AIC Vietnam Co., Ltd.
今村 茂
目次
1.
労務コンプライアンス
2.
法人税の基礎
3.
損金不算入
1.労務コンプライアンス
定義:
労務コンプライアン
スとは、
労働関連法
令
を
遵守
すること。
どのよ うに? 労働関連の法律として、以下のものが挙げられる。 労働関連の法律 1 労働法 10/2012/QH13 2 社会保険法 58/2014/QH13 3 労働安全衛生法 84/2015/QH13 4 労働組合法 12/2012/QH13 5 医療保険法 25/2008/QH12 6 医療保険法の一部条項の改正法 46/2014/QH13 7 就職法 38/2013/QH13 8 ベトナムにおける外国人の入国・出国・乗継・居住に 関する法 47/2014/QH13 何?1.労務コンプライアンス(つづき)
また、法律には、運用細則となる政令や通達がある。例) 主な労働関連の政令、通達 労働契約に関する労働法の一部条項の詳細および実施ガイドラインを規定する政令 44/2013/ND-CP 労働時間・休憩時間および労働安全・労働衛生に関する労働法の一部条項の詳細を規定 する政令 45/2013/ND-CP 賃金に関する労働法の一部条項の詳細および実施ガイドラインを規定する政令 49/2013/ND-CP 職場における民主的規則の履行に関する労働法第63条3項の詳細に規定する政令 60/2013/ND-CP 労働、社会保険、および契約に基づくベトナム労働者の海外派遣に関する行政違反処分 を規定する政令 95/2013/ND-CP 労働組合の財務に関する細則を規定する政令 191/2013/ND-CP 労働契約、団体交渉、労働協約、賃金、労働規律、物的責任および労働争議解決に関す る施行詳細に規定する政令 05/2015/ND-CP ベトナムで就労する外国人労働者に係る労働法の一部条項の詳細を規定する政令 11/2016/ND-CP ベトナムにおいて勤務する外国人労働者に係る労働法の一部条項の施行細則を定める 2016年11号政令の一部条項の施行ガイドラインとなる通達 40/2016/TT-BLĐTBXH など。1.労務コンプライアンス(つづき)
具体的に、どのよう
に労務コンプライア
ンスを確保(遵守)
すべきか?
当局が使うチェックリストの例:調査項目 1 労務に係る報告状況 10 就業規則 2 採用、訓練、労働契約書 11 女性従業員に対する処遇 3 人材派遣 12 未成年者の雇用 4 労働協約 13 定年後の雇用 5 就業時間、休憩時間 14 障がい者の雇用 6 給与支払い 15 外国人の雇用 7 労働安全衛生 16 労働争議 8 労働災害、疾病 17 労働組合 9 賃金テーブル 18 社会保険、失業保険 および200を超える調査項目がある。当局は実際にどのよ
うに監査するのか?
調査対象: 労務に係る報告状況 調査項目: 労働災害、労働安全衛生に関する定期報告をしているか? ☞ 労働局に対して半年ごとに報告 法的根拠: 労働安全衛生法 36条1項、39/2016/ND-CP24条1項 罰則: 2,000,000VND~5,000,000VNDの罰金
労務コンプライアン
スに違反すると罰則
がある。
調査対象: 外国人の雇用 調査項目: 外国人労働者に対して、労働許可書を取得しているか? 法的根拠: 労働法169条、171条 罰則: 30,000,000VND~75,000,000VNDの罰金 ※ 労働者個人の国外退去、企業の1ヶ月~3ヶ月の活動停止もあ り得る。 調査対象: 採用、訓練、労働契約 調査項目: 会社が、従業員の身分証明書、学位証明書を保管しているか? 法的根拠: 労働法20条1項 罰則: 20,000,000VND~25,000,000VNDの罰金1.労務コンプライアンス(つづき)
法人税は、納税者の課税所得に税率を乗じて計算されます。課税所得とは、総 所得から非課税所得および繰越欠損金を減じた金額です。 課税期間 企業の会計年度と一致します。企業の会計年度は、企業が特に 選択をしない場合には暦年の1月~12月、選択する場合には3月、 6月、9月からの12か月間となります。ただし、新規企業の設立 初年度(および清算年度)においては、15ヶ月間が上限となり ます。 税率 20%(標準税率) 課税所得 総所得 -(非課税所得+繰越欠損金)
