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第15回研究会

読解力の測定:プロセスとスキル

犬塚美輪(日本学術振興会・埼玉工業大学)

2006年2月16日

於:東京大学赤門総合研究棟 A208講義室

1 はじめに

犬塚:今日は,「読解力」をどのように捉え,測定できる か,をテーマに発表いたします。まず,本発表では,教 育心理学の知見を背景に,「読解力」を2 つの観点から捉 えたいと思います。すなわち,「読解プロセスとその結果 としての理解表象」という観点,そしてこの読解プロセス に影響する「読み手のスキルや能力要因」という観点です。 本発表では,まずこの 2 つの観点から読解力を考え,実 際に行なわれている読解力テストとの関連から,読解力 をどのように測定できるか,新たなテスト作りのための 示唆を得たいと思います。

2 読解力とは:読解プロセスの観点から

これまで,読解に関する多くの認知心理学的研究がなさ れてきました。読み手の読解は,大きく2 つの方向性から 捉えられます(スライド1)。1 つは,ボトムアップのプ ロセスです。ボトムアップのプロセスでは,知覚的に入力 された刺激を記号として認識し,単語の単位を認識・理解 し,認識した語の統語的(文法的)なつながりを理解しま す。語の統語的なつながりを積み重ねて,文章全体の理解 表象を構築していきます。イメージとしては,小さなブロ ックを徐々に積み上げて,大きな構造物を作り上げていく 過程です。それに対して,トップダウンのプロセスという のもあります。これは,ブロックを積み上げる際の大まか な枠組みがあって,それを利用してブロックの積み方を決 める過程だと言えます。読解プロセスの枠組みとなるもの としては,書かれている内容に関する知識,文章に関する 知識,スキーマと呼ばれる一般的な知識,読解の目標など スライド1 読解プロセスの理論 要旨 講演ではまず,教育心理学的背景に裏づけされた読解力の捉え方として,読解プロセスに注目する観点とプロセス 内で発揮するスキルや能力に注目する観点が紹介された。次に,この観点を生かして既存の読解力テストを検討して みると,SAT には要求される能力(ジャンル,領域)によってテストを分離する工夫があること,また PISA では読 解のプロセスやテキストの形式を従来の読解力テストの発想よりずいぶん広げた定義を行っていること,具体的には 文章理解を踏まえた文章の適否の判断まで行わせたり,図表,グラフなど非連続型テキストの読解まで問われている ことなどが確認できた。最後に,日本で新しく読解力テスト作成を検討する視点として,①文章のジャンル・領域別 の読解能力や測定モデルの検討,②テキスト外の知識を活用した解釈など発展的思考の評価,③読解スキルの測定, ④非連続テキストや新しいメディアに対応する読解力 などが提起されたが,その前提として,測定の対象となる読 解力の定義やモデルの明確化が重要であることが強調された。

読解プロセスの理論

• ボトムアップ処理とトップダウン処理

ボトムアップ

・ ブロックを積み上げていく 形態→記号→語彙認識→統語→ 全体像理解

トップダウン

・ ブロックを積み上げる枠組みとなる 知識,スキーマ,動機づけ,目標 → 理解表象 *物語と説明的文章の差異

(2)

が挙げられます。枠組みとなるものが異なると,文章の最 終的な理解表象にも違いが出てきます。また,本発表では 詳しく触れませんが,この2 つのプロセスは,文章のジャ ンルによっても差異があることが知られています。 本発表では,主に,ボトムアップのプロセスに注目して 読解力を考えたいと思います。

