2004年9月 APA No.87-3 財団 法人日本測量調査技術協会
3.フルデジタル写真測量の確立に向けて
小 田 三千夫
※ 1.はじめに 1905年以降、航空写真測量が始まり、二度 の世界大戦を契機に発展してきた。戦後、ア ナログ図化機が次々に開発され、アナログ写 真測量が全盛を迎えた。1960年代からコン ピュータが登場し、解析写真測量が始まった。 1980年代からデジタル図化機が登場、現在で は多くの処理が自動化されている。デジタル カメラは画素数、データ転送速度の問題から 利用が限られていたが、CCD技術の向上ととも に、いくつかの航空デジタルカメラが実用化 された。また、GPS/IMU手法により、これまで は地上の座標値から空中三角測量により求め られていたカメラの外部標定要素が、直接的 に測定できるようになった。本稿では、写真 測量のフルデジタル化に向けての現状を把握 し、課題の検討を行った。 2.フルデジタルとは フルデジタル写真測量の確立とは、これま での写真測量で行ってきた作業工程をすべて デジタル化するということである。これには、 新しいデジタルツールの導入や、開発が必要 である。フルデジタル化を推し進めることに より「品質向上」「コスト削減」「高付加価値 な商品」を作成していくことが可能になり、 定型的な業務だけでなく、新しいニーズに柔 軟に応えることにも繋がる。 フルデジタル化を実現するための環境は、 ハード・ソフト面ともに整備されつつある。 それぞれの工程のデジタル化に向けた変革を 図-1に示す。 ③標 定③標 定 成 果 品成 果 品 ⑤現地調査⑤現地調査 ④図化・ 編集 ④図化・編 集 ②撮 影②撮 影 ①撮影計画①撮影計画 撮影管理 シス テム 撮影管理 システム カメ デジタル ラ デジタル カメラ GP S/ IMU 手法 GPS/I MU 手法 ツール 図化・図化・編集 編集 ツール シス 現地調査 成果品へ成果品へ 新たな新たな テム 現地調査 システム ③標 定③標 定 成 果 品成 果 品 ⑤現地調査⑤現地調査 ④図化・ 編集 ④図化・編 集 ②撮 影②撮 影 ①撮影計画①撮影計画 撮影管理 シス テム 撮影管理 システム カメ デジタル ラ デジタル カメラ GP S/ IMU 手法 GPS/I MU 手法 ツール 図化・図化・編集 編集 ツール シス 現地調査 成果品へ成果品へ 新たな新たな テム 現地調査 システム第26回 技術発表会論文特集
3.フルデジタル化に向けた変革 3.1 撮影計画 従 来 の 撮 影 計 画 図 は 、 業 務 担 当 者 が 1/25,000や1/50,000の地形図に撮影計画コー スを書き込んで作成してきた。撮影士は、飛 行機上で地形図と現地を比較しながらシャッ ターを切っていた。これまでにもいくつかの 撮影支援システムは存在したが、計画から撮 影、そしてデジタル図化機でステレオモデル を構築するまでの統合された撮影管理システ ムはなかった。 現在、デジタル航空カメラDMC(INTERGRAPH 社製:以後DMC)の撮影計画に使用されている 撮影管理システムは撮影スケール、オーバー ラップ(以後OL)、サイドラップ(以後SL)、撮 影範囲等のパラメータの指定をすれば、自動 で撮影計画コースを作成できる(図-2)。ま た計画時点で撮影データの積算、例えば撮影 延長距離や撮影枚数、コース数などの撮影計 画諸元(図-3)が出力される。 図-2 撮影計画コース 図-3 撮影計画諸元 3.2 撮影 コンパクトカメラとしてデジタルカメラは 普及しているが、航空写真測量の分野では導 入が遅れていた。しかし、CCDの画素数やデー タ転送速度といったハード面、画像のブレを 補正する画像形成技術や、複眼レンズによる 画像の合成技術といったソフト面の向上が、 航空写真測量におけるエリアセンサー型のデ ジタルカメラを実現した。まだ、航空フィル ムの画角には及ばないものの、いくつかのデ ジタルカメラが登場している。弊社では、2003 年8月に、エリアセンサー型のデジタルカメ ラDMCを導入した。DMCの概観を図-4に、レ ンズ部を図-5に示す。 図-4 DMC概観 図-5 DMCレンズ部
①DMC画像の特徴 DMCは、4つのパンクロカメラ、4つのマル チスペクトルカメラより構成される。それぞ れのカメラより合成された画像は、高いダイ ナミックレンジを持っているため、影の部分 でも十分な階調を有している。図-6に階調 補正による陰影部の見え方の違いを示す。ま た、近赤外のバンドも取得しているので、土 地利用や植生の判読が可能な付加価値の高い 画像を合成できる(図-7)。 画像処理時にレンズのディストーション情 報を用いて補正されるため、合成された画像 には歪みが存在しない。内部標定要素は事前 に算出されており、スキャニングによる傷や 汚れといった問題も生じることがない。 図-6 DMC画像の階調調整による陰影部の見え方の違い 左:調整前 右:調整後 図-7 左:合成されたDMCのフォルスカラー画像と 右:ナチュラルカラー画像 ②撮影工程の比較 図-8にアナログ撮影方式とデジタル撮影 たが、デジタル方式では「画像処理」の1工程 で済むようになり、時間と経費の削減につな
同時に取得しているビデオカメラ(図-9) の映像で、雲や雲影、撮影の漏れの有無を点 検できる(図-10)。その後、撮影レポート(図 -11)を作成し、外部標定要素をデジタル図 化機に取り込むと、自動的にステレオモデル が生成される。
アナログ
撮影方式
デジタル
撮影方式
アナ
ロ
グ
撮影
●
現像
●
スキ
ャン
ニ
ン
グ
デジタル
図化機へ
デジタル図化機
へ
デジ
タル撮影
●
画像処理
アナログ
撮影方式
デジタル
撮影方式
アナ
ロ
グ
撮影
●
現像
●
スキ
ャン
ニ
ン
グ
デジタル
図化機へ
デジタル図化機
へ
デジ
タル撮影
●
画像処理
図-8 アナログ方式とデジタル方式のフロー 図-9 ビデオカメラ 図-10 ビデオ画像合成 図-11 撮影レポート3.3 標定
?
