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わが国企業における業績評価指標活用の実態分析

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わが国企業における業績評価指標活用の実態分析

――分権型組織を対象として―― 丹生谷 晋* 小 倉 昇** 論文要旨:本研究はわが国企業における財務的・非財務的業績評価指標の運用実態につい て明らかにすることを目的としている。研究に当たっては東証1部上場企業の中から分 権型組織形態を採用していると見られる 3,245 部門に対し質問調査表を郵送し,307 部門 から回答を得た。財務的業績評価指標については,事業部門からグループ本社へ報告され るのは依然として売上高,営業利益,経常利益が中心であることが明らかになった。品質 に関する指標以外の非財務的業績評価指標については,事業部門からグループ本社へ報告 されるものは過半数に満たなかった。また,業績評価指標を Simons が提唱する対話型コ ントロールシステムとして活用している企業・部門が多いことなどが明らかにされた。 キーワード:分権的組織,財務的業績評価指標,非財務的業績評価指標,対話型コントロー ルシステム 1 はじめに 企業組織には,全社―事業部―部・支店・工場 ―課・係―従業員個人といった階層がある。経営 者が掲げた全社的な経営目標を達成するために は,少なくとも目標設定段階で全社目標が順次各 職層へブレークダウンされ,下位職層の目標が上 位職層の目標達成の手段として連鎖している状態 (以下これを「目標間の連鎖体系」という)が実現さ れ て い る 必 要 が あ る(田 中・石 崎・原 田 2006, 40-42)。これはマネジメントが目標を基準として 統制を行うシステムであることを前提とすれば当 然のことと言える。マネジメントにおける統制と は,「計画によって明らかにされた目標とその達 成方法に人々の注意を向け,やる気を起こさせ, その実行を命令し,指導し,規制し,調整し,そ の結果を目標と比較して評価し,必要があれば是 正措置を取ること」(岡本・廣本・尾畑・挽 2008, 12)であり,基準となる各目標間のベクトルが一 致していない限り組織全体の目標が達成されるこ とは難しい。例えば,事業部長が今年はマーケッ トシェアを犠牲にしても収益確保に向かうと決意 し,売上高利益率の向上を目標として設定したと 仮定する。それにもかかわらず,従来どおり部下 の営業部長がマーケットシェアの拡大を,工場長 が工場の稼働率向上をそれぞれ目標として設定し たとすると,営業部長と工場長がそれぞれ目標を 達成したとしても事業部長の目標は達成できない 可能性が高い。そこで,このような齟齬が生じな いよう,多くの企業は予算編成あるいは計画策定 段階で各職層間の調整に相当の時間と労力を費や している。例えば,Hope and Fraser(2003,4-6) は,予算編成は対象となる年度の最低でも4ヵ月 前には開始され,平均で 4 ∼ 5ヵ月の期間を要し, シニア・エグゼクティブおよび財務担当マネ ジャーの時間を 20 ∼ 30%も占有しているという データを紹介している。 しかしながら,これだけの時間と労力を費やし たとしても各職層の目標間に連鎖体系を確保する ことは必ずしも容易ではない。一般に企業のトッ * 筑波大学大学院ビジネス科学研究科博士後期課程 〒 112-0012 東京都文京区大塚 3-29-1(2009.01.05 受理) ** 筑波大学大学院ビジネス科学研究科

