• 検索結果がありません。

― ― ドイツにおける地方自治体憲法異議の制定過程

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "― ― ドイツにおける地方自治体憲法異議の制定過程"

Copied!
26
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

Ⅰ.序

1 .問題の所在

 ドイツにおいて市町村(以下、「ゲマインデ(Gemeinde)」)は、ボン基本 法28条 2 項に基づいて自治行政権が保障されている。この28条 2 項の解 釈については、いわゆる「制度的保障(institutionelle Garantie)」論が通説 的地位を占め、それがさらに、①「法主体保障」ないし「制度的法主体保 障」、②「法制度保障」ないし「客観的制度保障」、そして③「『主観的な』

法的地位保障」という 3 つの要素に分けられることは(1)我が国においてもよ く知られているところである。

論 説

ドイツにおける地方自治体憲法異議の制定過程

中 嶋 直 木

Ⅰ.序

Ⅱ.連邦憲法裁判所法91条の制定過程

Ⅲ. 地方自治体憲法異議の受容

―「オッフェンバッハ」判決と基本法上の制度化

Ⅳ.おわりに―解決された合憲性問題と残された法的性質問題

(1) K. Stern, Das Staatsrecht der Bundesrepublik Deutschland, Bd.1, 2. Aufl. 1984, S.409; E. Schmidt ―Aßmann / H. C. Röhl, in : E. Schmidt―Aßmann / F. Schoch

(Hrsg.), Besonderes Verwaltungsrecht, 14. Aufl. 2008, 1. Kap, Rn. 9.

(2)

 本稿が着目するのは、③の「主観的な」法的地位保障の要素である(2)。こ の要素は、上記の①及び②の保障を担保するために、「基本法28条 2 項の 実体的保障規範から直接生じる、裁判所による保護を求める権利」と説明 される。従って、この「主観的な」法的地位保障の要素により、ゲマイン デの自治行政権は、通常法律上では、市民の主観的権利と「同じように扱

4 4 4 4 4 4

われている

4 4 4 4 4

」のである(行政裁判所法42条 2 項の「権利」に含まれる(3))。  他方で、基本法及び連邦憲法裁判所法は以下のような「地方自治体憲法 異議(Kommunale Verfassungsbeschwerde)」(以下、「KVerfB」)を定めている。

①基本法93条 1 項

 「連邦憲法裁判所が決定するのは、次の場合である。

 (略)

  4 b 号: ある法律によって28条の自治行政権が侵害されたことを理由とす る、ゲマインデ及びゲマインデ連合の憲法異議について;ただ し、州の法律による侵害の場合には、州の憲法裁判所に異議を申 し立てることができない場合に限る」。

②連邦憲法裁判所法91条

  「ゲマインデ及びゲマインデ連合は、連邦又は州の法律が基本法28条の定 めに違反することを主張して、憲法異議を提起することができる。連邦憲 法裁判所への憲法異議は、自治行政権の侵害を理由とする異議が州の法に よって州憲法裁判所に提起できる限り、これを認めない」。

 ここで問題となるのが、このような KVerfB と「主観的な」法的地位

(2) 我が国において、この保障要素の解明が実践的・理論的に重要になっているこ とについて、拙稿「制定過程における基本法28条 2 項の文言の意義―ゲマインデ の「主観的な」法的地位保障の議論を契機に―」熊本ロージャーナル11号(2016)

3 ― 4 頁。

(3) E. Schmidt―Aßmann / H. C. Röhl, (Fn. 1 ), Rn. 24;もっとも「同じように扱わ れている」に過ぎないのであって、一部の学説を除いて、市民の主観的権利とゲマ インデの「主観的な」法的地位は理論的には厳格に区別されているといってよい

(W. Löwer, in: I. v. Münch / P. Kunig (Hrsg.), Grundgesetz―Kommentar, Bd. 1, 6.

Aufl. 2012, Art. 28, Rn. 43)。

(3)

との関係である。上記の 3 要素を提唱したシュテルン(K. Stern)は、当 初、KVerfB は「主観的な」法的地位の存在を「明確にしたに過ぎない

(nur verdeutlicht(4))」と述べていた。従って、ここでのシュテルンの見解は

「主観的な」法的地位を「基本法28条から直接的に導き、決して、憲法異 議によって保障される訴訟上の申立権に過ぎないものとはみなしていな

(5)い

」。しかし、その後、シュテルンは、自治行政権保障といった、基本権 又は基本権類似の権利と結び付かない「基本権から隔たりのある制度的保 障(grundrechtsferne institutionelle Garantien)」は「補完的な諸規範によっ て、主観的権利の導出が確保される(sichergestellt)のであり、ゲマイン デの自治行政については基本法93条 1 項 4 b 号による(6)…」と述べるに至っ ている。これは、場合によっては、KVerfB を「基本法28条 2 項の訴権的 側面(aktionenrechtliche Sicht(7))」と理解しているようにもみえ、従来の見 解とは、「主観的な」法的地位と KVerfB との関係についての理解が異な るように思われる。

 そこで、本稿では、「主観的な」法的地位の理論的解明を問題関心の背 景にして、KVerfB が「主観的な」法的地位の存在ないし論証との関係で どのような意義を有するのかに着目する。確かに、「主観的な」法的地位 の議論は基本法28条 2 項自体の解釈問題ではある。しかし、基本法28条 2 項と KVerfB は相互に影響し合っているとされるため、基本法28条 2 項の「主観的な」法的地位を解明する場合にも、基本法28条と KVerfB という「 2 つの相補的規範に関する教義学的基盤を十分に考察することが 必要(8)」となろう。

(4) K. Stern, in: R. Dolzer / K. Vogel (Hrsg.), Bonner Kommentar zum Grundgesetz, 1964, Art. 28, Rn. 175.

(5) H. Scholtissek, Verfassungsprobleme zur Eingemeindung, DVBl. 1968, S.827.

(6) K.Stern, Das Staatsrecht der Bundesrepublik Deutschland, Bd. 3 /1, 1988, S.

874―875.

(7) H. Bethge, in: T. Maunz / B. Schmidt―Bleibtreu / F. Klein / H. Bethge (Hrsg.)

