キーワード:保育者養成校、音楽表現力、ピアノ
指導法
Ⅰ 背景
ハンガリーの作曲家で音楽教育家のコダーイ・
ゾルターン
(1)が、著書の中で「3歳から7歳の 間は、子どもの知的・精神的発達に最も重要な 時期であり、音楽教育はことのほか重要である」、
「子どもが最初の6年間で聞いたものは、あとに なって消すことができない」と述べているように、
子どもが音やリズム、歌、音楽に対して思い思い に感じた音楽体験と、体験に対する自己表現の積 み重ねは、子どもの知的・精神的発達に深く関わ ってくる。それゆえ保育における音楽活動は、子 どもに与える影響が非常に大きく、保育者にとっ て大変責任のある教育活動の一つといえるだろう。
大村
(2)は、「保育者にとって大切なことは、
まず『保育における音楽』の意義を考えることで あり、音や音楽が子どもの内面に届き、内面から 表現が表れているかを捉えることが基本にある。
子どもの反応から真の表現を見抜くには、保育者 自身の音や音楽に対する感受性や、音楽を内面か ら表現することを実感としてとらえている必要が あろう。」と述べている。子どもの音や音楽に対 する感受性を育むには、まず保育者自身が豊かな 感性を持ち、良い音、良い音楽とは何かを知り、
音楽性や音楽表現力を高めていくことが必要にな
ってくる。
保育者養成校の学生は、短期間に保育音楽に必 要なピアノ技能の習得を求められているにも拘わ らず、約半数がピアノ未経験者であり、経験者で あっても多くは初級者レベルである。この傾向は 年々顕著になってきている。ところが、保育者養 成校では、ピアノ技能の習得という目的達成のた めに用意されたピアノレッスン時間は限られてい る。これは、佐橋
(3)が、「卒業後の子どもたち との暮らしの中で、何ほどかの音楽の力量発揮が 期待されているにもかかわらず、養成校での音楽 学習時間は、普通、ごく限られている。」と述べ ている通りであり、十分な指導時間を確保できて いないのが現状である。
限られた時間の中で、学生にピアノ技能を習得 させるため、従来のピアノ指導では、読譜力と演 奏技術力の育成に力点を置くことが多かった。し かし、これだけでは、学生が良い音や良い音楽を 理解し、音楽に対する豊かな感性を育み、音楽表 現力を習得することには繋がり難い。
子どもの音や音楽に対する感受性を育み、音楽 体験による音楽的発達を養育するために、保育者 養成校の学生をどのように教育することが望まし いのか、子どもの一生を左右するといっても過言 ではない保育音楽、特にピアノ演奏の指導におい て、限られた授業時間の中で行えるより良い指導 とは何かが問われているのである。
学生の音楽性を短期間に効率よく高めるために
― 音楽表現力の基礎を育成するための効率的ピアノ指導法 ― 黒 田 紀 子
The Piano Instruction in the Childcare Training School
― The Effective Piano Teaching Method to Develop the Basic Skills in Musical Expression ―
KURODA Noriko
は、まず音楽表現力の基礎を育成することを念頭 に置いたピアノ指導が必要であろう。しかし、現 在のところ、保育者養成校のピアノ指導において、
音楽表現力の育成を目指した指導法の報告は少な い。
Ⅱ 目的
本研究は、保育音楽に必要とされるピアノ技能 を効率よく指導でき、かつ音楽表現力の基礎を育 成するための指導法を提案することを目的とする。
Ⅲ 指導法
1.学生の演奏に共通する問題点と5つの課題
学生の演奏に共通する問題点として主に以下の 5つが挙げられる。
①楽譜を音楽的に読めないため、音楽を単なる音 の羅列として捉えており、フレーズ感がなく、ア ーティキュレーションが不自然になり、曲の構造 も把握できていない。その音楽に相応しい音や音 楽表現からはかけ離れた演奏となっている。
②指を動かすことを常に優先しているため、自分 の出した音や音楽を正しく聴くことが疎かになっ ており、他者の演奏に対しても正しい判断ができ ない。音楽的に聴く耳が育っておらず、好ましい ものとそうではないものを区別できていない。
③リズムの理解不足による読譜の誤りが多く、特 に付点リズムを正しく演奏できない。福井
(4)が、
「『幼児の歌 110 曲集〔改訂版〕』のほぼ半数近く に付点リズムが含まれている」と述べているよう に、付点リズムは子どもの歌に頻繁に使用されて いるため、付点リズムの正しい理解がなければ、
将来、保育の音楽活動、特に弾き歌いにおいて、
