聖
憲
作
、良
尊
鈔
注
「病
中
寓
言
阿
字
観
鈔
」考
(二
)祐
宣
、頼
慶
、良
尊
1
聖憲作 、 良尊鈔注 「病 中寓言阿字観 鈔」 考 (二)(森口) [
1
]祐
宣
、頼
慶
、良
尊
と
そ
の時
代
森
口
光
俊
聖 憲師
「 病 中 寓 言阿 字 観 」 、 正
平
三 年 ( 一 三 四 八 ) 成 書 、時
に 四 十 二 歳 。師
に あ っ て は 、 そ の 時 代 意 識 が こ れ を書
か せ た 。 対 禅 の 時 代 相 応 と し て 、 禅 語 に こ と よ せ た 「 阿字
観 」 に よ る 自 己 実 現 が 、自
宗 徒 の 策 励 と し て も の さ れ な け れ ば な ら な か っ た 。 そ の 後 の 阿字
観実
習 の 具 体 を 知 る と こ ろ で は な い が ( 頼 慶 は 序 に 、 聖 憲 師 を 「 道 の 中 興 」 と 言 う ) 、 「 病 中 寓 言阿
字
観
」 は 二 二 九年
を 経 て 、 祐 宣 の講
義 ( 写 本 ) を 始 と し て 頼慶
、 良 尊 に よ っ て鈔
注、 公 刊 さ れ た 。 天 正 五 年 二 五 七 七 ) 七 月 、 祐 宣 「 ア 字 観 秘 伝 鈔 」 成 書 、 十 一 月 、 高 野 に お い て 講義
。 こ の 時 、 祐 宣 四 十 二 歳、 頼 慶 十 五 歳 で あ っ た ( 聴 講 の 有 無 は 不 明 ) 。 二 九年
後 、 慶 長 十 五 年 二 六=
) 頼 慶 ( 遍 照 光 院 ) 「 阿字
観寓
言 鈔 」 清 書 。 こ の 五年
の 後、 元 和 二年
( 一 六 = ハ ) 良 尊 ( 多 聞 院 、 後 に 西 南 院 ) は 「 病 中 寓 言 阿字
観
鈔
」 鈔 注 、 成 書 し た 。 頼 慶 と 、年
長 の 良尊
は 鈔 、 成 書 の 同 年 に寂
し て い る 。 生 没 年 の 明 ら か な の は 祐 宜 と 、 若年
に 死 去 す る 頼慶
で あ る 。 三 者 の 時 代 は 、 信 長 ,秀
吉 , 家康
に 及 ぶ 。 奇 し く も應
基 、 頼 慶 、 良 尊 、 ( 祐 宜 ) の 動向
に 高 野 山 の こ の 時代
の 特 色 一 一NII-Electronic Library Service 智 山学報 第六十輯 を
認
め る こ と が で き る 。秀
吉
の 護 持 僧 と な っ た 木食
應 基 が 、 行 人 と し て 学 侶方
と の 強 力 な 仲 介 を な し 、 興 学 と 行 人方
の 監 督 に 務 め た 。 木 食 上 人 の 寂 後 、頼
慶 と 良 尊 は 、 そ れ ぞ れ の 立 場 か ら 家康
の 宗 政 に参
じ た 。 頼 慶 は 家 康 お 墨 付 き の 勧 学活
動 に勤
め 、 そ の失
意
に 終 っ た こ と が 惜 し ま れ て い る 。良
尊 は 左 学 頭 政 遍 の 下 に 御 前 論 議等
に参
じ 、 家 康 と の 特 異 の 関 係 を 形 成 し つ つあ
っ た 。祐
宣 は 智 積院
第
二 世 と し て 、 上 記 の 動向
に 添う
と考
え ら れ る 御前
論
議 に 出 仕 し た ( 「 高 野 春 秋 」 、 「 秘 密 仏 教 史 」 栂 尾 ) 。良
尊
、 頼 慶 の 伝 録 が あ る 。頼
慶
の 師 「 遍 照光
院 良尊
」 に つ い て 記 さ れ て い る ( 生 年 不 明 、 慶 長 七 年 四 月 十 四 日 頃 、 以 前 に 寂 し て い る ) 。 同 名 の 「多
聞
院 良 尊 」 が 、 最 晩年
に 「 西 南院
主 」 ( 生 年 不 明 − 寂 一 六 一 亠 ハ 年 ) と な る 、先
の 「 阿 字 観 鈔 」 の著
者 で あ る 。 両 者 は 同名
異 人 で あり
、 共 に より
若 い頼
慶 と 関係
を 有す
る ( 「 「 高 野 春 秋 」 、 「 紀 伊 続 風 土 記 」 「 密 教 大 辞 典 」 、 真 言 宗 全 書 解 題 」 ) 。 智積
院
祐 宜 師 は 、根
来 敗 亡 ( 天 正 + 三 年 霸 。。 ) に 近 い 以前
と 思 わ れ る 頃 、 「良
尊
」 に 「 中性
院
流 」 を授
法
し て い る 。 「 良 尊 」 な る 人 物 は、春
秋等
の 資 料 に よ れ ば 上 記 と も に少
なく
も 四名
が 見 ら れ る 。私
に 、春
秋 、 ( 紀 伊 風 土 記 ) 、 印 融 「 血 脈 私抄
」 等 に よ る 限 り いず
れ の 良尊
か を 特 定す
る こ と は で き な か っ た 。 [1
]三
者
内
容
の
概
観
、特
色
。 以 下 各 師 の敬
称 を 略 す 。1
. 聖 憲 「 病 中 寓 言阿
字
観
」 の 冒 頭 は 、 当 阿 字 門 「 大 綱 」 の要
文 で あ る 。 「 阿 字 の 一 刀 を 八 識 の 田 中 に 下 し て 、 生 死 ま た 斬 り 涅 槃 ま た 斬 る 。 生 死 涅槃
は猶
し 昨 の夢
の如
し 矣 」 と 言 う 。 次 い で こ の 果 報 が 「 か く の 如く
、 阿 字 の 一 刀 に 運 用 自 在 な る 時 は 、 則 面 前 に 臨 む 者 の 悉 く 収 め て、自
己 の 方 寸 に 帰 さ ざ る と 云う
こ と な し 。 万境
に お い て 自由
自 在 な り 」 と 提 示 さ れ る 。 「 自由
自 在 」 と は 禅家
に触
発 さ れ た コ ト 一44
一 N工工一Eleotronlo Llbrary聖 憲作、 良尊鈔 注 「病中寓言 阿字観鈔 」考 (二 ) (森口) バ で
あ
る 。密
家
「 修 生 」 の具
体 を、 「 た だ 一個
の 愛 憎 の 念 の 上 に 頻 に 阿 字 を挙
げ よ 。 斯 の如
く
し て 日 積 も り 月久
し く し て 、自
然
に 境 縁 に お い て 自 由 の 分 あ り 。 此 の時
、 塵 境 即 自家
の 具 徳 、 煩 悩 全 く表
徳 の実
義 なり
」 と 言う
。 こ こ に 「 此 の時
」 と は 「 阿字
の 一 刀 に 運 用 自 在 な る 時 」 で あ り 、 「 塵境
即 自 家 の 具 徳 、煩
悩 全く
表
徳 の 実義
」 が 成 就 す る 。密
家
に あ っ て 「修
生 ・ 遮 情 」 と 「 本 有 ・表
徳 」 は不
二 一体
に し て 、 いず
れ に落
在 す る こ とも
許 さ れ な い 。 し か し 教 徒 の実
状
を、 「 情 欲 を 逞 し ふ し て 、 表 徳 の 実談
に 誇 る 」 と 言 い 、 「今
時
、 瑜 伽者
と称
す る 族 、 自 身 即 毘 盧 遮 那 、 金 剛薩
垣 な り と 説 く を 聞 き て 、 只管
に 実 解 無 う し て即
ち 謂 く、 塵 境廃
遣す
る こ と を 須 いず
、 即 自 家 の 功 徳 な り 。 煩 悩對
治 す る こ と を 須 い ず 、 即内
證 三昧
な り 。 断 證 の 門 は 権 教 の 所談
、 遮情
の 観 は 顕乗
の 謂 情 なり
と 。 塵 境 心首
を 繋 縛 し 、愛
憎
自
性
を 染 汗す
る こ と を知
らず
。 終 日 、 境 縁 を 遂 っ て 違 順 の念
を 起 こ し、 念 に 随 い て 種 々 の 業 を 造 り 、業
に 因 っ て 非愛
の 果 を受
く 」 と 嘆 じ て い る 。 表 徳 の 実義
を 曲解
し、自