Bundesverfassungsgerichtsgesetz Kommentar, 2007, §91, Rn. 15 ;ベトゲ (Bethge)

自身はこのような理解は採らない。

(4)

2 .検討の対象

 KVerfB と「主観的な」法的地位との関係を明らかにする上では、まず は、KVerfB の法的性質について検討することになろう。もっとも、この 点については、現在においても一致をみず、争われている(9)。そこで、本稿 では、学説上の議論を整理・検討するための出発点として、KVerfB の立 法・成立過程を検討する。具体的には、第 1 に、KVerfB 導入の動機、第 2 に、制定過程における KVerfB と「主観的な」法的地位との関係、第 3 に、制定過程における KVerfB の規範構造、を明らかにすることを試 みる。

3 .地方自治体憲法異議の制定過程の概観と本稿の構成

 KVerfB は、当初は基本法上の制度ではなく、1951年 3 月12日に成立し た連邦憲法裁判所法の91条として制度化された。しかし、個人の基本権侵 害 に 基 づ く「個 人 憲 法 異 議(Individualverfassungsbeschwerde(10))」(以 下、

「IVerfB」)が基本法の制定過程の初期から議論されている(11)のに対して、

KVerfB は、基本法制定後の連邦憲法裁判所法の制定過程になって初めて 現われる。KVerfB の議論において、IVerfB は頻繁に引き合いに出され、

成立経緯にも共通する点があるが、両者に向けられる関心には大きな差が あったといえる。しかも、KVerfB は制定過程の段階から合憲性について 疑義があり、その決着は連邦憲法裁判所による「オッフェンバッハ判決(12)

(8) H. Bethge, (Fn. 7 ), §91, Rn. 1.

(9) H. Maurer, Staatsrecht I, 6. Aufl. 2010, §20, Rn. 139; 我が国において、この議 論状況を概観したものとして、斎藤孝「自治体の憲法異議」畑尻剛=工藤達朗編

『ドイツの憲法裁判〔第二版〕』(中央大学出版部・2013)364―365頁がある。

(10) K. Stern, in: R. Dolzer / K. Vogel (Hrsg.), Bonner Kommentar zum Grundgesetz, 1982, Art. 93, Rn. 403.

(11) Plenum, 7. Sitzung vom 23. 8. 1948, in: P. Bucher, Der Verfassungskonvent auf Herrenchiemsee, in: Deutscher Bundestag / Bundesarchiv (Hrsg.), Der Parlamentarische Rat 1948―1949, Akten und Protokolle, Bd. 2, 1981, S. 454―460.

(5)

を待たなければならなかった。

 このような経過をたどりながらも、KVerfB は、最終的には、1969年の 第19次基本法改正により、基本法上の制度となる。

 そこで、本稿では、KVerfB について、連邦憲法裁判所法の制定過程の 議論を追い、その後の合憲性についての議論を踏まえつつ(Ⅱ)、合憲の お墨付きを与えたオッフェンバッハ判決と第19次基本法改正法の制定過程 の議論を検討することで(Ⅲ)、上記の検討課題について、一定の結論を 得ようとするものである。

Ⅱ.連邦憲法裁判所法91条の制定過程

 連邦憲法裁判所法の制定過程では、SPD(ドイツ社会民主党)が、連邦 議会本会議の第二読会延長審議において、KVerfB を導入する旨の草案変 更を提案した(以下、「SPD 提案(13)」)。そこで、以下では、SPD 提案以前の 議論から制定過程検討の視点を抽出し、それに基づいて、SPD 提案とそ の後の議論をみてゆく。

1 .制定過程検討の視点―SPD 提案前

( 1 ) 地方自治体連合組織の活動

 いくつかの「地方自治体連合組織(Kommunaler Spitzenverband)」(以 下、「連合組織(14)」)は KVerfB の導入のために、連邦憲法裁判所法の制定過 程の初期の頃から積極的にロビー活動を行った(15)。というのも、第二次世界

(12) BVerfGE 1, 167.

(13) 114. Sitzung vom 25. 1. 1951, BT―Sten. Ber., Bd. 6, S. 4295.

(14) 連合組織については、木佐茂男「ドイツの自治体連合組織」同『国際比較の中 の地方自治と法』(日本評論社・2015)194頁以下参照。

(15) A. Arndt, Das Bundesverfassungsgericht, DVBl. 1951, S.299; W. Roemer, Das Gesetz über das Bundesverfassungsgericht, JZ 1951, S. 198; H. Müthling, Zur verfassungsrechtlichen Sicherung der Selbstverwaltung, DÖV 1951, S.33; H. Schäfer, Die Verfassungsbeschwerde der Gemeinden und Gemeindeverbände, DÖV 1951,

(6)

大戦直後から各州において地方自治行政を脅かすような制度改革が進めら れており(16)、各州のゲマインデ等から成る諸連合組織は危機感をもってい た。そこで、連邦の機関たる連邦憲法裁判所において救済の途が開かれる ことで、このような改革に対抗できると考えたのである。

 連合組織の中でも特にドイツ都市会議(以下、「都市会議」)は精力的に 活動し(17)、以下のような定式を提案している(18)

 「ゲマインデ又はゲマインデ連合は、自らの自治行政権(基本法28条)が 連邦又は州の法規範により侵害されている又は直接的に危険にさらされてい ると主張した場合には、連邦憲法裁判所へ訴えを提起することができる(19)」。

 提案理由の中で強調されているのが、第 1 に、州の権限に対する連邦憲 法裁判所の審査権の確立である。すなわち、基本法28条 2 項は連邦のみ ならず州をも拘束し、同条 3 項によって各州の憲法的秩序が同条 1 項・ 2 項に適合することを連邦が保障することになっている。従って、その保障

S.572; W. Grafe, Die kommunale Selbstverwaltung und das Bundesverfassungsgericht, Der Städtetag 1951, S. 125; R. Schiffers, Grundlegung der Verfassungsgerichtsbarkeit, 1984, S. XXXV ff..

(16) 成田頼明『西ドイツの地方制度改革』(良書普及会・1974)67―71頁。

(17) ドイツ都市連合やドイツクライス会議といった他の連合組織も、陳情書を提出 するなどの活動をおこなっているが(R. Schiffers, (Fn. 15), S. 241─242, 278─279)、

その積極性や内容において都市会議には及ばない。

(18) それ以前にも、①州の憲法裁判所の判断の後であっても連邦憲法裁判所への出 訴を認め(連邦憲法裁判所の州憲法裁判所に対する優位)、②訴えの対象をすべて の「公権力」とし、③「公権力」の主体は連邦と州が共に含まれるという非常に広 範な内容の定式を提案していた(R. Schiffers, (Fn. 15), S. 211)。その後、各州で 行政裁判制度が確立されたことにより、行政行為に対する救済は不要であるとの見 解に至ったため、法規範に限定されることになった(R. Schiffers, (Fn. 15), S.

235)。また、連邦憲法裁判所の州憲法裁判所に対する優位については、最終的な提 案から削除されているが、陳述書からは削除によって積極的にその趣旨を排除する ということは窺われず、最終提案の定式の文理からもその趣旨は維持されていると いってよい。

(19) R. Schiffers, (Fn. 15), S. 235.

