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オオイタデジタルブック「未来をはぐくむ~地域と歩む子育て」

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Academic year: 2021

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(1)

地域と歩む子育て

未来をはぐくむ

未来をはぐくむ

第  回

第 8 部・家族のかたち/前編(上)

19

(2)

  県内に住む 40代の由美さん=仮名=は養育里親として、夫とと もに4人の里子を育てている。   5年前。里親に登録して1週間もたたないうちに、県内の児童 養護施設で暮らすきょうだいの養育を打診された。兄のカズ、妹 のアキ=いずれも仮名。生まれて間もない時期から施設で育って きた。約1年間、由美さんは毎月、2人がいる施設に面会に通っ た。 夏休みや大型連休には家での短期外泊も受け入れた。 そして、 カズとアキは「家族」になった。   その日の夜、由美さんは緊張が残る2人に言った。 「これから、 わたしが『育てるお母さん』になるからね」   ◇     里親の子育てには根気が求められる。必ずしも、それまでの育 児経験や常識が通用するとは限らない。   委託された多くの子どもは、 特徴的な行動を取る。悪態をつく、 2 0 1 0 年       11月 23日 掲 載 みんなで仲良く、近所を散歩。里親の愛に 包まれ、子どもたちは成長していく

「ボクを愛して」

 

里親に対し「試し行動」

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知 ら な い 兄 と 妹。 「 本 当 に 苦 し い の は、 あの子たちの方だから」と―。      家族になって丸4年、2人は小学生に なった。アキは、自分の知らない由美さ ん 一 家 の ア ル バ ム に 繰 り 返 し 見 入 っ た。 カズもときどき、アキの背中越しにそっ と の ぞ き 込 む。 「 写 真 で『 家 族 』 の 存 在 を 共 有 し た い ん で し ょ う 」。 親 子 の き ず なは確実に深まっている。   一方で、カズは年に数回、実母に手紙 を 送 る。 「 お 母 さ ん へ / 元 気 で す か / 僕 は元気です」 。母への手紙はいつも、 たっ た3行で行き詰まる。思い出もつながり もないために、書くことが何も浮かばな いのだ。   親 の 愛 に 飢 え て 育 っ た 子 ど も の 心 を 満 た す の は 簡 単 で は な い 。 こ れ か ら も 温 か い 家 庭 で 、い っ ぱ い の 愛 情 を 注 い で あ げ た い ― 。 「 子 ど も は 家 庭 で し か 育 た な い 」。 そ れ が 里 親 と し て 過 ご し た 4 年 間 の 実 感 だ 。   里 親 養 育、 ひ と り 親 家 庭、 大 家 族 …。 家庭環境にかかわらず、子どもたちが健 やかに育つには何が必要なのか。年間企 画第8部と第9部では、さまざまな家族 の「かたち」と、そこでの子育てを見つ める。 【里親制度】  親の病気、離婚などの理由で、生まれた家庭で養育でき ない子どもを家族の一員として育てる制度。▽長期間にわ たる「養育里親」▽虐待などを受けた子を引き受ける「専 門里親」▽祖父母など3親等以内の親族が養育する「親族 里親」▽養子縁組が前提の「養子縁組希望里親」―の4種類。 県内の里親登録数は 106 組。うち養育中の受託里親は 61 組、 委託児童は 103 人(11 月 1 日現在)。 いたずらをする、うそをつく…。この人はどこまで自分を受け入 れてくれるのか、本当に信頼していいのか―。さまざまな「試し 行動」で、里親の愛を試していく。   カズもそうだった。トイレを使っても水を流さない。由美さん が焼いたパンを庭にまき散らす。消しゴムをカッターナイフで切 り 刻 む。 問 い 詰 め る と 決 ま っ て、 「 知 ら な い 」 と し ら を 切 っ た。 どんなに怒られても絶対に涙は見せなかった。そして、 アキも―。   試し行動は2年にわたって続いた。正直、自分を見失いそうに なったこともある。 「初めから悪い子なんていない」 。その初心を 支えに、根気強く愛情を持って接した。家庭を知らず、親の愛を

(4)

