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料の受入, 前処理, 糖化, 発酵, 蒸留の工程からなる. 原 の場合はヘミセルラーゼを使用しないものとした. 糖化温 料は, 稲わらを束状で購入し,2 mm 以下に切断して用いる 度, 糖化時間は, それぞれ 45 C,24 h とした. 各処理技術 こととした. 前処理工程は, リン酸水熱処理,

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稲わらからのエタノール生産における

リン酸水熱前処理酵素糖化法のコスト分析

Cost analysis of ethanol production from rice straw by phosphoric acid-hydrothermal

pretreatment and enzymatic hydrolysis method

柳 田 高 志

*

・ 藤 本 真 司

*

・ ヘ ゙ ス ヒ ゚ ャ ト コ リ ュ ト ゙ ミ ラ

*

Takashi Yanagida Shinji Fujimoto Lyudmyla Yuriyivna Bespyatko

井 上 誠 一

*

・ 塚 原 建 一 郎

*

・ 澤 山 茂 樹

*,**

・ 美 濃 輪 智 朗

*

Seiichi Inoue Kenichiro Tsukahara Shigeki Sawayama Tomoaki Minowa

(原稿受付日 2009 年 12 月 10 日,受理日 2010 年 4 月 9 日) 1.はじめに 近年,バイオエタノールは,石油に代わる輸送用燃料と して注目されつつある.日本では,バイオエタノールの原 料として,食糧と競合しないリグノセルロース系バイオマ スの利用が検討されている 1).リグノセルロース系バイオ マスからのエタノール生産は,デンプン・糖質系バイオマ スを原料とする場合と比較して,そのプロセスは複雑にな り技術的・経済的な難易度が高い.これまでに硫酸法によ るプロセスが報告されているが,筆者らは,稲わらからの エタノール生産としてメカノケミカル前処理/水熱前処 理・酵素糖化法の開発2-5)およびシステム評価6,7)を行って きた. 稲わらの糖化前処理としての水熱処理時に添加剤として リン酸を用いること(以下,リン酸水熱)で,糖化率が向上 すること,および,後段の酵素糖化におけるヘミセルラー ゼが不要になることが報告されている 8).エタノール生産 プロセスにおけるリン酸の使用は,糖化液を中和すること なく酵素のオンサイト生産等の基質として利用できること や,プロセス外に排出される副産物がリン用途の大部分を 占める肥料代替となるため稲わらを持ち出した農地へ還元 することにより持続可能な土地利用の一助となるなどの利 点がある.このプロセスのコスト要因の特徴としては,リ ン酸使用による追加経費とヘミセルラーゼの不要による経 費削減,あるいは,糖化率の向上による原料およびセルラ ーゼの使用量削減,それに伴う装置のサイズダウンによる 固定費削減の経済的トレードオフの関係が成り立つことに ある.しかしながら,これらの要素は複雑に相互作用して いるため不明な点が多く,プロセス全体のエタノール製造 コストへの影響は明らかにされていない.そこで,本研究 では,水熱前処理,酵素糖化,発酵,蒸留の 4 つの工程か らなるエタノール生産プロセスにおいて,水熱前処理工程 でリン酸を使用した場合のコスト分析をおこない,トレー ドオフ関係にある要因を定量的に確認すること,および, リン酸を使用する経済的優位性が出る条件を検討すること を研究の目的とした.前処理技術の比較シナリオとして, リン酸水熱前処理,水熱前処理のみ,前処理無の 3 つを比 較した.さらに,リン酸水熱前処理に関して,リン酸を回 収しない場合とイオン交換膜電気透析装置を用いて回収・ 再利用する場合の比較検討を行った. 2.プロセスの概要と設定条件 2.1 プロセスの概要と評価範囲 本研究におけるエタノール製造プロセスの概要を図 1 に 示す.プロセスシミュレーションは市販の Microsoft Excel (マイクロソフト社),Pro/II(インベンシス社)を用いて 行った. 本研究で対象としたエタノール製造の評価範囲は,稲わ らの購入からエタノール生産までとした.プロセスは,原 This paper focuses on the cost analysis of ethanol production from rice straw by hydrothermal pretreatment with phosphoric acid. In this case, there are economical trade-off relations such as the costs of phosphoric acid and enzyme. The purpose of this study is to clarify the economical trade-off relations and to find more economically advantageous conditions over hydrothermal pretreatment method. Under the conditions assumed here, recovery and reuse of phosphoric acid is important for the cost reduction. An increase in amount of sugar yield of 3% or more is required to obtain an advantage to use phosphoric acid during hydrothermal process.