(7)

を担保するために、自治行政を巡る紛争の際には、最終審として、連邦憲 法裁判所の判断が必要であるが、(当時の)基本法93条 1 項 1 号~ 5 号が 定める連邦憲法裁判所における機関訴訟や連邦―州間争訟等の訴訟類型で は不十分である。そこで、基本法93条 2 項(現行の 3 項(20))に基づいて、ゲ マインデ自身が提起できる KVerfB を連邦憲法裁判所法上で明確に定め る必要がある。また、連邦憲法裁判所が最終審であることが重要であるか ら、州憲法裁判所に対する連邦憲法裁判所の補充性は認められない(21)。  次に提案理由で強調されているのが、自治行政の権利は、連邦による権 利保護という点では基本権と「同列に置かれる(gleichstellen)」、あるい は「完全に同じものとして扱われる(vollkommen gleich behandelt)」主観 的権利である、という点である(22)。というのも、基本法19条 4 項は自治行政 権にも妥当し、基本法28条 3 項は連邦による保障を定めているからであ る。これは、「憲法異議」という訴訟形態の導入を正当化すると同時に、

基本法28条 2 項によって連邦がゲマインデに対して「直接的な保障」を 与えていることを主張するもので、ひいては基本法28条 2 項は連邦―州 間だけではなく、連邦―ゲマインデ間の法関係も直接的に規律していると 主張するものである(23)。従って、自治行政権が制度的保障であるのか基本権 であるのか、あるいは主観的権利であるのか、主観的権利であるとして基 本法19条 4 項の保障を受けるのかという議論は、このような連邦とゲマイ ンデ間に法関係が存するのかという議論の中で生じている。

( 2 ) 法務委員会の議論

 都市会議の提案からは、州による地方自治制度改革に対して連邦(の機

(20) 現行の93条 3 項は、「さらに連邦憲法裁判所は、その他連邦法律によって予め 定められている場合にも活動する」と定める。

(21) R. Schiffers, (Fn. 15), S. 209―211.

(22) 都市会議の見解をこのように理解するものとして、H. Müthling, (Fn. 15), S.

33.

(23) R. Schiffers, (Fn. 15), S. 210―211, 234.

(8)

関)による保障で対抗しようという実践的意図が明らかになる。しかし、

伝統的に地方自治行政の規律は州の専属的な立法権限と考えられてきたた

(24)め

、KVerfB の導入は連邦による州権限への介入を意味し、必然的に連邦 制の問題が生じることになる。特に、都市会議の提案では、KVerfB の対 象に「州」法律を含み、連邦憲法裁判所の州憲法裁判所に対する補充性を 否定しているため、この問題は先鋭化することになるが、これはそもそも の KVerfB 導入の実践的意図からすれば不可避であった。

 このような問題が正面から取り上げられたのが、連邦議会本会議の第 1 読会後に審議を付託されていた連邦議会の法務委員会である。議論の対象 は IVerfB であったが、以下のような KVerfB に対する疑義が述べられて いる。

 第 1 に、憲法異議の制度によって州の地方自治政策へ介入することはそ の制度目的に反する、という点である。というのも、基本法28条 2 項の 義務の名宛人は州であって、州こそが基本法においてゲマインデ等に自治 行政の権利を与えるべき義務を負っており、ゲマインデ自体には連邦法上 で直接的に自治行政権についての請求権が承認されているわけではないか ら、州による自治行政権の保障は、基本法84条に基づく州への連邦による 監督と基本法93条が定める連邦―州間争訟によって担保されればよいとさ れた。

 そして、第 2 に、基本法28条 2 項に基づくゲマインデの自治行政権は 基本権ではなく、また、基本権とは「同列に扱われない」ので、連邦憲法 裁判所への出訴も導かれないことが述べられている(25)

 このような見解は、法務委員会の大勢を占めたといってよく、上記の都 市会議の提案理由を真っ向から否定するものであった。結局、KVerfB の

(24) K. Vogelgesang / U. Lübking / I.―M. Ulbrich, Kommunale Selbstverwaltung, 3.

Aufl. 2005, Rn. 2.

(25) Rechtsausschuß (Ausschuß für Rechtswesen und Verfassungsrecht) des Deutschen Bundestages, 74. Sitzung vom 6. 12. 1950, in: R. Schiffers, (Fn. 15), S.

314―316.

(9)

制度は、連邦議会本会議の第二読会でたたき台となる法務委員会による連 邦憲法裁判所法草案口頭報告には採用されなかった(26)

( 3 ) 連邦内務省の提案

 連邦内務省は、明確に KVerfB の制度を導入しようという意図を持っ ており、連邦議会本会議第二読会の前に、同省の地方自治部門の長が KVerfB の導入を提言して、以下のような定式を提案している。

 「ゲマインデ又はゲマインデ連合は、自らの自治行政権(基本法28条)が 連邦法律により侵害されている又は直接的に危険にさらされていると主張し た場合には、連邦憲法裁判所に訴えを提起することができる。このことは、

連邦法又は州法によって別の裁判所の管轄権が宣言されていない限り、他の 連邦の法規範にも妥当する」。

 この提言では、基本法28条はゲマインデに対して直接的に基本権も主 観的権利も保障したものではなく、各州の立法者に対してその自治行政権 保障を義務付けるに過ぎないから、自治行政権保障の問題は連邦と州の間 で、上述の連邦監督や連邦強制又は連邦憲法裁判所による既存の訴訟類型 により解決すればよいとしており、この点では上述の法務委員会の大勢と 一致する。他方で、既存の制度・訴訟類型を前提とした場合、州又は連邦 が連邦憲法裁判所に出訴しなければ、ゲマインデの救済を欠くことにな る。そこで、基本法28条に基づく保障義務を「十分に意義のあるもの

(guten Sinn)」とするために、いわば立法・憲法政策的に、ゲマインデ自 体が連邦憲法裁判所へ出訴できる KVerfB を導入すべきで、しかも、そ れは基本法93条 2 項によって根拠付けられる、としている(27)

 もっとも、KVerfB の定式は「連邦」の法律(規範)に限定されている。

このような限定が生じたのは、この提案が立法・憲法政策的に KVerfB

(26) Vgl. BT―Drucks. Bd. 8, Nr. 1724.

(27) H, Müthling, (Fn. 15), S. 33―34.

