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コミュニティ再生と犯罪統制 ―集合的効力(collective efficacy)をめぐって―

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コミュニティ再生と犯罪統制

―集合的効力(collective efficacy)をめぐって―

山 内 宏太朗

0

渡 邉 泰 洋

1

守 山   正

2

1.はじめに

2.犯罪不安感の現状

3.集合的効力と犯罪不安感解消

4.子どもに対する集合的効力~サンプソンらのシカゴ調査 5.コミュニティの日常的安全性

6.おわりに

1.はじめに

 世界的な傾向として、特に先進諸国の動向では、統計上犯罪は大きく減 少傾向にありながら、住民の不安感は必ずしも改善しておらず、犯罪傾向 と不安感の乖離現象が生じている。具体的には、わが国と同様イギリスで も、犯罪統計は犯罪減少傾向にあるが、犯罪調査ではむしろ犯罪は増えて いると実感している人が少なくなく、またわが国でも犯罪は減少している が不安感は必ずしも低下していない。一般に、犯罪が減少すれば被害に遭 遇したり犯罪の発生を見聞きしたりする機会も減少するから、不安感は低

1  本学非常勤講師

2  拓殖大学政経学部教授

(2)

下し、逆に安心感は増大すると考えられるが、現実の実態は異なっている。

そこで、この謎を巡って各種の分析が試みられている。

 本稿では、主として犯罪社会学において近年注目されている概念「集合 的効力(collective efficacy)」論

3

、副次的には「シグナル犯罪」論を用いて 犯罪不安感がコミュニティに与える影響とその対応策について分析を試み るものである。まず、「集合的効力」は新シカゴ学派の旗手ロバート・J・

サンプソン(Robert J. Sampson)らが生み出した概念であり、これを基に 地域社会における犯罪統制のあり方が議論されてきた。とくに都市コミュ ニティの犯罪問題への対応を解く鍵として多くの論者が種々の実証調査や 理論研究を行い

4

、その概念の有効性を主張している。また、マーティン・

インズ(Martin Innes)が唱える「シグナル犯罪」論は、犯罪発生件数と犯 罪不安感のギャップを説明する一要素として、最近イギリスを中心に注目 を浴びている。これら2つの概念は、わが国における犯罪不安感への対応 でも利用可能であって、そこで、本稿では集合的効力の意義・展開、シグ ナル犯罪論の有効性について概観した上で、両概念を用いて、コミュニティ における犯罪統制のあり方について検討したい。

3  ‘collective efficacy’の訳語については、「集合的効力感」がしばしば使用されているが

(たとえば、島田貴仁「住民の相互信頼は犯罪を抑制するか:集合的効力感からのアプ ローチ」青少年問題638号 (2010)p.14-19.)、しかし、もともとのサンプソンらの定義 は「共通善のために介入しようという意思と結びつけられる近隣住民間の社会的凝集 性」(Robert J. Sampson, Stephen Raudenbush and Felton Earls (1997) Neighborhoods  and Violent Crime: A Multilevel Study of Collective Efficacy, Science no.277, pp.918- 924.)、とか、「集団ないしコミュニティが集合的に達成したいと望むことを達成する組 織的能力」(Robert J. Sampson (2004) Networks and Neighborhoods: The Implications  of Connectivity for Thinking about Crime in the Modern City, Network Logic: Who  Governs in an Interconnected World? p.106.)などと表現され、必ずしも感情や感覚で はないことから、本論では「集合的効力」という訳にとどめる。いわば、わが国でしば しば使用される「地域力」、もっといえば「地域の問題解決力」という語感に近いよう に思われる。

4  collective efficacyに関連する諸外国の調査としては、サンプソン(とそのグループ)

以外では、Ian Brunton-Smith and Patrick Sturgis (2011) Do Neighborhoods Generate  Fear of Crime? An Empirical Test Using the British Crime Survey, Criminology vol.49,  no.2, pp.331.  ほか、いくつかの文献が散見される。

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2.犯罪不安感の現状

(1)犯罪傾向と犯罪不安感の乖離

 わが国では、統計からみると、1990年代後半から急激に刑法犯認知件数 が増加し、2002年には戦後最高の約370万件を記録した。しかし、2003年 に減少に転じた後、一貫して減少を続け、2013年では約192万件となり、

1981年以来32年ぶりに200万件を下回った。認知件数の統計だけを見れば、

かつての「治安のよい国」に戻ったのである。前述のように、一般に、実 態として犯罪が減少すれば被害体験や犯罪情報に接する機会も減少するか ら、人々の犯罪不安感は低下すると考えられる。ところが、わが国で実施 された直近の各種治安調査(表1参照)では、人々の不安感はいずれの調 査でも統計上の犯罪減少と連動しておらず、一部の事項では不安感が増大 するなど、総じて人々の不安感は一貫していない点が看取される。この問 題はいわゆる「安全と安心の乖離」問題としてわが国では議論されている が

5

、その要因については十分に分析されているとはいえない。

 統計的にみれば、政府とくに警察機関は、2002年の刑法犯認知件数が戦後

最高を記録して以来、種々の活動により犯罪対策に成果を上げてきたといえる

が、しかし、他方で、このように不安感が低下しない状況では、不安感低減

に向けた新しい方策を模索する必要があるように思われる。というのも、この

まま犯罪不安感を放置すれば、怯えながら日常生活を送らざるを得ず、それは

人々の「生活の質(quality of life)」を脅かすものだからである。また、犯罪不

安感の放置は、住民による警察や地方自治体の治安対策部門などの公的機関

への批判にも繋がる可能性がある。それは、「正当性(legitimacy)」への疑念

を抱かせ、警察などへの信頼感を低下させ、場合によっては、犯罪者への恐

5  守山正・河合潔・河合幹雄・小島隆矢「座談会『犯罪現象と住民意識』~犯罪不安は どこから来るのか」犯罪と非行176号(日立みらい財団)(2013年)18~65頁。なお、守 山正「近年の犯罪傾向と体感治安の乖離~なぜ不安はなくならないのか」改革者2013年 1月号(政策研究フォーラム)(2013)52~56頁参照。

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怖や怒りから、過剰な厳罰化や公的統制強化の要望に至ることも考えられる。

表1 近年の治安調査の概要 東京都調査

(2011年) 警視庁調査

(2012年) 内閣府調査

(2012年)