ら を 眩 ま し て 、 お の れ の 情 を 実 情 と す る 。 低 き に つ き 世 俗 へ の 迎 合 を こ と と す る 。 修 生 、 遮 情 ・ 転 迷 開 悟 の観
行 を第
二 義 と す る 行 法 と学
弊 と が あ っ た 。 こ れ ら 教徒
の 策励
の た め に 、 当 「 観 門 の 大 綱 」 はも
T
) の さ れ た の で あ っ た 。鈔
注 者 と っ て は 、 阿 字 の 一 刀 ・ ア字
義 、 顕 乗 ・ 遮 情 、 密家
の 本 有 表 徳 、 八 識 の 田 中 に 下 す こ と 、 心 王 ・ 心 数 、 八 九 識 の 如何
、 自 心 ・ 肉 団 心 、 禅 家 の 評 価等
が 課 題 と な る はず
で あ る 。 既 に 、 聖 憲 に は 「 発 心 識体
」 「 王処
分 別 」 「心
( 2 ) 王第
八 」 「 無 相 至 極 」 の 論 が あ り、 時 代 に 明 ら か に な っ て い た 本有
、 本覚
の 左 道 化 の 問 題 も あ っ た 。鈔
注 三 者 は 、 「 非愛
の 果 」 の 究極
、 「 眼光
忽 ち に 落 地 の時
」 の 業 果 の 要 因、 分段
生 死 ・ 中 有 の 一 念 識 に 関 わ っ て 、息
風 や 赤白
二滞
( 諦 ) 和 合 を 取 り 上げ
る 。 善 悪 共 に 自 心 の 変作
な の で あ る 。今
、 こ れ ら 全 て に 亘 る こ と は 出 来 な い が、 三 者 の特
色 と 禅 論 を 考 察 す る に そ れ ぞ れ の 要 文 を 書 き 下 し 、 ま た 、注
一 一NII-Electronic Library Service 智 山学 報第六十輯 と し て 別 出 し
大
概 を 示 す ( 尚、 鈔 注一 二 本 、 写 本 、 版 本 に は そ れ ぞ れ 送 り が 附 さ れ る 〉 。 以 下 、 裕 宣 写 本 、 大 正 大 学 許 可 、 蔵 書 番 号 H 翕 \ ← 頼 慶 鈔 注 本 、 大 谷 大 学 許 可、 蔵 書 番 号 ω O ω N に よ る 。 冖 旦2
. 祐 宣 は 、 阿 字 観 を 説 く に 、始
に 聖 憲 に 随う
四 重 秘釈
・無
相 至 極 を 提 示す
る 。密
家 の 「 秘 々中
の 深 秘 の無
相 は 不 二 心 」 、 「 万法
の 根 源、 阿 宇 本 初 不 生 の躰
」 と 言 い 、 「 十 界 悉く
同 一 性 」 、 「 自 他 一 味 平等
、 無 碍 」 の 義 を 構 格 と し て 、 「観
道 の姿
」 を大
綱 冒 頭 の 要文
よ り 順 次 、句
々 、 語 に つ い て解
説
す
る 。後
二者
に 比 し て 禅 語 の 出 典 を 追 わ な い 。 運敞
「 結 網集
」 の 裕 宜像
の 一 端 は こ の 書 に いず
る と考
え る 。祐
宣 は こ の講
義
を 「 読 む 」 と 言う
。 「 阿字
観
秘 傳鈔
」 題字
下 に 天 正 五 ( 歳 ) 、 壬 十 一 月 日 、於
高
野 山 諸 国 之 衆 、 依 所 望 記 之 。 末 文、 今 度 高 野 山 に お い て 諸 国 の碩
学
の 衆 、荐
り
( の ) 所 ( 望 ) に よ り 之 を読
む 。 そ の 次 い で に 之 を書
き 了 わ る ( ω 貯 − σ ) 。 写 本 にあ
る 字 句 の 読 み 、単
語
的 説 明 を 施 す字
訓 は 、 も と も と 祐 宣 に よ っ て付
せ ら れ て い た も の と 考 え ら れ る 。 文字
を 認 識 せ し め る た め か 、大
衆 へ の 配慮
か 。大
綱 は 短 い も の で あ る か ら 、版
に 起 こ さ れ て い た も の の 配布
、 あ る い は 、大
綱 の文
を 順 に 大 書 、提
示 し つ つ な さ れ た と 思 わ れ る 。 そ う で な け れ ば 、 語句
、 語 の説
明 は伝
わ ら な い で あ ろう
。 例 え ば 、 覇柄
勁 き こ と、 サ ヤ 、 ツ カ の 意 な り ( 一 トQ σ ) 。 痾屎
送 尿 ア シ ソ ウ ニ ョ ウ … … 痾 は 久 暦 と 訓 ず 。 不浄
に し て見
苦
し き 姿 也 ( 一 “ 9 ) 。 云 々 は、 実 に は 雲 の 云字
を 上 略 し て 之 を書
す な り ( 蕊 σ 〉 。 心首
の 首 は 始 め と も 訓ず
、 故 に 心数
に対
し て 心 王 の躰
を 心 首 と 云う
な り ( 一 〇 げ ) 。 眼 光 は、 禅 家 に は ゲ ン と は読
ま ざ る な り ( b。 一 ぴ ) 。 愛憎
… メ ズ ル 、 ソ ネ ム 、恚
イ カ ル ( ω O σ ) 。 密 禅 と も に 地 獄 は 己 身 の 当 体 に こ れ を 立 て る 、 と い う 地
獄
の 説 明 ( 倶 舎 論 ) は 、表
裏
三 枚 半 に 及 ぶ 。客
方
と 考 え ら れ る 、 行 人大
衆
、事
相
を 学 び つ つあ
る 者 の 望 む と こ ろ、 自 ら の 四 度 加 行等
、 行法
の 体 験 的 理 解 、行
境
を お も わ せ る 配 慮 が あ り 、 そ の 実 用 の 学 を 講 じ て い る 。 後 の 両 者 は こ れ を 欠 く 。 こ れ ら は 裕 宣 当 書 の 特 色 で あ る 。 一46
一 N工工一Eleotronlo Llbrary聖憲作、 良尊鈔 注 「病中寓言 阿字 観鈔 」考(二 )(森口) 同
時
に 、客
僧 大 衆 に 応 じ た 講義
は 、 既 に し て ? 、 呪 術 的 大 衆 化 、後
の 本末
、 檀 家制
に お け る 僧徒
の対
応 の 一 面 を も 示 し て い る 。 次 は行
法 の体
験 的 説 明 、実
用 の学
に か か わ る 部 分 で あ る 。後
記 、 三者
の 禅論
「 於 万境
自 由 自 在 」 の資
料 で も あ る 。 「行
法
体 験 的 説 明 」 。或
い は 、 一 人多
人 の道
俗
に対
し て は 、 ア ビ ラ ウ ン ケ ン の 明 を 誦 し て 解脱
せ し め て 、 普 門 示 現 の等
流 身 と 観ず
。親
と な り 子 と な り て 救 す る義
な り 。 或 い は 、無
心 の睡
眠 に 入 ら ん 時 は、 一 切 衆 生 と 倶 に し て 金 剛 界 の 自 受 用 智身
の 正 躰智
に 安住
す と 思 い 、或
い は、 分 別散
動
の 心 に 在 っ て は、 同 じ く 一 切 衆 生 と 阿 字大
悲 胎蔵
の 他 利 の 門 に 、 或 い は 、 金 の 智 薩 垣 、 別 に安
住 す と も 云う
な り 。或
い は、定
恵 の懐
胎 を 聞 き て は 、 金界
に 就 い て は 五 相 成 身 の 五智
円 満 の 奥 旨 を観
じ 、 胎蔵
に 約 し て 五 転 五 ア 、 乃 至 、 四 重 壇 等 の 建 立 を 、 或 い は 瑜 祗 、或
い は蘇
悉 地 等 の 内 證 に 約 し て 、 二界
不 二 、 両 部 一枝
の 実義
を 以 っ て 、 彼 の 所 生 の 子 を 未 成 の 新 仏 と 観 じ、 二 親 を 已 成 の 如 来 と 観 じ て 、 親 子 同 じ く大
智 灌 頂 の 内 證 に 入 れ 、 血脈
相 承 の実
義 を 得 る と 観 る な り 。或
い は、 他 人 の 新 円寂
を 、 色 法 は ア字
の大
地 に帰
り 、 心 法 は バ ン 字 の太
