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2011.4.15

子ども手当再考

-単純に廃止すれば、少子化を深刻化させる-

第一生命経済研究所 ライフデザイン研究本部 研究開発室

松田茂樹

<子ども手当に対する逆風> 3月31日に子ども手当つなぎ法案が成立し、15歳以下の子ども1人あたり月額1万 3千円(民主党がマニフェストで示した金額の半額)の子ども手当が4~9月の半年 間延長された。一方、3歳未満に対する月額7千円の増額は取りやめになった。 つなぎ法案成立までの間、子ども手当は批判にさらされた。現在の支給額の場合、 今年度の子ども手当の予算総額は約2兆7千億円と大きいため、東日本大震災後には 子ども手当をやめて復興財源にあてよという主張もある。それらには、子ども手当を やめて児童手当に戻せというものもあれば、当初予定されていた3歳未満に対する上 乗せ分を含む総額約2兆9千億円の全てを復興財源に振り向けよと読めるものもある。 政策論争があるのは健全な社会の姿だが、現在の子ども手当をめぐる議論は、制度 の実態が十分理解されていない面がある。既につなぎ法案後の制度の検討が行われて いるが、実態をふまえて冷静な議論・検討が必要である。 <子ども手当の大半は児童手当と扶養控除廃止で捻出> 子ども手当の実態をみよう。子ども手当つなぎ法案の支給額が1年間継続すると仮 定して、既に決められている一連の扶養控除が廃止された場合を「現在の制度」とし て、これを「児童手当時代の制度(2009年度)」と比較したものが図表1である。 児童手当は、小学生までが対象で、支給月額は3歳未満が1万円、3歳~小学生が 第1~2子は5千円、第3子以降が1万円で、所得制限もあった。09年度の支給総額 は約1兆円である。 子ども手当は、中学生までが対象で、支給月額は一律1万3千円で、所得制限はな い。支給総額は約2兆7千億円である(うち約6千億円は中学生に対する支給分)。 これだけをみると、子ども手当は児童手当を大幅に上回る経済的支援になったよう にみえる。しかし、児童手当時代には、所得税と住民税の年少扶養控除と特定扶養控 除があった。単純に計算すれば、16歳未満の子ども1人当たりで、所得控除が38万円 ということは、所得税率が20%の家庭の場合、7万6千円の減税になる。住民税は所

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得にかかわらず一律10%であるため、3万3千円の減税になる。両者を合わせると10 万9千円で、これは子ども1人あたり月額9千円に相当する。 現在は、年少扶養控除が廃止されたため、子ども手当を受給する家庭は扶養控除の 恩恵を受けることはできない。特定扶養控除を含む一連の扶養控除の廃止・縮小は約 1兆1千億円に相当し、この分、子どもをもつ者は増税されている。 子ども手当の支給総額(約2兆7千億円)から一連の扶養控除の廃止・縮小による 増税分(約1兆1千億円)を引くと約1兆6千億円になる。子ども手当の総支給額の みかけは大きいが、児童手当時代からの純増は6千億円で、全体の約2割にすぎない。 図表1 現在の制度と児童手当時代の制度の比較 現在の制度 児童手当時代の制度(2009年度) 手当 子ども手当 児童手当 対象・支給月額 ○0歳~中学生 1万3千円 ※つなぎ法案の支給額が1年間 継続した場合を仮定 ○0歳~3歳未満 1万円 ○3歳~小学生 第1子・第2子 5千円 第3子以降 1万円 所得制限 なし あり(例えば、夫婦と子ども2人のサラリ ーマン世帯で年収860万円未満) 年間支給総額(a) 約2兆7千億円 約1兆円 扶養控除額 ○所得税 年少扶養控除 廃止 特定扶養控除 38万円 ○住民税 年少扶養控除 廃止 特定扶養控除 33万円 ○所得税 年少扶養控除(0~16歳未満) 38万円 特定扶養控除(19~23歳未満)63万円 ○住民税 年少扶養控除 33万円 特定扶養控除 45万円 扶養控除の廃止に伴 う税収増(b) 約1兆1千億円 - (a)-(b) 約1兆6千億円 約1兆円 資料:各種資料をもとに作成 <子どもの年齢によって異なる純増減> 次に、子どもの年齢別にみた経済的支援の現状をみよう。子ども手当は、その支給 総額の多くが児童手当や扶養控除を組み替えたものであるため、子どもの年齢によっ て、児童手当時代よりも経済的支援が減額される家庭も生じている。 子ども1人あたりでみると、3歳未満や第3子以降(小学生まで)がいる世帯の場 合、子ども手当の年間支給額は15万6千円である。児童手当時代であれば、それは12 万円であった。年少扶養控除の廃止(所得税分38万円分と住民税分33万円分)により 税金は上がっている。所得330万円~695万円の世帯(所得税率20%)の場合、前述の とおり単純計算で10万9千円の増税になる。これらを合わせると正味マイナス7万3 千円で、これらの世帯では経済的支援は後退している。ただし、所得が低いために所 得税を免除されている世帯の場合、増税分はないため、経済的支援額は増えている。 第2子までの子どもが3歳から小学生の場合、子ども手当の年間支給額は15万6千

