はじめに 人間の主たる移動様式は直立二足歩行であり,人間としての 機能的基盤はここにある。一旦怪我や痛みなどの支障をきたせ ば人間生活に様々な支障をきたし,生活範囲を制限し,人の 生きがいまでも低下させることになる。「いかに人間が死ぬま でずっと歩き続けられる生活を維持していくことができるの か?」このことは理学療法士が関わる業務の大きな目的になっ てくるものと考える。唯一地面に接地する足部は,支持基底面 の変化に対し,また上位からの荷重による重心移動の変化に対 しても対応させなければならない。その足部を様々な外乱に対 して適応させるためにインソールがあるという認識が必要と なってくる。 インソールの概要1) 1.インソールとは インソールとは靴の中敷きに凹凸をつけ,人間の土台となる 足の肢位や使い方に変化を与えるものである。靴の歴史が長い ヨーロッパ諸国などでは,かなり古くから使用され発展してき た。人間の主たる移動様式が二足直立歩行であることから,唯 一地面に接しているのが足部のみである。床からの反力は,地 面から靴−インソール−足へと伝達される。地面と人間の足の 間には靴とインソールがあり,地面から足へと効率よく力を伝 達させるためには靴やインソールは重要なものとなる(図 1)。 2.入谷式足底板の考え方 障害の多くは小さなメカニカルなストレスの繰り返しにより 発生し,これが疼痛などの症状を引き起こす原因になる。この メカニカルストレスを減じなければ治療により良好な結果を得 ることができない。地面に接する足部を制御するインソールは 身体重心,足圧中心,床反力ベクトルなどを変化させるために, 身体の姿勢や動作に影響を及ぼす。 入谷式足底板は,足から身体の姿勢や動作を変化させること により,身体各関節のメカニカルストレスを減少させ,より効 率的な身体動作を誘導するものである。 3.入谷式足底板の作製における特徴 入谷式足底板では単に足を採型したり,既製のパッドを貼付 したりするものではない。以下がその特徴である。 1)テーピングやパッドを用いた評価(足底板作製のための直 接的評価)により,足部関節肢位および高さを決定してから作 製する。 足には多くの関節があるために,入谷式足底板では足部の 各々の関節をどの方向に,どの程度の量を誘導すれば,目的と する身体の動きの誘導ができるのかを必ず確認してから作製 する。 2)足底板作製や作製後の微調整は歩行動作を中心とした様々 な動作を確認しながら行う。 歩行などの動作を実際に確認して作製や微調整を行うこと で,目的とする姿勢や動作に誘導できたことを確認できる。 3)身体全体の動きを制御することを目的としているために, 両側に作製することを基本とする。 人間は骨盤から上にある体幹を左右両側の下肢で支えてい る。片側の下肢の状態が変化すれば,身体のバランスも変化し, 姿勢や動作に影響を及ぼす。 4)個人個人の効率的な荷重方向を探り,その荷重方向に応じ た足部誘導をすることを基本とする。 個人個人の効率的な動きはそれぞれ荷重を受ける部位に違い があり,現状における荷重方向を探る必要がある。この荷重方 向は変化するものである。これは足部誘導でもっとも重要な距 骨下関節と第 1 列の誘導に関わりがある。 4.入谷式足底板の臨床応用 入谷式足底板では,足から身体の姿勢や動作を誘導すること *
Inventive Ideas of Insoles Supporting Our Daily Life
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足と歩きの研究所
(〒 225‒0015 横浜市青葉区荏田北 1‒6‒1)
Makoto Iritani, PT: The Institute of Feet and Walking キーワード:入谷式足底板,直接的評価,姿勢制御
図 1 インソールとは
靴の中敷きに凹凸をつけて,人間の土台となる足の肢位や使 い方に影響を与えるものである.