(10)

を導入しようとするため、州権限への配慮という要請が強まった結果とい えよう(28)。「州」法律を対象とすることこそが都市会議の最大の実践的な意 図であった点に鑑みれば、連邦内務省も都市会議も共に KVerfB の制度 を提案しているが、その温度差は大きいといえる。

( 4 ) 小括

 都市会議の KVerfB の提案は連邦憲法裁判所という連邦の機関によっ て、州の立法権限に介入するという意図を持っていたために、不可避的に 連邦制の議論を引き起こすことになった。この議論は、理論的には、

KVerfB が連邦とゲマインデ間の直接的な法関係ないし「直接的な保障」

をもたらすものであるかという視点に還元される。都市会議は、連邦とゲ マインデ間の法関係を開くために、基本法28条 2 ( 3 )項が連邦に対する ゲマインデの主観的権利を保障していると主張したのに対して、法務委員 会の議論では、基本法28条 2 項はもっぱら連邦と州間の法関係を定める ものとされたのである。従って、KVerfB 導入の議論では、連邦制問題と いう実践的な争いが基本法28条 2 ( 3 )項が定める自治行政権の性質問題 として争われているといえる(このようにみれば、連邦内務省の提案は、こ の問題を回避して、KVerfB を導入しようとするものであることが分かる)。  実は、連邦制問題という視点は、基本法28条の制定過程の議論も規定 していた(29)。そのため、自治行政の規律権限が州に留保されている連邦制の 中で、どのように連邦憲法上で自治行政権の保障を定めるかという基本法 28条 2 項の制定過程の議論が「第 1 ラウンド」であるとすれば、そのよう な連邦制の中で、連邦の憲法上で確立した自治行政権の保障をどのように 実現するのかという KVerfB の制定過程の議論は「第 2 ラウンド」とい

(28) 連邦内務省による KVerfB の提案について、内務省という性格上、中央集権 的な意図があったと指摘するものもある(Vgl. R. Schiffers, (Fn. 15), S. XXXVI)

が、提案の定式が連邦の法規範に限定されている限りにおいて、そのような意図は それほど強くないものといえるかもしれない。

(29) この点については、拙稿・前掲(注・ 2 ) 3 頁以下参照。

(11)

える。そして、第 1 ラウンドでは連邦制の議論の「妥協の犠牲(30)」となった ために深められることのなかった自治行政権の性質問題が、この第 2 ラウ ンドにおいてようやく扱われることになったのである。

2 .制定過程の議論―SPD 提案後

( 1 ) 提案と提案理由

 KVerfB は連邦議会本会議第二読会の延長審議において初めて SPD に より提案された。それは、IVerfB の規定(草案90条(31))に以下のような第 2 項を挿入するものであった。

 「ゲマインデ及びゲマインデ連合は、基本法28条違反を主張することによ って、憲法異議を提起することができる(32)」。

 このような提案について、SPD のヤコビー(Jacobi)は大要以下のよう に説明している。

 第 1 に、基本法28条は、明確かつ紛うことのない義務付けを規範化して おり、ゲマインデの制度的保障を含意している。確かに「28条という憲 法規定においては直接的に宣言された基本権が問題となっているわけでは ないが、そうであっても、28条はその作用(Wirkung)において、保障的 宣言を含んでいるのであり、従って、この点において、自治行政の権利は 基本権と同様に作用するのである」。

 第 2 に、基本法28条 3 項は連邦による保障義務を定めているところ、州 によるゲマインデの自治行政権への侵害に対しては、連邦による憲法裁判 所への出訴や連邦による直接的な執行では、上記の保障義務は十分に果た されない。何らかの方法で、ゲマインデが連邦憲法裁判所に出訴できるこ

(30) W. Sörgel, Konsensus und Interessen, 1969, S. 158.

(31) BT―Drucks. Bd. 8, Nr. 1724.

(32) 114. Sitzung vom 25. 1. 1951, BT―Sten. Ber., Bd. 6, S. 4295.

(12)

とこそが、「基本法が連邦に委ねているところの真の保障行為である」。

「先にも述べた通り、28条においては、…基本権の一種、即ち、制度的保 障が規範化されているのであり、そうであるならば、ゲマインデ…には、

その内部的核心において基本権的性質を有するところの保障を援用する方 途が開かれていなければならない(33)」。

 以上のような提案理由は、基本的には、都市会議の提案と同じ趣旨であ ると評価することができる。もっとも、この提案は、前述の都市会議や連 邦内務省の提案と比べ、第 1 に、法律か行政行為かといった対象となる国 家行為が限定されていない点、第 2 に、その国家行為の主体が連邦か州か も限定されていない点、第 3 に、連邦憲法裁判所の州憲法裁判所に対する 補充性も定められていない点において、広汎で、「あまりにも行き過ぎた(34)」 内容と評された。

( 2 ) 連邦議会本会議第二読会での議論

 以上のように、SPD 提案(理由)は、ゲマインデ等の自治行政権の保護 に偏ったもので、その対象も広範であった。そのため、連邦議会本会議第 二読会では、主に、州の権限への連邦による過剰な介入を招くのではない かという観点から、いくつかの反対が表明されている。

 例えば、CSU(キリスト教社会同盟)のラフォレ(Laforet)は以下のよ うに述べている。そもそも、ゲマインデに関する法は州法によるものであ り、基本法28条はそれに基づいて自治行政の原則を形成するよう州を義 務付けるに過ぎない。従って、ゲマインデ等への監督も州官庁がなし、ま た、その監督が州憲法に適合しているか否かを判断するのは州の行政裁判 所の責務である。そして、いまや全ての州において行政裁判所が設置され るに至っている以上、SPD 提案はもはや不要である。しかも、SPD 提案 は、行政行為のみならず、立法及び司法行為に対しても訴えの提起可能性

(33) 114. Sitzung vom 25. 1. 1951, BT―Sten. Ber., Bd. 6, S. 4296.

(34) A. Arndt, (Fn. 15), S. 299.

(13)

を認めており、これは、広汎に過ぎる(35)

 DP(ドイツ党)のメルカッツ(v. Merkatz)も、SPD 提案のような広汎 な訴えの提起可能性は、「連邦主義的基盤、すなわち、州の高権を粉砕 し」、「連邦憲法裁判所に過剰な負担を課す」として、反対している(36)。  以上のような反対が表明されたものの、最終的に、SPD 提案は連邦議 会本会議第二読会において過半数をもって採用されることとなる(37)。しか し、このような反対の表明は、なおも連邦制という観点から KVerfB の 合憲性について疑義がくすぶっていたことを示すものである。

( 3 ) 連邦議会本会議第三読会前の党派間協議

 第二読会では採択されたものの、訴えの対象において過度に広汎で、州 の権限に対して配慮の欠く SPD 提案に対しては、上記の通り、なおもし こりが残ったままであった。そこで、連邦議会本会議第三読会直前に、法 務委員会の委員による党派間協議がもたれ、その結果、以下の点において 見解の一致をみた。すなわち、第 1 に、90条 2 項が削除され、IVerfB の 条文から独立して、90a 条という新たな条項が設けられる。第 2 に、新設 の90a 条に定める KVerfB はいわゆる「抽象的規範統制」に限定される。

第 3 に、連邦憲法裁判所は州憲法(国事)裁判権との関係で「補充性」を 有する(38)

( 4 ) 連邦議会本会議第三読会

 上記の党派間協議の結果を踏まえて、連邦議会本会議第三読会では以下 のような、現行の連邦憲法裁判所法91条と同一の条文定式が提案されてい

(39)る

(35) 114. Sitzung vom 25. 1. 1951, BT―Sten. Ber., Bd. 6, S. 4297―4298.

(36) 114. Sitzung vom 25. 1. 1951, BT―Sten. Ber., Bd. 6, S. 4299―4300.

