目 次
第1
立早問題の所在
第2
章 児 童 虎 待 に 関 す る 制 度 第 1 節 社 会 サ ー ビ ス 部
(D SS )と地区検市の役割
第2
節 警 察 の 役 割
第3
節 被 宵 者 証 人 の 弁 護 十 の 役 割
第3
章 児 麻 虎 待 の
f
供の証汀
第1
節 証 言 に 関 す る 二 般 的 な 法 則 第2節f
供の証言の特徴
ーアメリカの事例を中心として
児 童 虐 待 に お け る 子 供 の 証 言
ヽ'
〗論説{{
9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 ,
. , '
9 9 9 9 9 ,
第4
章 法 制 度 上 の 問 題 第 ー 節 証 言 能 力 の 問 題
第2
節 被 告 人 の 対 審 す る 権 利 の 問 題
第3
節 陪 審 の バ イ ア ス の 問 題
第5
章 実 務 で の
﹇ 夫
第1
節法廷外での証号口の取り方
第2
節 法 廷 内 で の エ 夫
第6
章 結 び 謝 辞
木 下
八
麻 奈 子
15 ‑ 4 ‑‑653 (香法'96)
本論文の目的は︑児童虐待を行った加害者に対して法が裁きを行うとき︑被害者である子供の証言にどの程度の信 憑性があるのか︑証言する過程でどのような歪みが生じやすいか︑
言を引き出すために︑
することである︒
告されており︑
問題の所在
またこれらの間題を克服してできるだけ正確な証 どのような方法を用いねばならないかという問題について︑特にアメリカの事例を中心に考察 さてコモンローの下では︑長い間親のみが自分の子供に親権をもっていた︒そのために︑裁判所が子供に関わる事
件に介人するためには︑何等かの特別な理由が必要であった︒しかしアメリカでは︑児童虎待の問題をきっかけにこ の伝統を破棄して︑子供の親権に関する事件に法が介入するようになった︒この背景にはアメリカで子供に対する性 的虐待が非常な速度で増加しているという事実がある︒全米においては年間十五万から二十万件の性的虎待事件が報
それは全児童虐待の一割強を占めるという︒
しかし一方で︑報告されている事件の中に架空のものが含まれている可能性も高くなったと指摘されている︒その 実態を調べた研究によると︑報告によって数字が異なるが︑子供に対する性的虐待の報告のうち六パーセントから五
五パーセントは︑実際には事実でなかったとされている︒
第 1 章
こうした通報の不正確さの理由として︑
るために過った結論を導いてしまうといった可能性が指摘されている︒
ケースワーカーの
訓錬が必ずしも十分でなかったり︑あるいはケースワーカーが虐待の報告が真実だとの前提にたってインタビューす このように︑事件の報告の段階でそれが実際にあったかどうかを正確にスクリーニングすることが難しいため︑虐
J¥
15 ‑4 ‑654 (香法'96)
児童虐待における子供の証言(木下)
J¥
一︑
六
00
件が義務的報
待を受けた可能性の高い子供の証言にもとづいて︑法廷において事実の認定を行うことが重要となってくる︒だが一 方では︑被告人の権利を保証した手続きで目撃証言を得なければ︑法的な証拠としては認められない︒このように法
廷では︑被告人の権利に配慮しながら︑﹁子供﹂に﹁証言﹂を求めるという︑
の事実を発見していくことになる︒この論文では︑主として性的に虐待された子供から証言を得る方法を通して︑児
社会サービス部
(D
SS
)と地区検事の役割
マサチュウセッツ州を例に取り︑児童虐待に対する対処の仕方を概観する︒資料によると︑
たマサチュウセッツ州全体での児童虎待の件数は︑総計二︑ 第
1
節第 2
章 児 童 虐 待 に 関 す る 制 度
童虐待の問題を検討していく︒
四九
0
件であった︒その
うち
︑
告
( m a n d a t o r y r e f e r r a l
s ) によるものであり︑残りの八九
0
件が裁量的報告
( d i s c r e t i o n a r y r e f e r r a l
s ) によるもので
(6 )
ある︒義務的報告のうち︑九割以上︵一︑四七九件︶が性的な虐待である︒
マサチュウセッツ州では︑州法
c h .
1 1 9 § 5 1 A
に基づいて︑医者︑
児童の虐待︑特にその多くを占める性的虐待が公になるきっかけは︑子供が性病にかかる︑骨折や皮下出血などが
ある︑あるいは子供自身の語ったことなどによる︒
インターン︑病院関係者︑看護者︑医療検査官︑心理学者︑教師︑警官などに︑社会サービス部
( D e p a r t m e n o t f S o c i a l S e r v i c e ︑以下
DS
Sと略称︶に報告する義務を課している︒職業的義務に基づいているわけではないが︑親類や近所の 一九九四年に報告され
二重のバイアスがかかる状況の中で虐待
1:i‑‑4~6S5 (香法'96)
れる︒起訴されなければ︑その事件は終了あるいは条件つきで終了となる︒ 通報を受けた
DSS
は ︑
があるかを調べ︑
子供が虐待によって精神的あるいは身体的傷害を受けていると信じるに足る合理的な理由
それを﹁ケアテーカー
( c a r e t a k e r
) による事件﹂として取り扱うかどうかを決定する︒また子供の名
前︑年齢︑児童虐待の間題が生じた家庭に携わっている医者など︑専門家の名前についての情報も人手する︒そうし てケアテーカーによる事件として選別した後︑さらに生命︑健康︑身体的安全に危険がある場合は
c h
. 1
19
§5 1B
に珪
づき︑地区検事に報告する義務が課せられている︒とりわけ事件が緊急な場合は︑二四時間以内に対応する必要があ
地区検事は
DSS
から報告を受けた後︑子供にインタビューする︒このとき
c h
. 1
19
§5 1D
に基
づき
︑
DSS
のディレク
ターは地区検事と協力して︑多くの専門分野にわたるサービス・チーム
( m u l t i ‑ d i s c i p l i n a r y s e r v i c e t e a m s
) を召集で
きる︒このチームは①
