岡大医短紀要, 9:75‑81,1998 BullSchHealthS°i,OkayamaUniv
(原 著)
重粒子線の生物学的効果比 と潜在性致死損傷か らの回復
川崎祥 二 浪谷光一 浅海淳一1) 小松め ぐみ2)
黒 田昌宏2) 平木祥夫2) 古津佳也3)
要 約
150KVX線, 中性子線及 び炭素線 (LET13,20,50,90,140,150,153,200keV/〟m)を照射 した マ ウスNIH3T3細胞の生存率 曲線のLDl。か ら60Coγ線 に対す る生物学的効果比(RBE)を求めた。RBE は150KV
X
線 では1.26, 中性子線 では2.44,炭素線 (LET13,20,50,90,140,150,153,200keV/〃m)ではそれ ぞれ1.41,1.47,2.22,2.61,1.61,2.05,1.57であった。LETとRBEの関係 では100 keV/〃m付近 に ピー クを認めた。150KV X線のLETは13keV/〟m,中性子線のLETは70keV〟mに相 当 した。
60Coγ線の潜在性致死損傷か らの回復 (PLDR)は大 きか った。炭素線(13keV/jim)照射 で もPLDR が観察 され るがLETが大 き くな るとPLDRは減少 したが,LET90keV/〟mの炭素 線 で もPLDRが認 め られ た。
照射時の細胞状 態の検討 では増殖期 の細胞の感受性 は定常期 細胞 に比 し僅 かに高か った。
キー ワー ド :PLDR,RBE,Heavy‑lonRadiation,NIH3T3Cells
日 的
重粒子線は癌 の放射線治療 で体 内での物理学的 線量分布が優 れてい るこ とか ら,有効 な治療成績 が得 られ るこ とが期待 されている放射線 であ る。
本邦 で最初 の重粒子線治療専用装 置 として放射線 医学研究所 に設置 されたHIMACで 「重粒子線が ん治療装置等共 同利用研 究」 としての治療 の生物 学的 な特徴 の基礎 的研究が進め られてい る。体 内 へ入射 した炭素線 はその飛跡に沿 って比電離 (線 エネルギー付与 :LET)が異 な り,生物学的効果 が変化す る。粒子線のbraggpeakをい ろん な状 態で組み合 わせ るこ とに よって優 れた深部線量百 分率 を得 るこ とがで きる1)。そこで,飛跡に沿 って 変化す るLETでの生物学的効 果 を研 究す るこ と は重粒子線の治療効果 を検討す る上 で大切 なこ と
岡山大学医学部保健学科放射線技術科学専攻 1)岡山大学歯学部歯科放射線学講座 2)岡山大学医学部医学科放射線医学講座 3)放射線医学研究所宇宙粒子線研究グルー70
であ る2)。
放射線損傷 か らの回復 の中で潜在性致死損傷 か ら の 回 復 (PLDR),亜 致 死 損 傷 か ら の 回 復 (SLDR)は細胞の放射線 に対す る感受性 を左右 す る因子の一つ であ る,放射 線が高LETにな る
とSLDR,PLDRが小 さ くなるこ とが い くつかの 細胞 で報告 されてい るが,HIMACの炭素線の効 果 を観察す るこ とは粒子線治療 で重要 なこ とであ
る3),4)。
マ ウ スNIH3T3細 胞 は Ⅹ線 に対 して大 き な PLDRを示 す こ と を観 察 して お り5),本 研 究 は NIH3T3細胞 を使用 し,炭素線並 びに中性子線 を 照射 し,生存率 曲線か ら低 LETの放射 線 (Ⅹ線, γ線) と比較検討 し生物学的効果 比 (RBE)を求 めた。また,その結果 を基 にいろいろなLETの炭
川崎 祥二他
素線でPLDRの大 きさを求めたので報告す る。
材 料 及 び 方 法
細胞 マ ウス線維芽細胞NIH3T3細 胞 を使 用 し た。培養液はDulbecco'smodifiedEaglemedium に10%仔牛血清 (Hyclon),通常濃度 のペ ニ シ リ ン, ス トレプ トマ イ シン を加 えた。培養 は5%
CO2+95% airの炭酸ガス培養器 で培養 した。細 胞は105/フラス コ (Falcon)で播種 し, 7日後 に plateauphase(G。)の細胞 を作成 し, また1%仔 牛血清で4日間培養 してG。細胞 を作成 した。
PLDRの測定 Plateauphaseの細胞に放射線 を 照射 し,照射直後及び12時間後に トリプシン処理
をし,適 当な細胞数 を播種 し生存率 を求めた。
放射線は150KV
