読売新聞 安倍首相 の 憲法 イ ン タ ビ ュ ー 渡 辺 S N S が 大 き く 伸 び た こ と な ど を 背景に、アメリカはじめ世界のあちこち で権力とメディアの関係が変容し、過渡 的な現象がいろいろ見られます。日本で も特に安倍政権になってから、メディア と権力の関わりについて、いろいろ議論 が起きています。メディアといっても幅 広いので、本日はジャーナリズム、新聞 を中心とした活字メディアと権力との関 係を議論していきたいと思います。 最初に具体的な話から入りたいと思い ます。政治権力、特に安倍政権との関係 今年5月、読売新聞が報じた安 倍首相の憲法インタビューや前文 科事務次官の 「出会い系バー通い」 をきっかけに、政治権力とメディ ア、ジャーナリズムの距離感が改 めて大きな議論を呼んでいる。権 力中枢の首相官邸とメディアはど う付き合うべきか、メディアの権 力 監 視 機 能 は 低 下 し て い な い か。 政治取材が長い政治ジャーナリス トと、警察取材の経験などをもと に権力取材のあり方について発信 し て い る ジ ャ ー ナ リ ス ト が、 「 メ ディアの今」 を論じた。
青木 理
ジャーナリスト倉重 篤郎
毎日新聞専門編集委員田﨑 史郎
時事通信社特別解説委員薬師寺 克行
東洋大学教授、元朝日新聞政治部長渡辺 勉
朝日新聞編集委員=進行問われるメディアと権力
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数で、そういう意 味では最大影響力 を誇示する新聞が、 改憲スケジュール についてほぼ完全 に連携し、一種の 国民運動を展開す るというニュース と受けとめました。 読売新聞は、渡邉 恒雄主筆が中心に なって、この 20年、 一体化している。しかも、憲法という国 のグランドデザインを決める最高の法規 です。例えば、小泉政権が郵政改革をし ようとしたときに、社論と一緒だから応 援するというのと違います。ただ、読売 新 聞 が こ の 20年 間 に わ た っ て 憲 法 問 題、 改憲をずっと自社の案までつくって熱心 にやってきたことについては敬意を表し ます。 青 木 焦 点 の 人 物 に イ ン タ ビ ュ ー し、 焦 点の事柄を尋ねて報じるという作業自体 を捉えれば、この記事もことさら特別な ことではないと思います。ただ、僕は政 治取材の経験がほとんどないのでうかが いたいのですが、日本政治の最高権力者 であり、かつ究極の公的存在である首相 については、安倍政権の以前まで、こう いう形で特定のメディアのインタビュー に応じないという暗黙のコンセンサスが ありましたね。 渡辺 不文律ですね。 青 木 そ れ は あ る 種、 記 者 ク ラ ブ 制 度 の 悪弊と言われていた部分でもありますが、 で、このところ読売新聞の報道が話題に なります。同紙は、部数もナンバーワン で、影響力も大きいジャーナリズムを代 表する新聞です。最初に、5月3日に同 紙が掲載した安倍晋三首相 (自民党総裁) の憲法改正に関するインタビューについ てどうお考えですか。 倉 重 私 は、 「 メ デ ィ ア と 政 権 」 と い う モ ラルの問題というよりも、これはニュー スだという印象がありました。要は、 「安 倍 1 強 」 と 言 わ れ る 時 の 政 権 と、 最 大 部 憲法改正を悲願、社是としてずっとやっ てきた。しかし、歴代政権にそれをなし 得るスタンスと力がなかった。ようやく 安倍政権ができて、それと結んでお互い の悲願を実現し合うということなんだと 思うんです。政権はいろいろな課題を進 めようとするが、全国紙しかもあれだけ 影響があるところが一緒になってやって いくということは過去にはなかった。 もちろんモラル的にいかがなものかと も思います。政権とメディアは、一定の 距離感が必要だと思います。政治記者か ら 社 会 部 記 者 ま で い て 幅 が あ る け ど も、 メディアである限り、批判的な視点が必 要だと思うんですが、今回の報道はほぼ
倉重 篤郎
くらしげ・あつろう 毎日新聞専門編集委員 1953 年生まれ。毎日新聞水戸支局、政治部。2004 年政 治部長、11 年論説委員長を経て、13 年から現職。熱意
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青木
一方でメディアが権力に利用されないた めの 「メディアギルド」 という側面もあっ たと思うんです。それを軽々と打ち破ら れ、しかも読者には見えにくい。当時の 読売の編集局長だった溝口烈さんが書い ているように、確かに粘り強く交渉した 結果なのかもしれないが、改憲を目指す 首相が改憲を訴えてきたメディアの単独 インタビューに応じ、自らが考える改憲 の方向性を語った。結果としてメディア が利用されたわけです。首相という存在 へのインタビューのあり方を含め、きち んと実態や経緯を明かし、議論しておか なくてはならないと思います。 それから、最近メディアがあたかも二 分 し て い る よ う に 見 え る と い う 状 況 は、 突き詰めれば僕は読売問題だという気が しています。もともと共同通信にいたの で地方紙はいまもよく読みますが、特定 秘密保護法にせよ、共謀罪にせよ、安保 法制にしても、大半が政権の振る舞いに 疑義を呈している。 し か し 、8 0 0 万 部 の 巨 大 紙 が 完 全 に 政 権 寄 り へ と 舵 を 切 っ た 。少 し 前 の 読 売 は 、小 泉 首 相 の 靖 国 神 社 参 拝 を 真 正 面 か ら 批 判 す る な ど 、も う 少 し 是 々 非 々 だ っ た気がします 。それがすっかり消え 、政権 を壊 し た と い う こ と に な る わ け で す ね 。 も と も と あ る 種 の 談 合 で 成 り 立 っ て い た 世 界 な ん で す よ 。 渡辺 明文化されていませんからね。 田 﨑 本 題 の 読 売 新 聞 の 報 道 に つ い て い えば、僕は時の総理大臣が何を考えてい る か を い ち 早 く き ち ん と 報 道 す る の は、 メディアの務めだと思うんです。その当 たり前のことを読売新聞がやっただけで はないか。 僕 が 違 和 感 を 覚 え た の は 、 む し ろ そ の イ ン タ ビ ュ ー に 応 じ て い く と い う 形 に なっ た ん で す ね 。 こ ち ら か ら 見 る と 確 か に ギ ル ド が 壊 さ れ た と い う こ と な ん で す け れ ど も、 官 邸 側 か ら 見 る と、 談 合 組 織 広 報 紙 の 色 合 い を 強 め た た め 、あ た か も メディアが二分しているように見えてし ま う 。結 果 的 に 世 論 が 二 分 し て い る よ う に見えてしまっているのではないですか。 渡 辺 こ の 中 で 一 番 政 治 記 者 歴 が 長 い 田 𥔎 さ ん に ご 説 明 い た だ き た い と 思 い ま す 。 田 﨑 第 2 次 安 倍 政 権 が ス タ ー ト す る ま で は 、 官 邸 内 の 申 し 合 わ せ み た い な 形 で 、 確 か 2 、3 カ 月 に 1 回、 報道各社回 り持 ち で イ ン タ ビ ュ ー し て い た ん で す 。 そ れ が 第 2次 政 権 に な っ て か ら 、 個 別 の 社 と イ ン タ ビ ュ ー す る と い う 形 に 変 わ っ た 。 官 邸 記 者 ク ラ ブ は 当 初 抗 議 し て い た ん で す け れ ど も、 総 理 サ イ ド と 話 が つ い た メ デ ィ ア か ら 順 次
田﨑 史郎
たざき・しろう 時事通信社特別解説委員 1950 年生まれ。時事通信社の政治記者として、長年、 永田町を取材。著書に『竹下派死闘の七十日』『政治 家失格』など。テレビのコメンテーターとしても活 躍中。朝
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の「介在」
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田
﨑