虚 に 入 り て 、 ア バ ン 不 二 の 至 理 に 還 帰 す と観
る 。 亡者
を し て 引 導 せ し め 、 或 い は 、 瑜 祗 の内
證 に 住 し て 、 無 ( ? ) 即 無 明 の 深義
を 思 惟 し 、 霊 魂 を 解 脱 せ し む べ き な り 。 或 い は、 国 郡 村 柵 に 臨 ん で は 、 其 の 中 の 人 民 を 観 じ て 八 弁 の方
寸
を 開 き て 大 曼荼
羅
王 を安
立 す べ し 。 或 い は 河 海 万 流 を 渡 さ ん 時 は 、 バ ン 字 の命
を 誦 し て 、 清 浄 の 智水
と成
し 、 其 の 中 の 鱗魚
等
を 金 剛 の 聖衆
と 観 じ て 成 仏 を 念 ず べ し 。或
い は高
山 曠 野等
に 登 る に は、 そ の 中 の禽
獣 等 を ア 字 胎 蔵 の 聖 衆 と 観 じ て 開悟
せ し む べ き な り 。 こ の ご とく
、 蜂 虫 、 蠢 類等
に 至 る ま で 、 悉 く 一 境 一 縁 に 対 し て 各 々 の 仏 徳 を観
じ 立 て て 、 万 境 悉 く方
寸
に 帰 し て 遮 那 の 旦ハ 徳 と な るNII-Electronic Library Service 智山学報 第六 十輯 が 故 に 万 境 に
於
い て自
由自
在
な り と 云 う な り ( O ぴ 亠 09 ⊃ ) 。 「 実 用 の 学 」 。 諸 人 死 せ ん と す る 時 は 、 必ず
先
ず は 初 め に 眼 識 * * 故 に 眼 識 の 光 明 隠 没 す る な り 。 而 る 問 、 看 病 の 人 、 近処
に ( 居 ) れ ど も 見 ざ る な り 。然
れ ど も其
の名
を 呼 べ ば 、 こ れ を 聞 く な り 。 こ れ 眼 識 死 す れ ど も 、 耳 識 未 だ 滅 せ ざ る故
な り 。然
る 間 、 設 い 眼識
は 死 す る と も 頻 り に 其 の 名 を 呼 べ ば 、 蘇 生 す る な り 。 又 、 耳識
其 の、 次 に 死 す れ ど も 、鼻
識 は 死 せ ざ る な り 。 此 の 時 は 鼻 穴 へ蓬
の 草 に 火 を つ け て 入 れ 、 此 れ を 温 む れ ば 蘇 生す
る こ と こ れ あ る な り 。 亦 、鼻
識、 死 す れ ど も 、舌
識 は 死 せ ざ る なり
。 此 の 時 は 、舌
の 上 に、 或 る は、 ( 蘇 ) 香 円等
の薬
味
を 置 い て こ れ を 見 る べ き な り 。 而 れ ば 其 れ よ り 、蘇
生 す る こ とも
こ れ有
る なり
。 そ の次
に 第 六 識滅
し て 、 そ の次
に第
七 識滅
し て 、 二 十 四 時 過 ぎ て 第 八 識 滅 す る な り 。 か く の 如 く第
八 識 ま で 滅 し た る 時 、閻
魔 王 界 に 先 ず 行 っ て 、 云 々 ( 譜 笛 ) 。 此 の 如 く 阿 字 微妙
の 躰 を 刹 那も
観
れ ば 五蓋
の 惑 障 、忽
ち に 滅 し 、 須 臾 も 念ず
れ ば 四 身 の 果 位速
や か に 顕 は る な り 。 既 に 一見
阿 字 五 逆 消 滅 真 言 得 果 即身
成 仏 と 云う
が故
な り 。 而 も 行者
、寿
命
長 久 な ら ん 。 経 に 云 う 、 阿 ( 梵 ) 字 門 を 以 っ て 出 入 息 を作
し て 三 時 に 思 惟 せ ば 、 行 者 こ の時
に 能 く 寿命
を 持 ち 長劫
に 世 に住
す ( bo 餌 ) 。 既 に観
門 成就
す れ ば 一 切 の 法 は 法 性 の 果徳
な れ ば 阿字
の 一 刀 に納
め て 自 由自
在
な り 。 油 壺 も ア ビ ラ ウ ン ケ ン と 云う
( こ こ ろ ) な り ( ω N σ ) 。 一48
一N工工一Eleotronlo Llbrary Servloe
へ
3
. 頼 慶鈔
は 上 下 二 巻 よ り な る 。 要文
を始
と す る 十 一節
を も っ て 鈔す
。 上巻
の大
部 分 に 「 病 中 寓 言 抄 」 ( 自 ら が 病 中 に あ る こ と を 示 す ) と 題 し て 「 表 徳 門 の 大 綱 、 是 れ 阿 字 門 の 大 意 」 、 即 ち 序 と 阿 字 ・ 字 相字
義
、 遮 表 ( 遮 情、 表 徳 二 門 ヘ へ に 分 か つ ) の 本 不 生教
理 論 を 展 開す
る 。 続 い て 聖 憲 「 病中
寓 言 」 の 「 抄 」 、 以 下 本 文 の 「 鈔 」 ( 下 巻 に 渡 る ) 。 ( 三 序 に 、 聖 憲 に 至 る 「 阿字
観本
不 生 の覚
道 」 の 伝 承 を 述 べ 、 之 に従
う 学 究 と し て 、 冗 長 で は あ る が 真摯
の 情 と 、 丁 寧 な説
明 を つ く す 。聖 憲作 、 良尊鈔注 「病中寓言 阿字観鈔 」考 (二)(森口) 「 自 心 本 具 の 色 心 の 実 体 の
常
住 を 疑う
べ か らず
。 自 心 本 具 の 色 心 は 、 十 界 能 造 の 六 大 な り 。 自 心 の 六大
は 不 生 不 滅 の 故 に 、 こ れ を 覚 れ ば 我覚
本 不 生 な り 。 一 切智
人 なり
。 如 実 知自
心 な り 」 と いう
の が本
論 の眼
目 で あ る 。 当 論 に 一 貫す
る 意 は 「如
実 知 自 心 」 に あ り、 そ れ は 「 情 欲 を逞
し ふ し て 、表
徳 の 実 談 に誇
る 」 当 世 ア ジ ャ リ 批 判 で あ り 、 勧 学 運 動 へ の意
思 をも
表
明 し て い る 。 「 遮 表 二 門 の 本 不 生 」 。 阿字
は 一 字 に 深 義 ・法
理 と し て有
・ 空 ・ 中道
の 三 諦 を 含 み 、 大 日 経 疏 七 に、 こ れ を 不 生 義 、 空 の 義 、 有 の義
と す る こ と等
、 三 義 に よ っ て覚
者 と 我 ら 人 身 の 生 死 を も 説 明 し て 、 云う
。 「今
、 且 く 三 義 の 中 に 不 生 の 一義
に つ い て 観 門 を示
す べ し 。 此 れ に 遮 表 二 門 を 分 別 す べ し 。 遮 情 門 の 本 不 生 は 諸法
の 空 を 観 じ て 迷 情 を 遮 す る こ と 顕 密 通 用 な り 。 表 徳 門 の 本 不 生 は 自 心 を 観 じ て 曼荼
の 本佛
を表
顕 す 。譬
へ ば 遮 情 は 霧 を 拂 っ て 晴 天 を 見 る 如 し 、 表 徳 は、 晴 天 の 空 中 に 満 月 を 現ず
る が如
し 」 ( 刈 σ ) 。 「 遮 情 門 本 不 生 」 。 「 生 の 當体
、 即 空 の 故 に 不 生 な り 。実
に 大乗
の 肝 心 な り 。法
相 の 円 成 の妙
理 、 三 論家
の 八 不 の 空観
、 天台
の 寂 光 、 華 厳 の 果 分等
、 四 家 の大
乗 は、 実 に 尓 な り 。 亦 、 禅 宗も
浄 土宗
も 此 の観
を 用 い る や 。 答 え て 曰 く 、 亦 之 を 用 い る な り 」 ( HO 巴 。顕
密 、 浄 、 禅 共 通 の 基 盤 で あ る 皆 空 、 唯 心 、 「我
此 心 為 青為
黄 」 、 不 可得
と は無
自性
の 義 な り 、 心 源 空 寂 ( 5 ) の 不 生 不滅
で あ る と し て 、 す く な く も 浄 土 、禅
家 の 教 義 を 考察
し ( 一 雷 げ ) 、 例 え ば 遮情
門 の本