* (独)産業技術総合研究所バイオマス研究センター 〒739-0046 広島県東広島市鏡山 3-11-32 e-mail minowa.tom@aist.go.jp **京都大学大学院農学研究科応用生物科学専攻 〒606-8502 京都府京都市左京区北白川追分町

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0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 前処理無 リ ン 酸水熱 14 0˚ C リ ン 酸水熱 16 0˚ C リ ン 酸水熱 18 0˚ C リ ン 酸水熱 20 0˚ C 水熱 16 0˚ C 水熱 18 0˚ C 糖化率 [-] グルコース キシロース 糖化 発酵 蒸留 稲わら(束状) 粗エタノール (濃度92.5wt%) 酵母生産 貯蔵(酵素) 粗粉砕 (シュレッダー; ≦2mm) 貯蔵(リン酸) 栄養素 蒸留残渣 廃酵母 水熱処理(140°C, 160°C, 180°C, 200°C) リン酸回収 水熱処理(160°C, 180°C) 前処理無(粗粉砕のみ) 料の受入,前処理,糖化,発酵,蒸留の工程からなる.原 料は,稲わらを束状で購入し,2 mm 以下に切断して用いる こととした.前処理工程は,リン酸水熱処理,および,比 較技術としての水熱のみの処理(リン酸添加なし)と無処 理(粗粉砕のみ)を選択した.糖化は酵素糖化を,発酵は 酵母によるエタノール発酵を想定した.蒸留はエタノール 濃度を共沸組成近傍の 92.5wt%(83mol%)まで濃縮するこ ととした. 図 1 エタノール製造プロセスの概要 2.2 原料と各技術の仕様設定 (1) 原料 原料の稲わらは含水率 15%とした.稲わら中の糖の組成 は実験値8)を参考に,グルコース(Glu)含有量 360 mg/g-稲わら(乾燥),キシロース(Xyl)含有量 142 mg/g-稲わら(乾 燥)と設定した. (2) 粗粉砕 束状稲わらをシュレッダーで 2 mm 以下まで切断し,こ れを粗粉砕物とした. (3)リン酸添加 リン酸水溶液の濃度は実験値 8)に基づき 0.7%(w/w)とし た. (4) 水熱処理 水熱反応器は,スクリューフィーダータイプの連続式水 熱反応器を想定し,それぞれ反応温度 140, 160, 180, 200˚C で処理することとした.このときの固形分濃度は 10 wt%と した.熱交換器を設置し,熱回収(廃熱温度 50˚C)を想定し た. (5) リン酸回収 リン酸の回収は,メーカーヒアリングを参考にイオン交 換膜電気透析法とした.リン酸の 85.7%を回収できるもの とし,回収液濃度は 10%と設定した. (6) 酵素糖化 糖化では,酵素の添加量は実験データを参考にセルラー ゼ 24.39 mg/g-稲わら(酵素活性 10 FPU/g-稲わら相当),ヘ ミセルラーゼ 3.8 mg/g-稲わらと設定した.リン酸水熱処理 の場合はヘミセルラーゼを使用しないものとした.糖化温 度,糖化時間は,それぞれ 45˚C,24 h とした.各処理技術 における糖化率は実験データ5,8)に基づき図 2 に示す値に 設定した. (7) 発酵 エタノール発酵は,Glu・Xyl のエタノール変換可能な酵 母9,10)を使用すると仮定して,糖化液中の Glu および Xyl の 90%がエタノールに変換されるものとした.発酵温度, 発酵時間は,それぞれ 30℃,24 h とした.酵母の生産は, 栄養素と廃酵母を培地として生産することとした.このと きの培地組成は, KH2PO4,(NH4)2SO4 ,MgSO4・7H2O,廃酵 母を,それぞれ,0.10 wt%,0.10 wt%,0.05 wt%,4.00 wt% とした. (8) 蒸留 蒸留は,蒸留塔段数 30 段,エタノール回収率 99%,製 品濃度 92.5 wt%(83 mol%)と条件設定した.蒸留塔リボイラ ー側出口流れとフィード入口流れでの熱回収を想定した. 図 2 各処理技術における糖化率5,8) 2.3 プラント規模と各装置の仕様設定 プラント規模は,バイオ燃料技術革新協議会11)の計画し ているバイオマス・ニッポンケースの拠点単位を参考に 1.5 万 kL/y と設定した.運転時間は 24 h/d,稼働日数は 300 d/y とした.上記の各工程に必要な主要機器は,シュレッダー, 水熱反応器,各種タンク,ポンプ,蒸留塔,熱交換器であ る.これらの主要機器の能力およびサイズは,各種設定条 件から導出した年産 1.5 万 kL のエタノール製造に必要な物 質フローをベースに算出し,余裕率係数 1.3 を乗じて決定 した.ただし,各装置の最大容量あるいは最大能力を超え る場合は,平均能力の装置を複数台設置することとした. 2.4 エタノール製造コストおよびプロセスエネルギーの試 算方法 エタノールの製造コストは,固定費,修繕費,材料費,