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プマネジメントレベルで設定された財務的業績目 標は,これをいくつかの副次的目標に分解して事 業部に割り当て,事業部ではさらにその下の部門 に対し担当部署の業務内容に沿った部門目標に置 き換えて割り当て,その達成に向けて現場での実 施活動が行われる。櫻井(1999,4-5)が指摘する ように,全社レベルでは経営成績を総合的に評価 す る 指 標 と し て 経 常 利 益,ROI(return on investment:投資利益率),売上利益率,残余利益率 など用いられるが,工場レベルでは製造原価,生 産性,生産量,品質など,さらに下位の現場レベ ルでは仕損の削減,在庫の削減,クレームの減少 等の具体的でわかりやすい物量尺度が用いられ る。このように下位職層になるほど会計的数値で はなく非財務的業績評価指標(以下「非財務指標」) に置き換える必要が出てくるが,トップマネジメ ントが掲げる全社的目標を複数職層を経て分解す る中で,毎年計画策定時の限られた時間の中で多 様な目標間の連鎖体系を検証し,必要かつ十分な レベルの目標水準を確保することは実務上相当の 困難が伴うであろうと推察される。 また,目標設定段階で苦労の末に目標間の連鎖 体系を確保できたとしても,その後の環境変化に 伴い,戦略や目標そのものを変更せざるを得なく なる場合も出てこよう。目標の硬直性は,例えば 需要が急激に減少したにもかかわらず生産目標を 変えないと無用な在庫が積み上がる,あるいは目 標を死守するために押し込み販売や架空売上を行 うなど,経営上逆機能をもたらす場合がある。予 測不能で不連続な環境変化に直面する今日,一年 を通じて目標値を固定化することは困難であり, 環境変化に応じて柔軟に見直す必要があると考え られるが,反面,評価結果を報酬等に連動させて いる企業が多い現況下では,一旦合意の上設定さ れた目標を複数の職層にわたって変更するための 手間・コストは決して小さなものではない。 このような問題意識から,「グループ経営にお ける事業部門の業績評価システムに関するアン ケート調査」(以下「本調査」)が企画された。本稿 では,本調査結果で得られたデータを通じて,わ が国企業における目標の達成度を測定する尺度と しての業績評価指標の運用,および環境変化に伴 う目標変更のマネジメントの状況を中心に考察し ていく。特に前者の業績評価指標については,財 務業績を中心に測定する伝統的な業績評価システ ムが抱える問題点を解決する一方策として,同シ ステムに組み込むことが重要視されている非財務 指標に着目し,わが国企業における最近の運用実 態を明らかにしていきたい。 2 「グループ経営における事業部門の業績 評価システムに関するアンケート調査」 2.1 調査送付先の選定 本研究では,調査対象として分権型組織形態に おける事業部門を取り上げた。事業部門は自律的 な経営ユニットとして包括的な財務的業績評価指 標(以下「財務指標」)から顧客,品質,生産・製造 等に係る非財務指標まで広範にマネジメントして いると考えられ,また,全社・グループの方針を 受けて部,課・係等の下位職層へ目標をブレーク ダウンしていく起点として重要と考えるからであ る。 分権型組織について,これまでの研究調査は事 業部制,カンパニー制,持株会社制等,いずれか の組織形態の一つだけを取り上げたものが多かっ た。本研究では多様な組織形態や名称が存在する ことを前提に幅広く対象をリストアップした。具 体的には『ダイヤモンド組織図・系統図便覧全上 場企業版 2008』および『ダイヤモンド会社職員録 上場会社版 2008』,各社の CSR 報告書,ホーム ページ等を通じて,東証1部上場製造業(建設業 を除く)のうち,分権的組織形態を採用している と考えられる企業の事業部門責任者あるいは事業 部門スタッフをリストアップし,質問調査票を送 付した。分権的組織形態として,事業部制,事業 本部制,カンパニー(社内分社)制,持株会社制等 を採用している企業をはじめ,機能別組織を採用 している企業であっても事業部組織を設定してい る場合は当該組織を,事業子会社を傘下に保有し ている場合は当該子会社をそれぞれ対象とした。 製造業を対象として絞った理由は,非財務指標に

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関する質問で生産・製造に関する回答を求めてい るためである。送付先の総数は 3,245 部門(社) に上った。また,事業責任者は事業部長,事業本 部長,カンパニープレジデント,事業会社社長等 の肩書・名称を指す。事業責任者の名称が特定で きない場合は当該部門の事業企画スタッフ宛てに 送付した。極めて大規模な企業の一部には,持株 会社の下に事業子会社,さらにその下に事業部と いう重層関係が見受けられたが,この場合にはグ ループ本社(以下「G 本社」)と事業部門間という 関係性がそれぞれに存在することから,双方に質 問調査票を送付した。ここで G 本社は,全社もし くはグループ全体の経営方針を定め,各事業部門 に対し経営資源を配分したり,事業活動を支援す る機能を担う組織を指す。 また,わが国における先行研究の多くは,企業 グループ内で統一の業績評価システムが運用され ていることを前提に G 本社の経営企画担当部門 を対象としていた。経営企画部門はグループ全体 を鳥瞰する立場にありグループの全体像を把握す る上では有効だが,各事業部門の運用状況を確認 するためには,直に事業部門の責任者やスタッフ から回答を得る方がより実態を把握できるであろ う。事業部門の責任者やスタッフを対象に質問紙 調査を実施したことは本研究の特徴の一つであ る。 2.2 回答企業のプロフィール 質問調査票は 2008 年5月 19 日,同年6月 16 日付けで発送した。投函締め切りはそれぞれ6月 5日,7月 10 日としたが,その後8月中旬まで返 送があった。回答数は 218 社 307 部門で回答率は 9.5%であった。 回答企業(有効回答)の業種,連結ベース売上 高,同従業員数は表1のとおりである。回答企業 の業種の構成比は東証1部製造業の業種の構成比 とほぼ同じであり,サンプルにはそれほど隔たり はないと判断した。なお,同一企業グループ宛て 表1 回答企業の業種・売上高・従業員数 業種 度数 構成比 食料品 7 2.3% 繊維製品 16 5.2% 金属製品 9 3.0% 紙・パルプ 10 3.3% 化学 49 16.1% 医薬品 9 3.0% 石油・石炭製品 4 1.3% ゴム製品 7 2.3% ガラス・土石製品 11 3.6% 鉄鋼 18 5.9% 非鉄金属 9 3.0% 輸送用機器 19 6.2% 機械 32 10.5% 精密機械 12 3.9% 電気機器 64 21.0% その他製品 29 9.5% 合 計 305 100.0% 不明 2 売上高(連結ベース) 度数 構成比 100億円未満 19 6.3% 100∼500億円未満 49 16.1% 500∼1000億円未満 37 12.2% 1000∼5000億円未満 106 34.9% 5000億円∼1兆円未満 37 12.2% 1兆円以上 56 18.4% 合 計 304 100.0% 不明 3 従業員数(連結ベース) 度数 構成比 100人未満 12 3.9% 100∼500人未満 31 10.2% 500∼1000人未満 29 9.5% 1000∼5000人未満 104 34.1% 5000∼10000人未満 41 13.4% 10000人以上 88 28.9% 合 計 305 100.0% 不明 2 同一グループ内回答部門数別社数 回答部門数 社数 5部門 3 4部門 10 3部門 8 2部門 31 1部門 166 合 計 218