X
線,60Coγ線,中性子線 (放 医研),290MeV,135MeV炭 素 線 (LET13,20, 50,90,140,150,153,200keV/〟m)(放 医 研 HIMAC)を使用 した。細胞の生存率 コロニー形成法 を用 いた。放射線 を照射後適度 な細胞数 を播種 し,播種後8日に固 定,染色 し50細胞以上の コロニー を計測 し生存率
0oo
SuO一1
U
dL山一t2^!NnS0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 Dose(Gy)
図I NfH3T3細胞におけ る60COγ線, 150KVX線,中性子線の生存率曲線
曲線 を求めた。
実験結果及び考察
1 plateauphase細胞におけ る生存率 曲線 plateau細胞に放射線 を照射 し,生存率 曲線 を 求めた。図1に150KV X線,60Coγ線,中性子線 の生 存率 曲線 を示 してい る。60Coγ線 に比較 し て,150KVX線 では曲線 は急峻にな りD。は小 さ くなった。中性子線の曲線では肩がな くな り, 曲 線はよ り急峻にな り
D
。は小 さ くなった。これ らの 曲線 か らLDIOを求 め る と150KVX線 で は6.20 Gy, 中性子線では3.20Gyが得 られた。60Co γ線及 び290MeV炭素 線 の生存率 曲線 を 図2に示す.LETが増加す ると生存率 曲線は急峻 とな りD。は小 さ くなった。しか しなが ら,LETが 140keV/〟mでは大 き くな った。150,153,200 keV/FLm (生存率 曲線は示 してない)で もD.は大
き くなった。炭素線の生存率 曲線か らLDl。を求め ると,LET13,20,50,90,140keV/〟mではそれ ぞれ5.55,5.32,3.52,3.00,3.00Gyで あ った。
2 細胞状態による感受性の比較
対数 増殖期 の細胞
,1
%血清4
日間培養( G
。 期),10%血清7日(GO湖)の細胞に290MeV炭素‑ 7 6‑
0 2 4 6 8 10 12 14 Dose(Gy)
図2 炭素線(LET13,20,50,90,140keV/jem) の生存率曲線
重粒子線のRBEとPLDR
.、lu.、≠八
S u O !1
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2 4 6 8 10 12 14 Dose(Gy)図3 培養状態の異なるNIH3T3細胞の炭素線 (LET20/〃m)の生存率 曲線
線 (LET20keV/〟m)を照射 し,生存率 曲線 を求 めた。その曲線か らLDl。を求め,RBEを算出 した (表1,図3)。対数増殖期 細胞 は10%血 清7日
( G
O湖)に比 し僅かではあるが感受性が高い。3 各種LETの炭素線のRBE
得 られた135MeV,290MeVの炭素線, 中性子 級,150KVX線の生存率 曲線か らそれぞれの放射 線のLD.。を60Coγ線のLDl。(7.82Gy)と比較 し てRBEを算出 した (表 1)。算 出されたRBEと LETの関係 を図示す ると斑 4のようになる。炭素 線 のRBEとLETの 関 係 で はLET90keV/pm 付近でピー クにな り, それ以上 では低下 した。 こ の 図 か ら算 出 す る と150KVX線 のLETは13 keV/〟m, 中性子線のLETは70keV/〟mに相 当 す ることが認め られた。
4 NIH3T3細胞のPLDR
plateauphase細胞 (10%血 清7日間培養)に 60Coγ線,炭素線 (LET13,50,90keV/〟m)を 照射 した。 トリプシンで処理 を照射直後,並 びに 12時間後 に行 い,生存率 曲線 を求めた(図5)。照 射直後 に播種 した生存率 曲線は12時間後に処理 し た場合 よ りいずれの群 で も下方に位置 し,照射後 12時 間 に はPLDRが あ る こ とが 認 め られ た。
表1 線賓の異なる放射線のDl。とRBE 放射線の種類 plo(Gy) RBE 60Coγ‑ray 7̲82 1.00 150KVX‑rays 6.20 1.26
neutron 4̲3.2807 2.1.6441 carbon
135MeV LET150keV
200keV 4.97 1.57 290MeV
5.55 1,41 LET 13keV
20keV