DSS
を代表する人︵多くの場合︑DSSのケースワーカーか調査官である︶②検事局の代表者︑
③児童福祉か児童保護に関する経験がありそのトレーニングを受けたことのある者︑
れた介入サービスを協議し︑
る︒第二の目的は︑そのケースを起訴するかどうかを報告することにある︒
もしくは全く中立の第三者とい う︑少なくとも三名から構成される︒このチームの目的は︑第一に子供と家族の現状︑ならびに
DSS
によって始動さ
またその計画を評価することにある︒もし必要であれば︑計画についての修正を呈示す に及ぼす影響︑虐待の性質︑継続期間︑犯行者の記録や事件に対する責任などについても議論する︒最終的にチーム
は︑サービス計画についての評価を文書にし︑起訴するか否かの勧告をする︒
起訴が決定すると︑事件は直接地裁で処理されるか︑あるいは大陪審を通して上位裁判所
( s u p e r i o r c o u r t )
で処理さ
る ︒ 人などが
DSS
に通報する場合もある︒
この他︑起訴することが子供および家族
八四
15 ‑4 ‑656 (香法'96)
児童虎待におけるf供の証言(木下)
に子供を救急室に連れてゆき︑
八五
地区検事のもとに事件が報告されるのは︑
DS
Sから報告を受ける以外に︑警察等のその他の機関や関係者から通報
を受ける場合もある︒ミドルセックス郡などマサチュウセッツ州の数郡では︑
た事件の内︑親や親権者がインタビューすることに同意し︑医学的証拠などがあり︑
る能力がある場合には︑
DS
Sと地区検事が︑早期の段階で合同で
m u l t
i
ーd i
s c i p
l i n a
s e r y
r v i c
e t
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m s
の特別形態であ
る
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( S
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s e
I n v
e s t i
g a t i
o n N
e t
w o
r k
) と呼ばれるチームを作り︑
こういった方法により︑
警察の役割 インタビューの回数を減らし︑迅速に事件を処理し︑
ケアテイカーによる事件として選別し
子供にインタビコーを行うことがある︒
事件の別の発見方法として︑警察に直接に通報が寄せられる場合がある︒この場合も︑警察は地区検事に報告する 義務がある︒実際には︑警察に来る事件の約半数が地区検事局から回ってきたものである︒地区検事から回ってくる
といきおい時間的遅延をきたし︑この間︑証拠が湮滅されたり︑犯行者がアリバイを作るといった事態が生じるほか︑
( 1 0 )
子供が訴訟に事件を持ち込む意図のない人からインタビューされて記憶が薄れるといった危険も存在する︒
被害者の親が容疑者を訴えるか否かを決めかねているときは︑警察は子供の衣類をとりあえず保存させておく︒保 存に際しては洗濯しないようにし︑茶色の紙袋にいれて色あせないように注意する︒また事件発生後︑
失われる︒迅速な処理をしておけば︑警察は物的証拠を得ることができ︑子供が法廷で証言して傷つく心配も軽減さ
れるのである︒ 第2節 することができる︒
七二時間以内 レイプがあったかどうかを確かめてもらう︒こうした処置を怠たると︑証拠は永久に
かつ子供に与えるストレスを最小限に
かつ子供がインタビューに答え
15 "" 4 "‑657 (香法'96)
的に情報を処理しているのである︒
子供からどのようにして証言を得るのかを︑人間の記憶に関する心理学の研究を参考にしてみていこう︒人間の知 覚と記憶は︑カメラやテープレコーダーのように︑機械的に事実をコピーしているのではない︒それは非常に選択的
で創造的な過程である C
人間は期待するところの物を知覚し︑すでに経験したことに関係づけて理解し︑すでに知っ ている事に適合する事柄を記憶しているのである︒このことは法的な観点からすると︑目撃証言が無謬ではないこと
を意味している︒人間は情報の獲得︑ 第1
節 証 言 に 関 す る 一 般 的 な 法 則
る ︒ 第
3
節第 3 章
被害者証人の弁護士の役割
弁護
士は
︑ m u l t i
ーd i
s c i p l i n a s r y e r v i c e t e a m
s の他のメンバーと連絡を取りながら情報収集︑弁護活動を行う︒被害
者の弁護士は
DSS
と協力して子供のニーズを満たすように活動する︒弁護士は︑児童の性的虐待についての問題点 と︑子供に対するインタビューに関してトレーニングを受けている︒弁護士が接触を持つのは被害者やその家族のみ ならず︑事件に関わった様々な個人にまで及ぶ︒また弁護士は検察を支援して︑訴訟に持ち込むまでの手続きに携わ
児童虐待の子供の証言
その保存︑呼び出しという記憶の三つの過程において︑受動的ではなく︑能動
八六
15 ‑4 ‑‑‑658 (香法'96)
児章虐待における子供の証言(木下)
八七
① 情 報 の 獲 得 情報獲得の段階では︑証人が事態を認識し︑記憶として保存する︒このとき観察時間︑期待︑観察者の身体的条件
まず目撃していた時間が短時間であると︑人間が注意できる事柄の数が制限されるため︑目撃証言は不正確になり
やすい︒たとえばある実験によると︑被験者に見知らぬ人の顔を数秒よけいに見せるだけで︑人の顔を識別する正確
さは増す︒しかし︑たとえある程度の時間︑対象を見たとしても︑状況が複雑であったり︑拳銃など何か重要なもの
が視界に入ると︑注意がそちらに集中するので正確さの精度が下がる︒
また人間は物事を観察するとき︑自分が見たい︑あるいは聞きたいように物事を見たり︑聞いたりしてしまう傾向
があ
る︒
フットボールの試合をそれぞれのチームのファンに見せた実験によると︑各ファンは︑自分のひいきのチー
ムの方が反則が少ないと判定したことが報告されていか︒
( 1 6 )
さらに感情の高揚によっても︑証言の正確さは左右されるといわれている︒特に神経質な人の場合︑事件現場にお