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0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 リン酸水熱140℃(リン酸回収無) リン酸水熱160℃(リン酸回収無) リン酸水熱180℃(リン酸回収無) リン酸水熱200℃(リン酸回収無) リン酸水熱140℃(リン酸回収有) リン酸水熱160℃(リン酸回収有) リン酸水熱180℃(リン酸回収有) リン酸水熱200℃(リン酸回収有) 水熱160℃ 水熱180℃ 前処理無 エタノール製造コスト[¥/L] 酵素 リン酸 リン酸回収 原料(稲わら) その他 0 5 10 15 20 25 30 35 リン酸水熱140℃(リン酸回収無) リン酸水熱160℃(リン酸回収無) リン酸水熱180℃(リン酸回収無) リン酸水熱200℃(リン酸回収無) リン酸水熱140℃(リン酸回収有) リン酸水熱160℃(リン酸回収有) リン酸水熱180℃(リン酸回収有) リン酸水熱200℃(リン酸回収有) 水熱160℃ 水熱180℃ 前処理無 プロセスエネルギー[MJ/L] 前処理 糖化 発酵 蒸留 光熱費,人件費を一年間あたりの費用に割り戻して算出し, その合計を年間エタノール生産量で除して,エタノール一 単位あたりの製造コストとして表した.プロセスエネルギ ーは,プロセス中で必要な電力量と熱量を合計して算出し た.ここで,電力量は単位のみを kWh から GJ へ変換し,一次 エ ネ ル ギ ー へ は 変 換 し て い な い . 稲 わ ら 購 入 価 格 15 ¥/kg-dry,酵素調達費用はオンサイト生産 12)を想定し 300 ¥/kg と設定した.固定費,修繕費,材料費,光熱費,人件 費の算出方法については,既報6)に従った. 3.結果と考察 3.1 エタノール製造コストとプロセスエネルギーの試算結 果 稲わらからのエタノール生産におけるリン酸水熱前処 理法の製造コストおよびプロセスエネルギーの試算を行っ た.各処理における全体のエタノール製造コストおよびプ ロセスエネルギーの試算結果をそれぞれ図 3,4 に示す. 図 3 では,製造コストの内訳として酵素,リン酸,リン酸回 収(リン酸回収有の場合のみ),原料およびその他の項目に 分類した.その他には,固定費(リン酸回収以外),修繕費 (リン酸回収以外),材料費(酵素,リン酸,原料以外), 電気費(リン酸回収以外),熱費および人件費を含む.図 4 はプロセスエネルギーの試算結果を示しており,その内訳 を各工程で分類した. リン酸水熱前処理によるエタノール製造コストは,反応 温度 140, 160, 180, 200˚C で,それぞれ,221,204,237,323 ¥/L であった.前処理しない場合(前処理無)の製造コス トは 417 ¥/L で,前処理としてのリン酸水熱処理工程の導 入は 22~51%のコスト削減効果があることが明らかとなっ た.しかしながら,水熱のみの場合の製造コストは 185~ 216 ¥/L で,リン酸を添加する経済的な優位性は得られなか った.また,リン酸を回収・利用する場合では反応温度 140, 160, 180, 200˚C で,それぞれ,192,177,205,279 ¥/L で あり,回収しない場合と比較して約 13%のコストダウンと なった.リン酸水熱のリン酸回収・利用の反応温度 160˚C の条件が最も製造コストが低く,水熱のみの場合よりも優 位となった. リン酸水熱前処理によるプロセスエネルギーは,反応温 度 140, 160, 180, 200˚C で,それぞれ,20.8,19.0,22.4,30.8 MJ/L であった.水熱のみの場合のプロセスエネルギーは, 20.5~24.1 MJ/L で,反応条件によってはリン酸水熱が優位 となる場合があった.前処理しない場合(前処理無)のプ ロセスエネルギーは 10.4 MJ/L で,水熱処理を施す方法と 比較して,半分以下であった.これは,当然のことながら, 前処理に投入するエネルギーが少ないこと(水熱処理を行 う場合の1/6 以下)に由来している.また,リン酸を回収・ 利用する場合のプロセスエネルギーは反応温度 140, 160, 180, 200˚C で,それぞれ,21.2,19.4,22.8,31.5 MJ/L であ り,回収しない場合と比較して約 2%程度の増加となった. 図 3 リン酸水熱前処理法による稲わらバイオエタノール 製造コスト 図 4 リン酸水熱前処理法による稲わらバイオエタノール プロセスエネルギー 3.2 リン酸水熱処理におけるエタノール製造コストへの影 響要因 ここで,リン酸水熱の経済的トレードオフ関係を定量的 に確認するため,最も製造コストの低かった水熱のみ (180˚C)を基準として,リン酸水熱処理法の各項目のコス ト増減を試算した.結果を図 5 に示す. 図 5 の縦軸の正の値は水熱のみ(180˚C)に対して費用の 追加を,負の値は削減を表している.リン酸の購入費用は, リン酸水熱の反応温度 140, 160, 180, 200˚C において,それ ぞれ,46.1,42.2,49.6,68.5 ¥/L であり,コスト全体の約 21%を占める影響が大きい要因であった.これに対し,リ ン酸水熱の利点の一つであるヘミセルラーゼ費用の削減は 5.0 ¥/L であり,その効果は相対的に小さかった.これは本 研究で設定した条件において,酵素中のヘミセルラーゼの 割合が少なく,リン酸水熱のヘミセルラーゼ不要という効 果が小さかったためである.リン酸費用とヘミセルラーゼ 費用以外の項目は,コストの増加と削減が混在していた.