ないかという気はしますね。 田 﨑 メ デ ィ ア 対 策 と し て 安 倍 さ ん が 渡 邉恒雄さんと会ったというふうに書いて あって、その2日後にインタビューを受 けているという書き方になっている。こ れを読むと、渡邉さんが介在していたと なる。本当に事実報道に徹しているのか なと思ってしまいます。 倉 重 田 﨑 さ ん が お っ し ゃ る よ う に、 そ の晩の会合と改憲問題がどのぐらい関係 があったのか、それは一つの焦点ですね。 ただ、それ以外の点を見ると、例えば読 売新聞の政治部長がインタビューしてそ の原稿が載った日に、安倍さんがビデオ メッセージで明言するというタイミング が一緒だったということが一つ。さらに、 読売新聞の社説がこれまでは一貫して憲 法9条については2項改正だったのです が、それが3項などで自衛隊付加という 安倍さんと全く同じベースに急に変わっ た。そういうことからすると、推測では ありますが、やはりお互いにお互いの願 望 を 成 し 遂 げ る た め に、 非 常 に 強 力 な パートナーを得て、物事を動かそうとし ていたのではないかと。政治記事ですか ら、そういうある程度の推測はしてもい いと思います。 薬 師 寺 2 0 0 5 年、 小 泉 内 閣 の と き に、 私 は 朝 日 新 聞 の 月 刊 誌 「 論 座 」 の 編 集 長 をしていましたが、首相及び飯島勲秘書 官から、単独インタビューのオーケーを もらいました。一応、官邸記者クラブの 決まりごとを知っていたので、政治部に 相談し記者クラブで協議をしてもらった。 その結果、朝日新聞系列の雑誌で首相の 単独インタビューをした場合は処分もあ りうるということで、インタビューを断 念したことがあります。 内 閣 記 者 会 が 各 社 横 並 び の ル ー ル を つ く っ た の は は る か 昔 で す が 、 そ の 理 由 は 地 方紙 の 要求 が 大 き か っ た そ う で す 。 個別 の イ ン タ ビ ュ ー が 可 能 に な る と、 全 国 紙 ば か り が 相 手 に さ れ 、 地 方 紙 は 無 視 さ れ る だ ろ う と 心 配 し た ん で す ね 。 ま た 首 相 の 側 も 一 つ 引 き 受 け た ら 次 々 要 望 が 来 て 応 え き れ な く な り か ね な い と考 え た よ う で す 。 と こ ろ が 安 倍 政 権 で メ デ ィ ア 戦 略 が 変 化 し 、 テ レ ビ を 含 め 積 極 的 に メ デ ィ ア を 利 用 す る よ う に な っ た の で す 。 そ の 結 果、 メ デ ィ ア と 首 相 官 邸 の パ ワ ー バ ラ ン ス が 完 全 に 逆 転 報 道 を 受 け た 朝 日 新 聞 5月 4 日 付 朝 刊 の 「 改 憲、 踏 み 込 む 首 相 核 心 の 9 条 3 項 追 記 に 転 換 」 と い う 記 事 「 時 時 刻 刻 」 で す 。 そ の 中 で 、 こ う い う く だ り が あ る ん で す 。 「 今 回 の 憲 法 改 正 の 方 針 表 明 に 向 け 、 首 相 は 事 前 に メ デ ィ ア に も 対 策 を 打 っ た 。 4 月 24日夜、都内の料理店で、憲法改正試 案を紙上で発表している読売新聞の渡辺 恒雄・グループ本社主筆と食事。その2 日後に東日本大震災をめぐる問題発言を し た 今 村 雅 弘 前 復 興 相 を 更 迭 し た 直 後、 同紙のインタビューを受けている」 こ れ を 読 む と、 渡 邉 さ ん と 総 理 サ イ ド が 話 を つ け て イ ン タ ビ ュ ー に な っ た と い う ふ う に 読 ん で し ま う 文 章 で す 。 こ れ を 書 い た 人 は 、 渡 邉 さ ん が 一 体 何 を 話 し た の か 、 憲 法 改 正 に つ い て ど う い う 話 を し た の か 、 紙 面 化 す る 相 談 ま で し た の か と い う 取 材 を 、 読 売 あ る い は 官 邸 サ イ ド に し て い る の だ ろ う か と 思 い ま し た 。 し て い な い で こ れ を 書 く の だ っ た ら 、 ち ょ っ と 書 き 方 と し て い か が な も の か 。 事 実 関 係 の 詰 め が 果 た し て 行 わ れ た ん で し ょ う か 、 む し ろ 朝 日新聞 の 人 に 聞 き た い 。 渡 辺 私 は 現 場 に い な い の で 経 緯 は わ か らないです。しかし、仮に会談の中身ま でとれていたら、記事にしていたんじゃ 突 っ 込 み 不足 の イ ン タ ビ ュ ー メ デ ィ ア 戦略 に 乗 せ ら れ た
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薬師寺し た と み て い ま す 。 読 売 新 聞 の イ ン タ ビ ュ ー に つ い て で す が 、 首 相 は じ め 幹 事 長 や 党 首 に 対 す る 個 別 イ ン タ ビ ュ ー は 政 治 部 報 道 で 重 要 な も の で あ り、 そ れ を 実 現 す る の は 当 然 の こ と で す 。 し か し 、 い く つ か ポ イ ン ト を 挙 げ れ ば 、 ま ず 安 倍 首 相 は 憲 法 9 条 を そ の ま ま 残 し 、 「 自 衛 隊 の 記 述 を 書 き 加 え る 」 と し て お り、 自 民 党 の 憲 法 改 正 草 案 に こ だ わ る べ き で な い と 発 言 し て い ま す 。 そ し て 、「 政 治 は 現 実 で あ り、 結 果 を 出 し て い く こ と が 求 め られ る 」 と も 発 言 し 、 自 民 党 の 改 正 案 を 全 面 的 に 反 故 に し て い る ん で す ね 。 こ れ ら の 点 に つ い て は 、 イ ン タ ビ ュ ー の 中 で 突 っ 込 ん で 聞 い て い な い し 記 事 の 上 で も 指 摘 し て い な い の は 、 読 む 側 に す れ ば 物 足 り な い で す ね 。 二 つ 目 は 、 同 じ 日 の 社 説 で 「 議 論 の 活 性 化 を 図 っ た こ と は 評 価で き よ う 」 「 首 相 の 問 題 意 識 は 理 解 で き る 」 と、 首 相 発 言 を 積 極 的 に 評 価 し て い ま す 。 し か し 、 安 倍 首 相 は か つ て 憲 法 96条 改 正 を 提 起 し たこともあります。容易に改憲できそう なことしか提起していないことをどう考 えるのか。そのような論点は社説にはな かったですね。 読 売 新 聞 は 3 度 に わ た り 改 憲 を 提 起 し て き た 。 そ し て 、 2 0 1 2 年 に 自 民 党 が 当批判があったんだと思いますよ。だか ら編集局長の考えを述べた。それなら最 初から同時掲載しときゃよかったと思い ますがね。 渡 辺 か つ て な い 批 判 を 受 け た と す れ ば、 読売も一線を越えた部分がある、という ふ う に 読 者 か ら 見 ら れ た の で は な い で しょうか。 田 﨑 先 ほ ど 倉 重 さ ん が 権 力 と メ デ ィ ア の 「 本 来 の あ り 方 」 と い う こ と を 言 わ れ たが、僕にはわからないんですよ、何が 「 本 来 の あ り 方 」 な の か。 時 の 権 力 者 が 何を考えているかを伝えるのは、少なく ともその一つであると思うんです。 青 木 僕 は、 こ れ が 単 に メ デ ィ ア の 役 割 を果たしたという話で済ますべきではな いと思います。政権側にメディアが利用 されてしまっているのは明らかでしょう。 最高権力者が何を考えているかいち早く 伝えるのが仕事だというのは、それはメ ディア側の論理ではあるけれど、政権側 からすれば、この時期にどのメディアを 選べば自分の主張が最も伝わりやすいか を値踏みし、読売を選んだ。究極の公的 存在、最高権力者である首相がメディア を選別し、利用されている。ギルドには 功罪あったでしょうが、それが軽々と打 憲 法 改 正 草 案 を 提 起 し た と き の 読 売 新 聞 の 紙 面 を 見 る と、 前 文、 基 本 的 人 権 の 問 題、 細 部 で 言 え ば 軍 事 裁 判 所 の 設 置 な ど ま で 含 め て 細 か く分析 し て い ま す 。単純 に 支 持、 評 価 す る だ け で な く、 国 会 の 二 院 制 を 見 直 す と い う 部 分 が 自 民 党 案 に 入 っ て い な か っ た の で 、 そ の 部 分 が 物 足 り な い と い う こ と ま で 書 い て あ る ん で す 。 こ こ ま で 精 緻 に 憲 法 論 議 を 展 開 し て き た の に 、 今 回 は 非 常 に ラ フ な 論 評 と 紙 面 展 開 に な っ て い る の は な ぜ か 。 首 相 の メ デ ィ ア 戦 略 と メ デ ィ ア 利 用 と い う も の に 乗 せ ら れ た よ う な 印象 を 受 け ま し た 。 渡 辺 田 﨑 さ ん が お っ し ゃ っ た よ う に、 最高権力者の意向を早くとるって、その とおりだと思いますし、それが僕らの仕 事だと思います。最初に見たときは、や られたと思いました。本来、朝日が単独 インタビューでこれをとってこそ朝日の 存在意義が高まると思ったんです。読売 にとられてしまったと。にもかかわらず、 その 10日後に何でこんな編集局長の説明 を載せたのか。 田 﨑 読 売 新 聞 に 対 す る あ る 種 の 先 入 観 念、政権とべったりだ、安倍さんとべっ たりだ、渡邉恒雄さんが会っていた。そ ういう積み重ねの中で、読売に対して相
