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卒業論文

「ファミリー企業のあり方」

4 年 4 組 30 番

学籍番号

1720091168

前田隆之介

提出日

1 月 30 日

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目次 はじめに 第一章 ファミリー企業の実態 第一節ファミリー企業のプロフィール 第二節 ファミリー企業の特性 第二章 ファミリー企業のメリットとその課題 第一節 ファミリー企業のメリット (1) 長期的な視野での経営 (2)変革を行いやすい (3)後継者育成・サポート体制 第二節 ファミリー企業の課題 (1)家族間での争いがビジネスに悪影響を及ぼす (2)家族による会社の私物化 (3)経営トップの独走 (4)事業継承時に生ずる諸問題 第三章 ファミリー企業の継承と育成 第一節 三つの段階から見る継承 第二節 親子関係と継承のタイミング 第三節 継承の決め手 第四節 後継者の育成 第四章 ファミリー企業経営成功の必要条件 第一節 経営権と所有権の分離 第二節 経営の透明性 第三節 経営者と後継者の関係性 第四節 株式の集中 第五章 ファミリー企業経営の未来のために 第一節 ファミリー企業経営者の心構え 第二節 他者との関係性を重要視する おわりに 引用・参考文献 2

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はじめに このテーマを選択した理由としては二つあります。一つとして自分の家族環境において なじみ深く、また今後の自分の人生に役立つ論文を作成したいと思ったからです。私の家 系は代々硝子業を営んできて、このまま父(現社長)が引退するときには兄か私のどちら かが企業を継ぐこととなります。正確なデータは存在しませんが、「ファミリー企業は3 代でつぶれる。」という意味のことわざが世界各地に存在することからも、家族経営はいつ かは衰退するといった認識があり、またその3 代目に当たるのが私か兄なのです。どんな ことがあっても100 年以上存続してきた一族のこれまでの絶え間ない努力や苦難を無駄に せず、これからも成長し続けていく企業を守り抜かねばならない義務があると自覚してい ます。そのためにもファミリー企業がどのようなものか、どうあるべきかを深く理解して おかねばならないと考えました。 また二つ目の理由としては、「一族経営は所詮2 代目、3 代目で潰れる。」「子供に継がせ る経営者はよくない」など常に周りやメディアに批判を浴びせられ、なんの根拠もないま ま批判している連中に対してどれだけ社会に貢献しているファミリー企業が存在している か、その経営方法のメリットやデメリットなどを客観的な立場から分析し、真にファミリ ー企業の本質を知ってから、批判などをしてもらいたいと考えたからです。 ファミリー企業にとって、自分の子供や孫の代に企業を残していくことは大きな使命で す。家族愛はどんな愛よりも強いのです。それが身内びいきにつながる危険性も多くあり ますが、家族の強い愛が、「子孫にいい企業を残す」ための経営につながっていることも事 実です。 問題意識として、ここ20 年、企業の不祥事が頻発しています。赤福、船場吉兆など、 ファミリー企業の不祥事が、後を絶たないのは事実です。世間は、「だから同族経営はダメ だ」と思いたいし、言いたくなってしまいます。これらは全て特定の一族が経営をしてい る企業の不祥事であり、今まで以上にファミリー企業に対する負のイメージを増長させ、 人々の注目を悪い意味で集めてしまいました。 しかし、冷静に考えてみると、日本でいかにファミリー企業が重要なものかがわかりま す。総務省のデータでは日本という国の中小企業の全企業数に占める割合はなんと99%以 上です。日本の経済を支えているのは中小企業なのです。そしてその中小企業のほとんど がファミリービジネスなのです。冷静に社会での生活を振り返ると多くの魅力的な製品が ファミリー企業から生まれているということも忘れてはいけません。 それらの事実を無視して、一言に「同族企業は駄目だ!」というのには、全く説得力があ りません。 後の章で詳しく解説していきますが、専門経営者企業よりもファミリー企業の企業業績 のほうが優れているという研究結果が出ており、世界的にもこの現象は多くの国で見られ ます。なので、アメリカなどではファミリービジネス研究家や日本のファミリービジネス に着目しているハーバードの名誉教授、主要なビジネススクールではファミリービジネ ス・コースという授業が開講されているほどです。2001 年には、ファミリービジネス分野 で の 国 際 的 な ネ ッ ト ワ ー ク 形 成 を 意 図 し て 、 学 者 を 中 心 に International Family Enterprise Research Academy(IFERA)が設立されています。日本は数多くの優れたオー ナー企業を有するにも関わらず、いずれの組織にも、日本人のメンバーは極めて少ないの

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です。また残念ながらこうした学問領域は、日本にはあまり多く存在しません。こうした ことからも、今後ファミリー企業について何の知識も得ることなく、メディアが報道する がままに一族経営を批判する人間になってほしくないため、少しでもこの論文がファミリ ー企業の正しい姿や知識を知るための一助になれば幸いです。 私が意図するテーマに沿えば、ファミリー企業の中でも中小企業、非上場企業を中心に 見ていきたかったのですが、日本のファミリー企業研究は欧米に比べてなかなか進んでい ないのが現状です。そのため、データや書籍も限られたものしかないために、これから述 べていく内容およびグラフ、表などには広義の意味でのファミリー企業を扱っているもの もあります。 第一章 ファミリー企業の実態 第一節 ファミリー企業のプロフィール ファミリー企業の定義とはなんなのでしょう。それについては、世界的に統一されたも のはありません。非常に曖昧なものなのです。そのこともありファミリービジネスの国際 比較がなかなかできにくい状態となっています。さまざまな学派で定義は異なるのですが、 一般には創業者のファミリーが経営に参画していることと個人株主としての相応の株式数 を有していることが挙げられます。企業規模は関係ありません。したがって世界的大企業 であっても上記の定義を満たせばファミリー企業と言えます。ファミリー企業には①創業 者または一族の誰かが、個人として最大の株主であり(資産管理会社などを介しているケ ースも含む)、経営トップ(会長、社長、副社長など)として経営に参画している。②創業 者または一族の誰かが個人大株主だが、経営トップとしては経営に参画していない。③一 族の誰も個人大株主ではないが、創業者一族の誰かが経営に参画している三種類があるが、 いずれのケースもここではファミリー企業として扱われています。しかし本論文では読者 にファミリー企業についての知識をわかりやすく理解して頂きたいと考えており、ファミ リー企業の定義を明らかにするための論文ではないため、あえて定義については上記で詳 しく説明しましたが、「創業者のファミリーが深く経営に参画している企業」だと考えて頂 ければよいです。また文中の「ファミリー企業」、「同族企業」、「一族経営」などの言葉は 詳しくは定義は異なるのですがほぼ同義語と考えて頂いて差支えありません。またここで は非ファミリー企業のことを専門経営者企業、サラリーマン経営者企業と呼ぶこととしま す。 次にファミリー企業の存在比率を見ていきます。ファミリー企業が日本企業のどれだけ の割合を示しているのかを見ていくと、日本でもファミリービジネスが重要な存在である ことがわかります。身近な中小企業のほとんどはファミリービジネスであるし、上場企業 のなかでも、多くのファミリー企業が存在します。富士総合研究所の調査によれば日本の ファミリー企業は40%を超えています。アメリカでも S&P500 社のファミリー企業比率 は37%、またドイツでは上場企業の 2 社に 1 社が、フランスでは主要企業 1000 社中 60% がファミリー企業であるとされています。日本以外では、創業者の直系家族だけでなく文 字通り同族/親族が経営に関与するケースが多いのも特徴となっています。ラテン系や歌人 企業にもその傾向が強くあります。著名で有名な多国籍企業にもファミリー企業は多いの 5

