ネット依存傾向と健康度・生活習慣との関連 ターネットは情報収集やコミュニケーションの重要 なツールとなっているが、インターネット依存が心 身に悪影響を与える可能性が指摘されている2)。 インターネット依存傾向(以下、ネット依存傾向 とよぶ)がある者に関する先行研究では、メンタル ヘルス上の問題が多く認められ2)、ネガティブで非 活動的な心理状態を起こしやすい3)と報告されてい る。また、ネット依存傾向と日常的精神健康とはお 互いに影響を及ぼしあっている4)ことが報告されて いる。 文部科学省5)は、インターネット依存はギャンブ ルや買い物依存と同様、行為への過程への依存とみ なされ、インターネット依存問題は日本にとって今 後さらに重要となる問題であり、調査・研究の必要 性を示唆した。しかし、文部科学省5)の調査では、 日本の現状、現時点での子どもたちの実情を考慮 し、時期尚早との判断から、インターネット依存に ▶▶▶ Ⅰ はじめに 平成26年総務省通信利用動向調査の結果1)による と、平成26年末におけるインターネットの人口普及 率は82.8%である。年代別のインターネット利用状 況については、20歳~29歳が最も多く99.2%、次に 13歳~19歳、30歳~39歳が97.8%と非常に高い利用 率を示している。ネット利用機器については、ス マートフォンでの利用が20歳代で87.5%を示し、第 1 位となっている。スマートフォンの世帯保有状況 は、平成22年末は9.7%であったが、平成26年末に は64.2%である。スマートフォンの急速な普及によ りインターネットの使用者が増加している。イン
抄 録
総務省の調査によると、20代のインターネット利用は99%を超え、スマートフォンでの利用は約88%となっ ており、スマートフォンの使用者は急増している。インターネットは情報収集やコミュニケーションのツールと して利便性が高いが、一方で、インターネット依存が心身に悪影響を与える可能性が指摘されている。本研究で は、スマートフォンの利用率が高い大学生を対象に、インターネット依存傾向のある者の健康度および生活習 慣、気分状態の関連性について検討を行った。 インターネット依存傾向尺度による分類から、インターネット依存傾向群をⅠ群、非依存群をⅡ群とする ₂ 群 に分類した。この ₂ 群について、心身の健康および生活習慣、気分状態の調査を行い、その特徴を分析した。 調査の結果、対象者156名中、Ⅰ群は58%、Ⅱ群は42%であった。Ⅰ群はⅡ群と比較すると、身体的健康度、 精神的健康度、睡眠の充足度が有意に低値を示した。Ⅰ群は、睡眠不足のため、昼間に眠たくなり、勉強がス ムーズにはかどらず、大学生活に影響を及ぼしていることが示唆された。また、就寝時間が遅くなることから夜 食の習慣化が生じ、目覚めの体調不良から朝食の欠食などがみられ、イライラ感や肥えすぎ・やせ過ぎなどにも 繋がると考えられた。心理検査では、Ⅰ群はⅡ群と比較すると、不安感、抑うつ感、イライラ感がつのっている ことが分った。これらの結果から、ネット依存傾向のある者は、睡眠習慣と身体的および精神的健康に相互に悪 影響を与える可能性が示唆された。さらに、Ⅰ群の約65%にインターネット依存傾向があることを自覚してい るが、約17%には自覚がなく、依存傾向が進行する可能性が示唆された。 依存が深刻化する前に予防教育を行い、インターネット依存が生活習慣や心身の健康に与える危険性について 啓発することが重要であることが示唆された。 (総合健診.2016;43:657︲664.) キーワード インターネット依存傾向、健康度、生活習慣、POMS 〔論文受付日:₂₀₁₆年 ₅ 月₂₃日〕〔論文受理日:₂₀₁₆年 ₇ 月₂₈日〕 1 )四国大学短期大学部 2 )兵庫県立大学大学院応用情報科学研究科大学生のインターネット依存傾向と
健康度および生活習慣との関連性
片山 友子
1)水野(松本)由子
2)原 著
原 著
採用した。鄭4)は、インターネット依存傾向をイン ターネットに没入してしまうあまり、コンピュータ や携帯が使用できないと何らかの情緒的苛立ちを感 じること、また実生活における人間関係を煩わしく 感じたり、通常の対人関係や日常生活の心身状態に 弊害が生じるにもかかわらず、インターネットに精 神的に依存してしまう状態と定義している。 日本は欧米と比較すると、インターネット依存者 よりインターネット依存傾向者の方が多い6)との報 告がある。インターネット依存傾向は依存に至る前 段階を示すものと考えられる。現在、インターネット 依存やインターネット依存傾向の意味付けの違いや 意図的な使い分けは明確でない7)と報告されている。 平成26年度版総務省情報通信白書8)によるネット 依存傾向の国際比較(日本、アメリカ、イギリス、 フランス、韓国、シンガポール)では、 6 か国共通 で10-20歳代のネット依存傾向が高く、スマート フォンの有無でみると、スマートフォン保有者は未 保有者と比較すると依存傾向が高くなり、これも 6 か国共通の結果となった。