から、朝日はほかでとられたのかもわか らないですが、僕やその場にいた人たち が 聞 い た 話 と 似 て い る ん で す。 そ こ で 引っかかるのは、あの挨拶の後、安倍総 理 は 「 完 全 オ フ レ コ で す 」 と 言 わ れ た。 ほかの新聞はどこもこのカギかっこを引 用していないんです。 後で聞きますと、 安 倍 事 務 所 で は 「 来 年 か ら は あ あ い う 会 合 はやめようか」 みたいな話になっている。 ( 憲 法 関 係 で ) 渡 邉 さ ん が 総 理 と 会 っ た 話 が 出 ま し た け れ ど も、 あ の 後、 今 度、 渡邉 さ ん は 多分 オ ープ ン に し な い 形 で 総理 と 会 う よ う に な っ ち ゃ っ て い る ん で す よ 。 だ か ら 、 確 認 し て 原 稿 を 書 い て い る な ら 、 僕 は そ れ で い い ん で す よ 。 で も、 未 確 認 の ま ま 、 そ う い う ふ う に 書 い て い く と、 そ の 会合自体 を 隠 す よ う に な る ん で す 。 ま た 、 5 月 15日 の 会 合 は 1 0 0 人 近 く いたのですが、そこで聞いた話を書いた とすると、その会合をやめようみたいな 話になってくるんですよ。そういう面で、 朝日新聞も考えられたらどうでしょうか という感じはします。 渡 辺 そ れ は 後 ほ ど、 オ フ レ コ な ど の 取 材ルールの話になってくると思いますの で、その中でまたやりたいと思います。 倉 重 田 﨑 さ ん、 1 0 0 人 ぐ ら い い る 会 ち破られてよかったのか。その経緯はど ういうものだったのか。それはどういう 作用をもたらしたのか。メディアがきち んと検証しておくべきです。 テレビで仕事をしていると、首相がメ ディアを選別することは予想以上の影響 力を持つことにも気づきます。これもメ ディア側の問題ですが、例えば情報番組 や ワ イ ド シ ョ ー な ど で も 政 権 へ の 忖 度 ムードが出てくる。政権の意向を刺激し、 ウチの報道番組に出てくれなくなったら 困るといった気配が滲んでくるんです。 そ れ か ら も う 一 つ、 首 相 が 国 会 で 「 読 売 を 熟 読 し て く れ 」 と 言 っ た と き、 読 売 は紙面で怒るべきじゃないですか。読売 はインタビュー内容を報じてはいるけれ ど、誰もが読売を読んでいるわけではな い。政権の代弁者でも政権広報紙でもな いというなら、首相の主張を垂れ流して いるわけではないんだと怒り、 同時に 「首 相 は も っ と 丁 寧 に 説 明 す べ き だ 」 と 釘 を 刺すべきでしょう。 渡 辺 先 ほ ど 倉 重 さ ん が お っ し ゃ っ た よ うに、読売もやっぱり憲法改正を実現し た い わ け で す か ら、 あ る 種 の 権 力 と メ デ ィ ア が 相 思 相 愛 と い う か、 お 互 い に ウ ィ ン ウ ィ ン と い う か、 利 益 が あ る と 思ってやったと考えています。多分トッ プの、経営も紙面も司る主筆の判断だっ たと思いますので、一方的に乗せられた ということではないんじゃないかなと思 います。 田 﨑 僕 は 朝 日 新 聞 の 憲 法 改 正 に 関 す る 報道で、もう一つ引っかかった記事があ ります。6月4日の朝刊で、 「首相 『保守 強 硬 の 私 が ま と め る 』」「 持 論 封 印 『 9 条 加 憲 』 に 軸 足 」 と い う 1 面 ア タ マ の 記 事 をつくったんですね。その書き出しだけ 申 し 上 げ る と、 〈「 与 党 内 を 説 得 で き な い のに、 『自民党の憲法改正草案がいい』 と 言っているのは護憲運動をやっているの と 同 じ だ 」。 安 倍 晋 三 首 相 は 5 月 中 旬、 都内であった会合のあいさつで訴えた。 〉 と書かれているんです。 僕 の出 席 し た 会 合 で も こ の種 の発 言 を さ れ て い て 、 そ れ は 安倍晋太郎先生 を し の ぶ 会 と い う の を 年 1 回 こ の 時 期 に や っ て い ま す 。 今 年 は 5 月 15日 で す が、 も う 1 カ 所出てくるカギかっこも、そこでの安倍 総理の発言と非常に似ているんです。だ
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渡辺
合でオフレコを守るというのはなかなか な い で し ょ う。 し ゃ べ る 側 か ら し て も、 そ こ ま で ( 完 全 な オ フ レ コ を ) 予 定 し て いるかというのは、ちょっと疑問だと思 います。内容も含めて、それが致命的な オフレコ破りなのかという、今、疑問を ちょっと持ちました。 出会 い 系 バ ー報道 渡 辺 も う 一 つ 、 5 月 22日 の 朝 刊 で 読 売 新 聞 が 報 じ た 、 前 川 喜 平・ 前 文 部 科 学 事 務 次 官 の 「 出 会 い 系 バ ー 通 い 」 報 道 に つ い て は ど う お 考 え で し ょ う か 。 青 木 私 は 通 信 社 記 者 生 活 の 相 当 部 分 を 社会部で過ごしたんですが、この社会面 記 事 を 見 た と き に 「 底 が 抜 け た 」 と 思 い ました。例えば共同通信の社会部でこの 記事を、少なくとも僕の在職していたこ ろにこれを 「特ダネです」 「独自取材です」 などと言って定稿したら、デスクに鼻で 笑われます。 「これの何が問題なの?」 と。 し か も、 こ の 原 稿 の 政 治 的 意 図 は 容 易 に 推測がつきます。 社会部記者として、 こん な取材をさせられ、平気でこんな記事を 書く者がいるんだということに心底絶望 しました。 渡辺 週刊誌だったら。 青 木 週 刊 誌 だ っ た ら あ り 得 る か も し れ ない。これは別にどちらがいいという話 ではありませんが、少なくとも新聞はこ ういう記事を掲載してこなかった。公権 力を不正に行使したわけでもないし、違 法性もない。しかし、それが一足飛びに 掲載された。しかも、露骨な政治案件で す。だから 「底が抜けた」 と感じたのです。 倉 重 底 が 抜け た と い う の は な か な か い い と い う こ と と、 そ れ を 二 つ つ な げ て 、 い か に も 彼 が そ う い う 行 為 を し て い た か の よ う な 印 象、 まさ に 安 倍 さ ん の 得 意 な 印 象 操 作 の よ う な 報 道 に な っ て い ま す 。 い か に 公 的 な 人 と い え ど も、 人 権 に か か わ る 話 で す 。 本 当 に あ な た は そ う い う こ と を し て い た ん で す か と い う こ と に つ い て の コ メ ン ト や 、相 手 を し て い た 人 か ら こ う い う話 を と り ま し た 、と い う こ と が 記事 の 中 に 全く な い 。 そ れ か ら 、よ く あ る こと で す け ど 、相 手 に 取 材 を 求 め て も 、相 手 が 応 じ な い こ と を も っ て 、時 間 切 れ で コ メ ン ト は と れ ま せ ん で し た と い う の は よ く や る 手 な ん で す 。し か し 、こ の 手 の 記 事 は 、突 撃 取 材 を し て で も 相 手 の 顔 を 見 な が ら コ メ ン ト を と ら な き ゃ 表 現 だ と 思 う け ど も、 い ろ い ろ 読 み 込 ん で み る と、 や は り 足 り な い 点 が 随 分 あ っ た よ う に 感 じ ま す ね 。 一 つ は 、 出 会 い 系 バ ー に 通 っ て い た こ と と、 そ れ か ら そ こ が 売 春 と か い か が わ し い 行 為 を 行 っ て い た 場 所 で あ る