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です。この図を見てわかるとおり世界的に見てもファミリー企業の割合が非常に高いこと がわかります。 第二節 ファミリー企業の特性 どのような業種に多いのかを見ていきましょう。倉科教授(甲南大学経営学部 教授) の調査では、ファミリー企業と業種との間に深い関係があるようです。図表1でも示して いる通り、一般に提供する商品・サービス・機能の多様性が低く、かつ伝承すべき技術の 革新性が相対的に低いB群の業種ほどファミリー企業の比率が高いのです。1 鉄鋼、陸空運、ガス、電力、銀行、保険をはじめとした歴理の古いインフラ産業は、B 群にあたる産業で本来は財閥や有力経済任によって創設されており、ファミリー企業に属 して当然の産業ですが、途中国営化されたり、膨大な設備投資を要するためファミリーの 資本比率は長年の間に無視できるほど小さくなりました。 A 群に属する自動車、薬品、おもちゃなどの産業は、取扱製品や事業領域が単一で創業 時の製品、事業領域が主体であり、創業のDNA が比較的伝えられやすいこともあり、企 業規模が大きくなってもファミリー企業の占める比率は高くなっています。 世界的に見ても、ファミリー企業の特定の産業に占める比率は、同様の傾向を示してい ます。 図表1ファミリー度と業種の関係 事業構造(商品提供・サービス・機能)の多様性 高い 低い 革 新 性 低い D 群 (非鉄金属) C 群 (化学、精密機械、電機機器) 出所:富士総合研究所 B 群 (旅館、菓子、醸造、小売り、 建設) A 群 (自動車、機械、医療品、玩具、 電子部品) 次に地域的に見てみると、地方に多くみられることが指摘できます。ファミリー企業の 絶対数からいえば東京株式市場に多いですが、比率でみると東京市場でのファミリー企業 は地方市場に比べて圧倒的に少ないのです。東京一部および二部市場の合計での専門経営 者企業の比率は 63%、しかし、ファミリー企業のそれは 37%と低いのです。これに対し 1 倉科敏材編著『ファミリー企業の経営学』東洋経済新報社、2003、26 ページ 6

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地方市場(大阪、京都、札幌、名古屋および福岡)においては、専門経営者企業が34.9%、 ファミリー企業が65.1%とその比率は逆転します。諸外国においてもファミリー企業が地 方に多いという傾向は変わりません。 東京市場においても企業規模の大きい一部市場では専門経営者企業の占める比率は 69%に達しますが、二部市場においては 48%に低下します。日本の株式上場制度では、一 族支配を明確にしている場合二部市場に上場できますが、一部市場では困難だということ が背景にあります。 地方におけるファミリー企業の存在度はとても高く、地方の主要上位企業のほとんどは ファミリー企業というケースも多いです。たとえば静岡県のケースを見てみましょう。ス ズキ自動車、ヤマハ、スルガ銀行、はごろもフーズ、鈴与(非上場)、ポーラ化粧品(非上 場)、河合楽器製作所などその多くはファミリー企業なのです。大昭和製紙もかつては静岡 県を代表する斉藤家のファミリー企業でした。齋藤了英前社長の弟は静岡県知事にもなり 政治的にも大きな影響力を持っていました。また、福岡県では130 年近くファミリー企業 経営を続けている麻生セメントを中核とする麻生グループがあります。麻生家の一族には 自民党の麻生太郎もおり、政治的に強い影響力を有しています。北海道から九州に至るま で大都市圏を除きこのような傾向は強くあります。 とくに京都は、ファミリー企業の優秀な企業の輩出地として非常に名高く、村田製作所、 堀場製作所、ローム、日本電産、オムロン等がその代表例です。これら地方の存在度の高 いファミリー企業はなぜこんなにも影響力のある企業になれたのでしょうか。京都の主要 ファミリー企業が成功した要因としては『組織化学』三六号によればその共通点の概要は 以下にあるといいます。 ①資源の有効活用:一般大企業に比べて知名度が低いため、人材の確保が容易でないため、 評価の徹底と報奨とのリンクがあり、早くから成果主義を導入していた。また資金に関し ては、自己資金で賄う傾向が強く、自己資本比率は際立って高い。さらに財務的危機に直 面した経験もあり、昔から資金の効率的管理には敏感であった。 ②オープンかつグローバルな顧客関係:一社への依存度を必要以上に高めない等独立志向 が強い。そのため顧客の幅は広くかつグローバルに顧客を掴んでいる。世界シェアの過半 を握る企業も数多い。京都の土地柄はどちらかというと閉鎖的であるが、企業に関してみ れば極めてオープンであり、かつグローバルである。 ③特化・差異化:共通して一つの技術に特化して、その中でさらに差異化すべく努力を傾 注する。安易な多角化を良しとしない風土がある。 ④徹底した顧客主義:市場のあらゆる顧客ニーズを満足させるためには、明確なセグメン テーションが必要とされる。そのセグメンテーションに沿って徹底した顧客浸透を果たし ている。 こうした特徴は、京都のメタカルチャーと切っても切れません。大阪本社の企業と異な り、京都本社の企業は各社とも安易に本社を東京に移転しないのはそのためです。 それでは企業の業績はどうでしょうか。企業がその価値を認められる最大のポイントは 収益です。その一番重要なポイントで、ファミリー企業は専門経営者企業よりも優れてい ます。それは世界のいずれの主要な国でも様々な研究成果として明示されています。 日本:2007 年 4 月「日経ベンチャー」誌と甲南大学の倉科教授は、日本のファミリー企 7

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業と非ファミリー企業の業績を比較する独自調査を実施しました。調査では金融機関を除 く東証一部、二部上場企業をファミリー企業と非ファミリー企業に分類し、さらに帝国デ ータバンクの協力をえて、これらの企業の直近5 期分の通年単独決算データをベースにフ ァミリー企業と非ファミリー企業の業績を比較したものです。その結果、諸外国の場合と 同様に日本のファミリー企業の利益率(経常利益率)と資本効率(ROE,ROA)が非ファ ミリー企業よりも高いという結果が出ています。2 詳細は以下の通りです。 売上高経常利益率:図表2 を見てもわかるようにファミリー企業のほうが高かった。中 でも創業者や一族が企業の経営権と所有権を共に持っている企業のほうが利益率は高かっ た。 ROE,ROA:図表 3 が示すように資本効率を示すこれらの指標でもファミリー企業のほ うが高かった。 成長性:直近6 期分のデータを使って、5 期平均の売上高伸長率と利益伸長率を出した が、これについてはファミリー企業のほうが若干低かった。日本のファミリー企業は、成 長よりも存続を重視した結果でもある。 図表2 売上高経常利益率 出所)「日経ベンチャー」2007 年 4 月号 図表3 資本効率 出所)「日経ベンチャー」2007 年 4 月号 2 倉科敏材編著『オーナー企業の経営』中央経済社、2008、8 ページ 8