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0 20 40 60 80 100 120 250 300 350 400 450 コス ト /L ] 糖生成量[mg/g-稲わら] 原料費 セルラーゼ 熱 固定費 修繕費 電力 材料費 -40 -20 0 20 40 60 80 100 120 140 160 リ ン 酸水熱 14 0 ℃ リ ン 酸水熱 16 0 ℃ リ ン 酸水熱 18 0 ℃ リ ン 酸水熱 20 0 ℃ コ ス ト の増減 ( リ ン 酸水 熱 - 水熱 18 0 ℃ ) /L ] 熱 電力 修繕費 固定費 材料費 原料費 セルラーゼ リン酸 ヘミセルラーゼ これらの項目に共通した変動因子は糖化率である.糖化率 を糖の生成量として整理し,各項目のコスト増減と糖生成 量の関係を図 6 に示した.ここでの糖生成量は,前処理・ 酵素糖化後の糖の生成量とし,式(1)で定義した. 糖生成量[mg/g-稲わら] = Glu 含有量[mg/g-稲わら] × Glu 糖化率[-] + Xyl 含有量[mg/g-稲わら] × Xyl 糖化率[-] (1) 図 5 水熱のみ(180˚C)の前処理と比較したリン酸水熱法 のコストの増減 各項目は糖生成量が増加すると減少する負の相関関係に あり(図 6),糖生成量が最大であったリン酸水熱 160˚C で は各項目のコストは最小値を示した.このリン酸水熱 160˚C は,水熱のみ 180˚C と比較しても,リン酸以外のす べての項目がコスト削減(図 5)となっているにも拘らず, リン酸購入費以上の効果がなかった.以上のことから,リ ン酸の使用とヘミセルラーゼの削減の間の経済的トレード オフの関係はリン酸購入費用の負の要因が強くなり,糖化 率(糖生成量)向上による削減はリン酸費用を上回る効果 がないことが明らかとなった. したがって,リン酸水熱が 水熱のみの前処理法よりも経済的に優位になるためには, リン酸費用の削減が重要な課題となる. 3.3 リン酸回収工程導入の効果 リン酸水熱におけるリン酸購入費用の削減方法として, リン酸を回収し再利用することが想定される.そこで,リ ン酸を回収・再利用した場合のエタノール製造コストを試 算した(図 3).水熱の反応温度 140, 160, 180, 200˚C で,そ れぞれ,192,177,205,279 ¥/L であった.リン酸水熱で はリン酸回収工程をシステムに導入することにより約 13 ~14%の削減効果がみられた.製造コストの最も低かった 水熱反応温度 160˚C の内訳を比較すると,リン酸を回収す ることにより,リン酸費用が 36.2 ¥/L 減少,リン酸回収費 用が 8.0 ¥/L 増加した.ここでのリン酸回収費用は,イオン 交換膜電気透析装置とポンプの固定費,修繕費,消費動力 を含む.リン酸回収費用の増加分は,リン酸水熱の酵素費 用削減分と同程度であった.以上のことから,リン酸購入 費用削減とリン酸回収費用の間の経済的トレードオフの関 係はリン酸購入費用削減の要因が強くなり,導入による経 済効果があることが明らかとなった.水熱のみの製造コス トは反応温度 180˚C の場合に 185 ¥/L であったので,それ と比較するとリン酸水熱の反応温度 160˚C のリン酸回収・ 再利用した場合は 177 ¥/L であり,経済的に優位であった. しかしながら,この優位性も不確実性を考慮すると大差が なく,更なる製造コストの低減が望まれる. また,リン酸回収工程導入後のプロセスエネルギーは前 処理工程として約 9%の増加であったが,全体としては約 2%程度の増加でありほとんど影響はなかった. 図 6 水熱のみ(180˚C)の前処理と比較したリン酸水熱法 のコストの増減と糖生成量の関係 3.4 リン酸水熱前処法の導入条件 水熱処理にリン酸を添加する経済的優位性を満たす条件 を検討するために,製造コストへの影響が大きい要因とし て糖生成量を取り上げ,それらの関係性を調べた.図 7 に, リン酸水熱法(リン酸回収有)と水熱のみの前処理法によ る糖の生成量と製造コストの関係を示す. 図 7 は,横軸に糖生成量を縦軸にエタノール製造コスト を示しており,リン酸水熱法(リン酸回収有)を実線で, 水熱法を破線で示している.この 2 つの線の横軸方向の差 (図中 a)は,あるエタノール製造コストにおいて,水熱 処理にリン酸を添加した場合に製造コストを等しく保つた リン酸水熱 200℃ リン酸水熱 160℃ リン酸水熱 180℃ リン酸水熱 140℃