(37) 114. Sitzung vom 25. 1. 1951, BT―Sten. Ber., Bd. 6, S. 4301.

(38) 116. Sitzung vom 1. 2. 1951, BT―Sten. Ber., Bd. 6, S. 4413―4414.

(39) 116. Sitzung vom 1. 2. 1951, BT―Sten. Ber., Bd. 6, S. 4412, 4419; H. Bethge,

(14)

 「ゲマインデ及びゲマインデ連合は、連邦又は州の法律が基本法28条の定 めに違反することを主張して、憲法異議を提起することができる。連邦憲法 裁判所への憲法異議は、自治行政権の侵害を理由とする異議が州の法によっ て州憲法裁判所に提起できる限り、これを認めない」。

 この提案について、SPD のアルント(Arndt)は以下のように説明して いる。第 1 に、KVerfB は「抽象的規範統制(abstrakte Normenkontrolle)」 に限定される。というのも、州の執行機関とゲマインデ間の紛争に介入す ることは連邦憲法裁判所の責務ではないが、他方で、州法律又は連邦法律 が基本法の自治行政権保障と合致しているかについては、連邦憲法裁判所 によって統制されねばならないからである。第 2 に、連邦憲法裁判所が州 憲法裁判所との関係では「補充性」を有するにとどまる。これは、州憲法 裁判所と連邦憲法裁判所との権限配分を考慮したためである(40)

 ここで最も重要なことは、KVerfBを抽象的規範統制と性格付けたことであ る。上記条文提案の文言通りにKVerfBを「憲法異議(Verfassungsbeschwerde)」 と性格付けたならば、憲法異議の概念は申立権者の基本権その他の主観的 権利の侵害を前提とするため(41)、そのような性格の KVerfB の導入は基本 法28条 2 項が連邦によるゲマインデへの「直接的な保障」で、しかも連 邦に対するゲマインデの主観的権利であることを意味する。これは、

KVerfB 導入反対派の見解(連邦とゲマインデ間に直接的な法関係が開かれれ ば、連邦による州権限への過剰介入を招く)と真っ向から対立することにな

(Fn. 7 ) S. 3.

(40) 116. Sitzung vom 1. 2. 1951, BT―Sten. Ber., Bd. 6, S. 4413―4414;第 2 の点につ いて、アルントは以下のように述べている。即ち、州の法律が自治行政権を侵害し ているか否かの州法に基づく争訟は州憲法裁判所により判断されるべきであるが、

しかし、連邦法律が(基本法上の)自治行政権保障と合致しているか否かについて は州の憲法裁判所は判断することはできない。反対に、州法律が州憲法に合致して いるか否かについては連邦憲法裁判所は判断することはできない (116. Sitzung vom 1. 2. 1951, BT―Sten. Ber., Bd. 6, S. 4413―4414)。

(41) K. Stern, (Fn. 10), Art. 93, Rn. 403.

(15)

る。これに対して、抽象的規範統制は「当事者が主観的権利又は主観化さ れた客観法をめぐって争う対審的手続ではなく」、憲法自体の保護を目的 とした「被告なき客観的手続(42)」と解されているため、申立権者による申立 ては、自己の主観的権利とは無関係な、連邦憲法裁判所の審理を開始する ための単なる「端緒的機能(Anstoßfunktion(43))」しか有さない。従って、抽 象的規範統制と性格付ければ、理論的には連邦とゲマインデとの直接的な 法関係を認めたものとはいえないことになる。

 要するに、KVerfB を抽象的規範統制と性格付けることは、単に訴えの 対象を法律に限定するということだけではなく、個々のゲマインデが直接 的に連邦に対して請求権を有するかという連邦制問題に関わる政治的「難 問」を回避できるのである。この点こそが、KVerfB を抽象的規範統制と 性格付けたことの最大の意義といえよう。アルントが、提案説明の中で、

基本法28条 2 項の「『保障(されている)』という表現が…ゲマインデの連 邦に対する直接的な請求権を含んでいるか否かについて、(後の)連邦憲 法裁判所は判断しなければならないだろう(44)」(括弧内―筆者)と述べている のは、このような立法過程における判断回避を意味するものといえよう。

 もっとも、理論的には連邦とゲマインデとの直接的な法関係の有無は留 保されているものの、実質的には、ゲマインデの申立てに基づいて連邦憲 法裁判所による州権限への介入を認めることになる。そこで、連邦憲法裁 判所の州憲法裁判所に対する補充性を認めることで、州の権限に配慮した のである。

 このような90a 条が、それ以上の議論を経ることなく、連邦議会本会議 第三読会の全体提案として採決された(45)。その後、最終的な編集上の条項番 号の変更を経て、草案91条の規定となった(46)

(42) K. Stern, Das Staatsrecht der Bundesrepublik Deutschland, Bd. 2, 1980, S. 985.

(43) E. Klein, in: E. Benda / E. Klein / O. Klein, Verfassungsprozessrecht, 3. Aufl.

2012, Rn. 664; BVerfGE. 1, 208 (219).

(44) 116. Sitzung vom 1. 2. 1951, BT―Sten. Ber., Bd. 6, S. 4413.

(45) 116. Sitzung vom 1. 2. 1951, BT―Sten. Ber., Bd. 6, S. 4419.

(16)

( 5 ) 連邦参議院

 連邦参議院は、1951年 2 月 9 日の第49回本会議において連邦憲法裁判所 法草案を審議している(47)。そこでは、ラインラント=プファルツ州とバイエ ルン州の代表議員が KVerfB について異議を唱え、両院協議会の開催を 共同で提案した。特にバイエルンの代表議員は以下のように述べている。

 第 1 に、基本法28条は連邦と州を規定する章に属しており、また、憲法 異議をゲマインデに認めることは、ゲマインデが州の構成分肢であって、

連邦と直接的な法関係が存在しないという基本法の原則を破ることにな る。第 2 に、基本法93条 2 項(現行の 3 項)の規定をゲマインデ等の自治 領域についてまで拡張することは出来ず、また、基本法28条と州法との 一致についてはもっぱら基本法93条 1 項 2 号の抽象的規範統制により審理 されることになるが、同条は、出訴資格を連邦政府、州政府及び連邦議会 に与えているに過ぎないことから、「ゲマインデに関する法は、基本法が 排他的に州に委ねる数少ない領域の一つである」として、「連邦憲法裁判 所への憲法異議という脱法手段によっても、連邦の権限を創設することは 不可能であるし、許されない(48)」。

 しかし、それ以上議論は深められず、両院協議会開催を求める共同提案 は否決されている(49)

( 6 ) 連邦憲法裁判所法の成立と小括

 連邦憲法裁判所法は、1951年 3 月12日法律として成立し、同年 4 月16日 に公布された。

 SPD 提案後の制定過程の議論においても、基本法28条 2 項は連邦とゲ マインデとの直接的な法関係を認めたものか(連邦によるゲマインデに対す

(46) W. Grafe, (Fn. 15), S. 125.