青木 理
あおき・おさむ ジャーナリスト 1966 年生まれ。共同通信で社会部、ソウル特派員など を経て 2006 年からフリー。著書に『日本の公安警察』(講 談社現代新書)、『安倍三代』(朝日新聞出版)など。「底
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原稿
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い け な い 記事 じ ゃ な い か な と思う ん で す 。 何 の 背 景 も な い 政 府 高 官 の ス キ ャ ン ダ ル を指 摘 す る ス ク ー プ 記 事 で あ っ た と し て も、 記 事 の 的 確 性 と し て は 低 い と 思 う 。ま し て 、 政権 と連動 し て 、 前 川 さ ん の 一 連 の 加計事 件 を め ぐ る パ フ ォ ー マ ン ス を 押 さ え 込 む よ う な 意 図 が あ っ た の で は な い か 、と 疑 わ れ て い る と こ ろ が 非 常 に 重 要 な こ と だ と 思 い ま す 。見過 ご せ な い こ と だ と思 っ て い ま す 。 薬 師 寺 私 は 第 一 報 を 読 ん だ と き は す ご いニュースだと思い、この問題がどう広 がっていくのかと続報を期待したのです がなかったですね。いわゆる調査報道で は、 初報があって、 その後さらにより深刻 なファクトなり関係者の証言が続き、場 合によっては犯罪につながるような事実 が 明 ら か に な っ て い き ま す。 今 回 は そ ん な展開はなかったです。 「公人中の公人の 行為として見過ごすことが出来ないのは 当 然 だ ろ う 」と い う 社 会 部 長 の 記 事 が あ り ま し た け ど、 公 的 な 部 分 に ど う 接 点 が あるのかという報道もありませんでした。 また、この記事の前後にいろいろな出 来 事 が あ り ま し た。 5 月 16日 に 「 眞 子 さ ま ご 婚 約 へ 」 の ニ ュ ー ス が 一 斉 に 流 れ ま した。その翌日に、朝日新聞が文科省の 内部文書を報道した。それから数日後に 読売新聞の記者が前事務次官に取材をし ている。同時に和泉洋人首相補佐官が文 科省を経由して前川さんに面会を打診し た。その翌日に読売新聞が前川さんの記 事を報道した。これらの出来事が関係あ るのかどうか、推理小説みたいにいろん なことを想像させますね。 また、この数カ月間の加計学園に関す る報道を見ると、朝日新聞の紙面展開は、 ある種、調査報道的な印象を私は受けま した。方向性は政権批判でしょうが、組 織 的 に 取 材 を し て フ ァ ク ト を 見 つ け て、 それの意味づけを報道し、そして政府や 野党の反応を伝え、それに対する評価を つけ加えるというサイクルで紙面展開を していると思いました。対照的に読売新 聞の一連の報道は、この問題に一歩距離 を置いているようで、独自の記事は前川 さ ん の 記 事 だ け じ ゃ な い か と 思 い ま す。 多 く の 記 事 が 「 政 府 は 否 定 」 と い っ た 見 出しで、独自に事実を追及しているとい う印象はなかったですね。 田 﨑 出 会 い 系 バ ー の 話 だ と、 僕 は 社 会 部記者の経験がほとんどないので。ただ、 僕がえっと思ったのは、現職でなく前職 の人をこれぐらい扱うのかという疑問で したね。 青 木 読 売 の 出 会 い 系 バ ー 通 い の 記 事 と いうのは、もちろん読売は情報源を明か しませんから、どこから情報を得たのか はおそらく永遠にわからない。ただ、点 と点をつないで浮かび上がる推測ぐらい は 許 さ れ る で し ょ う。 前 川 氏 に よ れ ば、 まず事務次官就任前後、杉田和博官房副 長 官 に 呼 ば れ、 こ の 件 で 警 告 を 受 け た。 前川氏は、誰にも明かしていないプライ ベートをなぜ知っているのかと驚いた。 僕は公安警察の取材を長くしていまし たが、中央省庁の局長級になれば公安警 察 が 身 辺 を 調 べ る こ と も あ る で し ょ う。 実際にそういう話を耳にし、原稿に書い たことがあります。そうした調査の是非 も 議 論 す べ き で す が、 あ る 種 の 〝 危 機 管 理 〟 だ と い う 理 屈 は 成 り 立 つ の か も し れ ない。しかし前川氏の場合、政権に反旗 を翻そうとしていることへの恫喝として そうした情報が使われた疑いが濃い。つ まり公権力が公権力を行使してかき集め た情報を、政権維持や反逆者排除のため に使ったのではないか。しかも、前川氏
前次官
の
行動
ど
こ
が
問題
か
調査報道
な
ら
展開不十分
―
薬師寺
が告発を決意したとされる時点で、常日 ごろ政権寄りだと指摘されていた新聞が それを報じる。これはメディアが政権の 先兵になったのではないか。まさに権力 とメディアの距離はどうあるべきなのか を考えるモデルケースでしょう。 余談ですが、公安警察は冷戦体制が終 わってから存在意義が問われ、活動の範 囲や方向性をかなり変えています。例え ば与野党を問わぬ政治情報を収集し、週 刊誌や夕刊紙、政治部の記者も一部そう だけれども、内調や公安警察と情報交換 の勉強会みたいなのを開いている。そこ から政治家のスキャンダルなどが発信さ れているとするなら、こうしたメディア と 権 力 の 関 係 は 真 剣 に 考 え て お か な く ちゃいけない。 渡 辺 ま さ に メ デ ィ ア の 独 立 性 が 問 わ れ る局面ですよね。 青 木 先 ほ ど 薬 師 寺 さ ん が 調 査 報 道 的 と お っ し ゃ い ま し た が、 読 売 の 出 会 い 系 バー通いは独自記事であっても、調査報 道とは対極にあるものです。政権に対す る反逆者を潰すために使われたとするな ら、メディアとしては自殺行為です。 渡 辺 だ か ら、 そ う い う 意 味 で 言 え ば、 一枚岩の読売からも、OBとはいえ、月 刊 「 文 芸 春 秋 」 8 月 号 に 問 題 点 を 指 摘 す るリポートが出たのは、僕は非常に驚き でした。僕が感じた違和感を読売OBの 方も感じたのかなと思いました。 倉 重 実 際 に 何 が 起 き た か、 い ろ い ろ 推 測はあるが、この問題をこのまま放置し て お い て い い の か。 誰 か が 検 証 す べ き じゃないか。私が特にそう思うのは、前 川さんを日本記者クラブで呼んで記者会 見してもらい司会をした。彼からみると、 いくつかの状況証拠を組み合わせてみる と、政権とメディアの間で何らかの連携 があったように思えるという。僕は何か 宿題をもらった気がするんです。本来は 読売新聞がやるべきです。自社にかけら れ た 一 種 の 嫌 疑 で す か ら、 自 社 で 調 査 チ ー ム を つ く っ て、 関 係 者 に 取 材 し て、 真相をつまびらかにする責任がある。メ ディアと政権の距離について、大きな疑 念を呼んでいるのだから、メディア界の 中で自浄作用というか、決着をつけるべ きだと思うんです。毎日新聞でやれと言 われるかもしれないけれども、なかなか これは大変な取材です。しかし、このま ま忘れてしまい、推測だけで終わらせて いい話ではないと思います。 首相 や 政治家 と の 会食問題 渡 辺 特 に 安 倍 政 権 に な っ て か ら 、 田 﨑 さ ん が メ ン バ ー に な っ て い る 会 な ど も 含 め 、 メ デ ィ ア 関 係 者 が 首 相 と 食 事 を す る ケ ー ス が 非 常 に 多 く な り ま し た 。 首 相 動 静 で 、 朝 日 新 聞 の 関 係 者 が い る と、 読 者 か ら 、 そ こ で 何 を 話 し て い る の か 、 何 で そ れ を 書 か な い の か と い う 問 い 合 わ せ が 殺 到 し ま す 。 田 﨑 さ ん の 会 食 メ ン バ ー の 1 人 で あ る 曽 我 豪 編 集 委 員 が 紙 面 で 一 度 説 明 し て い ま す が 、 動 静 が 出 る た び に 問 い 合 わ せ は あ り ま す 。 権 力 と メ デ ィ ア が 癒 着 し て い る ん じ ゃ な い か と い う ふう に思 わ れ る 一 つ の 要 素 に な っ て い ま す 。 当 事 者 で あ る 田 﨑 さ ん か ら ご 説明 を お 願 い し ま す 。 田 﨑 政 治 記 者 の 取 材 現 場 と い う こ と で 、 政 治 家 と 私 た ち が 飯 を 食 べ な が ら 取 材 を