読解プロセスのモデルとして,Kintsch ら(van Dijk & Kintsch,1978; Kintsch,1998)の提案した「統合-構築 モデル(Integration- Construction model: I-C モデル)」 をご紹介します。このモデルは,読解のボトムアッププロ セスとそれにより構築される理解表象をよく説明するも のとして,読解に関する多くの研究が依拠しているもので す。 I-C モデルでは,読解プロセスに 2 つの軸を想定します (スライド2)。まず,テキストの局所的な内容に関する ミクロ構造と,テキスト全体を捉えるマクロ構造の軸があ ります。この軸に直交するのが,テキストベースと状況モ スライド2 読解プロセスの理論 スライド3 読解プロセスモデルに沿った測定 デルの軸です。テキストベースがテキストに書いてある内 容そのものを指すのに対して,状況モデルは,読み手が自 分の知識を使って推論した内容や,知識と統合した理解表 象を指します。ここでは便宜的に4 つの象限を考えてみま す。まず,テキストベースのミクロ構造は,テキストの局 所的なつながり,単語同士が統語的な関係に基づいて結び ついた状態です。状況モデルのミクロ構造では,テキスト 中の単語のような局所的な内容に関する推論や連想が含 まれた理解表象を示しています。それに対してテキストベ ースのマクロ構造は,直感的には要約のようなものになり ます。テキストが全体としてどのような構造を持っている か,全体的な内容・要旨となるものを指します。状況モデ ルのマクロ構造は,単に書いてある内容の要約にとどまら ない,読み手の知識と統合された文章の全体的な内容理解 を指します。 このモデルに従って,読解力の測定を考えてみますと, スライド3のようになります。それぞれ4 つの象限ごとに 見てみましょう。まず,テキストベースのミクロ構造では, 各文を正確に理解できているかが測られるので,代名詞の 理解や言い換えが出題されます。状況モデルのミクロ構造 では,部分的にどのような推論がなされたかを測定するた めに,各部分での精緻化推論の様子を測定することになり ます。テキストベースのマクロ構造では,記述されている 文章内容の全体像の正しい理解が問題となりますので,読 み手に要約を求めたり,内容の再生を求めたりして測定を 行ないます。最後に,状況モデルのマクロ構造として,文 章には書かれていない内容についての推論を含む理解を 測るために,推論問題が出題されます。また,内容の再生 を求めた場合に,読み手の推論が含まれることがあります ので,そこから読み手がどのような状況モデルを構築した か考えたりもします。また,読解前後でキーワードの関連 付けがどのように変化するかを検討する方法なども提案 されています。 これまでの内容をまとめてみましょう。読解プロセスの 視点から考えると,読解力とは,「読解プロセスの結果と しての理解表象」あるいは「対象のテキストをどのように 理解したか」であると定義できます。ここでは,「全体的 な内容や構造の的確な把握」「理解の深さ」が測定されま す。 こうした読解力の測定は,認知心理学の知見に裏打ちさ れたもので説得力がありますが,基本的に,研究者がその 研究の問題意識に沿った問題を作成して用いており,標準 化されたテストがほとんどないこと,あっても作成年代が

統合-構築モデル

• 理解表象と読解プロセス

– 2軸の理論的関係 ミクロ構造 マクロ構造 テキストベース 状況モデル テキストの局所 的なつながり テキストの局所的 内容に関する推論 テキスト全体と知識 を統合した理解 テキスト全体の 構造の理解

統合-構築モデル

• 測定

・推論問題の解決 ・再生 ・キーワードの関連づけ ・精緻化推論 状況 モデル ・要約(重要情報の把握) ・再生 ・言い換え ・代名詞理解 テキスト ベース マクロ構造 ミクロ構造 各文の理解 部分的な推論 記述されている 全体構造の把握 書かれていない内容の推論 を含む全体像把握

(3)

古かったり,対象年齢が限られていたりするという限界が あります。たとえば,T-K 式読み能力診断検査(北尾,1984) は,読解のボトムアッププロセスに着目した標準化検査で すが,小学校中学年相当を対象としており,また,読解に 問題を持つ読み手のスクリーニングなどに適した形態と なっています。たとえば,中学生の読解力について知りた い,という場合にそのまま使えるような読解力テストでは ないと言えます。

3 読解力とは:読み手のスキル・能力

ここで,高橋(1996)の読解プロセスのモデル(スラ イド4)を見てみましょう。高橋(1996)は,読解に 3 つの処理レベルを考えました。それぞれのレベルには,読 み手のさまざまなスキルや能力が必要となります。たとえ ば,文字を符号化し単語として処理するためには,読み手 の語彙(ボキャブラリー)が影響していると考えられます。 また,談話レベルの処理,文章の全体的内容を理解するた めの処理レベルでは,その内容についての知識が問われま す。たとえば,野球に関する文章を読むときに,野球のル ールをよく知っている人と,野球について全く知らない人 では,それ以外のレベルの処理に違いはなくても,談話の 処理レベルに大きな違いが生じるために,文章全体の表象 が異なってくることが知られています。 このように,読解のプロセスには,さまざまな読み手の スキルや能力が影響しています。先行研究では,単語の読 みの流暢さ(Ehri & Wilce, 1983; Perfetti ら,Stanovich; Fredericson, 1981)や語彙力(Davis,1968;Thorndyke, スライド4 処理プロセスと影響するスキル・能力 1973)の影響が多く指摘されています。こうした単語レ ベルの処理については,読解の発達初期に関する研究が数 多く検討され,その影響の大きさが指摘されています。一 方,文の処理レベル,談話の処理レベルにおいては,様々 な読解スキル,すなわち,読解方略やメタ認知的スキル, 知識の重要性が言われています。 読解方略(スライド5)は,理解を促進するために読解 中に読み手が行なう様々な行為・思考を指します。犬塚 (2002)は質問紙調査をもとに,読解方略の構造を示し ました(スライド6)。犬塚(2002)では,読解方略は, 文章中のつまづきを解消するための「理解補償方略」,内 容を理解・記憶するための「内容理解方略」,文章に明示 してあることを越えて,さらに理解を深めるための「理解 深化方略」の3 つの因子から捉えられています。こうした 読解方略の指導が,読み手の読解力を高めることや,学年 が上の読み手は,より多く読解方略を用い,また,場面に 応じた適切な方略を用いることができると考えられてい ます。 スライド5 読解方略の例 スライド6 読解方略の構造