2.法人税の基礎
定義:
法人税とは、課税期
間において、納税者
(法人)の課税所得
に対して課せられる
税金。
総所得とは、課税所得を計算する際に使われ、会計上の所得とは異なります。 総所得 益金-損金+その他所得 益金 企業の通常活動から発生する全ての販売または役務の提供によ る収入を基に、売上割引、割戻等を控除した金額。 損金 損金とは、営業活動に関連して事実発生をした費用であり、法 により損金不算入とされている項目に該当しない金額。 その他所得 企業の通常活動以外から発生する全ての収入。損金とは、営業活動に関連して事実発生をした費用であり、公式インボイスが 受領され、その他の証憑により発生および内容が証明でき、2,000万VND以上の 取引に対しては銀行送金で支払いがされ、その証明記録があることを前提とし、 法により損金不算入とされている項目に該当しない金額。
3.損金不算入
定義:
損金不算入とは、税
務上で損金とは認め
られず、益金から控
除できない金額。
損金とならない金額(損金不算入)が増えると、損金が縮小、総所得が増加し、 結果として法人税額が増加します。 総所得 = 益金 - 損金 + その他所得 ☟増加 ☟減少 総所得 = 益金 - 損金 + その他所得労務コンプライアンス違反と損金不算入の直接的な関係については、税法では 明確には記載されていません。税法の規定する損金不算入項目には、法に違反 する費用とは書かれていませんし、労働法に違反していたとしても、損金算入 要件である「営業活動に関連して事実発生をした費用」やその他の条件は充足 されています。しかしながら、78/2014/TT-BTC 6条2項5目(96/2015/TT-BTC 4 条により修正)において、以下の記載があります。 2項 以下の費用は、課税所得を計算する上での損金とはみなさない。 5目 以下の場合における給与および賞与 以下のいずれかの書類により特定ができない給与、賞与、生命保険積立: ▪ 労働契約書 ▪ 労働協約 ▪ 財務規程 ▪ 財務規程に基づき取締役会の代表者、General Directorにより発行さ れる褒賞規程。
労務コンプライアン
スに違反すると、な
ぜ損金とはならない
のか?
3.損金不算入(つづき)
ここから言えることとしては; ▪ 給与や賞与の根拠が明確であり、規定されていなければならない。 ▪ 労働法に違反する規定を設けることは出来ない。(労働契約も同様。) ▪ 労働法に違反するものは損金とはみなされない。 ❖ 実際に発行されている公文書では、この論理構成において損金を否認しているケースが見受けられます。
3.損金不算入(つづき)
企業Aでは、毎年1月に1ヶ月分の賞与を支給してきました。これは13ヶ月分給与という、ベトナムにおい て一般的に適用される給与体系に基づくものです。企業Aの全ての労働契約書、就業規則、社内規程では、 この13ヶ月分給与で統一がされています。 この年、企業Aは業績が好調であったため、従業員に対する還元として、通常の1ヶ月から1.2ヶ月の賞与 を出すことを決定しました。
4.事例
賞与の取り扱い 事例1)
税務調査の結果、余剰である0.2ヶ月分の賞与については、その根拠がないとのことで、損金として否認 されました。会社が規定する賞与は1ヶ月分であり、1.2ヶ月分との差である0.2ヶ月分については、金額 を特定できる書類がないためです。 事象 指摘では、何をすればよかったのか? このような場合、1つには、企業Aにある全ての書類を修正する方法があります。労働契約書、就業規則、 社内規程など、全ての書類において、1ヶ月を1.2ヶ月に修正します。 しかしながら、この方法は手続が煩雑になってしまいます。労働契約書に付録を付けて条文を修正し、就 業規則を修正して再登録し、社内規程を修正しなければなりません。また、全てを修正することで、今後 にも影響を及ぼしてしまいます。会社書類の全てを1.2ヶ月とするのであれば、翌年以降も同様にしなけ ればなりません。この年は業績が好調でしたが、翌年もそうであるとは限りません。翌年に業績が通常通 りだから、悪化したからと言って、また全てを1ヶ月に戻すのは非常に困難ですし、従業員の納得を得る のは難しくなります。
4.事例
賞与の取り扱い 事例1)‐つづき
