日本小児循環器学会雑誌 12巻6号 764〜767頁(1996年)
Blalock−Taussing shunt変法術後狭窄に対する 乳児期のステント留置術
(平成8年8月29日受付)
(平成8年12月16日受理)
久留米大学小児科
赤木 禎治 橋野かの子 杉村 徹 石井 正浩 衛藤 元寿 加藤 裕久
key words:Blalock−Taussing shunt,ステント,カテーテルインターベンション,新生児・乳児
要 旨
Modified Blalock−Taussing短絡術後早期に重度の吻合部狭窄を合併したIeft isomerism heartの34 生日女児に,冠動脈用ステントを留置することにより狭窄部の解除に成功した.ステント留置後,動脈 血酸素飽和度は61%から86%へと上昇した.新生児・乳児期におけるステント留置術は長期予後など明 らかでない点も残されているが,一部の症例においては再手術に伴う危険性を減少させ,外科治療と同 等の効果をもたらす治療法になる可能性がある.
新生児期に根治術を行うことが困難な肺血流減少性 心疾患では,この時期に姑息術である体肺短絡術を必 要とする場合が多い.しかしながら新生児期の体肺短 絡術では,対象とする肺動脈や鎖骨下動脈を主とする 系統動脈の径や形態により,術後に期待どおりの血流 が供給されないことがある1).特に術後早期のシャン ト狭窄もしくは閉塞では,再度の短絡術を必要とする ことが多く,患児に与える手術侵襲のみならず新たな 肺動脈の狭窄や閉塞の原因となり,疾患の長期予後へ
も影響を及ぼす可能性がある.このような症例に対し,
バルーンを用いた狭窄部拡大術の有効性が報告されて いるが2),その短期的および長期的有効性は満足でき るものではない.
今回我々は体肺短絡術後の狭窄に対して,冠動脈用 ステントを留置することにより,術後早期の短絡血管 狭窄部の解除に成功したので報告する.
症例報告
34生日女児.40週,2,486gで出生したが,出生直後 よりチアノーゼと心雑音を指摘され,当科へ紹介され た.来院時の断層心エコー所見では,共通房室弁,両
別刷請求先:(〒830)福岡県久留米市旭町67 久留米大学小児科 赤木 禎治
大血管右室起始症,肺動脈漏斗部狭窄,部分肺静脈還 流異常(左上肺静脈が上大静脈へ還流),右側大動脈弓,
下大静脈欠損を伴っており,]eft isomerism heartと 診断された.プロスタグランディン製剤の投与を行っ ても動脈血酸素飽和度の充分な上昇が得られないた め,17生日に左鎖骨下動脈(直径4mm)と左肺動脈(直 径5mm)の問に直径5mmのリング付polytetra廿uoro−
ethyleneチューブを用いてmodified Blalock・
Taussingシャント術(以下BTシャント)を施行し た.このとき還流異常のある左上肺静脈を圧排しない ように,十分な長さ(35mm)をもったBTシャントを 施行した.術後動脈血酸素飽和度は65%から87%と上 昇した.しかしながら術後10[(27生H)頃から次第 にチアノーゼが増強し,動脈血酸素飽和度も60%台へ と低下してきたため,34生日にカテーテルを施行した.
左鎖骨下動脈起始部からの選択的造影で,BTシャン トは鎖骨下動脈側吻合部付近が屈曲し強い狭窄となっ ており,通過血流量が著明に減少していることが確認 された(図ユ).
このためまず直径4mmの冠動脈拡張用バルーン
(Evergreen, Medtronic)をもちいて拡張術を施行し た.バルーンの拡張は可能であったが,狭窄部はバルー ン抜去後直ちに縮小し,血流の改善は得られなかった.
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日小循誌 12(6),1996 765 (27)
図1 BTシャントの動脈側吻合部に狭窄を認める
図3 4mmのバルーンによってステントを拡張させ ているところ.ステントの部分が凹となっている.
鵬撫
灘蒙
図2 ガイドワイヤーに沿ってステントを狭窄部に進 めた(矢印).
このため,同部位に拡張時直径4mm長さ15mmの
Palmaz−Schatz冠動脈用ステント(Johnson&John−son)を用いた再建を試みた.目的とする狭窄部は限局 しているため,通常2分節から構成される同ステント を用手的に1分節だけになるように切断し,拡大用バ ルーンの中心部に再装着した.このとき,ステントの 形態を変形させないように,また拡張時にバルーンの 破裂をまねかないように,切断部には細心の注意を
払った.
