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多様な分娩体位の実践に影響を及ぼす要因の探索

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Academic year: 2021

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国際医療福祉大学大学院医療福祉学研究科(International University of Health and Welfare Graduate School, Graduate School of Health and Welfare Sciences)

2013年8月13日受付 2014年4月4日採用

原  著

多様な分娩体位の実践に影響を及ぼす要因の探索

Exploring influential factors in nurse-midwives’ practice

of alternative labor and delivery positions

篠   克 子(Katsuko SHINOZAKI)

* 抄  録 目 的  助産師を対象に多様な分娩体位の実践の促進或いは阻害影響要因を探索し分析する。 対象と方法  研究デザインは,横断的記述デザインである。過去1年間分娩直接介助を行った助産師を対象に質問 紙調査を行った。多様な分娩体位の実践助産師の定義は,3種類以上の体位での分娩介助の実践,妊産 婦への多様な分娩体位の情報提供,バースプランの活用,という条件全てを満たす者とした。測定用具 は,Alternative Labor Position(ALP)尺度と職務満足感を測定するHuman Resource Management チェ ックリスト(日本労働研究機構,2003)を用いた。分析は共分散構造分析を用いた。  倫理的配慮は,大学及び該当施設の倫理審査委員会の承認を得た。 結 果  回答が得られた387名を分析対象とした。多様な分娩体位の実践助産師は,124名(32.0%),未実践助 産師は263名(68.0%)であった。81.1%の助産師が多様な分娩体位の利点と興味深さに肯定的であったが, 60.4%が慣例的に砕石位で分娩を行っていた。ここに助産師の意識と実践に乖離があった。普及理論に 基づく「革新性」では,イノベーターとアーリー・アダプターを革新派,アーリー・マジョリティ,レ イト・マジョリティ,ラガードを保守派に分け,其々の特徴を分析した。その結果,革新派は,産科単 科病棟に所属し,ほぼ正常の妊産婦をケアしている者,分娩体位の種類の数及び妊産婦への多様な体位 の情報提供が有意に多かった。  共分散構造分析の結果「多様な分娩体位の実践」の阻害要因は,パス係数が高い順に「変革を好まない 考え方」「多様な分娩体位の技術に対する戸惑い」であった。促進要因は,「革新性」「専門性が発揮でき る産科単科病棟」であった。 結 論  「多様な分娩体位の実践」の促進要因は「革新性」「専門性が発揮できる産科単科病棟」であった。阻害 要因は「変革を好まない考え方」「多様な分娩体位の技術に対する戸惑い」であった。 キーワード:分娩体位,助産師,普及理論,共分散構造分析

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Abstract Purpose

The study explored and analyzed the influential factors in the promotion or inhibition of Nurse-Midwives' prac-tice of alternative labor and delivery position (ALP).

Methods

The study used a cross-sectional descriptive design. The participants were midwives practicing care from first to third stage of labor in the last year. Instruments were: ALP Scale and the 2003 Japanese Institute for Labour Policy, Human Resource Management Checklist for job satisfaction. Comparisons were made between midwives practicing ALP (practicing midwives) and midwives not-practicing ALP (not-practicing midwives). The influential factors were analyzed by structural equation modeling.

The Ethics Review Committee of University and Hospitals approved the study. Results

A response rate of 71.6% yielded valid 387 midwifery responses of which 124 (32.0%) were practicing and 263 (68.0%) were not practicing midwives. Although the majority (81.1%) was positive about ALP, the majority (60.3%) also practiced the recumbent maternal position in labor, so there was a difference between midwives' awareness and actual practice. In "innovation" by Rogers (2003), "Innovator" and "Early adopter" were consisted of Innovative group, "Early majority" "Late majority" "Laggards" were consisted of Conservative group. Innovative group was sig-nificantly higher the rate of practicing midwives, belonged homogeneous maternity ward, caring almost normal or low risk labor women. The analysis of influential factors by structural equation modeling indicated that, "dislike for innovation" and "confusion about ALP midwifery skills" negatively influenced practicing ALP. "Innovation" positively influenced practicing ALP. "Homogenous maternity wards" also positively influenced practicing ALP more than mixed wards.

Conclusion

Promoting factors of ALP were midwives' "innovation" and "homogeneous maternity ward". Inhibiting factors of ALP were "dislike for innovation" and "confusion about ALP midwifery skills".

Key words: posture, labor position, midwives, innovator theory, structural equation modeling

Ⅰ.は じ め に

 古来,分娩体位は垂直位が主流であった。17世紀 フランスのFrancois Mauriceauは,産科処置を容易に するために仰臥位の分娩を提唱し,この体位はヨー ロッパ各地から世界中に広まった。近代においては, 1979年にCaldeyro-Barciaは垂直位が分娩所要時間を 短縮すると報告した。この頃から分娩体位と周産期 のOutcomesに関する研究が盛んになり,分娩第1期 の体位と周産期のOutcomesのSystematic Review(以 下SRと略す)(Lawrence, Lewis & Hofmeyr et al., 2009, p.8), 分 娩 第2期 の 体 位 と 周 産 期 のOutcomesのSR (Gupta, Hofmeyr & Smyth, 2009, p.6)があり,いずれ も分娩所要時間の短縮を報告している。膝手位(四つ ん這い)と児頭回旋異常の改善を分析したSR(Hunter, Hofmeyr & Kulier, 2009, p.4)では,児頭回旋が正常に 復するエビデンスは示されなかったが,膝手位は有意 に腰痛を軽減すると報告された。