不 生 を 、 有 所 得 門 の 人 が 後 に 無 所 得 門 に 入 り 「 懺 悔 を 懺 悔 す る 」 ( c。 σ る σ )等
と 例 示す
る 。次
に 「 表 徳 門 の 本 不 生 と は 」 と し て 、 深 秘 の 所伝
、今
始 起得
本 来 有 故 の 観 門 なり
。宗
の 意 は 、 一 切 の 事 法 に お い て 皆 金剛
の 名 を 得 る 。 こ れ 本有
常 住 、 不 生 不 滅 の義
な り と し て 「 阿 字 本 不 生 の故
に 、自
心 の本
不
生 を知
る 。是
を 、 知 自 心 と 云 う 」 の テ ー マ のも
と 諸 経論
NII-Electronic Library Service 智山学報第六十輯 を 引 い て
自
身
の 学 解 を 展 開 す る 。 「知
自 心 の自
心 と は 」 、 自 性 清浄
に し て 無改
な る 無 始 本 具 の 色 心 に し て 、 第 八 チ ッ タ 心 で あ り 、第
八 チ ッ タ は 必ず
第
九 ブ リ ダ心
・ 内 心 を 具す
る こ と 、 こ の 第 八 識 が 円 明 の 浄 識 で あ る こ と等
を 説 い て 、 金 剛 頂経
、大
師 云 ( 秘 蔵 記 * ) 、 〔 6 )景
徳伝
統 録 ・ 龍 樹伝
、 菩提
心 論 に よ っ て、無
所
得
の 心 に 「 円 明 を観
ず
る は こ れ 至極
の義
」 な る こ と を 証 し 、 過 去 世 の 業力
の 所感
・ 当 来受
生 の 中 有 の 一 念 を 説 い て 、 つ い で外
縁
の 去 来 を も っ て 、 自 心 本 具 の 色 心 の 実 体 の 常住
を 疑う
べ き で な い と 言 う 。 「 本 不 生 論 の 結 語 」 。 疏 に 云う
、 阿 字 門 に 入 る を 以 っ て の故
に 一切
諸法
阿 字 門 に あ ら ざ る こ と 無 し 云 々 。故
に 知 ん ぬ 自 心 本 具 の 色 心 は 、 十 界能
造 の 六 大 な り 。 自 心 の 六大
は 不 生 不 滅 の 故 に、 こ れ を覚
れ ば 我覚
本 不 生 なり
。 一 切 智 人 な り 。 如 実知
自 心 な り 。大
日 経疏
に 云う
、 阿 字 門 一切
諸 法 本 不 生 な る が故
に 、若
し 本 不 生 際 を 見 る 者 は 、 即 こ れ 一 切 智 々 な り 。 故 に 毘 盧 遮 那 は 、唯
こ の 一 字 を真
言 と為
し た ま う と 云 々 ( 卜。 冨 占 ) 。 結 語 に 附 し て 言う
。今
、 阿 字観
と は 、 即 こ れ 自 心 の 覚悟
な り 。而
る に当
世 の 阿 闍 梨 、 或 い は 父 母 交 会 の 二 水 を 丸 じ て 之 を 造り
、 或 い は 色 法 の 息 風 を こ れ を 授く
。 狂 乱 の 基 い な り 。 何 ぞ 火 坑 を 道 は ん 。 私 に 云う
。 宗 義 の 顕 露 を 恐 る と 雖 も 、 末 世 の 邪師
、 華夷
に多
く 邪 作 を傳
う 。 そ の 嘆 き 無 念 の 故 に 翰 墨 に 載 す 。 具 さ に は 別授
の 如 し、 已 上 ( 卜。 一 σ 山 錚 ) 。 ヘ へ 頼 慶 に は 、 当 抄 よ り 以前
に 書 か れ 当抄
に 及 ぶ と 考 え ら れ る 著書
も存
在 す る 。 「 阿 字 本 不 生義
」 上 下 二 巻 、 一 冊 、 明 治 二 十 九年
写
本
。 慶 長 十 二 年 九 月 中 旬 ( 成 書 ) 沙 門 頼 慶 四 十 八才
。 大 正 大 学所
蔵 。 番号
一愈
\ 畠 O 丶 教外
別 伝 な ど 禅 へ 家 に つ い て の 言 及 、当
抄
同 の嘉
祥
大 師 釈 文、 ( 諸 業 ) 大 懺 悔 法 な ど を 引 く 。 ( 密 教 大 辞 典 、 国 書 目 録 不 載 ) 。 ま た 、 「 遮 表 深 義鈔
」 二巻
( 密 教 大 辞 典、 国 書 総 目 録 所 載 ) が あ る 。 一50
一 N工工一Eleotronlo Llbrary聖憲作 、良尊鈔 注 「病 中寓 言 阿字観鈔 」考 (二 )(森口〉
4
. 良 尊 は、 上 下 二巻
、 十 一 節 に 分 か ち 、第
一 節 よ り 順次
解説
す
る 。但
し 第 一 節、 「惣
」 ・大
綱
冒 頭 の 要句
、 「 阿 字 一 刀 」 の 下 に、 阿 字義
、 「相
義
四 重 ・呆
寶
の 義 」 を 挙 げ て 、 阿 字 本 不 生 、 遮 表義
を 箇 条 整 理 と し て 提 示す
る 。 頼 慶 の 「 阿 字 門 の 大意
」 に 相当
し て、 頼慶
と 結 構 お よ そ 同 で あ る 。 「 呆寶
の 義 」 に 続く
部
分
は 、 良尊
の本
不 生 論 と し て そ の 眼 目 を 示 す 。 禅 門 に 約 せ ば向
上 の 一 路 、 密 宗 に 約 せ ば 上 上方
便 な り と 言う
。 後 記 に 「雛
僧 来 たり
て 云 は く 、 阿 字観
の鈔
、 先 記 巨多
に し て 攤 く に 倦 し と 云 々 … 。 破 邪 顕 正 、 損 に 似 て 還 っ て 益 な り 。 一 覧 の 才 子 、破
せ よ、 破 せ よ 矣 」 と 言う
。 雛 僧 へ の励
ま し と と も に、 学 侶 と し て の矜
持
と 確 信 の も と 、 破 邪 顕 正 の 意 思 を 示 す 。 頼 慶 と 異 に し て の 箇条
整 理 は 、 雛 僧 に と っ て か え っ て 理 解 の 困 難 が あ ろう
。 良尊
は 、 左学
頭 政 遍 の 下 に 御前
論 議等
に 参 じ て い る 。 著作
に真
言 五字
義、 理 趣経
鈔 疏、 釈 論稿
数 十 帖 が あ る と さ れ る ( 密 教 大 辞 典 ) 。 頼 慶 清書
の 五 年 の後
に 当 鈔 注 を 成 書 し た 。 後 の 者 が 損 をす
る こ と であ
る か 、 頼 慶 成書
本
を 見 て い る 可 能性
も あ る 。本
不 生 論 ほ か多
く の 引 用 証文
の 共 通 、 頼慶
と 同 誤記
の 血 脈 譜等
。 両者
の 関 係 、 動 向 に つ い て は 「 高 野 春 秋 」 に 幾 分 の 資料
が あ る、 こ れ等
に つ い て は別
稿 に 譲 る 。 以 下 は 、 本 不 生 義 の要
所 で あ る 。 「 相 義 四 重 」 ( 一 、 二 省 略 ) 一 、秘
中
の 深 秘 。 不 可 得 を も っ て 字 相 と為
し 、 円 明 を も っ て 字義
と為
す
。 不 可 得 と 言う
と 雖 も 可 得 の 字相
に 依 っ て 、 不 可得
の 理 と 作 し て 、 未 だ 能 所 の 二 相 を 離 れ ざ る が故
に 、 字 相 に 落 つ 。 次 に 、字
義 と は 、 文字
の 当 体 、直
に 円 明 の 心体
に し て 、 詮 ・肯
不 別 な る 処 こ れ字
義
なり
。 大 疏 に 云う
。能
く 字 の 本 性 に 達 す れ ば 、 即 こ れ 円 明常
住 な り 云 々 。 一 、秘
秘 中 の 深秘
。 能 所 不 二 の 円 明 を字
相 と 為 し 、能
所
本 有 を 字義
と 為 す 。大
師 、 能所
の 二 生有 り と 雖 も、 全 て 能
所
を絶
す 。法
尓 の 道 理 に何
の 造作
か有
ら ん 。 能 所等
の名
は 皆 な こ れ 密 号 名 字 な り 云 々 。 途 絶 能 所 は 遮情
、 密 号 名 字 は表
徳