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第二章 ファミリー企業のメリットとその課題 第一節 ファミリー企業のメリット ファミリー企業のメリットとして、次の3 点が考えられます。 (1)長期的な視野での経営 ファミリービジネスでは、次の世代に富と資産を引き継ぐためにファミリーメンバー規 範と責任意識、存続意識が高いです。そのため短期的なトレンドに影響されず、長期的な 視野による戦略を展開している企業が多くあります。サラリーマン経営者の場合二年二期 の任期および機関投資家をはじめ外部の大株主の要請を受け、極めて短期に企業業績の向 上を図らなければなりません。このため長期にわたる研究開発や新規事業への投資には一 般的には消極的になる側面があります。これに対し、ファミリー企業経営者は、経営トッ プの任期が長いことと自分自身が大株主ということもあり、一般的に長期的視点からの投 資に積極的と言えます。 竹中工務店、ヤンマーなどは、非上場を貫きファミリービジネスを存続していますが、 これは短期的な成果の還元を追求する株主によって経営を左右されることを嫌い、長期的 な経営を目指しているためであります。実際長期的な視野での経営が求められる製薬業で はファミリー企業の比率が非常に高いのです。また、最近ではすかいらーくなどが自社株 の買い取りによって、株式の上場廃止、非公開化に踏み切ったのも、短期的な利潤追求や 株価高と高配当を要求する多くの株主に嫌気がさし、生き残りのために、長期的な視点か ら思い切った投資を行うという理由が大きいようです。 (2)変革を行いやすい ファミリー企業の経営者は内部昇進のサラリーマン経営者よりも、非連続的な変化を導 入しやすいのです。これは自らを選出してくれた前任者や同僚たちなど派閥への依存度が 少ないためです。 また、経営者自らが多くの株式を持っているので、意思決定もスムーズに行うことがで き、大胆な変革を行う潜在能力を有しているということもあります。200 年続く老舗企業 は、時代にあった形で大胆な変革をおこなってきたケースが多いのです。むしろ、長い伝 統を持つだけでは企業の強さにはならず、伝統と革新が結びつくことが重要なのです。フ ァミリービジネスのこの潜在能力を活かせるかは、企業の存続とも大きく関わっています。 (3)後継者育成・サポート体制 事業継承に関わることですが、ファミリービジネスでは、早くから後継者が決まってお り、幼い頃から計画して後継者としての教育を行えます。また、それにより後継者がその 意識をもつことも大きなメリットといえます。次の時代の後継者に若い者を抜擢しつつ、 その後継者のサポートを先代やファミリーが行うことができます。この後継者育成に関し ては、後の章で詳しく見ていくこととします。 これらは、一般企業にはないファミリービジネスのメリットであると考えられています。 ここでは、ファミリービジネスの潜在的メリットをみてきました。大胆な変革を行うこと ができるのが強みですが、一歩間違えると、会社の私物化とも捉えられかねません。そこ で次の節で、ファミリー企業の課題を見ていきます。 9

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第二節 ファミリービジネスの課題 前述したとおり、ファミリービジネスと聞くとほとんどの人が良いイメージをもたな いでしょう。それはファミリービジネスに対して「一族によって私物化された閉鎖的な企 業」というマイナスのイメージがついてしまっているためです。実際ファミリービジネス はその特性から、企業経営で起こりうる問題が多く存在します。ここでは、そのファミリ ービジネスが潜在的に持つ課題を見ていきます。 その要素は大きく分けると以下の4 つが挙げられます。第一は家族間での問題がビジネ スに影響を及ばすという点、第二に家族による会社の私物化という点、第三が経営トップ の独走という点です。そして最後に事業継承時に問題が起こる点です。 (1)家族間での争いがビジネスに悪影響を及ぼす ファミリービジネスは経営にファミリーの感情が大きく関与してきます。そのため、親 族の争いによって経営が危機にさらされることも少なくありません。とりわけ経営トップ の権力が揺らぎ、ファミリーの対立が表面化した時、企業の経営に大きな影響を及ぼす可 能性があります。そのため、企業は権力をある程度集中させ、強いトップを育成しておく ことが大切になります。なお、この後継者の育成においては第五章で詳しく見ていくこと とします。 (2)家族による会社の私物化 広義の意味のファミリービジネスにおいても、経営者と株主が一致している場合が多く、 その場合、企業像や企業目的は明確で、株主と経営者との利害調整は問題になりません。 しかしそれは、同時に経営者のワンマンが進むことにつながり、企業の私物化の原因にも なりえます。その結果、経営の規律を損なうことになりがちであり、また金銭面での公私 混同、最悪の場合は経営者の意図的な法令違反という事態にもなりえてしまいます。 (3)経営トップの独走 先述したファミリー企業では大胆な変革が行いやすいというのは裏を返せば経営トップ の独走になり、企業が間違った方向に進む可能性もあります。従業員の反対を押し切り、 大胆な決断をしたことが結果として企業を大きくしたケースももちろんありますが、一方 間違った決断で失敗したケースも少なくありません。 (4)事業継承時に生ずる諸問題 経営者が家族の意向を重要視するあまり、能力のない家族が継ぐことや、経営と所有の 一致から来る高齢創業者の弊害など、事業継承に関してはマイナス面が存在します。この 継承に関しては、第四章でふれていきます。 以上のように、ファミリービジネスはその特殊性から潜在的に企業経営においてマイナ スに作用する可能性をもっているのです。 10