ける暴力の度合いや脅威度が翡いほど目撃証言は不正確になるが︑安定的な資質の人の場合は正確になるという研究
結果が出されている︒
年齢も︑目撃証言の信用性を左右する重要な要因である︒子供である場合のみならず︑老齢化した場合においても︑
その証言の信用性が問われることがある︒たとえば老人になると︑かつて一度だけ見たことのある人の顔の写真を認
識する能力は低下するが︑複数回見たときは年齢による差は見受けられない︒
訓練によっても記憶の精度は左右され︑警察官は素人に比べて︑人に関する描写や︑状況に関する詳細な情報を正
( 1 9 )
確に思い出す︒さらに警察官の方が︑詳細についての暗示の影響もあまり受けない︒しかし︑連続的な行動について といった状況の差によって︑記憶の正確さが左右される︒
15‑‑4 ‑659 (香法'96)
人種上の区分も︑記憶に著しい影曹を与える︒証人は異人種の容疑者よりも︑自分と同じ人種の人を容易に見分ける︒
ただし訓錬によって異人種間の頻を認識できるようになるが︑同じ人種間では︑訓錬もあまり有効ではないとされて
い る
2 ︒
目撃したことを記憶としてコード化した後︑それを証言として取り出すまでの間︑記憶は保存された状態にある︒
記憶の保存は︑事件の初期の痕跡の強さ︑時間の経過︑事後的な干渉事項の三要因によって決まるといわれてい左︒
たとえば︑事件の後で人った新しい情報は︑記憶を補うだけでなく︑記憶の内容を変化させてしまう可能性がある︒
もっとも事後に起こった出来事が必ず記憶を変化させるかどうかについては︑議論の分かれるところである︒しかし
おおよその合意が見られる︒
少なくとも新しい情報が証目者の報告やその正確さに影響
cを及ぱすという点では︑
3
まず目撃証人の記憶を取り出すインタビュー方法として︑催眠によるインタビューと︑事件の起こった状況などの 文脈を手掛かりにインタビューする認知的インタビューの二つがある︒催眠によるインタビューについては︑実験結
果に
より
︑ その有効性についての評価がわかれており︑誘導を受けやすくなるという結果と︑逆に影響を受けないと
⑯)
いう結果がある︒
てい
撃︒
一方︑後者の認知的インタビューでは︑通常のインタビューより効果的だという実験結果がだされ
記磁の呼び出し 記憶の保存
思い出す正確さは一般人と変わらない︒
¥
\ J J
15 ‑‑4 ‑660 (香法'96)
児権虐待における子供の証言(木下)
るに
は︑
どこ
︑ という質問に対しては比較的年少から理解できるが︑
ある程度発達の段階が進んでいなければならない︒
ょ )
t
し しう)
ヽ
いい
え︑
なぜ
︑
八 九
で答える質問や︑指示代名詞や漠然とし し)
か
にヽ
という質問に答えられるようにな
まず言語能力の側面であるが︑子供の年齢が低ければ低いほど質問は短く︑
ることが好ましい︒使用する語彙については︑
たとえば家族関係に関することでさえも︑自分の祖母が自分の父親の 母親であるという観念をもっていない場合もあるので︑子供が理解している言葉を使う必要がある︒
f
供は︑誰︑何︑
9 9
ー
9 9
u ‑ =
口語
能力
]
第
2
節子供の知能の発達段階が与える影響
次に︑インタビュー以外の技術として︑
チェックリストを使う方法と︑自由に思い出させる方法がある︒この両者 を併用する場合は︑自由に思い起こさせる方法を先に行うほうがよいとされている︒これ以外にも︑目撃した顔を再 現するのに︑警察付きの画家を使ったり︑写真合成を行う方法もある︒
認知を高めるためのその他の工夫として︑
子供の証言の特徴
感情的要因︑③状況的要因︑
どのように被疑者のラインナップを見せるかということがある︒たとえ ば︑次々と被疑者の顔を見せる方法と︑同時に見せる方法を比較すると︑
た判断する割合は︑次々見せる方法の方が低いことがポされていな︒
正しく判断する割合は変わらないが︑誤っ 子供の証言も一般の場合と同じく情報の獲得︑保存︑呼び出しの三つの過程にわけて考えられる︒その記憶の精度
( 2 9 )
は︑年齢が進むにつれて改善される︒また子供の証言は︑①子供の学業能力や思考などの知能の発達段階の相違︑②
面 ︶ といった条件差によっても影響を受ける︒
かつ簡単な文章で質問す
15~4 661 (香法'96)
た単語を使う場合は︑子供が内容を理解しているかどうか定かではないので︑何を聞いているかを明確にしていかね
(M )
ばならない︒出来事の回数を聞く場合︑
一晩に起こったことを一回と数えるか︑それとも延べ回数を数え上げるのか
品 ︶
子供にはわからないので︑質問する技術が必要である︒子供が人の年齢を推定して﹁年寄りだ﹂と述べても︑改めて なぜそう子供が考えるのか︑客観的な事実を述べさせて確認を取るなどの工夫が必要である︒このように子供の理解
が困難と思われる場合には︑
︹時
間知
覚︺
冨心
考方
法]
子供の思考方法については︑ 入して言い疸させたりする必要があろう︒
︱つの質問が次の質問と関連を持たないことがある
子供自身の言葉でその意味を説明させたり︑普段使わない言葉に関しては︑裁判官が介 子供はまだ時間の観念が十分に発達していないので︑質問するときは︑複雑な時制は使わないように
︵%
︶
気をつけなければならない︒時間がはっきり言えない場合でも︑見ていたテレビ番組は何かなど︑時間を間くかわり
に︑何か指標になる出来事を聞き出せよう︒
とがあるので︑注意する必要がある︒ しかしこの方法で聞くと巻でも︑
また法廷の審議において︑
が︑子供の側からすると文脈が追えずに混乱してしまうので︑質問と質問の間に︑接続語などを入れるなどのエ夫が
( 3 7 )
い る
︒
いくつか注意すべき点がある︒
子供は時間の順序を理解していないこ
たと
えば
︑ 子供は大人が自分と同じ前提 にたっていると誤解していることがある︒また子供は弁護士に質問されることを︑自分が学校で教師に質問をされる ときと同じように取るので︑すでに相手が質問の答えを知っているものと考えることが多い︒さらに子供は︑自分が 見たことを説明する際︑論理を自分の視点から作ってしまうため︑論理の飛躍が生じる場合もある︒そういった飛躍 を避けるには︑子供にその論理を説明させて︑子供の持つ認識方法を明確にする必要がある︒