対策もう一つの方法としては、特別に決定書を作ることです。企業Aの経営判断として、この年において、 1.2ヶ月分の賞与を支給する旨を決定し、従業員に対して通知することで、1.2ヶ月の賞与が特定できる書 面で証明されることになります。 この方法での留意点としては、全従業員に一律であれば決定書のみでも可能ですが、特定従業員、特定部 署、特定職位のみということであれば、その理由付けの根拠が必要になります。それらの根拠を以って決 定を行えば、損金とすることができます。
4.事例
賞与の取り扱い 事例1)‐つづき
対策企業Aでは、毎年1月に1ヶ月分の賞与を支給してきました。この適用は、企業Aの全ての労働契約書、就業 規則、社内規程で統一されています。毎年同様にしています。 税務調査の結果、過去の賞与の全額が損金として否認されました。企業Aの労働契約書では、賞与は就業 規則に順ずると記載されています。そして、就業規則には、賞与は1ヶ月分とすると記載されています。 これらの記載に齟齬はなく、損金が否認される理由とはなりません。ところが、企業Aの就業規則は労働 局に登録がされていませんでした。つまり、就業規則としては無効であるということになり、金額を特定 できる書類がないとなります。
4.事例
賞与の取り扱い 事例2)
事象 指摘では、何をすればよかったのか? 従業員が10名以上である場合、就業規則は労働局に対して登録がされなければなりません。(労働法120 条、121条、05/2015/ND-CP 28条)現在であれば、就業規則の登録については厳しく管理されており、企 業としても登録義務を認識しているため、怠るということがないのですが、過去においては、然程厳しく 管理されておらず、認識も希薄でした。管理が厳しくなってきたのは、2012年の労働法改正の前後であり、 それ以前にベトナムに進出した企業では、就業規則が登録されていないということがあります。 就業規則の登録状況について、再度の確認が重要です。また、登録 されていたとしても、旧法に基づいたものであれば、修正が必要と なる可能性があります。
4.事例
賞与の取り扱い 事例2)‐つづき
対策企業Aでは、従業員に対して能力手当を支給しています。この手当ができた当初、会社では能力手当とし て400,000VNDとして設定をし、手当規程に記載しました。その後、従業員の数が増えるに伴い、従業員同 士の能力の違い、横のバランスを考慮し、あるの者は400,000VND、ある者は300,000VND、ある者は 200,000VNDとバラつきが出てきました。企業Aの労働契約書には、手当の金額記載はなく、手当規程に基 づくとされています。 税務調査の結果、400,000VNDの手当は、規程から根拠が特定できるとのことで損金となりましたが、 300,000VNDや200,000VNDの手当は、根拠が特定できないとして損金として否認されました。
4.事例
手当の取り扱い 事例1)
事象 指摘では、何をすればよかったのか? 手当の内容について、時間が経つにつれて、人数が増えるにつれて、再検討が必要になることは良くある ことです。そこで忘れていけないのが、規程(就業規則、社内規程、決定書)との整合性です。本事例に おいても、規程を修正し、整合性を取っていれば、特定できる書類により証明が可能でした。 別の方法としては、手当に幅を持たせることです。職位に出される手当については「一律」であることが 多いですが、能力に係る手当については、「幅」を持たせることができます。例えば、最大値を 400,000VNDとして、会社が決定するとしておけば、後は個人に対して、幾らを支給するかを会社が決めて さえおけば済みます。(決定書は必要)
4.事例
手当の取り扱い 事例1)‐つづき
対策4.事例
手当の取り扱い 事例2)
事象 企業Aでは、夏の暑い時期に従業員に対して精勤手当を支給しています。通常の年では、5月~8月を対象 としていますが、この年に限り、9月が余りにも暑いということで、特別に手当を支給しました。通常の5 月~8月の手当は規程に記載があり問題がありませんが、9月は記載がありません。 企業Aは、コンサルティング会社と相談の上で、3つの選択肢を出しました。1.
規程を修正し、9月にも手当を出すようにする。
2.
別途の会社決定書を作り、特別な手当とする。
3.