 WHO(1996, p31)は「明らかに害があったり効果が ないのでやめるべきこと」に「産婦を慣例的にあおむ けの姿勢にすること」を示している。US Preventive

Services Task Force(USPSTF)も, 分 娩 第2期 の 垂 直位を強く推薦している(Berghella, Baxter & Chau-han.,2008, p.446)。  WHOやUSPSTFが多様な分娩体位を勧めているに も関らず,本邦での産婦人科医を対象とした調査で は,「分娩第2期に産婦を仰臥位にする」の実施割合は 51.9%,「産婦の希望による体位決定」は10%であっ た(柴田・尾島・中村,2006, p.12)。更に,助産師を 対象とした調査では,多様な分娩体位の助産ケアを 実践している者は12.5%であった(柴田・尾島・阿相 他,2005, p.11)。勤務助産師のキャリアアップについ て,最も研修希望が多かった項目は「フリースタイル 分娩」であった(古川・中野・岡山他,2010, p.11)。こ れらの結果より,多様な分娩体位の実践を普及・推進 させることが求められており,助産師自身も必要な技 術であると認識しているが,実践は少ないことが問題 となっている。  以上から,本研究の目的は,多様な分娩体位の実践 を推進するために,助産師を対象に多様な分娩体位の 実践の促進あるいは阻害する影響要因を探求し分析す ることである。

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この要因の探索は,産婦のニーズにそったケアを推進 することに貢献できる。 〈用語の操作的定義〉 ・多様な分娩体位の実践:助産師が産婦の主体性を尊 重し,多様な分娩体位の特徴を活かして行う助産ケ アをいう。①3種類以上の体位での分娩介助の実践, ②妊産婦への多様な分娩体位の情報提供,③バース プランの活用,という3つの条件全てを満たすとし た。「フリースタイル分娩」は学術用語ではないため, 本研究では「多様な分娩体位」を用いた。 ・膝手位:四つん這いの体勢を表す。尾島(1988, p.375)の分類に従った。 ・腹臥水平位:背部を上にして,うつ伏せにした水平 位をいう。本研究では,膝手位,膝胸位を含む。 ・多様な分娩体位の知識:最もエビデンスレベルが高 いと言われSRや専門書に於いて,多様な分娩体位 を行うことによって起こる現象を,体位別に比較し て有意差が示されている現象あるいは効果が証明さ れている現象を知識として示した。 ・多様な分娩体位の認識:エビデンスで証明されてい ないが,助産師の経験知で多様な分娩体位をケアす ることで起こる現象を認識とした。

Ⅱ.研 究 方 法

1.概念枠組み(図1)  多様な分娩体位の実践は,従来の仰臥位(砕石位含 む)分娩からの変革を伴うと考えLewin(1951)の変革 理論,Rogers(2003)の普及理論,Moor(1999)の普及 理論に基づくChasm理論,分娩第2期の分娩体位が会 陰裂傷・会陰切開に及ぼす影響に関する文献レビュー (篠 ・堀内,2011),多様な分娩体位を実践する助産 師の経験知(篠 ,投稿中)を基に,概念枠組みを構 成した。これらの中から,多様な分娩体位を実践する 助産師の要因を取り上げ,先行要因と影響要因とした。 各要因は,内的要因と外的要因で構成される。内的要 因は助産師自身の要因,外的要因は助産師以外の要因 とした。先行要因に影響要因が関わり多様な分娩体位 が実践されるか否かが決定する。多様な分娩体位の実 践は,助産ケアの核となるものであり,助産師の職務 満足に繋がるものとした。 2.研究デザイン  横断的記述的デザイン 3.対象 1 ) 対象者  過去1年間,分娩直接介助を実践している助産師。 2 ) データ収集施設  Web上に公開されている全国の診療所,病院で,多 様な分娩体位の実践の有無で施設を分け,両群が同数 になるように全国の施設責任者に依頼した。 4.データ収集方法  施設長宛に往復葉書で依頼し,返信葉書にて承諾の 有無と対象助産師の人数を確認した。依頼書・質問紙 ・返信用封筒を一部として封筒に入れ,対象者の人数 分を協力施設に送付し,施設長から対象者へ配布して 頂いた。質問紙を送付した日から2週間を目安に,郵 送法にて質問紙の回収を行った。 5.データ収集期間  2012年5月∼9月。 6.測定用具

1 ) Alternative Labor Position尺 度(以 下ALP尺 度 と 略す)  この尺度は,助産師の多様な分娩体位の実践の要因 を測定する尺度として,研究者が開発した。下位概 念として,知識,認識,技術,個人要因(内的要因), 組織要因(外的要因)の5つに分類される。概念枠組み と尺度の関係を図2に示した。質問紙の内容妥当性及 び表面妥当性について,母性看護学・助産学の修士 以上の者及び多様な分娩体位の実践を3年以上実践し ている者の計10名に依頼し回答を得た。回答後,指 摘事項を検討し,過去1年間分娩介助を行った助産師 117名を対象にプレテストを実施した。IT相関,天井 ・床効果などを検討した後,因子分析を行った。共通 先行要因 多様な分娩体位の実践 影響要因 内的 要因 外的要因 内的 要因 外的要因 職務満足感 概念 下位概念 図1 本研究の概念枠組み