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150 170 190 210 230 250 270 290 200 250 300 350 400 450 500 エ タ ノ ー ル 製造コ ス ト /L ] 糖生成量[mg/g-稲わら] リン酸水熱(回収有り) リン酸水熱160℃(回収有り、リン酸価格が現状の2倍) 水熱 実験値 めの糖生成量の追加必要分を表している.つまり,水熱の みの場合と比較してリン酸水熱の経済的優位性を担保する ための条件は,a の値以上の糖生成量の増加(図中 a’)が 見込まれる場合となる.a の値は,エタノール製造コスト ともに変化するが,水熱のみの場合の糖生成量の約 2~3% である.一方,2 つの線の縦軸方向の差(図中 b)は同じ糖 生成量の場合のリン酸水熱のコスト増加分を示している. a’が見込まれる条件において,b’が製造コストの削減分と なる.たとえば,水熱のみ(180˚C)とリン酸水熱(160˚C, リン酸回収有)の場合における a,a’,b,b’の値は,それ ぞれ,10.3 mg/g-稲わら,18.2 mg/g-稲わら,4.1 ¥/L,7.9 ¥/L であった.このときの a の値は,水熱のみの糖生成量 393.5 mg/g-稲わらの 2.6%であった.この条件では,リン酸水熱 が水熱のみよりも経済性優位となる糖生成量の増加分 (a’:18.2 mg/g-稲わら)があったためエタノール生産コス トが 7.9 ¥/L 削減された.さらに,リンの価格が高騰した場 合の試算を行った.リン酸価格が現状の 2 倍に高騰した場 合として,図 7 に点線で示した.当然のことながら,経済 性は悪化し,リン酸を添加しない水熱法に対し,リン酸添 加による糖収量が水熱のみの処理時の 6.5%以上の増加が 見込まれない場合は経済的にリン酸を添加する利点はない ことが明らかとなった. 図 7 リン酸水熱法(リン酸回収有)と水熱のみの前処理 法の糖生成量とエタノール製造コストの関係 以上のことから,水熱のみの前処理と比較してリン酸を 添加する経済的優位性を満たす条件は,リン酸を添加した 場合の糖生成量が水熱のみの糖生成量の約 3%以上の増加 が見込まれる場合である. 4.結論 本研究では,稲わらからのエタノール生産プロセスにお いて,リン酸水熱前処理酵素糖化法の製造コストの分析を 行った. リン酸水熱のエタノール製造コストは,前処理を行わな い場合の約半分であったが,水熱のみの方法と比較すると リン酸を添加する経済的な優位性は得られなかった.リン 酸の使用と酵素削減(ヘミセルラーゼ不要)の間の経済的 トレードオフの関係において,リン酸購入費用の負の要因 が強くなったためである.しかしながら,リン酸を回収・ 再利用することで経済的優位性が担保された.リン酸購入 費用削減とリン酸回収費用の間の経済的トレードオフの関 係はリン酸購入費用削減の要因が強くなり,リン酸回収工 程導入によりリン酸水熱前処理のコスト削減効果がみられ た.水熱のみの前処理法よりも経済的に優位となる条件は, リン酸を添加した場合の糖生成量が水熱のみの糖生成量の 約 3%以上の増加が見込まれる場合である. 謝辞 本研究は,農林水産省委託研究「地域活性化のためのバ イオマス利用技術の開発」の一環として行われた. 引用文献 1) 農 林 水 産 省 「 バ イ オ マ ス ・ ニ ッ ポ ン 」; http://www.maff.go.jp/j/biomass/(2009/11/12)