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第三章 ファミリー企業の継承と育成 先述したとおり継承は、とりわけファミリー企業においてその企業の永続性にもかかわ る重要な経営課題です。この継承という作業がどのファミリー企業にとっても困難なもの です。企業が継承問題の解決に失敗すれば場合によっては廃業ということもありうるから です。とりわけ戦後、長子男系相続という考え方は法的にも認められなくなっている現状 では、すっきり継承者を決められなくなっています。 第一節 三つの段階から見る継承 継承には、大別すると所有権の継承(Ownership Succession)と経営権の継承 (Leadership Succession)の 2 つがあります。 一般に誰が事業継承するのかと言う点で経営権の継承に注目がいきがちであるが、ファ ミリー企業では、所有権の継承の方が重要ともいえるのです。それは相続税の多寡が重要 であるわけではなく、所有権のあるものが経営権を支配するということとファミリー企業 として代々継承させるべきか否かを決定するからです。継承には一般に3 つのフェーズが あるといわれています。すなわち、①継承準備段階、②継承時段階および③継承後段階で す。 継承準備段階:継承は、世代交代によって必然的にさまざまな変化がもたらされ、それ は人々の不安感や懸念を掻き立てることになります。したがって、多くの人々は継承の準 備を進んで行おうとしません。 とはいえ敬称の準備をしないと、経営者の不慮の死などに伴い激しい争いの根源となっ てしまいます。「Family Business Review」に記載されたエーシリア、ガルシア、アルバ レスの研究の調査によれば、次世代に受け継がせるために重要視している価値として特に 次の4 点を挙げその教育に注力しているといいます。 1) Business Orientation (経営課題、企業の現状・課題、製品、市場、顧客、競合企業、サプライヤー、財務 状況など) 2) Family Orientation (ファミリー課題、ファミリー価値、ファミリーの資産、課税、株式の保有状況など) 3) Hard Work(勤勉さ) 4) Autonomy&Entrepreneurship(自立と企業家精神) 大きく分ければ企業とファミリーに対する現状と課題の理解と企業を守るのではなく自 立して企業革新を実行できるようなオーナーおよびリーダーとしての教育です。 こうした教育は、オーナー自身が行う必要があります。同時にコミュニケーション能力 とコンフリクト・マネジメント(争いをコントロールする)能力の向上も必要とされます。 ファミリーが共有すべきファミリーの価値、目標についても議論が必要とされます。 継承後の取締役会の構成を事前に決めておき、新しい経営者の意思決定の阻害となるよ うな取締役を引退させておくことも重要です。また、ファミリーの意思を統一させるため に、すべてのファミリー株主の書面による取り決めもこの時期に必要とされます。 継承時期:ファミリー企業の経営者が高齢化するに連れ、継承の行方について関係者が それぞれに不安を感じ始めます。特に引退時期の多い65 歳前後の経営者は、引退後のこ 11

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とを考えてとりわけ不安になりやすいし、継承される側でもいつ経営者が引退するのか、 どのように引退するのか、資産はどうなるのかなどの不安がよぎります。経営者と継承者 との間に緊張が走り、場合によっては争いが始まってしまいます。だから、争いのコント ロールが一番大事な時期でもあります。継承のタイミングとしては、相続税の問題を含め て継承上の問題が多い日本ではとりわけ早期に対応したほうがいい結果が出る傾向が強く あります。特に注意すべきは、見えざる資産継承の重要性です。 ファミリー企業の継承というと脚光を浴びるのは、事業継承と資産継承です。とりわけ 金融機関や会計事務所がビジネスとして力を注いでいるためにこれらを取り巻くさまざま な課題や解決策が提案されています。特に事業継承については中小企業の廃業率を低下さ せるべく中小企業庁もその課題解決に熱心に取り組んでいます。 しかし事業継承も資産継承もファミリーの内輪の問題であり、ビジネスとしての企業を 構成する多くの人々には関係がないことであり、事業継承や資産継承がうまくいくことは 企業発展の必要条件であっても絶対条件にはなり得ません。では何が絶対条件として重要 なのでしょうか。株式、現金、不動産などを見える資産【Visible Asset】とすれば、顧客 をはじめとするステークホルダーとの信頼関係、従業員との良好な関係、ブランド価値、 働きやすい風土などの見えざる資産【Invisible Asset】がうまく継承されるかが企業永続 に不可欠といえます。 実際に事業継承や資産継承はうまく言ったのに、見えざる資産の継承がおろそかにされ て不祥事を起こし企業の永続が損なわれるというケースを数多く見られます。 継承後:継承は、ボラックとガンティスキーの図表4 に見られるように大胆な核心を実 行するチャンスでもあるし、継承者はファミリー企業のオーナーとして専門経営者企業の 経営者以上にそれが出来る権限を有しています。 しかし継承によって守成期に入るのではなく、新たな核心を求めようとすれば古きもの と新しきものとの葛藤が生じます。場合によっては古きものの排除が必要とされます。そ れに伴い引退する経営者への退職後の処遇、継承のタイミングで引退する非ファミリーの 古参幹部への配慮も欠かせません。トンボ鉛筆の会長は、社長時代優秀な業績を残しまし たが、会長になってから麻薬の不法所持で警察に逮捕されました。会長職になってから訪 れる人も少なくなり、寂しさを紛らわせるために麻薬に走ったとのことだったそうです。 現役時代活躍した経営者ほど引退後の対応は難しくなります。引退後の対応を誤らせるこ とのないようにするにはやはり早期の継承計画の作成が欠かせません。そのことによって 引退後の自分の姿を思い描かせ、引退後の人生をどう生きる課などを考えさせることが可 能になるからです。 12

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図表4 継承と革新

出所) Family Business Review 第二節 親子関係と継承のタイミング デービスとタギウリの研究によれば、父親の経営者と同じ会社に働く息子の関係性は、 その年齢に応じて安定したり不安定になったりします。図表5 を見てもわかるように、父 親がまだ若い40 歳代は父親自身が若すぎ、一方息子または娘も若すぎてビジネスを通じ た関係性は薄くまた親子関係は良好です。父親が60 歳以上の高齢になると近い将来の引 退を意識して自分自身も不安定になり、一方高齢化した息子または娘はいつまでも引退し ない経営者に不安を覚え同時にそれは自分たちの将来に対する不安となってきます。 これに対して、経営者である父親が50 歳代、息子または娘が 20 から 30 歳代の場合は、 父親の引退には早く双方に不安の種が少ないため親子関係は比較的調和が取れているとい えます。経営者と継承者の関係性を考慮すると、60 歳以前から継承計画を明確にしておく ことが望ましいとされています。3 3倉科敏材編著、前掲書、51 ページ 13