  「おまえも俺(おれ)を捨てるんか」   少年は吐き捨てるようにそう言って、里親の智恵さん( 43)= 仮名=をにらみ付けた。 きっかけは日ごろの言動への注意だった。 怒りに満ちた目の奥に、心に深い傷を負う 15歳の少年の不安が透 けた。   「私は絶対に捨てないよ。逆に、あんたは私を捨てたいの?」   こういうとき、智恵さんは決して目をそらさない。この大人は 自分を見捨てないのか―。少年は暴力的な「試し行動」を繰り返 し、里親の愛を確かめようとしていた。   少年は両親から虐待を受けて育った。父親は毎日のように、理 2 0 1 0 年       11月 24日 掲 載 「味も彩りもばっちりよ」。妻の香織さん(右端)から太鼓判を押され、 加藤剛さん(中央)の顔が思わずほころぶ=大分市のコンパルホール

きずな生む本気の衝突

「私はあなたを捨てない」

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  居間の壁にはいくつも穴が開き、ガラ ス戸には大きなひびが入っている。一見 す る と、 荒 れ た 雰 囲 気 だ。 「 そ れ ね、 子 どもと私がぶつかった 〝痕跡〟 なんです」 。 智恵さんがさらっと言った。傍らの子ど もたちも、ふふっと笑った。確かなきず なが垣間見えた。         3人の里子には同居する 19歳と 18歳の 〝兄〟がいる。先の少年はその1人だ。   児童福祉法により、委託は原則 18歳未 満 ま で( 特 例 は 20歳 ま で )。 制 度 上、 里 親 の 役 目 は そ こ で 終 わ る。 だ が ―。 「 そ れまで、一緒に泣いて笑って喜んで悲し んで…。 18歳になったから『はい、さよ なら』って、縁を切れるわけがない」   〝 兄 〟 の 2 人 は 18歳 を 過 ぎ た い ま も、 智恵さん宅で暮らしている。実の親とは 連絡を取っていない。自立しても帰省す る 実 家 は こ こ だ け だ。 「 私 が 死 ん だ ら 後 の こ と は 頼 む よ 」。 智 恵 さ ん は 冗 談 め か して、そんな話もしている。   生活基盤も経済力も乏しい2人が自立 するには、 多くのハードルがあるだろう。 だからこそ智恵さんは息子たちをずっと 見守り、支えていくつもりだ。   「 困 っ た と き は 後 ろ を 振 り 返 っ て。 そ こには必ず、私が立ってるから」 【大分県内の要保護児童】  県によると、11 月 1 日現在、虐待や保護者の病気、経済的 理由などで、親と離れて暮らす子どもは 497 人で、うち 394 人が乳児院・児童養護施設で暮らす。里親(ファミリーホー ムを含む)が養育する児童(103 人)の割合「委託率」は 20.7%。家庭的な雰囲気でより多くの子どもが暮らせるよう、 政府は施設の小規模化や里親委託を推進しており、委託率は この数年で大きく上がっている。 由もなく木刀で殴りつけた。母親は養育を放棄し、やがて少年を 置いて家を出た。高校1年のとき、智恵さんのもとで暮らすこと が決まった。   それから約3年。時にはぎゅっと抱き締め、一緒に泣き、悪い ことをすればきつくしかる。真正面から本気でぶつかることで生 まれるきずながある―。 「愛情不足で欠けてしまった心の 『ピース』 を埋めるのは私の役目だから」         智恵さんは現在、専門里親の上限となる2人を預かり、養育里 親の枠でさらに1人を受け入れている。

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  大分県内の山あいに広がる閑静な住宅地。里親歴7年の正之さ ん、佳子さん夫妻= 50代=は自宅に近い一軒家を買い取り、子ど も部屋とリビングを増築した。 「里親」から「ファミリーホーム」 に移行するためだ。   今年9月、中学3年の男の子とともに高校1年のカナがやって 来 た。 そ れ ま で 育 て て い た ミ キ を 含 め て、 3 人 の 里 子 は こ の 日、 きょうだいになった。   特にミキは初めての「お姉ちゃん」をことのほか喜んだ。2人 部屋に2段ベッド。いつもカナの後ろを付いて歩き、口まねをし たり、カナが使う文房具や化粧品をねだったり。最初は戸惑いを 見せたカナも進んで面倒を見るようになった。ファミリーホーム 2 0 1 0 年       11月 25日 掲 載 「いただきます」。佳子さん(右)とカナが昼食を囲む。「家庭を知らな いと親にはなれない」。カナはいま、家庭の温かみを感じている