子どもへの指導が困難になりかねない。
④音価・拍・拍子の理解不足により、読譜の誤り
が多い。実際に、4分音符と8分音符のみで書か れた箇所であっても、音の長さなど演奏の仕方が 分からないと訴える学生が少なくない。
⑤適切でない練習、例えば、(1)通奏ばかり行 う、(2)できていない箇所の練習に時間を費や していない、(3)テンポが速過ぎて失敗を多く 繰り返し、間違える癖をつけているなど、ピアノ の練習の仕方が分からないため、上達に時間を要 している。
以上の問題点を解決するために、次の5つの課 題を取り上げた。
❶音楽の捉え方
❷聴く力
❸付点リズム
❹音価・拍・拍子
❺練習法
これら5つの課題は、読譜力・技術力・表現力 に関するものであり、音楽性の向上に不可欠であ る。これらの課題を改善することが音楽表現力へ の第一歩になると考えられる。そこで、これらの 課題の改善方法について以下に述べていく。
2.5つの課題と改善方法
❶音楽の捉え方
そもそも音楽を表現する、音楽的に演奏すると は、どのようなことだろうか。ショパンの弟子の ミクリ
(5)は、「ショパンが弾くと、フレーズは みな歌のように響いた。澄み切った音色に耳を傾 けていると、音符が音節で、小節が言葉となって、
個々のフレーズが思想を表現しているように思わ れてくる。彼の演奏は、大言壮語のまったくない、
簡潔で気品のある朗読のようなものだった」と述
べている。ロマン派の大作曲家でありピアノの詩
人と呼ばれるショパンは、「ピアノで歌う」とい
うことに重きを置いていたのだ。音が澄み切って
いること、音符は歌うときの音節であり、小節は
言葉であり、フレーズは思想を表現するものであ
るという点は、音楽的な演奏をするために必須の
事柄である。また、演奏は朗読であるという点は、
音楽的な演奏とはどのようなものなのかを象徴的 に述べたものと言えよう。
山岸
(6)が「譜面を音楽として読むためには、
メロディーを一つの単語としてとらえ、いくつか の単語のつながりが文章になる、というように読 んでいく」と述べていることや、角
(7)が「音楽 する力を育てるためには、まず、譜面の中にある
『歌』を見つけることが大事」、「実際には抑揚が ついていなくても、『音楽を感じながら』、『響き を意識しながら』弾くことが大切。そうした心構 えで練習すると音楽と技術が結びついていく」と 述べていることは、ミクリの言葉と同様である。
短期間に音楽表現力の基礎の向上を目指すには、
機械的に指が動くようになった後に音楽的表現を 付け加える指導法では間に合わない。そればかり か、音楽を感じないで指を動かす動作を繰り返す と、その指の動きは音楽とは関係の無いものにな り、音楽を表現できない指をつくることになりか ねない。
そもそも指の動かし方は、音楽の捉え方により 決まるのであるから、音楽的な演奏を目指すので あれば、初めて指を動かすときには、すでに音楽 をある程度理解していることが必要であろう。無 意味な指の動きを防ぐだけでなく、音楽の表現に 必要な指の動きを効率よく練習できるからである。
そのためには、読譜の段階から楽譜を文章として 捉え、演奏を朗読と捉えることが重要になる。朗 読するのであれば自然とフレーズも生まれるから、
「歌」を感じることもできる。
こうすることにより、聴き手に伝わる音楽にな り、音楽と技術を結びつけることが可能になるの である。それゆえ、音楽表現力の向上を目指すピ アノ指導では、読譜の段階から次のような事柄に 注意すると良いだろう。
(1)読譜のとき、まだ指を動かす前に、1音1 音を全く別の要素として捉えるのではなく、音 のまとまりとして1つの言葉として捉えさせる。
こうすることで、実際に指を動かすときには、
指の無駄な動きや無意味な動きを抑えることが 可能になり、練習が効率的になる。
(2)譜読み段階から音の意味をよく考えて指を 動かし、意図した通りになっているか自分の出 した音を聴くことを徹底させる。フレーズを意 識させ、句読点が明確になるよう練習させる。
短期間の学習であるから、音や表現に専門性を 要求することはできないが、ピアノの音が言葉 になっているか聞き分ける練習は必要である。
(3)曲中の規則性や類似性、展開や再現などの 構造を読み取り、それぞれの意味を考えさせる。
楽譜を文章として捉えるには、その文章すなわ ち楽譜がどのように作られているかを知ること が重要である。このようにして、その文章は何 を言おうとしているのかを掴ませることにより、
楽譜全体の把握が可能になる。