5.32 1.47 confluent
1%serum 4.50 1.74 grOWlng 4,70 1̲66 50keV 3.52 2.22 90keV 3̲00 2.61 140keV 3.00 2.61 153keV 3.82 2.05
60Coγ線 では12時間後に播種 した場合,大 きく右 方に移動 し,大 きなPLDRが認め られた。LET13 keV/〟mの炭素線 において もPLDRが観察 され た。LETが大 きい炭素線 ではPLDRは小 さ くな った。しか し,LET90keV/〟mにおいて もPLDR は認め られた。
5 炭素線 におけ る鼎射後時間 とPLDR
confluentの細胞に炭素線(LET13keV/〟m)を 8Gy照射 し,照射 後経時的 に生 存率 を観察 した (図6)。照射後各時間の生存率 を求め たPLDR は照射 後 4時 間 にplateauに な った。60Coγ線
(15Gy)及び90kev/〃m (5Gy)において もPLDR を観察す ると, その大 きさは異 なるが,頗射後 4 時 間にplateauにな る同様 なPLDRが観 察 され た。 このことは線質の異なる放射線 を照射 して も, 照射後 のPLDRはほぼ同様 の曲線 を示 す と考 え
られ る。そこで150KV
X
線,60Coγ線並 びに図5 で示 したいろいろなLETの炭素線の照射 直後 と 12時間後の生存率 曲線か ら,照射 直後の生存率 曲 線 で同 じ生存率1.6×103の線量 で12時 間後 の曲 線 の生存率 を求め その間のPLDRを推測 し図示0 . 10
.20 . 5 1 0 20 50 1 00200 5001 0002000
LET( keV)
図4 線質 の異なる放射線の線エネル ギー付与 (LET)と生物学的効果比 (RBE)の関係
相川
S
u
O!1U
eJL
rd>!^ L n
S0 2 4 670 2 4 6 7 Dos e( Gy)
図5 炭素線 (LET13,50,90keV/JLm)の照射直後 (○)及 び12時間後 (●)の生存率 曲線
‑ 7 8‑
す ると図7の点線の ようにな り,線質の異なる放 射線の
PLDR
の大 きさを比較 した(図 7)。その大 きさは6 0 Coγ
線 では大 き く,LET
が増加 す る とPLDR
は減少 した。図4
に示 したLET
とRBE
の関係 でPe a k
値 とな るLET9 0 ke V/ 〟m
炭素 線 のPLDR
はか な り小 さいなが ら認め られ た。 ま た,n e o n
線,Si l i c o n
線等の重粒子線で もPLDR
の発現が観察 されている6)0ここで使用 された炭素線 は
LET
が単一の もの での実験 であるが,実際,臨床 での治療 には単一 のLET
の ものではない。すなわち,進入方向にあ る深度の幅 を持つ一様 な高線量域の形成は異なる 深度にpe a k
を持つ (入射 エネルギーが異なる)粒 子 を適当量混合す ることによって得 られている。従 って, このような場合,混合 した状態での通過 す る部位 での異なる
LET
の構成 に よって生物学 的効果 も各LET
の構成割合 に よって, それ ぞれ の効果の混合 した結果 となるこ とが推察 され る。そのため,混合 で作成 された粒子線の正確 な生物
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0 2 4 6 8 1 0 1 2 Hou r sa f t erl r r adi a t i on
図6 炭素線(LET13keV/〃m)8Gy照射後の潜在 性致死損傷からの回復の経時的変化
一一
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6 0 coT‑r ay( 15Gy) 150KVX‑r ays( 11Gy) Car bon 13keV( 7. 3Gy) Car bon 50keV( 6. 7Gy) Car bon 90keV( 5. 3Gy) S. F. 1. 6×1 0
30 2 4 6 8 柑 1 2 Hour sAf t erJ r r adi at i on
図7 60Coγ線,150KVX線及び炭素線 (LET13,56,90keV/〃m)での生存率曲線の1・6×103での 潜在性致死損傷からの回復の大きさの比較
学的効果 を解析す るためにはいろいろなLETで の作用 を明確 に してお く必要がある。