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円、児童手当時代のそれは6万円である。年少扶養控除の廃止による増税分を前と同 じ条件とすると、これらの世帯では合わせてマイナス1万3千円になる。 同じ条件で中学生の場合を計算すると、児童手当時代は支給対象でなかったために、 トータルはプラス4万7千円になる。 総じて、所得330万円~695万円の世帯に対する経済的支援額は、3歳未満の子ども がいる場合や第3子以降の場合に大幅な純減、3歳から小学生の場合に純減、中学生 の場合に純増になる。所得税が非課税の世帯は純増になり、所得税率の高い高所得者 は純減になる。 現在の制度は、中学生の子どもをもつ家庭に対する経済的支援を拡充したが、3歳 から小学生の子どもをもつ所得330万円~695万円の世帯は恩恵を受けておらず、また 幼い子どもがいる家庭や多子世帯など、本来であれば経済的支援がより必要な世帯に 支援が届くものになっていない。 <昔から子どもをみなで支えてきた> 続いて、経済的に子ども・子育てを支えることが、いつからはじまったかをみよう。 現在、子どもをもつ家庭への経済的支援は子ども手当のみだが、児童手当時代は手当 と扶養控除の両方で行っていた。 児童手当は1972年に開始された。当初は、第3子以降で小学生までの子どもを対象 とし、支給月額は3千円であった。その後、支給対象の子どもや支給月額が段階的に 拡充され、1991年には小学生までの第1・2子は月額5千円、同第3子は月額1万円 になった。2007年には、3歳未満の子どもは一律月額1万円に引き上げられた(以上 は内閣府『平成18年版少子化社会白書』より)。 扶養控除は扶養する子どもなどがいる場合に所得税・住民税を軽減するものである。 その歴史は古く、1920年の創設当時から18歳未満の子どもなどが対象とされており、 1950年には年齢要件が撤廃された。扶養控除の額は、1984年時点は1人あたり33万円 であり、1989年には35万円、1995年には38万円に引き上げられた(以上は税制調査会 資料より)。これらは、子どもがいる家庭に対する実質的な経済的支援に相当する。 子ども手当になったことで、子どもを育てる家庭への経済的支援が急に登場したわ けではない。「みなで子どもを支える」というのが子ども手当のコンセプトだが、実は わが国は過去から国民みなで子どもをもつ家庭を経済的に支えてきたといえる。既に 子育てを終えたシニア層も、実は国民による経済的支援の恩恵を受けてきたのである。 <諸外国の経済的支援との比較> それでは、わが国以外では、子どもに対する経済的支援はどのように行われている だろうか。子ども手当と主要国の手当、税制による子育て支援の水準を比較したもの が図表2である。アメリカは、ここにあげた他国のような少子化を経験しておらず、