機体の位置 xyz 機体の傾き ωφκ 三角点?
パスポイント 機 体 の 位 置 xyz 機 体 の 傾 き ω φ κ 地 上 G P S G P S衛 星 図-12 アナログによる撮影 図-13 GPS/IMUによる撮影 これまで、撮影時の航空機の位置や傾きは 測定出来なかった。そのため写真1枚につき、 カメラの位置(x,y,z)と傾き(ω,φ,κ)の 6つの未知係数を空中三角測量により、求め る間接定位法を行ってきた(図-12)。近年、 GPS(Global Positioning System:汎地球測位 システム)による位置測定と、IMU(Inertial Measurement Unit: 慣性計測装置)による加 速度・角速度測定により、位置と傾きを直接 算出するGPS/IMU手法(直接定位手法:図-13) が行われるようになってきた。 GPS/IMU手法は航空機搭載型レーザスキャ ナ(図-14)で本格的に利用され始め、今で は、3ラインセンサーやアナログカメラ(図 -15)にも利用されている。カナダのAPPLANIX 社とドイツのIGI社のGPS/IMUシステムが広く 利用されている(写真はともにAPPLANIX社製)。 図-14 レーザスキャナに取り付けたIMU 図-15 RC30に取り付けたIMU しかし、直接定位手法のみを使用する場合、 作成等を行うには、相互標定と調整計算が必向上が報告されており*2)、相互標定および調 整計算なしで中縮尺の図化作業やオルソ作成 が可能である。理由としては以下の3つの要 因が考えられる。 (1) 内部標定要素が事前に算出済みであり、 合成された画像には歪みが存在しないた め、誤差要因が排除できる。 (2) 高性能なジャイロを装備しているため、 一定の姿勢を保持できる。 (3) IMUがレンズの直上に位置しオフセッ トが少ない設計になっているため、他の システムと比較して、正確な外部標定要 素の測定が可能。 3.4 図化・編集 フルデジタル化を実現するには、多様な図 化・編集ツールが不可欠である。それぞれの 特徴は以下の通りである。 ① デジタル図化機 1980年代に登場したデジタル図化機である が、機能の進化により、DEMやオルソの作成の 自動化が、今後も期待できる。現在、使用し ているデジタル図化機を図-16に示す。デジ タルカメラによる高階調の画像は、陰影部で の色調補正が可能であり、オペレータの、よ り正確な図化作業に貢献している。様々な機 能を併せ持ったデジタル図化機は非常に高価 であり、大量のデータ生産への適用には向い ていない。 図-16 デジタル図化機(左:ImageStation:INTERGRAPH社製 右:Diap:ISM社製) ② 簡易デジタル図化機 高品質な3次元データを迅速に生産するた めには、機能は限定されても低価格のデジタ ル図化機が必要である。弊社では、機能を限 定した廉価版のデジタル図化機、K-SCOPE(図 -17)の開発を行い、図化支援システムとし て稼動させている。多数のK-SCOPEの投入によ り、作業の分散処理と設備投資の軽減が図れ る。 特に、都市部におけるCG作成や、様々な解 析業務に利用が見込まれている都市モデルの 構築(図-18)をターゲットとしている。手 軽な操作性から、熟練オペレータでなくても 作業可能なのも特徴である。
図-17 K-SCOPE操作画面 図-18 都市モデルの構築 ③ 地理情報標準データ構築ツール 昨今、あらゆる分野で、構造化された高度 な3次元空間データの取得が求められている。 3次元環境でのデータ取得、編集、トポロジー 構築、属性入力を行うには、汎用CADを基にし たツールのみでは不十分である。弊社では、 地理情報標準に準拠したデータ構築ツールと してK-DM(図-19、20)の開発を進め、統一 した社内生産体制を確立している。K-DMは、 デジタル図化機、K-SCOPE上で動作可能である。 今後、様々な要求に合わせた製品仕様書へ対 応し、データの構築、ノウハウの蓄積を図っ ていく。 図-19 KDMのクラス図 図-20 KDMの操作画面 3.5 現地調査 成果品を作成する上で、写真上で判読でき ないものは紙図面を用いた現地調査を行って きた。しかし、調査結果の重複入力や、転写 ミス、その後のデータの連携がとれないなど、 多くの問題が存在した。現地調査システムに は、データの連携を図るための「データの汎 用性の確保」、モバイルツールによる「現地作 業の省力化」、論理検査による「手戻り作業の 防止」が不可欠である。 弊社では、K-FIELD(図-21)という現地調 査システムを開発し、現地調査での使用を開 始している*3)。