(4)声に出し、実際にドレミで歌わせる。自分 一人のためでなく、語りかけるような心で曲を 再現させる。このようにすることで、それぞれ の箇所に相応しい音や表現に気づくことができ るようになる。
❷聴く力
ドイツの音楽教師で修道尼のベアタ・ツィーグ ラー
(8)の「音楽でいちばん重要なことはなんと いっても聴くことである」や、山岸
(9)の「聴く ことの訓練がピアノのおけいこである」、「ピアノ を弾くとは、ピアノで歌うこと」、「歌って弾くに は、音価に対する正しい認識が必要であり、音の ひびきを聴くことによって音楽的につながる」な どの言葉は、音楽性や音楽表現には聴く力が不可 欠であることを述べたものである。
聴く力とは、まずは自分の出した音を聴き取る 力のことであろう。意図した音が出ているかを自 分の耳で聴き取れるのか、捉えた音楽のイメージ に相応しい音になっているかを自分の耳で聴き分 けられるのかということである。聴き取る力がな ければ、自身の音楽表現力を向上させることはで きない。
卒業後、学生が保育者となったとき、自分だけ
でなく、子どもたちの出した音を聴くことに迫ら れる。子どもたちの音を聴き取れなければ、子ど もたちの音楽に対する感受性を育むことなどでき ない。聴く力がなければ、保育者に求められてい る音楽活動を全うできないのである。
このように音楽表現力を向上させるには、聴く 耳を育て聴く力を向上させることが重要になって くる。そのための指導には、以下のようなことが 必要になるだろう。
(1)たとえ伴奏部分であっても、全ての音に意 味があるので、相応しい音とは何かを考えさせ る。イメージした音を再現できているか、弾い た音を意識的に聴く努力をさせることが重要で ある。
(2)指導者は、より好ましい音や音楽を提示し、
学生のものと比較させ、良い音や良い音楽を聴 き分ける耳を育てていかなければならない。
(3)短期間であるため、音色の専門性を追求す ることはできないが、音を無計画に出すことだ けは避けたい。常に意図したことが再現されて いるかを聴いて確認させることが重要である。
(4)16 分音符などの速い音型は、実際のテンポ で声に出させると良い。細部までしっかり認識 できるようになれば、指への指令が伝わりやす くなる。こうすることで、速い音型も集中して 聴く習慣をつけることが可能になる。
(5)聴くことが疎かなまま指の運動感覚のみに 頼って弾いていないか、という観点で指導する ことも必要である。
❸付点リズム
ピアノの名教師として知られるジョゼフ・レヴ ィーン
(10)は、「リズムは音楽の魂である」、「不 安定なテンポでは安定したリズム感を失ってしま う。それを直すには振り子の動きを想像させるこ とだ」と述べている。リズム感の良い演奏には、
一定のテンポが根底にあるということである。
保育者養成校の学生が正しく演奏できないリズ ムに付点リズムがある。このリズムは、子どもの
歌に頻繁に現れる
(4)ので、正しい理解がなけれ ば、弾き歌いなどの音楽活動が困難になりかねな い。音楽表現力を向上させるには、音楽の根底に あるテンポを一定に保ちながら、付点リズムを正 しく理解させる必要があるだろう。
学生はまだテンポを一定に保つことに不慣れで あるから、指導者が手拍子などでテンポを示して 補助する必要がある。学生にはそのテンポに合わ せてリズムを刻む練習をさせるのである。その際、
最初からピアノを弾いてリズムを刻ませるのでは なく、まずは手拍子でリズムを刻ませる。この方 がピアノよりも容易である。さらにリズムに合わ せるように、適切な言葉を声に出させながら手拍 子させると、リズムを取るのがもっとやりやすく なる。著者のこれまでの指導経験から、できるだ け多くの感覚を使って練習させると、効果が上が りやすい。慣れてきたら、手拍子をピアノに置き 換えて練習させる。
以上のことを念頭に置いて、まず比較的簡単な ステップ1として片手のみの場合、ステップ2と して両手の場合について、付点リズムの指導法を 述べてみたい。
ステップ1(片手の場合)
子どもの歌や教則本にもよく使用されている、
付点8分音符+ 16 分音符または付点4分音符 + 8分音符のリズムの場合を取り上げよう。3:1 の音価である付点リズムに4文字言葉を当てはめ て行う。但し、正確な付点リズムを理解させるた めには、4文字ともはっきりと発音する言葉を選 ぶ必要があり、「っ」「ん」「―」などの言葉を除 いた4文字言葉を用いると良い。
例えば「おりがみ」という言葉を当てはめる。
但し、感覚的な把握のみにならないよう注意し ながら、一定のテンポで連続して行う。3:1の