政権
と連動
し
た
の
か
メ
デ
ィ
ア
が
決着
つ
け
る
べ
き
―
倉重
会食、
政権復帰前
か
ら
食事代
は
記者側
の
負担
―
田
﨑
誘 わ れ ま せ ん け ど ( 笑 )。も ち ろ ん 、 金 銭 の 面 は き ち ん と 一 線 を 引 か な く て は な り ま せ ん が 、 社 会 部 記 者 だ っ て 偉 そ う に 言 え な く て 、 警 察 官 や 検 察 官 と 酒を 飲 み 、 お ご っ た り お ご ら れ た り と い う こ と は あ る 。 最 終 的 に は 倉 重 さ ん が お っ し ゃ っ た よ う に 、 そ の 上 で 書 い た も の で 評 価 さ れ る し か な い 。 ベ ッ タ リ の 記 事ば か り 書 い て い る な ら 、 結 局 お ま え は 政 権 の 代 弁 者 だ と 批 判 さ れ る だ け の こ と で す 。 た だ 、 メ デ ィ ア の 経 営 陣 が 首 相 と 会 食 す る の は 別 で す 。 こ れ は 百 害 あ っ て 一 利 も な い 。 両者 が ご っ ち ゃ に な っ て い る 気 が し ま す 。 薬 師 寺 政 治 記 者 の 取 材 は 社 会 部 と 違 っ て 定 点 観 測 で す。 永 田 町 と い う 半 径 1・ 5キロの中で同じ対象を相手に取材を続 けるわけですから、おのずとやり方が違 う。主要な政治家に何度も夜となく朝と なく何度も接触を繰り返し、信頼関係を 築くことができればまともに会ってもら えるようになる。 私が 初 め て 首 相 公 邸 を 訪 れ て 現 職 の 首 相 の 取 材 が か な っ た と き は興 奮 しま し た 。 す る と い う の は 日 常 茶 飯 事。 倉 重 さ ん と 一 緒 に な る 会 も あ り ま す け れ ど も、 リ ラ ッ ク ス し た 雰 囲 気 で 話 を 聞 い て 、 物 事 の バ ッ ク グ ラ ウ ン ド を知 る と い う の は 政 治 記 者 の 日 常 な ん で す 。 そ こ で の 話 と い う の は す ぐ 原 稿 に 書 い た り し な い と い う の が 、 政 治 家 と 政 治 記 者 の 暗 黙 の ル ー ル に な っ て い る 。 長年培 っ て き た ル ー ル で す よ 。 安 倍 総 理 と の 会 合 は 20 0 8 年 秋 か ら 始 ま っ て い て 、 3 カ 月 に 1 回 ぐ ら い 食 事 を し て い た ん で す 。当時、安倍 さ ん が 総理 に 復 帰 す る な ん て い う こ と は 全 く 思 っ て い な か っ た 。 総 理 に な ら れ る 前 に 、 な ら れ た 後 も 食 事 す る の は い か が で し ょ う か と い う こ と を 申 し 上 げ た ら 、 安 倍 さ ん が オ ー ケ ー し て く れ た 。2 0 1 2 年 12月 26日 に 総 理 に 復 帰 さ れ る ん で す け ど、 翌 1 月 8 日 に 食事をしたのが最初で、 その後年に1、 2 回、 継続的に食事している。 総理に復帰す る ま で は、 安 倍 さ ん も 含 め て 会 費 制 だ っ た。 た だ 、総 理 に な ら れ た 後 、総 理 か ら 会 費 を も ら う わ け に も い か ん な と い う こ と で 、総 理 を 除 い て 出 席 者 分 で 6 等 分 か 7 等 分 し て い る 。総 理 と 食 事 し て い る と 官 房 機 密 費 で 飯 食 っ て い る ん だ ろ う な ん て 言 わ れ る に 決 ま っ て い る か ら 。政 治 取 材 の な ら わ し と し て オ フ レ コ に な っ て い る 。 夜 の 話 を 全 部 表 に 出 し 始 め た ら 、収 拾 が つ か な い 。読 者 の 要 望 に 応 え る こ と に な る か も し れ ま せ ん が 、そ の 後 の 取 材 が 続 か な い で す ね 。 倉 重 安 倍 政 権 に な っ て や は り 飯 が 多 く な っ た 。 僕 ら が現 役 記 者 の と き は 、 そ う い う チ ャ ン ス は な く、 周 辺 の 側 近 や 秘 書 官 ら を 夜 回 り し た り 朝 回 り し た り し て 、 総 理 の 考 え て い る ご く 断 片 を 非 常 に 労 力 を か け て 集 め て 、 そ れ を 総 合 し て 記 事 を つ く っ て い た 。 そ ん な の に 比 べ た ら 、 直 接 飯 を 食 い な が ら 彼 が リ ラ ッ ク ス し た 段 階 で 話 を 聞 け る と い う こ と は 、 最大 の 取材 の チ ャ ン ス 。 だ か らま っ た く 否 定 し な い で す 。 だ け ど 、 そ れ は 世 の 中 か ら 、 癒着 し て い る と か 、 官 房 機 密 費 で 飲 ん で い る か も し れ な い と 思 わ れ る リ ス ク は 背 負 っ て や る べ き だ 。 最 後 に 評 価 さ れ る の は そ の 人 の 原 稿 で 、 記 事 が ど う い う ス タ ン ス を と る の か で 評 価 さ れ る と思 い ま す 。 青 木 記 者 が 取 材 対 象 と の 接 触 に 労 を 割 く の は 当 然 で す 。 僕 だ っ て 安 倍 首 相 か ら 飯 食 わ な い か と 誘 わ れ れ ば 、 行 き ま す よ 。
首相
と
の
1
対
1
取材
政治記者
の
到達点
―
薬師寺
食事
は
貴重
な
取材
チ
ャ
ン
ス
最後
の
評価
は
そ
の
人
の
原稿
―
倉重
現 役 の 記 者 の 名 前 が 食 事 相 手 と し て 掲 載 さ れ る よ う に な り ま し た 。 し か も 1 対 1 じ ゃ なく て 、 な ぜ か 各 社 ず ら っ と そ ろ っ て い る 。 ま た 、 大 手 メ デ ィ ア の 社 長 が 部 下 と と も に 食 事 を し て 名 前 が 掲 載 さ れ て い る 。 田 﨑 さ ん の よ う な ケ ー ス も あ る ん で し ょ う け れ ど も、 ほ と ん ど 付 き 合 い の な い 人 も 同 席 し 食 事 をし て い る 。 以 前 は こ ん な こ と は な か っ た で す ね 。 こ れ は 首 相 の 側 の 変 化 も あ る で し ょ う。 マ ス コ ミ 関 係 者と 会 っ て 食 事 し て い る こ と を 公 に す る こ と で 、 自 ら の 包 容 力 や 幅 の 広 さ を 示 そ う と し て い る の か も し れ ま せ ん 。 一 昔 前 の 首 相 に は な か っ た こ と で 、 こ れ も メ デ ィ ア 戦略 の 一 つ だ と思 い ま す 。 た。そういうやり方もある。僕は民主党 政権のときも、総理公邸で菅直人さんと 一 緒 に 食 事 を し た こ と が あ る ん で す よ。 そういうオープンにしない形で会ってい るのがいいのか、オープンにするほうが いいのか。ある意味で情報公開が進んで いるとも言えるわけだ。 青 木 桐 生 悠 々 が 信 濃 毎 日 新 聞 の 主 筆 に なった際、外部の利害関係者との接触は 極力避けたというようなことを書き残し ている文章を読んだ記憶があります。現 場の政治記者はネタを取るのが最重要の 仕 事 で あ っ て、 時 に は 多 少 の 泥 水 を す すってでもネタに食らいつく。しかし一 方、経営や社論、論説に関わるような者 たちは一線を引くべきところがあるので はないでしょうか。 