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性の高い項目や因子付加量の低い項目を削除し項目の 精選を行った。その結果,ALP̶知識尺度10項目,認 識尺度21項目,技術尺度7項目,個人要因尺度11項目, 組織要因尺度10項目とした。各得点は,多様な分娩 体位の実践に肯定的なほど高得点となる。  ALP̶知識尺度及びALP̶認識尺度の結果は,表2 に示す。ALP̶技術尺度の探索的因子分析の結果,「多 様な分娩体位の技術に対する戸惑い」「多様な分娩体 位の分娩介助技術」の2つの因子を抽出できた(表3)。 2 ) 職務満足感に関するHuman Resource Management

(HRM)チェックリスト  HRMチェックリストは,1999年に日本労働研究機 構が雇用管理諸施策を改善するために開発されてもの である。従業員用,経営者用,人事担当用の3種類に 分類されるが,本研究では従業員用の「ワークシチュ エーション;職務」を用いた。これは,さらに「達成」 「成長」「自律性」「参画」「意義」の下位概念に分れ,20 項目5件法で構成される。得点が高いほど職務に肯定 的と判断される。この尺度は,1,290名の雇用労働者 を対象に調査が実施され,因子分析により因子妥当性 が担保されている。さらに,項目̶尺度間相関は全て の項目で.35以上,α係数は,.80∼.86で信頼性も確保 されていた(日本労働研究機構,2003, p.28)。 3 ) デモグラフィックス  先行要因の内的要因の項目は,産科経験年数,年 齢,学歴,所属施設,分娩介助例数,職位及び普及理 論に基づく革新性の7項目とした。革新性の項目とし て,新しいアイデアを採用する速さの度合いや革新性 を5つの区分に分け,最も革新性の強い順に,イノベー ター(新しいアイデアを最も早く習得),アーリー・ アダプター(初期採用者),アーリー・マジョリティ (初期多数派),レイト・マジョリティ(後期多数派), ラ ガ ー ド(因 習 派 )と し て い る(Rogers, 2003/2007, p.230)。普及理論では,これを「採用者カテゴリー」と 呼ぶが,本研究では「革新性」とする。本研究の質問 紙項目は,イノベーターを「1990年代にフリースタイ ル分娩が紙面上に掲載されてすぐに,自ら積極的にフ リースタイル分娩に関する知識を身に着け,現在は後 輩に指導している」,アーリー・アダプター(初期採 用者)を「フリースタイル分娩の学習を積極的に行い, 実践も行っている」,アーリー・マジョリティを「フ リースタイル分娩の利点・欠点を知り,自分の所属施 設で実践して問題ないかを見極めないと,フリースタ イル分娩は実施しない」,レイト・マジョリティを「フ リースタイル分娩に興味がない。出産施設の大部分が 実践するようになれば,学習を始める」,ラガードを 「上司から強制されるまで,フリースタイル分娩は実 施しない」とした。最も革新性が高いイノベーターを 5点,最も低いラガードを1点とし,得点が高いほど 革新性が高く,低いほど保守的であることを示す。  先行要因の外的要因の項目は,施設,病棟(産科単 科あるいは混合病棟),妊産婦の特徴の3項目とした。  多様な分娩体位の実践の項目は,分娩体位の種類 の数,妊産婦への多様な分娩体位の情報提供の有無, 先行要因 影響要因 多様な 分娩体位の実践 内的要因 外的要因 内的 要因 外的要因 職務 満足感 ALP 知識 尺度 ALP 認識 尺度 ALP 技術 尺度 デモグラ フィックス フィックスデモグラ 個人要ALP 因尺度 ALP 組織要 因尺度 HRM チェック リスト 3項目 概念 尺度 7項目 10項目 2件法 21項目4件法 7項目4件法 10項目5件法 11項目5件法 4項目2件法 20項目5件法 図2 本研究の概念枠組みと尺度との関係

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バースプラン活用の有無の3項目とした。 7.データの分析方法  各変数の記述統計及びクロス集計を行い,平均値, 標準偏差などを求め,データの要約を行った。職務満 足感を表すHRMチェックリストでは,実践助産師と 未実践助産師の平均点の比較をt検定で行った。更に, 各因子が多様な分娩体位を実践する助産ケアの実践に, どのように影響し関連しているかを検証するため共分 散構造分析を行い,モデルを作成し,モデルの適合度 を検証した。  データの分析は,統計学パッケージSPSS Statistics Ver.19.0 及びAmos.19を使用した。 8.倫理的配慮  対象者へは,本研究の目的,協力への自由意思の尊 重,個人情報の保護,個人が特定しない処理,データ の処理方法等について文書で事前に説明し,研究協力 の同意は,質問紙の返送をもって了承を得たものとし た。本研究は,大学の研究倫理審査委員会及び該当施 設の倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号 12-019)。

Ⅲ.結   果

1.対象 1 ) 対象者(表1)  対象者580名に質問紙を配布し,415名(71.6%)から 回答を得られた。このうち,有効回答が得られた387 名(93.3%)を分析対象とした。有効回答は,無回答数 が7項目以下である質問紙とした。 2 ) 施設  全国42施設に依頼した結果,北海道4施設,北陸2 施設,関東15施設,甲信地方2施設,近畿6施設,中 国四国3施設,九州5施設,合計37施設から承諾が得 られ,対象施設とした。 表1 対象者の背景(先行要因) N=387 変数 カテゴリー n (%) 先 行 要 因 内 的 要 因 経験年数 範囲 1∼35年無回答 最頻値 3年 385 2 (99.5)(0.5) (13.4) 年齢 20∼24歳 25∼29歳 30∼34歳 35∼39歳 40∼44歳 45∼49歳 50歳以上 22 134 107 45 38 18 23 (5.7) (34.6) (27.6) (11.6) (9.8) (4.7) (5.9) 学歴 専門学校卒 短期大学卒 4年制大学卒以上 無回答 197 66 123 1 (50.9) (17.1) (31.8) (0.3) 職位 師長 副師長 臨床指導者 スタッフ助産師 4 21 63 299 (1.0) (5.4) (16.3) (77.3) 総分娩件数 50例未満 50∼99例 100例以上 無回答 33 86 267 1 (8.5) (22.2) (69.0) (0.3) 外 的 要 因 施設 診療所病院 35235 (91.0)(9.0) 病棟の形態 産科単科他科混合 無回答 235 151 1 (60.7) (39.0) (0.3) 施設の妊産婦の特徴 ほぼ正常に経過する妊産婦 ハイリスク妊産婦<ローリスク妊産婦 ハイリスク妊産婦 ローリスク妊産婦 ハイリスク妊産婦>ローリスク妊産婦 無回答 54 167 79 84 3 (14.0) (43.2) (20.4) (21.7) (0.8)