㋐ 「おりが み」と声に出しながら、下線部と○印に 音符がくるように手拍子させる。
㋑ 手拍子をピアノに置き換えて弾かせる。
〇
以上を行う際、次のことに注意すると良い。
(1)分割した音価が、単なる音の羅列にならな いよう指導する。また、拍子の重心(強拍と弱 拍、例えば2拍子なら強・弱、3拍子なら強・
弱・弱、4拍子なら強・弱・中強・弱)につい て説明し、拍子を声に出して数える際やピアノ で再現する際に反映させられるよう指導する。
(2)4分割など速い刻みの場合は特に、学生が 確実に認識できているかを指導者が判断する。
学生が認識できていない場合は、速い刻みに言 葉(ドレミファなど)を当てはめ、学生はそれ を声に出しながら行う。
(3)付点リズムを途中に取り入れながら行うと、
「付点リズム」と「音価・拍・拍子」の理解が 結びつきやすくなる。
(4)ソルフェージュのみの指導ではなく、実際 に弾く曲と照らし合わせて実践することが重要 である。
❺練習法
短期間にピアノ演奏の技能を習得し、演奏曲の レパートリーを増やすには、効率的な練習が特に 必要である。長岡
(11)は「本当に愛情のある教授 とは、いかにしてピアノをひくかを教えるより、
いかにしてピアノを練習するかを教えることであ る」と述べているように、練習法を教えることは とても重要であり、角
(12)が「パート練習が確実
㋐
指導者が手拍子などで拍を刻む。学生はその拍に 合わせながら、手拍子で1拍を2分割する。学生 がこの動作になれてきたら、3分割や4分割に変 えて手拍子する。その後、分割をランダムに変え ながら連続して行う。
㋑
㋐をピアノで再現させる。指導者は㋐と同様に行 い、学生にはピアノで弾かせる(2分割ならドレ、
3分割ならドレミ、4分割ならドレミファのよう に)。
㋒
2拍子、3拍子、4 拍子それぞれを学生が1,2…
と数えながら、手拍子で2分割する。学生がこの 動作になれてきたら、3分割や4分割に変えて手 拍子する。指導者は拍の刻みをしない。
㋓
学生は㋒と同様に2拍子、3拍子、4 拍子それぞ れを1,2…と数えながら、手拍子をピアノで再現 する(2分割ならドレ、3分割ならドレミ、4分 割ならドレミファのように)。
音が機械的にならないようリズムの重心について 説明し指導する必要がある。また、㋐と㋑は、ゆ っくりのテンポから始め、最終的に実際に弾く曲 のテンポまで速くする。その際、指導者のテンポ の刻みに合わせるように㋐と㋑を行わせると良い。
ステップ2(両手の場合)
片手はできても、両手になると混乱する場合は、
歌と組み合わせる。一例として、左手は伴奏型で、
右手に付点リズムを含む曲の場合(「バイエルピ アノ教則本第 61 番」など)を取り上げよう。
但し、この場合も歌う時のリズムの重心につい て説明し指導する必要があるだろう。また、㋐㋑
㋒を行う時、指導者がテンポを手拍子で示しなが ら行うと良い。最初は1小節など短い単位で行い、
徐々に長さを伸ばしていく。短く区切ることで、
記憶が容易になり、理解が定着しやすいからであ る。㋑㋒を行う際に、ステップ1のように4文字 言葉を当てはめる(右手パートの音程で歌う)こ とも可能ではあるが、両手で弾くことによって複 雑化するため、ドレミで歌う方が容易に理解でき る。
❹音価・拍・拍子
拍の分割に関する認識不足が影響しているため、
1拍を2分割、3分割、4分割した場合、どのよ うな音価になるのかを理解させる。また、拍を2 拍子・3拍子・4拍子に変えた場合にどのように なるかを学ばせ、音価・拍・拍子の関係性につい て理解させる。
㋐ 左手を弾かせる。このときテンポが一定になるように注意させる。
㋑ 左手を弾かせながら、右手パートをドレミで歌わ せる。左手の音をよく聴きながら行わせることが 重要である。
㋒ ㋑を行いながら、右手も弾かせる。この時、右手を歌に合わせるように行わせる。
な道」と述べているように、部分練習を集中的に 行うことこそ上達への近道であろう。
以下に「大学ピアノ教本第 67 番」を例に取り 上げて、練習法について述べていく。
両手とも8分音符で同時に動く音型の場合(譜例 1)
(13)・多くの学生が躓くところである。両手の動作を 円滑に行えるようにするには、
(1) 短い単位に区切り、暗譜して弾く。
(2) 徐々に単位を長くする。
ことが大切である。このためには、次のように練 習すると良い。
これらを行う時、次のことに注意すると良い。
(1)両手とも動きのある音型では、暗譜して、
鍵盤と指を見ながら弾くとスムーズにいく。
(2)①②③の順でさらうと、より曲の流れが掴