スマートフォン保有者の 依存傾向が最も高い10-20歳代を国別に比較する と、アメリカ21.5%、イギリス14.6%、日本13.1% であった。スマートフォン保有者に限定しても我が 国の依存傾向は特段高くなかった。しかし、依存傾 向中程度を含めると、韓国69.4%、日本68.3%、イ ギリス65.8%、アメリカ65.5%であった。これらの ことから、わが国のスマートフォン保有者の依存傾 向中程度以上の割合は高いことが分る。 成人のみならず小学生においても、ネット使用が 精神的健康に悪影響を与える可能性9)やオンライン ゲームへの依存と抑うつとの関連が示されている10) ように、インターネット依存とメンタルヘルスの関 連についての研究は増えてはいるが、まだ十分とは いえない。特に、依存症になる前段階である依存傾 向者に関する研究が少ない。また、インターネット の利用時間と生活習慣の関連についての研究はある が、依存傾向のある者に関する身体的、精神的、社 会的健康度を含む健康度と生活習慣の関連について の研究は、ほとんど見あたらない。 以上のような背景から、本研究では、スマート フォンの利用率が高い大学生を対象に、ネット依存 傾向と健康度および生活習慣に関する調査を実施 し、ネット依存傾向がみられる者に関して、身体的、 精神的、社会的健康度と生活習慣の関連性について ▶▶▶ Ⅱ 方 法 1 .対象者および調査事項 対象者は、A 大学、A 大学短期大学部の学生188 名である。調査にあたり A 大学の倫理審査委員会の 承認を得た後、対象者に対して事前に研究の趣旨を 文書および口頭で説明し、回答用紙の提出をもって 研究への参加同意と判断した。調査事項として、 「インターネット依存傾向尺度(J-尺度)」、「健康 度・生活習慣診断検査(Diagnostic Inventory of Health and Life Habit : DIHAL.2)」、「気分プロフィー ル検査(Profile of Mood States : POMS)」を実施 した。調査時期は2015年10月とした。
2 .インターネット依存傾向尺度(J-尺度)による 分類
インターネット依存傾向の測定には、Kimberly S. Young(1998)が作成した診断基準 Internet Addic-tion Test(IAT)11)が用いられることが多い。これ
は、アメリカ精神医学会(American Psychiatric Association : APA)に よ る DSM-Ⅳ(American Psychiatric Association, 1994)の病的賭博や薬物依 存の診断基準をインターネットにあてはめ作成した ものである12)。 鄭13)は、ネット依存測定尺度は病的賭博や薬物依 存から翻案されたものが多く、インターネット依存 傾向者の心理的状態に注目した研究が少ないと指摘 している。そこで、鄭は日本独自の大学生向けのイ ンターネット依存傾向測定尺度(Internet Depen-dence Tendency Measurement Scale:J-尺度)(以 下、J-尺度とよぶ)を作成した。 J-尺度13)は、禁断状態、現実との区別支障、日常 生活・身体的悪影響、肯定的メリット、快的満足 感、仮想的対人関係、没入の 7 つの下位尺度、49の 質問項目で構成されている。「まったくそうでない ( 1 点)」「そうでない( 2 点)」「どちらともいえない ( 3 点)」「そうである( 4 点)」「いつもそうである ( 5 点)」の 5 件評定法を用いる。総合得点が高いほ どネット依存傾向が強い。J-尺度の総合得点より上 位群25%を依存傾向高群、中位群50%を依存傾向低 群、下位群25%を非依存群の 3 群に分類される。 鄭13)の調査項目を基にした携帯電話の依存傾向に ついて測定した先行研究14)では、女子大学生におけ るネット依存傾向の割合は50.7%であった。Young
ネット依存傾向と健康度・生活習慣との関連 DIHAL.2 は、各被験者について、因子ごとの点数 を求め、因子ごとのⅠ群とⅡ群の群間比較を t 検定 により実施した。また、運動、食事、休養の合計点 から生活習慣の得点を求め、 4 つの尺度(健康度、 運動、食事、休養)と生活習慣全体におけるⅠ群と Ⅱ群の群間比較を t 検定により実施した。正規性の 検定については、Shapiro-Wilk 検定を行った。統計 解析には SPSS Statistics 19を使用した。 4 .気分プロフィール検査(Profile of Mood States : POMS) POMS17)は、McNair により米国で開発された気 分を評価する質問紙法である。