一橋大学一橋講堂
〒101-8439 東京都千代田区一ツ橋2-1-2 学術総合センター2F2012
年
12
月
2
日(日)
13:00 ∼ 17:00
(開場12:30)
3500台の小型自動観測ロボット「アルゴフロート」が明かす地球の姿
http://www.jamstec.go.jp/rigc/j/sympo/argo2012/主催:独立行政法人海洋研究開発機構 共催:気象庁
後援: 外務省、水産庁、国土交通省、海上保安庁、アルゴ計画推進委員会
気候予測
のための
海洋観測
の
最前線
本シンポジウムでは、地球全体の海の変化をリアルタイムで観測する「アルゴ 計画」についてご紹介いたします。 地球温暖化を含む気候変動は地球規模で引き起こされ、日本はもちろん全 世界に大きな影響を与えるため、その仕組みを理解し予測することが重要です。 このような気候変動を主に駆動するのは、地球表面の約 7 割を覆う広大な海 です。ところが、これまで海の中の状態やその変化は、船で直接行って調べる しかありませんでした。2000 年に開始されたアルゴ計画により、全世界の海 洋を世界各国が連携し、衛星通信を利用してリアルタイムで観測するシステム 「アルゴ(Argo)」が構築されました。これは、3000 台以上の「アルゴフロー ト」を 300km 四方に 1 台の割合で展開することにより、10 日毎に海面から 2000m までの水温・塩分を均一な精度で計測し、時間・空間的に高密度なデー タを取得する観測システムです。 2012 年 11 月、アルゴによって蓄積された観測数は、これまでの船舶によ る観測数を大幅に上回る100 万を超えました。このこれまでに類のない観測 システムにより、気候変動研究にとって重要な、海の中の「今」を「継続的に万 遍なく」観測することが可能となりました。そのデータは、様々な気候・海洋 変動に関する研究成果をもたらすとともに、天候予報、海流予測、漁業予測な どにも活用されています。 一方で、気候変動の時間スケールは非常に長く、海洋のデータはまだ不十分 であるため、今後もアルゴによる観測の継続が必要です。また、技術革新とと もに、観測システムの高度化や、他の分野への展開も進みつつあります。今回 のシンポジウムで、皆さんにアルゴ計画とその重要性を知って頂き、活用や応用・ 将来展望について皆さんと一緒に考える機会となれば幸いです。
■ シンポジウムプログラム
[海洋観測とアルゴ] 13:05 ~ 14:35
海を測る~海を知ることの意義とロマン~ 深澤 理郎(独立行政法人海洋研究開発機構 地球環境変動領域 領域長) 気候変動と海洋 花輪 公雄(国立大学法人 東北大学 理事) アルゴ計画 須賀 利雄(独立行政法人海洋研究開発機構 /国立大学法人 東北大学 教授)[アルゴデータの応用・活用] 14:50 ~ 16:05
長期予報へのアルゴデータの活用 高谷 祐平(気象庁 地球環境・海洋部) 日本近海の海流予測 升本 順夫(独立行政法人海洋研究開発機構 地球環境変動領域 プログラムディレクター) 海流予測が沿岸漁業への貢献につながる事例 磯辺 篤彦(国立大学法人 愛媛大学 沿岸環境科学研究センター 教授)■ シンポジウム開催にあたって
沈降時:油室の体積 を減少させる 上昇時:油室の体積 を増加させる
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アルゴフロートによる
海洋観測
アルゴフロートは、通常水深 1000m を漂流 し、10 日に 1 度、2000m まで沈降したのち、 圧力(深さ)・水温・塩分を観測しながら浮上します。 海面に到達すると、観測データを衛星経由で地 上局へ送信し、再び沈降を開始します。1つのフ ロートはこのような観測を約 4 年間自動的に行 うことが出来るようになっています。このような 特徴により、冬季の荒天下や台風通過時でも継 続して観測ができます。アルゴフロートのしくみ
アルゴフロートは、重量約 30k g、アンテナ を含めて全長約 2m の円筒形で、上部には圧力・ 水温・塩分センサーとデータ送信装置およびアン テナが装備されています。4 年程度観測が継続 できるバッテリーを搭載し、浮上・沈降は、油室 のオイルの量をポンプによって変化させて、フ ロートの体積を増減させることにより行います。アルゴフロートの全球マップ
~ 30か国以上が協力~
アルゴフロートの展開は、国際協力のもとに進 められています。全球で 3500 台以上が展開さ れています。日本でも約 300 台のアルゴフロー トを太平洋やインド洋、南大洋に展開しており、 全世界のアルゴ観測に貢献しています。フロート 投入は、さまざまな機関の船舶の協力により行 われています。■ アルゴフロートとは
海を測る~海を知ることの意義とロマン~
独立行政法人海洋研究開発機構 地球環境変動領域 領域長深澤 理郎
