の

« for NP »

に 相当する,経験者を表す

« pour NP »

との共起可能性が低いことなどから,こ ちらも非対格構造の可能性があることを示した 2)

 このような観点からすると,Lekakou(2008)の主張のうち,少なくとも英 語等のゲルマン系の言語の中間構文は非能格,ギリシア語・フランス語等にお いては非対格の構造を持つ,とする部分については,かなり妥当性があるので はないかと思われる。

4 .任意動作主(arbitrary  agent)の顕在化と統語構造 4.1.中間構文の任意動作主

 中間構文は,いわゆる能格構文(フランス語では,従来「中立的代名動詞」

と呼ばれていた「自発的再帰構文」に相当)とは異なり,動作主の存在を含意 することが知られている。そしてこの動作主を明示的に表すことはできない。

( 6 )a.This book reads easily.

   b.*This book reads easily by John.

( 7 )a.Ce livre se lit facilement.

   b.*Ce livre se lit facilement par Jean.

そしてこの明示されない中間構文の動作主は,「誰でも」「誰がやっても」とい う,「任意動作主 arbitrary agent」の解釈を受ける。

 Lekakou(2008)は「任意動作主」の顕在化にかんして,2 節で見た 2 つの タイプの言語の間で相違が見られるという。すなわち,現代ギリシア語やフラ ンス語においては,総称的な意味の動作主であれば,中間構文と共起可能であ るというのである。以下の例は,容認可能性の判断も含めて,Lekakou(2008)

から引用したものである。

(6)

( 8 )現代ギリシア語

   a.Afto to pediko vivlio djavazete

     this the children’s book read-3SG.PASS.IMPERF

efxarista with pleasure      (akom i ki) apo megalus.

     even and by grown-ups

‘This children’s book can be read with pleasure (even) by grown-ups.’

   b.Afti i askisi linete

     this the exercise solve-3SG.PASS.IMPERF

(akomi ki)

even and apo by

anoitus.

idiots      ‘This exercise can be solved (even) by idiots.’

( 9 )フランス語

   a.La Tour Eiffel se voit de loin par tout le monde (qui veut bien la voir).

   b.Ces étoffes se repassent facilement par tout le monde.

       (以上,Lekakou 2008:249)

 Lekakou は 2002 年の論文において,中間構文で動作主に対して要請されて いるのは「任意(arbitrary)の解釈を受けること」であり,それを満たせば統 語的に実現されることを妨げるものではない,とする(Lekakou 2002:408)。

(8 a–b)の現代ギリシア語の例は,「誰でも anyone」を意味する語でさえない。

ただ,具体的な人物でもない。「子供」や「大人」といった,カテゴリーを指す 語である。

 Lekakou(2008)は( 8 )–( 9 )に見られるような任意動作主の顕在化を, 統語レベルにおいて動作主が存在することの証拠とみなし,これらの言語にお ける中間構文が受動文と同様の非対格構造を有することの裏付けとなるものと 考える。

 一方,英語などのゲルマン系の言語においては,任意の意味をもつものであっ ても,動作主を明示することはできない。

(10) *This book reads easily by anyone.

     (Lekakou 2008 : 251)

これは,Lekakou によると,当該の言語においては統語以前の語彙的なレベル において動作主が抑制されているため,統語レベルにおいて動作主が存在しな いことを反映しているということになる。ゲルマン系の言語においては,中間

(7)

なされるのである。

 以上が動作主の顕在化にかんする Lekakou(2008)の見解であるが,このう ちフランス語の例にかんしては,容認可能性に疑問がある。筆者が尋ねた 3 人 のインフォーマントのうち,2 人は「不可」の判断であった。ただ,この問題 はそれほど単純ではない側面をもっているように思われる。つまり言語に対す る規範意識が少なからず関与しているのではないかということである。Lekakou 自身,注において,フランス語話者の多くはたとえ総称的意味であっても動作 主句を明示することには抵抗を示す,と述べている。そして仏語例文の提供者 である言語学者の Eric Mathieu 氏の見解として,この拒絶はフランス語の規 範文法の影響ではないか,Mathieu 氏自身も含めて,このような文を許容する 話者も存在する,と続ける(Lekakou 2008:249, fn. 2)。さらに Authier & Reed