緊張-不安(T-A)、 抑うつ-落込み(D)、怒り-敵意(A-H)、活気 (V)、疲労(F)、混乱(C)の 6 つの気分尺度を測 定することができる。また、被験者がおかれた条件 により変化する一時的な気分・感情の状態を測定で きるという特徴を有している。 POMS17)の 6 つの尺度の意味を以下に示す。T-A (Tension-Anxiety)は、「気がはりつめる」、「不安 だ」などの 9 項目から構成され、緊張および不安感 をあらわす。D(Depression-Dejection)は、「ゆう うつだ」など15項目から構成され、抑うつ感をあら わす。A-H(Anger-Hostility)は、「怒る」、「すぐ喧 嘩したくなる」などの12項目から構成され、この尺 度が高い場合は不機嫌であったり、イライラがつ のっていることを示す。V(Vigor)は、「生き生き する」などの 8 項目から構成され、この尺度が低い 場合は活気が失われていることを示唆する。F (Fatigue)は、「ぐったりする」などの 7 項目から 構成され、意欲減退、活力低下をあらわす。この尺 度が高い場合は強い疲労感を示す。C(Confusion) は、「頭が混乱する」などの 7 項目から構成され、 当惑、思考力低下をあらわす。この尺度が高い場合 は、自覚的な認識・思考障害を示す。 POMS は、各被験者について、尺度ごとの合計得 点から標準化得点(T 得点=50+10×(素得点-平 均値)÷標準偏差)を求めた。そして、尺度ごとの Ⅰ群とⅡ群の群間比較を t 検定により実施した。正 規性の検定については、Shapiro-Wilk 検定を行っ た。統計解析には SPSS Statistics 19を使用した。 ▶▶▶ Ⅲ 結 果 調査対象者188名のうち有効回答者は138名(男性 34名、女性104名)(有効回答率73.4%)であった。 のネット中毒尺度を使用し、大学生を対象にネット 依存傾向を測定した先行研究3)ではネット依存傾向 の割合は約58.0%、若年層を対象に測定した先行研 究15)では中程度以上のネット依存傾向の割合は 56.2%であった。 先行研究3, 14, 15)の結果から、本研究においても ネット依存傾向群が約半数を占めることが予測さ れ、ネット依存傾向群の問題点を抽出するために、 J-尺度の分類によるネット依存傾向高群とネット依 存傾向低群をネット依存傾向群(Ⅰ群)とし、非依 存群(Ⅱ群)と比較することにした。分類した 2 群 について、以下に記す DIHAL.2 と POMS の各結果 の特徴を分析した。 質問紙のフェイスシートには、性別、年齢と「自 身はネット依存傾向にあると思うかどうか」を尋ね た。回答は、「そう思う」、「どちらともいえない」、 「そう思わない」の 3 つの選択肢の中から、自覚状 況を自己評価するものとした。 尺度は、因子ごとのⅠ群とⅡ群の群間比較を J-尺度の合計得点の平均値より実施した。各因子の正 規性の検定については、Shapiro-Wilk 検定を行った。 その後、一元配置分散分析を行い、等分散性が確認 される場合は Tukey を、等分散性が確認されない 場合は Games-Howell の方法による多重比較を行っ た。統計解析には SPSS Statistics 19を使用した。 3 .健康度・生活習慣診断検査(Diagnostic Inven-tory of Health and Life Habit : DIHAL.2) DIHAL.216)は、日常生活における健康状態の推測 を可能にするものである。徳永幹雄により作成さ れ、個人や集団の健康度および生活習慣の実態や変 容、健康度と生活習慣の相互関係、体力的、医学 的、心理的検査結果の関係などを分析し、個人や集 団の資料をもとに望ましい健康や生活習慣へ変容す るように教育的指導を行うことを目的としている。 DIHAL.216)は、健康度、運動、食事、休養の 4 尺 度、47の質問項目で構成されている。健康度は身体 的、精神的、社会的健康度の 3 つの因子から構成さ れている。運動は運動行動・条件、運動意識の 2 つ の因子、食事は食品のバランス、食事の規則性、嗜 好品の 3 つの因子、休養は休息、睡眠の規則性、睡 眠の充足度、ストレス回避の 4 つの因子から構成さ れている。運動、食事、休養の 3 尺度は生活習慣を 表す。因子別の評価は 5 段階評価の得点で算出し、 各因子、各尺度は高得点ほど望ましいと判断され る。
