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昨年11月10日(土),神戸大学瀧川記念学術交流会館に おいて2012年度藻類談話会が開催されました。本談話会は,
藻類を研究材料とする幅広い分野の研究者の集まりで,西日 本を中心に行っている研究交流会です。記念すべき第一回目 の談話会は1997年,今年と同じく神戸大学での開催だった そうで,今年で16度目の開催となりました。今年度は30名 の参加者を迎え,以下4つの講演がありました。演者(敬称略)
ならびに演題は次のとおりです。
●加藤 将(神戸大院・理)
「シャジクモに見られる生態的2型の進化生物学的研究」
●佐々木秀明(いわき明星大・科学技術)
「福島第一原子力発電所事故と藻類:藻類における放射性物 質蓄積の現状」
●土屋 徹(京大院・人間環境)
「新奇なシアノバクテリアでの形質転換系の開発とその応用」
●藏野憲秀((株)デンソー・基礎研究所)
「微細藻類の大量培養とバイオ燃料生産」
最初は,加藤さんによる,世界各地に広い分布域をもつ車 軸藻の1種,シャジクモ(Chara braunii)に見られる生態 的2型の進化に関する発表でした。加藤さんは,北海道から 沖縄に至る日本各地からシャジクモを採集され,葉緑体およ び核DNAマーカーを用いた系統解析,集団遺伝学的・進化 生物学的解析によって,異なる水環境に生育する遺伝的に 分化した2群がシャジクモ内に存在することを示されまし た。1つは田んぼを生育地とする浅所タイプ,もう一方は湖 沼を生育地とする深所タイプだそうです。これら2群は葉緑 体DNAマーカーによる解析によって認識できるようですが,
核DNAマーカーでは一部両方の系統が混じっていることか ら,両タイプ間には遺伝的な交流があると予想されていま す。シャジクモの日本集団に見られる生態的二型が種分化の 初期段階にあり,葉緑体遺伝子に働く自然選択が集団分化に 関与した可能性が示唆されるということです。演者によると,
CO2固定を司る鍵酵素であるルビスコタンパク質の安定化の 違いが,異なる水環境への適応に利いているのではないかと 予想しているそうです。この生態的分化の現象を理解する上 では,生理学的な裏付けが重要になってくるだろうと思いま した。
2012 年度「藻類談話会」参加記 栗原 暁
続いての講演の演者である佐々木さんは,東北地方太平洋 沖地震をきっかけとして生じた福島第一原子力発電所事故以 降,福島県沿岸において原発事故により放出された放射性物 質の海藻類における蓄積状況に関する知見を得るため,福島 県沿岸において継続的な海藻類の採集を行い,ヨウ素131, セシウム134,137の蓄積状況を測定されています。本参加 記をお読みの方の中には,昨年の夏に札幌で開催された日本 藻類学会第36回大会での佐々木氏のご発表を聴かれた方も 多いのではないかと察します。本講演では触れられませんで したが,札幌大会では陸生藍藻イシクラゲの除染効果に関し てもご発表されています。残念ながら私は札幌大会へは不参 加でしたので,本講演を聴けることを楽しみにしておりました。
アナアオサ,マコンブ,ワカメ,アラメ,フクロフノリ などの代表種を用いて測定した結果,5-6月あたりだと高 いもので1万ベクレル(1m2あたり,1g乾燥重量あたり)
もの高濃度で放射性物質が含有されていたそうです。その後,
海水中の放射性物質の濃度の減少に伴い海藻中の放射性物質 濃度も減少し,現在(発表時)は200-300ベクレル付近 で安定しているそうです。結果的に,海藻には周辺海域で測 定される値よりも3桁ほど高い放射性物質の蓄積が見られる ことが明らかとなりました。これは,放射性物質が藻体内へ 直接取り込まれ濃縮される機構を示唆するもので,また一般 に海藻類は成長−枯死流失のサイクルが早いことから,藻体 中の放射性物質濃度は海水中の放射性物質濃度を直接的(短 期的)に反映していると解釈できるようです。このことから,
海洋汚染をモニタリングするための指標生物として海藻類を 活用することが有効かもしれないということでした。海藻類 が高濃度の重金属やヨウ素などを蓄積していることはよく知 られていますが,同様な濃縮機構が放射性物質に対しても存 在するのか興味深いと思いました。しかし,現在の海水中の 放射性物質の量が検出限界以下であるにもかかわらず,200
−300ベクレルの付近で安定していることをどう解釈したら 藻類 Jpn. J. Phycol. (Sôrui) 61: 11-12, March 10, 2013
