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(1)

第 3 章

高耐食性 GFRP の

応力腐食割れ

(2)

3.1 はじめに

前章までにEガラス/エポキシ織物積層板(E-glass/Epoxy試験片),およびEガラス/ビニルエステル織物積 層板(E-glass/Vinylester試験片)というFRPの応力腐食割れについて調査した.Eガラス繊維はGFRPの強化 繊維としては一般的なものであり様々な環境で使用されているが,前章の結果から応力腐食割れを生じること と下限界応力拡大係数の存在が明らかとなった.また,き裂進展面の微視的観察を行うことで,E ガラス繊維 破面における腐食の痕跡が確認され,Eガラス繊維の破断がき裂進展の主因子となることが予測された.

以上のような特性を有するEガラス/エポキシ織物積層板に加えて,腐食環境下ではEガラス繊維ではなくC ガラス繊維といった耐食性に優れる繊維を使用したGFRPも用いられるようになっている.したがって,これ らの応力腐食割れ挙動を調査することで酸濃度依存性を明らかにし,また,き裂進展因子を解明することが要 求されている.前章では,Eガラス/エポキシ織物積層板では,応力腐食割れ試験と破面観察を行うことで各応 力拡大係数域におけるき裂進展の主因子を調査した.本章ではCガラス/ビニルエステル織物積層板を試験片と し,同様の方法で試験を行い,き裂進展の主因子を調査する.また,耐食性についてさらに詳細に調査するた め,硫酸溶液環境下でも応力腐食割れ挙動を調査する.さらに,荷重漸減試験とは別に応力を負荷しない状態 で塩酸溶液中へ試験片を浸漬し,試験片表面における腐食がどの程度進行するか調査する.

3.2 Cガラス/ビニルエステル織物積層板の破壊じん性

本章では C ガラス/ビニルエステル織物積層板(C-glass/Vinylester 試験片)の基礎物性であるC-glass/Vinylester 試験片の破壊じん性値を測定した結果を述べる.破壊じん性を測定するための試験片形状としては,前章で用

いたE-glass/Epoxy試験片と同様にCガラス繊維のクロス材を24層積層し,試験片の厚さを6mmとした.また,

試験片の形状も前章と同様に図3.1に示すWedge Opening Loading (WOL)型とした.試験片のき裂は機械加工に より挿入した後,疲労予き裂を0.5mm程度挿入した.試験片の切り欠き上部には幅8mm,深さ2mmの溝をも うけ,その両端にカッターナイフの刃を取り付け,クリップゲージを取り付けるためのナイフエッジとした.

試験片への負荷をする方向は縦繊維(Warp strand)方向とした.この試験片の機械的特性値を表3.1に示す.

64 30 8

36

66±0.15

83

6

2

64 30 8

36

66±0.15

83

6

2

Warp strand

Fig. 3.1 Geometry of WOL specimen.

(3)

Table 3.1 Material and mechanical properties of specimens.

C-glass/Vinylester Reinforcement Woven C-glass cloth

Matrix resin Vinylester

(Bisphenol-A)

Tensile strength MPa 199

Young’s Modulus GPa 15.5

Poisson’s ratio 0.167

Volume fraction of fiber % 29.1±1.5

破壊じん性試験は,ASTM399-90に示される平面ひずみ破壊じん性試験方法を参考にした.引張試験機を用 いて,大気中室温下で実施した.試験速度を0.5mm/minとし,切り欠き上部にクリップゲージを取り付け,き 裂開口変位を測定した.応力拡大係数は,前章と同様に

) /

/ (

I f a W

tW

K = P12 (3.1)

より求め,形状補正係数は仮想き裂進展法から得られた

3 2 504.6( / ) )

/ ( 8 . 724 ) / ( 2 . 368 89 . 54 ) /

(a W a W a W a W

f =− + − + (3.2)

とした.

以上の方法により得られた代表的なき裂開口変位と負荷荷重の関係を図3.2 に示す.ASTM399-90 では,図 3.2中の線形性が失われるまでの荷重をPl,初期の線形勾配より5.0%低い直線との交点をPi,最大荷重をPmax

としている.

1.00 2.00 3.00

1.0 2.0 3.0

0

Crack opening displacement mm

Applied load kN

Pl

Pmax

Pi

Fig. 3.2 Relationship between applied load – crack opening displacement of C-glass/Vinylester specimen.

(4)

表3.2に荷重Pi,Pmax,および式(3.1),(3.2)により得られる応力拡大係数を示す.この結果から,Kiお よびKmaxはどちらの値もばらつきは小さく,信頼性の高い値であることがわかる.