回答者数 2,009名 954名 1,956名 調査手段 個別訪問面接 インターネット 個別訪問面接

質問項目と回答の特徴

日本は安全な国か そう思う  59.7%

そう思わない39.4%

治安傾向の認識 悪くなった 33.2%

比較的   28.1%

よくなった 15.1%

悪くなった 33.9%

比較的   28.2%

よくなった 27.0%

悪くなった 81.1%

比較的   52.6%

よくなった 15.8%

犯罪被害の不安 不安を感じる53.1%

感じない  46.7% 不安を感じる77.3%

感じない  22.7%

治安悪化と感じる

理由 ①マナー悪化

②不審者遭遇

③ニュース見聞

①ニュース見聞

②マナー悪化

③ネット有害情報

① 地域の連帯意識

②景気の悪化希薄

③情報の氾濫 不安な場所 ①路上

②繁華街③インターネット

①繁華街②路上

③インターネット 不安な犯罪 ①空き巣

②ひったくり

③通り魔

①侵入盗②ひったくり

③凶悪犯罪

①侵入盗②すり・ひったくり

③暴行・傷害 取締り要望の強い

犯罪 ①交通犯罪

②凶悪犯罪

③粗暴犯罪 取組み要望の強い

措置 ①防犯カメラ

②照明灯③防犯パトロール

①警察官パトロール

②防犯カメラ

③少年の規範化 出典:守山 正ほか、前掲論文(2013)27頁。

 また、犯罪不安感とコミュニティの関係性にも目を向ける必要がある。

なぜなら、犯罪発生率がコミュニティごとに異なるのと同様に、犯罪不安

感も地域性があり、アメリカ社会にみられるように犯罪不安感の高いコ

ミュニティの住民は居住安定性が低く、経済的に可能であれば、他のコミュ

ニティに移住しようとして、地域への密着性や愛着に乏しく、その結果、

(5)

社会統制が弱化することが考えられる。実際、後述するように、このよう なコミュニティでは、社会的紐帯が弱まり、旧シカゴ学派が指摘した社会 解体(social disorganization)状況に陥り、地域社会が崩壊したり衰退し たりする。したがって、犯罪不安感は、単に個人のみならず、コミュニティ 全体にも非常に大きな否定的な影響を及ぼす可能性がある重要な問題であ る。そこで、犯罪不安感対策を長年考察してきたアメリカの犯罪社会学の 研究、とくにサンプソンらが主張する集合的効力などの考えが参考となる。

(2)「犯罪不安感」論の現状

 1980年代以降、犯罪不安感(fear of crime)は欧米の犯罪学文献におけ る主要なテーマとして議論されてきた。そして、不安感の原因と結果に関 する実証分析が盛んに行われ、調査対象者として重大な不安レベルを示し た個人や集団、さらには地域の特性が明らかにされてきた。例えば、社会 統計学的特性である年齢、性別、社会階級を関数とする被害脆弱性

(vulnerability)の重要性が指摘され、あるいは直接間接の被害経験、メディ ア報道の影響などが研究対象とされてきた。

 本稿は、むしろシカゴ学派が1930年代に主張した「社会解体(social  disorganization)」の概念を用いて、マクロ的に犯罪不安感に対する地域 コミュニティの特性の影響に焦点を当てる。なぜならば、犯罪不安感は個 人によって大きな相異があり、犯罪対策としては個別に対応することは困 難であって、むしろ集合的な犯罪への反応としての犯罪不安感を問題とし た方が、より効果的な対策が可能だからである。これは、わが国ではしば しば、 「体感治安」

6

として議論されている。つまり、この問題はコミュニティ

6  「体感治安」はもともと治安が悪化した1990年代、警察庁が使用したことに始まる。

ただ、その定義自体きわめて曖昧であるが、われわれの理解では、犯罪不安感が個人を 単位とするのに対して、体感治安は集合的な地域単位の状況を示すものと考える。一般に、

「この地域は治安がよい」とは言うが、「うちの家は治安がよい」とは言わず、その意味 でも集合性が示されているからである。

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の安全と安心の問題に還元されるのである。

(3)コミュニティとシカゴ学派

 コミュニティと犯罪の関係性についてはシカゴ学派の研究に着目した い。なぜなら、犯罪に関するコミュニティ研究として、シカゴ大学社会学 部は伝統と歴史を保持しているからである

7

。その中心は、犯罪や非行の要 因をコミュニティの状況に求めた社会解体理論であった

8

。もっとも、その 後、シカゴ学派の研究調査にはさまざまな批判も加えられ、現在は、むし ろ新シカゴ学派の研究が注目されている。その代表が、言うまでもなくサ ンプソンらの研究である。彼は旧シカゴ学派の社会解体理論を継承しなが らも、今日のコミュニティの特性がどのように犯罪や無秩序と関連してい るかについて新しい視点を提供している。したがって、本稿ではとくにサ ンプソンらの研究に焦点を当てる。

 犯罪学史上、20世紀初頭まで、特にヨーロッパを中心として、「なぜ人 は犯罪を行うのか」という問いに対して、出生前の先天的要因に目を向け る生物学的犯罪原因論や出生後の後天的要因に目を向ける心理学的犯罪原 因論が主張されてきた。先天的にせよ後天的にせよ、個人的要因を重要視 していたのである。そのような中、クリフォード・ショウとヘンリー・マッ ケイの研究は大きな転換点をもたらした

9

。というのも、個人的要因が主要 な犯罪原因であるのならば、特定地区の犯罪者・非行少年の転出に伴い犯 罪多発地域も移動するはずであるのに、人種構成が大きく変わるほどの人

7  シカゴ学派が形成されるのは1920年代であり、当時のシカゴ市の犯罪状況に対応する ために、都市生態学を中心に種々の社会学調査が行われ、シカゴ市は「壮大な社会の実 験場」とまで称されたほどであった。その詳細については、G.B.ヴォルド、T.J.バーナー ド(著)、平野龍一、岩井弘融(監訳)『犯罪学:理論的考察』東京大学出版会(1990)

参照。

8  ヴォルド、前掲書。

9 Clifford R. Shaw et al.,(1929) Delinquency Areas, Chicago: University of Chicago Press.

   Clifford R. Shaw and Henry D. Mckay(1942) Juvenile Delinquency and Urban Areas,  Chicago: University of Chicago Press.

(7)

口変動がありながら、特定地区は常に犯罪が多発しつづけていたからであ る。そこでショウとマッケイは、個人的要因よりもむしろ地域的要因が犯 罪に密接に結び付くということを支持した。このようにして、コミュニティ の特性と犯罪の関係がシカゴ学派を中心に研究されるようになったのであ る。

 ショウは、地域と非行に関する研究を推進するのと同時に、地域に根ざ した地域住民・組織による少年非行予防プログラムの実施にも携わる。そ れが、シカゴ・エリア・プロジェクト(Chicago Area Project(以下CAP と記す))である

10

。CAPは1934年に、ショウが設立した少年非行予防プロ ジェクトの名称であり、民間組織によって推進された。CAPの基本的な 考え方は、コミュニティの生活を改善することで少年非行を減らすことが でき、少年非行、少年ギャング、薬物乱用といった地元の問題は、コミュ ニティの外部の者によるのではなく、コミュニティのメンバー自身が解決 に向けて携わるべきであるというものであった

11

。基本的には、草の根の 活動を重視しており、コミュニティ内の学校、教会、地域組織間のネット ワークを結び、コミュニティを再生することで、少年の健全な発達や少年 非行予防を果たす。つまり、ショウの視点は、コミュニティの非公的社会 統制を重視するものである。もっとも、CAPはその効果について疑問が 呈され、個人の犯罪原因に焦点を当てるアノミー論や分化的接触理論の台 頭によりコミュニティと犯罪の研究は下火になった。

 そのような状況で、再度、コミュニティと犯罪の関係に着目するきっか けとなったのが、シカゴ大学のルース・R・コーンハウザー(Ruth R. 