読解プロセスの3つの処理レベル

• 高橋(1996)

文字・単語の処理レベル 文の処理のレベル 談話の処理のレベル 文章全体の表象 (状況モデル) 語彙 領域知識

読解方略

読解方略の例(犬塚,2002より改訂) 既有知識活用方略 ・知っていることと比べながら読む ・知っていることと読んでいる内容を結びつけながら読む 構造注目方略 ・意味段落に分けて考える ・接続詞に注意する 質問生成方略 ・読み終わってから自分がどのくらい分かっているかチェッ クするような質問をする 記憶方略 ・大切なところを覚えようとする ・分からないところはとりあえず丸暗記する 要点把握方略 ・コメントや内容をまとめたものを書きこむ ・大切なところを書き抜く コントロール方略 ・分からないところはゆっくり読む ・分からないところや難しいところを繰り返し読む 意味明確化方略 ・どんな意味かはっきりさせながら読む ・簡単に言うとどういうことか考える

読解方略

読解方略とその構造(犬塚,2002より改訂) 理解補償方略 0.83 0.62 0.70 0.70 0.70 方略使用傾向 0.83 0.44 0.58 内容学習方略 意味明確化 コントロール 要点把握 記憶 質問生成 構造注目 既有知識活用 0.85 0.50 理解深化方略

(4)

メタ認知的スキル(スライド7)は,自らの理解状態を 評価吟味するメタ認知的モニタリングと,読解プロセスを 調整したり方略使用を調整したりするメタ認知的コント ロールからなります。文章中の矛盾に気がつくかどうか, あるいは,自分が理解できているかどうか,といった観点 からメタ認知的モニタリングのスキルを測定します。メタ 認知的コントロールは,たとえば異なる状況下で方略をど のように用いるかという観点から測定したりします。この メタ認知的スキルは,自分自身の理解を自分で見直すとい うことですので,いわば,高度なスキルということができ るでしょう。こうしたスキルが身についているかどうかが, 読解に影響するのです。 スライド7 メタ認知的スキル 知識については,先ほどお話した領域知識のほか,文章 自体についての知識が重要になります。たとえば,説明文 とはこういうものだ,物語文とはこういうものだ,という ジャンルについての知識が挙げられます。 こうした文・談話レベルの処理に関わる要因については, 読解の初期だけでなく,大学生や熟達した読み手において も,読解に大きな影響を与えることが知られています。 読解プロセスに影響する要因という観点から読解力を 捉えると,読解力とは,読解プロセスに影響する能力やス キルをどの程度有しているかである,と定義することがで きます。この観点から読解力を捉えるときには,読み手の 発達段階を考慮することも重要だと言えそうです。読みの 発達初期には語彙などの単語処理レベルの要因に特に注 目する必要がありますし,ある程度発達した読み手にとっ ては,単語処理レベルよりも読解スキルが重要だというこ とも考えられるからです。

4 実施されている読解力テストから

ここまで,読解力について,読解プロセスの観点と,そ こに影響する要因という観点から考えてきました。そこか ら,読解力は「構築された理解表象」として,あるいは, 「読解に影響する能力やスキル」として定義できると言え ました。では,実際に実施されている読解テストでは,読 解力はどのように定義され,測定されているのでしょうか。