図-21 左:従来手法による現地作業図面 右:K-FIELDによる操作画面と現場作業風景 4.フルデジタル化の効果 フルデジタル化の効果をいくつかの事例で 検討した。 ①撮影 デジタルカメラの導入による撮影コスト の削減により、これまでのOL・SLを見直し、 高ラップ比の撮影方法(図-22)が可能に なった。これにより、中心画像を使用した オルソフォトの作成や、調整計算の精度向 上を図っていくことが可能になった*4)。 ±5° ±8 ° ±7.5° ±1 3° ±1 5. 5° ±9° Case 3 Proposal OL=80%, SL=80% Case 2 OL=67%, SL=67% Case 1 Ordinary style OL=60%, SL=30% Flight Direction 図-22 OL:SLの違いによる画像の使用範囲 ②計画・撮影・標定 DMCによる撮影を行い、ステレオモデルを 作成して、図化作業を行うという業務では、 通常のケースと比較して、半分の工数で図 化の作業準備まで整えることができ、20~ 25%の経費削減が図れた。*5) ③図化・編集 様々な図化・編集ツールを利用すること により、業務に適合したツールを選択し、 作業ミスを軽減、作業効率を向上させるこ とが可能になった。 ④現地調査 K-FIELDを使用した道路GISのデータ構築 業務では、通常の現地調査に比べて、3分 の2の時間でデータの構築ができ、取得漏 れや記入ミス等による手戻り作業を防止で きた*3)。 5.課 題 フルデジタル写真測量に向けての課題につ いて以下の2点に着目して整理した。 ①工程を通して存在する課題 ・データの管理 デジタル化により膨らんだデータの 管理が緊急の課題となる。膨大なデー タを有効に活用していくための元デー タから製品に至る統合的なデータ管理 システムが必要になっている。
・画像データの有効活用 様々なセンサーにより取得された データの活用法を完成させ、有効活用 していく必要がある。 ②各工程での課題 ・高度なGPS/IMU技術 直接定位手法のみでの処理を可能に するには、より高い精度のGPS/IMU技術 が求められている。取得頻度の向上や、 ジャイロの性能向上などが更に期待さ れている。 ・現地調査システムの改良 現場での操作性の改良とともに、他 のCADソフトに依存しているデータ出 力機能をK-FIELDに組み組む必要があ る。 6.おわりに 今後は、フルデジタル化を加速させて、3 年から5年のうちにすべての作業をデジタル 化する予定である。データの有効活用と経費 の削減を同時に実現し、データの統合管理を 行うことができるチャンスでもある。データ の規模、種類、アクセス頻度などを総合的に 判断し、設備投資していく必要がある。 フルデジタルの先には、フルオートなデジ タル写真測量に向けて動く必要があるだろう。 デジタル化は進んでいるが、まだまだ対話型 の処理工程が多く存在している。今後はデジ タル図化機を中心に対話型からオート処理に 向けて展開していくだろう。フルデジタル写 真測量の確立はその導入部として重要な役割 を担っていると考えている。 (※国際航業株式会社) 参考文献
1) デジタル写真測量(Digital Photogrammetry VolumeⅠ) Toni Schenk著 2) 石垣智明:デジタル航空カメラ(DMC)の導入と実績2004 年第26回測量調査技術発表会 3) 渡辺一博・小出和政・磯部浩平:GISデータ作成のため の現地計測システムの構築 応用測量論文集p63~p70、 2004.6 4) 大山容一・南義彦・村井俊治:デジタル航空測量に適 した撮影手法の提案、 応用測量論文集p45~p49、2004.6 5) Klaus J. Neumann、Z/I Imaging GmbH AERIAL MAPPING CAMERAS-DIGITAL VERSUS FILM THE BENEFITS OF A NEW TECHNOLOGY 2003年2月