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図表5 年齢による父親=経営者と息子の関係性 関係性 父親の年齢 息子の年齢 問題あり 41∼50歳 17∼22歳 比較的調和 51∼60歳 23∼33歳 問題あり (特に後継者問題が俎上にの ぼる時期、父親も引退後のこ とを考え、不安。息子の認知 や将来のことが不安。) 61∼70歳 34∼40歳 出所 倉科敏材『ファミリー企業の経営学』(2003) 第三節 継承の決め手 一般に継承後の企業経営がうまくいくためには、明文化された継承計画がなければなら ないとされています。またはそれを照明する実証研究も世界各国で行われています。確か に事業継承計画がない場合には継承の成功確率は低下するという研究がいくつも明らかに されているのは事実であります。しかし、事業継承計画だけが企業経営の成功を保証する ものでないことも確かなのです。それ以外に注目すべきいくつかの海外での研究結果が出 されています。 ・過度に税務プランを重視した事業系小計画は、継承後の企業業績を悪化させる ・過度に継承にかかわる外部アドバイザーに頼りすぎる企業は、継承後の企業業績を悪 化させる ・良好な親子関係が、事業継承の満足度を高め、事業業績を高める これら以外でも事業研究で分かることは、敬称を通じて企業の永続を考える上で、重要 なことは節税対策でも資産継承対策の成功でもなく見えざる資産の継承、すなわち顧客と の長期的な関係性の維持・発展、創業のDNA の継承、良好な親子関係、良好な従業員と の関係性の維持・発展などの資産をどのようにうまく継承できるかにあります。不祥事を 起こしたファミリー企業の多くはこうした見えざる資産の継承に失敗しています。 いずれにせよ事業継承と継承後の企業業績との関係は、単に継承計画や資産をめぐる問 題の成功によるといった単純なものではなく、後継者自身にかかわる課題、ファミリーと 従業員との関係、各種計画との関係、親子の関係性、事業の広がりなどさまざまな要因が 重層的にかかわっていることを忘れてはなりません。 さらに軽視してはならないのは、継承の根幹に親の仕事への理解が継承への期待を決定 することです。2003 年に実施された中学生 3,300 人調査では、72%が父親と同じ仕事に つきたくないと解答しています。その理由としては、「つまらなそう」、「夜遅く帰ってくる から」などが挙げられています。親が大変そうな様子で仕事をしていたり、家で家族とし てのコミュニケーションもない状態では、親の後を継ごうとは誰も思いません。親が意義 のある仕事をしており、その後姿を見せたり語ったりすることで親の仕事を継ごうと思う のです。 立派な事業継承計画を作成したからといってその企業が永続する絶対的な保証にはなら ないのです。 14

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第四節 後継者の育成 第二章のファミリー企業のメリットでも述べたとおり、ファミリー企業では専門経営者 企業よりも早い段階で後継者を育成できることが利点となります。では、この後継者の育 成においてどのようなことが重要になってくるのかこの節で見ていこうと思います。 一般に後継者の行く瀬に当たっては、社外育成いわゆる武者修行が奨励されています。 社内育成に当たっては、社外での新しい発想の欠如や後継者を育成する能力の不足などの 課題が認識されています。これに対して社外育成では、社外経験をベースにした新しい発 想、他者の経営ノウハウの取り組み、肉親とは違った厳しい育成・教育の実施などが期待 されています。 しかし、2007 年に倉科ゼミが実施したグループ調査では、一般とは逆の結果が出ていた のです。すなわち社内育成の経営者の経営するファミリー企業のほうが企業業績がいいの です。対象とした上場ファミリー企業48 社、そのうち社内育成が 27 社、社外育成が 21 社とケースは少なくはあります。就任後しばらくは後継者の経営への反映を強く出すこと は難しいため、就任後4 年目から 7 年目までの 4 年間の売上高経常利益率の平均をとりま した。社内育成の後継者企業の経常利益率の平均は、9.4%、これに対して社外育成の後継 者企業の経常利益率の平均は、6.5%でした。 早い段階から社内人脈を形成する機会を作ったほうが長期的に経営にプラスに働くと思 われます。無論業種、企業規模、親子関係によってすべて社内育成が好ましいということ ではありません。また社内育成でも関連子会社、新規事業の現場、海外事業の立ち上げな ど厳しい状況を経験させる必要があります。 また外部での修行も、大規模な専門経営者企業でなくファミリー企業に就職させそのよ さと悪さを外部の目で見させることも貴重な経験になるのです。4 第四章 ファミリー企業成功の必要条件 ここまで、ファミリー企業の実態やメリット、課題などを見てきました。この章ではフ ァミリー企業として成功していくためにはどんなことが求められるのかを解説していこう と思います。その要因となるのは大きく分けて4 つあります。一つは、経営権と所有権の 分離、二点目は経営の透明性、三点目は経営者と後継者の関係性。最後に株式の集中です。 またこの章では、欧米のファミリー企業の問題例や、ローマ帝国の五賢弟の時代の話の 例を取り上げながら、日本のファミリー企業にも多いに参考となるものと認識し、説明し ていきます。 第一節 経営権と所有権の分離 経営権と所有権を分離しないで双方を持てるのは、株式を上場しない場合か、上場後も 少なくとも拒否権を発動できる規模の株式を有するケースに限ります。 しかし現実には、きわめて小数の株しか有しないのに、創業者の親族というだけで経営 4倉科敏材編著、前掲書、56 ページ 15

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権を行使するケースが多いのです。 上場した場合は、もはや企業が創業者の所有物ではなく、社会の公器となったことを認 識すべきなのです。福沢諭吉はその著書『西洋事情』の中で、渡米後現地の人にワシント ン大統領の子孫はその後どうしているのかと尋ねたところ、誰一人正確に答えることがで きなかったことに感激しています。親がどんなにアメリカの建国に尽力しようが、子供に まで親の栄誉が及ぶものではないという民主主義の鉄則が、「門閥制度は、親の敵でござる」 といった福沢諭吉の心に響いたのでしょう。 確かに欧米においても、ファミリー企業は数多いですが、しかしその多くは経営権を十 分に確保または主張できるだけの株式を所有しています。大株主でないファミリーは、た とえ創業者の直系といえども経営権を握ることを当然と思うべきではありません。 グローバル化に伴う国際的な競争の激化は、プロの経営者でなければ競争に勝つことは できない環境となっています。米国において外部からのCEO 就任が急激に増加している のはプロ化への対応なのです。株式公開している企業は、一般投資家への責任があるのは 無論であります。ファミリーで経営権を行使したいのならば、少なくとも個人としては最 大株主である必要があるのです。 第二節 経営の透明性 日本インベスターズ・リレーションズ学会が、財務諸表に乗らないもので機関投資家が 何を評価するかを調査したところ一位は情報開示でIR(投資家向け広報)、コーポレートガ バナンス(企業統治)への関心も高いです。いちよし経済研究所は、日本インベスターズ・ リレーションズ協議会の『IR 優良企業賞」を受けた銘柄の合成株価と日経平均株価を比較 したところ、IR 優良企業の株価は顕著な高さを示しました。情報開示に前向きな企業は、 会計不信を起こす懸念が小さく、買い安心感があると思われます。 IR 優良企業上位二十七社中、ファミリー企業は十社を占めており、ファミリー企業の構 成比率から見て特にIR に対する認識がファミリー企業は低いとは考えられないですが、 閉鎖的なイメージが強いだけに、これまで以上にファミリー企業は情報開示に気を配る必 要があります。 コーポレートガバナンス議論は、経営者と株主との利害が相反するということを前提に しています。たとえば、情報開示の強化は、経営者が企業業績を勝手に修正したりするこ とを阻止することを狙いとしています。また取締役会の見直しは、経営者たちが株主を犠 牲にして過度の報酬を得たり、ポストに安住することを阻止することにあります。 しかし、株主と経営者が同一のファミリー企業のような場合はどうでしょうか。ファミ リーが、自由に経営が行えるという点では、コーポレートガバナンスには何の利点もない ように思えますが、しかしファミリー企業でもコーポレートガバナンスは必要であること が、OECD の最近の調査で明らかにされています。 ただしそれは、必ずしも一般に考えられている理由、つまり外部から資本を手に入れや すくなるからではありません。多くの非公開の中堅・大手のファミリー企業は、一般投資 家から資金を調達するよりは、利潤の再投資、借入あるいは思慕による株式発行を行いま す。 16