Kornhauser)が1978年に公刊した『非行の社会的原因(Social Sources of 

10  CAPは現在も継続している(http://www.chicagoareaproject.org/)。CAP関連の文

献として、玉井眞理子「米国における子どもの貧困と福祉的支援~クリフォード・R・

ショウによる地域福祉の理念と方策」教育社会学研究第92集(2013)がある。

11  About Chicago Project (http://www.chicagoareaproject.org/about-us).

(8)

Delinquency)』である

12

。この書籍の中で、コーンハウザーは、当時支配 的であったアノミー論や分化的接触理論を批判し、社会解体理論を支持し た。特に、コミュニティの構造・文化がその住民の価値を表現できず、そ の結果、共通した明瞭な非犯罪的価値や統制をできない場所は、社会解体 が生じていると主張した

13

。また、コミュニティが非公的社会統制を行使 する力を有していないとき、少年非行が発生すると指摘している

14

(4)サンプソンらの研究

 このようなコーンハウザーの業績を再認識させ、コミュニティと犯罪と の関係性についての研究を再活性化させたのは、サンプソンらの研究グ ループである

15

。上述のように、ショウとマッケイの研究以降、犯罪とコミュ ニティに関する種々の研究がなされ、社会的不利条件の集中したコミュニ ティ(community concentrated disadvantages)、つまり低い社会経済的な 地位や居住の不安定性が犯罪と関連することが指摘されてきた。もっとも、

その社会的プロセス、つまりどのようにしてそのような状況に至ったのか、

そのメカニズムに言及する研究はみられなかった。そこで、サンプソンら は、その社会的プロセスに着目し、「集合的効力(collective efficacy)」概 念を提唱したのである。集合的効力とは、前に記したように、共通善

(common good)のために介入するための意欲(willingness)と結び付け られる近隣住民間の社会的凝集性(social cohesion)と定義されている

16

12  コーンハウザーがサンプソンに与えた影響については、J・ロバート・リリーほか(著)、

影山任佐(監訳)『犯罪学(第5版)―理論的背景と帰結』金剛出版(2013)64~65頁。

13  Ruth R. Kohnhauser (1978) Social Sources of Delinquency, Chicago: University of  Chicago Press..

14  Brendan Dooley and Sean Goodison (2014) 'Ruth Rosner Kornhauser' in Oxford  Bibliographies, (http://www.oxfordbibliographies.com/view/document/

 obo-9780195396607/obo-9780195396607-0158.xml#obo-9780195396607-0158-div1-0003).

15  R. J. Sampson, et al. (1997) op.cit., pp.918-924.サンプソンらの論文では、community という用語ではなく、代わりに近隣地域(neighborhood)が用いられている。これに ついて、サンプソンは、communityはきわめて曖昧な用語であるとしている。

16  Ibid., p.918.

(9)

 サンプソンらの主張は、個人の人口統計学的特性よりも、近隣の社会的 組織的特性が犯罪率の変化を説明できるというものである。また、近隣地 域が住民の共通の価値を実現し効果的な社会統制を維持する応差的能力が その地域の暴力犯罪の変化の主要な原因であると指摘する。特に、警察活 動や厳格な法執行などの公的統制よりも、住民自身が公共の秩序を維持し ようとする非公的統制(informal social control)を重要視する。具体的に は、児童の見守りであったり、少年の怠学を予防したり、公共空間で秩序 を乱す者に注意したりすることである。このように、社会的無秩序を統制 するための住民の可視的な能力は、近隣地域における犯罪機会に影響を及 ぼす重要なメカニズムとされる。

 このような非公的社会統制はすべての地域で一律同様に存在するのでは なく、近隣地域ごとに差異がある。近隣レベルで、共通善のために介入す るための地域住民の意思は、住民間の相互信頼(mutual trust)と連帯

(solidarity)の結びつきに依存するという。たとえば、規則が不明確で人々 が他者を信頼せず不安に思っているような近隣に住む者は、共通善のため に介入しようとは思わないからである。集合的効力が地域ごとに異なると しても、どのような要素が集合的効力に影響を及ぼすのか。そこで、サン プソンらは、集合的効力を高めるものとして、一つに居住の安定性を指摘 する。というのも、非公的な社会統制を行使するための社会的紐帯(social  ties)は、住民の入れ替わりが激しく流動性の高い地域では、形成しにくく、

したがって、非公的社会統制を行使するためには居住の安定性が高い方が 望ましいとされる。また、低い社会経済的地位も集合的効力に関係する。

人種的経済的に差別される民族少数派、貧困、単親世帯など、人種的経済 的に社会から排除された者は、集合的効力の阻害要因とされる。

(5)「集合的効力」調査

 このような前提のもと、サンプソンらは、1995年、シカゴ市を343箇所

(10)

の近隣群(neighborhood clusters)に分け、8,782人の住民にインタビュー 調査を実施した。「非公的な社会統制」を測定するために、5段階リッカー ト尺度を用いて、次のようなアンケートの質問が住民になされた。 ①子 どもが学校をさぼり街頭をうろついていた場合、②子どもが建物にスプ レーで落書きをする場合、③子どもが成人に無礼な態度を示している場合、

④自宅前で喧嘩が発生している場合、⑤自宅に最も近い消防署が予算削減 の脅威にさらされている場合、「近隣住民が多様な方法で介入すると期待 される可能性(likelihood)」がどれくらいあるか、その程度を聞いている。

また、「社会的凝集性と信頼(social cohesion and trust)」についても、次 の事柄についてどれくらい同意するかを質問している。①この周辺の人々 は近隣住民を進んで手助けする、②ここは結束の強い近隣である、③この 近隣の人々は信頼に値する、④この近隣の人々は、通常、お互いにうまくやっ ていない、⑤この近隣の人々は同じ価値を共有していない、などである。

 サンプソンらは、近隣地域のために介入する意欲と意思(willingness  and intention)が相互信頼と凝集性(mutual trust and cohesion)の条件 下で強化されると考え、この2つの尺度を「集合的効力」と名付けたので ある。ここでは、10個の変数(貧困、人種、少数民族、移民、労働市場、

年齢構成、家族構成、家屋所有形態、居住安定性)を用いて、集合的効力 と暴力犯罪(暴力犯罪発生の認識、暴力犯罪の被害経験、殺人の発生件数)