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2.先行要因 1 ) 外的要因  勤務する施設については,病院が352名(91.0%)を 占め,診療所は35名(9%)であった。病棟の形態は, 全体で産科のみの単科が235名(60.7%)で他科混合よ り多かった。施設の妊産婦の特徴として,ほぼ正常か らローリスクの妊産婦のケアを行っている助産師が 221名(57.2%)であった。 2 ) 内的要因   年 齢 区 分 は,25∼29歳 が 最 も 多 く 全 体 の134名 (34.6%)で,34歳までが263名(68.0%)を占めていた。 経験年数の最頻値は,3年(13.4%)であった。学歴は, 専門学校卒が197名(50.9%)を占め,次いで4年制大 学卒以上が123名(31.8%)であった。職位は,299名 (77.3%)がスタッフ助産師で,師長は4名(1.0%)であ った。総分娩例数は,100例以上の分娩例数を経験し ている助産師は267名(69.0%)を占め,十分な分娩介 助の経験があることが確認された。  普及理論に基づく革新性は,5つの区分が正規性を 示した(図3)。イノベーター38名(10.0%),アーリー ・アダプター143名(37.5%),アーリー・マジョリテ ィ167名(43.8%),レイト・マジョリティ25名(6.6%), ラガード8名(2.1%)であった。このうち,イノベーター とアーリー・アダプターを革新派(181名,47.5%), アーリー・マジョリティ,レイト・マジョリティ,ラ ガードを保守派(200名,52.5%)とし,其々の特徴を 分析した。先行要因の内的要因では,経験年数が革新 派9.9年(SD7.3),保守派8.0年(SD6.9)で有意に革新 派が長かった(t値=2.666, df=385, p=.008)。外的要 因である施設,病棟,妊産婦の特徴の3項目をロジス 表2 概念・下位概念と信頼性係数 N=387 概念 下位概念 尺度 抽出された因子 α 先行要因 内的要因 知識 ALP̶知識 .635 認識 ALP̶認識 .615 技術 ALP̶技術 多様な分娩体位の技術に対する戸惑い多様な分娩体位の分娩介助技術 .894 .620 影響要因 外的要因 組織要因 ALP̶組織要因 変革を好まない考え方 .864 参加型意思決定 .742 圧力のある上下関係 .672 内的要因 個人要因 ALP̶個人要因 助産師の調整力 .840 多様な分娩体位に対する肯定感 .606 分娩介助に対する自信 .766 多様な分娩 体位の実践 職務満足感 HRMチェックリスト 達成 .844 成長 .857 自立性 .820 参画 .813 意義 .848 表3 ALP尺—技術尺度 因子分析結果(最尤法—プロマックス回転) N=387 項     目 ▼反転項目 第Ⅰ因子因子負荷量第Ⅱ因子 第Ⅰ因子〈多様な分娩体位の技術に対する戸惑い〉 2▼側臥位で分娩介助を行う場合、児頭回旋や娩出する方向に戸惑いがある .959 ­.029 3▼側臥位で分娩介助を行う場合は、利き手の使い方で戸惑いがある .851 ­.026 1▼四つん這いで分娩介助を行う場合、児頭回旋や娩出する方向に戸惑いがある .772 .001 第Ⅱ因子〈多様な体位の分娩介助技術〉 5 座位で児を娩出する時には、産婦の前方に娩出させる .053 .786 6 スクワット(蹲踞位)で児を娩出する際には、できるだけゆっくり娩出させる .030 .755 4 座位、立位などの分娩介助で、会陰が見えない場合は、手の感覚で児頭と会陰の状態を判断する ­.105 .410 7 四つん這いの分娩介助では、児娩出後は膝位になってもらう ­.064 .324 回転後の負荷量平方和 2.261 1.465 第Ⅰ因子 1.000 ­.024 第Ⅱ因子 1.000