子供は︑現実と想像の産物を混同してしまうと言われているが︑実験の結果は必ずしもそれほど単純なものでは
九〇
15 4・662 (香法'96)
児童虐待における子供の証言(木下)
( 3 9 )
ヽ
4 0
なし
四歳から六歳になると現実と想像の区別はつくようになるが︑それでも状況が複雑になると区別ができなくな
ってしまうことがある︒とりわけ子供自身が述べたことや考えたことなど︑事象が子供自身にかかわる場合︑現実と
想像の世界を区別することが難しくなる︒たとえ現実との区別がついていたとしても︑自分が罰せられるのを避ける
( 4 2 )
ために空想的な嘘を述べることもある︒その上︑子供は実際に起こったことだけでなく︑空想の出来事も追加して述
べてもよいと勘違いしている場合もある︒しかし性的な問題については︑子供の知識は限られているのて︑子供が嘘
をついたり空想したりすることはあるにしても︑
[誘
導尋
問]
側面が多い︒誘導的な質問がどのように子供の記憶に影響するかについては︑未だにはっきりとした結論は出てい ないさりとて︑誘導尋問は誤った情報を導き出す可能性が高いとしてこれを全面的に否定すると︑児童虐待に関す
る重要な情報を見失う恐れがある︒
たとえば﹁何をしていたのか﹂という質問に対して︑﹁遊んでいた﹂としか子供が答えない場合︑
得るには﹁どこで﹂︑﹁誰と﹂というふうに質問を一っ︱つ誘導せざるをえない︒子供の記憶が大人に比べて劣るとい
て は
︑
の点に留意しながら子供の記憶を引き出さねばならない︒
九
それだけで事件を細部にわたり想像で組み立てることは難しく︑そ
証言においては︑子供のコミュニケーション能力︑特に誘導尋問に対する反応についても注意すべき
それ以上の情報を
うよりも︑誘導︑刺激がなければ︑法廷での証拠として必要な︑詳細にわたる情報を得ることが難しいのが子供の特
( 4 6 )
徴なのである︒それゆえ子供の発達に応じては︑記憶を活性化させるために︑特定の質問や思い出させるきっかけを
( 4 7 )
与えるような誘導尋問も有益であろう︒たとえ誘導尋問によるものだとしても︑それが自発的なものであるなら︑多
くの場合正確だと言われていが︒このように︑誘導尋問は場合に応じて使いわける必要があろう︒質問の仕方によっ
( 4 9 )
子供が質問自体を理解できず︑結果的に﹁わからない﹂という答えを誘導してしまう場合もある︒カリフォル
15‑‑4 ‑‑‑66:3 (香法'96)
ニア州では︑誘導尋問は原則的に認めていないが︑十歳未満の子供に対する性的虐待の場合などでは例外的に認める
ことがありうるとしていん唸
より多種多様であり︑
2
性的虐待を受けた子供は受けなかった子供に比べて︑様々な感情的な兆候を示す︒けだしトラウマの態様は子供に
︵ 翌
︱つの兆候を示すものではない︒
影響を与える︒第一に︑子供が法廷で証言すること自体が︑
と目撃証人が同一であることが多いため︑子供が証言することによってさらにトラウマを被るのである︒
廷の審議が遅滞した場合や︑
合はストレスを受けやすく︑
第二は︑子供が情緒不安定になることによって︑証言を中断したり︑証言が不正確になる可能性がある点である︒
ただし子供にトラウマを課すような出来事でも︑時間が経つに従って不鮮明にはなるが︑記憶には残っている︒トラ
ウマを与えないようにするために︑容疑者と証言者である子供の間にスクリーンを置いたりする工夫が提案されるが︑
次章で述べるように憲法上の制限により︑
を知ることは︑
子供の反応を解釈し︑
状況的要因 子供の感情的要因
その場合子供の感情的な問題は︑
トラウマになる点である︒性的虐待においては︑被害者
子供が法的知識を欠く場合︑子供が容疑者と対面する場合︑
トラウマからの回復が遅いとされる︒ とりわけ法
子供が反対尋問を受ける場 そういった方策を採用できない場合もある︒こういった情緒的要因の働き
どのような保護を必要とするかを決める上で重要である︒
3
子供の証言に影曹を及ぼす状況的要因は︑大きく分けると次の三つが挙げられる︒第一は︑事件の性質自体である︒ 二つの意味で子供の証言に
九
15 ‑ 4 ‑664 (香法'96)
児貨盾待における 1屯•供の証目(木下)
第1節
たと
えば
︑
第 4 章
子供が直接の被害者であったか︑知っていたかどうかということが影響してくる︒加えて︑子供がその記憶を保持していた期間の長さにも影響される︒
第二は︑家族をサポートするシステムがあるかどうかである︒特に被告人が家族である場合︑子供の証言によって家 族の関係が影響を受けるので︑子供の証言も微妙なものになってくる︒第三は︑法廷で証言すること自体である︒た
とえば裁判所に出廷する回数︑証言台に立つ長さ︑被告人との関係︑虐待の深刻度︑他の証拠の打無︑子供の脅えの
程度といった要因によって︑子供の証言の仕方︑内容が変化してくが︒
以上順次見てきたように︑
子供の記憶は︑子供の発達︑感情︑状況の三要因の相互作用の影響を受けている︒正確
な情報を得てさらに法的な証言として意味あるものにするには︑
るような法制度上の制約にも配慮して︑証言を取る工夫をしていく必要がある︒
法制度上の問題
証言能力の問題
題であった︒この両者を位置付けるとすれば︑
九
子供の証言能力は︑英米法においては古くから問題とされてきた︒証言能力
( c
o m
p e
t e
n c
y )
は︑証言の信用性
( c r e
, d i
b i l i
t y )
とは区別されるものである︒これまでの章で論じてきたのは︑証言能力の問題ではなく子供の証言の信用性の問
まず証言能力が認められた後に︑陪審ないし裁判官の前で︑その証言 この三要因に十分配慮するだけでなく︑次章で述べ それとも端で見ていただけ加またその場所や︑その場にいた人をよく
15‑4 ‑‑665 (香法'96)
の証拠価値についての信用性を争うという順序になる︒