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第三節 経営者と後継者の関係性 ここではローマ帝国が栄えた五賢帝の時代における継承が参考になります。五賢帝はど のように育成され、皇帝としてローマ市民にたたえられたのでしょうか。五人に共通する 点は、以下のようにまとめられます。 まずは早期に難職につかせることが挙げられます。ローマ帝国の安全保障にとって最重 要の前線の軍団の長として派遣します。帝国の辺境のシリア、ライン、ドナウ地域です。 ここで無能な指揮官は戦死し、淘汰されます。 日本企業の経営者やエリート(選抜されたもの)がタフでないのは、企業でも官庁でも傷 がつかない部署に配属されて常に守られていたためです。本来なら全線で戦死していたよ うな人材がぬくぬくと守られ、えらくなっているケースも少なくありません。 「ピーター無能の原則」にあるように、人間には無能に達するレベルがあります。課長 で優秀であったからと言って部長で優秀である問ことではありません。部長で優秀であっ たからと言って役員になってからも優秀である保証はありません。なぜならば人間にはそ れぞれ無能に達するレベルがあるからです。社長や会長になるまで無能のレベルに達しな いという人は、きわめて限られています。多くはもっと下のレベルで無能のレベルに達し ているのに、いったん張られた『エリート』、『キャリア』の名のもとに無難に管理職や経 営者になっていくことがいくらでもあります。早期に困難な職務に就かせることが真の実 力者の発掘に極めて重要なのです。 次に必ずしも血縁にこだわらないことです。五賢帝の多くは血縁関係にない養子を迎え、 次期皇帝に据えています。もっとも能力の高い人物を養子に迎えています。 最後に後継者を明示しておくことも重要になります。後継者争いを避けるために、それ ぞれの工程は明確に後継者を指名しています。デービスと、タギウリの調査によれば、父 親の経営者と同じ会社で働く息子の関係性は、その年齢に応じて安定したり、不安定にな ったりするといいます。 こうした親子間の関係性を良好に保つためにはまた、子供に本当に、真剣に跡を継がせ ようと思わせるためには、親が早い機会、例えば小学校低学年から親の職場を見せていな ければなりません。古今東西いずれの場合も子供は親の影を見て将来親と働きたいと思っ ています。 リーダーシップは生まれながらにして身についているものなのか、作られるものなのか という問いほど長年にわたって論争を呼び起こしたものはありません。結論的ではありま せんが、遺伝的要因と子供時代の経験がリーダーを作り出すという主張も根強いのです。 ファミリー経営者の薫陶を幼少のころから受けている場合は、リーダーとしての素養をほ かの人よりも強く身に着ける可能性が高くあります。またリーダーシップの形成には日ご ろからの親密な親子関係、兄弟関係が必要となっています。 ファミリービジネスの成功の要因は、良きそして親密なコミュニケーションにあります。 そのことによって共通のビジョンを持てるといいます。 米国においてさえ、一族が同じアパートメントに住み親密さを維持しているケースもあ ります。 聖書によれば、人類の最初の兄弟はカインとアベルであり、彼らは同時に歴史上初の兄 弟殺しとして記録されることになります。ローマの伝説では、ロムルスとレムスは共同で 17

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ローマという都市を造りますが、そのあとロムルスは、レムスを殺すことになります。 兄弟のいがみ合いは、悲劇的結末をもたらす場合が多くあります。ビジネスパートナー としての能力ではなく、子供時代にどちらが父親に気に入られていたかによることで後継 者が選ばれるケースでは悲劇が発生してしまいます。 米国の半数のファミリー企業は、創業者の引退または死亡の結果、清算または売却され ています。 創業者またはその一族の経営者が死んでから、後継者選びをするのでは遅すぎるのです。 事前に後継プランを作り、家族の間で同意を得ておくことが不可欠です。後継プランがあ る会社と健全な会社との間には相関関係があるという分析もあることがこれを証明してい ます。5確かに後継プランを作成しておくことは非常に重要なことではあります。しかし、 先にも述べたように後継プランにばかりこだわり事業継承や資産継承にばかり目を向けす ぎては、いけません。当然見えざる資産の継承を忘れてはいけません。 第四節 株式の集中 アメリカの最も富裕なファミリーの一つで、ハイアットホテルをはじめ数多くの不動産 業を中心とする百五十億ドル(一兆六千万円)の資産があるといわれているプリッカー家は ファンミリーの間で資産分配をめぐり1995 年以来おおもめにもめました。2002 年 11 月 には10 億ドルの資産配分を要求して娘が父親を訴える騒ぎにまでなっています。13 人の いとこや親せきがそれぞれ資産を要求する典型的なファミリー抗争となっています。創業 から世代が変わるにつれ、新しい継承者にファミリーは容易に納得しません。若い世代は これまで以上に独立色が強く、またファミリー間の信頼感も希薄です。そしてついには金 に対する要求にのみ関心が高くなります。 多くのファミリー企業が世代交代するにつれ、分割され競争力を失っていくことになり ます。6 ファミリーのリーダーが明確であり、リーダーシップがとられていることが、ファミリ ー企業永続の絶対条件です。そのためには、ファミリー間の株式の分散は避けなければな りません。世代が経過するにつれ利害関係者は年々増加します。意識の違うファミリーの 増加はファミリー企業分裂の最大の原因になります。 第五章 ファミリー企業経営の未来のために 日本が直面するであろう未来は、日本にとってチャンスでもありピンチでもあります。 日本の市場は、少子化や高齢化などを背景に確実に縮小していくという意味ではピンチで はあります。しかし日本を取り巻く新興国市場が大きく発展するという意味ではチャンス でもあります。そのチャンスを生かし、日本が経済再生するにあたって必要な産業の再生、 地域の創生、富の蓄積と活用のそれぞれにファミリー企業は大きな役割を果たします。そ の未来の日本の経済のためにファミリー企業が貢献していくためには次に述べる二点が非 5倉科敏材編著『ファミリー企業の経営学』東洋経済新報社、2003、219 ページ 6同上書、223 ページ 18