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ティック回帰分析した結果,革新派は,妊産婦の特徴 が,ほぼ正常からローリスク妊産婦がハイリスク妊産 婦より有意に多く,産科単科の病棟が混合病棟より 有意に多いという結果であった(モデルχ2検定p<.01, 判別的中率60.7%)。さらに,分娩に関する4項目(分 娩例数,分娩体位の種類数,多様な分娩体位の妊産婦 への情報提供,バースプランの活用)をロジスティッ ク回帰分析した結果,革新派は分娩体位の種類の数と 多様な分娩体位の妊産婦への情報提供が有意に多かっ た(モデルχ2検定p<.00,判別的中率84.0%)。 3.影響要因 1 ) 内的要因  80%以上の者が「当てはまる」「どちらかというと当 てはまる」と回答した項目は「仰臥位分娩よりフリー スタイル分娩のほうが生理的にも産婦にとっても利点 が多い」325名(84.0%),「フリースタイル分娩の学習 は興味深い」314名(81.1%)であった。80%を超える助 産師が,多様な分娩体位の利点や興味深さに対して肯 定的な考えであった。  更に,探索的因子分析した結果,「助産師の調整力」 「多様な分娩体位に対する肯定感」「分娩介助に対する 自信」の因子が抽出され,下位概念とした(表4)。 2 ) 外的要因  「当てはまる」「どちらかというと当てはまる」と回 答した項目は「分娩は分娩台で行う」297名(76.7%), 「慣例的に,産婦は仰臥位または砕石位で分娩を行 う」233名(60.2%)であった。60%以上の施設において, 分娩台で慣例的に仰臥位または砕石位の分娩が実施さ れていた。また,「病棟師長は,フリースタイル分娩 の実践に反対である」18名(4.7%),「産科医は,フリー スタイル分娩の実践に反対である」114名(29.5%)で あった。  更に,探索的因子分析した結果,「変革を好まない 考え方」「参加型意思決定」「圧力のある上下関係」の下 位概念が抽出された(表4)。 4.多様な分娩体位の実践 1 ) 多様な分娩体位の実践助産師と未実践助産師  ①3種類以上の体位での分娩介助の実践,②妊婦へ の多様な分娩体位の情報提供,③バースプランの活用, という3項目の条件全て満たした助産師(実践助産師) 180 160 140 120 100 80 60 40 20 0 度数 革新性の分類 質問項目 イノベータ アーリー・ アダプタ マジョリティアーリー・ マジョリティレイト・ ラガード 38 10.0% 143 37.5% 167 43.8% 25 6.6% 8 2.1% ■ 革新派  ■ 保守派 1990 年代にフリースタ イル分娩が紙面上に掲載 されてすぐに,自ら積極 的にフリースタイル分娩 に関する知識・技術を身 につけ,現在は後輩に指 導している フリースタイル分娩の学 習を積極的に行い,実践 も行っている フリースタイル分娩の利 点・欠点を知り,自分の 所属施設で実践して問題 がないを見極めないと, フリースタイル分娩は実 施しない フリースタイル分娩に興 味がない。出産施設の大 部分が実践するようにな れば,学習を始める。 上司から強制されるまで, フリースタイル分娩は実 施しない n=381 図3 普及理論に基づく助産師の革新性

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は,124名(32.0%)であった。それ以外の助産師(未実 践助産師)は,263名(68.0%)であった。 2 ) 職務満足感(HRMチェックリスト)  HRMチ ェ ッ ク リ ス ト 全 項 目 の 平 均 点 は,74.8 (SD11.9)であった。下位概念の平均値で,最も高か ったのは意義15.3点(SD3.0),最も低かったのは参画 14.3点(SD3.0)であった。実践助産師の全項目平均 値は76.7点(SD10.9),未実践助産師の平均点74.0点 (SD12.3)で,有意に実践助産師の平均点が高かった(t 値=­2.121,df=385,p=.035)。 5.多様な分娩体位を実践する助産ケアに影響する要 因(図4)  下位概念の項目を全て投入し,共分散構造分析を行 った。多様な分娩体位の実践に向かうパス係数が有意 なものを確認した。 1 ) 先行要因  「革新性」から「多様な分娩体位の実践」への標準 化されたパス係数は.14(p=.013)で,有意であった。 従って,「革新性」のある人ほど「多様な分娩体位の実 践」を行っていると説明できる。「革新性」は多くの概 念と関連があり,その概念とパス係数は,影響の大き い順から「変革を好まない考え方」­.67,「多様な分娩 体位の肯定感」.42,「分娩介助に対する自信」.42,「多 様な分娩体位に関する知識」.33,「病棟」­.15(産科単 科を1,混合病棟を2としたため,­は産科単科が有意 であることを示す),「多様な分娩体位の技術に対する 戸惑い」­.14,「参加型意思決定」.11であった。これは, 表4 ALP—組織・個人要因尺度 因子分析結果(最尤法—プロマックス回転) N=387 項   目 ▼:反転項目 因子負荷量 第Ⅰ 因子 第Ⅱ因子 第Ⅲ因子 第Ⅳ因子 第Ⅴ因子 第Ⅵ因子 g7 g9 g6 g10 n12 g8 第Ⅰ因子〈変革を好まない考え方〉 ▼慣例的に、産婦は仰臥位または砕石位で分娩を行う ▼産科医は、フリースタイル分娩の実践に対して反対である ▼分娩は分娩台で行う ▼病棟師長は、フリースタイル分娩の実践に対して反対である ▼フリースタイル分娩介助に際しては、うまくできるかどうか不安である ▼初産婦には、慣例的に会陰切開が行われている .934 .844 .729 .671 .613 .575 ­.063 .162 ­.021 .059 ­.207 .007 ­.025 .182 ­.046 ­.093 .033 ­.041 .091 ­.104 .087 ­.002 ­.004 ­.039 ­.027 ­.133 .150 ­.100 .147 .024 ­.113 ­.064 .109 .041 .067 .057 n7 n6 n8 第Ⅱ因子〈助産師の調整力〉 上司や医者とスタッフ間でトラブルがあった場合、両者を調整できる 病棟内で仕事上での決定を行う時、私の言動は影響力がある 所属する施設で、ケア内容を変更したい時、どのように働きかけていいのか知っている .028 .034 ­.087 .889 .754 .656 .019 ­.015 ­.016 ­.005 .144 .002 ­.051 .034 .091 .058 ­.023 .010 n11 n10 n9 第Ⅲ因子〈多様な分娩体位に対する肯定感〉 フリースタイル分娩の実施は必要である 仰臥位分娩よりフリースタイル分娩の方が生理的にも産婦にとっても利点が多い フリースタイル分娩の学習は興味深い ­.079 .064 .013 ­.088 .003 .068 .843 .762 .712 .086 ­.016 ­.052 ­.013 .016 .045 .011 .013 ­.002 n2 n3 n1 n4 第Ⅳ因子〈分娩介助に対する自信〉 産婦の分娩が正常から異常に移行した時、適切に対応することができる 私は、医療スタッフからの信頼を得ている 正常分娩の場合、私は、産科医がいなくても分娩終了まで助産ケアができる 分娩第2期の初期、産婦がどのような体位で分娩したらいいのか判断できる .068 ­.032 ­.043 .865 .002 ­.007 .093 .151 ­.031 .726 .024 ­.023 ­.119 .060 .076 .538 ­.117 ­.024 ­.143 .079 .094 .413 .072 .015 g5 g4 g1 第Ⅴ因子〈参加型意思決定〉 上司は、学習意欲が高く、ケアの実践に取り入れる 上司は、スタッフの考えや意見をよく取り入れる 妊産婦のニーズと施設の制約で問題が起きた場合、スタッフ間で協議して問題解決ができる .001 ­.059 .039 .011 .884 .067 .092 .099 .016 ­.118 .779 ­.155 ­.094 .056 ­.020 .197 .422 .041 g2 g3 第Ⅵ因子〈圧力のある上下関係〉 ▼スタッフの上下関係には厳しい雰囲気がある ▼病棟や施設内で何かを決める時、上司や勢力の強い人の意見が優先される .009.083 ­.034.070 ­.002.033 ­.055.034 ­.176.060 .854.550 回転後の負荷量平方和 4.155 3.421 2.675 3.916 2.351 1.596 因子相関   第Ⅰ因子 第Ⅱ因子 第Ⅲ因子 第Ⅳ因子 第Ⅴ因子 第Ⅵ因子 1.000 ­.199 ­.389 ­.387 ­.212 .137 1.000 .083 .668 .258 ­.277 1.000 .363 .091 .044 1.000 .261 ­.105 1.000 ­.340 1.000