さて従来︑子供の証言能力については︑子供はファンタジーの世界に住んでおり︑現実と虚構の世界の区別がつけ られないとされてきた︒しかし最近では必ずしもそのような側面のみが強調されておらず︑
むしろ実務では︑子供に
コミュニケートする能力がある場合︑真実を述べる能力も一般的に存するという考え方が採られ始めていが︒もし証
言能力に疑問がもたれるなら︑
つ記憶することが可能で︑それを表現することができるか︑そして真実と嘘の区別がつき︑証人は真実を語る必要性
( 6 4 )
を評価しているかどうかを証言能力の基準として確認する︒
とは︑子供が①真実を述べることと嘘をつくことの意味を理解しているか︑②証言するとき真実を語ることが義務で
あると理解しているか︑③嘘をつく人には罰が下されることを理解しているか︑
って判断される︒
それに異議を唱える側が立証することになる︒予備尋問では︑証人が見聞きでき︑
あるいは嘘をつくとはどういうことかを吟ねて判断する︒
この
場合
︑
﹁真実を語る必要性を評価できるか﹂というこ
まず第一に︑子供が真実と嘘の区別をつけられるかという点に関しては︑子供に真実を述べるとはどういうことか︑
たとえば子供が
言うことだ﹂といった答えをするなら︑真実について理解しているといえる︒
その際に抽象的にしか答えられない場
合は︑子供にある物体を見せて︑﹁これについて真実であることを述べなさい﹂といった聞き方をした方が適切であろ
う︒しかし極めて年少の子供の場合は︑﹁違い﹂ということ自体理解できない場合があるので注意する必要がある︒
次に第二と第三の点に関しては︑真実を言わなかった場合どうなるかについて質問するのが適切であろう︒子供が
おとなの場合と同様︑状況に依存する︒嘘をつくのは︑多くの場合︑罰を避けようと
真実を述べているかどうかは︑
するためであるただし子供は︑失敗することと︑嘘を意図的につくことの区別がつかず︑証言席で失敗すると自分
﹁真実を述べるとは実際に起こったことを
という三条件を満たしているかによ
力
九 四
15 ‑ 4 ‑‑‑666 (香法'96)
児龍虐待における子供の証言(木下)
誓 ︑ この点に関して︑ 第
2
節 被 告 人 の 対 審 す る 権 利 の 問 題
るかが重要となるのである︒ 自身が刑務所に送られると信じている場合もあり︑配慮がいる︒
﹁コ
ンフ
ロン
ト﹂
九五
の内容は︑身体的対面︑宣
要約すれば︑証言が意味を持つのは︑子供の能力自体の問題というより︑事実を発見しようとする者が︑特定の文
脈で証人が述べたことに意味を与えるからである︒それ故に︑
児童に対する虐待︵特に性的虐待︶
して起訴されている被告人と直面することは︑子供に精神的かつ身体的に苦痛を与える可能性がある︒そういった子
供に対する害を考慮にいれ︑
アメリカの三七州ではビデオを使用した証言方式を︑二四州では一方向性閉室テレビ方
式
( o n e
‑ w a y c l o s e d ‑ c i r c u i t t e l e v i s i o
を︑八州では二方向性方式 n )
( t w o
! w
ay y s s t e m )
を認めていが︒しかしこれらの
方法
は︑
が法廷で審議されるとき︑被害者でありかつ唯一の証人である子供が虐待者と
︶ テーション・クローズこり
o n f r o n t a t 1 0 n c l a u s e
子供からいかに証言を引出し︑信用性の高い証言を得
﹁被告人は自己に不利な証人と対審する
( c o n f r o n
t ) 権利を有する﹂と規定する修正六条︵いわゆるコンフロン
と抵触する可能性が裔い︒
一方向性閉室テレビ
コイ対アイオワ判決で連邦最高裁の多数意見は︑修正六条の文言を字句通り解釈し︑被告人と証
( 6 8 )
人の間にスクリーンを置く事は違憲とした︒その後メリーランド対クレイグ判決の多数意見は︑
( 6 9 )
方式を使用した証言は合憲であるとした︒その多数意見は︑修正六条の クロス・エキザミネーション︑審問者による態度の観察といった要素の複合的な効果によって支えられていると 分析した上で︑①直接対面することは同条の核の部分ではあるが不可欠の要素ではなく︑②虐待された子供が深刻な 感情的な苦痛を持たないように保護することは︑特別な手続きを使用することを正当化しうるものであり︑州は被告
15 4 .. ‑667 (香法'96)
権利が拮抗する場で︑
しかし一方で︑
人のコンフロンテーションの権利を制限できるとした︒
このように子供の保護と被告人の 乞291
の規定する伝間証拠排除則
しかし少数意見は︑修正六条は字句通りに解釈されるべきで あり︑被告人と証人は直接対面する
( f a c
t o e
f a c
e ) ことを要求しているとし︑例外を認める解釈に反対した︒
そもそもコンフロンテーションの語句は直接対面することを含んでいる
この少数意見に対しては︑
とは考えられていないとの指摘もある︒むしろ子供と被告人を隔離することの問題は︑①有罪の推定を前提にして判 断してしまう危険性がある②陪審の証人を観察できる機会を減少させる③被告人が自身の擁護に参加できなくなる④
被告人の弁護士の補佐の負担となる⑤被告人の法廷についての公正認知を損なう︑等という諸点である︒したがって︑
子供の保護のために何が必要であり︑
れる課題であろう︒ どこまで拡張解釈を認めるかということについては︑
このように
f
供の証:11日の取り扱いは︑州によって異なるのが現状である︒に﹁直接対面して
( f a c
t o e
f a c
e ) ﹂という表現が使われているために︑
ないで証言する方法は︑被告人の権利を侵害するとされている︒
審問で一五歳以下の性的虐待の被害者の
f
供の証言を︑子供に証言させると精神的なトラウマを与えると判定したとき︑
さらに
さらなる検討が必要とさ たとえばマサチュウセッツ州では州憲法
子供である証人が法廷で︑被告人の顔を直視し このために同州ではビデオテープを使うとしても証 拠としては使用せずに︑起訴するかどうかを決定する捜査段階で使用している︒
カリフォルニア州では︑予備
ニり
︶
ビデオに取ることを可能にしている︒そして判事が︑
C a l .