(47) 49. Sitzung vom 9. 2. 1951, BR―Sten. Ber., S. 87―92(連邦参議院の速記録は、

同院のホームぺージ(http://www.bundesrat.de)に拠った).

(48) 49. Sitzung vom 9. 2. 1951, BR―Sten. Ber., S. 90.

(49) 49. Sitzung vom 9. 2. 1951, BR―Sten. Ber., S. 92.

(17)

る「直接的な保障」であるのか)という点が焦点であった。すなわち、一方 では、連邦による連邦憲法裁判所を通じた州権限への過剰な介入を警戒 し、基本法28条 2 項はあくまでも連邦と州との間の法関係を規律するに 過ぎないから、ゲマインデは直接、連邦憲法裁判所に出訴することはでき ないと主張された。他方では、連邦とゲマインデとの直接的な法関係を設 定し、連邦憲法裁判所にゲマインデが直接出訴することを可能にするため に、基本法28条 2 項が連邦に対するゲマインデの主観的権利である、あ るいは作用の点において基本権と同じであると主張されたのである。

 最終的には、この議論は KVerfB が抽象的規範統制と性格付けられる ことによって、棚上げされた。この議論の棚上げこそが抽象的規範統制と 性格付けたことの最大の意義といえよう。他方で、実質的には KVerfB は、ゲマインデの申立てに基づいて連邦による連邦憲法裁判所を介した州 権限への介入を認めるものであったので、連邦憲法裁判所の州憲法裁判所 に対する補充性を認めたといえる。

 従って、KVerfB の連邦憲法裁判所法への導入は、制定過程において、

理論的・政治的難問を回避しつつ、連邦によるゲマインデの自治行政権保 障と、連邦制度に基づく各州の立法権限への配慮という 2 つの要請がうま くバランシングされた結果と評価できる。もっとも、制定過程において、

連邦とゲマインデ間の法関係が曖昧にされたからこそ、この点をめぐっ て、連邦憲法裁判所法成立後も KVerfB 制度の合憲性問題という形で

「大きな議論(50)」を引き起こすことになる。

3 .連邦憲法裁判所法の成立後の議論

 上記の通り連邦憲法裁判所法成立後の学説における議論では、ゲマイン デ等に直接的に申立権を与える KVerfB の制度が連邦とゲマインデとの 直接的な法関係を創設し、それが連邦制度に反しないか、が問題となって いる。

(50) H. Bethge, (Fn. 7 ), §91, S. 3.

(18)

 バイエルン州行政裁判所長官のコールマン(Kollmann)やラインラント

=プファルツ州の司法省の官僚であるシェーファー(Schäfer)は、基本法 28条 2 ( 3 )項が「連邦と州」という章の中に位置するため、連邦と州間 の制度的保障を定めたに過ぎず、ゲマインデは州に対しては州憲法等に基 づいて主観的権利を有し、その限りにおいて基本法19条 4 項の保障を受け るが、連邦に対しては主観的権利を有さず、連邦とゲマインデには直接的 な法関係は存しないのであって、ゲマインデ等に直接的に申立権を与える KVerfB の制度は基本法の定める連邦参議院の権限や州の権限を侵害す る、と述べる(51)。また、KVerfB の規定及びそれが属する章には「憲法異 議」という文言が使われたため、KVerfB は申立権者たるゲマインデの主 観的権利保護のための制度ではないかとの疑念があった(52)

 これに対して、アルントは以下のように反論している。すなわち、「第 一次的には、基本法28条は連邦と州との関係において州の義務を根拠付 ける」が、「ゲマインデそれ自体には固有の憲法上の請求権は存しないと して、ゲマインデが単なる『反射(Reflex)』によって利益得ているに過 ぎないとする解釈は、基本法28条 3 項によって連邦が自治行政を『保障す る』」ことと合致しない。「保障という法概念は、保障する者が利益を受け る者に対して直接的に義務付けられているということが内在している。こ のような保障は、有意義にも、州にではなく、もっぱらゲマインデ等にの み与えられ、その保障から連邦法上の請求権が根拠付けられ得るのであ

(53)る

」。グラーフェ(Grafe)も、連邦法律は現に様々な領域でゲマインデ等 に深刻な影響を与えていること、また、ワイマール期の立法例では、ゲマ

(51) O. Kollmann, Nochmals: Zur verfassungsrechtlichen Sicherung der Selbstverwaltung, DÖV 1951, S. 145―148;なお、州法に基づくゲマインデの自治行政 権が主観的権利として基本法19条 4 項の保護を受けることについては争いがあるこ とが指摘されている(H. Müthling, Nochmals zur verfassungsrechtlichen Sicherung der Selbstverwaltung, DÖV 1951, S.170)。

(52) H. Schäfer, (Fn. 15), S. 572―574.

(53) A. Arndt, (Fn. 15), S. 299.

(19)

インデにはライヒに対して直接的に一定の請求権が認められていたことか ら、連邦国家構造に依拠して、そこから直ちに連邦とゲマインデとの直接 的な法関係を否定することは適切ではない、とする(54)

 これらの議論から明らかなことは、実は、KVerfB の合憲性についての

「本質的な疑義は…連邦制度という観点」にあり、この意味で、基本法28 条 2 項が連邦に対するゲマインデの主観的権利であるか否かという議論は

「それほど生産的なものではなく(55)」、副次的な議論であった、ということで ある。

Ⅲ. 地方自治体憲法異議の受容

―「オッフェンバッハ」判決と基本法上の制度化

1 .「オッフェンバッハ」判決

 1952年 3 月20日に連邦憲法裁判所第 1 法廷が下したいわゆる「オッフェ ンバッハ」判決は、基本法28条の法的性格及び内容に関して、その後の 判例に「方法論上及び解釈学上の方向指示(richtungsweisend)」を与えた(56)

と評されているが、連邦憲法裁判所法91条にとっては、その合憲性の議論 に決着をつけた判決といえる。

 事案は、連邦が基本法131条(57)に基づいて、人口 3 千人以下のゲマインデ を除く全ての公法上の団体に旧公務員の公職への復帰に関して一定の義務

(54) W. Grafe, Nochmals: Die Verfassungsbeschwerde der Gemeinden und Gemeindeverbände, DÖV 1952, S. 74―76.

(55) W. Grafe, (Fn. 15), S. 125.

(56) W. Weber, Selbstverwaltung und Demokratie in den Gemeinden nach der Gebietsreform, 1982, S. 71.