回答者138名を以下の分析対象とした。 1 .J-尺度による分類とネット依存傾向自覚状況 J-尺度の最高点は200点、最低点99点、平均点は 107.18点であった。本研究では、上位群25%に相当 する依存傾向高群の学生は 2 人(1.4%)、中位群 50% に 相 当 す る 依 存 傾 向 低 群 の 学 生 は78人 (56.5%)、下位群25%に相当する非依存群の学生は 58人(42.0%)であった。 本研究では、依存傾向高群に相当する 2 人と依存 傾向低群に相当する78人の合計80人(58%)をネッ ト依存傾向群、58人(42%)を非依存群とし、 2 群 に分類した。ネット依存傾向群をⅠ群、非依存群を Ⅱ群とした。 ネット依存傾向の自覚について表 1 に示す。回答 者125人のうち、「そう思う」68人(54.4%)、「どち らともいえない」20人(16.0%)、「そう思わない」 37人(29.6%)であった。J-尺度合計得点の平均は、 「そう思う」は117.21点、「どちらともいえない」は 109.40点、「そう思わない」は88.03点であった。「そ う思う」、「どちらともいえない」は「そう思わな い」と比較して有意に高値を示した。 ネット依存傾向の自覚状況の群間差を比較するた め、群別に分類した結果を表 2 に示す。ネット依存 傾向の自覚状況は、Ⅰ群では「そう思う」47人 (65.3%)、「どちらともいえない」13人(18.1%)、 「そう思わない」12人(16.7%)であった。Ⅱ群では 「そう思う」21人(39.6%)、「どちらともいえない」 7 人(13.2%)、「そう思わない」25人(47.2%)で あった。 J-尺度合計得点の平均は、Ⅰ群では、「そう思う」 は131.98点、「どちらともいえない」は125.31点、 「そう思わない」は114.50点であった。Ⅱ群では、 「そう思う」は84.14点、「どちらともいえない」は 79.86点、「そう思わない」は75.32点であった。Ⅰ群 では、「そう思う」は「そう思わない」と比較して 有意に高値を示した。Ⅱ群では、有意差が見られな かった。 2 .DIHAL.2 DIHAL.2 の各因子得点、各尺度得点、生活習慣合 計の平均値および標準偏差を群間比較した結果を表 3 に示す。尺度別では、Ⅰ群の「健康度」の平均得 点は、Ⅱ群と比較すると、有意に低値を示した。因 子別では、Ⅰ群の「身体的健康度」、「精神的健康 度」「睡眠の充足度」の平均得点は、Ⅱ群と比較す n=125人 *p<0. 05 **p<0. 01 依存傾向自覚 そう思う どちらともいえない そう思わない 人数(%) 68(55. 4) 20(16. 0) 37(29. 6) 平均値 117. 21 109. 40 88. 03** 標準偏差 29. 64 26. 86 23. 48* 表 2 群別の J-尺度合計得点の平均値および 標準偏差 Ⅰ群 n=72人 Ⅱ群 n=53人 **p<0. 01 依存傾向自覚 そう思う どちらとも いえない そう思わない Ⅰ 群 人数(%) 47(65. 3) 13(18. 1) 12(16. 7) 平均 131. 98 125. 31 114. 5 ** 標準偏差 22. 82 18. 02 12. 66 Ⅱ 群 人数(%) 21(39. 6) 7(13. 2) 25(47. 2) 平均 84. 14 79. 86 75. 32 標準偏差 9. 21 8. 34 15. 33 表 3 DIHAL.2 の各尺度・因子の平均値および 標準偏差 **p<0. 01 *p<0. 05 尺度 因子 Ⅰ群 (n=80人) (n=58人)Ⅱ群 平均 標準偏差 平均 標準偏差 健 康 度 身体的健康度 13. 5 2. 5 14. 5 2. 6 * 精神的健康度 13. 1 2. 6 14. 4 2. 7 ** 社会的健康度 12. 1 3. 4 12. 5 3. 6 合計 38. 7 6. 2 41. 3 6. 7 * 生 活 習 慣 運 動 運動行動・条件 13. 2 4. 5 13. 6 5. 1 運動意識 9. 5 2. 2 10. 1 2. 2 合計 22. 8 6. 1 23. 7 6. 7 食 事 食事のバランス 20. 5 4. 8 20. 5 5. 6 食事の規則性 11. 7 3. 6 12. 4 3. 7 嗜好品 9. 4 1. 3 9. 0 2. 0 合計 41. 7 7. 1 41. 9 8. 8 休 養 休息 10. 7 2. 7 11. 1 2. 6 睡眠の規則性 7. 7 2. 8 7. 8 2. 7 睡眠の充足度 10. 9 3. 0 12. 1 2. 8 * ストレス回避 13. 5 2. 1 13. 9 2. 7 合計 42. 8 7. 7 44. 9 7. 7 生活習慣合計 107. 2 15. 7 110. 5 18. 3