E v i
d . c
o d
e 一 方 ︑
( h
e a
r s
a y
u l r
e ) の例外である﹁以前の証言
( f
o r
m e
r t
e s
t m
i n
o y
) ﹂として認めうるとしている︒ただしビデオテープの使
用を認めるときでも︑被害者のプライバシーにも十分注意する必要がある︒手続的にも︑そのビデオテープに検察︑
被告人側の弁護士︑被告人が昼間にアクセスできるといった配慮がなされている︒
いかに両者に配慮して精度の高い証言を得るかというところに︑第五章で紹介するような工夫
九六
15・‑4 ‑668 (香法'96)
児権虎待における f供の証言(木下)
究が必要であろう︒ の中で捕らえてしまう可能性が高い︒ を使った研究によると︑す
とい
知︒
ないと考えるため︑
子供が性に関わるような話を作り出すことはできないと考えるのである︒したがって︑子供が証 言した性的虎待に関する証言がたとえ不正確なものであったとしても︑陪審はすべて
つま
り人
は︑
こういった原則的な結果と異なってくる︒グッドマンらの実験によ ると︑証言が性的虐待に関する場合は年齢が低いほど信用性が高いと判断されるというまたダッガンらの模擬陪審
五歳︑九歳の子供が証言した場合の方が︑十三歳の子供の証言した場合より有罪の評決を下
一般
的に
f
供が無邪気であると侶じている場合が多く︑このように
f
供の証言に対する陪審の反応は状況により複雑であり︑今後の研
ところが性的虎待についての子供の証言では︑
九 七
﹁正しい﹂という認識の枠組み
陪審が子供の証言をどう受けとめるかについての多くの実験結果では︑原則的には証言する子供の年齢が上になる にしたがって︑信用性が増加する︒とりわけ
f
供の証けに対する信用性が低いのは︑子供の証言能力が低いというステレオタイプ的な認識をもっている場合である︒例外的に子供が正直であると判断された場合︑年少の子供の証言の 方が成人のものより信用性が高いとされていが︒さらに子供の話し方が自信に満ちている場合︑その証言の信用性は
高ま
る︒
第
3
節 陪 審 の バ イ ア ス の 問 題
が必要とされるのである︒
子供はまだ知能的に十分発達してい
15~. 4 ‑‑・669 (香法'96)
ューの様子を見ることができる︒ あったりする︒インタビューの行われる部屋は︑
ぬいぐるみの人形やおもちゃが置いて
第1節
緊張の緩和 これらの工夫は︑一方にはそれに
第 5 章
実務での工夫
法廷外での証言の取り方
ここでは︑法廷外︑特に捜査段階でのインタビューによる証言の取り方を︑
の扱いをもとに紹介する一方で特異な状況における不安定な子供の証言があり︑
何とか対応して子供の権利を守ろうとする法制度があり︑
︑1
,
ー,̲し子供と信頼関係を作り︑正確な証言を得るためには︑
さらにもう一方には︑被告人の権利を保護する法が存在す
るという︑三者のしのぎ合いの中で生まれてきたものである︒
インタビューしやすい場を作る必要がある︒そのために児哨
虐待を取り扱う地区検事のオフィスには︑子供が描いた絵が飾ってあったり︑
ワンウエイ・ミラーが壁面にはめ込まれており︑隣室からインタビ まずインタビューに入る前に︑子供と会話をし︑子供をリラックスさせて話すことに慣れさせる︒
( 8 5 )
ル
( r
a p
p o
r t
) をつける﹂という︒具体的には︑﹁なぜインタビュアーがその場にいると思うか﹂︑
割は何か﹂といった質問を子供にして︑子供が何も悪いことをした訳ではなく︑ これを﹁ラポー
﹁インタビュアーの役
悪いことをしたと考える必要もない マサチュウセッツ州のノーフォーク郡
九 八
15 ‑‑4 ‑670 (香法'96)
児童虐待における子供の証言(木下)
必要がある︒子供を見下したり︑あるいは持ち上げたりしてはならない︒ インタビュアーは︑相手が子供であることにとらわれず︑
③ 子 供 の 視 点
と理解させる︒その上で︑﹁どこの学校にいっているの﹂といった︑子供に馴染みやすい話題から聞いていく︒子供は︑
インタビュアーに真実を語ると何が起こるのか心配している場合があるので︑裁判の結果何が起こるかは誰にもわか
らず︑何が起ころうとも子供の過ちのせいではないと説明する︒そうでなければ︑
真実を語らなくなり︑証言の信用性は低くなりかねない︒
信頼関係の形成
九 九
一般的に︑子供はすでにトラウマを経験し ︱つの人格を持つ者として︑その視点に立って対話する 子供は悪いことをしたと感じて︑
インタビューを進行していくには︑子供にインタビュアー︑検察官︑弁護士を信頼させる必要がある︒インタビュ
ーには︑子供を扱うことに経験を有している人が従事するのが普通であるが︑必ずしも全員が︑面接の資格を持って
いるわけではない︒インタビュアーは服装も普段着で︑子供に警戒心を抱かせないように配慮がいる︒話し方も︑子
供の年齢に応じて使い分け︑分かり易い平易な言葉を使う︒インタビュアーが同情を示したり︑怒りを現すなど態度 を変えると︑子供はその様子を敏感に感じとって調子を合わせてしまうので注意しなければならない︒信頼関係を作
るためには︑何よりもインタビュアーが子供に対して正直になり︑子供に何か約束することもしてはならない︒そし
てインタビュアーが子供自身のためにそこにいて︑子供の話を聞いているのだ︑
のような細心の注意を払って︑
(2)
ということを確実に理解させる︒こ
インタビュアーは始めて子供と対等に話をする﹁場﹂を作ることができるのである︒
15‑‑4 ‑671 (香法'96)
ており︑それまでに少なくとも一度インタビューを済ましていることが多いので︑﹁同じような経験をした別の子供と 会ったことがある﹂などと言ってやると︑子供が何も特別な状態にあるのではないと理解させるのに役立つ︒
﹁お
遊び
の時
間﹂
︑ ' ︑
4
︐ ' ︑子供に人形やおもちゃを与えたり絵を描かせるといった︑﹁お遊びの時間﹂をもち︑
供の年齢︑感情の安定性などを見極める︒この間︑
訴されている人との関係をどう感じているか︑
人形を使用したり︑絵を描かせて︑犯行現場を再現させ︑事件に関わった人物︑
f
供と犯人の身体の細部︑歪曲した 部分などに注意を払う︒始めの﹁お遊びの時間﹂がうまくいかなかった場合は︑子供にその話をするのは容易なこと
ではないと理解させて︑新しく会う日を設定してやり直す︒
補助道具の使用
( a
n a
t o
m i
c a
l d
o l l : 細E剖的《に正確〗な人形)と呼ばれる、
6)