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子育て支援の必要性は低い。そこでアメリカを除く他の国と日本の制度を比べる。 手当の支給対象となる年齢の上限は、日本よりも他国の方が高い。例えば、子ども が20歳未満の学生であれば、イギリス・ドイツ・フランス・スウェーデンのいずれに おいても、手当は支給される。 円換算(2011年4月11日現在、以下同)した各国の手当の額は、おおむね日本の現 在の子ども手当よりも高い。これは現在円高になっている為替レートを使っているた め、円安になれば各国の手当の円換算の額は相当高くなる。さらに、世帯年収の平均 をみると日本は590万円であるのに対して、フランスは350万円であるなど他国の方が 低い。これをふまえると、各国の手当は、ここに記した金額以上の価値がある。 扶養する児童に対する控除は、スウェーデンを除き、実施されている。例えば、イ ギリスの児童税額控除では、子どもに対する手当の支給対象となる家庭に対して、 £545(7.6万円)及び児童1人あたり£1,845(約26万円)を税額控除することができ る。ドイツでは、扶養する児童1人あたり5,808€(約71万円)を所得控除している。 以上をふまえれば、アメリカを除き、主要国はわが国の現在の子ども手当以上の経 済的支援を実施しているといえる。子どもを産み育てやすくして出生率を維持・回復 させるには、子どもに対する経済的支援は不可欠になっている。 図表2 主要国の子どもに対する手当、税制による子育て支援 日本 イギリス ドイツ フランス スウェーデン アメリカ 支 給 対 象 中学生まで 第1子から 16歳未満(全 日制の教育等 の場合は20歳 未満) 第1子から 18歳未満(失 業者は21歳未 満、学生は27 歳未満) 第1子から 20歳未満 第2子から 16歳未満(多 子割当手当は 16~20歳未満 の学生も) 第1子から 支 給 月 額 月1.3万円 第 1 子 、 週 £18.10(月約 1.0万円) 第2子以降、週 £12.10(月約 0.7万円) 第3子まで154 €(約1.9万円) 第4子以降179 €(約2.2万円) 第2子119.13€ ( 約 1.5 万 円)、第3子以 降152.62€(約 1.9万円) 11歳以上の児 童に加算(11 ~15歳33.31€ ( 約 0.4 万 円)、16歳以上 59.57€(約0.7 万円) 子 1 人 あ た り SEK1,050 ( 約 1.4万円) 多子割当手当 2人 SEK100(約 0.1万円) 3人 SEK454(約 0.6万円) 4 人 SEK1,314 (約1.8万円) 5 人 SEK2,363 (約3.2万円) 手 当 所得制限 なし なし なし なし なし 制度なし 税制 なし(2010年よ り 年 少 扶 養 控 除を廃止) 児童税額控除 児童扶養控除 n 分の n 乗方 式 なし 児童税控除 扶養家族課税 控除 世帯年収(日本円 換算) 590万円 - - 350万円 440万円 500万円 注: 2011年4月11日の為替レートを適用 資料:日本以外の制度は、社会保障審議会少子化対策特別部会の資料より作成。世帯年収は、内閣府『少子化社会に 関する国際意識調査報告書』(2006)の公表結果をもとに、20~59歳の世帯年収の平均を筆者が算出。