4.1 SAT

まず,SAT を取り上げてみましょう。SAT は,アメリ カで実施されている大学の入学試験のためのテストです。 センター試験のようなものだと考えていただければいい かと思います。SAT は大きく 2 つのセクションに分けら れており,Critical reading, Mathematical reasoning, Writing skill からなる Reasoning Test と,English (Literature), Social studies, Math, Science, Language と いった各教科のテストであるSubject Test からなります。 ここで注目していただきたいのは,読解に関するテストが, Critical reading と Literature に分けられていることです。 前者は,日本語に直すと「批判的読解」ということになり ますが,語彙や文法,短文・長文の読解が対象となってい ます。具体的な課題としては,文完成や適語補充,要点把 握,趣旨把握が課されます。それに対して,Literature, すなわち「文学」では,中世以降の文学を理解できるかど うかが対象となっており,より専門的な知識が必要な問題 となります。このように,SAT の特徴としては,「国語」 のテストとして一括で実施するのではなく,領域,必要な 能力によって区別してテストを行なっているという点が 挙げられるのではないかと思います。

4.2 PISA

次に,PISA を取り上げてみます。PISA の大きな特徴 は,読解力の測定を「読解プロセス」と「問題フォーマッ ト」の2 つの軸から構成している点にあります。 まず,PISA では読解プロセスを大きく 2 つに分けて捉 えます(スライド8)。1 つは,図の左側になりますが, 「文章中の情報を用いる力」です。これはさらに,「文章 中の情報の検索」と「文章の解釈」に分けられます。「文 章の解釈」については,「全体的な理解の構築」と「解釈

メタ認知的スキル

メタ認知的モニタリング 自らの理解状態の評価・吟味 メタ認知的コントロール 方略の使用,読解プロセスの調整 測定 ・ 矛盾検出 (モニタリング) ・ 理解度評定 (モニタリング) ・ 方略使用 (コントロール) 文章 理解 表象 モニタリング コントロール

(5)

の構築」の2 種類を想定しています。この「文章中の情報 を用いる力」の考え方は,初めにお話したKintsch らのモ デルとの類似を見て取ることができるかもしれません。一 方,もう1 つの大きな概念としては,「文章の外にある知 識を用いる力」が考えられています。これは,「文章の内 容に関する発展的思考や評価」そして「文章の形式に関す る発展的思考や評価」が含まれます。つまり,PISA では, 文章を理解するプロセスとして,内容を理解し自分の知識 と結びつける,という読解プロセスだけでなく,それをも とに考えたり,その文章のよさを評価したりするプロセス も含んでいるのです。 次に,問題フォーマットについて見てみましょう(スラ イド9)。問題フォーマットは,「連続」と「非連続」の 2 つが想定されています。連続テキストは文章として書か れたものを指しており,物語文や説明文,意見文などが挙 げられます。一方,PISA が特徴的なのは,チャートやグ ラフ,表,地図といったものも非連続テキストとして位置 づけているところです。 スライド8 PISAの理解プロセス スライド9 PISAの問題フォーマット PISA の問題は,この理解プロセスと問題フォーマット の組み合わせによって構成されています(スライド10)。 連続のフォーマット(文章)の情報検索プロセスを測定す るためには,文章中の要点を述べる文を特定させ,非連続 (グラフなど)の解釈プロセスを測定するためには,2 つ の異なるグラフ間の関連を記述させるなどの課題構成に なっています。 スライド10 PISAの問題

4.3 日本で標準的な読解テスト

ここで,これらのテストとの比較を含めつつ,日本の標 準的な読解テストを考えて見ましょう。一般的な特徴とし て,4 点挙げることができます。第一に,1 つのテストの 中に様々な文章ジャンルに関する測定がなされ,その合計 点を持って「読解力」とすることが多いことが特徴と言え るでしょう。そのため,背後に想定されているモデルや読 解力の定義が不明確なものになっていると指摘できそう です。第二に,基本的に測定されるのは「内容を正しく理 解しているか」という部分です。Kintsch らの読解プロセ スモデルで言うと,テキストベースに特化した問題構成に なっていると言えます。第三の特徴は第二の点と重なる部 分がありますが,正解が必ず文章中にあることが基本とな っています。そこで,問題に対する答えは「考えるもの」 というより「探すもの」という特徴を持つことになります。 最後に,これは,日本の読解テストに限りませんが,連続 のフォーマットに限定されていることが挙げられるでし ょう。