講演会の様子
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よいのでしょうか。福島原発事故当初は,原発から半径40 キロ付近までしか近づけなかった調査範囲も,現在では10 キロ付近まで拡げられるようになったということです。今後 の研究成果に注目したいと思います。
3つ目の講演は,土屋さんによるシアノバクテリアにおけ る新奇形質転換系の開発に関するお話でした。モデル生物と して数多くの研究が行われてきたシアノバクテリアですが,
高効率で形質転換体が作成可能な種(株)となると,シアノ バクテリアの多様性を考えると圧倒的に少数派です。潜在的 に産業上重要となりえそうな種(株)を持っていても,自然 形質転換法,エレクトロポレーション法,接合法といった従 来の手法で効率よく形質転換を行えず,遺伝子の機能解明な どの研究の進展が滞っていました。本講演ではまず,通常の 方法ではうまくいかないシアノバクテリアで,形質転換系を 新たに開発する際に検討すべき項目について概説されました。
土屋さんのご研究の成功の鍵は様々にあったと思います が,新奇広宿主域プラスミド由来ベクターの作成に成功され たことで,接合法による遺伝子導入系の開発に繋がったとい うことでした。また,遺伝子導入におけるセレクション培地 に必須な抗生物質耐性を検証することは,一見回り道に思え るけれど大事なステップになるということです。一般にバク テリアは,外部から侵入したDNAを制限酵素により分解し て自己のゲノムの防御しつつ,一方でメチルトランスフェラ ーゼにより自己のゲノムをそれらの制限酵素から保護してい ます。導入した遺伝子を自らの制限酵素で分解されないよう,
DNAメチラーゼ遺伝子を組み込むなどの対処を考えること も重要だそうです。最後に,クロロフィルd合成能をもつ唯 一の生物であるAcaryochloris属と酸素発生型光合成生物の 中でチラコイド膜を持たない唯一の生物であるGloeobacter
violaceusの遺伝子組換え株を用いた研究例に関する紹介で
した。ご紹介いただいた手法を用いることによって全てのシ アノバクテリアへの遺伝子導入が実現するというのは言い過 ぎかもしれませんが,これはかなりの技術的躍進だと感じま した。
最後のご講演は,微細藻類からエネルギーを得る,いわゆ るバイオ燃料の開発に携わっていらっしゃる藏野さんによ る,バイオ燃料生産技術開発の研究史,現状,課題と展望に ついてのお話でした。微細藻類を用いた燃料生産には,高い 生産性,農地や家畜飼料と競合しないことなど様々な利点が あります。一方,CO2の添加,大量の水,高密度生産/生産
性低下のジレンマ,天候に左右される生産性,立地,採算性,
コンタミ問題(特に解放系プラントの場合は深刻となりうる)
や残渣活用法など種々の課題に直面しています。高い生産性 を維持するためには大量のCO2を供給できるシステムを構 築する必要がありますが,大量のCO2を入手するのが現実 的には大変です。藻類培養プラントを工場と隣接させ,工場 から出るCO2を効率よく利用するのが理想的だそうですが,
工場地帯の発達した沿岸地域にはそのような立地を見つける ことが難しくなっているとお話されていたことが印象に残っ ています。京都議定書に基づく温室効果ガス排出量の削減目 標の達成のため,さらに福島第一原子力発電所事故をきっか けとした脱原発(脱原子力)路線が強まる中,藻類等を利用 するバイオ燃料の開発への期待が高まっています。原油生産 量は2006年が頭打ちとなっていますが,採掘技術の革新に より採算性が向上したことでシェールガスの利用が注目され 始めています。シェールガスの場合と同様,藻類のバイオ燃 料構想でも採算性が成功の鍵を握っているようですが,10 年,20年後,日本のエネルギー事情はどのように変わって いるでしょうか。バイオ燃料生産技術の実用化への道が切り 開かれることを期待しています。
談話会終了後は,会場を瀧川記念学術交流会館1階の食堂 へ移して懇親会が行われました。さて,来年度の開催地は奈 良女子大学と決まりました。藻類を材料に研究をしている幅 広い分野の研究者と交流を深める機会を持てることが談話会 の大きな特色だと思っています。藻類研究に関心を持ってい る近畿圏在住の学生,大学院生,ポスドクなどフレッシュな パワーで談話会を盛り上げてくれることを期待しています。
(神戸大学内海域環境教育研究センター)
藏野さんによる講演 写真提供(川井浩史)