㋐ 譜例1の①を、片手ずつ暗譜してさらい、その後、両手暗譜で弾く。
㋑ ②を㋐のようにさらい、②①を繋げて両手暗譜で弾く。
㋒ ③も㋐㋑と同様に行い、繋げていく。
みやすくなり暗譜も容易になる。
(3)発音した音をよく聴くように指示し、 dolce の音色になっていること、左右の音のバランス が取れていることに注意させ、音楽が自然に流 れるよう指導する。
同音の指変えが左右にある場合(譜例2)
(13)・指の動きが止まりやすい箇所から練習すること が大切である。例えば次のように練習すると良い。
これらを行う時、次のことに注意すると良い。
(1)指の動きが止まってしまう箇所をまず解決 してから、前後を繋げて弾く。小節の繋ぎ目で 途切れないようにする。
(2)弾きながら楽譜が読めない場合は、ⒸⒷⒶ
の順に暗譜しながら繋げると、曲の流れを掴み やすくなる。
(3)フレーズを正しく捉え、左手のスラーを意 識しながら左右のバランスを整えると良い。
㋐ 譜例2の①を弾く。
㋑ Ⓐと次の第1音目までを弾く。
㋒ ②と③を㋐㋑と同様に行い、徐々に繋げる。
( 譜例 2) 「大学ピアノ教本第 67 番」より 13~16 小節
Ⅳ 考察
本研究では、学生の音楽表現力の基礎を育成す るためのピアノ指導において優先すべき項目とし て、❶音楽の捉え方❷聴く力❸付点リズム➍音 価・拍・拍子➎練習法を取り上げた。これらは、
学生の演奏に共通する問題点である。これらの問 題点を改善するには、ただ概念として学生に理解 させるだけでは、十分な効果は得られない。実践 する中で学ばせることが大切である。読譜の基本 となる❸➍を早い段階で確実にすることは当然で あるが、❶から➎全てを同時進行させることによ り、読譜・技術・表現の3つの力を結合させ、音 楽表現力を育てていくのが効率的である。一人一 人の理解度や技能のレベルが異なるため、それぞ れの学生に合った指導を行わなければならないの は言うまでもない。問題点の改善には、何度も繰 り返し根気よく行うことが大切である。
さらに、指導者と学生の信頼関係も、指導の効 果に大きく影響してくる。まだ演奏に満足の行か ない段階で指導者の目前でピアノを弾くことは、
学生にとって緊張することであり不安に感じるこ とでもあるから、練習の成果を十分に発揮するこ とができないかもしれない。学生の不安や緊張が できるだけ軽減されるよう工夫するなど、様々な 場面において、学生の視点に立った指導や教育が 求められるだろう。
以下に5つの課題と改善方法についてそれぞれ 考察する。
❶音楽の捉え方
指の運動面を磨いた後に、指導者の援助により 音楽的な表現を加えていくという指導方法を継続 すると、音楽を感じないで機械的に指を動かす動 作を繰り返すため、その指の動きは音楽とは関係 の無いものになりやすい。また、指導者が音楽表 現を与えることによって、学生の自主性が阻害さ れるだけでなく、表現力も育たなくなる。
学生の多くは、音楽という文章の一字一句を関 連性のないものとして読んでおり、その意味を理 解できていない。例えば、1音1音をばらばらの 音の羅列として捉えていることが多いので、音楽 の楽しさや面白さを感じられないのは当然である。
その結果、意欲を低下させてしまう可能性は十分 にある。
ミクリの言葉
(5)にあるように、音符は歌うとき の音節であり、小節は言葉であり、フレーズは思 想を表現するものであるという点は、音楽的な演 奏をするために必須の事柄とは何かを示している。
音楽表現力の基礎とは、まさに1音1音をばらば らの音の羅列として捉えるのではなく、音のまと まり即ち1つの言葉として捉えることを実践の中 で学ばせることであろう。
指導法の❶音楽の捉え方で述べたように、読譜 のときから音符のひとまとまりを言葉として意識 し、音の意味をよく考えて指を動かすことは、音 楽を捉えるための第一歩である。フレーズを意識 し句読点を明確にすると、言葉が繋がり1つの文
①
Ⓒ
(次の第 1 音目まで)
Ⓐ Ⓑ
② ③
(譜例1) 「大学ピアノ教本第 67 番」より1~4小節
(譜例2) 「大学ピアノ教本第 67 番」より 13 ~ 16 小節
6 とこそ上達への近道であろう。
以下に「大学ピアノ教本第 67 番」を例に取り上 げて、練習法について述べていく。
両手とも8分音符で同時に動く音型の場合 ( 譜例 1 )
(13)・多くの学生が躓くところである。両手の動作を 円滑に行えるようにするには、
( 1 ) 短い単位に区切り、暗譜して弾く。
( 2 ) 徐々に単位を長くする。
ことが大切である。このためには、次のように練 習すると良い。