ネット依存傾向と健康度・生活習慣との関連 定方法に関わらず、大学生の50%以上にネット依存 傾向が見られた先行研究3, 14, 15)の結果と同様であっ た。これらの結果から、現在の大学生にはネット依 存傾向のみられる者が多く存在していることがわ かった。 鄭の J-尺度による測定の結果18)は、依存傾向高群 28.3%、依存傾向低群55.0%、非依存群16.7%で あった。また、かなり高いネット依存傾向がみられ る大学生・大学院生が7.6%であった15)と報告され ている。これらの結果と比較すると、本研究では依 存傾向高群に相当する者は1.4%と低い結果となっ た。しかし、様々なアプリケーションの使用など更 なるスマートフォンの普及が予測され、依存傾向低 群や非依存群に相当する者が依存傾向高群に移行す る可能性が懸念される。 J-尺度合計得点の平均値は、ネット依存傾向が 「あると思う」と回答した者の平均値が最も高く 117.21点、「どちらともいえない」と回答した者が 次に高く109.40点、「そう思わない」と回答した者 は88.03点と低かった。本研究では、J-尺度において Ⅰ群では、自身にネット依存傾向があることを自覚 している学生が約65%を占めた。Ⅰ群は、鄭18)の J-尺度の総合得点の分類による依存傾向高群と依存傾 向低群に相当する。先行研究18)の依存傾向高群と依 存傾向低群の40%が自身にネット依存傾向があると 自覚していることと比較すると、本研究では自覚し ている学生が多く、自覚しながらも依存しているこ とがわかった。ネット依存についての調査研究19)に おいても、悪影響を及ぼしていると自覚はあるもの の利用してしまう傾向がうかがえると述べている。 先行研究20)では、アルコールや薬物などの物質依 存とギャンブルや買い物など行動によるプロセス依 存の特徴を、繰り返し続ける(反復性)、意思と判 断を越えて繰り返される(強迫性)、意思と判断の 抑制がはずれる(衝動性)、執拗で徹底している (貪欲性)、好きでやっている、何もかも忘れられる (自我親和的)、自己に不利な悪影響を及ぼす(有害 性)と述べている。また、ギャンブル依存症の特 徴21)を自分は病気ではないなどとして、現状を正し く認知できないため発病を発見しにくい(否認の 病)、放置しておくと悪化していくことが多い(進行 性の慢性疾患)、犯罪や自殺につながるケースがあ る(自己破滅的な病)、家族を巻き込む病、治癒しな いが回復はあると述べている。ネット依存は、ギャ ンブル依存と同様、行為への過程への依存である。 ると、有意に低値を示した。運動、食事、休養では 有意差はみられなかった。しかし、Ⅰ群の運動、休 養の各尺度および各因子の平均得点は、Ⅱ群と比較 すると低値を示した。Ⅰ群の食事の平均得点は、Ⅱ 群と比較すると低値を示し、因子別では、食事の規 則性の平均得点が、Ⅱ群と比較すると低値を示し た。 3 .POMS POMS の各尺度の T 得点の平均値および標準偏 差を群間比較した結果を表 4 に示す。Ⅰ群の「T-A (緊張-不安)」、「D(抑うつ-落込み)」、「A-H(怒 り-敵意)」と「C(混乱)」の得点は、Ⅱ群と比較 すると、有意に高値を示した。 ▶▶▶ Ⅳ 考 察 1 .J-尺度による分類とネット依存傾向自覚状況 Young が作成した IAT により依存傾向を測定し た先行研究では、大学生の約58%にネット依存傾向 が見られ3)、高校生から大学院生(14歳から24歳) の若年層の56.2%に中程度以上のネット依存傾向が 見られた15)ことが報告されている。また、大学生、 大学院生の7.6%、高校生の5.2%にかなり高いネッ ト依存傾向があり、特に大学生の 1 、 2 年生におい てネット依存の傾向が高くなっている15)ことを報告 している。 鄭13)の調査項目を基にした携帯電話の依存傾向に ついての質問を含むアンケートを実施した先行研究 では、女子大学生におけるネット依存傾向の割合は 50.7%であった14)。 本研究の J-尺度の結果においても、ネット依存傾 向がある者は全体の58%を占めた。この結果は、測 表 4 POMS 各尺度の平均値および標準偏差 **p<0. 01 *p<0. 05 尺度 Ⅰ群(n=80人) Ⅱ群(n=58人) 平均 標準偏差 平均 標準偏差 T-A 53. 55 9. 83 49. 76 9. 08 * D 60. 88 12. 80 54. 57 9. 63 ** A-H 53. 64 10. 33 49. 57 9. 88 * V 45. 81 9. 79 46. 50 8. 73 F 54. 58 9. 70 52. 50 8. 75 C 59. 50 11. 15 54. 66 9. 72 ** T-A:緊張-不安 D:抑うつ-落込み A-H:怒り-敵意 V:活気 F:疲労 C:混乱