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<子ども手当の修正パターンとその影響> 以上が子ども手当の実態だが、現在、各方面から制度の見直しを求める意見が出さ れている。それらをふまえて、子ども手当の修正パターンをまとめたものが図表3で ある。各々の影響をわかりやすくするため、児童手当時代と比較して説明する。 児童手当時代よりも総じて充実した経済的支援になるものは、3歳未満上乗せを含 めた「子ども手当法案(当初案)」である。「子ども手当(つなぎ法案が1年間延長と 仮定)」は、総費用では児童手当時代を上回るものの、先述したように幼い子どもがい る家庭や多子世帯などの経済的負担は児童手当時代よりも重い。 この他の4つの修正パターンをみよう。「修正パターン1(所得制限有)」は、児童 手当時代と同水準の所得制限を行うことを想定する。この場合、手当を受給する世代 の年収分布から推定して、総額の約1割が削減されるとみられる。ただし、所得制限 のあった児童手当から子ども手当に変更した際、自治体は所得制限を廃止して手当を 支給するシステムに変更している。所得制限を復活させれば、自治体はそのシステム を再び改修しなければならない。「修正パターン2(小学生まで支給)」と「修正パタ ーン3(手当1万円)」は、総費用は児童手当時代と同程度である。ただし、修正パタ ーン2の場合には年少扶養控除廃止の分だけ中学生がいる家庭の負担が重くなり、修 正パターン3は3歳未満や第3子以降の分の負担が、児童手当時代よりも重くなる。 修正パターン4は、扶養控除を復活させずに、単純に子ども手当を廃止した場合の ものである。総費用は約1兆円まで縮小される。これは児童手当時代よりも経済的支 援が悪化する。 図表3 子ども手当の修正パターンとその影響の比較 区分 子 ど も 1 人 あ たり手当額(a) 控除 (b) 支給上限の年齢 所得制限 総費用 (a+b) 主な影響 子 ど も 手 当 法 案 ※当初案 3 歳 未 満 20,000円 3 歳 以 上 13,000円 廃止 中学生まで 所得制限無 約2.9兆円 ・子3歳未満の負担軽減 ・全年齢の子どもが、児童手当 時代よりも経済的支援厚く 子ども手当(つ なぎ法案1年間 延長) 13,000円 廃止 中学生まで 所得制限無 約2.7兆円 ・子3歳未満の負担増加 ・子中学生の負担軽減 修 正 パ タ ー ン 1 13,000円 廃止 中学生まで 所得制限有 約2.4兆円 ・高所得者の負担増加 ・自治体の負担重くなる 児 童 手 当 時 代 (2009年度) 図表1参照 あり 小学生 所得制限有 約2.1兆円 (他は、このパターンと比べた 影響を記述) 修 正 パ タ ー ン 2 13,000円 廃止 小学生まで 所得制限無 約2.1兆円 ・子3歳未満の負担増加 ・年少扶養控除廃止の分だけ子 中学生の負担増加 修 正 パ タ ー ン 3 10,000円 廃止 中学生まで 所得制限無 約2兆円 ・子3歳未満の負担大幅に増加 ・子3歳~小学生負担増加 ・子中学生の負担軽減 修 正 パ タ ー ン 4 児 童 手 当 の 額 に戻す 廃止 児童手当と同じ 約1兆円 ・全ての家庭大幅な負担増加 注:控除=年少扶養控除・特定扶養控除。所得制限は児童手当時代と同水準を仮定。修正パターンは筆者が考案。 資料:筆者作成

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<中長期を見据えた子育て支援を> 最後に、以上をふまえた上で、子ども手当に対する筆者の見解を述べたい。 第一に、現在の制度は、先述したとおり決して手厚い経済的支援ではないことを認 識した上で、今後の制度を考える必要がある。少子化に苦しむわが国では、次世代を 育成するために子育て支援の拡充が不可欠であり、少子化を克服した諸外国の政策を ふまえれば、子育てに対する経済的支援は削減するのではなく、むしろ拡充させるこ とが必要な状況である。震災の復興財源の捻出のために子育てへの経済的支援を削減 するならば、国民が安心して子どもをもうけることができるように、「いつまで削減が 続くのか」ということを明示することが必要である。筆者は、少子化対策のためには、 削減は一時的なものとし、中長期的には拡充させていくことが必要であると考える。 第二に、仮に子ども手当を見直す場合、候補になる修正案の是非を判断する目安は、 それが児童手当時代の支援の総費用と同等以上であるかということになるだろう。わ が国は児童手当時代から深刻な少子化に悩まされてきたが、当時の経済的支援を下回 るとなれば、深刻な少子化に拍車がかかる。したがって、もし現状よりも総額を抑制 するとしたら、図表3の修正パターン1~3及び児童手当時代(2009年度)の4つ(あ るいはその変形)が候補になりうる。修正パターン4は、わが国が少子化対策・子育 て支援を放棄しない限り、ありえない。 筆者は、4つの候補のうち、修正パターン1(所得制限有)または児童手当時代に 戻すことが、出生率への影響を回避できる最低限の修正案であると考える。 また、「修正パターン2(小学生まで支給)」と「修正パターン3(手当1万円)」を 比較すると、前者の方がまだ望ましい。なぜならば、前者の方が、子どもが小さいた めに母親が就業することが難しい家庭における経済的負担が小さくなるからである。 第三に、子育ての経済的支援のあり方を再検討するとしても、国として子育て支援 を行うことの意義や目的はゆらがないようにすることが大切である。子育て支援は、 お金に余裕があるから行うものではなく、支援が必要だからこそ行うものである。昔 からわが国は手当や扶養控除によって子育てする家庭を支えてきた経緯もふまえて、 継続した子育て支援を行っていくことが求められる。 (まつだしげき 主任研究員)

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