。以 上 呆 寶 の 義、 略 し て 肝 を 抜 く ( 上 四 ) 。
NII-Electronic Library Service 智 山学報 第六十輯 一 、 阿 字 の 一 刀 は 本 不 生 の
義
、 遮 情 に 約 せ ば 、 因 縁 生 の 法 は 無自
性
の故
に 実 の 生無
し 。 既 に 実 の 生 無 け れ ば 、 ま た 実 の 滅 無 し 。 不 生 不 滅 こ れ 遮情
の 本 不 生 な り 。 無 量義
経
に 、 本 来 不 生 な れ ば 、今
ま た 不 滅 な り 云 々 。疏
に は 、 因 縁 生 故 、 無 自性
。無
自
性故
、 即是
本 不 生 文 。 表 徳 に 拠 ら ば 、 本有
・ 不 死 生 の 故 に本
不 生 と 名 つ く 。 迷 悟 善 悪 の 当 体 、 法尓
の道
理 の故
に各
々自 建 立 に し て、 い ず れ も 実 際 に 本 つ
く
。 能 所 の 二 生有
り と雖
も 、 全 て能
所
を 絶 す る こ と 、 拳指
の 開 合 に 似 た り 。 大 疏 に 曰 く 、直
約 諸 法 、 令 識其
心 云 々 。 大師
、 浮 雲 いず
れ の 処 より
か 出 ず る 、本
こ れ 浄 虚 空 、 一 心 の 趣 を 談 ぜ ん と 欲す
れ ば、 三 曜 天 中 に 朗 ら か な り 云 々 。 以 上 は所
覚 の 遮表
な り 。 一 、 能 覚 の 遮 表 と は 。 無 念 の念
は 絶妄
の 利剣
、 こ れ 遮 情 な り 。 不観
の 観 は 見 真 の 明眼
な り、 ま た こ れ表
徳 なり
。 金 剛 頂経
に 無 所 得 の 心 に 円 明 を観
ず
云 々 ( 上 鳥 ” ) 。 一 、 生 死 ま た斬
り
涅槃
ま た斬
る と は 、 仏果
・無
上 の 一 刀 な る が 故 に 、 等 覚已
還 の 生 死 、 涅槃
、 悉 く斬
り 尽 く す な り 。 禅 門 に 約 せ ば向
上 の 一 路 、 密宗
に 約 せ ば 上 上 方 便 な り 。 夫 れ 、向
上 の 一路
を 踏 む 則 は 祖 に 遇 い て は 祖 を 殺 し 、 仏 に 遇 い て は 仏 を 殺 す 。 然 る あ い だ、文
殊
は 剣 を揮
っ て 瞿 曇 を 殺 し 、 鴦 拙 は 刀 を 持 し て釈
氏 を 害 す 。 い か に 况 ん や、等
覚
已 還 の 生 死涅
槃
を や 。義
玄 禅師
の 云う
。 菩薩
羅 漢悉
く 枷 鎖 なり
。 そ れ 故 に 、文
殊 は剣
を 杖 つ い て 瞿曇
を 殺 し 、鴦
拙 は釈
氏 を 害す
。若
し 人仏 を 求 め ば 是 の 人
仏 を 失 し 、
若
し 人道 を
求
め ば 是 の 人道 を 失 す 云 々 。 円 覚 経 に 云 う 。
衆
生 は 解 の た め に 礙 え ら れ 、 菩薩
は覚
を い ま だ 離 れ ず 云 々 。 以 上、 遮 情 無 相 の 義 ( 上 お 亠 。。 ∀ 。 一52
一N工工一Eleotronlo Llbrary Servloe [
皿
]三
者
の禅
論
1
. 裕 宣 は 禅 家 を 本 来 無 一 物 ( 遮 情 門 ) と 教 判す
る か ? 「 十 牛 図 」第
】 を 挙 げ て 、 禅 家 に 関 す る見
解 を 示 す が 、後
に 見 る よ う に 十 全 で は な い 。 お そ ら く 「十
牛
図 」 を 見聖憲作 、良尊鈔注 「病 中 寓 言 阿 字 観鈔」考 (二 )(森口) ( 6 > る 機
会
を 得 る こ と は無
か っ た も の と 思 わ れ る 。鈔
序 に次
の 如 く 言 い 、 他 は 断 片 的 で あ る 。 「 そ れ 、 ア 字 と は 万 法 の 根 源 、 本 初 不 生 の 躰 な れ ば 、従
凡 入 佛 の 正 門 、 如 実 知 自 心 の 直 道 な り 。 … … 阿 字 は 是 れ 難 信難
解
の 法 な れ ば 我 等 が 如 き 凡夫
と し て は 、易
く 直修
直 観 す る こ と 能 わ ざ る な り 。 故 に 大 師 の 御釈
は 、 五 居 足 断 十慮
手
亡 文 。経
に は 、 我本
無 有 言 文 。疏
に は 出 過 一 切 心 地 攴 。或
い は 、 従 本 以 来 、 不 生 ( 即 ) 是成
仏 、 而 、 実 無覚
無 成 支 。 禅 家 に は 此 の 位 を 本 来無
一 物 と 立 つ る な り 。 密 家 に お い て は 、其
の 阿 字 の妙
躰 に 有 空 中 の 三義
あ り 。 ( 四 重 秘 釈 ) … … 四 は 、 秘 々 中 の 深秘
の無
相 は 不 二 心 な り 。 こ の 義 は 如 義 語 も 及 ば ず=
心 も 縁 ら ざ る 無 相 微 妙 の 玄 底 な り ( ご 歯 ゜。 ) 。裕
宣
は 、 大 綱 本 文 「 只 管 に 実 解 無 し と 云う
なり
」 の 「 只管
」 の 語 に事
寄 せ て 、 「 十 牛 図 」 の 第;
尋牛
の 二頌
を 引 い て 禅家
を 説 明 す る 。 只 管 の 「管
」 を 、 駒 笛 ( コ マ ブ エ ) と 訓 ず る と 限 定 し て 、 只 管 の 主 、 駒 笛 を吹
く 主 を 問 題 と す る 。文
意
不 明 の と こ ろ も あ る が 、 尋 牛 の 二 頌 に あ る 「但
、 聞 く は 風 樹 ( に 晩 ) 蝉 の 吟 」 、=
曲 ( の ) 新 ( た に ) 豊 ( み ) 空 ヘ へ ( し く ) 自 ら 吟 ず 」 に 触 発 さ れ 、 そ の 趣 を 伝 え る 和 歌 を 加え
て解
す
る 。 禅 の 学 者 、 只管
の 主 は 、 空 し く 彷徨
う
の み で あ る 。尋
「 牛 」 を無
( 無 所 得 ・ 不 可 得 ) の黒
色
と も 解 し て い る 。真
言表
徳
の意
を述
べ ん が 為 の 牽 強 付 会 の 感 な き に も あ らず
で あ る 。 「 是 れ牛
を 尋 ( ね て V ロ ハ管
( コ マ プ エ ) を 】 曲 新 た に吹
( き ) 空 く 其 の音
を 吟 ず と 云う
義 な り 。 其 の 牛 と は如
上 の 無 の 黒色
なり
。 真 言 の 意 は、 其 の 只 管 の 主 と は 是 れ 阿 字 な り 。 此 の 阿 字 不 生 の 躰 は 万 法 能 生 な る が 故 に、 其 れ よ り笛
の 音 も出
で て 種 々 の 音 色 之 れ 有 る な り 。 既 に 開 口 阿 字 な る が 故 な り 。故
に 阿 字 不 生 の 実 躰 を知
ら ざ る 義 を 、 ロ ハ 管 に実
解7
)無
し と 云 う な り 」 。 「 十 牛図
」 第 一序
に は 「 従 来 失 せず
、 何 ぞ 追尋
を 用 い ん 。 … …得
失 熾 然 と し て、 是非
鋒
起 す 」 と 言 う 。 十牛
図 は 、 本来
の 自 己 を 見 失 っ て い る 者 の 、 己 事究
明 の 十 階 梯 で あ る 。第
九 、 十 階 梯 に は 本 来 の 自 己 と あ る べ き真
実
の 世 界 は 一 一NII-Electronic Library Service 智山学報 第六十輯 提 示 さ れ て い る 。 裕 宣 は 意 図 的 で あ る か 、 図 の 、 こ の 「 序 」 に つ い て 触 れ な い 。
2
. 頼 慶、 良尊
の 「 無 所 得 の 心 に 円 明 を観
ず
る は こ れ 至極
の義
」 頼 慶 は さ き の [1
の3
] 、 「表
徳