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に複数の質問票を送付したが,同一グループ内回 答部門数は,1部門のみが 166 社,2部門が 31 社, 3部門8社,4部門 10 社,5部門3社という結果 であった。 3 調査結果 3.1 事業部門から G 本社へ報告されている業績 評価指標 まず,事業部門から G 本社へ報告されている業 績評価指標を財務指標と非財務指標に分けて見て いく。 岡本・河南(2004,8-10)によれば,企業におけ る財務指標の歴史的変遷は,⑴規模の拡大を志向 していた時代は売上高およびマーケットシェア, 次いで⑵コストを考慮した利益を重視する指標と して経常利益や営業利益,⑶資本効率をより重視 した指標として ROA(return on assets:総資本利 益率)や ROE(return on equity:自己資本利益率), ⑷キャッシュフローや資本コストを包含した新し い指標として EVA®(economic value added:経済 的付加価値)や ROIC(return on invested capital:投

下資本利益率)と推移してきた。特に EVA®は米 国企業スターン・スチュアートによって開発され, 1987 年にコカ・コーラ社に採用されて以来欧米企 業で急速に普及し,わが国でも花王やソニーに代 表される企業が相次いで導入し,注目を集めてき た(佐々木 2002,113-115)。企業全体で重視され ている財務指標は,自律的な組織形態である事業 部門においても同様に管理され,その達成状況を G 本社に対して報告することが求められるであろ う。このような観点から,わが国企業の財務指標 の運用状況について見ていく。 一方,財務指標に偏重した業績測定は,①近視 眼的な経営を促す,②集計された時は過去の情報 でタイムリーに企業の業績を反映しない,③集約 された情報でアクションが取れないといった弊害 が指摘されているが(Johnson and Kaplan 1987 ; Eccles 1991 ; Kaplan and Norton 1992 ; Merchant 1998 ; 加登・河合 2002),日本企業は欧米企業と異 なり,かなり以前から非財務指標を重視してきた と言われている。加護野・野中・榊原・奥村(1983) は,米国企業では ROI と株価が重要視されてい るのに対し,日本企業では市場占有率や新製品比 率を中心に多様な経営目標が重要視されているこ とを示した。また,星野(1999,27-28)ではわが 国製造企業が財務指標に加えて市場シェア伸び 率,製品品質,生産計画の達成度のような非財務 指標を重視しているという結果が示されている。 なお,河合(2004,48)は多様な非財務指標が運用 されつつも,品質以外の指標については重視して いる業績指標の成果満足度がそれほど高くないと 指摘している。これらの諸点を踏まえ,非財務指 標の運用状況を分析していく。 なお,事業部門から G 本社に対し計画の進捗状 況および実績見込みや実績を報告するサイクル は,表2のとおり,月次,四半期毎の合計でいず れも約9割に達している。特に実績については月 次での報告が 77.9%となっており,環境変化が著 しい今日,G 本社の多くは各事業部門の業績を月 単位でモニタリングしていることがわかる。 3.1.1 財務指標 事業部門が G 本社へ報告している財務指標に ついて尋ねたところ,図1のとおりの結果が得ら れた。なお,財務諸表もしくはそれに基づき包括 的な報告をしている場合はその中で特に重視して いる指標を選択させた。売上高,営業利益,経常 利益が上位3位を占める一方,EVA や ROA 等 資本効率を考慮した指標についてはいずれも予想 に反して低水準であった。これは,経営企画部門 を対象に実施してきた過去の調査結果と大きく異 なっている(例えば Sakurai 1990)。 ただし,業績評価指標の選択はグループ経営に おける事業部門の役割(ミッション)の影響を受 けると考えられる。本調査では PPM 理論に基づ く4つのミッション(育成,収穫,維持,撤退)を ベースに,近年シェアードサービス型の分社が増 加していることを踏まえ「グループ内支援機能」, さらにいずれにも区分されないものとして「その 他」という選択肢を加え,計6つの中から一つを 選択させた。結果は表3のとおり,「2.マーケッ

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ト・シェアを維持し,適正な投資利益率を獲得す る(維持)」が過半数を占めた。 このうち回答数の少なかった「5.近い将来縮 小もしくは(一部)撤退を検討している」「6.そ の他」を除いた4つの役割(ミッション)毎の各指 標の報告の割合を示したものが表4であるが,い ずれも統計的に有意な差はなく,いずれの役割 (ミッション)を担う事業部門も等しく売上高,営 業利益,経常利益を重視しているということが明 らかになった。 なお,回答を寄せた 307 部門は社内組織 195, 分社組織 93,不明 19 という内訳であるが,社内 組織の中で社内資本金制度があると回答した企業 は 195 部門のうち僅か 48 部門であった。 表2 G本社への報告サイクル ⑴計画進捗状況・実績見込 ⑵実績の報告 回答数 割合 回答数 割合 1.年に一度 5 1.7% 9 3.0% 2.半年 18 6.0% 10 3.3% 3.四半期 74 24.7% 37 12.2% 4.月次 193 64.3% 236 77.9% 5.週 8 2.7% 5 1.7% 6.毎日 2 0.7% 6 2.0% 7.その他 0 0.0% 0 0.0% 合 計 300 100.0% 303 100.0% 無回答・欠損値 7 4 図1 事業部門から G 本社に対して報告している財務的業績評価指標の割合