倉 重 論 説 も フ ァ ク ト と 肌 感 覚 が な け れ ば、生き生きとした説得力のあるいい論 説は書けない。そういう意味では、青木 さんの話はちょっと違うなと私は思いま す。例えば安全保障の取材、論説を書く 人が安全保障を担当している人たちの話 や、反対の立場の人も賛成の立場の人も 話を聞かないと、なかなか的確な論説は 書けないと思う。 薬 師 寺 論 説 委 員 も ジ ャ ー ナ リ ス ト、 記 二 人 き り で 1 時 間 以 上、 話 を し ま し た。 公邸の中を見ることで、こういう生活し て い る ん だ と い う こ と も わ か り ま し た。 やはり本当の取材というのは1対1だと 思うし、首相はじめ重要な政治家との間 でそんな形の取材が実現すれば、ある種 の到達点だと思います。その場合はオフ レコかどうかなんていちいち確認しませ ん。余程のニュースでもあれば別ですが、 すぐに記事を書くわけでもない。もちろ んいろんな機会を使ってできるだけ記事 化するのは当然ですが。 私 が 古 い の か も し れ ま せ ん が 、 最 近 の メ デ ィ ア と 権 力、 特 に 首 相 の 関 係 は 大 き く 変 化 し て い る と 思 い ま す ね 。 首 相 動 静 に
薬師寺 克行
やくしじ・かつゆき 東洋大学社会学部教授 1955 年生まれ。朝日新聞論説委員、月刊誌「論座」編集長、 政治部長などを経て現職。著書に『現代日本政治史』(有 斐閣)、『外務省』(岩波新書)など。 田 﨑 僕 の こ と で 申し上げておくと、 例えば麻生政権の とき、麻生さんと 外で食事をしたこ とがあるんですね。 麻生さんの場合は、 外で食事をした場 合、ほとんど名前 を出さないんです よ。 出 さ な い で、 いろいろ会っていな ぜ オ フ レ コ な の か 渡 辺 次 に オ ン レ コ、 オ フ レ コ の 問 題 で す。先ほど田﨑さんは、安倍さんの会合 がなくなるんじゃないかという問題を提 起された。日本の場合はオンレコ、オフ レコのルールがすごくずさんで、明確に なっていないところがやっぱり一つの問 題だと思います。 倉 重 政 治 の 世 界 で、 背 景 説 明 を オ フ レ 者です。新聞の役割に、報道、解説、言 論・主張という三つがあるとよく言われ ますが、この三つを全部体現できるのが 唯一論説委員なんですね。そういう意味 で、私は積極的に取材し書く論説委員の ほうがいいと思っています。 青 木 な る ほ ど、 と 思 い ま す。 し か し 一 方、相当に多くの読者が疑心を抱いてい ます。メディア関係のシンポジウムなど に参加すると、首相と新聞記者の会食へ の批判や質問が噴出して、こちらが驚く ほどです。飯を食って何を話しているの か。よからぬ密談をし、取り込まれてい るのではないか。そうした疑心がメディ ア不信を増幅している。これについてメ ディア側はもっと自覚的であるべきです。 渡 辺 読 者 か ら 見 る と、 編 集 委 員 と か 論 説 委 員 で も 編 集 幹 部 に 思 え る わ け で す。 だから、そういう形で政権が新聞各社の 論調を操作しようとしているんだという 疑心暗鬼を招いてしまっている。官邸側 はそれを逆手にとって、かなり意図的に 節目の直後、閣議決定した翌日とかそう す け ど も、 も う メ デ ィ ア も ワ ン・ オ ブ・ ゼムになって、相対化されていますから、 同じように説明責任と透明性を強く求め られている。これに対してきちんと説明 していかないと、どんどん読者のメディ ア離れ、新聞離れを招いてしまうんじゃ ないかという危機感を持っています。 倉 重 政 治 決 定 の 過 程 で は 教 え ら れ な い けど、ある程度終わった後に、親しい記 者に話をしようというようなことはあり 得るかなと思います。新聞報道は何が起 こるかという予測も大事だけども、何が 起きたのかや、政権の思惑を検証するこ とは大切です。
渡辺 勉
わたなべ・つとむ 朝日新聞編集委員 1961 年生まれ。朝日新聞政治部長、国際報道部長、ゼ ネラルエディターなどを経て 2016 年9月から現職。 いう日程を選ん で い る と 思 う。 そこはやっぱり メディアコント ロールがうまく なっていると思 います。 これまで僕た ちは、権力に対 して常に説明責 任及び透明性を 求めてきたんで巧
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渡辺
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―
倉重
コでやるというのはある。オフレコの中 でも、全く書いちゃいけないオフレコと、 そ れ か ら い わ ゆ る 何 と か 「 筋 」 で 発 信 者 を特定しないで書いてもいいオフレコと 2種類あると思うんです。ただ、取材す る側が自己規制としてオフレコルールを 使っているようなのがありますね。記者 クラブ取材の中で、オフレコを守らない ときには排除するみたいな。 村山政権の時、江藤隆美総務庁長官の 朝 鮮 半 島 支 配 に つ い て、 「 い い こ と を し た こ と も あ る 」 と い う 趣 旨 の 話 を オ フ レ コ で し た ( 注 1) 。 毎 日 新 聞 が 書 い て、 オ フレコ破りとなった。官邸記者クラブに 所属していた記者なので、記者クラブで 問題になった。わが社としては、本来国 民が知るべきことを書いたという趣旨の 主張をしたんですが、短期間クラブに出 入り禁止になった。官邸記者クラブを外 されると、官房長官会見にも入れず、結 構苦しかった。オフレコは、非常にもや もや、私の中でうまく位置づけのできな い問題ですね。 薬 師 寺 江 藤 隆 美 長 官 の 問 題 発 言 の 経 緯 は、1995年 10月、江藤さんが閣議後 の 記 者 会 見 で 閣 議 内 容 を 説 明 し、 何 を 思 っ た か 突 然、 「 こ こ か ら は 雑 談。 記 事 にする話でもないし、メモを取らないで ほしい。若い皆さんの参考のためにお話 し し よ う 」 と 切 り 出 し て、 植 民 地 支 配 な どの話をしたのです。会見に出席してい た 記 者 の 誰 か が 「 オ フ レ コ は だ め で す 」 と言えば、オフレコは成り立たないとい うまた暗黙のルールがあるんだけど、誰 も何も言わなかった。だから、形式的に はオフレコが成立していた。 この発言を日本の新聞やテレビは一切 報道しなかった。ところが、しばらくし て韓国の東亜日報に載ったのです。それ を受けて、どこか1社が破ったらオフレ コはもう成立しないという暗黙のルール があるので、毎日新聞と東京新聞が、も はやオフレコの意味がなくなったとして 報道した。そこで記者クラブで処分をど うするかという話になり大議論になった。 内閣記者クラブだけでは判断 が つかない というので、各社幹部に上げたり日本新 聞 協 会 に 問 い 合 わ せ た り し た の で す が、 日本新聞協会からの返事は官邸クラブで 決めてほしいだった。 つまり、オフレコの定義もはっきりし ない。しかもそれを破ったのは韓国のメ ディアというややこしいケースだったの です。誰かが東亜日報にリークしたんで しょう。しかも、オフレコのはずの江藤 さんの発言の克明な記録が出回った。一 連の経過を通してわかったことは、取材 現場ではオフレコという言葉をよく使い ま す が、 誰 も き ち ん と 定 義 で き て い な かったということです。 今はオフレコだろうが何だろうが関係 ないですね。政府や政党の幹部が記者と の懇談の席などで話すと、数時間後には その内容がメールで拡散し、首相官邸に も届いている。それが公然の秘密となっ ている。だから、私はオフレコというの は実質的に 1 対 1 でしか成り立たないと 思っています。そして、その内容が事実 関係に関することであればいずれかの時 点で必ず報道するべきだと思います。 青 木 こ れ は 社 会 部 記 者 に も 似 た よ う な こ と が あ り ま す 。 僕 が 在 籍 し た 当 時 の 警 視 庁 の 記 者 ク ラ ブ で い え ば 、 各 記 者 が 午
官邸
に
取材情報
が
流
れ
る
時代
オ
フ
レ
コ
に
意味
は
な
い
―
薬師寺
警視庁
で
も
1
日
2
回
の
懇談
記者
は
覚悟決
め
て
書く責任
―
青木