るように、ネット依存についても同様に、自覚しな いまま依存傾向が進行する可能性が推測できる。自 覚がないと回答した者は先行研究18)の約33%と比較 すると、本研究では、Ⅰ群におけるネット依存傾向 の自覚がないと回答した者は約17%と低かった。し かし、ネット依存傾向の自覚がない約17%は、イン ターネット依存傾向にあるⅠ群であることから、 ギャンブル依存と同様、自覚しないまま依存傾向が 深刻化する可能性があり、対策を検討する必要があ ると考えられる。 Ⅱ群におけるネット依存傾向の自覚については、 有意差が見られず、「そう思わない」と回答した者 が約47%であった。多くの者が依存傾向がないこと を自覚していることがわかった。 2 .DIHAL.2 DIHAL.2 の因子別の結果では、Ⅰ群の身体的健康 度、精神的健康度、睡眠の充足度の平均得点は、Ⅱ 群と比較すると、有意に低値を示した。因子別の評 価16)は 5 段階評価の得点で算出し、高得点ほど望ま しいと判断され、下記の傾向が強くなる。身体的健 康度については、毎日ぐっすり眠っている、食欲が ある、勉強ができる、体力がある、肥えすぎややせ すぎがない。精神的健康度については、グループ適 応力、対人関係が良い、イライラ感がない、勉強が スムーズにはかどる。睡眠の充実度については、十 分な睡眠時間がある、昼間の眠たさがない、目覚め や休み明けの体調がよい。Ⅰ群は、睡眠不足のため 昼間に眠たくなり、勉強がスムーズにはかどらず、 大学生活に影響を及ぼしていることが推測できる。 大学生を対象としたインターネット利用状況と睡 眠習慣、食習慣、運動習慣との関連に関する先行研 究22)では、インターネット使用量は睡眠習慣や食習 慣の乱れと関連していると報告されている。 本研究の DIHAL.2 の結果においても、ネット依 存傾向のあるⅠ群の睡眠の充実度、身体的健康度、 精神的健康度は、非依存群であるⅡ群と比較する と、低値を示した。因子別では「食事の規則性」に 有意差はみられなかったが、Ⅰ群の「食事の規則 性」の平均得点はⅡ群と比較すると、低値を示し た。「食事の規則性」は高得点ほど朝食・昼食・夕 食のずれが少なく、欠食がない傾向が強くなる。こ れらの結果から、Ⅰ群は就寝時間が遅くなることか ら夜食の習慣化や目覚めの体調不良から朝食の欠食 などに繋がることが予測される。また、このような 繋がると考えられる。ネット依存傾向のある者は、 ネットの多用により、睡眠習慣、身体的健康と精神 的健康が相互に悪影響を与える可能性が示唆され た。 3 .POMS 大学生を対象としたネット依存傾向とメンタルヘ ルスとの関係における先行研究では、ネット依存傾 向がある学生ほど孤立感、疲労感、抑うつ度が高 い3)ことが示され、また、落込み、不安、孤立、友 人関係の問題をかかえている2)ことが報告されてい る。 本研究の POMS の結果では、Ⅰ群はⅡ群と比較 すると、「緊張-不安」、「抑うつ-落込み」、「怒 り-敵意」、「混乱」が有意に高値を示した。 POMS の手引17)では、T 得点が高値を示す場合、 「緊張-不安」は不安感を、「抑うつ-落込み」は 抑うつ感をあらわし、「怒り-敵意」は不機嫌やイ ライラがつのっていることを、「混乱」は自覚的な 認識・思考障害を示すとしている。 先行研究2, 3)と同様、本研究の POMS の結果にお いても、Ⅰ群は不安感、抑うつ感、イライラがつ のっていることが示唆された。イライラ感は、対人 関係の問題にも影響を及ぼす可能性がある。イライ ラ感と対人関係の問題は、DIHAL.2 の精神的健康度 にも含まれている。これらのことから、ネット依存 傾向のある者は、精神的健康に問題があることがわ かった。しかし、先行研究23)でも述べられているよ うに、もともと精神的健康に問題がある者がイン ターネット依存傾向に陥りやすいという可能性は否 定できない。さらに、双方向に影響している可能 性23)も述べている。鄭4)は、インターネット依存傾 向と精神的健康は互いに影響を及ぼしあっているこ とを明らかにしている。依存の特徴20)である反復 性、強迫性、衝動性、貪欲性に示されるようにネッ トの過度の使用が、生活上の優先順位を入れ替え、 ネット依存に繋がると考えられる。これらのことか ら、本研究にもインターネット依存傾向と精神的健 康の相互影響が存在する可能性は否定できない。 インターネットは仕事や生活に欠かすことのでき ないツールとなっており、今後も重要なコミュニ ケーションツールとして発展を遂げると考えられ る。同時にネット依存の問題が様々な形で出現する ことが予想される。本研究の結果から、インター ネットを適正に使用するための予防教育やネット依
ネット依存傾向と健康度・生活習慣との関連 ンブル.武庫川女子大学文学部五十周年記念論文集, 1999; 405-16. 7 ) 小寺敦之:日本における「インターネット依存」調査の メタ分析.情報通信学会誌 2014; 31(4). 8 ) 総務省:平成26年度版 情報通信白書 ネット依存傾 向の国際比較.(オンライン)入手先〈http://www. soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h26/html/ nc143110.html〉,(参照2015-12-11) 9 ) 高比良見詠子,安藤玲子,坂本 章:ネット使用が精神 的健康および社会的不適応に与える影響(1)─小学生に おけるツール別ネット使用の効果─日本社会心理学会第 44回大会(東洋大学)発表論文集,2003; 620-1. 10) 平井大祐,葛西真記子:オンラインゲームへの依存傾向 が引き起こす心理臨床的課題 潜在的不登校・ひきこも り心性との関連性.臨床心理学研究 2006; 24(4): 430-41.