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3.1.2 非財務指標 ⑴ 非財務指標の活用状況 本調査では非財務指標について,①顧客・市場 に関する指標(顧客満足,市場占有率,顧客維持率な ど),②品質に関する指標(不良率,品質クレーム件 数など),③製品・技術開発に関する指標(特許件 数,製品開発リードタイムなど),④製造・生産活動 に関する指標(生産高,設備稼働率など),⑤環境・ 社会に関する指標(環境格付け,企業イメージな ど),⑥その他に区分し,[1]全社・グループ全体 で管理されているか,[2]事業部門が G 本社へ 報告しているか,[3]事業部門内でのみ管理して いるかを尋ねた。結果は表5のとおりであった。 グループ全体で管理されている指標で最も多い のは環境・社会に関する指標(60.9%)であり,こ の背景には CSR 経営の高まりがあると推察され る。反面,環境・社会に関する指標を事業部門か ら G 本社へ報告しているのは 35.2%しかない。 品質に関する指標は G 本社に報告している割合 が最も多かった(55.4%)が,これ以外はいずれも 表4 事業部門の役割(ミッション)毎の財務業績評価指標の採用の割合 合計 育成 維持 収穫 グループ内支援 売上高 92.5% 91.9% 93.2% 100.0% 93.0% 製造原価 57.0% 59.7% 61.1% 50.0% 53.5% 営業利益 87.3% 83.9% 83.3% 95.5% 83.7% 経常利益 73.3% 74.2% 77.2% 68.2% 90.7% 当期利益 56.7% 54.8% 53.1% 59.1% 74.4% 売上高利益率 57.0% 62.9% 54.3% 54.5% 60.5% 売上高対費用率 29.6% 35.5% 29.0% 22.7% 25.6% キャッシュフロー 42.7% 38.7% 43.2% 27.3% 53.5% EVA 6.5% 9.7% 7.4% 0.0% 4.7% ROA 23.1% 27.4% 22.2% 13.6% 23.3% ROE 13.0% 17.7% 13.6% 4.5% 7.0% ROIC 9.8% 8.1% 9.9% 9.1% 9.3% その他 6.8% 3.2% 8.6% 9.1% 4.7% 表3 事業部門の役割(ミッション) 回答数 割合 1.短中期的に低収益を受容しても,売上高やマーケット・シェアの増大を図る 育成 62 20.3% 2.マーケット・シェアを維持し,適正な投資利益率を獲得する 維持 164 53.6% 3.必要があればマーケットシェアを犠牲にしても短中期的に利益やCFの最大化を図る 収穫 22 7.2% 4.適正なコストでグループ内の各事業部門を支援する グループ内支援 43 14.1% 5.近い将来縮小もしくは(一部)撤退を検討している 撤退 3 1.0% 6.その他 その他 12 3.9% 合 計 306 100.0% 無回答 1

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過半数に達しなかった。ただし,いずれの非財務 指標も G 本社に報告していない事業部門は 61 件 で 無 回 答 の 9 件 を 除 い た 総 数 298 件 の 中 の 20.5%に過ぎなかった。逆に3種類以上の非財務 指標を G 本社に報告している事業部門は 43.3% に達している。わが国企業においては特定の種類 の非財務指標が重用されているわけではなく,財 務指標に混じっていずれか複数の非財務指標が報 告に用いられているという状況が伺われる。 ⑵ 非財務指標の信頼性 非財務指標は財務指標との結び付きが弱い可能 性が否定できないとの指摘がある(加登・河合

2002,81-82)。Lingle and Schiemann(1996,56-61) は,顧客満足度,業務効率などの非財務的情報を 経営上重視している企業においてもそれらの情報 の質への信頼性は低く,報酬へのリンクも少ない ことを示した。すなわち,非財務指標の重要性は 認識されつつその運用・活用がなかなか本格化し ていかない要因として,非財務指標に対する信頼 性 の 問 題 が あ る と 考 え ら れ る。本 調 査 で は, Lingle and Schiemann(1996)のフレームワーク に準拠して,それぞれの指標毎に「①価値を置き 重視している」,「②情報の質に信頼性がある」,「③ 指標の定義が明確である」,「④経常的に評価に用 いている」,「⑤報酬とリンクさせている」につい て,「1:当てはまらない」「2:どちらかと言え ば当てはまらない」「3:どちらとも言えない」 「4:どちらかと言えば当てはまる」「5:当ては まる」という5件法リッカートスケールにより評 価を求めた。このうち,「4:どちらかと言えば当 てはまる」「5:当てはまる」というポジティブな 評価の回答の合計を全回答に占める割合で示した のが図2である。「①価値を置き重視している」 という項目では財務指標と品質に関する指標が並 んで評価が高かったが,その他の指標も総じて高 水準であった。しかしそれ以外の項目では財務指 標への評価は高いが,非財務指標は品質に関する 指標の「情報の質に信頼性がある」という項目以 外は相対的に評価が低い。また,報酬とのリンク については各指標とも低水準であった。つまり, 非財務指標はその重要性を認められつつも,財務 指標に比して情報の質に信頼性がなく,定義が明 瞭な指標を見出せず,結果的に経常的に評価に用 いることも報酬にリンクさせることも難しいとい う現状が確認された。 表5 非財務的業績評価指標の運用状況 [1] [2] [3] ①顧客・市場に関する指標 109 133 109 35.5% 43.3% 35.5% ②品質に関する指標 141 170 94 45.9% 55.4% 30.6% ③製品・技術開発に関する指標 145 143 86 47.2% 46.6% 28.0% ④製造・生産活動に関する指標 142 139 97 46.3% 45.3% 31.6% ⑤環境・社会に関する指標 187 108 47 60.9% 35.2% 15.3% ⑥その他 5 3 6 1.6% 1.0% 2.0% ※回答データは当てはまると回答したものの集計値