(1996)を援用して,カナダのフランス語ではこれらの文の容認可能性がより高 くなっていると指摘する(ibid.)。

 筆者が尋ねた,これらを不可とするインフォーマントも,「こういった文はス タンダードなフランス語ではない」というニュアンスであった。また(9 a–b)

に抵抗を示さなかったインフォーマントは若い世代である。若い年齢層にはこ れらの文が受け入れられつつあるのではないか,という可能性もある。

4.2.「経験者」の

« pour  NP  »

 興味深いのは,« par tout le monde »ではなく,« pour tout le monde »は どうかと問うと,いずれのインフォーマントも後者,すなわち

« pour »

を用い た前置詞句の方が,より容認可能性が低いという。英語の中間構文の場合,(11)

が示すように,具体的な人物を指す場合でさえ

« for NP »

が許容されるが,こ の現象と際立った対照をなしているといえる。

(11) That book reads quickly for Mary.

    (Stroik 1992)

(11)の for Mary のような,経験者を表す « for NP

» は,もともと Stroik

(1992)によって潜在動作主が明示されたものとみなされ,英語の中間構文がこ れと共起するということは,むしろ統語レベルにおいて動作主が存在すること を示す証拠として提示されたものである。しかしながら,筆者はこの立場はと

(8)

らない。« for NP »は Ackema & Schoorlemmer(1995)が指摘するように, 形容詞述語とも共起する。

(12) This book is too thick for Mary.

    (Ackema & Schoorlemmer 1995:179)

« for NP »

は受動文における

« by NP »

とは異なり,動詞の項を直接表すもので

はなく,述語の表す形容詞的概念が適用される領域を限定するものなのである。

英語の中間構文が

« for NP »

を許容するという事実は,この構文の述語が語彙 レベルにおける操作を受けて,形容詞に近い性格の「個体レベル述語 indivi- dual-level predicate」になっていることを示唆する。したがって,Stroik(1992)

の意図とは逆に,英語の中間構文が「非能格」の構造をもつことを支持する現 象と考えられるのである。この点,英語の中間構文の動作主は,統語以前のレ ベル(presyntactic level)の操作によって抑制されているとする Lekakou

(2008)の見解も納得できる。

 一方,フランス語の中間構文型の受動的再帰構文においては,経験者の

« pour

NP

» の 容 認 可 能 性 は 低 い。« par tout le monde » の 方 が,« pour tout le

monde

»

よりまだ受け入れやすい,といった状況である。この事実は,フラン ス語の受動的再帰構文は,英語とは異なり,中間構文型のものであっても受動 文と同様の非対格構造である可能性が高いということを示唆するものと思われ る。ことばを変えれば,英語の場合のように,語彙レベルの操作によって形容 詞的性格の述語に移行しているわけではないのである 3)

5 .アスペクト特性

  3 節でみた Lekakou(2008)による中間構文の類型をまとめると,以下のよ うになる。現代ギリシア語やフランス語など,ひとつ以上の時制において完 了 / 未完了を形態的に区別する言語においては,「総称性 genericity」が形態統 語的にコード化されており,これらの言語の中間構文は非対格構造をもつ。一 方,英語やオランダ語などのゲルマン系の言語では,完了 / 未完了のアスペク ト特性は形態的に区別されておらず,したがって総称性は形態統語的にコード 化されていないことになる。これらの言語における中間構文は,非能格構造を とる。

 このうち中間構文がとる統語構造にかんする部分,すなわちフランス語,現

(9)