門 の本
不 生 」 に つ い て 、 金 剛 頂 経 、大
師
( 秘 蔵 記 ) 、 「 景 徳伝
統
録
・ 龍 樹伝
」 、 菩 提 心 論 に よ っ て 、 無 所 得 ( 不 可 得 ) の 心 に 「 円 明 を 観ず
る は こ れ 至 極 の 義 」 な る こ と を証
し 、 禅 家第
十 六祖
龍
樹 が、 身 に 円 月 の 相 を 現 じ て 、 以 っ て 諸 仏 の体
を 表 し た こ と を 引 い て い る 。 道 元 は 、 「 正 法眼
蔵 ・ 仏 性 」 に こ れ を 引 き、 詳 細 に そ の 真 意 を 述 べ る と こ ろ で あ る 。 頼 慶 は 、 恐 ら く 眼 蔵 を 読 む所
で は な い と 思 わ れ る が 、真
言 に 標榜
す る 表 徳 の 実義
あ
り
と し て 、 禅 を こ こ に 教 判 し て い る 。 良尊
は、 同 上 [H
の4
] に 、 無 所 得 の 心 に 円 明 を観
ず と いう
も
、 此 の 文 の 意 味 説 明 は 無 い 。 「 禅 門 に 約 せ ば 向 上 の 一 路 、密
宗 に 約 せ ば 、 上 々 方 便 な り 」 。 ま た、 「 上 上方
便 智現 在
前
す
る 則 は 、微
細 の 一 穢即 ち 金 剛
薩
垣 と 顕 る 」 と 言う
。 こ れ ら は表
徳 を表
明 す る た め に 、 限 宀 疋 さ れ て 用 い ら れ て い る の で あ る が 、 先 の 「 阿 字 の 一 刀 」 に 、 表 徳 を 所 覚 の 遮 表、 能覚
の 遮 表 に 分 か っ て 、 能覚
の 遮 表 を 「 無 念 の 念 は絶
妄
の 利 剣 」 と 「 不 観 の観
は見
真 の 明 眼 な り 。 ま た こ れ表
徳 な り 。 金 剛 頂 経 に無
所
得 の 心 に 円 明 を 観 ず 云 々 」 ( 上 山 〉 。 と し て 、 こ こ に 禅 を能
覚 の 遮情
と し て 教 判 し て い る と 考 え ら れ る 。 一54
一N工工一Eleotronlo Llbrary Servloe
3
. 「 万 境 に お い て自
由 自在
」 と は 聖 憲 「 観 門 の大
綱
」 の 要 文 第 二 節 に 「 万境
に お い て 自 由 自 在 」 と あ る 。 こ の 語 は 禅 家 に触
発 さ れ た コ ト バ で あ る 。 聖 憲所
引 の 文言
に よ れ ば 、 「自
由 自 在 」 と は 、 吾 人 が 「 他 の奴
と な ら な い こ と 」 で あ り 、 そ の た め の 行 境 と し て 「 放 下 万 縁 」 で な け れ ば な ら な い の で あ る 。 そ し て 、 万 縁 と は 、 「客
と の 酬 対 ・喫
飯 着 衣 ・痾
屎 送 尿 ・喜
怒 哀楽
」 の聖 憲作、 良尊鈔 注 「病 中寓 言 阿字観鈔 」考 (二) (森口) 日 常 に あ る と 例 示 さ れ て い る 。 裕 宣 に は 先 の 如 く ( 豆 、
2
・ 万 境 自 由 自 在 ) 、 自 ら の 四 度 加 行等
、 行法
の 体 験 的 理 解、 行 境 を お も わ せ る 】 貫 す る特
色 が あ っ た 。 こ こ で は 「 放 下 万縁
」 で あ る観
道 の 姿 を 挙げ
る 。 頼慶
と良
尊 は 、 語 の 出 典 を 示 し て の 会 通 を 出 で な い 。 ( 裕 ) 自 他簡
別 の 愛 憎 の 二 境 現 前 す る 、 或 い は 愛 し て 愛 着 の執
を 起 こ し、 或 い は 憎 み 違 念 を 起 こ す は 至極
の 迷 妄 の 至 り な り 。 此 の如
き 時 は、 我 が為
に 愛 境 来 た る を ば 、 己躰
に 既 に本
覚 の 阿 字菩
提 心 を 備う
る が 故 に 、 そ の 菩 提 心 を 即、 不 動 尊 と 観 じ て 、自
身 不動
明
王 の 上 の 金 迦 羅 童 子 の内
證 と 観 る べ き な り 。 金 迦 羅 は 、 此 れ に は恭
敬 小心
者
と 云 う なり
。愛
の 心 なり
。 本尊
の 左 に 居 す 。 又 、 違 境来
る と き 憎 恚 す る を ば、 是 れ 即 己身
、 不 動尊
の 制多
迦童
子 と観
る べ き な り 。 此 れ に は 難 苦 語 悪 の 聖 者 と 云 う な り 。 本尊
の 右 の 方 に 、 赤 色 に し て 瞋 の す が た に居
る な り 。 然 れ ば 、 … … 。或
い は 朝 夕喫
飯
す る と こ ろ の 食 物 に 向 かう
時も
、 自 身 を 不 動尊
と 観 じ て 食 す る と こ ろ の食
物 を ば 護摩
の焚
焼 の 供物
と 観 じ て 食 す る な り 。 口 を ば 即 ち 壇 炉 と 観 ず べき
な り … … ( も。 一 鋤 ) 。 ( 慶 ) 「自
由
自 在 」 と は 、 万 境 を 以 っ て 心 に 巻 き 心 よ り 舒 ぶ る自
在
の義
な り 。 碧岩
に 云う
、 方 ( め て ) 自 由 自 在 の 分 あ ( ら ん ) 云 々 。 ま た 第 七 識 を 明す
と し て 、 人 を し て 自由
自
在 な る こ と を 得 ざ ら し む と 云 々 。 万 法 の 上 に お い て 阿 字 の 一 刀 を 揮 い て 順 逆自
在
を 示す
な り 。 碧岩
に 云う
、 大 将 軍 の 大 刀 を 奪却
し て手
に 入 る る が如
し 。 佛 に 遇う
て は佛
を さ っ 殺 し 、祖
に 遇 う て は 祖 を 殺 す 。 生 死 の 岸 頭 に お い て 大自
在
を 得 と 云 々 、 こ の説
に よ る な り 。 心 外 に 佛 祖 を 見 る を 殺 す る こ と 、 文 殊 の 四 佛 を 斫 る に准
ず
。 ( ω ド σ ) 「得
此 巨益
文
」 、 上 の 自 然覚
の 人 、 金 剛 界 に 入 り て 主 人 公 と 作 る こ と を 挙 ぐ 。 主 人 公 の名
、楞
嚴 経 に 在 り 。 「 放 下 万 縁文
」 、 心 に 分 別 を離
れ 、身
苦
行
を 脱 す る な り 。 碧 岩第
一 に 云 う 。 得 失 是 非 一時
に 放 下 す と 云 々 。放
下 は 脱却
な り ( ω 9・ ) 。 ( 良 ) こ れ は 、 阿 字 の 一 刀 を 以 っ て 心 外 の 諸法
を 斬 れ ば 、 法 界方
寸 に 収 ま り 、 万 境 自 心 に帰
す る こ と を 明 かす
なNII-Electronic Library Service 智山学報 第六十輯 り 。 「 運 用
自
在
」 と は 、 阿字
の 一 刀旋 転
自
在
に し て 、舒
ぶ れ ば 沙海
に 溢り
、 巻 け ば 方 寸 に 収 ま る 。 巻 舒 自 在 の 證 理 なり
。 … … … 万 境 に お い て 自 由 自 在 なり
と は 。触
目 、対
境 の 諸方
、 心 外無
別 法 と 覚 る 義 な り 。 頌 し て 曰 く 、 五 蘊虚
妄
の 体 、 悟 れ ば 五 智 の 臺 に 昇 り 、 ⊥ ハ 塵 境 界 の 垢 、盡
れ ば 六 大 の 源 に 帰 す 。 止 観 に 曰 く 。 迷 え ば 即 ち方
寸
も 千 里 の外
、悟
れ ば 即 ち 十方
も 一 心 の 中 文 ( 下 冨 − σ ) 。 「 此 の 巨 益 を 得 る は 、 万縁
を 放 下 し 、 阿 字 を挙
ぐ る 一 念 の 力 の 致 す と こ ろ な り 」 。 こ れ は 、 成 自 然覚