自然科学には、「今、ここにあることを理解する」ことから時空を超えて「将来、どこ かに起こる事を予測する」という特徴があります。この特徴は、「現象を理解して予測する」 →「予測の正しさを現象に基づいて評価する」→「新たな理解、手法で更に予測する」と いう一連の手順が支えています。一方、気候変動予測を科学的に行うには、「特定の対象 を理解するために時空間を限って効率的に設計された科学的な実験」という従来の考え 方とは異なり、「未知ではあるが、気候変動に関わるかも知れない現象」を捉えるために、時空間的に「まんべんなく」 自然界を測り続けることが必要になります。海洋に関してこの考え方を大きく前進させたものが、アルゴフロートなのです。 「計測項目は少なくても、安価に観測が継続できる」というその特長は、気候変動予測が「気候変動の緩和や適合に 活用できる」予測に代わりつつある今、さらにその有用性を増してきています。気候変動と海洋
国立大学法人 東北大学 理事花輪 公雄
気候変動の主役、それは海なのです。大気は多くの熱を貯えることができず、また、ちょっ とした力(圧力)で動き、素早くかき混ぜられます。いっぽう海は、大気の 1000 倍もの 熱を貯えることができ、海水の動きもゆっくりとしており、とても混じりにくい状態にあり ます。このような理由から、長期間の大気の総合状態である気候に変動をもたらしている のは、変わりにくい海洋の状態が大気に影響しているからなのです。比ゆ的に言えば、過去の状態をすぐ忘れる大気が、 長い時間過去の状態を記憶できる海洋に影響されて、ゆっくりとした時間でその状態を、すなわち気候を変えているの です。私の講演では、このような大気と海洋の特徴の違いや、大気と海洋が相互に作用しあう関係を説明することとし ます。■ 講演
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長期予報へのアルゴデータの活用
気象庁 地球環境・海洋部高谷 祐平
エルニーニョ・ラニーニャ現象をはじめとする海洋の変動は季節予測に最も重要であり、 これらの変動を精度良く予測することが季節予測の精度の向上の鍵となります。このため、 気象庁では大気と海洋を併せて予測する「大気・海洋結合モデル」という数値予報モデル を開発して、運用しています。平成 22 年2月には、それまで海洋のエルニーニョ現象の予 測のみに利用されていた大気・海洋結合モデルを大気の3か月予報・暖寒候期予報にも導入しました。この予測を行う ためには、まず海洋の状態を精度良く解析することが必要です。本シンポジウムのテーマであるアルゴフロートなど高 度な海洋観測データは気象庁の海洋解析、および、季節予測の精度向上に寄与しています。講演では気象庁の季節予 測の仕組み、アルゴ観測データの利用による予測精度の改善、今後の季節予測の展望などについて紹介します。アルゴ計画
独立行政法人海洋研究開発機構 / 国立大学法人 東北大学 教授須賀 利雄
3000 台以上もの小型自動観測ロボットで世界中の海を観測しよう。このアイディアが はじめて議論されたのは 1997 年のことでした。それが国際アルゴ計画として走りだした のは 2000 年。参加する国を増やしながら、緊密な国際協力のもと、目標とする観測網 を 2007 年までにほぼ構築し、改良を加えながら現在まで維持しています。強力なデータ システムに支えられ、高精度データを全球海洋で供給し続け、気候変動シグナルの検出に大きな役割を果たしています。 同時に、リアルタイムに、無償無制限に日々配信されるデータは、気象予報や海流予報などに活用され、観測から実用 的な情報の供給までを継続的に行う「オペレーショナル海洋学」を進展させました。アルゴは、これまで知られていなかっ た様々な海の姿を明かしつつあります。時空間的に限られた船舶観測の時代からロボット観測網の時代へ、人類が海を 知るための手段を別次元のものにしたアルゴ計画の概要と成果を紹介します。日本近海の海流予測
独立行政法人海洋研究開発機構 地球環境変動領域 プログラムディレクター升本 順夫
アルゴによって取得された観測データはリアルタイムで利用出来るため、数値シミュレー ションによる気候変動や海洋変動の予測精度の向上のためにも活用されています。海洋 研究開発機構で行っている日本近海の海洋変動予測システム(JCOPE)を題材として、 海流や水温の予測をどのように行っているのか、その中でアルゴフロートのデータがどの ように活かされているのかを、実用例を交えながら紹介します。アルゴフロートのデータ を取り入れることにより、黒潮などの海流の位置や強さ、黒潮や親潮などに伴う異なった性質の海水の特徴等を、より 現実的に表すことができるようになり、予測精度も向上しています。更なる予測精度の向上には、現在のアルゴ観測網 を維持することに加え、より効果的なデータの取り入れ方も考えていく必要があります。海流予測が沿岸漁業への貢献につながる事例