文 献
1) 丸 橋 晃 :Braggpeakの 物 理. 日 医 放 学 誌 付 録 58:3‑6,1998.
2)安藤輿一 二粒 子線治療 の放射線生物学. 日医教学誌付 録58巻 :7‑10,1998.
3)BlakelyEA"NgoFQH,CurtisSBandTobiasCA:
Heavy‑ion radiobiology,・ Cellular studies, AdvancesinRadiationBiologyll,(LettJT.,Eh‑
mannUK.Co又ABeds),AcademicPress,295‑389, 1984.
4)SaitoM,FumsawaY andYamadaT:LETdepen‑
dencyofapotosisandreproductivedeathonV79 cellsbyheaby‑ionbeam.JJpnSocTherRadiol Onc018:121‑126,1998.
5)川崎祥二,佐 々木功典,長 岡 栄,中西 敬 :NIH3T3 細胞におけ るPLDR発現 と細胞周期.日本放射線影響 学会抄藤書 :174.1986.
6)川崎祥二,塩谷光一,高 献書,黒 田昌宏,平木祥夫, 古津佳也 :重粒子線腺射 に よる放射線損傷か らの回復 に関す る研究.平成9年度放射線医学研究所重粒子線 がん治療装 置等共 同研究報告書 :186‑191,1998.
‑ 80‑
Bull Sch Health Sci, Okayama Univ, 9 :75~81,1998
(Original)
Relative biological effectiveness(RBE) and
potential leathal damage repair(PLDR) of heavy-ion beam
Shoji KAWASAKI, Koichi SHIBUYA, Junichi ASAUMI1l, Masahiro KURODA2l,
Yoshio HIRAKel and Yoshiya FURUSAWA3)
Abstract
Relative biological effectiveness(RBE) and repair of potential lethal damage(PLDR) of NIH3T3 cells against heavy-ion radiation were studied. RBE of 150 KV X-rays and neutron estimated from LDlO dose of dose response survival curves compared to 60CO y-raywere 1.26 and 2.44, respectively.
RBE of 13, 20, 50, 90, 140, 150, 153, 200 keY/,um of LET of carbon beam were 1.41, 1.47, 2.22, 2.61, 2.61, 1.61, 2.05 and 1.57, respectively.
Potential lethal damage repair(PLDR) after exposure to carbon beam was observed. The magnitude of PLDR of 60Ca y-raywas the biggest. As for the carbon beam of LET of 13 keV
I
Jim as well, PLDR were observed. PLDR decreased when LET of carbon beam grew big.Key Words: PLDR, RBE, Heavy-Ion beam, NIH3T3 Cells Faculty of Health Sciences, Okayama University Medical School
1) Department of Dental Radiology, Okayama University Dental School
2) Department of Radiology, Faculty of Medicine, Okayama University Medical School 3) Space& Particle Radiation Science Group, National Institute of Radiological Sciences