㋐ 譜例1の①を、片手ずつ暗譜してさらい、そ の後、両手暗譜で弾く。
㋑ ②を㋐のようにさらい、②①を繋げて両手暗 譜で弾く。
㋒ ③も㋐㋑と同様に行い、繋げていく。
これらを行う時、次のことに注意すると良い。
(1)両手とも動きのある音型では、暗譜して、鍵 盤と指を見ながら弾くとスムーズにいく。
(2)①②③の順でさらうと、より曲の流れが掴み
(3)発音した音をよく聴くように指示し、 dolce の 音色になっていること、左右の音のバランスが 取れていることに注意させ、音楽が自然に流れ るよう指導する。
同音の指変えが左右にある場合 ( 譜例2 )
(13)・指の動きが止まりやすい箇所から練習すること が大切である。例えば次のように練習すると良い。
㋐ 譜例2の①を弾く。
㋑ Ⓐと次の第1音目までを弾く。
㋒ ②と③を㋐㋑と同様に行い、徐々に繋げる。
これらを行う時、次のことに注意すると良い。
(1)指の動きが止まってしまう箇所をまず解決し てから、前後を繋げて弾く。小節の繋ぎ目で途 切れないようにする。
(2)弾きながら楽譜が読めない場合は、ⒸⒷⒶの 順に暗譜しながら繋げると、曲の流れを掴みや すくなる。
(3)フレーズを正しく捉え、左手のスラーを意識 しながら左右のバランスを整えると良い。
( 譜例1 ) 「大学ピアノ教本第 67 番」より1~4小節
①
②
③
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Ⅳ 考察
本研究では、学生の音楽表現力の基礎を育成す るためのピアノ指導において優先すべき項目とし て、❶音楽の捉え方❷聴く力❸付点リズム❹音 価・拍・拍子❺練習法を取り上げた。これらは、
学生の演奏に共通する問題点である。これらの問 題点を改善するには、ただ概念として学生に理解 させるだけでは、十分な効果は得られない。実践 する中で学ばせることが大切である。読譜の基本 となる❸❹を早い段階で確実にすることは当然で あるが、❶から❺全てを同時進行させることによ り、読譜・技術・表現の3つの力を結合させ、音 楽表現力を育てていくのが効率的である。一人一 人の理解度や技能のレベルが異なるため、それぞ れの学生に合った指導を行わなければならないの は言うまでもない。問題点の改善には、何度も繰 り返し根気よく行うことが大切である。
さらに、指導者と学生の信頼関係も、指導の効 果に大きく影響してくる。まだ演奏に満足の行か ない段階で指導者の目前でピアノを弾くことは、
学生にとって緊張することであり不安に感じるこ とでもあるから、練習の成果を十分に発揮するこ とができないかもしれない。学生の不安や緊張が できるだけ軽減されるよう工夫するなど、様々な 場面において、学生の視点に立った指導や教育が 求められるだろう。
以下に5つの課題と改善方法についてそれぞれ 考察する。
❶音楽の捉え方
指の運動面を磨いた後に、指導者の援助により 音楽的な表現を加えていくという指導方法を継続 すると、音楽を感じないで機械的に指を動かす動 作を繰り返すため、その指の動きは音楽とは関係 の無いものになりやすい。また、指導者が音楽表 現を与えることによって、学生の自主性が阻害さ れるだけでなく、表現力も育たなくなる。
学生の多くは、音楽という文章の一字一句を関
連性のないものとして読んでおり、その意味を理 解できていない。例えば、1音1音をばらばらの 音の羅列として捉えていることが多いので、音楽 の楽しさや面白さを感じられないのは当然である。
その結果、意欲を低下させてしまう可能性は十分 にある。
ミクリの言葉
(5)にあるように、音符は歌うと きの音節であり、小節は言葉であり、フレーズは 思想を表現するものであるという点は、音楽的な 演奏をするために必須の事柄とは何かを示してい る。音楽表現力の基礎とは、まさに1音1音をば らばらの音の羅列として捉えるのではなく、音の まとまり即ち1つの言葉として捉えることを実践 の中で学ばせることであろう。
指導法の❶音楽の捉え方で述べたように、読譜 のときから音符のひとまとまりを言葉として意識 し、音の意味をよく考えて指を動かすことは、音 楽を捉えるための第一歩である。フレーズを意識 し句読点を明確にすると、言葉が繋がり1つの文 章ができ上がる。さらに、曲中の規則性や類似性、
展開や再現などの構造を読み取り、それぞれの意 味を考えれば、楽譜を文章として捉えることにな る。