右大腿動脈から狭窄部を通過し右肺動脈末梢まで進 行させた0.0141nchのガイドワイヤーに沿って,保護
シースに装着されたままのステントを狭窄部まで進め た(図2).目的部位にアプローチされていることを確
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図4 留置されたステントを示す.
認した後,緩やかに保護シースを引き抜き,加圧器を もちいて6気圧でバルーンを拡大させた(図3).ステ ントは狭窄部に固定し,拡大中に狭窄部が消失するの が確認できた(図4).ステント留置後の左鎖骨下動脈 造影で,シャント狭窄部位の消失と,良好な短絡血流 が確認された(図5).また,左鎖骨下動脈末梢側への 血流もステント留置後に改善した.動脈血酸素飽和度 は,ステント装着前の61%から術後から86%へと上昇 し,ステント留置前には聴取できなかったシャント音 も聴取可能となった.術後の両足背動脈の触知は良好 で大腿動脈閉塞等の合併症はなかった.
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図5 ステント留置後の造影所見.肺動脈への血流が 改善している.
ステント留置後,3日間はヘパリンの持続点滴(10 単位/kg/時間)を施行し,その後アスピリン(5mg/kg/
day分1),ジピリダモール(5mg/kg/day分3),ワー ファリン(0./mg/kg/day分1)による抗凝固・抗血 栓療法をおこなった.ステント留置後/0日目に退院し,
現在も同様の療法を継続中である.ワーファリン量は international normalized ratio(INR)が2.0から3.0 になるよう調整している.
考 察
先天性心疾患におけるステント留置術は欧米を中心 に術前術後の肺動脈狭窄3)4),静脈系の狭牢),大動脈縮 窄症4)などに対し幅広く用いられている.わが国では このような血管に用いる腸骨動脈用ステントそのもの の入手が困難な現実にあり(1996年8月現在),現在ま でのところその使用経験は限られている6).ステント は一旦体内に留置すると除去は困難であるため,肺動 脈や静脈系に留置するステントは小児の発達を見越し たサイズを選択する必要があり,このためその適応は
一 般に8歳以上とされている6>.
しかしながら種々の病態で,新生児・乳児期にステ ント留置術を必要とする場合がある.Hataiらは,トロ ント小児病院における1歳以下のステント留置術26例 を報告している7).留置部位は,動脈管3例,肺動脈10 例,右室 肺動脈問condiute 5例,肺静脈2例などと 多岐におよび,本例と同じ様な短絡術後の血管へも3 例に施行している.しかしながら,新生児・乳児期の ステント留置はいまだごく限られた使用経験しかな
日本小児循環器学会雑誌 第12巻 第6号
く,適応やその効果は未知である.
今回の症例では,短絡血管の動脈側の狭窄が術後早 期に出現し,通常のバルーン拡大術では狭窄の解除が 困難であったためステントの留置に踏み切った.わが 国における同様の報告としては,唐澤らによる18歳女 性のoriginal BTシャント血管へのステント留置術が あるが8),乳児では報告がない.
新生児・乳児期における短絡術の短期,長期開存率 に関する近年の詳細な報告は少ないが,Odimらによ る1988年から1992年までのボストン小児病院の経験で は,肋間開胸によって施行したmodi丘ed BTシャント 52例中10例(/9%),もしくは正中切開によって施行し たmodified BTシャント52例中4例(8%)にシャン ト不全をきたし,うち9例(9%)は死亡したと報告 している1).このように新生児期におけるシャント不 全は決してまれな状況でなく,対象とする血管サイズ や形態などにより,ある程度の確率で起りうる合併症 と考えなければならない.このような場合,通常再度 シャント術を行なう必要性があるが,手術に伴う侵襲 のみならず,肺動脈そのものの狭窄や閉塞へと進行す る危険性もある.ステント留置術による短絡血管の再 建は,このような繰り返す短絡術に起因する根治術時 のリスクファクターを軽減させる可能性を有してい
る.
過去の報告でも明らかなように,ステント留置術後 には,内膜増殖に伴うステント内腔の狭窄が出現して くる可能性がある9).留置術後の抗凝固・抗血栓療法に ついてもいまだ確立していない部分が多い.われわれ の症例におけるステント留置術はあくまでも根治術へ と向かうまでの橋渡しに過ぎず,適応,長期開存性の 問題,さらに再拡張の可能性など今後明らかにしなけ ればならない問題点が数多く残されている.
以上のように,本法はその適応,長期予後について 問題点を残しているが,狭窄部位の形態,狭窄部位ま でのアプローチ方法,術前の全身状態,施行者の技術 的習熟度などの条件が解決できれば,新生児期におい ても施行可能なカテーテル治療のひとつになると思わ
れる.
文 献
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平成8年12月1日 767−一(29)
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