の 人 、 阿 字 の 一 刀 を 以 っ て 生 死 涅槃
を 斬 り 、法
界
宮
に 入 り て 、 主 人 公 と 作 る 広 大 の巨
益 な り 。 「 こ の巨
益 を 得 る 」 と は 、 諸 尊各
々 の 三 昧 、 個 々 円 成 の 妙 理 な り 。 一 を挙
げ て 万 を 察 す る に 、 因 位 の 四 煩 悩 は 果位
の 四 金 剛 と彰
る 。煩
悩 即 菩 提 の 功徳
、 こ れ 甚 深 の 巨 益 なり
。 「 万 縁 を 放 下 し 」 と は 、 心身
安
適 の義
、 心 は得
失 是 非 を 脱却
し 、身
に は 昇 沈 苦 行 を 踏破
す
。 こ れ 皆 な 阿 字 一 念 の 力 用 な り 。 碧 岩 に 曰 く 。得
失 是 非 、 一 時 に 放 下す
文 ( ・ 。 σ 山 曽 ) 。 「 自 由 自 在 」 な る 四 字 熟語
の使
用 は 、 「碧
巌 録 」 ( 岩 波 文 庫 ) に僅
か 三 所 ほ ど で あ る 。 「 自 由 」 、 「 自 在 」 は 諸 所 に 表 現 へ さ れ て い る 。 密 家 に あ っ て は仏
菩 薩 の 自在
( 三 界 得 自 在 な ど ) 、観
( 法 ) 自 在 ( 印 言 を 自 在 に 伎 る ) は あ っ ても
、行
者
の 行 境 の 表 現 に 用 さ れ る こ と は 稀 な こ と で あ る と 思 わ れ る 。 「 臨 済 録 」 ( 角 川 文 庫 ∀ に よ れ ば 、 ( 自 由 自 在 ) と は 禅 家 に お け る 見 性 の結
果、 行 境 と そ の 生 を 示 す 話 語 であ
る 。 「 水 を 履 む こ と 地 の 如 く 、 地 を 履 む こ と 水 の如
く な ら ん 」 ( 頁 b。 ) に象
徴 さ れ る 。 臨済
は 衆 に 示 し て 云 う 。 「 道 流 、 仏法
は 用 功 の 處 無 し 。 祗 、 是 れ 平常
無
事
、 痾 屎 送 尿 、 着 衣 喫 飯 、 困 し 来 れ ば 即 ち 臥す
。 愚 人 は 我 を 笑 ふ 。 智 は 乃 ち 焉 を 知 る 。古
人 云 く 、 外 に向
っ て 工 夫 を作
す 、 總 に 是 れ 癡 頑 の漢
と 。休
且 く 随 處 に 主 と 作 れ ば 、 立 處 皆
真
な り 。 境 来 れ ど も 囘 換 す る こ と を 得ず
」 ( 頁 お ) 。 私 に 理 解 す る と こ ろ、 禅 家 は そ の 「 見 性 」 ・ 行 境 を、 密 家 に 「 究 竟 方 便 」 、 「 無 相 の 無 相 」 ( 限 定 す る こ と の 出 来 な い 幅 の 広 い コ ト バ で は あ る ) の 実 際 で あ る と こ ろ を 、 道 を 、 己 事 究 明 の 結 果 と し て の 自 己 を 、 自 己 の言
葉
で 表現
す る 。 一56
一 N工工一Eleotronlo Llbrary聖憲作、 良尊 鈔注 「病 中寓言 阿字観鈔」考 (二 )(森口)
打
座 で あ れ 、 公 案 で あ れ 禅家
は 、 こ れ に直
入 し よう
と し 、 そ こ か ら 動 く こ と は 無 い 。 例え
ば 、 「碧
岩録
」 第 三則
、 圜 悟 の 垂 示 に 、 彼等
に と っ て の 向 上 の 一 路 で あ り 、 「 不動
生 死 」 で あ る と こ ろ は 、次
の よ う に提
示 さ れ て い る 。 「 あ れ こ れ 、 こ の よう
であ
っ て も よ し 、 こ の よう
で な く と も 、 又 よ い 。 は な は だ 、 繊 細 微妙
で あ る 。 こ の よう
で あ っ て も、 ま た 、 よ く は な い し 、 こ の よう
で な く と も 、 ま た よ く は な い 。 こ の こ と は ひ とり
高 く そ そ り 立 っ て峻
険 で あ り 、 稜線
滑 落 あ る の み の 道 で あ る 」 ( 筆 者 、 文 庫 注 に よ る 意 訳 ) 。鈔
注 者 の 引 く 「 禅 語 」 の背
景
に あ る も の は、 禅者
の 「 見性
」 で あ り 、 日 常 茶飯
に 一貫
し て こ そ あ る 行 動 の 実 際 であ
る 。 峻 険 の 稜 線 を 歩 む 、 独 り 】 人 の姿
が 語 録 に と ど め ら れ て い る こ と は 明 ら か で あ る 。爾
来 三 者 の 特 色 を そ の 要文
に求
め た 。 聖 憲 「観
門 の 大 綱 」 の鈔
注 と し て 、 「 観 道 の 姿 」 を 説 明 、 理 解 し よう
とす
る も の で あり
、 あ る い は 「 観道
」 の 原 理 論 で あ る 「 表徳
門 の 大 綱 」 ・ 「 阿字
門 の 大 意 」 を 述 べ た も の で あ る か ら 、 こ の よ う な説
明 と も な る の で あ る か と 思 わ れ る が 、 肝 心 の 問 題 があ
る 。 彼 ら が 「 表 徳 の 実 義 」 と 言う
と こ ろ の 究 極 、 上 々 方便
、 無 相 の 無 相 は ど こ ま で も 「 経 ・ 論 」 に よ る 説 明 、 コ ト バ の み で あ り 、 そ れ を 生 き る 自 己 の 実 際 、 自 己 に お け る 不 動 生 死 の 具 体、 実態
は な い 。 彼等
に よ っ て 自身
の こ と と し て 把 握 さ れ て い る の か 否 か は、 下巻
の 鈔 注 よ っ て も 明 ら か で は な い 。 総 じ て 、真
言 家 に 真 言事
教 二 相 と言
う 、 そ れ ぞ れ を 専 門 とす
る こ の 両 者 が 、 そ れ ぞ れ 分 野 の学
識 を も っ て 、 仏 の 世 界 と 仏 の 心 を 説 く 「 経 ・ 論 」 に 、学
解 を 求 め 注解
研 究 す る 。 自 ら の 覚悟
、 行 境、 そ の 日 常 茶飯
底 を 自 ら の コ ト バ と し て は 語 ら な い 。 た と え ば 、 次 の 「 頌 し て 曰 く 」 以 下 は良
尊
作 の 頌 であ
り 、 他 の 二者
の 説 明 で あ る 。 「 万境
に お い て自
由 自 在 なり
と は 。 触 目 、 対 境 の 諸方
、 心 外無 別 法 と 覚 る 義 な り 。 頌 し て 曰 く、 五
蘊
虚 妄 の 体 、 悟 れ ば 五 智 の 臺 に 昇 り 、 六 塵境
界 の 垢 、 盡 れ ば 六 大 の 源 に 帰 す 」 と 言う
こ と の 実 際 は どう
で あ る の か 。 ま た 、 「 問 う て 曰 く 、 発 心 の 一 刀 、 漆 桶打
破
甚 麼 。
答
え て 言 う 。 一論
に 曰 く、 誓 心 決定
す る が故
に 魔宮
振 動 し 、 十方
の 諸 仏 一57
一NII-Electronic Library Service 智山学報第六 十輯 皆 な 悉 く 證 知 し た ま
う
文 」 と い う こ と の実
際 は どう
な の で あ る か 。 或 い は 裕 宜 云う
「 国 郡 村柵
に臨
ん で は 、 其 の 中 の 人 民 を 観 じ て 八 弁 の方
寸 を 開 き て 大 曼荼
羅
王 を安
立す
べ し 」 と 言う
こ と の、 人 民 の 実 際 は どう
で あ る の か 。 或 い は 頼慶
云う
「自
心 本 具 の 色 心 は 十 界 能 造 の 六 大 な り 。自
心 の 六 大 は 不 生 不 滅 の 故 に 、 こ れ を覚