規程の修正や決定書を発行せず、損金ともしない。
結論として、企業Aは選択肢3を選びました。 ▪ 選択肢1のケースでは、規程に記載がされますので、翌年以降も同様にしなければなりません。この 年に限り9月が暑かったこともありますが、翌年も同じとは限りません。(〇度以上が何日という案も 出ましたが、運用が面倒とのことでなくなりました。) ▪ 選択肢2のケースでは、規程化がされませんので、この年に限る特別なものとして取り扱えます。しか しながら、企業Aでは、「一度書面として発行してしまえば、翌年も同じようにしてくれとのリクエス トが出かねない。権利として認識されることは避けたい。」との懸念から、敢えて書面に残すことは 選択しませんでした。 ▪ 企業Aは選択肢3を選びましたが、損金とはしていませんので、特に税務上では問題とはなりません。 例え税金が増加したとしても、翌年以降の再現性を排除するという経営判断です。
4.事例
手当の取り扱い 事例2)‐つづき
対策企業Aでは、従業員一人につき年間500時間程度の残業が恒常的に発生しています。労働法(106条2項)で 認められた年間の残業時間は200時間(申請により300時間も可)です。企業Aでは、元々は1直8時間の勤 務でしたが、業務の拡大につれて、一部では2直を採用、今後は全面的に2直体制への移行を検討している ところでした。 税務調査の結果、法定の残業時間を超える部分については、損金として否認されました。当然ながら、労 働契約書においても、就業規則においても、社内規程においても、法定を超える残業時間に対して、給与、 手当を支払うとは書かれていません。(書けません。) この事例においては、2直体制への移行が遅れてしまったため、被害が拡大してしまいました。また、残業 が増えるにつれ、離職率が高くなってしまい、余計に残業を助長するという悪循環を招いてしまいました。
4.事例
残業の取り扱い 事例1)
事象 指摘企業Aでは、状況に応じて多少の残業はあるものの、残業時間は法定の年200時間以内に収まっています。 ところが、会計部門を中心に、決算時期になると残業が増えてしまい、月間30時間を超えてしまう月があ ります。 税務調査において、税務担当官は法定上限を超える残業についての指摘はしたものの、損金としては認め ました。
4.事例
残業の取り扱い 事例2)
事象 指摘 ※ 残業時間の法定上限は、Ⅹ時間/日、30時間/月、200時間(もしくは300時間)/年です。 Ⅹ=1日の通常の勤務時間の50%を超えず、1日12時間を超えない。一つには、税務局としては、年間残業時間は重視するものの、日や月での残業時間は余り厳しく見ない傾向にあり ます。 また、企業Aにおいては、計画的に法定上限を超える残業を課していたわけではなく、突発的に発生したものと見 られたため、税務担当官の心象を悪くすることがなかったものと考えられます。 ➢ この判断は、税務担当官により異なります。厳しい見方をすれば、法定上限を超える残業は、全て損金が否認 される可能性があります。 なお、残業の取り扱いについては、労務コンプライアンス違反自体に対しても罰則があります。当然ながら、この 罰金も損金とはなりません。 調査対象: 就業時間、休憩時間 調査項目: 法定限度を超える残業があるか? 法的根拠: 労働法106条、107条、2013年45行政令4条 罰則: 25,000,000VND~50,000,000VNDの罰金 (企業の1ヶ月~3ヶ月の活動停止もあり得る。)
4.事例
残業の取り扱い 事例2)‐つづき
企業Aでは、労働法における法定残業時間の上限は認識しているものの、現状においては年間200時間を超 える残業が発生しています。企業Aは事前にコンサルティング会社に相談をし、法定残業時間を超える部 分については損金とはならない旨の案内を受け、その通りに損金として算入していませんでした。 税務調査の結果、法人税については、残業時間での指摘は受けませんでしたが、個人所得税での指摘を受 けてしまいました。ベトナムの個人所得税法に基づき、残業代は非課税所得とされています。企業Aは、 この規定に基づき、残業代を非課税所得として取り扱っていました。しかしながら、非課税所得となるの は、労働法に違反しない限りにおいてであり、労働法に反する残業代は課税所得となります。
4.事例
残業の取り扱い 事例3)
事象 指摘企業Aでは、数年の間、以下のような処理が行われていました。(経営者は知らない内に) ▪ 社会保険に社外の者(複数名)が混入。 ▪ 社外の者は、社会保険料相当分(個人・会社負担)現金を企業Aの総務担当者に渡す。 ▪ 会計担当者は、預かった現金を預かり金として処理。 ▪ 総務担当者は、社会保険の支払いに預かった現金を混ぜ込む。 ▪ 会計担当者は、費用勘定には入れず、預かり金を消し込む。 労務監査の結果、社会の者が混入していることは不適切であるとの指摘を受けました。
4.事例
社会保険の取り扱い 事例1)
事象 指摘企業Aが自ら社内調査をした結果、社外の者は、企業Aの従業員の親戚、および既に退職しているはずの従業員 であることが判明しました。それらの者は、現在失業中であり、社会保険への加入が困難な状態でした。企業A の総務担当者および会計担当者は、一時的な措置として、それらの者を企業Aの社会保険に加入させ、保険料相 当分の現金を受け取り、損益計算書には載らない形で処理をしていました。 労働局からの指摘を受け、企業Aでは、当該社外の者を社会保険から外し、会計処理を過去に遡って修正しまし た。 ▪ 受領した現金をその他利益で計上 ▪ 支払は雑費で計上し、損金不算入とする。 結果として、益金が増加し、多少とはいえ法人税が増加することになってしまいました。