こうすることで、無意味な指の動きを抑えられ るだけでなく、読譜や暗譜も効率的に行える。さ らに、演奏を朗読と捉えると、自然とフレーズも 生まれやすい。語りかけるような気持ちで曲を再 現することで、それぞれの箇所に相応しい音や表 現に気づくことができるのである。勿論、音や表 現に専門性を要求しているわけではない。
このように、音楽の捉え方を学べば、学生自ら が音楽性や音楽表現に繋げていくことができる。
音楽を正しく捉えることにより、「ピアノで歌う」
ことが次第にできるようになるのである。勿論、
学生にとって音楽を正しく捉えることは容易では
ないが、「音楽の捉え方」の指導が、音楽を理解
するきっかけとなれば、意味のあるものになるだ
ろう。
❷聴く力
音楽表現力を向上させるには、まずは音を「聴 く」ことが第一である。「聴く」を可能にするに は、訓練が必要になる。音楽に込められた言葉を 理解しようとする姿勢がなければいけないし、理 解できるための知識も必要であり、何よりも音を 聴き分ける能力を持たねばならない。そのための 第一歩は、学生が自身で出した音を意識して聴く よう努力することだろう。イメージなしに弾いた 音を聴いたとしても意味がない。指の動きにばか り神経が集中したために、最も大切な、音や音楽 に対するイメージや表現が失われているからであ る。音楽のその箇所に相応しい音とは何かを考え させ、イメージした音を再現できているか学生自 身に判断させることが重要である。
しかしながら、初歩の学生にはより良い音とは 何かが分からないであろうから、指導者の補助が 必要になる。指導者の音と学生の音を比較させ、
音の違いに気づかせることも必要である。意図し た音を再現できているか集中して聴く習慣をつけ させることで、初めて聴く力を習得させることが 可能になるのである。
16 分音符などの速い音型の場合には、細部ま で認識することは学生には難しいかもしれない。
そのような場合には、ピアノではなく声に出して みると良いだろう。ピアノよりはずっとやりやす いし、誤りにも気づきやすい。何より細部が分か っていなければ声に出すこともできないから、速 い音型の理解に役立つ。理解が進めば、速い音型 でも集中して聴くことができるようになるし、指 への指令も伝わりやすくなるから、ピアノの演奏 にも好影響がもたらされるだろう。聴く力が付け ば、音楽表現力を向上させようという自主性も生 まれてくる。
ツィーグラー
(14)が、ピアノ奏法について「音 を『心で聴く』(精神的・心情的に聴く)ことに より、肉体的弛緩と正しい動きが得られ、理想的 な音が出せる」と述べると共に、「理想的な音の イメージを発達させることがピアノ教授の際の第 一課題である」と述べ、山岸
(15)が「初心者には、
まず指導者が理想音を示し、それを真似させるこ とから始める」と述べている通り、指導者が理想 音を熟知しそれを再現できることは、学生の聴く 力を育てるための大前提であることは言うまでも ない。理想音に近づくよう学生を導くことで、そ れを聴き取る耳を育てていくことが大切であろう。
❸付点リズム ❹音価・拍・拍子
保育の現場で取り上げられる子どもの歌には、
付点リズムが多く使用されている
(4)上に、様々 な拍子が現れるので、「付点リズム」や「音価・
拍・拍子」の理解なしには、音楽を演奏すること はできない。ところが、音符は直ぐに読めても
「付点リズム」や「音価・拍・拍子」を完全に理 解するのに時間を要する学生は多い。音楽を演奏 する際に楽譜通りに正しく実行するのが難しいか らであろう。
指導法の❸付点リズム、❹音価・拍・拍子で示 したように、付点リズムや拍子の練習は、初めは ピアノで行うよりも手拍子の方がやりやすい。手 拍子が正しくできるようになってからピアノで行 わせる方が良い。手拍子のとき、リズムに合わせ て言葉を声に出すと、さらにやりやすくなる。著 者の指導経験では、いくつかの感覚を同時に使っ て練習すると効果が現れやすいからである。勿論、
これらの練習を学生だけで行うのは難しいので、
指導者が手拍子などで一定のテンポを示して補助 し、学生はそれに合わせて練習するのが良いだろ う。また、一度に何小節も通して練習するのでは なく、最初は1小節など短い単位で行うと、記憶 内容が少ないので、理解もしやすくなる。慣れて きたら徐々に長さを伸ばしていく。付点リズムや 音価・拍・拍子は音楽の基本であるから、習得に は何度も根気強く練習することが大切である。
山岸
(16)が「音楽が生きるか死ぬかは、リズム
のとり方できまる」と述べているように、リズム
感の良い演奏になるよう導くためには、リズム教
育に力を入れることが重要であろう。これは一提
案であるが、体育の授業などでリズムと拍の分割