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⑶ 非財務指標活用の効果 全般的には非財務指標に対する信頼性が高まら ない状況にあるが,非財務指標を活用することに よって得られる効果を確認してみよう。非財務指 標は,財務指標の先行指標として戦略に関する情 報をより多く提供することが期待されている(安 酸・乙政・福田 2008,79-80)。そこで,各事業部門 が G 本社への報告に際し非財務指標を活用した 方がそうでない場合に比べて戦略に関する情報の 伝達度は高まると推察される。 本調査では部門戦略,部門戦略の進捗状況,部 門が直面する機会や脅威に関する情報の G 本社 への伝達度を5件法のリッカートスケールで測定 しこれを従属変数として,各非財務的業績評価指 標の G 本社への報告の有無による平均値の差を 算出し,t 検定を行ったところ表6のような結果 が得られた。 顧客,品質に関する指標を G 本社への報告に用 いている事業部門では,部門戦略の進捗状況,機 会や脅威に関する情報の伝達に関し統計的に有意 な差が出た。同様に製品・開発,技術開発に関す る指標を活用している場合は,部門戦略や機会や 脅威に関する情報の伝達に関し統計的に有意な差 を生じた。別の角度から見れば,機会や脅威に関 する情報は環境・社会以外の指標すべてにおいて これらを活用した方が伝達度は高い。 以上のように,部分的にではあるが非財務指標 の活用は G 本社が事業部門の状況を理解する上 で有効であるとの結果が出ている。 3.2 業績評価指標を補完する非公式的な情報伝 達 従来から管理会計研究においては,「測定でき ないものは管理できない」という言葉に表れてい るように,業績情報は様々な財務・非財務指標を 通じて伝達されることが前提として考えられてき た。しかしながら,すべての項目に適切な業績評 価指標を設定することは必ずしも容易ではない。 田中・石崎・原田(2006,51-52)によれば,業績評 価指標は,①目標整合性の確保に結び付く組織成 果への貢献度を測定する総合的効率性の尺度とし て役立つこと,②行動規範として組織成員の行動 選択に対して重要な影響を与えられること,③自 律的決定の範囲に注意を喚起することによって目 図2 各業績評価指標に対する評価

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標達成への動機づけ機能を期待できること,④組 織成員が不公正や不満を感じないように行動科学 的配慮のもとで公平であること,⑤定量的な尺度 であることの5つの要件を満たす必要がある。だ が,現実的にこれらすべての要件を満足させられ るような業績評価指標を見出すことは難しいであ ろう。仮に適切な業績評価指標を見出すことがで きたとしても,測定・収集するために莫大なコス トがかかるなどいわゆる接近可能性の問題に直面 する。そこで,業績評価指標を設定できない項目 についてはフェース・ツー・フェースのコミュニ ケーションのような非公式的なマネジメント・コ ントロールで補完する必要がある(松本 2004)。 本調査では,事業部門の戦略,事業部門の戦略 の進捗状況,事業部門が直面している機会や脅威 それぞれについて,「フォーマルな会議や文書を 通じてではなく,他のインフォーマルな方法や ルートを通じて入手している」情報の割合を尋ね たところ,表7のとおりとなった。 「20%未満」の回答が最も多かったが,「20%以 上 40%未満」「40%以上 60%未満」の合計は概ね 50%前後に達しており,非公式的な情報伝達の活 用度はいずれも高水準にあった。また,事業部門 から G 本社への業績情報の報告状況を尋ねたと ころ,業績評価指標を用いた定期的な報告が5段 階評価で 4.60 であったのに続き,業績評価指標 以外の定性的な情報伝達が 4.31,業績評価指標と して伝達しにくい脅威やビジネスチャンスに関す 表6 非財務業績評価指標の活用の成果 各業績指標の 活用 部門戦略の伝達度 部門戦略の進捗状況に関する伝達度 部門が直面する機会や脅威に関する伝達度 平均値 S. D. 平均値 S. D. 平均値 S. D. 顧客 あり 4.14 0.62 4.12 0.542 4.03 0.625 なし 4.06 0.54 3.98 0.629 3.78 0.698 差 0.08 - 0.14 * 0.25 ** t検定結果 t=1.145,df=299.5,p=.253 t=2.085,df=303,p=.038 t=3.188,df=269.8,p=.002 品質 あり 4.14 0.62 4.12 0.542 4.03 0.625 なし 4.06 0.54 3.98 0.629 3.78 0.698 差 0.08 - 0.14 * 0.25 ** t検定結果 t=1.145,df=299.5,p=.253 t=2.085,df=303,p=.038 t=3.118,df=269.85,p=.002 製品開発 技術開発 あり 4.19 0.52 4.100 0.548 4.060 0.634 なし 4.02 0.63 4.020 0.615 3.800 0.676 差 0.17 * 0.08 - 0.26 ** t検定結果 t=2.468,df=303,p=.014 t=1.183,df=3031,p=.238 t=3.373,df=296.6,p=.001 生産 製造 あり 4.12 0.55 4.09 0.509 4.04 0.623 なし 4.09 0.61 4.02 0.643 3.82 0.693 差 0.03 - 0.07 − 0.22 ** t検定結果 t=0.359,df=302,p=.720 t=1.027,df=302,p=.305 t=2.820,df=296.6,p=.005 環境 社会 あり 4.15 0.53 4.09 0.604 3.970 0.636 なし 4.08 0.61 4.04 0.575 3.89 0.686 差 0.07 - 0.050 - 0.08 -t検定結果 t=1,029,df=303,p=.304 t=0.814,df=303,p=.416 t=.996,df=299,p=.320 (注)**:1%水準有意,*:5%水準有意