(57) 基本法131条は「引揚者及び難民を含めて、1945年 5 月 8 日の時点で、公務に 従事していた者であって、公務員法上又は賃率法上以外の理由で退職し、かつ、現 在まで使用されず、又は、以前の地位に準じて使用されない者の法律関係は、連邦 法律によってこれを規律する」と定めている。

(20)

ないし負担を課す法律(「基本法131条に該当する者との法関係の規律に関する 法律(58)」)を制定したことに対して、オッフェンバッハ・アン・マイン市が、

主として、基本法28条 2 項がゲマインデに保障する自治行政権、とりわ け人事高権を侵害するとして、連邦憲法裁判所法91条に基づいて KVerfB を提起した、というものである(59)

 同判決では、本案審理の前に、連邦憲法裁判所法91条の合憲性について 以下のように述べている。

 第 1 に、憲法異議の制度は基本法において何ら触れられていない以上、

個別的に特別の連邦法律によって KVerfB の制度を導入し形成すること に何ら支障はなく、また、基本法93条 2(現行では 3 )項により KVerfB は根拠付けられるとした。

 第 2 に、「基本法28条 2 項を…単なる制度的保障に過ぎないとする場合 でも、そのような制度的保障が憲法異議によって裁判の対象となるように 形成されることを何ら妨げるものはない」とした(60)

 もっとも、この部分は、制度的保障という法的性格が KVerfB の制度 を形成することに障害となるものではないと述べているだけであって、積 極的に、自治行政権の保障には主観的権利の保障も含まれるといった性格 付けを行ったものとはいえないであろう。

 第 3 に、「基本法28条は、ゲマインデの自治行政権に関してはもっぱら 連邦と州との関係に関わるもので、ゲマインデには、適切な方法によって この権利を監視し、必要な場合には裁判上でその権利を貫徹する機会も与 えようとしていないとすることは、基本法28条の成立史及びその文言か

(58) Gesetz zur Regelung der Rechtsverhältnisse der unter Artikel 131 des Grundgesetzes fallenden Personen vom 11. 5. 1951 (BGBl. I S. 307).

(59) BVerfGE 1, 167 (168―172); 事案の具体的な内容と判旨については、成田頼明

「市町村の自治行政権の侵害に関する西ドイツ連邦憲法裁判所の一判決( 1 )、

( 2 )、( 3 )」 時 の 法 令311号(1959)39頁 以 下、313号(1959)38頁 以 下、314号

(1959)34頁以下;髙槗洋「地方自治権保障の法的性格と自治体の固有の作用領域」

栗城壽夫ほか編『ドイツの憲法判例(第 2 版)』(信山社・2003)447頁以下参照。

(60) BVerfGE 1, 167 (173―174).

(21)

らも読み取ることはできない」としている(61)

 これは、基本法28条は連邦と州との関係を定めたものであって、連邦 とゲマインデとの関係を定めたものではないとする見解への反論といえ る。さらには、本案についての判断で、「基本法28条が『連邦と州』とい う章に含まれているにもかかわらず、ワイマール憲法127条と同様の範囲 において自治行政権が保障されるべきであり」、ワイマール憲法において は「ゲマインデ…に自治行政の権利が属することを拘束的に確定してい る」と述べている(62)。そのため、本判決は、基本法28条 2 項が連邦とゲマ インデ間の法関係を定め、ゲマインデの自治行政権の「直接的な保障」で あることを認めたもの、と解されている(63)

 第 4 に、「仮に、ゲマインデは常に、州法を争って連邦憲法裁判所に直 接的に憲法異議を提起することが許されるとの疑念を持ったとしても、そ のような疑念は、州法が争われる場合には、州憲法裁判所の排他的な管轄 権の可能性を州に与えている連邦憲法裁判所法91条 2 文により、払拭され るであろう」と述べる(64)

 これは、本判決が連邦とゲマインデとの直接的な法関係を認めた結果、

KVerfB によって、際限なく州の権限が連邦によって侵されるのではない かという懸念に対するものであり、法理論・憲法論的に KVerfB の制度 を正当化しつつも、州の権限に対していわば事実上・実践上の配慮が示さ れた部分といえよう。

 以上より、オッフェンバッハ判決は、実践的には KVerfB の合憲性を 確認した点、理論的には基本法28条 2 項における連邦とゲマインデとの 直接的な法関係を明確に認め、基本法28条 2 項がゲマインデに対する直

(61) BVerfGE 1, 167 (174).

(62) BVerfGE 1, 167 (174─175).

(63) G. Püttner, Kommunale Selbstverwaltung, in: J. Isensee / P. Kirchhof (Hrsg.), Handbuch des Staatsrechts der Bundesrepublik Deutschland, Bd. Ⅵ , 3. Aufl.

2008, §144, Rn. 20.

(64) BVerfGE 1, 167 (173―174).

(22)

接的な保障であることを示した点に意義を有する。しかし、KVerfB と

「主観的な」法的地位との関係については、基本法28条 2 項が制度的保障 であっても「裁判の対象となるように形成される」ことは妨げられないと したものの、積極的に基本法28条 2 項が主観的権利、または「主観的な」

法的地位を保障していると述べた訳ではない。従って、オッフェンバッハ 判決においてもなお、KVerfB と「主観的な」法的地位との関係は曖昧さ を残したままであったといえる。

2 .基本法93条 1 項 4 b 号の制定過程

 KVerfB の制度は1969年に第19次基本法改正法により基本法上で制度化 され、その法体系上の位置価値を高めることとなった。

( 1 ) 「第16次基本法改正法草案」

 SPD 及び FDP(自由民主党)による1968年 3 月13日付けの第16次基本 法改正法草案は、基本法93条 1 項に以下のような 5 号及び 6 号を挿入する ものであった(65)

 「 5 .基本権並びに33条、38条、101条、103条及び104条に含まれる権利が 公権力によって侵害されたことを理由とする憲法異議について」

 「 6 .ある法律によって28条の自治行政権が侵害されたことを理由とす る、ゲマインデ及びゲマインデ連合の憲法異議について;ただし、州の法律 による侵害の場合には、州の憲法裁判所に異議を申し立てることができない 場合に限る」。

 上記提案について、連邦議会本会議の第一読会では、同時に審議されて いた諸「非常事態立法」が市民の権利を縮減することになるため、それに 対抗して、憲法裁判所による基本権保護が基本法上でも確保される必要が あると説明されている(66)

(65) BT―Drucks. Bd. 119, Nr. V / 2677.