Table 3.2 Results of fracture toughness test

Pi N Ki MPa m Pmax N Kmax MPa m 1 1967 12.81 2249 14.64 2 1928 12.67 2136 14.03 3 1966 13.16 2177 14.57 4 1857 12.64 2180 14.83 5 2041 12.86 2320 14.62 6 2139 13.63 2179 13.88 7 1899 12.05 2248 14.27

average 1952 12.83 2215 14.42

なお,ASTM399-90では,図3.2における荷重Piおよび式(3.1),(3.2)より得られる応力拡大係数Kiが次 式を満たせば,そのKiが破壊じん性値KICとして判定される.

Pi

Pmax≤1.1 (3.3)

2

2.5

, ⎟⎟

⎜⎜ ⎞

≥ ⎛

Y

Ki

t

a σ (3.4)

式(3.4)でaはき裂長さ,tは試験片厚さ,σYは0.2%耐力である.今回の試験では以上の2式で示される条件 を満たした.以上のことから, ASTM E399-90を参考に荷重Piから得られる応力拡大係数を破壊じん性値KIC

とすれば,ここではKIC=12.83MPa mとなる.

3.3 Cガラス/ビニルエステル織物積層板の応力腐食割れ試験

3.3.1 供試材および試験方法

本章では,高耐食性を有するCガラス繊維を強化繊維とするGFRP織物積層板の腐食環境下でのき裂進展を 調査する.母材樹脂は耐食性に優れるビニルエステル樹脂を用いた.用いた材料の特性を表3.2に示す.試験 片は3.2節の破壊じん性試験片と同じものを用いた.疲労予き裂も同じ方法で入れた.

応力腐食割れ試験方法は第2章と同じものとした.本試験の試験環境は表3.3に示す.

(5)

Table 3.3 Immersion condition

Environment HCl H2SO4 Water Air

Concentration 0.010, 0.10, 0.50, 1.0, 2.0 4.0 0.10, 0.50, 1.0, 2.0 - -

Temperature K 323 323 323 room temperature

3.3.2 塩酸溶液中における応力腐食割れ

塩酸溶液中における応力腐食割れを図3.3に示す.この図では,空気中および温度323Kの水中での荷重漸減 試験結果も示している.さらに比較のために,温度313K,濃度1.0 [mol/l]の塩酸溶液中におけるE-glass/Epoxy 試験片の応力腐食割れ試験結果を示す.

C-glass/Vinylester試験片のKI-da/dt線図はE-glass/Epoxy試験片よりも勾配が急であることから,Cガラス繊維 を強化材とすることで織物積層板の巨視的な耐食性が大きく向上したといえる.また,塩酸濃度0.010 mol/lか

ら4.0 mol/lの範囲ではき裂進展挙動の濃度依存性がほとんど見られないことからも耐食性が高いことがわかる.

次に,大気中と水中におけるき裂進展挙動を比較すると,水中においてもき裂進展の促進,すなわち応力腐 食割れが生じていることがわかる.従来の研究では酸環境において生じる応力腐食割れが問題とされていたが,

高耐食性GFRPの応力腐食割れについて調査した結果から水分の拡散による応力腐食割れも無視できないこと が示唆された.

塩酸溶液,および水中におけるC-glass/Vinylester試験片のKI-da/dt線図はE-glass/Epoxy試験片のように明確 に低応力拡大係数域と定常き裂進展域に区分することはできないが,応力拡大係数が7MPa m以下になると

KI-da/dt線図がある応力拡大係数へ収束していくことがわかる.このとき,き裂進展速度は10-9m/s以下にまで

達しほとんど進展しなくなると見なせることから,C-glass/Vinylester試験片でも塩酸溶液,および水中において 下限界応力拡大係数が存在することが本試験により明らかとなった.

101 10-10

10-9 10-8 10-7 10-6 10-5 10-4

0.010[mol/l]

0.10[mol/l]

0.50[mol/l]

1.0[mol/l]

2.0[mol/l]

4.0[mol/l]

in air in water E-glass/Epoxy

Stress intensity factor KI MPa m1/2

Crack propagation rate da/dt m/s

2×101

2×100 KIC

Fig. 3.3 Crack propagation behavior of C-glass/Vinylester laminate specimens in HCl solution at water, air at temperature 323K and crack propagation behavior of E-glass/Vinylester woven laminates in 1.0 mol/l HCl at 313K.