れ ば 我 覚 本 不 生 な り 。 一 切智
人 な り、 如 実 知 自 心 な り 」 と 言う
こ と の 実 際 は ど う な の で あ る か 。 裕 宜 、 頼慶
は後
記 に 云 う 。裕
宜 は 、 聖 憲 が 時 代 の 中 で 「観
門 の 大 綱 」 を 書 か な け れ ば な ら な か っ た ( 覚 鑁 同 様 ) こ と を知
っ て か 、 知 ら な く て か 他宗
禅 を と り あげ
て真
言観
法 を説
く こ と を 「偏
に 禅 録 の 言 に も 局 らず
」 、 「 互 い に 兄弟
、 師 弟 と な り て観
法 を 相伝
し た 」 と フ オ ロ ー す る 。 聖 憲 「 観 門 の 大 綱 」 を 読 む に 「 禅 家 、 不 堪 の 人 、 此 の書
に付
い て私
を 付 す る は皆
、 謬 る義
こ れ 有 り 」 と 忠 告 を な し 、 自 分 は幸
い に 「 両観
自
在
の 明 師 に 遇う
」 こ と が 出 来 て こ れ を講
ず
る と 言う
。頼
慶 は 、 「 本 不 生 の 義 、宗
義 の露
見 を 恐 れ て 詞 に 出 さず
。 只、 面受
耳
語 に 在 り 。聴
許 を 蒙 む らず
ん ば 、 〔 旦書
写 に 及 ぶ べ か らず
。 頗 る 猶 を 冥 の 恐 れ 有 り 」 と自
戒
す る 。 こ こ に は 、古
来真
言家
の 事 教 二相
に あ っ て、 寄 っ て 立 つ 彼等
の 状 況 が 示 さ れ て い る 。 真 言 に 秘密
、 禁 誠、 伝授
、 相伝
等 の 問 題 で あ る 。 彼等
は こ の よう
な 自 戒 の う ち に こ れ ら を書
い た 。 本 有薩
堙 で あ る こ と を 、 悟 れ ば で あ る こ と を 、 一 論 に 曰 く で あ る こ と を 、 覚 れ ば 、 ( 仏 が ) 證知
し た まう
の で あ る こ と を 。 私 は 、 す で に 与 え ら れ た 稿 の 頁 を 超 え て い る 。 真 言 宗 史 上 の 「 あ る種
」 の 歴史
的 傾 向 に つ い て 考察
す
る余
裕 は な い 。 「 秘密
」 と は、 根 本 的 に は 如 来 の 自内
証
智
の 、 衆 生 自 ら の覚
悟 の 困難
( 衆 生 秘 密 ) の象
徴 的 言 葉 であ
る 。 禅家
にあ
っ て も 「作
麼
生密
付 底 」 と 云 う 。 こ の 「密
」 の 語 は 「 迦 葉 不 覆 蔵 」 の意
味
( 学 人 自 ら の 秘 密 ) で あ る 。彼
等
の 同 時代
と そ の 後 の 歴 史 に 、 私 に 考 え る 上 々方
便
11 向 上 の 一 路 、 禅 者 の 「表
徳 」 11 無 相 の 無 相 に 従 え ば 、 「表
徳
」 の 実 際 を 実 践 し 、 生き
た 正 三 、 盤 珪 、 白 隠、 良寛
、 鉄 眼 の 如 き 、 ま た 、 禅 を 生 き た 利 休 も 芭 蕉 も 、 我 々 の 歴 史 に は 存在
し な い の で あ る 。為
政者
に よ る 本 末 、 檀 家制
と 、 世 俗 、 世 間 に あ っ て は 擬 似密
教
、 呪 い 、 先祖
崇 拝、営
々 た る 神 仏 習 合 一58
一 N工工一Eleotronlo Llbrary聖 憲作 、良尊鈔 注 「病 中寓言 阿字観鈔」考 (二) (森口) 化 の 歴
史
の無
残 な る 結 果 が残
さ れ た 。裕
宣 言う
「 人 民 」 で あ り 、 同 じ で は な い 。 の 語 は 興 味 ぶ か い 。 古 来、 諸経
に 云 わ れ る 「衆
生 」 と 同 じ 付 記 。 頼 瑜 師 の 禅 論 に つ い て 、 「 病 中 寓 言 阿 字 観 鈔 」 考 ( 【 ) に、 瑜 公 「 阿 字 秘 釈 」 ( 「 観 秘 釈 」 ) は 阿 字 観 を 臨 終 の 至 要 と す る 。 天 台 安 然 の 義 を 引 く も 新 来 の 禅 門 に 触 れ る こ と は な い 。 そ の 著 「 真 俗 雑 記 問 答 鈔 」 に 「 禅 法 真 言 浅 深 事 」 等、 顕 密 劣 勝 ・ 三 点 の 断 片 的 言 及 が あ る の み で あ る と し た 。 そ の 後 、 田 中 久 夫 著 「 鎌 倉 仏 教 」 講 談 社 学 術 文 庫 を 披 見 す る を 得 た 。 氏 は 、 「 真 俗 雑 記 ( 問 答 ) 鈔 」 に よ り 、 頼 瑜 師 が 教 え を 受 け た 「 真 空 」 の 宋 朝 禅 へ の 関 心 を 述 べ 、 頼 瑜 に つ い て も 達 磨 ・ 達 磨 宗 の 記 事 が 見 え、 禅 と の 対 比 も 論 ぜ ら れ て い る と し 、 そ の 関 心 の 深 い こ と を 記 さ れ て い る 。 ま た 、 頼 瑜 の 「 顕 密 問 答 鈔 」 に は、 『 達 磨 大 師 悟 性 論 』 、 『 達 磨 大 師 血 脈 論 』 の 引 用 、 『 宗 鏡 録 』 、 永 嘉 玄 覚 ( 真 覚 大 師、 『 証 道 歌 』 の 著 者 ) の 名 も み え、 禅 宗 の 以 心 伝 心 は、 頓 根 頓 入 の 修 行、 応 仏 応 機 の 規 則 で あ る と し、 顕 乗 の 最 頂 で あ る と 論 じ 、 禅 宗 と 密 教 と の 関 係 を 明 瞭 に 定 め て い る と 述 べ ら れ る 。 資 料 ・ 注 (1
) 聖 憲 作、 良 尊 鈔 注 「 病 中 寓 言 阿 字 観 鈔 」 考 ( 一 ) 良 尊 鈔 注 「 病 中 寓 言 阿 字 観 鈔 」 に よ る、 聖 憲 作 「 病 中 寓 言 阿 字 観 」 の 書 き 下 し 復 元 と 意 図 内 容 (H
) 。 (2
) 勝 又 俊 教 編 著 「 真 言 の 教 学 」 上 下 大 疏 百 条 第 三 重 の 研 究 国 書 刊 行 会 所 収 (3
) 序 … … 密 家 に お い て は 、 其 の 阿 字 の 妙 躰 に 有 空 中 の 三 義 あ り。 之 に つ き 四 種 の 釈 あ る べ し 。 一 に、 初 重 の 無 相 は 九 種 の 迷 情 を 遮 す る が 故 に 、 経 に は 非 青 非 黄 等 と こ れ を 説 け り 。 二 は、 表 徳 有 相 の 義 な り 。 心 地 観 経 の 第 八 に は 、 月 即 是 心 心 即 是 月 と 支、 是 れ 阿 字 方 形 金 色 の 清 浄 を 顕 す な り。 疏 第 十 六 に 云 う 。 阿 字 は 是 れ 金 剛 輪 な り と 支 。 方 形 金 色 の 義 な り 。 菩 提 心 論 に は 、 炳 現 阿 字 素 光 色 と 攴 。 何 れ も 有 相 の 義 な り 。 三 に は 表 徳 無 相 の 義 を、 住 心 論 の 第 三 に、 若 し 阿 字 に 入 り て 悉 く 一 切 の 相 を 離 る れ ば 、 離 相 の 相 は、 相 と し て 具 せ ざ る は 無 し と 攴 。 疏 に は 、 相 に 即 し て 無 相 な り、 無 相 に 即 し て 而 も 一 切 の 相 を 具 す と 。 惣 じ て 草 木 国 土 是 れ 本 有 の 阿 字 な り 、 何 ぞ 、 唯 だ 行 者 の 心 上 に の み 観 ん や 。 四 は 、 秘 々 中 の 深 秘 の 無 相 一59
一NII-Electronic Library Service 智山学報第六十輯 は 不 二 心 な り 。 こ の 義 は 如 義 語 も 及 ぼ ず