(23)

 その後、草案審議の付託を受けた法務委員会及び内務委員会は、条文番 号を 5 号及び 6 号から 4 a 号及び 4 b 号に変更し、IVerfB を定める 4 a 号 については、文言を一部修正し、列挙する基本法規定に、抵抗権を定める

「20条 4 項(67)」を加えた草案を連邦議会本会議に報告している(68)。他方で、

KVerfB を定める 4 b 号については何の変更も加えられていない。

 この草案の提案理由においては、SPD と FDP の提案が非常事態立法と 関連するものであり、それに伴って導入された抵抗権条項を加えることの 意義が述べられているが、ここでも、KVerfB については触れられていな

(69)い

( 2 ) 連邦議会・連邦参議院─「第19次基本法改正法草案」

 上記の法務委員会及び内務委員会による「第16次基本法改正法草案」

は、連邦議会本会議で審議された。ここでもさしたる議論はなく、「第16 次基本法改正法草案」が、そのままの形で、特別多数を得て可決した(70)。連 邦参議院では、「第16次基本法改正法草案」は、その審議の間に他の基本 法改正法案が成立したため、「第19次基本法改正法草案」として審議され た。ここでもさしたる議論はなく、特別多数をもって可決されている(71)。こ れにより、「第19次基本法改正法草案」は1969年 1 月29日の第19次基本法 改正法として成立する。

(66) 171. Sitzung vom 8. 5. 1968, BT―Sten. Ber., Bd. 67, S. 9209―9210; 当時は、基 本法改正法としてのいわゆる「非常事態憲法(Notstandsverfassung)」と、通常法 律レベルで、各種の個別的法律(諸「非常事態法」)が審議されていた(清水望

『西ドイツの政治機構』(成文堂・1969)592、610―611頁)。

(67) 20条 4 項は、いわゆる非常事態憲法(第17次基本法改正法)として基本法に追 加補充される一群の条文の一つである。

(68) BT―Drucks. Bd. 125, Nr. V / 3506(neu), S. 3.

(69) BT―Drucks. Bd. 125, Nr. V / 3506(neu), S. 1.

(70) 201. Sitzung vom 4. 12. 1968, BT―Sten. Ber., Bd. 68, S. 10817―10821; 一部にお いて、憲法異議の基本法への導入に疑義が呈されたが、個別条文や文言の問題では なく、抽象的かあるいは付随的な問題を挙げるにとどまった。

(71) 333. Sitzung vom 19. 12. 1968, BR―Sten. Ber., S. 319―320.

(24)

( 3 ) 小括

 以上の通り、KVerfB が基本法に制度化されることによって、連邦憲法 裁判所法91条の合憲性の議論に完全に決着がつけられた。もっとも、制定 過 程 の 議 論 か ら は、IVerfB が、 非 常 事 態 立 法 と の い わ ば「均 衡 錘

(Gegengewicht(72))」として基本法に導入されたことが明らかになったが、

KVerfB については、何ら触れられることがなく、KVerfB の法的性格、

そして基本法28条 2 項との関係は未解決のままであった。

Ⅳ. おわりに―解決された合憲性問題と 残された法的性質問題

 本稿を当初の課題設定に即してまとめるならば以下の通りである。

 KVerfB の導入には、戦後、各州において進められた地方自治制度改革 に対して、ゲマインデが直接、連邦憲法裁判所に出訴し、連邦(の機関)

による救済を受けることで、州による改革に対抗しようという意図があっ た(KVerfB が導入された動機)。

 しかし、伝統的に自治行政事項は州の専権的立法権限と考えられていた ため、連邦による州権限への過剰な介入という警戒を招き、不可避的に連 邦 制 の 議 論 を 引 き 起 こ す こ と に な っ た。 こ の 議 論 は、 理 論 的 に は、

KVerfB が連邦とゲマインデとの直接的な法関係ないし「直接的な保障」

をもたらすものであるのかという問題に還元される。それを肯定する側は 基本法28条 2 ( 3 )項が連邦に対するゲマインデの主観的権利を保障して いると主張したのに対して、否定する側は、基本法28条 2 項はもっぱら 連邦と州間の法関係を定めるものと主張したのである(「主観的な」法的地 位との関係)。

 制定過程では、このような連邦制に関わる難問を回避し曖昧なものとす

(72) A. Voßkuhle, in: H. v. Mangoldt / F. Klein / C. Starck (Hrsg.), Kommentar zum Grundgesetz, Bd. 3, 6. Aufl. 2010, Art. 93, Rn. 165.

(25)

るために、KVerfB を理論的には申立権者の主観的権利とは関係がない抽 象的規範統制と性格付けた。他方で、実質的にはゲマインデの申立てによ り連邦が連邦憲法裁判所により州権限に介入する途を新たに開くものであ ったから、州権限への配慮として、連邦憲法裁判所の州憲法裁判所に対す る補充性を認め、また抽象的規範統制であるから、対象となる行為が法規 範に限定されることになる。このように、KVerfB の連邦憲法裁判所法へ の導入は理論的・政治的難問を回避しつつ、連邦による各州のゲマインデ の自治行政保障と、連邦制度に基づく各州の立法権限への配慮という 2 つ の要請をうまくバランシングしたものと評価できる(制定過程における KVerfB の規範構造)。

 もっとも、制定過程では連邦とゲマインデ間の法関係が曖昧にされ、し かも、KVerfB の文言及びそれが属する章の文言に、主観的権利保護に仕 えるものとされる「憲法異議」という用語が用いられたため、上記の理論 的難問についての議論が連邦憲法裁判所法成立後も活発に行なわれた。こ れに決着をつけたのが、オッフェンバッハ判決である。この判決は KVerfB の合憲性を正面から認めたという点において実践的意義を有する が、理論的には、基本法28条 2 ( 3 )項が連邦によるゲマインデの自治行 政の「直接的な保障」であると認めた点に意義を有し、上記の難問につい て解答を与えるものとなった。もっとも、その「直接的な保障」が制度的 保障であることは明言したものの、「主観的な」法的地位との関係につい てはなおも曖昧なままであった。この点は、KVerfB の基本法への導入過 程からも明らかにならなかった。

 以上より、KVerfB と「主観的な」法的地位保障との関係はなおも未解 決のままであったため、その後の学説において、KVerfB の性質が議論と なり、今日においてもなお一致をみていない。従って、今後の課題は、以 上のような制定過程における KVerfB の規範構造を踏まえつつ、学説に おいて、KVerfB の性質と「主観的な」法的地位との関係がどのように議 論されているかを明らかにすることになる。

(26)

[追記] 本研究は、JSPS 科研費 JP15K16924、JP15H03289の助成を受けた ものである。

参照

関連したドキュメント

ところで、ドイツでは、目的が明確に定められている制度的場面において、接触の開始

38  例えば、 2011

被祝賀者エーラーはへその箸『違法行為における客観的目的要素』二九五九年)において主観的正当化要素の問題をも論じ、その内容についての有益な熟考を含んでいる。もっとも、彼の議論はシュペンデルに近

(( .  entrenchment のであって、それ自体は質的な手段( )ではない。 カナダ憲法では憲法上の人権を といい、

 自衛隊災害派遣制度においては、派遣要請を行う主体が国 (各本部長の 地位にある内閣総理大臣)

なお︑本稿では︑これらの立法論について具体的に検討するまでには至らなかった︒

1、研究の目的 本研究の目的は、開発教育の主体形成の理論的構造を明らかにし、今日の日本における

こうした背景を元に,本論文ではモータ駆動系のパラメータ同定に関する基礎的及び応用的研究を