11) Young KS: Internet addiction: the emergence of a new clinical disorder. Cyber Psychology and Behavior, 1998; 1(3): 237-44. 12) 堀 洋道監修:心理測定尺度集Ⅴ,東京,サイエンス 社,2011; 280, 301. 13) 鄭艶花:日本の大学生の“インターネット依存傾向測定 尺度”作成の試み.心理臨床学研究 2007; 25(1): 102-7. 14) 上濱龍也,清水茂幸,澤村省逸,清水 将:大学生にお ける携帯電話の使用状況と依存傾向について.岩手大学 教育学部研究年報 2013; 72: 1-10. 15) 安岡広志,佐藤 健,塩地成香,中島みずき,井川正 治:若年層のインターネットの利用とネット依存傾向に ついて.人間-生活環境系シンポジウム報告集,2014; 253-4. 16) 徳永幹雄:健康度・生活習慣診断検査(DIHAL.2,中学 生~成人用),福岡,トーヨーフィジカル,2004. 17) 横山和仁,荒記俊一:POMS 手引,東京,金子書房, 2010. 18) 鄭艶花,野島一彦:大学生の<インターネット依存傾向 プロセス>と<インターネット依存傾向自覚>に関する 実証的研究.九州大学心理学研究 2008; 9: 111-7. 19) 川尻達也,佐藤 進,鈴木貴士,他:学生の生活習慣お よびメンタルヘルスの実態.金沢工業大学 KIT Prog-ress 2014; (21): 139-45. 20) 大谷信盛:ギャンブル依存者のタイプ分類と公共政策─ グループ属性から効果的な依存問題対策を導く試み─. 大阪商業大学アミューズメント産業研究所紀要 2015; (17): 227-49. 21) 尾上 毅:ギャンブル依存症(病的賭博)とは─プライ マリケアにおける対応について.月刊保団連 2013; (1138): 19. 22) 田口雅徳:大学生におけるインターネット利用状況と健 康行動との関連.情報科学研究 2008; (25): 89-93. 23) 戸部秀之,竹内一夫,堀田美枝子:児童生徒のインター ネット依存傾向とメンタルヘルス,心理・社会的問題性 との関連.学校保健研究 2010; (52): 125-34. 存への早期の気づきが必要であると考えられる。予 防教育や依存傾向にあることを早期に気づかせるこ とが若者のネット依存症深刻化への軽減に繋がるこ とが期待される。 ▶▶▶ Ⅴ 結 論 本研究では、大学生を対象としたネット依存傾 向、健康度、生活習慣に関する調査を実施し、ネッ ト依存傾向のある者と健康度、生活習慣の関連性に ついて検討を行った。その結果、ネット依存傾向の ある者に関して、ネットの多用が睡眠習慣、身体的 健康と精神的健康に影響を及ぼしていることが示唆 された。また、依存傾向のある者には、ネット依存 の自覚がある者が多かったが、自覚がありながらも 依存してしまう傾向にあることがわかった。また、 自覚がない者は多くはなかったが、自覚しないまま 依存傾向が進行する可能性があり、自覚を促す必要 性があると考えられた。 予防教育を通して、ネット依存が生活習慣や心身 の健康に与える危険性について啓発することが重要 であると考えられる。予防教育が依存に至ることを 未然に防ぎ、依存傾向を深刻化させない一助となる ことが期待される。また、将来、生活習慣の乱れか ら生じる生活習慣病など様々な疾病の予防にも繋が ると考えられる。 著者の COI(conflict of interest)開示:本論文発表内容 に関連して特に申告なし ▶▶▶ 参考文献 1 ) 総務省:平成26年通信利用動向調査の結果.(オンライ ン)入手先〈http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/ statistics/data/150717_1.pdf〉,(参照2015-12-11) 2 ) 岡本百合,三宅典恵,神人 蘭,他:大学生のインター ネット使用の実態.総合保健科学広島大学保健管理セン ター研究論文集 2014; 30: 7-13. 3 ) 伊藤将晃:大学生のインターネット中毒傾向に関する研 究.臨床教育心理学研究 2009; 35: 9-14. 4 ) 鄭艶花:インターネット依存傾向と日常的精神健康に関 する実証的研究.心理臨床学研究 2008; 26(1): 72-83. 5 ) 文部科学省:情報化が子どもに与える影響(ネット使用 傾向を中心として)に関する調査報告書,2002; 1-144. 6 ) 安藤明人:インターネット依存とインターネット・ギャ