人間の体の性的特徴を含めて模した人形を使用して︑事件の細部を間き出していく︒アナトミカル・ドールを使用す る最適な年齢は︑三歳ぐらいから六歳ぐらいまでであるが︑十歳までの子供でも︑使用した方がインタビューを行い やすい場合もある︒子供が年長である場合は︑人体を模した絵を使う事が出来るが︑子供によっては︑何が起こった
具体的な進め方であるが︑ かだけをインタビュアーに話すことを好む場合もある︒ ヽ
5
,1,
お遊びの時間後︑必要に応じて︑アナトミカル・ドール
その間にインタビュアーは︑子 子供が起こったことについてどのように感じ︑自分の家族や︑起
そして特に自分自身についてどう思っているのかを見いだしていく︒
それらの人形や絵が︑身体の部所を持っており︑特別の模型なのだと説明した上で︑身
1 0
0
15‑‑4 ‑‑672 (香法'96)
児貨虐待における子供の証言(木下)
第
2
節きはあくまで自然にしてインタビューを終える︒ 聞 中で︑どういうことが︑
いて
︑
いくつか名前を聞きだしていく︒その後に子供を人形と遊ばせ︑
1 0
リラックスした雰囲気の いつ︑何回起こったか︑また毎回同じように起こったかについて︑細部に渡って尋ねていく︒
子供は起こった時間順に思い出すわけでは必ずしもなく︑主要なことしか思い出さないかもしれないので︑あらかじ め沢山の質問を用意しておく︒また子供にショックを与えないよう常に注意し︑たとえ子供が生じたことが楽しかっ ったとしても︑うろたえたり︑怒ってはならない︒犯行者を
f
供が知っている場合︑インタビューした人が態度を変えたことが子供にわかったなら︑
子供がその人間を大変好 子供は虐待されたことを必ずしもネガティブな経験と捉えていないことがある︒子供の話を
その時点で質問に答えることを子供がやめ インタビューの終りには︑子供がインタビューした人は自分の側にいると感じ︑自分を信じてくれていると思って
もらうために︑
﹁よい印象﹂を残すように努める必要がある︒子供に罪悪感を覚えさせないように︑子供に接触すると 法廷内での工夫
法廷で証言することは大人にとっても精神的負担であり︑
ましてや子供にとって非常なストレスの原因となる︒そ れゆえ子供を法廷の証言台に立たせることが陪審に効果的であったとしても︑州によっては子供を証言台に吃たせる
かわ
りに
︑
ビデオテープでの録音をしたり︑
それが認められていない場合は捜在過程でインタビューするなど様々な 手段が取られている︒しかし子供が法廷で証言せざるを得ない場合もある︒そのとき被告人の権利を保障する手続き
と︑子供の精神的︑肉体的健康の保護のために特別の配慮をすることは︑必ずしも相容れない︒ てしまう場合がある︒ いている可能性があり︑ たと 体の顕著な部所について︑
15‑4 ‑‑673 (香法'96)
.子供を法廷で証言させるときに特に注意すべきことは︑第三章第2
節で述べたように︑尋問の際に使われる言葉が 難しすぎて︑子供が質間を理解できなくなってしまうことである︒ところが子供は︑質問を十分に理解していなくて も答えようとする卜︑自分の言ったことが理解されていなくても訂正せず︑自分が誤解されていることにも気づかな
さらに子供は︑裁判所の役割を正確に理解しているとは言い難い︒発達的にみると︑
供は法システムの存在は知っていても︑
その目的などは理解しておらず︑裁判官は人の話を聞いたり喋ったりする人 と捉えられ︑法廷での責任者とは考えられていない︒子供によっては裁判所
( c o u r t )
といった法律用語を︑﹁バスケッ
トボールをする場所﹂のコート
( c o u r t )
といった︑英語で同音の日常語と混乱したりする︒
f
供の証言の保護に積極的なカリフォルニア州では︑以上のような問題に配慮して︑子供が法的システムに参加するときに︑様々な工夫がなされている︒たとえば性的虐待の事件で︑裁判所は子供が心理的な傷を負わないような配 慮ができる︒また証人が十四歳末満の場合︑不必要な嫌がらせや︑質問のくり返しを禁止し︑子供の年齢に応じた形 態で質問させるなど︑裁判所が証人の審議をコントロールすることを義務づけられていな︒その他︑予備審問や法廷
匝
を閉室にしたり︑子供が証言する際に付き添いの者を認める等の措置のー︑予備審問のヒアリングでの証言をビデオ に録画することや︑十歳以下の性的虐待を受けた子供の証言で二方向性閉室テレビ方式を命じるといった方策をとる ことができる︒判事は法廷においてグランドルールを設定し︑頻繁に休憩時間をとるとか︑尋問は学校の授業が行わ
れるのと同じ時間に行うといったこともできる︒
このように法廷に立たせる際に︑ いこともある︒
四歳から七歳ぐらいまでの子 子供に対する配慮は不可欠である︒子供の審理に通じた検察官などに頼んで︑各
法律家の役割や裁判所の役割︑審理の長さ︑休憩時間に親と一緒に過ごせるか︑親は審理中どこにいるのか︑
1 0
どうや
15‑4~674 (香法'96)
児帷虎待における(‑供0)証け(木ド)
原則の存在である︒ しかしこのような工夫にも︑
第 6
章 結
び
要因などを十分考慮して対応していく必要があろう︒
1 0
って質問に答えるのかといった予備知識を︑前もって子供に教えて心の準備をさせておくことも有効な方法である︒
いずれにしても子供の発達の段階︑子供の行動︑知識︑感情的な要因︑法廷に事件を持ち込むようになるまでの状況
アメリカでは︑近年に膨大な数の児童虐待が報告されるようになり︑子供およびその家族に与える虐待の影響が︑
極めて深刻なものだと受け止められるようになった︒その結果︑DSSなどの行政の保護機関が虐待ケースに対応し︑
事件の内容によっては︑地検を通して法廷で処理するシステムが作られることになった︒
していく場合︑
そもそも法的介入が児童虐待のもつ様々な問題と馴染むかどうか︑ ただ児童虐待を法廷で処理
さらに介入するときの手続きは従 来の方法でよいのか︑変えるとした場合に被告人の権利をどのように保障するかといった︑多くの問題を考慮しなけ ればならない︒そこで実務的には︑子供からできるだけ正確な証言を引出すために︑こういった問題との緊張関係に
配慮しながら︑今まで述べてきたような工夫がなされてきたわけである︒
いくつかの問題点があるように思われる︒まず第一に︑児童虐待に対する二つの対処
︱つは事件が地裁で処理される場合に使われる︑﹁犯人を罰する﹂ことに重点をおく原則であり︑
もう一っはDSSで使われる︑﹁子供の最善の利益﹂という原則である︒この二つの対処原則が異なるため︑ソーシャ
︵%
︶
ルワーカーを中心とするDSSと地区検事では︑共同作業が容易ではない︒処理原則が異なるという点は︑同じく地裁
と家裁の間でも見受けられる︒地裁では︑
f
供の証言をもとに﹁加害者を罰する﹂方向で事件の処理が行われている︒15・・・・4・・675 (香法'96)