を体感して学べるような試みを行ってみたい。今
回述べた改善方法は、あくまで一つの考え方であ り、「付点リズム」や「音価・拍・拍子」の理解 は読譜力や技術力だけでなく、音楽表現力にも大 きく影響するため、さらなる研究が必要である。
❺練習法
練習を適切に行わなければ上達は遅くなる。多 くの学生に見られる通奏ばかり行う練習は良い練 習とは言えない。できていない箇所の練習が疎か になるからである。同じく学生の多くが陥りやす いテンポの速過ぎる練習では、当然失敗を多く繰 り返すことになるから、間違えずに弾ける回数は 少なく、上達は見込めない。下手をすると、間違 える癖を付けているようなものである。一方、良 い練習とは、できていない箇所を入念に繰り返し 練習することであり、失敗を繰り返さないよう遅 いテンポで練習することである。テンポが遅いか ら、指の動きに気を取られることが少なくなり、
自身が出している音に注意を向ける余裕も生まれ る。自身の音を聴かなければ、音楽表現力を向上 させることはできないのである。従って、練習量 もある程度は必要であるが、量より質を重視した 方が良いだろう。
指導法の❺練習法では、多くの学生が躓く場合 として2つの例を取り上げた。1つは、両手とも 8分音符で同時に動く音型の場合であり、両手の 動作を円滑に行えるようにするための練習法を述 べた。もう1つは、同時の指変えが左右にある場 合であり、指の動きが止まりやすい箇所の練習法 である。
いずれの場合にも、できていない箇所の練習で は、特に、短く区切って練習するのが良いだろう。
練習する部分が短いので暗譜しやすくなる。暗譜 すれば鍵盤を見ながら弾くことができるし、自分 の指の動きも良く分かるから、細かい部分にも注 意が行き届く。自身の出した音を聴くこともでき るようになる。理解を定着させやすいので、初級 者レベルの学生に向いていると思われる。
また、指導法の項で述べたように、あるフレー ズを練習する際、後半部分から始めて、慣れてき
たら順次前の部分から始め、後半の部分と繋げて 弾くと把握しやすくなる場合もある。これは、日 本語の文章の述語にあたる最後の部分を読んでか ら、それを修飾する言葉を理解することに類似し ている。曲の流れが掴みやすくなり、1音1音を ばらばらの音の羅列としてではなく、言葉として 捉えることができるようになる。
練習には様々な方法が存在する中で、今回の練 習法は一提案であり、学生の状況に合わせた指導 をその都度行うことが重要である。
その他の課題
今回、指導法に取り上げなかった事項として、
「指使い」がある。「指使い」は弾きやすさや音楽 の流れに影響するため、適切に設定することが重 要である。楽譜によっては初級者向けに書かれた 指使いもあるが、臨機応変に対応すべきである。
また、「親指の使い方」に関しては、親指をくぐ らせる際に、手首や腕を上下させないことも大事 であるが、親指をしっかり曲げることを徹底すれ ば自然とテンポやレガートさ、ミスタッチを改善 しやすい。初級者には、いったん鍵盤から手を離 した状態で、手のひらを上に向けて親指の曲げ方 を指導すると良い。親指が上手く使えると他の指 の動きにも良い影響があるため、早い段階から指 導すると良いだろう。
保育における音楽教育は、保育現場によって重 視する内容や方法が異なるであろうが、養成校の 指導者が実際の保育現場を複数見学するなどし、
その実態をもっと具体的に知る必要があるのでは ないだろうか。佐橋
(17)が、「養成教育であるか らには、基礎ではなく、卒業後の保育に真に間 に合い、役立つ必要がある。」と述べている通り、
現場で求められる能力を、養成校の指導者自身が
肌で感じることが、真に間に合い役立つ教育への
第一歩に繋がるのではないだろうか。
Ⅴ 結論
本研究では、保育者養成校におけるピアノ指導 法を考察した。保育音楽に必要なピアノ技能を習 得させ、かつ音楽表現力の基礎を育成するために 欠かせない事柄として、❶音楽の捉え方❷聴く力
❸付点リズム❹音価・拍・拍子❺練習法の5つの 課題を取り上げ、それぞれの課題ごとに、その改 善のための指導法を提案した。ピアノ指導の中で 効率的に読譜・技術・表現が結びつくことを重視 するところに、今回の指導法の特徴がある。
養成校の学生たちが将来、保育の現場に立った 時、独習できる読譜力を持ち、音楽表現力を十分 発揮できるよう指導・教育することが、われわれ 指導者の使命であるが、養成校の教育には課題が 山積している。今後どのような指導・教育を行う べきかさらに研究を重ねていきたい。
引用・参考文献