(6)

3.3.3 硫酸溶液中における応力腐食割れ

次に図3.4に硫酸溶液中におけるC-glass/Vinylester試験片の応力腐食割れ試験結果を示す.この図でも,図 3.3と同様に濃度1.0[mol/l],温度313[K]の塩酸溶液中におけるE-glass/Epoxy試験片のき裂進展挙動を示す.図 3.4では硫酸溶液の濃度の変化によるき裂進展挙動の変化は,塩酸溶液中のそれよりもさらに小さく,硫酸溶液 中の方が腐食は生じにくいことがわかる.また,本試験結果でもき裂進展速度が10-9m/s以下になる結果が存在 し,硫酸溶液中でも下限界応力拡大係数が存在する.

101 10-10

10-9 10-8 10-7 10-6 10-5 10-4

0.10[mol/l]

0.50[mol/l]

1.0[mol/l]

2.0[mol/l]

in water in air

E-glass/Epoxy

2×100 2×101

Stress intensity factor KI MP a m1/2

Crack propagation rate da/dt m/s

KIC

Fig. 3.4 Crack propagation behavior of C-glass/Vinylester woven laminates in H2SO4 solution, water, air at temperature 323K and crack propagation behavior of E-glass/Vinylester woven laminates in 1.0 mol/l HCl at 313K.

3.3.4 下限界応力拡大係数の濃度依存性

塩酸溶液,および硫酸溶液中における応力腐食割れ試験の結果から下限界応力拡大係数の存在が示された.

ここでは下限界応力拡大係数の濃度依存性を図3.5 に示す.この図より,硫酸溶液中の方が下限界応力拡大係 数が高いことがわかる.また,どちらの溶液中でも濃度が低くなっても,水中における下限界応力拡大係数へ と漸近していくことが示され,水による GFRP の腐食が無視できないことがわかる.この結果から,

C-glass/Vinylester 試験片のような高耐食性GFRPの応力腐食割れは水を環境因子とする腐食メカニズムに支配

されることが予測される.

(7)

10-4 10-3 10-2 10-1 100 101 4

6 8 10 12

KISCC MPa m1/2

Concentration mol/l KISCC in water

KISCC in air H2SO4

HCl

Fig. 3.5 KISCC of C/VE specimen in various acid concentration solutions at temperature of 323K.

3.3.5 破面観察による微視的破壊メカニズムの予測

次に,破面観察により破壊機構の変化を調査した結果について述べる.塩酸溶液環境下での定常き裂進展域 における破面を図3.6,低応力拡大係数域における破面を図3.7に示す.これらの図より,両応力拡大係数域に おいて,塩酸濃度変化による破壊形態の変化はほとんど見られず,全体的にぜい性的な破面が観察された.ま た,図3.7の低応力拡大係数域の破面写真に着目すると,E-glass/Vinylester試験片で見られたようなミラーゾー ンのみの破面を持つ繊維は見られず,定常き裂進展域と同じようにハックルが観察されていることから,応力 腐食割れにおけるCガラス繊維の破壊において腐食による強度低下はほとんど生じていないこことがわかる.

また,図3.8,3.9に示すように硫酸溶液中でも濃度変化による破壊形態の変化は観察されていないことからも,

微視的な破壊メカニズムに及ぼす塩酸,および硫酸溶液濃度の影響は大きくないと考えられる.

(8)

Crack propagation direction

Fig. 3.7 Fracture surface of C-glass/Vinylester laminates specimens at low KI region in (a) 0.01 mol/l and (b) 4.0mol/l HCl solution.

Crack propagation direction

10μm

10μm

500μm

500μm Mirror zone

Fig. 3.6 Fracture surface of C-glass/Vinylester laminates specimens at stable crack propagation region in (a) 0.01 mol/l and (b) 4.0mol/l HCl solution.

10μm 500μm

500μm 10μm

Mirror zone

Hackle (a) 0.01 mol/l

(b) 4.0 mol/l

(a) 0.01 mol/l Hackle

Mirror zone

(b) 4.0 mol/l

(9)

Fig. 3.8 Fracture surface of C/VE laminates specimens at stable crack propagation region in 1.0 mol/l H2SO4 solution.

10μm 200μm

10μm 200μm

Fig. 3.9 Fracture surface of C/VE laminates specimens at stable crack propagation region in 1.0 mol/l H2SO4 solution.

Hackle

3.4 腐食試験

3.4.1腐食試験片および方法

2 章では E-glass/Epoxy 試験片,E-glass/Vinylester 試験片の応力腐食割れを調査した.本章では前節までに

C-glass/Vinylester試験片の応力腐食割れ試験を行い,濃度依存性が小さいことからCガラス繊維の腐食は生じ

にくいことが示唆された.そこで,Cガラス,およびEガラス繊維の耐食性を調査するために,無負荷状態で 図3.10に示すような試験片を塩酸溶液中に浸漬し,表面のSEM観察を行った.浸漬する環境としては塩酸溶 液を用いた.試験条件の詳細は表3.4に示す.