を目的としているために,幅広く臨床応用することができる。 以下にその応用について記す。 1)障害に対する臨床応用 入谷式足底板では身体の姿勢や動作を誘導することで,足か ら障害局所のメカニカルストレスを軽減させることが可能と なる。 2)運動連鎖を利用した臨床応用 入谷式足底板では運動連鎖を利用して,足部からの遠隔操作 によって身体各分節を制御することが可能となる。 3)姿勢制御に対する臨床応用 入谷式足底板は両側に作製することを基本として,両側から 身体重心,足圧中心,床反力ベクトルなどをコントロールする ことができる。 4)個々の足部機能を発揮させるための臨床応用 足底板は足に直接作用するために,足部形態を是正し,足の 機能をより効率よく発揮させることができる。 5)様々な運動特性を改善させるための臨床応用 入谷式足底板では障害の治療だけではなく,様々な運動特性 に対する応用が可能となる。 6)靴の補正として臨床応用 入谷式足底板では靴ごとの特徴や欠点が身体の姿勢や動作に 及ぼす影響を捉え,これを補正する役割もある。 5.入谷式足底板の作製手順 まず問診や触診で患者様の全体像を把握し,足部形態評価や 機能的評価,徒手誘導評価などから足部の誘導方向を示唆させ る。ついでテーピングとパッドを用いた評価(足底板作製のた めの直接的評価)で,足部関節肢位や誘導量を評価する。そし てその他のパッド処方の有無を評価し,疼痛などの症状や姿勢 や身体の動きが良好になったことを確認した後に作製に入る。 中敷きベースを作製し,足へのマーキング,アーチパッドへの マーキングと評価項目の記載,中敷きベースへの記載等を行 う。そしてアーチパッドを直接的評価に基づいて研磨し,中敷 きベースに貼りつける。その他のパッドも併せて処方する。靴 の中に挿入し,実際に歩かせ,微調整を加え,良好な結果がで たことを確認する。そして中敷きベースの裏面を覆い,終了と なる。症例に応じてフォローアップを行う(図 2)。 入谷式足底板の評価 入谷式足底板ではテーピングやパッドを用いた評価により, 足部関節肢位やその高さを決定してから作製するところに大き な特徴がある。 1.荷重方向の評価2) 個人個人で効率的な動きをつくるために,荷重を受ける部位 に違いがあって,現状における荷重方向を探る必要がある(図 3)。荷重方向は変化するものであり,症例による主訴の変化や 動きの変化が現れたときには必ず評価をし直す必要がある。こ の評価は距骨下関節と第 1 列の誘導を示唆するものである。 1)前後方向の評価 骨盤の前傾と後傾の徒手誘導と歩行評価で確認する。骨盤前 傾の徒手誘導は歩行時には確実に足尖に荷重が移動し,骨盤後 傾の徒手誘導は踵方向へ荷重が移行する(図 4)。距骨下関節 回外は立脚初期に前方への荷重を速め,回内は前方への荷重を 遅らせる作用がある。そのため前方への荷重方向は距骨下関節 回外誘導を,後方への荷重方向は回内誘導を示唆する。 2)内外側方向の評価 腸骨の下制と腸骨の拳上の徒手誘導と歩行評価で確認する。 腸骨下制の徒手誘導は歩行時に足部外側への荷重となり,腸骨 拳上の徒手誘導は足部内側への荷重へと移行する(図 5)。第 1 列底屈は立脚中期以降に前方への荷重を速めるとともに内側へ の荷重になり,背屈は前方への荷重を遅らせると同時に内側へ 図 3 荷重方向 図 2 入谷式足底板の作製手順 図 4 前後の荷重方向評価
の荷重を制限する作用がある。そのため内側への荷重方向は第 1 列底屈誘導を,外側への荷重方向は背屈誘導を示唆する。 2.入谷式足底板作製のための直接的評価1‒5) 1)距骨下関節の誘導 荷重方向が前方位にある人は回外誘導し,後方位にある人は 回内誘導する(図 6)。 2)第 1 列の誘導 荷重方向が内側位にある人は底屈・回内誘導し,外側位にあ る人は背屈・回外誘導する(図 7)。 3)内側楔状骨矯正誘導 この誘導では矯正誘導の有無を確認する(図 8)。この誘導 は立脚中期以降の母趾方向への移行の際に第 1 リスフラン関節 より行わせるか,またはその近位の関節である楔舟関節から行 わせるかを確認する。前者は矯正がプラスで,後者は矯正がマ イナスである。 4)果部誘導 この誘導は外果を拳上するか,または内果を拳上するかを確 認する(図 9)。内外果の高低差は足部回内外の動きを制御し, 高低差が大きい場合は内果が上方に位置していることから回外 の際に足部との衝突が遅れるので大きな可動性になり,回内の 際は足部と外果での衝突が早期に起きるために小さな可動性に なる。一方高低差が小さい場合は内果と足部との衝突が早期に 起きるために回外可動性が小さくなり,逆に外果と足部との衝 突が遅れる回内の可動性は増加する。