(9)

「革新性」が高い助産師は,専門性が発揮できる産科 単科の「病棟」で勤務し,「分娩介助に対する自信」「多 様な分娩体位の肯定感」「多様な分娩体位に関する知 識」があり「参加型意思決定」に関与しており,「変革 を好まない考え方」や「多様な分娩体位の技術に対す る戸惑い」が少ないと説明できる。  「病棟」から「多様な分娩体位の実践」のパス係数は ­.08(p=.042)で,有意であった。これは,助産師の 勤務する病棟が,混合病棟よりも産科単科病棟である 方が「多様な分娩体位の実践」を行っていることを示す。  「多様な分娩体位の技術に対する戸惑い」から「多 様な分娩体位の実践」へのパス係数は­.12(p=.045) で,有意であった。これは「多様な分娩体位の技術に 対する戸惑い」があるほど「多様な分娩体位の実践」は 起こらないと説明できる。「多様な分娩体位の技術に 対する戸惑い」に影響を受けた概念・観測変数は,強 い順に「分娩介助に対する自信」­.52,「変革を好まな い考え方」.43,「経験年数」­.41,「年齢区分」.32,「医 療スタッフから信頼を得ている(N3)」.30,「革新性」 ­.14であった。これは,経験年数が少なく,年齢が 高く,「革新性」が低い助産師ほど「多様な分娩体位の 技術に対する戸惑い」は大きく,「分娩介助に対する自 信」がなく,「変革を好まない考え方」で,「医療スタッ フから信頼を得ている(N3)」ほど「多様な分娩体位の 技術に対する戸惑い」が大きいことが示唆された。ま た,「N12;フリースタイル分娩介助に際しては,うま くできるかどうか不安である」へのパス係数は.54で 強い影響を与えていた。これは,「多様な分娩体位の 技術に対する戸惑い」があるほど,多様な分娩体位の 実施の不安も強いことが示された。 2 ) 影響要因  「変革を好まない考え方」から「多様な分娩体位の 実践」への標準化されたパス係数は,­.48(p=.01) で,強い影響を与えていた。「変革を好まない考え方」 であるほど「多様な分娩体位の実践」は起こらないこ とが示された。「変革を好まない考え方」には,6つの 観測変数があり,高いパス係数を示した順に「G7;慣 例的に,産婦は仰臥位または砕石位で分娩を行う」.93, 「G9;産科医は,フリースタイル分娩の実践に対して 反対である」.79,「G10;病棟師長は,フリースタイ 変革を 好まない 考え方 参加型 意思決定 圧力のある 上下関係 多様な体位の 分娩介助技術 S6 S4 G2 G3 S2 S1 年齢区分 経験年数 革新性 知識得点 助産師の 調整力 N12 G9 G10 G6 G8 G7 認識得点 G4 G5 G1 N10 N9 N11 N1 N2 N4 N3 N7 N6 N8 多様な分娩体位 に関する知識 -.08 .14 -.12 -.48 -.11 .07 -.14 .12 .43 -.43 .85 .85 .60 .47 .17 .26 .32 -.41 .27 .50 .70 .68 .92 .54 .29 .76 .63 .77 .60 .80 .83 .88 .69 .30 -.41 -.52 -.14 .33 -.67 .11 -.15 .42 .10 .55 .93 .82 .82 .48 .18 -.06 .26 .79 .72 .72 .60 .93 .42 .79 多様な分娩 体位の技術に 対する戸惑い 促進要因 多様な分娩体位 の実践 多様な分娩 体位の肯定感 分娩介助に 対する自信 専門性が 発揮できる 産科単科病棟 X2=1020.853 GIF=.860 AGIF=.831 CFI=.897 RMSEA=.059 AIC=1200.853 N=387