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る情報伝達は 4.11 と,各事業部門が自部門の状 況を G 本社に理解してもらうために,業績評価指 標によらない非公式的な情報伝達を積極的に活用 していることが明らかになった。 3.3 業績評価指標の活用方法:対話型コントロー ルシステム 前項までマネジメントは目標を基準として統制 を行うシステムであることを前提に検討してき た。Simons(1995,2000)はこれを「診断型コント ロールシステム」と呼ぶ一方で,業績情報のモニ タリングを通じて新たなビジネスチャンスを発掘 し戦略創造を誘導する「対話型コントロールシス テム」という概念を提唱している。これは,戦略 の不確実性を前提にトップやマネジャーが関心を 示す情報を明示することで組織成員の関心をそれ へ集中させ,継続的な対話の中で新たな戦略創造 に繋げていくというものである。 そこで,本調査では⑴業績評価情報の活用につ いて,「1:目標達成状況を把握するのみ」∼「3: どちらとも言えない」∼「5:環境変化を読み取 り新しい戦略仮説を導き出す」,⑵業績評価情報 に基づいた分析・検討について,「1:目標と実績 が乖離した場合のみ検討」∼「3:どちらとも言 えない」∼「5常時分析・検討する」,⑶業績評価 指標に対する部門トップの注目について,「1:部 門トップが常に注目している」∼「3:どちらと も言えない」∼「5:部門トップは注目していな い」,⑷業績評価指標に対するマネジャー層の注 目について,「1:マネジャー層が常に注目してい る」∼「3:どちらとも言えない」∼「5:マネ ジャー層は注目していない」のいずれかを選択す るよう求めた。結果は表8のとおりであるが,⑴ 業績評価指標の活用については,「4」「5」の合 計が過半数を超えている。同様に,⑵業績評価情 報に基づいた分析・検討も「4」「5」の回答の合 計が3分の2を超えている。すなわち,これは Simons の言う対話型コントロールシステムとし て業績評価指標を活用している企業・事業部門が 多いということを示唆していると考えられる。 3.4 環境変化への対応 本節では,本稿のもう一つの課題である環境変 化に伴う目標変更のマネジメントの状況について 見ていく。 3.4.1 直面する環境変化のスピード 本調査では,各事業部門が直面している経営環 境の変化のスピードについて,顧客の嗜好・要求, 技術変化,市場の環境変化のスピード(どのくら い先の期間まで予測確度の高い売上計画を策定でき るか)という3つの観点から尋ねた。結果は表9 のとおり,顧客の嗜好・要求,技術変化のスピー ドについては「4.2 ∼ 4 年程度」が最頻値であっ たが,市場の環境変化のスピードについては「2. 数ヶ月から半年」という回答が最も多く,年初に 策定した売上計画は半年以内に何らかの見直しを せざるを得ない事業部門が過半数を占めた。 表7 非公式的な情報の割合 ■事業部門の戦略 インフォーマルな 情報の割合 度数 構成比 20%未満 125 41.3% 20%以上40%未満 78 25.7% 40%以上60%未満 62 20.5% 60%以上80%未満 33 10.9% 80%以上 5 1.7% 合計 303 100.0% ■事業部門の戦略の進捗状況 インフォーマルな 情報の割合 度数 構成比 20%未満 125 41.1% 20%以上40%未満 82 27.0% 40%以上60%未満 64 21.1% 60%以上80%未満 29 9.5% 80%以上 4 1.3% 合計 304 100.0% ■事業部門が直面している機会や脅威 インフォーマルな 情報の割合 度数 構成比 20%未満 105 35.1% 20%以上40%未満 84 28.1% 40%以上60%未満 67 22.4% 60%以上80%未満 39 13.0% 80%以上 4 1.3% 合計 299 100.0%