impact on their health and lifestyle performance
Yuko Katayama
1), Yuko Mizuno-Matsumoto
2)1) Shikoku University, Junior College
2) Graduate School of Applied Informatics, University of Hyogo
The number of internet users has continued to increase through the rapid spread of smart phones.
Internet dependence is a crucial issue. The purpose of this research is to find the relationship between
overall health performance (physical and mental health, social health, and lifestyle health), in university
students with an addictive internet dependence tendency. We investigated this tendency in university
students using a J-scale to measure such internet dependence tendency as described by Zheng
Yanhua. We divided the university students into two groups (an internet dependence tendency group
and a non-internet dependence group). In this research, university students were asked about
awareness of their own internet dependence tendencies, and the impact of this tendency on their
overall health performance including their mood states.
As a result, 58% of the 156 university students were found to be internet dependentee, and 42%
were found to be non-internet dependentee. We found that the subjects with an internet
dependence tendency may also have problems sleeping, which is affected both by physical and
mental health problems. The dependent were also unstable, had depression, and were generally
more impatientee than the non-dependent group.
Although the university students with the internet dependence tendency were more aware of their
dependence tendency, they still depended on the internet. University students without awareness
of their internet dependence tendency were less so, but it is possible that their internet dependence
could become worse due to their lack of awareness.
Based on this study and others, university students need preventive education to teach them how
to use the internet appropriately to ameliorate the ill effects of internet dependence on their overall
health and lifestyles.
(HEP. 2016;43:657-664.)