外果拳上は回外の動きを 制動し,回内の動きを増加させる。内果拳上では回外の動きを さらに大きくさせ,回内の動きをさらに小さくさせる。 5)第 5 列の誘導 この誘導では第 5 列の内がえし誘導か,外がえし誘導か,誘 導なしかを確認する(図 10)。 6)後足部の誘導 後足部の誘導は内外側アーチの間隙を埋めるか,埋めないか の評価をする。その評価が長・短パッドの選択とその高さの評 価である(図 11)。一側に短パッドを,もう一方に長パッドを 足底に貼り,体前屈でどちらが前屈しやすいかをみて判断す る。そして選択したパッドの高さの評価についても体前屈で もっとも容易な高さを示唆し,歩行動作で確認する。 *横アーチの機能 1 横アーチの分類には root が提唱する 4 分類が世界的にもっ とも多いものである。これは前方から中足骨レベル前方部分の 横アーチ,中足骨レベル後方部分の横アーチ,楔状骨レベルの 横アーチ,後足部レベルの横アーチである。後足部レベルの横 図 6 距骨下関節の誘導 a.回外誘導(前方位) b.回内誘導(後方位) 図 7 第 1 列の誘導 a.底屈・回内誘導(内側位) b.背屈・回外誘導(外側位) 図 9 果部誘導 a.外果拳上 b.内果拳上 図 10 第 5 列の誘導 a.内がえし誘導 b.外がえし誘導
アーチは kapanjii では舟状骨と立方骨レベルの横アーチと表現 している。テコの原理から,前方にある横アーチは後方へ,後 方にある横アーチは前方へ力を加えると考える。臨床的な経験 から前後への力が加わる境界線は第 1 リスフラン関節水平ライ ンであることがわかってきた。すなわち前方にある中足骨レベ ル前方部分と後方部分の横アーチは後方へ力を加え,後方にあ る楔状骨レベルと後足部レベルの横アーチは前方に力を加える (図 12)。また第 1 リスフラン関節水平ラインから遠隔部位の 横アーチは足から遠隔部位へ影響すると考えた。レバーアーム の短い中足骨レベル後方部分と楔状骨レベルの横アーチは下 骨へ,レバーアームの長い中足骨レベル前方部分と後足部レベ ルの横アーチは大 骨へ影響する(図 13)。中足骨レベル前方 部分の横アーチは大 を後方へ移動させることで股関節を伸展 方向へ導き,中足骨レベル後方部分の横アーチは下 骨を後方 へ移動させることで膝関節を屈曲方向へ導く。一方楔状骨レベ ルの横アーチは下 骨を前方へ移動させることで膝関節を伸展 方向へ導き,後足部レベルの横アーチは大 を前方へ移動させ ることで股関節を屈曲方向へ導く。 7)中足骨レベル前方部分の横アーチの誘導 この部位の評価は誘導方法および高さをみる(図 14)。一側 に幅の狭い 2・3 列背屈誘導,もう一方に 2・3・4 列背屈誘導 のパッドをあて,体前屈で比較する。良好な誘導方法をもう一 方にも処方して確認する。そして高さの評価についても体前屈 でもっとも良好な高さを示唆して歩行動作で確認する。 8)中足骨レベル後方部分の横アーチと楔状骨レベルの横アーチ これらの部位の評価では,まず第 1 リスフラン関節水平ライ ンを前後に分ける横アーチで,体前屈でどちらを優先させるか をみる(図 15)。そして優先した部位の高さを体前屈で決定し, その後もう一方の部位の高さを決定するが,優先したものより 高くなることはない。 以上がアーチパッドの形状を決める評価になる。ついでその 他のパッドの処方を評価する。本稿では人間の動きの基本とな る骨盤と体幹部の評価について説明する。 *横アーチの機能 2 著者は前方へ 12,後方へ 12 に分け,計 24 分類とし,より 細かな調整ができるようにしている。この分類によって上部頸 椎レベルまでの姿勢制御が可能になってきた(図 16)。それぞ れの下肢分節を上下に分け,また骨盤,腰椎,胸椎,頸椎レベ ルをそれぞれ上下に分類した対応をしている。骨盤部の調整は 図 11 後足部の誘導 a.長パッド b.短パッド 図 12 横アーチの機能1(root を改変) 図 13 横アーチと下肢分節との関係 図 14 中足骨レベル前方部分の横アーチ a.2・3・4 列背屈 b.2・3 列背屈 図 15 中足骨レベル前方部分と楔状骨レベルの横アーチ a.中足骨レベル前方部分 b.楔状骨レベルの横アーチ