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3.4.2 計画の前提が大きく変化した時の対応 期首に策定した年度計画・事業計画の前提が大 きく変化し,このまま計画どおり進めることが困 難だという状況に直面した場合について尋ねたと ころ,表 10 のとおりの結果が得られた。 「1.期中で目標や対策を見直さない」という 回答は僅か 2.3%に留まる一方,「3.目標と施策 をともに見直す」および「3.戦略自体の見直し に着手する」という回答の合計は 57.4%に達し た。成果主義的人事制度が普及していることから 計画の達成状況を給与・賞与等に連動させている 企業が多いと見られるが,計画の前提が大きく変 表8 業績評価指標の活用状況 1 2 3 4 5 合計 ⑴業績評価情報 の活用 目標達成状況を把 握するのみ どちらとも言えない 環境変化を読み 取り新しい戦略 仮説を導き出す 18 41 87 115 42 303 5.9% 13.5% 28.7% 38.0% 13.9% 100.0% ⑵業績評価情報 に基づいた分 析・検討 目標と実績が乖離 した場合のみ検討 どちらとも言えない 常時分析・検討する 9 33 57 142 62 303 3.0% 10.9% 18.8% 46.9% 20.5% 100.0% ⑶業績評価指標 に対する部門 トップの注目 部門トップが常に 注目している どちらとも言えない 部門トップは注目していない 173 64 27 35 4 303 57.1% 21.1% 8.9% 11.6% 1.3% 100.0% ⑷業績評価指標 に対するマネ ジャー層の注 目 マネジャー層が常 に注目している どちらとも言えない マネジャー層は注目していない 102 119 57 24 1 303 33.7% 39.3% 18.8% 7.9% 0.3% 100.0% 表9 直面する環境変化のスピード ⑴顧客の嗜好・要 求のスピード ⑵ 技 術 変 化 の スピード ⑶市場の環境変化のスピード 回答数 割合 回答数 割合 回答数 割合 1.1ヶ月以下 5 1.7% 2 0.7% 17 5.6% 2.数ヶ月から半年 52 17.2% 28 9.2% 161 52.8% 3.1年程度 88 29.0% 59 19.5% 80 26.2% 4.2∼4年程度 112 37.0% 153 50.5% 44 14.4% 5.5年以上 46 15.2% 44 14.5% 3 1.0% 6.その他 − − 17 5.6% − − 合 計 303 100.0% 303 100.0% 305 100.0% 無回答・欠損値 4 4 2

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化した際は目標変更を柔軟に行っていることが確 認された。これは,前述の業績評価指標に基づい て新しい戦略仮説を導き出す企業・事業部門が多 いという調査結果と整合的である。一方,目標を 見直す場合複数の職層にわたって変更するための 手間・コストが懸念されるが,本調査では目標の 見直しを求めているのは部レベルで 60 部門,課・ 係レベルで 34 部門,個人レベルで 17 部門に留ま るという結果であった。これに対し,事業部レベ ルは 153 部門が目標・施策を見直すと回答してい る。冒頭,全社―事業部―部・支店・工場―課・ 係―従業員個人という各職層の目標間に連鎖体系 が確保されていることがマネジメント上の統制の 前提であると述べたが,この結果を見る限り「全 社―事業部」間とそれ以下の職層間では目標連鎖 体系の強さは異なっている。確かに,景気変動, 為替,エネルギーや原材料の価格変動などの環境 変化を原因とする目標未達については下位職層に その責任を問うことは難しいであろう。その意味 では,もともと目標設定段階から下位職層の目標 の総和が全社目標であるというような関係性は指 向されておらず,これらの職層の目標間の連鎖体 系は企業や事業部門が進む方向性の一致という意 味合いが強いのかも知れない。わが国企業の中間 管理職層の業績評価は主として目標管理制度 (MBO)によって行われているが,人事制度とし ての特徴が強かった同制度を,近年,経営企画部 門が関与し経営管理システムとして捉え直そうと いう動きが見られるものの(丹生谷 2007,339), 部門目標と個人目標とのリンケージについては依 然として課題を抱えている企業が多いと思われ る。実際,労務行政研究所(2006,204)が行った 質問票調査において目標設定時の問題として「組 織目標と個人目標との連鎖が弱い」という回答が 52.8%に上っている。 4.本稿のまとめと今後の課題 本稿では,わが国企業における業績評価指標の 運用状況および環境変化に伴う目標変更のマネジ メント状況についての実態把握を目的として考察 を進めてきた。 業績評価指標については,財務指標と非財務指 標に分けて分析した。財務指標については,従前 の研究結果とは異なり,依然として売上高,営業 利益,経常利益という総合的な結果指標が事業部 門から G 本社への報告の中心になっていること が明らかになった。非財務指標についてはグルー プ全体で重視されているのは環境・社会に関する 指標であり,事業部門から G 本社へ報告されてい る指標の中で最も多いのは品質に関する指標で あった。品質に関する指標以外の非財務指標はい ずれも G 本社に対し報告している割合は過半数 に達しなかったが,何らかの非財務指標を報告し ている事業部門は約8割を占めた。非財務指標に ついては,財務指標に比べて情報に質の信頼性, 指標の定義の明瞭性における評価が低く,結果的 に報酬とのリンクも少なかった。このように全般 表10 計画の前提が大きく変化した時の対応 回答数 割合 1.期中では目標や施策を見直さない 7 2.3% 2.目標値の見直しはしないが,対策検討は行う 122 40.0% 3.目標と施策ともに見直す 112 36.7% 4.戦略自体の見直しに着手する 63 20.7% 5.その他 1 0.3% 合 計 305 100.0% 無回答・欠損値 2