く質問を続けた際のことです。僕は詳し く知らないのですが、官房長官の会見は 終 了 後 に オ フ 懇 ( オ フ レ コ の 懇 談 ) も あ るらしいですね。当日は官房長官がその オフ懇をやらないで帰ってしまったから、 オフ懇がなくなったら困るという理屈で 望月記者や東京新聞をクラブ内で問題視 するような気配があったそうです。しか し、そんなときこそ社の壁を越えて取材 対象と対峙しないと、ますます後退を強 いられ、メディアコントロールを容易に してしまうんじゃないでしょうか。 渡 辺 そ こ は や っ ぱ り 日 本 の メ デ ィ ア と いうのはギルドとして弱いですね。だか ら、横のつながりがあるようでないとい うか、結局、薬師寺さんも言ったように、 権力によって操作されやすいというとこ ろはあると思いますね。 青 木 か つ て に 比 べ て も メ デ ィ ア の 横 の 繋がりは弱っているんじゃないでしょう か。毎日新聞特別編集委員の岸井成格さ んに聞いたんですが、佐藤栄作元首相が 退 任 会 見 で 新 聞 記 者 に 「 出 て け 」 と 言 っ たとき、岸井さんは若手記者として現場 にいたそうです。ご存じのとおり、あの ときは新聞記者がそろって退席し、テレ ビ カ メ ラ の 前 で 佐 藤 栄 作 が 一 人 で し ゃ べ っ た ( 注 2) 。 今 だ っ た ら ど う で し ょ う。 記者側の足並みがそろわないんじゃない ですか。 田 﨑 記 者 ク ラ ブ ベ ー ス で の 懇 談 の よ う な場合と、1対1、 1対2、 3の話という の は ま た 別 だ と 思 う ん で す ね。 ク ラ ブ ベースの場合は、やっぱりある程度の慣 例があるから、そこはそこで守ったほう がいいんじゃないかと思います。1対1 あ る い は 1 対 2、 3 で 聞 い た 話 と い う の は、その場はオフレコにしますが、それ を 書 く か 書 か な い か は、 自 分 の 気 持 ち、 良心に照らして恥ずかしいか恥ずかしく ないかということなんですね。僕はオフ レコで聞きながら、この話いずれ書くぞ といつも思っているんです。 薬師寺 先 ほ ど の 江藤問題 の 時 で す が 、 毎 日 新 聞 は 「 1 カ 月 の 活 動 停 止 」 と い う 処 分 を 受 け た の で す が 、 そ の 期 間 に ス ク ー プ を 何本 か 書 い て い る ん で す 。 取材制限 を 受 け た ほ う が ス ク ープ が 出 る と い う わ け で す ね 。 倉 重 そ う な ん で す ね。 ま さ に 岸 井 さ ん がその中心になって、とにかく外された 前 と 午 後 、 そ れ ぞ れ 担 当 の 捜 査 幹 部 と 〝 懇 談 〟 を し て い る 。 バ ッ ク グ ラ ウ ン ド ブ リ ー フ ィ ン グ と い う 位 置 づ け で す が 、 ど こ ま で が オ フ レ コ で ど こ ま で が オ ン レ コ か 、 さ ほ ど 詰 め た 議 論 を し た こ と が な い 。 検 察 だ っ て 同 じ よ う な も の で し ょ う 。 オ フ レ コ 問 題 で 考 え さ せ ら れ た の は、 沖 縄 防 衛 局 の 幹 部 が 「 こ れ か ら 犯 す 前 に 『犯しますよ』 と言いますか」 と発言した のを琉球新報が書いた時です。僕はあれ を見て、やっぱり書くべきときは書くと いうことなんだとあらためて思い知らさ れました。たとえ青臭くても、記者がど こを向いて仕事をしているのかと考えた 時、この発言は読者に向けて伝えるべき です。ギルドの中で爪 はじ きにされるか もしれないけれど、覚悟を決めて、リス クを背負ってでも伝えるべき瞬間という のはあるんでしょう。 先 ほ ど 田 𥔎 さ ん が お っ し ゃ っ た 「 し の ぶ 会 」 の 例 で す が、 オ フ レ コ 破 り の よ う なことがあると、会合自体がなくなって し ま う か も し れ な い と い う 危 惧 の 声 は、 政治記者から似たような話を聞いたこと があります。最近でいうと、東京新聞の 望月衣塑子記者が官房長官の会見で厳し
ク
ラ
ブ
取材
に
は
慣例
あ
る
書く書
か
な
い
は
良心
の
問題
―
田
﨑
憤懣を特ダネで埋め合わせしようという のでね、ちょっと盛り上がった。 青 木 そ う い う 点 で 言 う と、 検 察 な どは も っ と ひ ど い 。 検察当局 の 気 に 食 わ ぬ 報道 を す れ ば 、 次 々 に 出 入 り 禁 止 処 分 を 食ら う。 逆 に 記 者 ク ラ ブ が 安 全 装 置 的 な 役 割 を 果 た し 、 次 席 検 事 の オ フ レ コ メ モ ぐ ら い は 各社 で 共有 し た り す る 。 ど の 社 も い つ 出 入 り禁止 を 突 き つ け ら れ る か 分 か ら な い か ら 、 互 助 組 合 的 な も の が 生 ま れ た り す る わ け で す 。 社 会 部 記 者 に と っ て 、 捜 査 情 報 を 独 占 し て い る 検 察 や 警 察 と の 力 関 係 は 圧 倒 的 で 、 重 要 な 記 者 会 見 で テ レ ビ カ メ ラ や ス チ ル カ メ ラ が ほ と ん ど 入 っ た こ と が な い 役所 っ て 検察庁 と警視庁 で す よ 。 薬 師 寺 私 が 聞 い た 話 で は、 国 税 庁 の 取 材にも様々な制限がありますね。 青 木 し か も 国 税 の 担 当 記 者 た ち は、 特 ダ ネ を 〝 登 録 式 〟 に し て い ま し た。 ネ タ をつかんだらすぐ書くのではなく、つか んだという事実を広報に通告し、登録す るんでしょう。そして書いてもいい段階 になったら登録した社に広報からゴーサ イ ン が 出 さ れ て 一 斉 に 報 道 す る ん で す。 これらはメディアギルドの圧倒的な負の 側面でしょう。 メ デ ィ ア と権力 渡 辺 本 論 の メ デ ィ ア と 権 力 の 関 係 は ど う あ る べ き か と い う 問 題 に 移 り ま す。 佐 々 木 毅 さ ん と 芹 川 洋 一 さ ん の 本 (『 政 治を動かすメディア』 東京大学出版会刊) に、 メ デ ィ ア を 犬 に 例 え て、 監 視 犬 ( watch dog )、 誘 導 犬 ( guide dog )、 護 衛 犬 ( guard dog )、 愛 玩 犬 ( lap dog )、 だんだん権力との距離が近づいていくと いうのを4分類に分けています。メディ アというのは、 「ウォッチドッグ」 という のはまさにアメリカのジャーナリズムで キーワードだと思いますが、日本の場合 はどうなのでしょうか。 薬 師 寺 2 0 0 0 年 代 に 入 っ て か ら、 日 本のメディア状況、言論状況はタコつぼ 化したと思っています。タコつぼ化とい うのは、ハト派とタカ派、あるいは右と 左でもいいんですが、それぞれのグルー プが塹壕の中に閉じこもって仲間同士で 「 そ う だ よ ね 」 と 言 い 合 っ て、 視 野 の 狭 い 空 間 で 傷 を な め 合 っ て い る。 そ し て 時々首を出して、相手側に非難を浴びせ る。 つ ま り そ れ ぞ れ が 居 心 地 の い い ジャーナリズム空間をつくって、相互に 交わることなく批判合戦をしているわけ です。両者の間には中間的な広い空間が あります。ですからお互い居心地のいい 場所に閉じこもらないで、もっと外に出 てファクトに基づいた議論をすべきだと 思っています。 具体例を言いますが、組織犯罪防止法 が成立した日の朝刊の紙面で、朝日新聞 の 見 出 し は 「『 共 謀 罪 』 法 成 立 」 で し た。 毎日新聞も 「『 共謀罪 』法成立」 です。一方、 読 売 新 聞 は 「 テ ロ 準 備 罪 法 成 立 」 で、 産 経 新 聞 も 「 テ ロ 準 備 罪 法 成 立 」 で し た。 これらの新聞を学生に見せると、同じ日 に異なる二つの法律が成立したというふ うにしか見えないわけです。 世論調査も同じで、朝日新聞は共謀罪 を強調して質問し、読売新聞はテロ対策 の 面 を 強 調 し て い ま す 。当 然、 法 案 に 対 する支持 、不支持の数字も違い 、それぞれ の新聞の主張に近い結果となっています。 もう一つ言えば、私は朝日新聞にいま したけど、ジャーナリストというものは あくまでも個人が主体であり、朝日新聞 言論状況 は「 タ コ つ ぼ 」化 フ ァ ク ト に 基 づ い た 議論 を