の関係性を分析した。

 その結果、サンプソンらは、社会経済的地位、持ち家率、年齢が高いと 集合的効力が高くなること、居住の流動性が高いと集合的効力が低くなる こと、ジェンダー、民族は集合的効力に関連しなかったこと、近隣レベル で個人的背景が統制されると、不利条件や移民の集中が集合的効力に有意 に関連すること、集合的効力が高いと暴力犯罪が低くなることを発見した。

 このように、サンプソンらは、シカゴ学派の社会解体理論の流れを汲み

(11)

つつも、集合的効力概念を用いて、コミュニティの特性(貧困、人種、居 住の不安定性など)と犯罪の間のメカニズムを解明した(図1参照)。そ して、この集合的効力は、犯罪だけではなく、秩序違反(disorder)や犯 罪不安感(fear of crime)と子どもの見守り活動との関係性、あるいは割 れ窓理論や社会統制理論と自己効力概念との関係性などの問題に関し、そ の後、犯罪学の分野だけでも多くの適用例がみられた。

図1 サンプソン「集合的効力(collective efficacy)」構造

出典: Robert  Sampson,  How  Does  Community  Matter?  :  Social  Mechanisms  and  the  Explanation of Crime Rates, in P-O.H. Wikström and Robert J. Sampson(2006) The  Explanation of Crime, p.44. 

3.集合的効力と犯罪不安感解消

(1)集合的効力の意義と種類

 凝集性の高いコミュニティは、都市であれ地方であれ、高いレベルの社 会統制と社会統合を伴っており、ここでは人々は相互に知悉し、個人間の 強い紐帯を結び、いわゆる「集合的効力」を発達させているとされる。こ の集合的効力の要素としては、相互信頼、(余所の)子どもの監督、公共

コミュニティ間 地域を超えた連結過程

集合的効力

組織・市民構造

日常生態・行動環境

犯罪・無秩序 人種差別

資源の層化

空間的近接性 社会的紐帯・交換の

密度

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秩序の維持への介入意思などが挙げられる。この集合的効力を促進するの が住民間の凝集性であり、これは公共空間の非公的な社会統制に対する共 通した期待感と結びついているという。このように集合的効力が発展した コミュニティでは、高いレベルの教育、ヘルス・ケア、住宅の獲得機会が 揃っており、住民の犯罪不安感を左右する「生活の質」が高い。したがっ て、犯罪学的に問題なのは、集合的効力が弱いか、欠如しているコミュニ ティであり、いわゆる社会解体が進んでいるコミュニティである。このよ うなコミュニティに居住する人々は、自ら居住環境を否定的に知覚する傾 向にあり、当然ながら、非公的な社会統制も行われず、犯罪率も上昇し、

近隣社会の紐帯も弱化する。このように、集合的効力はコミュニティの犯 罪状況を占う鍵概念である。

 ラリー・シーゲル(Larry Siegel)は、集合的効力の3つの形態、つま り非公的社会統制(informal social control)、組織的社会統制(institutional  social control)、公的社会統制(public social control)を識別する

17

。但し、

本家のサンプソンは集合的効力の機能する領域を非公的社会統制に限定し ている点には注意を要する。以下では、シーゲルの分類をみてみよう。

①非公的社会統制

 集合的効力の要素の一つは、いわゆる一次的機関、私的レベルの機能で あり、これには仲間、家族、親族などが含まれる。これらの人々によって、

承認、敬意、賞賛といった肯定的評価と批判、揶揄、追放・疎外、遺棄、

体罰などの否定的評価や行動が加えられ、人々の行動を統制するのが非公

的社会統制である。この中で、最も重要な行使者は家族である。家族は怠

惰で危機にさらされたわが子に体罰を与え、褒美を控え、冷笑したりして

常に監視しようとする。とくに、社会的凝集性が弱く、集合的効力が限定

的な近隣社会では家族の統制は重要である。このような地域では、両親は

17  Larry J. Siegel (2011) Criminology 11th ed., Wadsworth Publishing pp.202-203.

(13)

子どもを統制するのに近隣の社会資源を活用することができず、いっそう 子どもに対する適切な監督を行う負担が強まる。また、一定の地域では、

人々は10代のギャングのような不安定な勢力と対決することによって直接 的な環境を維持することに関与している。この地域の成人は近隣住民に回 復力と自己敬意を持つように働きかけることで、若年者が犯罪からの離脱 を可能とする外部支援システムを提供することもある。住民同士が自ら倫 理的、社会的義務を有していることを互いに教授し、子どもは他人の権利 を尊重し、その相異に敬意を払うことに敏感になることを学ぶのである。

 非社会統制の実例として、一定の地域では、近親組織や自助集団が形成 されている。犯罪率の急上昇という不安は、人々が相互支援の結び付きを 強める契機となる。犯罪学者の多くは、社会的凝集性の高いコミュニティ は犯罪率も低いと考えるが、犯罪率の急激な上昇は人々を共通問題への闘 いに向けて結束を固めさせることもあり得る。たとえば、隣人が外出時に、

他の住民が侵入者への監視の目を果たすなど、非公的社会統制に関与する 機会は少なくないのである。このように、いわゆる自然監視は犯罪レベル の低下に貢献する。

②組織的社会統制

 学校や教会などの社会組織も社会統制を担う。しかし、疎外や不信といっ

た環境では、効果的に社会統制を果たすことができない。社会解体した地

域にしばしばみられる、監督されていない仲間集団やギャングはこのよう

な近隣統制機関の影響力を阻害する。このようなコミュニティでは、学校

などの因習的な社会組織と関与することは困難となる。例えば、子どもは

効果的な公共サービスがない地区ではギャングや法違反集団に参入するリ

スクがあり、放課後暇をもてあそぶことから、何か魅了する代替プログラ

ムがないとギャングの活動が魅力的に映るからである。その結果、このコ

ミュニティには種々の否定的効果が生じる。犯罪・非行が増えることに

(14)

よって、近隣の不安感は増大し、コミュニティの紐帯は低下し、社会組織 の住民に対する社会統制力も阻害される。

 このような事態を回避するために、集合的効力が機能するコミュニティ では、地区組織を活性化し犯罪を統制している。その資源として、企業、

商店、学校、教会、ソーシャル・サービス、ボランティア組織などがあり、

これらの組織が機能すると犯罪率は低下する。とくに、10代向けの余暇セ ンターの活動は犯罪率低下に結び付き積極的な機能を果たすが、他方で、

飲み屋・パブなどは強姦、強盗などの粗暴犯を誘発し、コミュニティの治 安を不安定化するという。

③公的社会統制

 公的社会統制の典型は、コミュニティの警察活動(policing)である。

一般に、安定した近隣社会では社会統制の外部資源の導入に積極的である し、その設定が可能である。これによって社会解体を回避し、犯罪・被害 化レベルの低減を図ることができる。この警察活動に関して、アメリカ社 会で人種的相異が最も明瞭に示されるのが、白人コミュニティの経済力と 政治性であろう。彼らは居住地域における高い安全レベルを要求するし、