(10)

Fig. 3.10 Schematic of specimen for corrosion test

3.4.2試験結果

E-glass/Vinylester試験板を3.0mol/lの塩酸溶液中に浸漬し,100hour経過後に表面観察を行った結果を図3.14

に示す.E-glass/Vinylester試験片では,Eガラス繊維の外周部が溶出しており,腐食が顕著に生じたことがわか

る.

(a)before immersion (b) 3.0mol/l HCl solution for 100hour.

6

5 10

Table 3.4 Immersion condition HCl concentration mol/l 0.1, 1.0, 4.0

Immersion time hour 100, 1000

Temperature room temperature

Fig. 3.11 Surface of E-glass/Epoxy laminate specimen

(11)

Fig. 3.12 Surface of C-glass/Vinylester laminate specimen

次に,図3.12に浸漬前のC-glass/Vinylester試験片の表面観察斜視を,図3.13に浸漬100hour,および1000経 過後の表面観察写真を示す.図3.13の結果から濃度の大小や時間の経過に関係なく塩酸溶液環境における表面 形状の変化がほとんど見られないことから,Cガラス繊維は腐食を受けにくい材料であることがわかる.図3.3 で示した塩酸溶液中におけるC-glass/Vinylester試験片の応力腐食割れにおけるき裂進展に塩酸の影響はほとん どなく,耐食性に優れる材料であることが明らかである.

このような無負荷浸漬による表面形状の変化を比較することで繊維の耐食性の違いが明らかとなり,応力腐 食割れの改善は繊維の耐食性に支配されることが明らかとなった.

(12)

100 hour

100 hour 100 hour

100 hour 1000 hour 1000 hour

1000 hour 1000 hour (a) HCl 0.1 mol/l

(b) HCl 1.0 mol/l

(b) HCl 4.0 mol/l

Fig. 3.13 Surface of C-glass/Vinylester laminate specimen immersed in HCl solution for 100 hour and 1000 hour

(13)

3.5 酸環境における繊維の腐食

3.5.1繊維腐食の発生

ここで,繊維腐食の発生について化学的視点から考察する.繊維腐食は繊維中に存在する金属イオンと酸溶 液中に存在する水素イオンとのイオン交換反応により金属イオンが溶液中に溶出することにより発生する[1]

Cガラス繊維は表3.5に示すようにEガラス繊維と比較してAl2O3を含む成分の割合が少ない.Al2O3は酸と アルカリの両方に弱い.また,B2Oはケイ酸塩と共に熱せられると複雑な組成を有するホウケイ酸塩を生ずる.

これは酸によって容易に分解され,ケイ酸塩を可溶成にしやすいのでこれらがEガラスの耐酸性低下の原因で あると考えられる[3]

Table 3.5 Mechanical and material properties of E and C glass fiber Fiber Woven E-glass

cloth

Woven C-glass cloth Tensile strength GPa 3.63 3.04 Young’s modulus GPa 75.51 72.57

Density g/cm3 2.54 2.55

Chemical components wt%

SiO2

Al2O3

B2O3

MgO CaO Na2O

K2O Fe2O3

F

55.2 14.8 7.3 3.3 18.7

0.3 0.2 0.3 0.3

65 4 5 3 14 8.5 - 0.5

-

一方,Cガラス繊維中のNa2Oが水と反応することにより若干の腐食を生じることが言われている[2]

3.5.2 溶液中における水素イオン

本章では,塩酸溶液,および硫酸溶液中におけるC-glass/Vinylester試験片のき裂進展挙動を調査している.こ こでは両環境における水素イオンの性質を化学的観点から考察する.向井らは,塩酸,および硫酸中における Cガラス中のSiO2の溶出は塩酸中の方が顕著であることを示している[4]

また,水素イオンが拡散する際に付随する分子について考察すると,塩酸中では全ての水素イオンが小さい 水分子に付随するのに対して,硫酸中では一部が水分子に,別の一部は大きい硫化物イオン(SO42-)に付随し

(14)

拡散するため,硫酸中の水素イオンは塩酸中のそれと比較して拡散しにくく,拡散係数が小さくなる.

以上のことから,塩酸溶液中と硫酸溶液中におけるC-glass/Vinylester試験片のき裂進展挙動は,水素イオン の拡散挙動の違いによる繊維腐食の差が影響していることがわかる.すなわち,水素イオンの拡散挙動は,水 と比較するとわずかであるがC-glass/Vinylester試験片のき裂進展挙動に寄与することがわかる.