国立大学法人 愛媛大学 沿岸環境科学研究センター 教授磯辺 篤彦
日本南岸を流れる黒潮の一部が枝分かれして、駿河湾や相模湾、あるいは瀬戸内海の豊 後水道といった内湾を北上する、急潮と呼ばれる海洋現象があります。急潮に伴って、青 緑色の内湾水は、数日のうちに、暖かく、澄みとおった藍色の黒潮系水に置き換わってし まいます。いわば、急潮は水温を急変させ、また一時的に強い海流を引き起こす “海の台 風”というべき現象です。このような海況の急変が、養殖魚のへい死や定置網の損傷といった漁業被害をもたらす一方で、 黒潮に乗って回流する魚が急潮に伴って内湾へと運ばれ、沿岸漁業に大きな恵みをもたらたすこともあります。漁業者 からの強い要望もあって、急潮予報の実現は海洋学研究者の古くからの夢でした。私たちは、アルゴ観測によって飛躍 的発展を遂げた海流シミュレーション技術を利用し、豊後水道での急潮数値予報に挑戦しています。台風予報ほどの精 度には未だ道半ばではありますが、その最新の成果を紹介します。7
■ 総合司会
ニッポン放送アナウンサー上柳 昌彦
ここは我が国の海であるといくら声高に叫んでも、当たり前のことですが海は海面でも 深海でもつながっています。今回「アルゴ」という小型自動観測ロボットが3500台今こ の時も海洋の観測を続けていること、その研究開発を世界中の研究者が国境を軽々と越え て協力し合っていることを知りました。そうなのです。海はつながっているのです。そして 海は驚くほど多くの情報に満ち溢れているようです。さあ、海洋観測に情熱を注ぐ研究者 の皆さんの物語を、今日はともに伺いましょう。■ 討論会
若手研究者とアルゴ計画の将来について考える
須賀 利雄(独立行政法人海洋研究開発機構 / 国立大学法人 東北大学 教授) 升本 順夫(独立行政法人海洋研究開発機構 地球環境変動領域 プログラムディレクター) 鋤柄 千穂(名古屋大学 地球水循環研究センター 研究員) 伊藤 幸彦(東京大学 大気海洋研究所 准教授) 司会:上柳 昌彦(ニッポン放送アナウンサー) アルゴは、その主目的である気候変動研究において大きな成果を上げているだけでなく、そのリアルタイム・無制限の データ配信は、オペレーショナル海洋学の進展にも大きく貢献しています。そのため、これらの分野はもちろん、周辺 分野からもアルゴの発展が強く望まれています。討論会では、まず、気候変動研究とオペレーショナル海洋学にさらに 貢献するためにアルゴに求められている、海氷域・縁辺海や、黒潮域などの強流域への観測の拡張について議論します。 つぎに、海洋の貯熱量変動等のより正確な把握に向けた 2000m よりも深い海への観測の拡張や、海洋生態系変動や 海洋による二酸化炭素吸収の解明に向けた生物・化学センサー付きフロートの展開など、大がかりな技術開発と資金を 要する拡張について、その課題も含めて議論することを通じて、アルゴの将来を展望します。 プロフィール:1957年生まれ。1981年ニッポン放送入社。小5の時、黒部ダム建設の映画「黒部の太陽」で割り箸をバシッ と折り「ここが日本列島のフオッサマグナだ」というシーンに衝撃を受け、高1で「日本沈没」の小説と映画で日本列島の置か れた特殊性を知る。現在「上柳昌彦 ごごばん!」(平日午後1時~4時)を担当。類最初の巨船「アルゴ(argo)号」にちなんでいます。 テッサリアの王子イアソン(Jason)は、叔父に、父から奪った王位を返すよう にと迫り、遥か東方のコキルスにある「黄金の羊毛」を持ち帰れば王位を譲る との約束を取り付けます。巨船「アルゴ号」を作らせたイアソンは、ヘラクレス やカストル・ポルックス兄弟ら、ギリシャ中の 50 人の勇者とともに、アルゴ号 に乗り込んで大航海に出帆します。その後、数々の冒険の末に黄金の羊毛を 手に入れて帰路につくのです。この遠征を記念してアルゴ号は神に捧げられ、 アルゴ座 (注 1)に姿を変えました。 現在、英雄イアソンは最新の海洋観測衛星 ( 注 2)にその姿を変え、海中深く を航行するアルゴ号の大船団とともに、現代の「黄金の羊毛」、つまり海洋・気 候変動を明らかにするべく、冒険を続けています。 注 1:プトレマイオスが著書「メガレ・シタクシス(天文学大系)」の中で定めた「プトレマ イオスの 48 星座」の一つ。全天で2番目に明るいカノープスを主星とする。日本か らは、冬の夜空の地平線近くに上半分を見ることができる。巨大すぎるとの理由で、 18 世紀にフランスの天文学者、ラカイユにより、らしんばん(羅針盤)座、ほ(帆)座、 とも(艫)座、りゅうこつ(竜骨)座の4つに分割されて現在に至る。 注 2:最新のレーダー海面高度計を搭載したJason 型衛星のこと。アメリカ航空宇宙局 とフランス国立宇宙研究センターとの共同で運用されている。第1号機(Jason-1) は2001年12月7日に、第2号機(Jason-2)は2008年6月20日に打ち上げら れた。