2) H. Inoue, S. Yano, T. Endo, T. Sakaki and S. Sawayama; Combining hot-compressed water and ball milling pretreatments to improve the efficiency of the enzymatic hydrolysis of eucalyptus, Biotechnol. Biofuels, 1:2 (2008), 1-9. 3) 藤本真司,井上宏之,矢野伸一,坂木剛,美濃輪智朗, 遠藤貴士,澤山茂樹,坂西欣也;リグノセルロース系 バイオマスからの非硫酸バイオエタノール製造法の 開発―メカノケミカル前処理・酵素糖化法―,J. Jpn. Peterol. Inst., 51-5 (2008), 264-273. 4) 遠藤貴士;バイオ燃料を木材からナノテクで生産する -セルロースの構造特性を利用した酵素糖化前処理 技術-,Synthesiology, 2-4 (2009), 310-320.

5) A. Hideno, H. Inoue, K. Tsukahara, S. Fujimoto, T. Minowa, S. Inoue, T. Endo and S. Sawayama; Wet disk milling pretreatment without sulfuric acid for enzymatic hydrolysis of rice straw, Bioresour. Technol., 100-10 (2009), 2706-2711. 6) 柳田高志,藤本真司,秀野晃大,井上宏之,塚原建一 郎,澤山茂樹,美濃輪智朗;稲わらからのエタノール 生産における非硫酸前処理法のプロセスエネルギー

b’

a

a’

b

(6)

および経済性評価,エネルギー・資源,30-5 (2009), 8-14. 7) 佐賀清崇,藤本真司,柳田高志,多田千佳,ベスピャトコ リュドミラ ユリイブナ,バティスタ エルマー,美濃輪智朗;前処理・ 糖化法の違いを考慮したセルロース系バイオエタノ ール製造プロセスの比較評価,エネルギー・資源,30-2 (2009), 9-14. 8) 吉村忠久,井上誠一;イナワラの酵素糖化に対するリ ン酸水熱処理の効果,第 4 回バイオマス科学会議発表 論文集,(2009),102-103.

9) A. Matsushika, S. Watanabe, T. Kodaki, K. Makino and S. Sawayama; Bioethanol production from xylose by recombinant Saccharomyces cerevisiae expressing xylose reductase, NADP+-dependent xylitol dehydrogenase, and

xylulokinase, J. Biosci. Bioeng., 105-3 (2008), 296-299. 10) A. Matsushika, H. Inoue, K. Murakami, O. Takimura and S.

Sawayama; Bioethanol production performance of five recombinant strains of laboratory and industrial xylose-fermenting Saccharomyces cerevisiae, Bioresour. Technol., 100-8 (2009), 2392-2398. 11) バ イ オ 燃 料 技 術 革 新 協 議 会 ; http://www.maff.go.jp/j/biomass/b_innovation/02/pdf/data4 .pdf (2009/11/16) 12) 藤本真司,美濃輪智朗,井上宏之,澤山茂樹,遠藤貴 士;バイオエタノール生産の非硫酸前処理のシステム 検討,第 16 回日本エネルギー学会大会講演要旨集, (2007),198-199.

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