図3.14に塩酸溶液1[mol/l]中と硫酸溶液1[mol/l]中におけるき裂進展挙動を示す.温度は両環境とも323[K]

である.図3.14より,塩酸溶液の方がき裂進展を促進させていることがわかり,上記の考察が妥当であること を示している.

10

1

10

-10

10

-9

10

-8

10

-7

10

-6

10

-5

10

-4

C rack p rop agat ion r at e d a /d t m/ s

Stress intensity factor K

I

MP a m

1/2

H

2

SO

4

1.0mol/l HCl 1.0mol/l

Fig. 3.14 Relationship between crack propagation rate and stress intensity factor of C-glass/Vinylester in H2SO4 solution and HCl solution.

一般的に酸溶液中に存在する水素イオンは陰イオンから電離し,水分子に水和した状態で存在している.塩 酸溶液と硫酸溶液では濃度が高い場合には以下に示すように電離の様相が異なる[5].塩酸溶液中では,

++

→H Cl

HCl (完全電離)

硫酸溶液中では,

++

4

4

2SO H HSO

H (完全電離)

+

→ + 42

4 H SO

HSO (電離度低い)

となる.したがって,硫酸溶液中では単独で存在する水素イオンの絶対量は塩酸溶液中と比較して少ないこ とがわかる.

(15)

また,C-glass/Vinylester試験片の応力腐食割れでは水素イオンよりも水分の影響が大きいことは明らかであり,

E-glass/Vinylester試験片の場合に提案された水素イオンの拡散挙動を調査するだけでは,その破壊のメカニズム

を解明することはできない.また,E-glass/Vinylester試験片のき裂進展では,進展方向に対し90°方向に埋蔵 されている繊維がき裂進展抑制に大きな役割を有した.このことから,応力腐食割れのメカニズムは90°方向 繊維が腐食され破断することで生じるという明確なものであった.対して,C-glass/Vinylester試験片では,繊維 における腐食の痕跡が明確ではなく,き裂進展を促進させる主因子が明確とはなっていない.そこで,次章か

らはC-glass/Vinylester試験片のような高耐食性GFRPの応力腐食割れメカニズムの解明を目的とする.さらに,

環境因子としては水に着目する.

3.6 本章のまとめ

本章では耐食性に優れるCガラス繊維/ビニルエステル樹脂織物積層板を試験片として,塩酸,硫酸溶液中,

および水中においてき裂進展挙動を観察し,応力腐食割れ挙動を調査した.この試験結果から以下の知見を得 た.

(a) 塩酸,硫酸溶液中におけるCガラス/ビニルエステル樹脂織物積層板のき裂進展挙動は,Eガラス/エポキ

シ樹脂織物積層板と比較すると非常に高い耐食性を有し,また,塩酸,および硫酸溶液の濃度への依存性も小 さいことが示された.Cガラス/ビニルエステル樹脂織物積層板ではEガラス/エポキシ樹脂織物積層板で見られ たような応力拡大係数の大小による進展挙動の変化は見られなかった.破面観察により得られたき裂進展破面 におけるCガラス繊維の破面を見ると,低応力拡大係数域,定常き裂進展域の両方で同じようなぜい性的な破 壊が生じたことが観察された.以上から,巨視的,微視的の両観点から耐食性に優れることが示された.さら に,繊維の耐食性がFRPの耐食性を支配することがわかった.

(b) Cガラス/ビニルエステル樹脂織物積層板のき裂進展挙動を大気中と水中で比較すると,水中においてもき 裂進展が促進されていることが明らかとなり,水環境下においても応力腐食割れが発生することが示された.

さらに,FRPの破壊メカニズムの腐食環境依存性を議論する場合には水分が無視できない環境因子であること が示された.水は,拡散係数が酸イオンよりも十分に大きいことから,腐食環境依存性の中でも長時間側での 機械的挙動を予測するときに非常に重要な因子となると予測される.

(16)

参考文献

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(3) 上田市三,津田国雄,“含アルカリガラス布ならびに無アルカリガラス布を用いたFRPの長期耐酸・耐 アルカリ性”,強化プラスチック,4,178(1954)

(4) 向井洋二,“ガラス繊維の耐酸性”,強化プラスチック,30,156(1984)

(5) R. F. Regester, “Behavior of fiber reinforced plastic materials in chemical service”, Corrosion-Nace, Vol. 25, No. 4, April (1969)

参照

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