阻害要因

(10)

ル分娩の実践に対して反対である」.72,「G6;分娩は 分娩台で行う」.72,「G8;初産婦には,慣例的に会陰 切開が行われている」.60,「N12;フリースタイル分 娩介助に際しては,うまくできるかどうか不安であ る」.26であった。「G7;慣例的に,産婦は仰臥位また は砕石位で分娩を行う」「G9;産科医は,フリースタ イル分娩の実践に対して反対である」「G10;病棟師長 は,フリースタイル分娩の実践に対して反対である」 が「変革を好まない考え方」に強く影響していたこと が示唆された。また,「変革を好まない考え方」に影響 を受けた概念は,強く受けた順に「革新性」­.67,「参 加型意思決定」­.11,「圧力のある上下関係」.10であっ た。これは,保守性が強く,「参加型意思決定」が弱く, 「圧力のある上下関係」の環境下であるほど「変革を 好まない考え方」になりやすいと説明できる。さらに, 「G4:上司は,スタッフの考えや意見をよく取り入れ る」から「G7;慣例的に,産婦は仰臥位または砕石位 で分娩を行う」へのパス係数は.07で正のパスである。 これは「上司は,スタッフの考えや意見をよく取り入 れる」と感じている助産師ほど「慣例的に産婦は仰臥 位または砕石位で分娩を行う」助産師であると説明で きる。  これらの結果をまとめると,「革新性」の高い助産師 は,「多様な分娩体位に関する知識」が高く,「分娩介 助に対する自信」があり「変革を好まない考え方」をし ない助産師であった。産科単科の「病棟」に勤務して いる「革新性」の高い助産師は「多様な分娩体位の実践」 を促進していた。  一方,「多様な分娩体位の技術に対する戸惑い」と 「変革を好まない考え方」は「多様な分娩体位の実践」 の阻害要因であった。その中でも「変革を好まない考 え方」は,最も強い阻害要因であった。   こ の モ デ ル の 適 合 度 は,χ2値 =1020.853,GFI

= .860,AGFI = .831,CFI = .897,RMSEA = .059, AIC=1200.853であった。

Ⅳ.考   察

1.多様な分娩体位に影響する要因の検討  81%の助産師が,多様な分娩体位の実践に対して 肯定的な考えを持っているにも拘らず,60%が慣例的 に産婦を仰臥位で分娩している要因は何であろうか。  共分散構造分析の結果から得た阻害要因と促進要因 について考察する。 1 ) 阻害要因  (1)「変革を好まない考え方」  共分散構造分析の結果から「変革を好まない考え方」 をしているのは,管理者である可能性が高いことが示 唆された。本研究結果では,病棟師長が多様な分娩体 位に反対していたのは4.7%,産科医が反対していた のは29.5%であり,医師の反対が多いことが考えられ る。  また,助産師の年齢区分を見ると,本研究結果では 25∼29歳が34.6%を占め,全国(日本看護協会,2012, p.16)の16.8%と比較すると,より若い集団であるこ とが確認された。更に,職務満足感を表すHRMチェ ックリストの下位概念の中では,参画の得点が最も低 得点であった。これは,本研究の対象助産師の年齢が 若く,病棟の意思決定に参加できていない可能性が高 いと考えられる。従って,管理者の考え方が多様な分 娩体位の採用決定を左右するとスタッフ助産師は考え ていることが示唆された。  Rogers(2003, p396)は,「権力が組織のなかで集中 していればいるほど,組織の革新性は低くなる」とい う。少数であっても,組織内の権力が集中していれば, イノベーションは採用されない可能性が高い。組織変 革研究プロジェクト(2005, p.120)は,「変革に対して 強い抵抗を示すメンバーの態度を変えるためには,彼 らが持つ『抵抗する理由』,つまり『抵抗ニーズ』を明 らかにしたうえでその解消を図らなければならない」 という。本研究結果で,師長の職位を持った助産師は, わずか1%であった。今後は,産科医や病棟師長の多 様な分娩体位に対する意向を調査する必要があると考 える。  (2)「多様な分娩体位の技術に対する戸惑い」  本研究結果より,多様な分娩体位の分娩介助の不安 の原因は「多様な分娩体位の技術に対する戸惑い」で あることが示唆された。Kotter(2010, p.107)は,「変革 の影響を受けるすべての人は,何らかの感情的動揺を 経験する。たとえその変化が「前向き」とか「合理的」 と思えたとしても,人は何かを失うし,不安を感じる からである。  さらに,「自分に求められる新しいスキルや行動を 身につけられないかもしれないという恐れから,変革 に抵抗する人もいる」という(Kotter, 2010, p.114)。「多 様な分娩体位の技術に対する戸惑い」を持っている助 産師は,年齢が高く,医療スタッフから信頼を得てい る助産師であった。助産学の教科書に多様な分娩体

(11)