実際享受している。これらの地域では、コミュニティ組織や地域リーダー が法執行職員の増員を図るために十分な外部資金を獲得できる程度の政治 的影響力をもっており、警察の存在意義を増している。警察官をよく見か ける地域では、逸脱行動を寛容に扱うことはないというメッセージを送信 しており、現に警察が犯罪に厳格に対応することで犯罪集団がこの地域に 足がかりを構築することを防止している。実際、犯罪者や薬物取引人はそ のような地域を避け、もっとも容易に活動できる場所を探す。このように して、公的社会統制としての警察の存在意義が承認され、信頼感の強い地 区では低犯罪率が維持されている。

 これとは対照的に、警察官が権限を濫用して過剰な法執行をしたり、不

(15)

正をしたり、さらには地域問題に無関心であることがしばしばみられる地 区では警察への不信感が強く、その結果、犯罪や無秩序が放置され、犯罪 率が高い。このような地区では政治的権限を仲介する者がおらず、外部資 金や安全を獲得する手段が欠如している。外部資金がないと警察官数も相 対的少なく、パトロールする動機も希薄で、社会資源も枯渇し秩序を回復 することができない。

 このように、シーゲルは、サンプソンらの集合的効力を非公的社会統制 だけでなく、組織的社会統制、公的社会統制の行使にも影響を与えるもの として捉えるのである。

(2)問題解決手段としての集合的効力

 上述したように、集合的効力が機能している地域では、子どもが非行集 団と関与することも問題行動を起こすことも可能性が低いとされる

18

。こ のような安定した地域で育った子どもは暴力場面に遭遇してもこれを避け る知恵があり、そもそも地域の街頭は安全であると感じる傾向にある。こ れはしばしば「街頭効力(street efficacy)」とも呼ばれる。つまり、これ らの地域の青少年は問題解決に暴力に依存する必要もないし、非行集団と 付き合う必要もないのである。逆に、不利条件が集中した地域に居住し、

集合的効力も弱い地域の青少年は、暴力を避ける自信を失っており、人々 はセルフ・コントロールができず、それを補うための社会統制の一定レベ ルも地域は提供できないことを知っている。このため、彼らは問題解決を 自らの手で行う必要があると感じて、ギャングに加入したり武器を携帯し ている。

 集合的効力の効果はこれにとどまらない。この地域は居住によい場所で あると住民が満足している場合、自分自身で秩序維持を図る義務感を感じ

18  Delbert Elliot, William J.Wilson, David Huizinga, Robert Sampson, Amanda Elliott, 

and Bruce Rankin (1996) The Effects of Neighborhood Disadvantage on Adolescent  Development, Journal of Research in Crime and Delinquency, vol.33, p.414.

(16)

るし、非公的社会統制を奨励するのに積極的になるのが一般である。警察 機能が適切に働けば、怠惰な子どもや秩序を守らない成人に個人的に干渉 して統制を働かそうとする。対照的に、荒廃した地域では、人口移動が激 しく、よりよい住居を求めて移動を繰り返す。このため、人々の付き合い は表面的であり、隣人を援助したり、近隣の子どもに対する非公的な統制 を働かすことにも消極的である。このような疎外や不信の中では学校や教 会も社会統制機関としては効果的に機能しない。仮に荒廃した地域を再興 するために、コミュニティ・センターなどの組織的支援プログラムを立ち 上げてみても、根深い経済問題や社会的貧困という進行中の深みから抜け 出すことは難しい。

 このように集合的効力は、生活の質を高める上できわめて重要である。

要するに、犯罪被害に怯えながら生活すること自体、生活の質は著しく低 い。その意味でも、集合的効力が効果的に地域の犯罪レベルを低下させ、

住民の犯罪不安感を低減する効果は、コミュニティのあり方を決定する意 味で有意義と思われる。

4.子どもに対する集合的効力~サンプソンらのシカゴ調査

(1)社会資本とコミュニティ

 サンプソンらは、地域の子どもに対する集合的効力の問題を、社会資本

(social capital)との関係で論じている

19

。社会資本の概念をめぐっては、

社会学の用語法として、インフラストラクチャーなどを意味する経済学の 用語とは区別して扱われている。その文脈でいえば、アメリカ社会学の中 で社会関係としての相互信頼、人的ネットワーク、協調行動などの意味で 議論が展開され、わが国では「社会関係資本」と訳される場合が多い。こ

19  Robert J. Sampson, Jeffrey D. Morenoff and Felton Earls (1999) Beyond Social 

Capital: Spatial Dynamics of Collective Efficacy, American Sociological Review, vol.64,  1999, p.633.

(17)

の概念は古くは19世紀にみられたとされるが、第二次大戦後、アメリカ社 会の変動にみられたコミュニティの衰退、過剰な個人主義の進行などへの 反動から、人的ネットワークを基本とする社会資本が一段と注目されるよ うになった。理論としてはジェーン・ジェイコブズ(Jane Jacobs)、さら にはジェイムズ・コールマン(James Coleman)、次にロバート・パット ナム(Robert Putnam)

20

らが概念化を進め、これに基づいてサンプソン らが社会統制の場面に応用したのである。

 ここで社会資本は社会組織の一形態であり、人々の関係構造が、一定の 目的を成就することを可能にするように、行動を促進するときに生み出さ れるとされる

21

。パットナムは社会資本を「ネットワーク、規範、信頼な どの社会的組織の特徴であり、相互利益のために調整、協力を促進する」

と定義する

22

。このように、社会資本は関係性を通じて実現される資源で あり、他方、物理資本は物質の形態として観察可能であり、人間資本は個々 人が獲得した技巧や知識の中に存在する。しかしながら、時の流れととも に、社会資本の概念は種々の意味を帯びるようになり、確定的な定義には 至っていない。今日では、たとえば単親家庭、家族の移動数などを社会資 本の指標として利用するのが一般となっている。つまり、子どもの社会資 本を研究するライフ・コース理論家は、両親の監視、期待といった過程に 対する家族内枠組みを採用する傾向にある。

20  パットナムらは研究素材としてイタリア社会の南北地域における社会資本のあり方 を扱い(Robert D. Putnam, Robert Leonardi and Raffaella Y. Nanetti (1992) Making  Democracy Work: Civic Traditions in Modern Italy, Princeton: Princeton University  Press. 河田潤一(訳)『哲学する民主主義』NTT出版(2011年)、さらに、アメリカに おけるコミュニティの衰退と社会資本の関係を調査した(Robert D. Putnam (2000) 

Bowling Alone: The Collapse and Revival of American Community, New York: Simon 

& Schuster. 柴内康文(訳)『孤独なボウリング』柏書房(2006年))。

21  James S. Coleman (1990) Foundation of Social Theory, Cambridge: Harvard University  Press, p.98.

22  Robert  D.  Putnam (1993) The  Prosperous  Community:  Social  Capital  and  Community Life, The American Prospect No.13, p.36.