施設より家庭的な環境

一人でも多くの子どもに

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定時になれば食事が並び、子どもたちは出 来 上 が っ た ご 飯 を 食 べ、 部 屋 に 戻 る。 「 家 事は親の姿を見て学ぶもの。それがすっぽ りと抜け落ちていた」   家庭を知り、家族を知らなければ、この 子 た ち は い つ ま で も 親 に な れ な い ―。 「 育 児放棄は親から子へと連鎖する。 どこかで、 誰 か が 止 め な い と い け な い 」。 夫 婦 は 施 設 を辞め、里親になろうと決意した。       親の虐待、 望まない妊娠ゆえの育児放棄、 病気による養育困難、生活困窮…。   さまざまな理由で多くの子どもたちが生 みの親と別れ、友達とも離れ、知らない土 地の施設に生活の場を移される。自分はな ぜ生まれてきたのか―。 心に深い傷を負い、 生い立ちと向き合っていかねばならない。   身近な地域で、緊急時でも子どもを受け 入れられる〝避難所〟になれないか。ファ ミリーホームの定員は、里親よりも多い最 大 6 人。 「 親 と 離 れ て も、 せ め て 友 達 が い る 土 地 で 温 か い 家 庭 の 中 で 暮 ら せ る よ う に 」。 夫 婦 に と っ て そ の 答 え が フ ァ ミ リ ー ホームだった。   3人の「わが子」を見ていると、家族の きずなは確実に芽生えつつある。これから の子育ては一筋縄ではいかないだろう。そ れ で も 夫 婦 は 信 じ て い る。 「 家 庭 こ そ、 子 どもが帰るべき場所だ」と―。 【ファミリーホーム】  2009 年度から始まった小規模住居型児童養育事業。定員は5~6人。 児童養護施設と比べて、一人一人に目が行き届きやすく、家庭的な養育 環境も併せ持つのが特徴。養育者となるには、養育里親の経験が2年以 上、児童福祉関係に従事していた経験が3年以上―といった要件がある。 大分県では委託児童が5人以上となった時点でファミリーホームに認可 する。11 月 1 日現在、県内では5カ所開設され、児童 26 人が暮らす。 は、主に夫婦が育てる里親家庭と、数十人が集団で生活する児童 養 護 施 設 と の、 ほ ぼ 中 間 に 位 置 付 け ら れ る。 親 子 と い う 縦 軸 と、 きょうだいという横軸が交わる、新しい養育の仕組みだ。       正之さん夫婦はかつて、県外の児童養護施設で働いた。子ども と一緒に遊び、休日には敷地内の畑を耕した。ただ、交代勤務の ため、 子どもと継続的にかかわるのは難しかった。 やりがいはあっ たが、施設養育に違和感はぬぐえなかった。   そ こ で は 食 事 の 調 理 や 洗 濯 は そ れ ぞ れ 担 当 の 職 員 が 受 け 持 つ。

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■オオイタデジタルブックとは  オオイタデジタルブックは、大分合同新聞社と学校法人別府 大学が、大分の文化振興の一助となることを願って立ち上げた インターネット活用プロジェクト「NAN-NAN(なんなん)」の一 環です。  NAN-NAN では、大分の文化と歴史を伝承していくうえで重要 な、さまざまな文書や資料をデジタル化して公開します。そして、 読者からの指摘・追加情報を受けながら逐次、改訂して充実発 展を図っていきたいと願っています。情報があれば、ぜひ NAN-NAN 事務局にお寄せください。  NAN-NAN では、この「未来をはぐくむ」以外にもデジタルブッ ク等をホームページで公開しています。インターネットに接続 のうえ下のボタンをクリックすると、ホームページが立ち上が ります。まずは、クリック!!! 別 府 大 学 ⓒ 大分合同新聞社 デジタル版「未来をはぐくむ~地域と歩む子育て~」 第 19 回 編集     大分合同新聞社 初出掲載媒体 大分合同新聞(2010 年 4 月 20 日~ 2011 年 2 月 12 日) 《デジタル版》 2011 年 7 月 8 日初版発行 編集 大分合同新聞社 制作 別府大学メディア教育・研究センター 地域連携部/川村研究室 発行 NAN-NAN 事務局    (〒 870-8605 大分市府内町 3-9-15 大分合同新聞社 企画調査部内) ⓒ 大分合同新聞社 ●デジタル版「未来をはぐくむ」について  「未来をはぐくむ」は、大分合同新聞社が 2010 年4月から 翌 2011 年 2 月まで、同紙夕刊に掲載した連載記事。今回、 デジタルブックとして再構成し、公開する。登場人物の年齢 をはじめ文中の記述内容は、新聞連載時のもの。  閲覧には Adobe Reader をご利用下さい。ほかの PDF ビュー アではリンクやボタン機能が使えない可能性があります。 2011 年3月4日           NAN-NAN 事務局 大分合同新聞社

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