位についての掲載がされたのは1990年代後半であり, その頃助産学生であった者は,現在35歳以降の助産 師である。また,「多様な分娩体位の技術に対する戸 惑い」は「革新性」と「分娩介助に対する自信」に負の 影響を強く受けていた。つまり,多様な分娩体位の教 育を受けていない30代後半以上の年齢で,保守的な スタッフからの信頼を得ている年代の助産師は,「分 娩介助に対する自信」がなく「多様な分娩体位の技術 に対する戸惑い」が強いことが考えられる。  古川・中野・岡山他(2010, p.11)は,勤務助産師の キャリアニーズとして最も研修希望が多かった項目は 「フリースタイル分娩」と報告している。これらの結 果より,35歳以降の保守性が強い助産師に,多様な分 娩体位に対する教育プログラムが必要であると考えら れる。 2 ) 促進要因  (1)「革新性」  本研究結果から,革新派の助産師の特徴は,ほぼ正 常な妊産婦をケアしている産科単科の病棟で勤務し, 経験年数が9.9年と比較的長かった。助産学の教科書 に多様な分娩体位についての掲載がされたのは1990 年代後半であり,その頃助産学生であった者の経験年 数は,17年前後の助産師ということになる。  普及理論に基づく「革新性」は,新しいアイデアを 採用する度合のことをいう。この中でイノベーターは 冒険的,アーリー・アダプターはリーダーシップを有 していると言われ(Moor, 1999, p.45,51; Rogers, 2003, p.232-233),双方共に革新性が高いカテゴリーである。 つまり,経験年数が長く年齢が30代以降の助産師で あっても「革新性」が高ければ多様な分娩体位の実践 を行っていることが推測される。基礎教育で多様な分 娩体位について学習をしていなくても,自ら多様な分 娩体位の学習を習得していく助産師であったと考えら れ,35歳以降の助産師ほど多様な分娩体位の「革新性」 の差が多様な分娩体位の実践に影響を及ぼしていると 考えられる。  (2)産科単科の「病棟」  昨今の少子化の影響で,出産に関わる病院は,入院 の集約化や産科病棟の減少がみられている。これによ り,病院での産科病棟の混合化が進み,助産師の専門 性を発揮できない環境になっていることが問題になっ ている。  北島(2008, p.129)の全国調査では「産科」だけの病 棟が8.6%であったのに対し,本研究では,60.7%で産 科単科の占める割合が多かった。産科の混合病棟は, 産科単科の病棟と比較して助産師の占める割合が少な く,助産師としての専門性を深めようとしても,その 機会を得ることが難しく職業的な満足を得ることも できない現状がある(福井,2012,p.646;堀内,2004, p.699)。翻って,産科単科の病棟は,助産師の占める 割合が多く助産師の専門性が高められ「多様な分娩体 位の実践」の促進要因になり得ると考えられる。 2.本研究の限界と今後の課題  本研究は便宜的標本抽出であり,全国平均と比較す ると診療所の数が少なく,関東地方の施設が多かった。 助産師の年齢は,全国平均より34歳以下が多い集団 で,多様な分娩体位に関する基礎教育を受けていな い35歳以降の助産師が少なく,病棟師長は全体の1% で,助産師の年代および職位に偏りがあった。今後は, 病棟師長や産科医を対象にした調査を行い,「変革を 好まない考え方」の内容を明確にしていく必要がある。 さらに,35歳以降の助産師に対して,さらに調査を重 ねた上で教育プログラムの開発が必要であり,今後の 課題としたい。  また,多様な分娩体位の実践の評価として,医療者 側の意見だけでなく,産婦側の意見も聞いていく必要 があると考える。  本研究の為に,研究者が作成したALP̶知識尺度と ALP̶認識尺度は,α係数が低かった。これは,分娩 進行状態や産婦の状態により,多様な分娩体位の助産 ケアは個人差が大きいことが考えられ,これが質問紙 作成の困難さに繋がった。今後は,更に質問紙の検討 を行い,推敲を重ねる必要があると考える。

Ⅴ.結   論

1 . 全体の81%の助産師が多様な分娩体位の利点と 興味深さについて肯定的な回答をしていたが,60%が 慣例的に産婦を仰臥位または砕石位で分娩を行うと回 答しており,多様な分娩体位に対する助産師の意識と 実態の乖離が示された。 2 . 普及理論に基づいて革新派と保守派に分けて分析 した結果,革新派は,経験年数が長く,産科単科病棟 に属し,ほぼ正常な妊産婦を対象にしている助産師が 有意に多かった。また,分娩体位の種類数が有意に多 く,妊婦へ多様な分娩体位の情報提供を行っている者 が有意に多かった。

(12)

3 . 「多様な分娩体位の実践」の阻害要因は,「変革を 好まない考え方」「多様な分娩体位の技術に対する戸 惑い」で,促進要因は,産科単科の「病棟」で勤務する 環境と助産師の「革新性」の高さであった。

 本モデルの適合度は,χ2=1020.853,GFI=.860,

AGFI= .831,CFI = .897,RMSEA = .059,AIC = 1200.853であった。 謝 辞  お忙しい中,本研究にご協力頂きました助産師の皆 様に心より感謝申し上げます。また,研究を進めるに 当たり,ご指導頂きました聖路加看護大学母性・助産 学教授の堀内成子先生,学長の井部俊子先生,教授の 柳井晴夫先生,産婦人科医の進純郎先生に心より感謝 致します。  本研究は,2012年度聖路加看護大学大学院博士論文 の一部であり,平成24年度公益財団法人聖ルカ・ラ イフサイエンス研究所臨床疫学研究などに関する研究 助成を受けて実施した研究の一部です。 引用文献

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