(18)

(2)調査内容

 サンプソンらは、このような社会資本の概念を応用しつつ、シカゴ市住民 のデータを収集し、子どもに対する集合的効力を生み出す3つのメカニズム の構造的資源と理論的枠組を提供している

23

。その3つのメカニズムとは、① 世代間閉鎖性(intergenerational closure)、②相互地域交換(reciprocal  local exchange)、 ③ 非 公 的 社 会 統 制 に 対 す る 期 待 の 共 有(shared  expectations of informal social control)である。前述したが、サンプソン らは、1995年シカゴ市を343 ヶ所の近隣群に分け、合計8,782人の住民に、

半構造化されたインタビュー調査を実施した

24

。実際、これらの3つのメ カニズムを測定するために、5段階リッカート尺度を用いて、次のような 質問を行っている。すなわち、まず、以下の①~⑤の設定について、「近 隣住民が多様な方法で介入すると期待される可能性(likelihood)」は、 「非 常に高い」、「高い」、「どちらでもない」、「低い」、「非常に低い」で答える 形式である。

 ① 子どもが学校をさぼり街頭をうろついている場合  ② 子どもが建物にスプレーで落書きをする場合  ③ 子どもが成人に無礼な態度を示している場合  ④ 自宅前で喧嘩が発生している場合

 ⑤ 自宅に最も近い消防署が予算削減の脅威にさらされている場合  次に、「社会的凝集性と信頼(social cohesion and trust)」についても、

以下の事項につき同意の程度を聞いている。

 ①この周辺の人々は近隣住民を進んで手助けする  ②ここは結束の強い近隣である

 ③この近隣の人々は信頼に値する

23  R. J. Sampson, J. D. Morenoff and F. Earls (1999) op. cit., p.633.

24  R. J. Sampson, et al. (1997) op.cit., pp.919-920.

(19)

 ④この近隣の人々は、通常、お互いにうまくやっていない  ⑤この近隣の人々は同じ価値を共有していない

 世代間閉鎖性が問題とされるのは、子どもに対する集合的効力の効果が 発揮される場面だからである。ジェームズ・コールマン(James Coleman)

は、社会での人間関係のネットワークを説明する概念として、「世代間  閉鎖性」を提起した

25

。コールマンの「世代間閉鎖性」とは、学校で子ど も同士が友人であれば、結果的に親同士も仲良くなるように、行動の主体 が親子関係と家族外部との関係を絡めて相互に連結されているネットワー クを指す。サンプソンらはこれを援用し、両親が子どもの友人の両親を  知っている場合、彼らは他の両親と異なった情況における自分の子どもに ついての情報を知ることができ、その監視や統制を拡張できる。このよう な構造的規範的な成人・子どもの閉鎖性は子どもに社会的支援を与えるこ とができ、両親には安心感を与える。つまり、 「閉鎖性」をもつネットワー クは、一定程度他者の視線や思考を気にする必要があるが、悪いことをし た子どもを親同士が連携して説得できるように、主体間の連携により行動 の監視・誘導を行い効果的な制裁ができる。コールマンによれば、「世代 間閉鎖性」は親子関係や外部の親密な他者による親密なネットワークを通 じて効果的な規範を形成することから、学校に限らず様々な観点で、子育 てする親にとっては一定量の社会資本となり得るという。もっとも、サン プソンらは、成人間の単なる関係の存在だけでは子どもに対する社会資本 を形成するのに不十分であると主張する。多くの友人・知人をもつ親は一 定のコミュニティ内においてでさえ、これらの友人・知人が自分の子ども の友人の親や親族を含んでいない場合、彼らが提供できる利益は限られて いるからである。そこで、世代間閉鎖性には、さらに教師、宗教指導者、

25  James Coleman (1988) Social Capital in the Creation of Human Capital, American  Journal of Sociology vol.94, p.S106.

(20)

関連する住民などの地域の大人を含む必要があるという。この点で、サン プソンのいう世代間閉鎖性はコールマンの概念を超えていると考えられ る。

 次に近隣レベルにおける社会組織、第2のメカニズム「相互地域交換」

であるが、これは子どもの養育における家族間、成人間の集中度の問題で ある。大人はコミュニティ内の他の両親やその子どもの顔と名前はわかる かもしれないが、通常は滅多に情報を交換したり、相互に交流したりしな い。社会資本は、子どもの養育について助言、物品、情報を交換するなど の交流によって強化される。相互ないし比較的同等の交換は、子どもが成 長するにつれて両親だけでなく子ども自身によっても利用される社会支援 に連なる。この種の交換は強力な個人的繋がりの存在によって促進される が、その個人的繋がりは強力に結びついた友情や親族関係の中に見いださ れる。

 第3のメカニズムは「非公的社会統制に対する期待の共有」であるが、

サンプソンによると、これはしばしば無視される側面であるという。この

期待とは、近隣住民が子どもの利益のために介入する可能性、予測性であ

り、隣人間の共通した価値を超えたレベルの要素である。そこで、サンプ

ソンらは、「子どもに対する集合的効力」は住民の協働可能性に対する信

頼が生み出すと主張する。集合的効力の概念が強調するのは、その活動に

住民が積極的に関与しようという意欲であり、それは社会資本という概念

で把握することは困難であり、要は、集合的効力は「集合性の内部におけ

る活動に対する期待(expectations for action within a collectivity)」と再

定義できるという

26

。そこで、サンプソンらは、このような個人的、組織

26  この点につき、バンデューラによると、効力の意味は、統制の行使についての期待 として把握され、社会資源の在庫の蓄積に中心を置く視点を超えて、社会生活の主体 の側面まで高められるという(Albert Bandura(1997) Self-Efficacy: The Exercise of  Control, New York: Worth Publishers.)。

(21)

的ネットワークの資源的潜在力としての社会資本の概念と、活動固有の構 成要素、つまり子どもへの積極的な支援と社会統制における大人に共通し た期待と相互関与としての集合的効力の概念とを区別する。両者は共通す る部分も少なくないが、後者は結びつきの強い住民間で望まれる成果を達 成するために社会的結合を活用し、転換するプロセスであるという。この 結果、社会資源やネットワークだけでは意図された結果を達成する効果的 なメカニズムとはいえず、むしろ強力な紐帯や付き合いを求めることなく 子どもの養育を促進するメカニズムこそ重要なのである。要するに、サン プソンらが前提とするコミュニティは、専ら一次的集団のフェイス・ト ウ・フェイス(face to face)の親密で愛情ある関係を保持すべきである という考えには重点を置かないのである。

(3)結論

 サンプソンらが最終的に問題にしたのは、これら3つの次元を含む集合 的効力、さらにそれを要素とした近隣効果(neighborhood effects)である。

言い換えれば、当該近隣地域の構造は、子どもの集合的ニーズに役立って いるかどうかを判断することである。サンプソンはライフ・コース理論家 でもあり、子どもや青少年の発達と犯罪・無秩序行為との関係に関心を寄 せ、さらには犯罪からの離脱(desistance)にも言及してきた