カの法制度では︑ れないものであろう︒ そこでは子供のトラウマを防ぎながら正確な証言を得るための上夫は語られても︑子供の福祉という原理は語られない︒その上実際上は︑審理で子供を証言台に立たせるのは難しく︑せざるを得ないといった限界が常にある︒一方︑事件が家裁で扱われる場合︑中心となる基準は︑﹁子供の最善の利益﹂ということである︒しかし子供が︑虐待したと思われる人を蘇っているなど︑事件の背景が複雑な場合︑裁判で加屯ロ者を罰することが果たして家族や子供に幸福をもたらすのか︑
子供への悪影欝を恐れる親の反対で︑起訴を断念 また子供の精神的・身体的平穏が回復することになる
のかは︑﹁子供の最善の利益﹂という言葉からだけでは答がでない︒
また当事者である子供自身も︑何が最良の選択で あるか判断しがたいであろう︒子供の最善の利益という︑言葉の具体的内容を決定するのは非常に困難である︒
第一一に︑訴訟において﹁児童虐待﹂という言葉が抽象化してしまう故の影響である︒﹁児童虐待﹂という言葉は︑ア
メリカ社会において大きなインパクトをもち︑虐待した人を裁判において追及することを容易にしてきた︒当初は︑
﹁児
童虐
待﹂
という概念を社会において明らかにすることは︑訴訟にできるできないにかかわらず︑店待全体に対し
て警告を与えることを目的としていた︒したがって児童虐待ということばの普及は︑﹁児童虐待が犯罪である﹂という
規範を社会に成立させたという意味では成功したと言えようしかし﹁児童虐待﹂という言葉が︑加害者への処罰に 目的を絞り︑訴訟で勝つための戦略として﹁児童虐待
11
悪﹂という簡単な図式として抽象化するなら︑その目的外と なってしまう当事者の精神的な救済や︑訴訟に汲み上げられなかった虐待をお座なりにしてしまう可能性がある︒被 害者側の精神的な打撃や︑裁判にできない故の不条理な思いは︑訴訟という公の場で加害者を罰することでは解決さ
第三に︑法廷で争う場合︑ほとんどの場合︑被害者の証言が唯一の証拠であることに起因する問題である︒
カウンセリングなどの予防策も充実しているが︑事件発生の絶対数が多いこともあって︑事件が法
1 0
四
アメリ
15-~4 ‑676 (香法'96)
児童虎待における子供の証言(木下)
微妙な家族の関係を中に含んでいる児童虐待には︑裁判によって犯人を罰したり︑法の規定に縛られているのみで
は解けない問題が多くある︒それを補うには︑家族や子供を対象にしたカウンセリング制度の充実による予防や︑児
童虐待を経験したものが成人した後に虐待者になるといった悪循環を防ぐための再教育制度のように︑児童虎待を経
験した子供の将来まで考えて事件を処理する総合的政策が必要である︒ただ総合的政策が構築されても︑﹁何が子供に る視点が必要になる︒
1 0
五 廷に行く場合も少なくない︒その場合︑実務での様々な工夫を見ていると︑法的手続きにおいて目撃証言は︑必ずしも絶対的な真実が存在していることを提示するものではないように見える︒むしろ目撃証言が法的な文脈で意味︵リ
アリティー︶を持つのは︑①目撃者が記憶し保存していた内容をいかに取り出すか︑②それを聞いた人がどうその証
言を理解するかという二点によって決まっている︒法的な証言の﹁真実﹂をこのようなものと理解するならば︑起訴
両者に同等に保護を与える機能的な方法として評価できようが︑
る︒
現在
︑
事件を思い出すきっかけや︑ コンフロンテーシ3ン・クローズとの抵触を回避しながら被告人と被害者の
ロフタスの カリフォルニア州やワシントン州などの数州では︑被害者の抑圧されていた記憶が蘇ってから犯人を訴え
ることを︑立法上認めるようになっている︒だがこの条項に基づく訴訟は︑ロフタスが疑問を投げかけているように︑
それに介在する人間による暗示の可能性など︑多くの問題をはらんでいる︒
疑問を受け入れるなら︑児童虐待を防止しようという立法意図を越えて︑客観的には事件がなかったにもかかわらず
訴えられるという︑﹁犯人作り﹂の可能性がここでもでてきてしまう︒したがって︑証言を絶対視するのではなく︑問
題全体を多角的な視点において認識する必要がある︒
虐待を社会におけるリスクとして︑ 材料としてビデオを使うなどの手法は︑
そして最終的には︑証言に基づく法的な対処に留まらず︑児童
いかに予防し︑発見し︑再発を抑止し︑影響を最小化するかをシステム的に捉え 一方では事件を作り出しかねない危険も内包してい
15 .. 4 ‑‑677 (香法'96)
ました︒またマサチュウセッツ州ノーフォーク郡のアシスタント地区検事である
J e
a n
m a
r i
C e
a r
r o
l l
さん︑そしてミッドルセ
ックス郡のチャイルド・アビューズ・プロセキューション・ユニット・チーフの
Ma
rt
ha
C o
a k
l e
y さんには︑私のインタビュ
ーに快く答えて戴き︑大変お世話になりました︒日本の実務の現状については大阪市中央児童相談所の津崎哲郎氏︑弁護士の
岩佐嘉彦氏に教えていただきました︒この場をお借りして︑これらの方々に謹んでお礼を述べさせて戴きます︒また私の報告
に対し有益なコメントを下さった法理学研究会のメンバーの方々︑
この論文を書くにあたって︑ 謝
辞
心に考察してきた︒アメリカでは︑科学に基づく証拠を採用する場合︑その研究が︑﹁科学者間で受容されている度合
︵皿
︶
によってその信憑性を判断してきた︒しかしこれが一九九三年の ダウバート判決によって覆され︑特殊の研究も証拠として採用可能となったために︑社会科学および自然科学の研究 に基づく証言が︑今後︑裁判においてより活用されるであろうといわれていな︒心理学が社会科学として持つ論理を︑
法の論理に適用する困難さは認めるにしても︑期待される役割もまた大きいことを忘れてはならない︒ いが一般的か否か﹂
マサチュウセッツ州ノーフォーク郡の
P a
u l
C h
e r
n o
f f
判事を丸太隆先生に紹介していただき という韮準︵フライ・テスト︶ 本論文では︑裁判過程において︑
いかに子供の証言から
とって最良の解決か﹂ということを︑
周囲の第三者が決定するには常に困難を伴うのも事実である︒
なぜ
なら
︑ いった総合的な政策を構築するには︑文化的︑社会的︑経済的要因が大きな役割を果たすからである︒その意味では︑
この間題は国際比較の視点から論じる必要があるが︑紙幅の関係じ︑本論文ではアメリカでの事例を中心に述べた︒
︵ 圃︶
日本の現況については︑別稿に譲りたい︒
﹁真実﹂を発見しうるかということを︑心理学の研究を中
そしていつも快く数多くのアドバイスを下さる棚瀬孝雄
1 0
六
こう
15‑‑4 678 (香法'96)