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薬師寺密保護法、全てにおいて明確にその塹壕 が分かれていますよね。なぜそうなのか というと、左陣営が変わったというより も、むしろ右陣営のほうに変化があった。 産経新聞はもともと安倍政治と二人三脚 的な報道をずっとこれまでもしてきたが、 読売新聞の変化は僕はものすごく大きい と 思 い ま す ね。 そ れ は な ぜ か と い う と、 最初の話に戻って、やはり改憲路線なん ですね。いざ改憲が実現するかというの が 目 の 前 に ぶ ら 下 が っ て 見 え た と き に、 やはり読売の姿勢が多少変わったんじゃ ないかと私は見ています。 田 﨑 僕、 家 で と っ て い る の は 朝 日 新 聞 と読売新聞だけで、いつも両紙見比べて いるんです。僕は個々の記事をみて、朝 日がここまで安倍政権に批判的になって いるのかと感じています。僕は政治の現 場を取材しながら思うのですが、どちら がファクトを捉えているかという面で見 ると、僕は読売新聞のほうがファクトを 報道しているケースが多いと感じている。 一つ例を挙げると、朝日新聞は今回の内 閣改造で、7月 21日だったと思うんです けれども、朝刊1面で、安倍首相は岸田 外務大臣を留任させる方針を固めたと報 じた。僕、あの日、出演したテレビ番組 で、 「僕は間違いだと思います」 と申し上 げたんです。実際に後で変わってきまし たでしょう。僕の取材では、あの段階で 安倍総理は岸田さんを党三役にするつも り だ っ た と い う 感 じ を 得 て い る ん で す。 日経が追いかけましたけれども、日経は その後、軌道修正して、最後、岸田さん は政調会長だというのを一番早く報じた。 朝日は修正しないまま最後までいった。 朝 日 の ス タ ン ス が い い か 、 読 売 の ス タ ン ス が い い か 、 僕 は 両 方 あ っ て い い と 思 っ て い る ん で す が 、 政 治 の 事 実 を ど ち ら が 報 道 し て い る か と い う と 、 読 売 新 聞 の ほ う が 精 度 が 高 い ん じ ゃ な い か と 思 い ま す 。 薬 師 寺 そ れ は、 政 権 と の 距 離 が 近 い ほ ど、情報は入りやすくなるでしょう。 田 﨑 い や、 そ う じ ゃ な い で し ょ う。 そ れ は 権 力 に 遠 い 近 い の 問 題 じ ゃ な く て、 ちゃんと取材して書いているかどうかの 問題だと思いますよ。 倉 重 組 閣 人 事 情 報 に つ い て 言 え ば、 過 去 か ら ず っ と 政 治 記 者 と し て 見 て き て、 間違えることは相当ありますよね。 というメディアを使わせてもらっている のだと考えています。形式的には朝日新 聞社員ですが、ジャーナリストという存 在は一人一人が自立しているものだと考 えます。ところが最近の記者の人たちは 新聞社という会社に所属しているという 意識が強いんじゃないでしょうか。その 結果、会社ジャーナリズムが広がってい るように思えます。 そ う な っ た と き に権 力 と ど う 向 き 合 う の で し ょ う か 。 う ち の 会 社 は ど う い う 方 針 か 、 う ち の 部 は ど う い う 方 針 か と い う こ と を 強 く 意 識 し だ す と 、 ジ ャ ー ナ リ ズ ム と い う の は 非 常 に 危 な い 。 ま た メ デ ィ ア は 企 業 体 で す か ら 、 経 営 が い い と き は 個 々 の 記 者 が 少 々 暴 れ て も 包 容 し て く れ る と 思 い ま す が 、 経 営 状 況 が 悪 く な る と 寛 容 性 が 減 退 し て く る と 思 っ て い ま す 。 そ の 時 、 一 人 一 人 の 力 量 が 問 わ れ る の で す 。 倉 重 薬 師 寺 さ ん の 言 っ た、 塹 壕 化 と い う話は、 なるほどなと思って聞きました。 右 に 産 経、 読 売、 左 に 朝 日、 毎 日、 東 京、 間 に 日 経 ぐ ら い と い う よ う な 分 か れ 方、 こ れだけはっきりした時代はないですよね。 そ れ は 一 つ の 政 策 だ け じ ゃ な く て ね、 まさに経済政策のアベノミクスから安保 法制、それから一連の共謀罪とか特定秘
フ
ァ
ク
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田
﨑
田﨑 ありますね。 倉 重 そ の と き、 落 と し 前 を ど う つ け る かだと思いますね。その時点でそうだっ たかもしれないけど、後で変わったこと もあり得るので、そこはなぜ間違ったか、 誠実に検証することで、僕は全然問題な いと思うんです。田﨑さんは朝日を結構 手厳しく見ておられるんですけど、私は どっちかというと左陣営の中にいるので、 朝日に優しく、朝日サイドから見たこと に な る の か ど う か わ か ら な い け れ ど も、 私、今回の安倍政権とメディアとの関係 の中で非常に印象的なことがありました。 安倍さんが去年 11月、ワシントンでトラ ン プ 大 統 領 候 補 と 初 め て 会 っ た と き に、 こ う い う こ と を 言 っ た と い う ん で す ね。 「 あ な た と 私 に は 共 通 点 が あ る。 あ な た はニューヨーク・タイムズと戦っている し、私は朝日新聞と戦っている。私は朝 日 新 聞 に 勝 っ た 」 と。 唯 一 産 経 新 聞 が 報 道したんですよね。私はこれ、ものすご い大特ダネだと思いましたね。ものすご く貴重なやりとりだと。やっぱり産経新 聞だからそれだけ総理大臣に近いわけで、 しかも総理大臣としても訂正がないわけ だから、 僕は事実だと思うんだけど、 やっ ぱり朝日と安倍政権との間の一つの対立 の歴史があると思うんですね。 それは二つの吉田問題報道に対する産 経との戦いがあり、それと、近い安倍政 権が産経とともに朝日と戦っている印象 を私はずっと持ってきたんです。ある自 民 党 の 政 治 家 に 「 今 度 の 加 計 問 題 の 本 質 は 何 か 」 と 聞 い た ら、 彼 は 「 そ れ は 朝 日 が 安 倍 に 勝 っ た ん だ 」 と 言 っ た。 野 党 や 自民党内の非主流派がどうのこうのでは な く 、や は り「 朝 日 に 勝 っ た 」と 安 倍 さ ん に言われた朝日が 、今回 、調査報道で安倍 政 権 を こ こ ま で 追 い 込 ん だ ん だ 、と 言 っ て い ま し た 。私 は 実 に そ の と お り だ と 思 う し 、今 の ニ ュ ー ヨ ー ク・ タ イ ム ズ と ト ランプの間もそうなんだけれども、それ は 一 つ の メ デ ィ ア 、ジ ャ ー ナ リ ズ ム の あ るべき姿、醍醐味だと私は思いますね。 田 﨑 昔、 田 中 派 を 担 当 し た と き に、 田 中角栄さんのロッキード事件判決という のがありました。朝日新聞の早野透さん が、ものすごく田中角栄さんに食い込ん でいたんです。判決が終わってしばらく した後に、どういうことをしゃべってい たかということを、見事に1本の記事に まとめられたんです。田中さんってある 意 味 で 時 の 権 力 者 で す よ。 食 い 込 ん で、 ためて書いている。それが僕にとっては 非常に勉強になったんです。 ああ、 これく らいやらなきゃいけないんだというのが ね。 だ か ら、 そ れ に 比 べ る と、 今 の 朝 日 新 聞の報道が若干物足りないと思うんです。 渡 辺 加 計 学 園 も 全 然 戦 う と か そ う い う こ と で は な く て、 何 か お か し い な っ て 言 っ て い る う ち、 ど ん ど ん 広 が っ た と。 あ と は お そ ら く 危 機 管 理 の 初 期 対 応 を やっぱり官邸が間違ってしまったんじゃ ないか。だから、こんなに大きくなるな んて、おそらくあの記事を書いた記者た ちも思っていなかったと思いますね。 青 木 権 力 と メ デ ィ ア の 間 合 い と い う こ とで言えば、社会部や政治部といった新 聞社的なセクショナリズムとは関係なく、 機微な情報を持っている者というのは大 抵の場合、権力も持っている。その懐に 飛 び 込 ま な い と 情 報 は 取 れ な い。 た だ、 飛び込んでも抱かれてしまってはダメな