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常に重要な要素だと考えます。一つは、ファミリー企業経営者の心構えです。どんなに業 績のよい企業でも経営者が変わり、心構えのならぬ人物が後を引き継いでしまった場合崩 壊への道を突き進むのは確実でしょう。そうならないためにも、ファミリー企業が永続し ていくためにも経営者がどのような心構えをもって経営に臨むべきかを解説していきたい と思います。二つ目は、他者との関係性です。どんな企業でも所詮は人の集合体です。そ れゆえひとりでは、自分の会社だけでは経営をしていくことは大変困難であります。いか に地域や他の企業、従業員との信頼関係を厚いものにしていくかによって、先の未来を築 いていくことができます。 第一節 ファミリー企業経営者の心構え まずファミリー企業の経営者は責任と義務の認識を持つことが重要になります。ファミ リー企業経営者は、その多寡は別として一般の人に比べて有利な富と機会を与えられ事業 を継承しています。その継承者は、それに対して社会に対する責任と義務を負っていると 強く認識すべきなのです。石油王でもあり社会奉仕活動に積極的に対応したロックフェラ ー家の家訓は、「Self Devoting-自己奉仕の心」でありました。 ノブレス・オブリージュは、フランス語で「高貴なるものの義務」を意味します。財産 や権力、社会的な地位には責任を伴うとされ、その語源は聖書の「すべて多く与えられた ものは、多く求められ、多く任されたものは、さらに多く要求される」(ルカによる福音書) にあるとされています。第一次世界大戦で英国貴族の指定の戦死者率が最も高かったのは、 この考えがイギリスの上流層に浸透していたからだといわれています。 高貴なるものの義務に法的な拘束力はないが、社会規範としての拘束力はあります。キ リスト教国とくにアメリカでボランティア活動や慈善活動が盛んな理由の背景にあるもの です。 キリスト教への信仰は別にして、日本でも富める者が様々な社会活動や寄付行為を行っ てきました。しかし、残念ながら現代の日本では十分に実施されているとは言えません。 特に新興の富める者は、プライベートジェット機を購入したり、競走馬を買ったり、球団 やサッカークラブを買収した理に忙しく、社会奉仕は考えてもいないようです。 次に預かるという考えを持つことです。企業永続の一つに事業や資産継承によって自分 のものになるというのではなく 預かる とする考えがあります。20 年、30 年事業や資 産を預かって次の世代に渡すという駅伝のランナーに例える考えです。江戸時代の家訓の 多くにはこの預かるという考え方が強く打ち出されています。資産継承や事業継承した人 がその資産や事業をどう処分しようがそれは継承者の勝手であるとするのではなく、預か っているわけであるから、勝手な行動をとって資産を損なうような事態になれば 取り上 げ られることになります。 企業継承者は、この 預かる という言葉をかみしめ、ファミリー企業の経営を行うべ きなのです。 第二節 他者との関係性を重要視する 他者との関係性を重要視していく点でまず大事になるのが地域との関係性です。第一章 でも解説したようにファミリー企業は地方に多くみられ、またその地域の発展にも寄与し 19

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てきました。そのためファミリー企業と地域開発の関係性は大変濃密です。長期的観点で の地域開発成功のカギは、資金でも先端産業の導入でもありません。地域開発のためのビ ジョン作成に知恵を出し、様々な利害関係者間を調整し、リードするオーガナイザーが存 在するかです。その意味では先述のケースにみられるように、地域密着のファミリー企業 がその役割を担う最適な立場にいます。先端産業を中心とした地域クラスターとは一味も ふた味も違うファミリー企業を核とした地域クラスターが各地に生まれる可能性を期待し たいです。 次に他社との関係性も大変重要です。歴史あるファミリー企業は、これまでどちらかと いえば自力で企業の発展に努めてきました。しかし時代は大きく転換し、戦略的な連携を 通じての国内外における企業発展が欠かせなくなっています。一つにはこれまでと企業戦 略を作成する方法が大きく異なってきたことが挙げられます。これまでは将来の経済成長 予測や市場環境予測、競合分析、経営資源の点検をベースに戦略を策定する東野がきわめ てオーソドックスなやり方でした。この策定方法の欠点は、自社の経営資源の範囲内でし か戦略が打てずブレークスルーや大胆な転換ができないことです。このため今後 10 年の 企業のあるべき姿、ビジョンをまず優先的に作成し、その実現のために経営資源が不足し ている場合は企業買収や企業連携を実施してその実現を促すやり方に変わってきています。 反対にあるべき姿に合わない経営資源は売却や分社化を行うことになります。 戦略的連携の重要性に鑑みて、経済産業省でも特にい分野での中小企業の連携を『新連 携』と呼びさまざまな支援策を講じています。地域開発のために同業種または異業種との 連携を行うケースは、赤福、小布施堂など日本全国には数々の事例があります。また酢で 有名な密柑グループは、200 年の歴史を誇る老舗企業ですが、主に国外での事業拡大を狙 いとして、世界各国の企業との業務提携や企業買収を積極的に行っています。300 年以上 の歴史を誇るキッコーマンも同様に国内外の企業との連携に古くから取り組んでいました。 ファミリー企業というと閉鎖的、自己完結的な印象を与えられてしまいますが、成功する ファミリー企業は、他社との連携に前向きなのです。今後とも強者と強者との市場席巻的 な連携や強者と弱者との補完的な連携や販売、セさんといった機能別の分野での連携など 多面的な連携関係が強化されていくと考えられます。ファミリー企業といえども企業その ものの永続性を維持するために発展的な企業統合も視野に入れるべき時が来ています。長 らくファミリー企業の代表であったアメリカのビール会社クアーズは、2005 年北米最初の ビール会社カナダのモルソンと統合しました。統合後の世界での順位はそれでも第5 位に 過ぎず、グローバルな競争に打ち勝つために必要な組織再編でした。ファミリー企業にも ローカルなニッチ市場での存在を示す企業とグローバルな市場での激しい競争に打ち勝っ て行く企業との二極分化が進み、グローバルな競争の中で生き延びるためにはこれまでの ような自力での生き残りは困難となるでしょう。 そして従業員との関係性を良好に保つこともファミリー企業を経営していくうえで非常 に大切です。自分の会社がファミリー企業であることを声高に宣言したくない企業の多く は、将来ファミリー企業では社長になれる可能性が少ないという理由から従業員の働く意 欲が低下するのではないかとの恐れを持っています。しかしとくに大学生が企業を選ぶ選 択肢の中でファミリー企業であるか否かを問うことは全くありません。もっとも重要な企 業選択肢は、働きやすい職場か否かなのです。次いで企業イメージです。韓国においても 20