27

。それは、

現代コミュニティがグローバリゼーションの増大とネットワーク社会の出 現にどう対応しているかを問うものであった。しかし、サンプソンは一貫 して、このような現代社会の変動が個人にどのような影響をもたらすかに は関心はなく、専らその集合としてのコミュニティがどのように変化して

27  デジスタンス研究に関連するものとして、山内宏太朗、守山 正、渡邉泰洋「説話 法による犯罪デジスタンスの分析:常習犯罪者が犯罪を止める理由・背景」白百合女 子大学研究紀要45巻(2009)1-21頁、守山 正「「デジスタンス」と刑事政策―犯罪常 習者が犯罪を止めるとき」『イギリス犯罪学研究Ⅰ』成文堂(2011)145頁以下、明石 史子「犯罪者はどのように生活を変容させるのか―犯罪からの離脱(デシスタンス)

とアイデンティティの変容」罪と罰第52巻4号(2015)。

(22)

きたかを注視してきた。現実の犯罪学研究においては、どちらかというと 前者に重点が置かれ、後者の研究は依然として未発達の状況である。それ が、まさにサンプソンが非公的な犯罪統制に関心を寄せる理由である。つ まり、コミュニティ生活の集合的側面を含む社会過程が子どもや青少年の 行動に影響を与えていると考えるのである。そこで、コールマンの社会資 本概念を利用し、子どもへの集合的効力を構成し維持する事項を明らかに しようとしたのが1995年シカゴ調査であった。

 この調査から得られた知見としては、貧困などの集中的劣悪状態はこれ らの3つのメカニズムにとって重要な障害ではなかったことである。反対 に、最も一貫した予測因子は集中的富裕であり、これと並んで低い人口密 度、居住の安定性・継続性であった。集中的貧困、人種・民族構成、個人 レベルの共変量に関わらず、安定した近隣地域は不安定な地域よりも「相 互地域交換」、「世代間閉鎖性」の著しく高いレベルを示した。また富裕さ は、住民が子どもの監督や相互交換、世代間閉鎖性の有効な環境を達成す ることを可能にした。他方、「非公的犯罪統制に対する共有された期待」

については、集中的劣悪状態の近隣では著しく低く、それは暴力や殺人を

無視しても同じであった。明らかに劣悪状態の集中は子どもに関する集合

的活動の共有された期待が抑制されていた。言い換えれば、大都市におけ

る空間的不平等は、子どもに対する地域の不平等に置き換えることができ

るという。但し、人種的には白人の近隣地域が、黒人居住地域よりも空間

的な近接性の利点をはるかに多く享受しており、空間的な利点から高いレ

ベルの成人・子ども相互交換がなくても子どもへの社会統制を達成する可

能性がきわめて高かったとされる。要するに、現代的なコミュニティの形

態では限定的な責任しか伴わない地域においては、社会統制を達成するの

は比較的容易なのである。

(23)

5.コミュニティの日常的安全性

 犯罪不安感が高いか、低くない状況の中での日常生活は、生活の質が低 いと言わざるを得ない。犯罪発生自体が減少する中、なぜ犯罪不安感は低 下しないのか、その謎をめぐって種々議論が展開されている。その中で、

注目されるのはマーティン・インズの犯罪シグナル論(crime signal  perspective)である。つまり、今日のように必ずしも凶悪な犯罪が頻発 していない時代に、人々の犯罪不安感をあおるのはむしろ地域に特有の軽 微な犯罪、あるいは犯罪とまではいえない無秩序行為(秩序違反行為、不 品行)である。インズはこの点をとらえ、各地域は固有の犯罪・無秩序問 題を抱えており、これがシグナルとなって地域住民に伝達され、実際に犯 罪被害に遭遇しなくとも不安感を醸成しているとする。実際、彼が行った ロンドンにおける調査でも、不安感の上位には、「若者のうろつき」行為 など刑事法では対処困難な無秩序行為が並び、明らかに犯罪の構成要件を 満たす行為は下位に位置づけられている(表2参照)

28

。これらの観点から、

インズは警察と協働して実験的な観察を行っている。これはイギリスで実 施 さ れ た「 全 国 安 心 ポ リ シ ン グ・ プ ロ グ ラ ム(National Reassurance 

28  やや文脈は異なるものの、筆者らが行った調査(守山 正、瀬渡章子、小島隆矢、

中迫由実、渡邉泰洋「公的犯罪統計と体感治安の乖離に関する日英比較研究」公益財 団法人日工組社会安全財団、2013年度共同研究助成最終報告書(2014年)22頁)でも、

下記のように軽微な犯罪や社会的物理的無秩序が住民の犯罪不安感上位に見られ、イ ンズのロンドン調査と同様の結果が見られる。

都内A区 都内B区

無秩序 犯罪 無秩序 犯罪

1位 空き家・店舗 交通事故 暗い街灯 交通事故

2位 暗い街灯 子どもへの声かけ 空き家・店舗 自転車盗難

3位 さびれた商店街 侵入盗 さびれた商店街 侵入盗

4位 若者の蝟集 自転車盗難 ホームレス 子どもへの声かけ

5位 ホームレス 敷地内無断侵入 未利用の公園 敷地内無断侵入

6位 未利用の公園 悪質詐欺 若者の蝟集 悪質詐欺

(24)

Programme of Policing)」(NRPP)と呼ばれ、2003年に実施された

29

表2 シグナル犯罪・無秩序と不安感

A地区 B地区 C地区 D地区 E地区 F地区 1位 薬物 若者の

うろつき 若者の

うろつき 若者の

うろつき 若者の

うろつき 薬物 2位 若者の

うろつき ゴミ放棄 落書き ゴミ放棄立ち小便

破壊行為器物損壊 薬物 若者の うろつき 3位 暴行 器物損壊 器物損壊 暴動

公然飲酒 器物損壊

落書き 公然飲酒 4位 侵入盗 公然飲酒 暴動

路上強盗 公道での車 レーススケボー

乗り物放置 反社会的 隣人 5位 路上強盗 暴動

車の暴走 薬物 殺人 侵入盗 器物損壊 6位 公然飲酒 口頭での

虐待 侵入盗 口頭での

虐待 ギャング 出典: Anthony Bottoms(2009) Disorder, Order and Control Signals, the British Journal of 

Sociology, vol.60, p.50.