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的に非財務指標の信頼性が高まらない中で,非財 務指標の活用の効果を G 本社への業績情報の伝 達度から見てみると,事業部門が顧客・市場に関 する指標や品質に関する指標を G 本社へ報告し ている場合は,部門戦略の進捗状況や部門が直面 する機会や脅威に関する情報の伝達度が有意な水 準で高かった。同様に製品開発・技術開発に関す る指標を G 本社へ報告している場合は,部門戦略 および部門が直面する機会や脅威に関する情報の 伝達度が有意で高かった。つまり,G 本社が事業 部門の状況を的確に把握する上で非財務指標の活 用は部分的に有効であると言える。 一方,業績評価情報を常時分析・検討し,これ によって環境変化を読み取り,新しい戦略仮説を 導き出すと回答した企業・事業部門が多かった。 本来であれば新しい戦略仮説を導き出すシグナル としては重要成功要因に繋がるプロセス系の非財 務指標が適していると考えられるが,適切な指標 を見出すことが難しいことなどから,売上高・営 業利益・経常利益等の財務指標が事業部門から G 本社への報告の中心となっていた。これを補完す るものとしてはフェース・ツー・フェースのなど の非公式的な情報伝達が用いられている。今後は 財務・非財務業績評価指標を用いた公式的な情報 のやり取りに加えて,指標を用いない非公式的な 情報のやり取りの双方を総合した業績評価システ ムを検討していく必要があるように思われる。 一方,市場環境の変化により,多くの企業・事 業部門が半年以上先の売上計画の予測の確度が低 いと考えている中で,柔軟に目標値や施策を変更 する企業・事業部門事業が過半数を占めた。目標, 施策を見直す場合も全社や事業部門レベルに留 め,部,個人の目標を修正する企業・事業部門は 極めて少数であった。冒頭,全社―事業部―部・ 支店・工場―課・係―従業員個人という職層の目 標間の連鎖体系を前提として議論を進めたが,少 なくとも「全社―事業部」と「部・支店・工場― 課・係―従業員個人」の間では目標連鎖の強さに 差がある。組織目標と個人目標との目標連鎖の確 保は依然として多くの企業にとっての課題であ る。 本稿の結びとして,今後の研究課題を3点挙げ ておきたい。 まず第一に,非財務的な業績評価指標の信頼性 が高まらない中で,非財務業績指標を活用して組 織パフォーマンスを向上させている企業を対象 に,情報の質の信頼性や指標の定義の明瞭性を具 体的にどのように克服しているか,その成功要因 を体系化する必要がある。 第二に,すべての項目を業績評価指標として伝 達できないという現実を踏まえ,従来の管理会計 研究では取り扱われてこなかった定性的な情報, 業績指標によらない非公式的な情報に着目し,こ れを包含した業績評価システムの検討が求められ ている。 第三に,本調査では単一の設問の回答のみに よって検討している限界を踏まえ,対話型コント ロールシステムについて,具体的な運用状況や業 績情報をシグナルとして戦略見直しに繋げていく プロセスについてより具体的に考察していくこと が必要である。 これらの諸課題については今後の研究課題とし ていきたい。 参考文献 岡本清・廣本敏郎・尾畑裕・挽文子.2008.『管理会 計 第2版』中央経済社. 岡本浩一・河南憲治.2004.「経営管理指標の考え 方と活用ノウハウ」『経理情報』1062:8-23. 加護野忠男・野中郁次郎・榊原清則・奥村昭博.1983. 『日本企業の経営比較:戦略的環境適応の理論』日 本経済新聞社. 加登豊・河合隆冶.2002.「管理会計における非財 務的情報の活用」『国民經濟雑誌』186(1):71-88. 河合隆治.2004.「日本における業績評価指標測定 の現状」『総合研究紀要(桃山学院大学)』29(3): 39-53. 櫻井通晴.1999.「わが国企業における業績評価の あり方」『企業会計』55(6):4-11. 佐々木郁子.2002.「業績評価指標の変化と日本企 業の経営行動⑵ 導入企業」『東北学院大学論集』 150:113-126.

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A Study on Performance Measures in Japanese Firms : in Decentralized Organization

Susumu NIBUYA (Doctoral Student of University of Tsukuba)

Noboru OGURA (Graduate School of Business Sciences, University of Tsukuba)

Abstract : The purpose of this research is to estimate how performance measures (financial and

nonfinancial) are used in Japanese firms. A questionnaire survey was mail-administered with 3,245 decentralized units listed on the First Section of the Tokyo Stock Exchange and data has been collected from 307 units. In financial performance measures, sales volume, operating profit and ordinary profit are reported mainly from business units to the group head office. In nonfinancial performance measures, any measures (besides measures about quality) which are reported to the group head office are equal to or less than majority. In most Japanese firms, they use performance

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measures as a interactive control system (by Simons), and they review goals and plans in the middle of period if necessary.

Key Words : decentralized organization, financial performance measures, nonfinancial performance

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