PISAの読解力

(1)理解プロセス

ICモデル (Kintsch)との 類似性 ・テキストベース と状況モデル

PISAの読解力

(2) フォーマット:連続・非連続

文章以外の 「読み」も視野 に入れる

PISAの読解力

理解プロセス×フォーマット による問題構成 非文章(グラフ) 解釈 • 2つの異なるグラフ間の関係を述べる 非文章(グラフ) 情報検索 • 脚注を参考に,樹形図中の情報を特定する 非文章(表) 判断・評価 • 親近性の低い事象について,知識と表の情報 を用いて仮説を立てる 文章 判断・評価 • 物語のエンディングがそのテーマや雰囲気に 沿ったものであるか評価する 文章 解釈 • 2つの文章に共通する目的を考える 文章 情報検索 • 文章中の要点を述べる文を特定する フォーマット プロセス 項目

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5 新しい読解力の測定へ向けて

これまでに検討してきた内容をまとめてみましょう(ス ライド11)。まず,読解力はそのプロセスから構成され る理解表象の特徴から定義されます。すなわち,文章の部 分的な表象であるミクロ構造と全体的構造を示すマクロ 構造,および,文章に書いてある内容であるテキストベー スと読み手の知識や推論と統合された状況モデルと言う 2 つの軸から構成される理解表象の特徴が,「読解力」と 考えられるのです。また,そこに影響する読み手の能力や スキルが,もう一つの「読解力」の定義と言うことができ ます。さらに,PISA で取り上げられているように,ここ で構成された理解表象をもとにした解釈や評価,判断とい った活動も広義の「読解力」として位置づけることができ ます。しかし,これですべての読解を捉えているというわ けではありません。さらに広い視点から考えると,こうし た読解力は,連続テキストの批判的読解という領域に限ら れたものであり,文学の読解や非連続テキストの理解をも 含めた「読解力」を考えることもできます。こうした全体 像の中で,現在の日本の一般的なテストで測定されている のは,スライド11にグレーで示した,ごく一部分である ということができそうです。 スライド11 読解力の定義と測定 これを念頭において,新しい読解力テストを考えてみる と,以下の4 点を考慮する必要があるのではないかと思い ます。第一に,文章のジャンルや領域別のモデルや測定を 考えることが挙げられます。古典や文学作品を理解する能 力と,説明文を理解する能力の関係をどのように考えるの か,ということです。同じテストで測定して「読解力」と してまとめてしまってよいのか,考える必要があるのでは ないでしょうか。第二に,書いてあることを正しく理解す るだけでよいのか,それとも書いていない内容について推 論したり,判断したりすることを含めるのか,という点が 重要になると考えられます。書いてある内容から情報を検 索するだけにとどまらない,解釈や発展的思考に関する読 解力を対象としたテストを新たに考える必要があります。 第三に,読解スキルのような,読解に影響する能力やスキ ルを考慮したテストを考えることもできるでしょう。現状 では,語彙や漢字の知識が測定されるくらいですが,たと えば,小学校の低学年の子どもについては,どのくらいの 流暢さで単語を処理することができるか,読むスピードな どを測定することが指導に有効なテストとなるかもしれ ません。また,どのくらい読解方略を身につけているかを 測定することもできると思います。第四に,グラフ・表と いった非連続テキストの理解を読解力として測定するこ とを挙げられます。これは,紙ベースのものに限らず,新 しいメディアを含んださらに新しい読解力へと発展する 可能性も含んだ読解力として位置づけることもできると 考えられます。こうした,これまでより広義での「読解力」 は,文部科学省が「PISA 型読解力」として位置づけ,そ の育成を目指している力と共通している部分が大きいと 言えます。 これまでの検討から,「読解力」と一言で言っているも のの中身が非常に多様であり,多様な測定がありうるとい うことが分かります。しかし,だからといって,読解力を 測定するテストを考えるに当たって,すべての点を考慮し たテストを作成するべきだ,というわけではないと思いま す。重要なのは,そのテストがどのような「読解力」を測 定しようとしているのか,その定義や背後のモデルを明確 にした上で課題を構成していくというところなのではな いでしょうか。新しい読解力テストの開発のためには,ま ず,育成すべき読解力としてどのようなモデルを想定する のかを明確化し,それに沿った課題の作成が重要だという ことを再度強調して,発表を終わりたいと思います。

「読解力」の測定

ス キ ル ・ 能 力 処理の 流 暢さ・ 語 彙 読解ス キ ル ・ 知識 ミ ク ロ 構 造 マ ク ロ 構 造 テキストベース 状況モデル 理解表象 解釈 評価 判断 「批判的読解」・連続テキストの理解

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引用・参考文献

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参照

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