中足骨頭レベルと踵立方関節レベル,胸郭の調整は胸椎レベル で行うために基節骨レベルと踵骨中央部分で処方を行う。 9)骨盤および仙腸関節の制御と足底板処方 骨盤前傾,または後傾については最初の荷重方向評価でわ かっている。骨盤から上位の体幹部分は直立肢位にあるために 上下の動きが主体となる。そのため前傾における誘導には 2 種 類,後傾における誘導にも 2 種類がある。前傾では骨盤上部の 下制・骨盤下部の拳上誘導と骨盤上部の拳上・骨盤下部の下 制誘導があり(図 17),後傾についても同様である(図 18)。 その徒手誘導でどの誘導がよいかをみて誘導なしと比較する。 もっとも良好な骨盤肢位になるように足底板の処方を行う。 10)胸郭の制御と足底板処方 胸郭の矢状面の動きは前傾と後傾である。胸郭は骨盤の前後 傾と同一方向へ作用するために,骨盤前傾の人は胸郭も前傾に なり,骨盤後傾の人は後傾になる。胸郭の動きも骨盤同様に上 下の動きが主体となるために,両肢位とも 2 種類の誘導があ る。前傾では胸郭上部の下制・胸郭下部の拳上と胸郭上部の拳 上・下部の下制があり(図 19),後傾についても同様である(図 20)。その徒手誘導でどの誘導がよいかをみて誘導なしと比較 する。もっとも良好な胸郭肢位になるように足底板の処方を 行う。 さらに細かな評価を行うが(図 21),本稿では人の動きを制 御する基本的なものを紹介した。このような直接的評価では確 実に疼痛等の症状を改善させ,動きの矯正がされていることを 確認する。したがって確実な足底板の処方を自信をもってでき る。また徒手誘導による評価は,目的とする身体分節の動きを 確認できることでその処方が確実なものとなる。 入谷式足底板の作製2) 1)中敷きベースの作製 靴の中のボリュームに合わせた中敷きベースを作製する。高 分子樹脂化合シートに靴の輪郭をとり,表面素材を貼り合わ 図 16 著者の横アーチの分類 さらに,各々を上下に分けて分類し,計 24 分類である. 図 17 骨盤前傾の 2 つの徒手誘導 a.骨盤上部前方の下制・骨盤下部後方の拳上 b.骨盤上部後方の拳上・骨盤下部前方の下制 図 18 骨盤後傾の 2 つの徒手誘導 a.骨盤上部後方の下制・骨盤下部前方の拳上 b.骨盤上部前方の拳上・骨盤下部後方の下制 図 19 胸郭前傾の徒手誘導 a.胸郭上部前方の下方誘導・胸郭下部後方の上方誘導 b.胸郭上部後方の上方誘導・胸郭下部前方の下方移動 図 20 胸郭後傾の徒手誘導 a.胸郭上部後方の下方誘導・胸郭下部前方の上方誘導 b.胸郭上部前方の上方誘導・胸郭下部後方の下方移動
せる。 2)足へのマーキングとアーチパッドへのマーキングおよび評 価項目の記載 内側は第 1 リスフラン関節,楔舟関節,距舟関節,踵骨載距 突起部,内側アーチ起始部へ,外側は第 5 中足骨底近位部へ マーキングをする(図 22)。アーチパッドの裏側に直接的評価 を記載する。 3)中敷きベースに足をのせ,第 5 中足骨底近位部と第 1 リス フラン関節,第 2 趾と第 4 趾先端にマーキングする。 4)アーチパッドを中敷きベースに置き,アーチパッドの輪郭 と基準線を引く。この作業はアーチパッド研磨後に適正な位置 に貼り合わせるために行う作業である。 5)直接的評価に準じて,アーチパッドを電動グラインダーを 用いて研磨する。 6)研磨したアーチパッドを中敷きベースに貼り合わせる。靴 の内側の靴底からの立ち上がりとアーチパッドの内壁部分を合 わせるように研磨する。 7)その他のパッドの処方も行う(図 23)。 8)でき上がったら,作製したものを靴の中に挿入し,歩行を 見ながら微調整を加え,良好な結果が得られたら終了となる。 9)でき上がったインソールは裏面に覆いをして終了とする。 おわりに インソール治療は無意識下で人間の動きを変化させ,疼痛な どの症状の改善,身体機能の向上,疲労しにくさなど,人間生 活を支えるうえで,非常に有効な手段になると考える。運動療 法などと併用することで,さらにその機能を維持または発揮さ せることが可能になることを確信する。 文 献 1) 入谷 誠:入谷式足底板─基礎編─.運動と医学の出版社,神奈 川,2011. 2) 入谷 誠:入谷式足底板セミナー─上級編─資料.身体運動学的 アプローチ研究会後援,2014.
3) Root ML, Orein WP, et al.: Normal and Abnormal Function of The Foot (Vol. 2). Clinical Biomechanics, 1977.
4) Kapandji IA:カパンディ関節の生理学Ⅱ下肢.荻島秀男(監訳), 医歯薬出版,東京,1986. 5) Neumann DA:筋骨格系のキネシオロジー.嶋田智明,他(監訳), 医歯薬出版,東京,2013. 図 21 症例の直接的評価 図 23 アーチパッドの貼り付けから完成 図 22 アーチパッドへのマーキング