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同様のことが言えます。ファミリー企業で社長になれないから企業の選択リストから外さ れるということはありません。 韓国における大学生が最も就職したい企業の第一位は、サムスン電子であり、上位の多 くは、ファミリー企業であるサムスン、SK グループ企業です。会社選定の基準は、重要 度に応じて会社のビジョン、給与水準、福利厚生、企業イメージと続きます。サムスンの オーナー一家が、3000 億ドル(約 33 兆円)といわれる資産を所有し次期社長も息子が鳴 るということが確実であってもサムスンへの入社を希望する人は後を絶たないのが現状で す。日本においても状況は同じです。 FBN からベストファミリー企業として表彰された矢崎総業は、様々な従業員が働きやす い環境を整備していますが、一方で従業員持株会を通じて従業員による統制牽制機能も働 いています。ファミリーである企業トップと従業員との共同繁栄の仕組みがうまく働いて いる例といえます。 おわりに 本論文では、まず第一章でファミリー企業の実態を詳しく解説し、読者がファミリー企 業とはいったいどのような企業で、またどのような特性があるのかを理解していただくた めの内容を論じました。第二章ではそのファミリー企業を経営していくうえでどのような メリットがあるのかを、三つの点から述べました。それに対して第三章では逆に潜在的な 課題を浮き彫りにし、どのような問題点があるかを多角的に解説しました。第四章では前 章の内容を踏まえて、ファミリー企業を永続していくために最も重要なものの一つである 継承に関して、三つの段階があることを見ていき、またそのタイミング、決め手なども論 じていきました。次に第五章では、第二章の内容を踏まえて、メリットとなる早期の育成 をどう行っていくべきかを論じました。そして、第六章では、実際に一族の誰かが企業を 経営していくうえでの成功の必要条件を四つの側面から分析し、第七章で結論としてファ ミリー企業経営の未来を繋ぎ止めていくためにはどうしていくべきかを経営者の心構えと 他者との関係性という二点から論じました。 また、今回提示した内容は、実際の企業へ導入しその効果を検証するまでには至ってお らず、考察の域を出ていません。 今後の課題としては、まず日本で学問としてのファミリー企業研究をもっと進めてい くべきです。諸外国はすでにこの学問においてはるか先を行っています。日本には100 年、 200 年も続いているファミリー企業がたくさんあるのです。今後の日本の経済を再生して いくためにも、ファミリー企業は重要な役割を担っていきます。そのため、まずは日本の 大学でこの分野を扱った講義を開講すべきです。大学生の中には、将来家族や親族の会社 を継承していく者は少なくありません。その者達のためにもファミリービジネスを経営し ていく上での基礎知識を植え付けておくことは大変重要なことだと考えます。確かに、親 の企業に就職して親の背中を見て、学び成長することも大事なことです。しかし、まずは 学生のうちに学問でのファミリービジネスを学び、その後で就職していくことによって、 将来的に自分が経営者になったとき少なからず、現状よりも同族で経営している中小企業 などの廃業率は下降していくのではないかと推測します。他にも、継がないまでもファミ 21

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リー企業に就職していく学生も多くいます。しかし、現代の日本ではメディアなどが原因 でファミリービジネスに対して、マイナスのイメージを抱いてしまい、偏見を持ってしま っているのが現状です。そういった学生のためにも、まずはファミリー企業の正しい知識 を持たせることが大切です。そうすれば、学生が自発的にファミリー企業に就職するよう なことも現実になるでしょう。 先述したとおり、日本を影で支えているのは中小企業です。そのほとんどがファミリー 企業なのです。不況が続いている日本を再生させるためには、このファミリー企業の躍進 が鍵になることは言うまでもありません。 22

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引用・参考文献 江坂 彰(2001)『世襲について』日本実業出版社 山田 修(2007)『あなたの会社誰に継がせますか、売りますか』ダイヤモンド社 柳澤利昌(2000)『老舗企業の研究』生産性出版 松崎隆司(2006)『私が選んだ後継者』すばる舎 中小企業庁(2006)「事業継承ガイドライン」 倉科敏材(2008)『オーナー企業の経営』中央経済社 堀越 薫(1999)『同族会社のトラブルと対策』税務研究会出版局 石井 耕(1996)『現代日本企業の経営者』文眞堂 日本税理士会連合会編(1991)『同族会社』中央経済社 倉科敏材(2003)『ファミリー企業の経営学』東洋経済新報社 R・F ヴァンシル 諸野幸雄他訳(1996)『後継経営者の条件』中央経済社 大田原ゼミ生 『ファミリービジネスの事業継承に関する一考察』 http://blog.nikkeibp.co.jp/nb/academic/university/pdf/2010doshisha_syougakubu _ootahara1.pdf 2012 年 12 月 20 日閲覧 末廣 昭 『ファミリービジネス再論』 http://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/dspace/bitstream/2261/7493/1/suehiro44_05. pdf 2012 年 12 月 28 日閲覧 斉藤達弘 『ファミリー企業であり続けるために』 http://ir.library.osaka-u.ac.jp/dspace/bitstream/11094/15194/1/oep057_4_005.pdf 2012 年 12 月 28 日閲覧 後藤俊夫 『ファミリー企業における長寿性』 http://ci.nii.ac.jp/naid/110006427307 2012 年 12 月 29 日閲覧 23

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あとがき まず人生で初めて二万字という量の文章を書きました。正直ここまで二万字とい う文字数がきついと思いませんでした。僕は最初、新卒一括採用についての論文を 書いていました。構成も決め、アンケートもとり、書いていくのには十分な準備が 出来ていました。しかし、書き進めていくうちにふと思いました。文献を見ていた り、論文を眺めていたり、アンケートをとっているとき感じたのです。「つまらない」、 「興味がない」と。そこで提出の期限まであまり時間がないにもかかわらず、テー マをまるまる変えました。それがミスだったのかな・・・。最初のうちは、文献や 論文、インターネットなど情報収集をしていて、初めて知ることばかりで非常に興 味深く作業が楽しかったのです。しかし、進めていくうちにどんだけ複雑な内容を 取り上げてしまったのかと後悔しました。まず、文献や論文などの資料の少なさ、 データの少なさ、学問としての曖昧さ、取り上げ度が日本では非常に低いためでし た。また、一族経営をしている企業にアンケート調査を依頼しても断られたり、返 信がなかったりと生の声を聞くこともできませんでした。やはり日本でファミリー ビジネスがあまりいい目で見られてないからだと思います。しかし、だからこそフ ァミリー企業を経営していく上でどのようなことを学んでおくべきかを少ない資料 の中で自分なりに論じることが出来たと思います。 正直、多くの人にとってはこの論文の内容はどうでもいいと思うかもしれません。 しかし僕を含めて、自分の周りにも将来親の会社を継ぐ人が少なからずいます。そ のような人たちにとっては、知っていて損にならないような内容なのではと思いま す。 24

図表 4  継承と革新
図表 5  年齢による父親=経営者と息子の関係性  関係性  父親の年齢  息子の年齢  問題あり  41∼50歳  17∼22歳  比較的調和  51∼60歳  23∼33歳  問題あり  (特に後継者問題が俎上にの ぼる時期、父親も引退後のこ とを考え、不安。息子の認知 や将来のことが不安。)  61∼70歳  34∼40歳  出所  倉科敏材『ファミリー企業の経営学』(2003)  第三節  継承の決め手    一般に継承後の企業経営がうまくいくためには、明文化された継承計画がなければなら ないとされ

参照

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第五章 研究手法 第一節 初期仮説まとめ 本節では、第四章で導出してきた初期仮説のまとめを行う。

はじめに 第一節 研究の背景 第二節 研究の目的・意義 第二章 介護業界の特徴及び先行研究 第一節 介護業界の特徴

緒 言  第圏節 第二節 第四章 第一節 第二節 第五章 第口節 第二節第六章第七章