う指摘は,3 節・4 節でみたように,かなり説得性があるように思われる。だ が,それぞれのタイプの言語のアスペクト特性に言及した部分については疑問 を感じる。「ひとつ以上の時制において完了 / 未完了の形態を区別する」から といって,「総称性」が形態統語的にコード化されている,すなわち動詞の形態 から総称性が読み取れるといえるのだろうか。フランス語と英語について考え てみると,少なくとも現在時制にかんしては,現在進行形といわゆる現在形

(simple present)を区別する英語の方が,フランス語より generic - episodic の区別を明示的に表しているといえる。

(13)a.Mary is playing tennis in the garden.(episodic)

   b.Mary plays tennis every day.(generic)

(14)a.Marie joue au tennis maintenant.(episodic)

   b.Marie joue au tennis tous les jours.(generic)

過去時制においては,たしかに(4 a–b)に見られるように,フランス語は完 了 / 未完了により形態を区別する。だが,中間構文の用例の大部分は現在時制 である。現在時制において,フランス語の動詞の形態が,英語以上に「総称性」

をコード化しているとは考えにくいのである。

 中間構文の意味を表す文が,非対格の構造を持つ言語と,非能格の構造を持 つ言語に分かれることは確かだと思われる。だがそれは Lekakou(2008)が指 摘するようなアスペクト特性による言語の類型とは,切り離して考えるべきな のではないだろうか。

6 .結 語

 フランス語の中間構文型の受動的再帰構文が,英語などゲルマン系の言語と は異なり「非対格構造」を持つ,と結論付けるためには,さらに多くの観点か らの分析が必要になるものと思われるが,今回行った「任意動作主」にかんす る考察は,かなりその可能性が高いことを示唆するものと思われる。他方,ア スペクトにかんしては,Lekakou(2008)が提案する類型は,そのままの形で は受け入れにくいと思われる。ただ,いずれにしても「未完了性」が「中間構 文」,さらにはより一般的に「総称文」と深い関わりにあることはたしかであ る。今後,さらにこの観点からの考察を深めていきたい。

(10)

1 ) Lekakou(2002) は« can/can* »を « (ability) modal operator »と み な し て い る

(p. 405)。

2 ) この« pour NP »の問題については,4.2. 節において改めて述べる。

3 ) なお 3 人のインフォーマントはいずれも,« par tout le monde »より,(i)に見ら れるような« par n’importe qui »の方が,若干許容度が高いと判断した。

(i) ?? Ces étoffes se repassent facilement par n’importe qui.

参考文献:

Authier, J.-M. & L. Reed (1996) : « On the Canadian French Middle », Linguistic Inquiry 27-3, 513-523.

Ackema, P. & M. Schoorlemmer (1995) : « Middles and Nonmovement », Linguistic Inquiry 26-2, 173-197.

林博司 (2004) : 「フランス語の中間構文と代名動詞構文」,『日本語の分析と言語類 型──柴谷方良教授還暦記念論文集──』くろしお出版,337–356.

井口容子 (2007) : 「代名動詞の意味・機能的ネットワーク──自発,受動,非人称──」,

『フランス語学研究』41,日本フランス語学会,31–44.

井口容子 (2010) : 「フランス語の受動的代名動詞と中間構文」,『ステラ』29,九州大学 フランス語フランス文学研究会,67–77.

Kageyama, T. (2006) : « Property Description as a Voice Phenomenon », T. Tsunoda

& T. Kageyama (eds), Voice and Grammatical Relations, Amsterdam, John Benjamins, 85-114.

Lekakou, M. (2002) : « Middle semantics and its realization in English and Greek », UCL Working Papers in Linguistics 14, 399-416.

Lekakou, M. (2008) : « Aspect Matters in the Middle », Biberauer, T. (ed), The Li- mits of Syntactic Variation, Amsterdam, John Benjamins, 247-268.

Stroik, T. (1992) : « Middles and Movement », Linguistic Inquiry 23, 127-137.

Yamada, H. (2002) : « Sur les deux types de la construction du verbe pronominal passif — la valeur normative et la restriction sur les éléments adverbiaux — », Études de Langue et Littérature Françaises 80, 208-221.

参照

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