 この調査は、まず基本調査が実施された後、プログラムに基づく警察活 動が行われ、さらにその後に追跡調査を行うという3重構造になっている。

つまり、実験的な警察活動という本体のプログラム実施の前後の調査を通 じて、不安感の変化を測定し、その警察活動の有効性を評価するのである。

このプログラムで重視されたのは3つの項目、つまり、①警察官の視認性

(警察活動を行っている場面を住民は目撃しているか)、②警察の地域への 関与度(警察は地域の活動や行事に参加し住民の意見を聞いているか)、

③警察の問題解決力(実際に警察活動により地域問題は解決したか)であ る。この調査はもともと不安感の構造を分析する目的で行われているが、

実際には、警察活動の有効性を測るものとなっている。この調査結果では、

29  この詳細については、守山 正「犯罪不安感に関する一考察~「シグナル犯罪」論 を手がかりに」拓殖大学論集政治・法律研究17巻1号(2014年)53頁以下に詳しい。

(25)

事実、プログラム効果がみられ、たとえば、プログラム実施後、実験地域 では対照地域に比較し、夜間一人歩きの不安感、不審者による身体攻撃の 不安感などは低下し、器物損壊(落書き・住宅施設の破壊)にも効果がみ られた。これらは、警察官の視認性の向上が要因であると考えられている。

そして、何よりも警察への信頼感が増大し、警察活動を評価する度合いが 上昇した。

 この調査では、サンプソンが主張する集合的効力も測定されている。す なわち、コミュニティの紐帯・社会的凝集性(social cohesion)、住民間 の信頼レベル、地域の若者問題への介入意欲、相互支援の精神、地域ボラ ンティア組織の包絡などである。調査結果でこれらのうち、集合的効力の 効果がみられたのは、地域住民の相互信頼が対照地域では2%減少したの に対して実験地域で3%上昇した。但し、集合的効力のその他の項目では 有意性がみられなかった。

 インズはこれとは別に、「統制シグナル(control signal)」という概念も 提言している。あえて言い換えれば、地域固有の「安心シグナル」である。

この理念は、権威ある人々・機関・組織、あるいは地域住民が行う一定の 活動が他の住民や商店主などに安心シグナルを伝達しており、住民に自信 や秩序感を与えるという。犯罪シグナルとは対照的に、外部機関からの地 域に対する種々の働きかけにより、秩序を向上させるシグナルである。こ のシグナルとして、アメリカの犯罪多発地帯で実施された公的機関の活動 が挙げられており、そこでは、むしろ住民の安心感は向上したとされる。

つまり、犯罪が多発している地域でも不安感削減は可能なのである。要す るに、日常生活の安心感を与えるのは、この「この地域は統制されている」

という住民の知覚であり、そのシグナルが伝達される必要がある

30

30  このほか、統制シグナルの例として、ゲシュタルト(Gestalt)効果も指摘されている。

いわば地域の景観や街並みがよいことで、地域に対する満足感が向上する現象である。

たとえば、シカゴ市の例では、ミシガン湖に接する公園は非常に美しい景観を与えて

(26)

6.おわりに

 近年、わが国でもコミュニティの衰退・崩壊が問題とされ、とくに都市 部におけるタワー・マンション、ゲイティッド・コミュニティ等の出現で、

いっそうその状況が進行しているとされる

31

。その状況との関係自体は依 然未解明であるが、これらの地域における犯罪不安感、体感治安の悪化も 指摘されている。このような中で、コミュニティの再生が当然ながら、議 論されなければならない。上述したように、地域住民の紐帯が弱化すれば、

集合的効力が十分に機能せず、社会統制、とくに非社会的統制が低下して、

治安の悪化を招くからである。

 サンプソンによると、西欧社会においても、かつてのコミュニティとし て十分に機能した「都市ビレッジ(urban village)」は今日では姿を消し、

多くのミドルクラスの地域ではこの特徴が示されておらず、家庭内部の個 人主義が進行し、ただ地域では薄い信頼関係(thin trust)と呼ばれる、

必要があれば地域固有の目標に向かって集合的結合的に活動を可能にする 枠組みがみられるという

32

。おそらく、わが国においても同様の傾向がみ られると思われるが、コミュニティのあり方と犯罪・無秩序の発生との関 係はわが国では十分に議論されておらず、今後の調査研究に期待しなけれ ばならない。

 集合的効力、シグナル犯罪については、現在、執筆者の一部が関与して、

これらの事項を含む質的量的な不安感調査が予定されており、地域ごとに 不安感に対するこれらの事項がどのような影響を与えているか、明らかに なるものと期待される

33

。従来わが国では、英米に比較し、非公的社会統

おり、この見た目から住民の安心感が促進されるという。

31  守山 正ほか前掲書(注5)18~65頁。

32  この例として、近隣の子どもが利用している遊び場・公園を横断する道路の建設計 画が持ち上がるといったような、近隣の利益が脅威にさらされる場合には、日頃はそ れほどの付き合いのない地域住民が結束して立ち上がるような場合。

33  東京都青少年・治安対策本部「都民の安全安心に関する意識調査」(2015年)。この

(27)

制が発達しており、これが治安を支えてきたと考えられてきたが、明らか にサンプソンの指摘する集合的効力とは性格が異なるように思われるし、

他方、インズの「統制シグナル」において、わが国の「安心シグナル」と は機能面で若干異なる。ただ、いずれにしても、わが国でもとりわけ都市 部におけるコミュニティの崩壊は進んでおり、治安維持ないし不安感削減 のためには、新しいコミュニティのあり方が問われていることは間違いな い。それを検討する際、サンプソンも一部言及したパットナムの「薄い信 頼と厚い信頼(thin trust and thick trust)」論争が参考になると思われ る

34

。かりに住民同士では薄い信頼であったとしても、地域に一定の問題 が発生した場合、住民が一時的に結束し、直面した問題を一丸となって解 決するという現象はわが国でも十分考えられるからである。この議論とサ ンプソンの集合的効力の概念を結合させ、こんにちしばしば「地域力」な どと称される地域問題解決能力をわが国のコミュニティにも維持させるこ とによって、コミュニティの再生を図るのも一つの方法であると考えられ る。コミュニティの再生といっても、元に復するのは不可能であるから、

新型の社会統制力を保持した新しいコミュニティの再生を図らねばならな い。そこで、日頃は「薄い信頼」関係にあっても地域でいざとなれば効力 を発揮する都市ビレッジをわが国でも模索するべきであろう。

中で集合的効力に関連する事項としては、(この地域では)「未成年者が深夜まで夜遊 びしていたら、気にかける人が多い」、「この地域の住民は、大きな問題にはまとまっ て対応する」など、統制シグナル関連では「住民による防犯パトロールをよく見かける」

などの設問が含まれる。

34  ‘thin trust’の概念については、Robert D. Putnam, Bowling Alone: The Collapse and  Revival of American Community, p.136.参照。要するに、‘thin trust’とは、実際の個人 的な経験以上にコミュニティの規範に依存するもので、地域の結びつきが崩壊すれば、

信頼の効果や価値も低下することをいう。ボトムズは、その例として、地域で子ども の遊び場となっていた公園に大きな道路建設計画が浮上した際、日頃付き合いの薄い 住民であっても団結して、その問題を解決しようとする意思や意欲の状況を挙げてい る(Anthony Bottoms(2009) Disorder, Order and Control Signals, the British Journal  of Sociology, vol.60, p.50.)。

参照

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